何気ない日常、平穏。
ささやかな幸せを噛み締めて生きてきた。
明日も明後日もずっとずっとそうなんだと思っていた。
ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
電車が揺れる。
全てを乗せて―――。
ため息を吐きながら参考書を閉じる。もう活字の海に溺れるのは嫌だ。
ゆっくり息を吐きながら宙を仰ぐ。
もうすぐ大学に入って一年だ。
私は頑張った甲斐もあり、志望校に入れた、けど…、…駄目だ。なんだか違う。
試験を受けたのは勉強したいからもある。ある…、あるんだけど…、一番の目的の運命の人との出会いはいまだに無く…。
仲の良い男の子は居る。居るけど、違う。
こんなんじゃ駄目だよなあ…。
視線をゆっくり下に戻す。
すると小さな男の子が目に入った。
「お姉ちゃん、元気無いね。どうしたの? 」
迷子かな? ゆっくり回りを見る。
男の子そっくりの目を持った女性が向かいの席で眠っている。迷子では無いみたいだ。
「ちょっとね。大した事じゃないんだけど…」
嗚呼、何言ってるんだか、私。
「そっかー。タカラが良い事教えてあげようか? 」
“タカラ”は男の子の名前みたいだ。
タカラはニコニコしながら私を眺める。
「えー、何何? 教えてくれる? 」
自然と私も笑顔になって来る。
子供ってやっぱり可愛い。
「あのね、元気が無いときって、笑うと良いんだよ。タカラ、泣きそうな時、いつでも笑うんだ。そしたらすっごくすっごく、すっごーく元気になるよ! 」
タカラは嬉しそうにアハハ、と笑う。
私も真似てアハハ、と笑ってみた。
不思議だなあ。なんだか本当に気分が良くなってきた。
「元気になったー? 」
「うん。なった。有難うタカラ君」
お礼を言うと、タカラは少しはにかんで、彼のお母さんみたいな人の所へと走っていった。
嗚呼、子供は可愛いなあ。可愛い、可愛い。
結婚したら子供はたくさん欲しいなあ…、あれ? 相手は……?
幸せって何だろう?
偶に考える事がある。
電車の外の景色はどんどん流れて行く。
また俺は考える。俺の幸せを。
「モララー? 」
窓を睨んだままの俺を見て何か思ったのか、隣に居たしぃが話しかけてきた。
しぃとは一ヶ月前から付き合い始めた。きっかけは彼女の告白。同じクラスになってから好きになったと。どうやら入学した時から俺がコイツの事ばかり見ていた事は知らないらしい。
「何だ? 」
妙な事を考えていて返事が遅れた。
しかし彼女はそんな事を気にする素振りも見せずにこっちに手を差し出す。
「…、だから何だ? 」
本当は分かってる。でも駄目だ。
視線をまた窓の外に戻して誤魔化す俺に呆れたのか何なのか、勝手にしぃが俺の手を握る。
温かい、柔らかい手だ。この手が好きだ。でも言わない。
「ねぇ、モララー君…」
「何だ? 」
「私の事…、好き? 」
「な…ぁ…」
何故こんな人が多いところでコイツはこんな事ばかり聞くのだろう。
そういうプレイが好きなのか、ただ何となく今聞きたいと思ったからなのか…。
「…、馬鹿か、お前は」
言えたのはそれだけだ。
重要な続きが言えない。
好きでも無い奴と手を繋げるか、好きでも無い奴と一緒に居られるか。
やっぱり言えない。
「私は、モララー君の事が好きだからね」
しぃが嬉しそうに笑う。
多分俺の顔は赤くなってる。馬鹿なのは俺だ。
こんなに思ってるのに少しも伝えられない。
俺の幸せは、多分…、コイツと一緒に居る事だ。
今日は久しぶりに電車に乗った。多分十年振りぐらい。
僕は引きこもりだ。
親友が死んだあの日から僕は引きこもってしまった。
でも僕は変わりたい。
彼も僕が変わることを望んでいると思う。
たくさんの人、何だか怖い。
なんだか心の中で僕の事を嘲笑っているような気がする。
怖い、怖い…。
でも僕は変わらなくちゃ!
ぎゅっ、と手の中のガラス玉を握る。
彼との思い出の品だ。
隣に座っていた女の子が突然僕に話しかけてきた。
「それ、なんですか? 」
女の子は綺麗な目で僕を見てくる。
「ガラス玉です。死んだ親友との思い出の品です」
僕は手を開いて、ガラス玉を彼女に見せる。
彼女の目は僕が繕った嘘なんて見抜いてしまうような気がした。
だから僕は正直に答えた。
「綺麗ですね。そのガラス玉。私もこんなふうに綺麗になりたかった」
女の子の言葉に違和感を覚えて彼女を良くみる。
服とかで上手に隠してあったけれど、彼女は傷だらけだった。
何があったのか、僕には分からない。
でも彼女は辛い事に出会って来たようだ。だから、
「あげます」
僕は女の子のガラス玉を差し出した。
彼女は驚いている。僕も少し驚いた。
「親友の形見なんでしょう? そんな大切な物、私が―――」
「だからこそ、貴方に受け取って欲しいんです。僕、引きこもりなんです。でも自分を変えたくて、今日外に出てきたんです。でもやっぱり、なんだか怖くて、怖くて…。そんな時、貴方が話しかけてくれました。貴方のお陰で人の温かさを思い出す事が出来たんです。だから僕が引きこもりで無くなるまで貴方にこれを持っていて欲しいんです」
なんて自分勝手なんだろう。
それに彼女と出会う事はもう無いだろう。でも、
「わかりました。有難う」
彼女は受け取ってくれた。
ゆっくりかもしれない。でも僕は、きっと変わっていく。
―――フハハハハ、お前達の負けだ。大人しくこっちへ来い。
嫌、嫌あ!
エーは泣き叫ぶ。
はんっ! それはどうかな?
ウララーは突然宙に浮いた―――
…、つまらない。
こんな変な本を読むのはある意味レアな事かもしれない。だが、僕はそんな事喜べない。
本を閉じて外を眺める。
あれ? なんだか何時もよりスピードが速い気がする。
気のせいかな、と思いながらも何だか不安だ。
嗚呼、きっとあんな変な本を読んだ所為だ。
なんでこんなに不安なんだ?
外を眺めるのを止めて本を睨む。
何八つ当たりしてるんだか。僕は可笑しくなってしまったのか?
そういえば、前にもこんな事があった。
確か去年の夏、友人と海に行った時。
その後友人の一人が泳いでる時突然足を攣らせて、溺れかけた。
…だから何だ、僕。超能力者にでもなったつもりか?
ため息を吐いた、次の瞬間、尋常じゃない大きな揺れ。
次の瞬間、僕は―――。
「ただいま」
冷たい外気を纏って白いAA、モナーが居間に入ってくる。
「おかえり」
返事をするのはこたつに入っていた彼の妹のオレンジのAA、ガナーだった。
口に煎餅を銜えていた所為で彼女の声は少しくぐもっていた。
「嗚呼、もう寒い寒い。これだから冬は嫌だ」
体を少し震わせながらモナーもこたつに入る。
「夏になったら暑い暑い言う癖にね」
「うるさいなあ。…ん? 」
テレビの映像がモナーの目に映る。
脱線した電車が建物に突っ込んでいた。
その映像の上から生存者の名前なのか、たくさんの人の名前が移っていた。
「東の街で起きたみたいよ。たくさんのAAが死んじゃったんだって」
「ふーん」
モナーは首を数回縦に振った後、ガナーの方を向き、
「まあ、僕達には関係の無い事だね。それにしても、可哀想に」
なんの躊躇いも無く、モナーはテレビのリモコンを操作し、チャンネルを変える。
二人の今日はとても平和だった。
ささやかな幸せを噛み締めて生きてきた。
明日も明後日もずっとずっとそうなんだと思っていた。
ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
電車が揺れる。
全てを乗せて―――。
ため息を吐きながら参考書を閉じる。もう活字の海に溺れるのは嫌だ。
ゆっくり息を吐きながら宙を仰ぐ。
もうすぐ大学に入って一年だ。
私は頑張った甲斐もあり、志望校に入れた、けど…、…駄目だ。なんだか違う。
試験を受けたのは勉強したいからもある。ある…、あるんだけど…、一番の目的の運命の人との出会いはいまだに無く…。
仲の良い男の子は居る。居るけど、違う。
こんなんじゃ駄目だよなあ…。
視線をゆっくり下に戻す。
すると小さな男の子が目に入った。
「お姉ちゃん、元気無いね。どうしたの? 」
迷子かな? ゆっくり回りを見る。
男の子そっくりの目を持った女性が向かいの席で眠っている。迷子では無いみたいだ。
「ちょっとね。大した事じゃないんだけど…」
嗚呼、何言ってるんだか、私。
「そっかー。タカラが良い事教えてあげようか? 」
“タカラ”は男の子の名前みたいだ。
タカラはニコニコしながら私を眺める。
「えー、何何? 教えてくれる? 」
自然と私も笑顔になって来る。
子供ってやっぱり可愛い。
「あのね、元気が無いときって、笑うと良いんだよ。タカラ、泣きそうな時、いつでも笑うんだ。そしたらすっごくすっごく、すっごーく元気になるよ! 」
タカラは嬉しそうにアハハ、と笑う。
私も真似てアハハ、と笑ってみた。
不思議だなあ。なんだか本当に気分が良くなってきた。
「元気になったー? 」
「うん。なった。有難うタカラ君」
お礼を言うと、タカラは少しはにかんで、彼のお母さんみたいな人の所へと走っていった。
嗚呼、子供は可愛いなあ。可愛い、可愛い。
結婚したら子供はたくさん欲しいなあ…、あれ? 相手は……?
幸せって何だろう?
偶に考える事がある。
電車の外の景色はどんどん流れて行く。
また俺は考える。俺の幸せを。
「モララー? 」
窓を睨んだままの俺を見て何か思ったのか、隣に居たしぃが話しかけてきた。
しぃとは一ヶ月前から付き合い始めた。きっかけは彼女の告白。同じクラスになってから好きになったと。どうやら入学した時から俺がコイツの事ばかり見ていた事は知らないらしい。
「何だ? 」
妙な事を考えていて返事が遅れた。
しかし彼女はそんな事を気にする素振りも見せずにこっちに手を差し出す。
「…、だから何だ? 」
本当は分かってる。でも駄目だ。
視線をまた窓の外に戻して誤魔化す俺に呆れたのか何なのか、勝手にしぃが俺の手を握る。
温かい、柔らかい手だ。この手が好きだ。でも言わない。
「ねぇ、モララー君…」
「何だ? 」
「私の事…、好き? 」
「な…ぁ…」
何故こんな人が多いところでコイツはこんな事ばかり聞くのだろう。
そういうプレイが好きなのか、ただ何となく今聞きたいと思ったからなのか…。
「…、馬鹿か、お前は」
言えたのはそれだけだ。
重要な続きが言えない。
好きでも無い奴と手を繋げるか、好きでも無い奴と一緒に居られるか。
やっぱり言えない。
「私は、モララー君の事が好きだからね」
しぃが嬉しそうに笑う。
多分俺の顔は赤くなってる。馬鹿なのは俺だ。
こんなに思ってるのに少しも伝えられない。
俺の幸せは、多分…、コイツと一緒に居る事だ。
今日は久しぶりに電車に乗った。多分十年振りぐらい。
僕は引きこもりだ。
親友が死んだあの日から僕は引きこもってしまった。
でも僕は変わりたい。
彼も僕が変わることを望んでいると思う。
たくさんの人、何だか怖い。
なんだか心の中で僕の事を嘲笑っているような気がする。
怖い、怖い…。
でも僕は変わらなくちゃ!
ぎゅっ、と手の中のガラス玉を握る。
彼との思い出の品だ。
隣に座っていた女の子が突然僕に話しかけてきた。
「それ、なんですか? 」
女の子は綺麗な目で僕を見てくる。
「ガラス玉です。死んだ親友との思い出の品です」
僕は手を開いて、ガラス玉を彼女に見せる。
彼女の目は僕が繕った嘘なんて見抜いてしまうような気がした。
だから僕は正直に答えた。
「綺麗ですね。そのガラス玉。私もこんなふうに綺麗になりたかった」
女の子の言葉に違和感を覚えて彼女を良くみる。
服とかで上手に隠してあったけれど、彼女は傷だらけだった。
何があったのか、僕には分からない。
でも彼女は辛い事に出会って来たようだ。だから、
「あげます」
僕は女の子のガラス玉を差し出した。
彼女は驚いている。僕も少し驚いた。
「親友の形見なんでしょう? そんな大切な物、私が―――」
「だからこそ、貴方に受け取って欲しいんです。僕、引きこもりなんです。でも自分を変えたくて、今日外に出てきたんです。でもやっぱり、なんだか怖くて、怖くて…。そんな時、貴方が話しかけてくれました。貴方のお陰で人の温かさを思い出す事が出来たんです。だから僕が引きこもりで無くなるまで貴方にこれを持っていて欲しいんです」
なんて自分勝手なんだろう。
それに彼女と出会う事はもう無いだろう。でも、
「わかりました。有難う」
彼女は受け取ってくれた。
ゆっくりかもしれない。でも僕は、きっと変わっていく。
―――フハハハハ、お前達の負けだ。大人しくこっちへ来い。
嫌、嫌あ!
エーは泣き叫ぶ。
はんっ! それはどうかな?
ウララーは突然宙に浮いた―――
…、つまらない。
こんな変な本を読むのはある意味レアな事かもしれない。だが、僕はそんな事喜べない。
本を閉じて外を眺める。
あれ? なんだか何時もよりスピードが速い気がする。
気のせいかな、と思いながらも何だか不安だ。
嗚呼、きっとあんな変な本を読んだ所為だ。
なんでこんなに不安なんだ?
外を眺めるのを止めて本を睨む。
何八つ当たりしてるんだか。僕は可笑しくなってしまったのか?
そういえば、前にもこんな事があった。
確か去年の夏、友人と海に行った時。
その後友人の一人が泳いでる時突然足を攣らせて、溺れかけた。
…だから何だ、僕。超能力者にでもなったつもりか?
ため息を吐いた、次の瞬間、尋常じゃない大きな揺れ。
次の瞬間、僕は―――。
「ただいま」
冷たい外気を纏って白いAA、モナーが居間に入ってくる。
「おかえり」
返事をするのはこたつに入っていた彼の妹のオレンジのAA、ガナーだった。
口に煎餅を銜えていた所為で彼女の声は少しくぐもっていた。
「嗚呼、もう寒い寒い。これだから冬は嫌だ」
体を少し震わせながらモナーもこたつに入る。
「夏になったら暑い暑い言う癖にね」
「うるさいなあ。…ん? 」
テレビの映像がモナーの目に映る。
脱線した電車が建物に突っ込んでいた。
その映像の上から生存者の名前なのか、たくさんの人の名前が移っていた。
「東の街で起きたみたいよ。たくさんのAAが死んじゃったんだって」
「ふーん」
モナーは首を数回縦に振った後、ガナーの方を向き、
「まあ、僕達には関係の無い事だね。それにしても、可哀想に」
なんの躊躇いも無く、モナーはテレビのリモコンを操作し、チャンネルを変える。
二人の今日はとても平和だった。