生体兵器実験

降臨者は、その高い科学力で、様々な惑星で目的の異なる多くの実験を繰り返していた。その一つが地球であり、中央と呼ばれる母星の権力機構の指令により、降臨者の科学集団が地球に派遣された。
彼らがどのような知性体かはわからないが、一応地球を生命に溢れた星にした神のごとき存在であることは確かである。

地球での実験目的
降臨者のように、各星々へと派遣された研究者集団はいくつもいて、彼らは星ごとに壮大な実験を数々行ってきた。地球では、特に競争原理に基づいた進化特性をもたせ、戦闘性質が高い生物を作り上げようと試みた。地球の実験の場合、惑星制圧を主眼に置いており、特段強力な破壊力は必要でなく、敵を捕縛したり支配するのに役立てようとしたと思われる。
もう一つ大事なのはその制御で、進化のごく初期から降臨者の思念に服従する因子が組み込まれたと思われる。しかし、その因子が性格に発動するには、脳のような神経集合体が必要だった。
まず、降臨者は戦闘生物の基礎バリエーションを揃えるべく、必要とする種類を考えられるだけ用意した。カンブリア期に門があらかた揃ったのもそのあたりの意図があったのかもしれない。
次にそこから戦闘生物として優れた種を選択し、その進化を促すようにしてきた。降臨者は、自ら生命を設計することは可能であるが、どのような生物が制圧に適しているのか、そこまでは手探り状態だった。そのため、長い期間かけて進化を見守る必要があった。しかし、実験年数が億単位であることは、あまりにも気長であり、それほど急務でなかったことは確かである。逆に、それだけ長い時間かけて行ったということは、重要項目に位置づけていたとも確かと思われる。
長期間の実験ということもあり、降臨者は次々と入れ替わったかもしれない。例えば恐竜における実験失敗で、更迭された降臨者などだ。

恐竜の段階
進化実験でどのような経緯があったか、その全てはわかりようもないが、一定の成果として恐竜がいたことが示された。降臨者にその獰猛性が気に入られたのか、とにかく地球での一大ニッチを占める位置を与え、長らくその地位を席巻した。しかし、結果的には隕石を落とされその歴史に幕を閉じた。
恐竜は体躯も、陸上では史上最も巨大であり、それに伴い膂力も相当なものとなっていた。ただ、知能の点でその制御がかんばしくなかった。止まれ、襲えなどの簡単な命令は可能でも、それ以外の難しい指令となるとうまくいかなかったのだろう。中には、もっと小型ながら集団で活動しある程度知能も見込めた種もいただろうが、強さの点でTレックスの劣化と考えるとそれほど価値が見込めなかったのかもしれない。結局はそれらの種すらも一括して恐竜は失敗というレッテルを貼ってしまった。

恐竜からの転換
恐竜は生体兵器としてはそれなりの成果だったが、肝心の制御の点でうまくいかなかった。その点を踏まえ、次の進化では知能発達を推進しようとした。
それと、爬虫類は巨体であれば恒温性でもあるが、小さい場合は温度変化に弱いことが知られており、総合して環境適応性が弱かったことから、結構早い段階で爬虫類の大規模絶滅が計画されていたかもしれない。
進化を推進することが降臨者の役割であれば、長らく失敗を積み重ね、それを克服することは必ず念頭にあったはずである。
強化の方向性は恐竜で十分わかったので、他の満たせなかった部分を次世代のほ乳類にゆだねることとなった。
ほ乳類は恐竜が埋めていたニッチを一気に埋めていった。種分化が進むにつれ、環境適応において爬虫類より優位な点が明らかになった。恒温動物には、変温動物のように暖まってからやっと活動するまどろこしさはなく、即行動に繋げる点でも有利であった。ただ、コストパフォーマンスはそれほど良いわけではなく、多く食べないとその体が維持できないネックはあった。もしかしたらこれも失敗事例になったかもしれないが、降臨者はこの進化実験においてはかなり忍耐強く、コスパが悪くても環境適応が有効であればそちらを優先し、その生活の意味を深く追求していたと思われる。
環境適応で良い成果が上がれば、あとは知能の問題をクリアすれば良いことになる。ほ乳類においても、恐竜ほどではないが栄枯盛衰を繰り返し、そのニッチはどんどん変化していった。だが、なかなか知能の点で満たすほ乳類は現れなかった。集団性の中で柔軟な行動を起こすことは知られており、犬の類では教育さえすれば一定の成果が上げられた種もいた。しかし、それらにしても降臨者の高度な戦略を満たせるほど知能があるわけではなかった。
そうこうするうちに霊長類が出現し、寿命や知能の点で有効な種が得られた。

人間に至る過程
進化で偶然出てくる気質は降臨者でも偶然に任せるしかなかったが、知能を増長するノウハウぐらいはあったと思われる。それは遺伝子を改良したり、特定の種にわざと過酷な試練を与えるなどだ。
その中で少しずつではあるが、頭を使うから生き残れる、そういう淘汰を行うことでようやく人類という種が出現したと思われる。エデンの園を追い出された種は、楽園を追い出されることで自分で楽園を作る意志や知恵を増長させた。また、脳活動には多大なエネルギーを必要とするため、肉食なども合わせ、獰猛な側面を植え込むことにも成功した。
人類は降臨者ほど頭は良いわけではなかったかもしれないが、それでも十分柔軟な思考力を持ち、降臨者の難しい命令もうまくこなしていける程度には知能レベルを満たしていた。

戦闘兵器としての最後の壁
知能に優れた種が現れたが、全く問題がなかったわけではなかった。それは、戦闘生物としての強さが人間ではイマイチだった点である。人類もまた失敗だったか? そう思った瞬間もあったかもしれない。しかし、それを払拭する画期的なアイデアが降臨者にはあった。それが獣化現象である。
その着想がどこから来たのか不明だが、少なくとも地球の進化上から獣化のような現象は見られない(蛹から変化することは獣化とは似て非なるものである)ため、降臨者が他の星で変身による肉体の組み替えを発見していたのかもしれない。
ともかくも、遺伝子を付加することで二段階変身を可能としたことで、ほぼ強さの点も満たすことを可能にした。これは降臨者にとっても非常に画期的なことであった。人間側でも、獣化に対しうまく適応できたことが幸いした。(獣化現象の工夫などはゾアノイド項目にて)

種という枠を超えた人類
知能が高い点だけでも、地上では他の生物を圧するほどのスキルを得た人類であるが、さらに獣化現象を引き起こすことで、未調製の人類では不可能な数々のニッチをさらに埋めることに成功した。
まず、陸海空全てを獣化兵がすべて制圧可能としたところである。それまで、様々な形で種を進化・開発してきた降臨者は、ニッチを埋めている全ての種において何が戦略的に有効かを考え、次々と導入していった。こういったことは、本来種一つに対し一つの有益性能しか持ち得ないが、欲しい戦闘性能を得るためにいちいち進化を促していてはキリがない。獣化現象は、そういった手間を一気に省いて、人間とは違う種であっても関係なくその特性を自分の者として付加することが可能になった。知恵の人間に加え、進化の歴史で得られた優れた特性が加えられるとするなら、これ以上のことはない。
コストパフォーマンスでも、獣化前であれば通常の基礎代謝で済み、肉体の負担は少ないことなど、獣化による肉体負担はあっても、常に戦闘するわけではないことから肉体を休める上でも重要な特質でもあった。
強さの点では一匹の強力なチューンナップドラグーンよりも強いゾアノイドは当時いないことはあったが、一個小隊(ゾアノイド30-60人分)レベルであっても、知恵を使えばもっと少ない人数で倒せることもあり、億単位で形成するゾアノイド軍団であれば、全体としての強さはそれほど危惧するところではない。

さらなる利便的追求
ゾアノイドという優れた種を得た降臨者であるが、数を増やすうちにもっと楽をしたい、あるいはもっとやり方がないか色々考えた。
まず、何億という数のゾアノイドは直轄で降臨者自身が命令を与えるのは良いが、その場合には思念波が届く範囲限り、自ら戦闘区域に降り立つ必要がある。しかし、慎重を期するなら、危険な戦闘区域に赴くのは、脆弱な降臨者としては避けたいところである。
そこで、さらにゾアノイドと降臨者の中間に位置する思念波階級者を調製することを考えた。それがゾアロードである。
ゾアロード、特にアルカンフェルにおいては、あらゆる面でゾアノイドを凌駕している。ハイパーゾアノイドですら、仮に思念波支配がなかったとして、何百と投入しても恐らく倒せないレベルである。
なぜそれほどスペックを引き上げたかであるが、単純に軍団を指揮する長が狙われて指揮系統が混乱することを避けたということは当然あるだろうし、切り札として突入させても使えるだろう。
極端に長寿命にしたことで、長い間に戦闘の熟練が成り立ち、戦闘において勝利する可能性を時間と共に上昇させる効果もある。
このようにゾアロードに一定の制圧条件だけ吹き込めば、あとはゾアロード自身が自律的に制圧を指揮することができるところまでこぎつけた。

ユニットと人類
もう9割方、望む戦闘兵器が完成したところで、もっと何かすることがないか、最後の詰めの作業だけが残されていた。
といっても、アルカンフェルの指揮でどれほど戦略効果を上げられるか程度のことで、もう完成と言っても差し支え無かった。思念波の支配も、もはや念頭にないほど絶対の自信を持っていたことだろう。それだけに、ユニットがよもやその肝心な思念波を解放するとは思いもよらなかったことでもある。
降臨者としてはユニットは優秀な装備品であり、装着することでゾアノイドの欠陥的な部分(病気や事故による歯損など)が解消されれば確かに完全と思われた。ただ、ゾアノイドのような種にユニットを与えたことがなかったせいか、一応慎重を期すために未調製の人類に貸し与えてみた。それは、リスク管理としてはやっておいて正解でもあった。もし楽観的にゾアロードにユニットを貸し与えていたらその時点で降臨者の運命が終わっていたことすらあり得た。
しかし、それでも人類という種が戦闘において優秀である証拠に、強化された恐竜すらあっさり撃退してのけたほど、その驚くべきパワーアップは降臨者でも想像がつかなかった。しかも思念波支配すら解放された状態で。
思念波支配さえ有効であれば、現在では殖装体軍団が宇宙中を次々と制服していったことだろう。しかし、制御できなければ全く意味がない、その言葉通り降臨者は人類どころか地球ごと破棄することにした。

いつ思念波阻害因子が発生したか
地球で発生した生物は、戦闘生物という特性を重んじられ、その方向で進化を続けた。どの時点で思念波支配因子を植え込んだかはわからないが、かなり早い段階でそれを施したことは間違いないと思われる。
ただ、進化の中で少しずつ薄れることはあっただろうから、常にその因子がしっかり働いているか、薄れたら再度植え込むなどして、思念波支配が常に有効であるように精査してきたものと思われる。
しかし、思念波支配因子が、戦闘生物進化においては、隠れた形で排斥する方向で同時に進化が進むことになる。
まず、思念波支配は薄まる、あるいは無い方がその個体にとっては良いはずで、特に命令を世代ごとに与え続けることで強いストレスを受けた種ほど、思念波耐性因子が発達する確率は高まる。戦闘に長けるということは、生き残り勝ち続けることも含めている。その確率を高めることが全てでもあった。
また、集団性における王としての気質も、誰にも従いたくない因子が生じやすい条件であり、社会性の生物集団が地球での生き残りで有利である以上、それは避けては通れないことでもあった。
そうこうするうちに思念波阻害因子がいつからか定着はしていったが、それでも思念波支配因子の強力な支配力発には逆らえず、隠れた因子(あるいは中立的因子)としてしか存在しえなかった。
しかし、ユニットは殖装者に対し、最も有益な状態を引き出すことが仕事であり、その隠れた有効な因子を引き出すのはしごく当然のことでもあった。
このような因子がついて回るようでは、降臨者が生体兵器を開発不能であると言っているのと同じである。
ただ、その因子がどのようなものか特定できれば、降臨者の技術からすればそれほど難しいわけではないと思われる。なのに地球を破棄しようとしたのは、すでにゾアロードという強力な生体兵器が完成していたことで、それがもし暴走してユニットを奪ったらそれこそ大変なことになることはわかっていた。そうなるとさらなる実験で改良するなどと悠長なことを言っている場合ではなく、目の前にいきなり危険が迫っている危機感が、ただでさえ慎重な降臨者に断腸の思いで地球破棄という選択を起こさせても致し方ないことでもあった。
もし、生体兵器開発の欲が残っていれば、今もなお慎重を期した上で改良型を研究し、それがうまくいっていれば新型アルカンフェルもすでにいるのかもしれない。

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最終更新:2011年07月27日 21:20
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