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Nightmare City-CATASTROPHE- 房津ver (瀬冬)

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匿名ユーザー

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ふと、目にとまった夕焼けは何よりも紅く染まっていた。
普段ならこうやって感傷に浸ることも、胸が痛むこともないはずなのに。今日だけはあの夕焼けが酷く目に痛い。
足を引きずり歩く砂浜は、打ち寄せられる波の水分をすって酷く重たかった。
その場にしゃがみ込む事さえ辛い、傷ついた身体。
水上を走る風は、やけに冷たくて。頬を撫でていくその手つきだけは何故だか優しく感じられた。
それはどこか彼女のように、冷たい振りをしながら本当は家庭的で、誰よりも弱くて。人を傷つけることなんか嫌いで。
いつも怒ってて。いつもニヤニヤとしていて。時折しか見せない笑顔はどこか悲しそうで。
いつ何時でも脳裏に焼きついていて離れてなんてくれずに。
(あぁ、うるせぇ)
波の音が煩かったから、腹いせ交じりに蹴り上げてみた。物質的なものなんか無いそれは攻撃なんて直ぐに吸収してしまって、
舞い上がった水だけが光に反射してキラキラしてた。
星のように。

消え去っていくそれに、彼女の最後を重ねた。
別れもいえなかった。別れさえ口にすることもできないまま。

流れ着いていた枯れた大木に腰をかければ、もう夜の海は口をぽっかりと開けたまま、静かな寝息をたてている。
一人置いてけぼりにされた感覚は、泣きたくなるほどに悲しいものだった。
それは、初めてこの世界にやってきたときの感覚のようでに、足に絡みついたまま、小指の先の小さな傷のように、じわじわと俺を傷つけていく。
(アヒャ、オレハツーダヨロシクナ!!)
まぶたを閉じれば思い出すことなんて造作も無い風景は、直ぐそこにあるのに。
負傷した右手なんかよりも痛い心は、どんなに薬を塗っても、包帯を巻いても、悲しみが溢れ出してとまらない。とまらない。


「つー・・・」
声に出して呼ぶ、固有名詞。なにかを表す記号。愛しき人の。
「お前は、結構責任感はあるやつだと思ってはいるんだが・・・・」
それはまだ始まる前の。全てが狂い始めるよりも前に、暇だといえる事ができた平和の時代に。
「フーのやつはどうすんだよ、寂しがってんぞ」
誰よりも優しかった母。何よりも強かった人。


(あぁ・・・・)
誰が狂わした?なんていっても始まらないことは分かっているはずなのに。答えを求めてしまう。
認めたくなんか、ない。


震え始める手足。すらりと伸びた指。人間のもの。もともと人間であったもの。
夢。儚く消え去る思いに乗せた希望。
広大に広がる砂浜を、片手ですくってみれば、僅かながらに手に残る砂は、それこそが現実に見えた。
手に残る砂。たったこれだけが、自分が救える命で、かなえることができる夢で。
残った砂、まだ手を触れることすらできないほどの量の砂。あきらめるしかなかった全て。
その救える命も、望みも。過ぎ去る風に弄ばれてはさらさらと空中に舞い、そして消えていく。

(なさけねぇなぁ)
誰が、とは言わない。何が、とも言わない。
只、口の中で何度も何度も呟いては言葉の意味を確かめ、その度にあふれ出てくる感情は、己をさらに嫌悪させた。
例えどれだけ悔やんだとしても、もう元には戻らないのに。それでも願ってしまう醜い執着心は自分のエゴに他ならない。
――――すまない。
そのたった四文字の言葉を、なんどいえずに来たのだろうか。

不意に吹く風。神風のごとく。
長い俺の自慢の毛を弄ぶようにくるくると旋回すると、叩き付けるかのごとく一層強く吹く。
昔のようだった。
あの、怒って包丁を形振り構わず振り回す、あの人のような気がした。
いや、それは彼女だったのだと思う。
(ナニシメッポイカオシテンダヨ、ワラエ!)
あぁ、そうだ。
彼女は。


彼女は俺にとって唯一の存在だった。
彼女は誰よりも誇り高かった。
彼女はいつだって強く生きていた。
彼女は綺麗な人だった。
彼女は俺の風だった。
彼女は―――――――。


「ごめん・・・・な」
巻き上がる風。全てが消えてしまう、その前に。
「これ・・・返すよ。もっていけ」
手から離れる光。暗闇の中、何重にも紅の輝きを放ちながら散っていく様はどこか血飛沫にも見えた。
綺麗で儚くて。悲しくて、でもやっぱり、キレイで。
あぁ、あぁ。


守るから、と呟いた。
ちゃんと、君が帰ってくるその日まで僕たちの子供を。愛の結晶を。
決して消えたりなんかはしない、証拠。それは、確かにこの世に君という存在がいたという証。
だから、待っている。
だってほら、いつも君が待っていてくれたから。
今度は俺の順番ってだけだからさ。

君が帰ってきたとき、なんていうかは決めてある。



「遅いぞ、つー。・・・・お帰り」





そうして再び始まる物語を
今度こそ、三人で。

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