冬物語
作:ぽろバケツ
マフラーとダンボール [URL] 2005/03/07(月) 20:20:16
‐マフラー‐
寒いですね。
僕は首に巻いていたマフラーを巻き直した。
どーも、寒いのは苦手です。
片手のビニール袋にはお酒とカップ麺が入っている。
家に着いたら食べるつもりだ。
今夜はどうしてこんなにも寒いんでしょうか?
街灯は今にも夜の闇に消え入りそうな光を一生懸命保とうとしている。
小さな埃がマフラーの上にのった。
だが、その埃はすぐに消えてしまった。
どうりで冷えると思ったら・・・雪・・・ですか。
雪は一つ、二つと降ってきて、数え切れないほどにたくさん降り始めた。
明日は、歩きづらくなる程に積もるんでしょうか?
上を向くと雪は顔に直接積もろうとするが、それは僕の体温によってすぐになくなってしまう。
ひゃー、こりゃぁ家に帰る前に風邪引いちゃいそうですね・・・。
おや?
消えたり、点いたりする街灯の下に開け放たれたダンボールがあった。
そこにはぼうっと白く光る人影が一つ。
わっ、幽霊!?
よくよく見れば、「それ」は人だった。
まだ、足は確認できてないけど、頬には*のマークがある。
白い雪の妖精?・・・いや、最近本の読みすぎです・・・。
光が点くとはっきりとしぃの姿を見ることができた。
ダンボールに手をかけて、凛とした横顔は真っ直ぐ天を仰いでいる。
こっちの様子にはまったく気付いていないようだ。
僕は自分のマフラーを首から外すと後ろから彼女の肩にかけてやった。
そして、彼女の前に回りこんだ。
彼女は逆側を振り向いたもんだから、すごく驚いた顔をした。
「こっちですよ」
彼女は白い顔を少し桃色に染めて振り返った。
笑っている僕の顔を見て、気を悪くしなければいいんですけど。
笑顔はわざとじゃない。
どうにもならない。
「頭にまで雪を積もらせて・・・風邪引いちゃいますよ」
僕は彼女と同じ高さに目線を合わせようとしてしゃがんだ。
そして彼女の頭に積もっている雪をはらってやった。
ダンボールの中に座っている彼女の体は妙に綺麗で僕は目を逸らした。
「あ、あの、これ返します。これじゃあ、あなたが風邪引いちゃいます」
彼女は丁寧にたたんだ僕のマフラーを差し出した。
「僕はいいんですよ」
僕の顔は相変わらず笑顔のまま。
「いえ、そんなのだめです。お返しします」
こんなに礼儀正しい人を見たのは久しぶりだった。
あの人依頼ですか。
まぁ、それは置いといて。
んー、どうしましょうかね。
「じゃあ、持っていてください。ちゃんと首に巻いておいてくださいよ」
彼女はすまなそうに顔を伏せた。
白い体は小刻みに震えている。
首にマフラーを巻くと僕のほうに顔を上げた。
「ごめんなさい・・・ありがとうございます」
「いえいえ・・・」
沈黙。
僕は沈黙が嫌いだった。
何かしゃべろうとしたが、何を言えばいいか分からなかった。
「家に来ませんか?」
突然変なことを言い出したのは僕の口だった。
彼女はとても驚いているようだった。
あーあ、言っちゃった。僕は一体何がしたいんでしょうか・・・。
もう、どうにでもなれ。
「お願いします。お酒の相手をしてほしいんです。それに雪も降ってますし、寒いし・・・いくらマフラーを巻いていたって風邪引きますよ」
僕はいっぺんに早口で言った。
寂しいのは本当だった。
一人でお酒を飲むのは平気だが、たまには相手がほしいものだ。
「それなら、いいですよ」
彼女は白い体を立ち上がらせた。
僕は家へと足を進めた。
彼女は2,3歩後ろをついてくる。
「今日は雪がきれいですね」
僕は言った。
「え、あ、はい、そうですね。寒い日ほど雪は白くなるもんなんでしょうか?」
彼女が言った。
‐ダンボール‐
寒い。
真っ暗な闇の中、あたしは目を覚ました。
寒いのは嫌いじゃないけど流石にダンボールじゃあ・・・。
ダンボールの隙間から消えそうな光が点いたり消えたりを繰り返している。
あたしはダンボールの中で身を縮こませた。
本当に寒いなァ。
一つの光の粒がダンボールの中に舞い降りた。
それは、ダンボールの底につくと少しダンボールを濡らして消えた。
寒いと思ったらやっぱり・・・雪・・・か。
あたしはダンボールから顔を出して空を眺めた。
わぁ!
光がいっぱい落ちてくる。
それは道に降ってきて、消えたり少しつもったり・・・。
もう、星と雪の区別すらつかないほどのたくさんの光。
星か・・・そういえばあそこも星がたくさん見えてきれいだったなァ。
街灯が消えそうになる。
ひゃぁ~、明日はきっと銀世界だ。
すでに数ミリは積もってきている。
でも、寒いのはなんとかならないかなァ。
このままじゃ凍え死んじゃうよ・・・。
足音がした。
さくっと雪を踏む音。
誰かがこっちにやってくる。
でも、あたしは雪に夢中だった。
ふわっと肩に何かが乗った。
あたしは驚いて後ろを向いた。
「こっちですよ」
今度は前を見るとそこには一人の男の人がいた。
顔が笑ってる。
あたしは恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。
彼は笑った顔をあたしの目線の高さに合わせようとしゃがんでくれた。
ありゃ、よく見ればタカラギコだ。
あたしは肩にのっていた何かじゃなくマフラーに目をやった。
「頭にまで雪を積もらせて・・・風邪引いちゃいますよ」
うそ?
恥ずかしい。
そんなになるまであたしは夢中になって雪をながめていたのか。
そう考えているともっと恥ずかしくなった。
頭の上に彼の手が乗って雪をはらってくれた。
あったかい。
おっとそんなこと考えてる場合じゃない。
「あ、あの、これ返します。これじゃあ、あなたが風邪引いちゃいます」
あたしはマフラーをたたんで彼に返そうとした。
「僕はいいんですよ」
顔は笑ったまま、手を横に振った。
むぅ、なんとかして返さないと。
「いえ、そんなのだめです。お返しします」
「じゃあ、持っていてください。ちゃんと首に巻いておいてくださいよ」
一本とられた。
負けた。
ううん、頼まれ事はちゃんとやらなきゃだめだよね。
それにしても寒いなァ。
あたしはいそいでマフラーを首に巻いた。
さっきまで彼が巻いていたせいか、すこし温かさが残っているような気がして恥ずかしくなった。
頼まれ事とは言っても貸してもらってるわけだし・・・。
「ごめんなさい・・・ありがとうございます」
あたしは顔を上げて言った。
「いえいえ・・・」
あれ?あれれ?
会話が止まった。
沈黙・・・ですか。
沈黙って嫌い。
でも、しゃべりづらいんだよね。
こっちから喋りだしたほうがいいかな。
それとも、あっちが喋りだすかな?
「あ、あの・・・」
小さな声であたしは言った。
「家に来ませんか?」
が、彼の口がそれをさえぎった。
良かった。あっちはあたしがしゃべりだそうとしてたの気付いてないみたい。
でも、何で家?
彼の顔が赤くなっていくのをあたしはしっかりと見た。
雪はしんしんと降り続けている。
「お願いします。お酒の相手をしてほしいんです。それに雪も降ってますし、寒いし・・・いくらマフラーを巻いていたって風邪引きますよ」
お酒?
飲む飲む!!
あたし、まだ一回も飲んだことない。
それにここはすごく寒いや。
家でも大丈夫だよね。
多分・・・。
「それなら、いいですよ」
あたしは立ち上がって、歩き始めている彼の後を追った。
うーん・・・。
やっぱり、男の人なんだよね。
背中、あたしより広いや。
どうしよう。
何も起きたりしないよね?
神様、質問があります。
明日のあたしは乙女のままでしょうか?
「今日は雪がきれいですね」
彼が言った。
「え、あ、はい、そうですね。寒い日ほど雪は白くなるもんなんでしょうか?」
あたしは言った。
雪に残るのは二人分の足跡とダンボールだけ。
あたしは振り返って、ダンボールに頭をさげた。
そして、彼の後を追った。
お酒と名前と笑い [URL] 2005/03/07(月) 20:28:58
‐お酒と名前‐
ここはアパートの一室。
目の前にさっきからケタケタと笑う男の人がいる。
そんなに笑う事ないのに。
笑い方がとても妙だ。
あ、涙でてる。
ひどっ。
「そんなにおかしいわけ!」
あたしは我慢できなくなって怒りの声をあげた。
さっきから黙ってればずっと笑ってるし、もう我慢の限界よ!
「ぎこはひゃひゃひゃっひゃひゃひゃ!!」
笑い声が一層大きくなった。
あんたはアヒャですか?ってーの!
ったく、もうお酒まわってるのかしら。
「おかしいも何もおかしすぎですよ!」
ひぃひぃ言ってる。
「だってそんな名前!誰だって笑います!」
あたしを指さして笑ってらー…。
はぁ、来るんじゃなかった。
「いいじゃない!あたしだって好きでこんな名前名乗ってないわよ!」
缶ビールを一口飲む。
「くあ~、そうよ!あたしは可笑しい名前よ!!あたしは『ホワイト・スノー』です!!
体が雪みたいに白いことからそのまんまですよーだ!!!」
笑い声がますます大きくなる。
ああ~、もう!私だって飲んでやるんだから!
缶ビールを一缶飲み干す。
「ひぃ~、お腹痛い!じゃあ君はホワイトちゃんですね。ひゃひゃひゃひゃ」
「だめ!それだけはだぁめ!!ホワイトは嫌なの!だから、『ホワイス』って呼びなさい」
空の缶ビールがどんどん増えていく。
玄関の方で大きすぎるほどのノック音が聞こえる。
「はいは~い!今出ま~す」
タカラの男が玄関の方によたよたと歩いていく。
ここからじゃ誰が尋ねてきたのか見えない。
バシャッ
「ひゃっ」
水が落ちる音がした。
「いい加減にしろなんじゃネーノ!何時だと思ってたんだってーの!!」
知らない男の人の怒鳴り声が玄関から聞こえる。
「わ、ごめん!うるさくしすぎたみたいですね。もうやめますよ」
タカラの声も聞こえる。
どうやら、私たちがうるさすぎてアパートの住人さんが怒ったのだろう。
なにやら話をしているみたいだ。
でも、ここからじゃよく聞こえない。
あ、ドア閉めて行っちゃった。
ドアを閉める音がして、タカラが戻ってきた。
「あはは!怒られてんの~!」
あたしは笑ってやった。
はぁ、なんかいい気持ち体が浮いてるみたい~。
「しー!!」
彼は人差し指を口に当てて座った。
「もう、あいつのおかげで酔いが醒めちまいましたよ。うひィ、寒い。
あいつバケツいっぱいに水かけやがって」
「ねぇねぇ!まだあたし、あなたの名前聞いてない!!」
タカラはストーブの電源を点けて、毛布に包まった。
「あちゃ~、今度は君ができあがっちゃってるんですか。教えてあげますけどちょっと声のボリュームを下げてください」
「は~い!わかりましたセンセー!」
あたしは元気良く返事をした。
彼は顔を片手で覆ってため息をついた。
「まったくもぅ、僕の名前は『ニコニ・スカイ』ですよ」
彼は立ち上がった。
ん?何するの?
「あはは、ニコニコの空だ!!かわいい~」
あたしはふらふらに手を上げて、台所に向かう彼を指さして笑った。
どうやら、何かつくるらしい。
「男に『かわいい』は失礼ですよ。ま、しょうがないかもしれませんが」
彼の返事が台所から返ってきた。
ふーん、そんなの気にするんだ。
ますますかわいいなぁ。
あ、甘くていいにおい。
「はい、ココアどうぞ。
もうお酒はやめておきましょうね」
「あぁ~!!あたしのおひゃけ返せ~」
あ、ろれつが回らない。
ふふ~、お酒っていい物ね~。
彼は飲み終わったのとまだ残っている缶ビールを片してしまった。
へへ、実はまたあたしの後ろに一本残ってるんだよね。
突然彼が何か思い出したようにはっとこっに振り返った。
「あの、質問があるんですが」
「んぅ~?何ィ~?
このしぃセンセーに何でも聞きなさい」
彼の額には汗がびっしょりだ。
「あなた何歳ですか?」
「ん?あたし?あたしは19だよ」
彼の顔が蒼くなった。
「だだだだだめじゃないですか!!
まだハタチでもないのにお酒なんか飲んで!!
それに家はどうしたんですか!?
女の子がなんであんなところに一人でいるんです!?」
彼は慌てふためいていた。
やめてやめて、あたしの事は聞かないで!
せっかくのイイ気持ちが台無しになっちゃう。
「あたしの…おうちはダンボールよ。ちゃんと入ってたでしょ」
ほんとうにそうなんだもん。
「じゃあ、親は!?」
「お母さんもお父さんもいないわ。
生きてるのか死んでるのかもわからない。
お願いこのことについてはもうこれ以上聞かないで」
いやっ!いやっ!
もうやめて、思い出せないのよ。
彼ははぁ~っと溜め息をついて、顔を上げた。
ごめんなさい。
私は隠してた缶ビールを開けて飲んだ。
「プファ~!やっぱしお酒はおいしいね!」
「∑あっ、まだ持ってたんですか!もう年齢も関係無しに飲みすぎですよ!」
彼はあたしのお酒をひったくった。
うぅ、最後の一口が…。
「ああああ!!!!」
彼はあたしの最後の一口を飲んでしまった。
「ふ~、ご馳走様」
間接キスよ~、それ。
「お風呂入ります?酔ってる人一人じゃ危なっかしいですけど」
「入る入るぅ~」
あたしはよろよろと立ち上がって歩き出した。
その時、足がぐらついて彼の方に倒れてしまった。
「わっ…」
小さく彼は声を上げた。
あたしが倒れた勢いで一緒に倒れてしまったのだ。
あたしは今、彼の上に乗っている。
「こ、こらっ、危ないじゃないですか!」
「へへ~、ニコニくんってあったかいね」
彼の顔が赤に染まる。
下半身の方に何かがあたってる・・・ようなきがする。
「あ、顔赤いよ」
「そんなことありません」
今まであたしに目線を合わせてたのに彼はふと天井の方に目線をやった。
「これじゃあ、お風呂はだめですね」
「ええ~」
「ええ~、じゃありません」
彼は起き上がった。
あたしは床で座ってる。
「さてと、僕はそろそろ寝に行きますね」
そう言うと玄関の方に歩き出した。
「布団のほうはもう和室にひいてありますから、じゃまた明日」
「え?どこに行くの?」
あたしは今にも外に出ようとしている彼に声をかけた。
「どこって、女の人と一緒に寝るわけいきませんし、今日は外で寝ますよ」
ドアを開けた。
冷えた風があったかい部屋の中に吹き込んでくる。
「だめだよ、外なんかで寝たら風邪ひいちゃう」
あたしは立ち上がって、よろよろ玄関へと歩き出す。
彼はドアを閉めて、ため息をついた。
「僕があなたを襲うかもしれませんよ」
彼はあたしに背を向けたまま言った。
「いいよ」
あたしは言った。
彼は振り返った。
顔が真っ赤だ。
「い、いいってだめですよ!」
ああ、あたし何言ってんだろ。
お酒のせいかな?
でもこの人ならいいや。
「どうしても外で寝るって言うならあたしが外で寝る!」
あたしは言い張った。
彼は真っ赤な顔をした頭を抱えて悩んでいる。
ああ、世界が回る。
「他人のあなたを外で寝させるわけにもいきませんしね」
どたっ
次の瞬間、私は床にキスをした。
「ぅ・・・ぁいたい」
・・・まずいな、またか。
「ギャー!何やってるんですか!!?」
彼はどたどたと私に近づいてくる。
あーあ、そんなにうるさく走ったらまた下の人に怒られるよ。
てか、痛い・・・。
体に力が入らないよ。
「ちょっ、ねぇ!大丈夫ですか!?おーい!」
彼の声が遠ざかっていく。
だめだな、慣れてないもの飲んだからかな。
-笑いと名前-
ここは僕のアパートの部屋。
ああ、可笑しい。
これは笑わずにはいられませんね。
「そんなにおかしいわけ!」
彼女はテーブルをダンッと叩き、怒鳴った。
白い体が見える。
はは、やっぱり名前その通りですね。
ああ、おかしい。
「おかしいも何もおかしすぎですよ!」
笑いすぎでお腹が痛い。
「だってそんな名前!誰だって笑います!」
僕は彼女を指さした。
彼女は呆れた様子でこちらを見ている。
彼女、溜め息一つ。
「いいじゃない!あたしだって好きでこんな名前名乗ってないわよ!」
彼女はビールを一口。
ダンッとテーブルを叩くと、ビールを置いた。
「くあ~、そうよ!あたしは可笑しい名前よ!!あたしは『ホワイト・スノー』です!!
体が雪みたいに白いことからそのまんまですよーだ!!!」
あはは、やっぱり可笑しい。
お、いっきですか!?
がんがれ~、がんがれ~。
一本飲み干した。
「ひぃ~、お腹痛い!じゃあ君はホワイトちゃんですね。ひゃひゃひゃひゃ」
笑い声は素なんですよね。
どうしてこんな笑い声なのかも自分でわからないなんて、はは。
「だめ!それだけはだぁめ!!ホワイトは嫌なの!だから、『ホワイス』って呼びなさい」
おお、いい飲みっぷりですね。
僕も負けてられませんよ。
その時、玄関で大きなノック音が聞こえた。
ん?こんな夜中に誰でしょうね。
「はいは~い!今出ま~す」
僕は玄関の方に歩いていき、ノック音の止まないドアを開けた。
「はいはい、こんな夜中に誰でs」
バシャッ
「ひゃぅ、冷たっ!痛っ!」
冷たい水と氷がいっぱいにかけられた。
「なぁにがひゃぅだよ。もう、いい加減にしろなんじゃネーノ!今何時だと思ってんだってーの!!」
「わ、ごめん!うるさくしすぎたみたいですね。もうやめますよ。
それにしったってこの寒い冬に氷水はきついですよ!」
この人は、僕の部屋の下に住んでいる、ユクリ・ユルス。
~じゃネーノが口癖な僕の幼馴染。
その彼の眉間がピクッっと動いたような気がした。
「ハァ!?テメェ、この一年前までは冬の海潜ってたんじゃネーノ」
「あれは、ついその場のノリでt…あ、今お客さんが来てるから、もう帰って下さい!」
僕はドアを閉めようとしたが、ユクリはそれを足で押さえた。
うぁ、ややこしいことになりそうですね。
はやく、帰さないと。
「へへ、お客さんとか言って、本当は女連れ込んだんじゃねーの?」
ユクリは部屋の様子を覗こうとした。
「ななな何言ってるんですか!?そんなことないですよ!」
「はは、お前は本当に顔にでやすいんじゃネーノ。もう、顔が真っ赤なんじゃネーノ。
そうか、お前もあの日以来もう彼女なんてつくらないと思ったが、やっぱり男なんだな」
ユクリは僕の肩に手を置いて嫌な笑みを浮かべ、うなづいていた。
僕はその手を払いのけた。
「もう、あの日の話はやめて下さい」
ユクリは少しびっくりした様子だった。
あの日はもう壊れています。
もう一度組み立てることなどできない。
「あぁ、ごめんなんじゃネーノ。
でもな、お前いつまでもあれを引きずって生きていくわけにはいかないんじゃネーノ」
「わかってます!わかってますけど・・・」
「よしっ!いいか?女ってのは家に連れ込んでそのまんまヤっちまえばいいんじゃネーノ。
特に酔いやすい女はやりやすいんじゃネーノ」
ニヤニヤしてる。
「なっ、ヤるって・・・。ったく、僕は君とは違います!」
酔いやすい・・・か。
あの子はどうだろう?
「まっ、がんばれよなんじゃネーノ。じゃな、よい夜を」
「な、何をがんばるんですかっ!?」
そう怒鳴ると彼はケタケタ笑いながら階段を降りていった。
僕は溜め息一つ。
「あっ!!!そうだ!俺の部屋下なんだから、あんましすごいことするなよ」
「だあああああぁーーー!!!だから、そういう事を言うのはやめなさい!!」
も一個溜め息。
僕はドアを開けて部屋に戻った。
「あはは!怒られてやんの~!」
彼女は僕を指さして笑っていた。
今度はこっちが笑いまくってますね。
「しー!!」
酔いやすい・・・。
ったく、ユクリに変な事言われたから意識しちゃうじゃねいですか。
「もう、あいつのおかげで酔いが醒めちまいましたよ。うひィ、寒い。
あいつバケツいっぱいに水かけやがって」
氷水はやりすぎですよー・・・。
うぅ、寒い。
「ねぇねぇ!まだあたし、あなたの名前聞いてない!!」
ほんと酔いまくってますね・・・。
僕はストーブに駆け寄り、スイッチを押した。
次に和室から毛布を出して包まった。
「あちゃ~、今度は君ができあがっちゃってるんですか。
教えてあげますけどちょっと声のボリュームを下げてください」
あいつにこれ以上、誤解はさせたくないですよ。
「は~い、わかりましたセンセー!」
元気すぎるほどの返事で結構ですね・・・。
はぁ、酔っ払いに常識は通じませんか。
「まったくもう、僕の名前は『ニコニ・スカイ』ですよ」
さて、酔っ払いにココアでも出してあげましょうかね。
僕は台所に向かった。
「あはは、ニコニコの空だ!!かわいい~」
彼女は無邪気な笑顔と一緒に僕を指さした。
―――笑う空。かわいい名前ですね。
あぁ、彼女も同じような事を言っていましたね。
ん?
何故でしょう?
ホワイスはさっきから引きつったような笑顔しかしてませんね。
「男に『かわいい』は失礼ですよ。
ま、しょうがないかもしれませんが」
できた。
「はい、ココアどうぞ。
もうお酒はやめておきましょうね」
僕はココアをテーブルに置く時、気付かれないように彼女の顔をしっかりと見た。
彼女は体全部が白くて、目はうすいルビー色。
やっぱり、かわいいですね。
じゃなくて・・・。
はぁ、一体僕は何をしたいんでしょうか?
あ・・・。
傷が見える。
口のあたりに良く見ないと見えないけど、確かにその傷はあった。
気付けば、傷はたくさんあった。
どれも何故か薄く透けた感じで見づらい。
彼女の引きつった笑顔はこの傷達のせいですか。
僕はテーブルの上に置いてある空き缶とまだ入っている缶をひっこめた。
「あぁ~!!あたしのおひゃけ返せ~」
ろれつまでおかしくなってますね。
あ、ぼぅっとしてる。
ん?何かにわかに笑っているように見えるのは気のせいですかね。
・・・・・・。
かわいいなァ・・・。
だ、だめです!
ったく、相手は酔っ払いですよ!
そういえばどうして彼女は一人であんなところにいたんでしょうか?
気がつけば時計は1を差していた。
「あの、質問があるんですが」
僕はついに尋ねてみた。
「んぅ~?何ィ~?
このしぃセンセーに何でも聞きなさい」
そうだ、どうして僕は気付かなかったんでしょうか・・・。
額に汗が吹き出るのを感じた。
「あなた何歳ですか?」
「ん?あたし?あたしは19だよ」
一瞬僕は意識が遠のいていくような気がした。
じゅ、19ゥ!?
うあー、僕はなんてことをしてしまったんでしょう・・・。
はやく、はやく家に帰さないと。
「だだだだだめじゃないですか!!
まだハタチでもないのにお酒なんか飲んで!!
それに家はどうしたんですか!?
女の子がなんであんなところに一人でいるんです!?」
わわわ、こりゃ酔ってる場合じゃありませんよ。
でも、どうしてあんなところに一人でいたんでしょうか。
親との喧嘩で家出か、それか他になにか原因が・・・。
僕はその場を行ったり来たりした。
どうやっても考えがまとまらない。
「あたしの・・・おうちはダンボールよ。
ちゃんと入ってたでしょ」
ダ、ダンボール!?
たしかに入っていましたたけど。
いや、別にしぃが箱に入ってることはおかしいことじゃないんですけど。
この真冬にダンボールですか!
僕は頭を抱え、その場に座り込んだ。
「じゃあ、親は!?」
僕は少し苛立ちを込めて質問した。
「お母さんもお父さんもいないわ。
生きてるのか死んでるのかもわからない。
お願い、このことについてはもうこれ以上聞かないで」
彼女はとろんとした目のまま少し顔を歪めた。
何かを思い出そうとしているかのように。
それにしても身寄りがないとは。
これからどうしましょう。
ここにおいてあげましょうか。
いや、それはダメです。
男の僕がいつ何をするかわかったもんじゃないですからね。
でも、真冬の外に彼女を捨てるわけにもいきません。
あぁ、どうしよう。
彼女はとうとう俯いてしまった。
「プファ~!やっぱしお酒はおいしいね!」
泣いているかと思ったのに彼女はお酒を飲んでいた。
僕がお酒を下げる前に隠し持ったらしい。
「∑あっ、まだ持ってたんですか!
もう年齢関係無しに飲みすぎですよ!」
僕は彼女のお酒をひったくった。
振ってみるともう半分以上も無くなっていた。
飲むの早っ・・・。
「ああああ!!!!」
彼女は驚きの声を上げた。
僕はひったくったお酒の残りを飲みほした。
もう、これ以上お酒を飲ますわけにもいきませんしね。
「ふ~、ご馳走様」
あ、間接キス・・・。
うぁ、僕は何を気にしてるんでしょうか!
小学生じゃあるまいし・・・。
僕は顔が火照っていくのを感じた。
お酒のせいですよ。
「お風呂は要ります?酔ってる人一人じゃ危なっかしいですけど」
僕は赤い顔を隠すように風呂場のほうを向いた。
女の子ですし、お風呂入りたいですよね。
「入る入るぅ~」
彼女はふにゃふにゃした返事を返して、よろよろと立ち上がった。
あぁ、もう、ほんっとに危なっかしいですねェ・・・。
あっ、危ない。
彼女が僕に覆いかぶさってきた。
どうやれば何も無いところで転べるんですか・・・。
「わ・・・」
声を上げたのは僕のほうだった。
普通こういうところでは女の子のほうですよね・・・。
何で僕はこんなに女々しいんでしょうか。
「こ、こらっ、危ないじゃないですか!」
「へへ~、ニコニくんってあったかいね」
彼女は起き上がることなく僕にひっついている。
ああ~!!また、顔が赤く・・・。お酒のせいです。お酒のせい!
僕はひっついている彼女の顔を見た。
とろんとした目が僕を見つめている。
か、かわいい・・・。
だああ!しつこい!!
あ゛、まずい・・・。
僕は下半身に目をやった。
まずいまずいまずいまずい!
おさまれおさまれおさまれおさまれ!!
「あ、顔赤いよ」
「そんなことありません」
バレた。
でもまだ下のほうは・・・。
大丈夫みたい。
僕は天井のほうに目をやった。
どうしよう・・・。
ひとまずお風呂ですね。
「これじゃあ、お風呂はだめですね」
「ええ~」
当たり前ですよ。
こんなによろよろだったら、お風呂の中で沈んじゃいます。
「ええ~、じゃありません」
僕は起き上がった。
彼女はとろんとした目のままその場に座っている。
もう2時ですか。
そろそろ寝ますかね。
「さてと、僕はそろそろ寝に行きます」
今日は近くの公園でいいか。
僕は玄関のほうに足を進めた。
「布団のほうはもう和室にひいてありますから、じゃあまた明日」
きっと外はものすごく寒いですよね。
「え?どこに行くの?」
彼女は少し驚いたように尋ねた。
「どこって、女の人と一緒に寝るわけいきませんし、今日は外で寝ますよ」
ドアを開けた。
うひィ、寒い!
外で寝れますかね・・・。
明日には死んでるかな。
「だめだよ、外なんかで寝たら風邪引いちゃう」
彼女は立ち上がってこちらに近づいてくる。
僕は彼女を冷やさないようにドアを閉めた。
溜め息一つ、白い煙になって消えた。
「僕があなたを襲うかもしれませんよ」
彼女の顔は何故か見ることができなかった。
あの日と同じような1シーンだから?
それとも子猫のような彼女が今にも泣き出しそうだったから?
「いいよ」
彼女が言った。
僕は振り返った。
顔が真っ赤だ。
「い、いいってだめですよ!」
何を言ってるんですか!
そんなのだめに決まってる。
理由はないがだめだと決まっている。
「どうしても外で寝るって言うならあたしが外で寝る!」
彼女は言い張った。
どうしましょう。
「他人のあなたを外で寝させるわけにはいきませんしね」
そうだ、僕がなにもしなければいいんです。
ん?どうしたんでしょう?
彼女の顔が赤くてどこかふらふらした様子だった。
どたっ
次の瞬間、彼女はその場に倒れた。
「ぅ・・・ぁいたい」
急性アルコール中毒ですか!?
まさか、そんなことはないだろうけど・・・。
でも、倒れるなんて。
「ギャー!何やってるんですか!!?」
彼女はぴくりとも動かない。
どうしましょう!!どうしましょう!!
呼吸はしてる。
大丈夫、生きている。
「ちょっ、ねぇ!大丈夫ですか!?おーい!」
呼んでみた。
返事はない。
額に手を当ててみた。
わ、熱っ!
どうやら、熱で気絶しているらしい。
あの日は今日の丁度一年前でしたっけ?
ふと、そんな考えが頭をかすめた。
今はそんなこと考えている場合じゃない。
彼女を抱きかかえ、ぼくは和室に向かった。
作:ぽろバケツ
マフラーとダンボール [URL] 2005/03/07(月) 20:20:16
‐マフラー‐
寒いですね。
僕は首に巻いていたマフラーを巻き直した。
どーも、寒いのは苦手です。
片手のビニール袋にはお酒とカップ麺が入っている。
家に着いたら食べるつもりだ。
今夜はどうしてこんなにも寒いんでしょうか?
街灯は今にも夜の闇に消え入りそうな光を一生懸命保とうとしている。
小さな埃がマフラーの上にのった。
だが、その埃はすぐに消えてしまった。
どうりで冷えると思ったら・・・雪・・・ですか。
雪は一つ、二つと降ってきて、数え切れないほどにたくさん降り始めた。
明日は、歩きづらくなる程に積もるんでしょうか?
上を向くと雪は顔に直接積もろうとするが、それは僕の体温によってすぐになくなってしまう。
ひゃー、こりゃぁ家に帰る前に風邪引いちゃいそうですね・・・。
おや?
消えたり、点いたりする街灯の下に開け放たれたダンボールがあった。
そこにはぼうっと白く光る人影が一つ。
わっ、幽霊!?
よくよく見れば、「それ」は人だった。
まだ、足は確認できてないけど、頬には*のマークがある。
白い雪の妖精?・・・いや、最近本の読みすぎです・・・。
光が点くとはっきりとしぃの姿を見ることができた。
ダンボールに手をかけて、凛とした横顔は真っ直ぐ天を仰いでいる。
こっちの様子にはまったく気付いていないようだ。
僕は自分のマフラーを首から外すと後ろから彼女の肩にかけてやった。
そして、彼女の前に回りこんだ。
彼女は逆側を振り向いたもんだから、すごく驚いた顔をした。
「こっちですよ」
彼女は白い顔を少し桃色に染めて振り返った。
笑っている僕の顔を見て、気を悪くしなければいいんですけど。
笑顔はわざとじゃない。
どうにもならない。
「頭にまで雪を積もらせて・・・風邪引いちゃいますよ」
僕は彼女と同じ高さに目線を合わせようとしてしゃがんだ。
そして彼女の頭に積もっている雪をはらってやった。
ダンボールの中に座っている彼女の体は妙に綺麗で僕は目を逸らした。
「あ、あの、これ返します。これじゃあ、あなたが風邪引いちゃいます」
彼女は丁寧にたたんだ僕のマフラーを差し出した。
「僕はいいんですよ」
僕の顔は相変わらず笑顔のまま。
「いえ、そんなのだめです。お返しします」
こんなに礼儀正しい人を見たのは久しぶりだった。
あの人依頼ですか。
まぁ、それは置いといて。
んー、どうしましょうかね。
「じゃあ、持っていてください。ちゃんと首に巻いておいてくださいよ」
彼女はすまなそうに顔を伏せた。
白い体は小刻みに震えている。
首にマフラーを巻くと僕のほうに顔を上げた。
「ごめんなさい・・・ありがとうございます」
「いえいえ・・・」
沈黙。
僕は沈黙が嫌いだった。
何かしゃべろうとしたが、何を言えばいいか分からなかった。
「家に来ませんか?」
突然変なことを言い出したのは僕の口だった。
彼女はとても驚いているようだった。
あーあ、言っちゃった。僕は一体何がしたいんでしょうか・・・。
もう、どうにでもなれ。
「お願いします。お酒の相手をしてほしいんです。それに雪も降ってますし、寒いし・・・いくらマフラーを巻いていたって風邪引きますよ」
僕はいっぺんに早口で言った。
寂しいのは本当だった。
一人でお酒を飲むのは平気だが、たまには相手がほしいものだ。
「それなら、いいですよ」
彼女は白い体を立ち上がらせた。
僕は家へと足を進めた。
彼女は2,3歩後ろをついてくる。
「今日は雪がきれいですね」
僕は言った。
「え、あ、はい、そうですね。寒い日ほど雪は白くなるもんなんでしょうか?」
彼女が言った。
‐ダンボール‐
寒い。
真っ暗な闇の中、あたしは目を覚ました。
寒いのは嫌いじゃないけど流石にダンボールじゃあ・・・。
ダンボールの隙間から消えそうな光が点いたり消えたりを繰り返している。
あたしはダンボールの中で身を縮こませた。
本当に寒いなァ。
一つの光の粒がダンボールの中に舞い降りた。
それは、ダンボールの底につくと少しダンボールを濡らして消えた。
寒いと思ったらやっぱり・・・雪・・・か。
あたしはダンボールから顔を出して空を眺めた。
わぁ!
光がいっぱい落ちてくる。
それは道に降ってきて、消えたり少しつもったり・・・。
もう、星と雪の区別すらつかないほどのたくさんの光。
星か・・・そういえばあそこも星がたくさん見えてきれいだったなァ。
街灯が消えそうになる。
ひゃぁ~、明日はきっと銀世界だ。
すでに数ミリは積もってきている。
でも、寒いのはなんとかならないかなァ。
このままじゃ凍え死んじゃうよ・・・。
足音がした。
さくっと雪を踏む音。
誰かがこっちにやってくる。
でも、あたしは雪に夢中だった。
ふわっと肩に何かが乗った。
あたしは驚いて後ろを向いた。
「こっちですよ」
今度は前を見るとそこには一人の男の人がいた。
顔が笑ってる。
あたしは恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。
彼は笑った顔をあたしの目線の高さに合わせようとしゃがんでくれた。
ありゃ、よく見ればタカラギコだ。
あたしは肩にのっていた何かじゃなくマフラーに目をやった。
「頭にまで雪を積もらせて・・・風邪引いちゃいますよ」
うそ?
恥ずかしい。
そんなになるまであたしは夢中になって雪をながめていたのか。
そう考えているともっと恥ずかしくなった。
頭の上に彼の手が乗って雪をはらってくれた。
あったかい。
おっとそんなこと考えてる場合じゃない。
「あ、あの、これ返します。これじゃあ、あなたが風邪引いちゃいます」
あたしはマフラーをたたんで彼に返そうとした。
「僕はいいんですよ」
顔は笑ったまま、手を横に振った。
むぅ、なんとかして返さないと。
「いえ、そんなのだめです。お返しします」
「じゃあ、持っていてください。ちゃんと首に巻いておいてくださいよ」
一本とられた。
負けた。
ううん、頼まれ事はちゃんとやらなきゃだめだよね。
それにしても寒いなァ。
あたしはいそいでマフラーを首に巻いた。
さっきまで彼が巻いていたせいか、すこし温かさが残っているような気がして恥ずかしくなった。
頼まれ事とは言っても貸してもらってるわけだし・・・。
「ごめんなさい・・・ありがとうございます」
あたしは顔を上げて言った。
「いえいえ・・・」
あれ?あれれ?
会話が止まった。
沈黙・・・ですか。
沈黙って嫌い。
でも、しゃべりづらいんだよね。
こっちから喋りだしたほうがいいかな。
それとも、あっちが喋りだすかな?
「あ、あの・・・」
小さな声であたしは言った。
「家に来ませんか?」
が、彼の口がそれをさえぎった。
良かった。あっちはあたしがしゃべりだそうとしてたの気付いてないみたい。
でも、何で家?
彼の顔が赤くなっていくのをあたしはしっかりと見た。
雪はしんしんと降り続けている。
「お願いします。お酒の相手をしてほしいんです。それに雪も降ってますし、寒いし・・・いくらマフラーを巻いていたって風邪引きますよ」
お酒?
飲む飲む!!
あたし、まだ一回も飲んだことない。
それにここはすごく寒いや。
家でも大丈夫だよね。
多分・・・。
「それなら、いいですよ」
あたしは立ち上がって、歩き始めている彼の後を追った。
うーん・・・。
やっぱり、男の人なんだよね。
背中、あたしより広いや。
どうしよう。
何も起きたりしないよね?
神様、質問があります。
明日のあたしは乙女のままでしょうか?
「今日は雪がきれいですね」
彼が言った。
「え、あ、はい、そうですね。寒い日ほど雪は白くなるもんなんでしょうか?」
あたしは言った。
雪に残るのは二人分の足跡とダンボールだけ。
あたしは振り返って、ダンボールに頭をさげた。
そして、彼の後を追った。
お酒と名前と笑い [URL] 2005/03/07(月) 20:28:58
‐お酒と名前‐
ここはアパートの一室。
目の前にさっきからケタケタと笑う男の人がいる。
そんなに笑う事ないのに。
笑い方がとても妙だ。
あ、涙でてる。
ひどっ。
「そんなにおかしいわけ!」
あたしは我慢できなくなって怒りの声をあげた。
さっきから黙ってればずっと笑ってるし、もう我慢の限界よ!
「ぎこはひゃひゃひゃっひゃひゃひゃ!!」
笑い声が一層大きくなった。
あんたはアヒャですか?ってーの!
ったく、もうお酒まわってるのかしら。
「おかしいも何もおかしすぎですよ!」
ひぃひぃ言ってる。
「だってそんな名前!誰だって笑います!」
あたしを指さして笑ってらー…。
はぁ、来るんじゃなかった。
「いいじゃない!あたしだって好きでこんな名前名乗ってないわよ!」
缶ビールを一口飲む。
「くあ~、そうよ!あたしは可笑しい名前よ!!あたしは『ホワイト・スノー』です!!
体が雪みたいに白いことからそのまんまですよーだ!!!」
笑い声がますます大きくなる。
ああ~、もう!私だって飲んでやるんだから!
缶ビールを一缶飲み干す。
「ひぃ~、お腹痛い!じゃあ君はホワイトちゃんですね。ひゃひゃひゃひゃ」
「だめ!それだけはだぁめ!!ホワイトは嫌なの!だから、『ホワイス』って呼びなさい」
空の缶ビールがどんどん増えていく。
玄関の方で大きすぎるほどのノック音が聞こえる。
「はいは~い!今出ま~す」
タカラの男が玄関の方によたよたと歩いていく。
ここからじゃ誰が尋ねてきたのか見えない。
バシャッ
「ひゃっ」
水が落ちる音がした。
「いい加減にしろなんじゃネーノ!何時だと思ってたんだってーの!!」
知らない男の人の怒鳴り声が玄関から聞こえる。
「わ、ごめん!うるさくしすぎたみたいですね。もうやめますよ」
タカラの声も聞こえる。
どうやら、私たちがうるさすぎてアパートの住人さんが怒ったのだろう。
なにやら話をしているみたいだ。
でも、ここからじゃよく聞こえない。
あ、ドア閉めて行っちゃった。
ドアを閉める音がして、タカラが戻ってきた。
「あはは!怒られてんの~!」
あたしは笑ってやった。
はぁ、なんかいい気持ち体が浮いてるみたい~。
「しー!!」
彼は人差し指を口に当てて座った。
「もう、あいつのおかげで酔いが醒めちまいましたよ。うひィ、寒い。
あいつバケツいっぱいに水かけやがって」
「ねぇねぇ!まだあたし、あなたの名前聞いてない!!」
タカラはストーブの電源を点けて、毛布に包まった。
「あちゃ~、今度は君ができあがっちゃってるんですか。教えてあげますけどちょっと声のボリュームを下げてください」
「は~い!わかりましたセンセー!」
あたしは元気良く返事をした。
彼は顔を片手で覆ってため息をついた。
「まったくもぅ、僕の名前は『ニコニ・スカイ』ですよ」
彼は立ち上がった。
ん?何するの?
「あはは、ニコニコの空だ!!かわいい~」
あたしはふらふらに手を上げて、台所に向かう彼を指さして笑った。
どうやら、何かつくるらしい。
「男に『かわいい』は失礼ですよ。ま、しょうがないかもしれませんが」
彼の返事が台所から返ってきた。
ふーん、そんなの気にするんだ。
ますますかわいいなぁ。
あ、甘くていいにおい。
「はい、ココアどうぞ。
もうお酒はやめておきましょうね」
「あぁ~!!あたしのおひゃけ返せ~」
あ、ろれつが回らない。
ふふ~、お酒っていい物ね~。
彼は飲み終わったのとまだ残っている缶ビールを片してしまった。
へへ、実はまたあたしの後ろに一本残ってるんだよね。
突然彼が何か思い出したようにはっとこっに振り返った。
「あの、質問があるんですが」
「んぅ~?何ィ~?
このしぃセンセーに何でも聞きなさい」
彼の額には汗がびっしょりだ。
「あなた何歳ですか?」
「ん?あたし?あたしは19だよ」
彼の顔が蒼くなった。
「だだだだだめじゃないですか!!
まだハタチでもないのにお酒なんか飲んで!!
それに家はどうしたんですか!?
女の子がなんであんなところに一人でいるんです!?」
彼は慌てふためいていた。
やめてやめて、あたしの事は聞かないで!
せっかくのイイ気持ちが台無しになっちゃう。
「あたしの…おうちはダンボールよ。ちゃんと入ってたでしょ」
ほんとうにそうなんだもん。
「じゃあ、親は!?」
「お母さんもお父さんもいないわ。
生きてるのか死んでるのかもわからない。
お願いこのことについてはもうこれ以上聞かないで」
いやっ!いやっ!
もうやめて、思い出せないのよ。
彼ははぁ~っと溜め息をついて、顔を上げた。
ごめんなさい。
私は隠してた缶ビールを開けて飲んだ。
「プファ~!やっぱしお酒はおいしいね!」
「∑あっ、まだ持ってたんですか!もう年齢も関係無しに飲みすぎですよ!」
彼はあたしのお酒をひったくった。
うぅ、最後の一口が…。
「ああああ!!!!」
彼はあたしの最後の一口を飲んでしまった。
「ふ~、ご馳走様」
間接キスよ~、それ。
「お風呂入ります?酔ってる人一人じゃ危なっかしいですけど」
「入る入るぅ~」
あたしはよろよろと立ち上がって歩き出した。
その時、足がぐらついて彼の方に倒れてしまった。
「わっ…」
小さく彼は声を上げた。
あたしが倒れた勢いで一緒に倒れてしまったのだ。
あたしは今、彼の上に乗っている。
「こ、こらっ、危ないじゃないですか!」
「へへ~、ニコニくんってあったかいね」
彼の顔が赤に染まる。
下半身の方に何かがあたってる・・・ようなきがする。
「あ、顔赤いよ」
「そんなことありません」
今まであたしに目線を合わせてたのに彼はふと天井の方に目線をやった。
「これじゃあ、お風呂はだめですね」
「ええ~」
「ええ~、じゃありません」
彼は起き上がった。
あたしは床で座ってる。
「さてと、僕はそろそろ寝に行きますね」
そう言うと玄関の方に歩き出した。
「布団のほうはもう和室にひいてありますから、じゃまた明日」
「え?どこに行くの?」
あたしは今にも外に出ようとしている彼に声をかけた。
「どこって、女の人と一緒に寝るわけいきませんし、今日は外で寝ますよ」
ドアを開けた。
冷えた風があったかい部屋の中に吹き込んでくる。
「だめだよ、外なんかで寝たら風邪ひいちゃう」
あたしは立ち上がって、よろよろ玄関へと歩き出す。
彼はドアを閉めて、ため息をついた。
「僕があなたを襲うかもしれませんよ」
彼はあたしに背を向けたまま言った。
「いいよ」
あたしは言った。
彼は振り返った。
顔が真っ赤だ。
「い、いいってだめですよ!」
ああ、あたし何言ってんだろ。
お酒のせいかな?
でもこの人ならいいや。
「どうしても外で寝るって言うならあたしが外で寝る!」
あたしは言い張った。
彼は真っ赤な顔をした頭を抱えて悩んでいる。
ああ、世界が回る。
「他人のあなたを外で寝させるわけにもいきませんしね」
どたっ
次の瞬間、私は床にキスをした。
「ぅ・・・ぁいたい」
・・・まずいな、またか。
「ギャー!何やってるんですか!!?」
彼はどたどたと私に近づいてくる。
あーあ、そんなにうるさく走ったらまた下の人に怒られるよ。
てか、痛い・・・。
体に力が入らないよ。
「ちょっ、ねぇ!大丈夫ですか!?おーい!」
彼の声が遠ざかっていく。
だめだな、慣れてないもの飲んだからかな。
-笑いと名前-
ここは僕のアパートの部屋。
ああ、可笑しい。
これは笑わずにはいられませんね。
「そんなにおかしいわけ!」
彼女はテーブルをダンッと叩き、怒鳴った。
白い体が見える。
はは、やっぱり名前その通りですね。
ああ、おかしい。
「おかしいも何もおかしすぎですよ!」
笑いすぎでお腹が痛い。
「だってそんな名前!誰だって笑います!」
僕は彼女を指さした。
彼女は呆れた様子でこちらを見ている。
彼女、溜め息一つ。
「いいじゃない!あたしだって好きでこんな名前名乗ってないわよ!」
彼女はビールを一口。
ダンッとテーブルを叩くと、ビールを置いた。
「くあ~、そうよ!あたしは可笑しい名前よ!!あたしは『ホワイト・スノー』です!!
体が雪みたいに白いことからそのまんまですよーだ!!!」
あはは、やっぱり可笑しい。
お、いっきですか!?
がんがれ~、がんがれ~。
一本飲み干した。
「ひぃ~、お腹痛い!じゃあ君はホワイトちゃんですね。ひゃひゃひゃひゃ」
笑い声は素なんですよね。
どうしてこんな笑い声なのかも自分でわからないなんて、はは。
「だめ!それだけはだぁめ!!ホワイトは嫌なの!だから、『ホワイス』って呼びなさい」
おお、いい飲みっぷりですね。
僕も負けてられませんよ。
その時、玄関で大きなノック音が聞こえた。
ん?こんな夜中に誰でしょうね。
「はいは~い!今出ま~す」
僕は玄関の方に歩いていき、ノック音の止まないドアを開けた。
「はいはい、こんな夜中に誰でs」
バシャッ
「ひゃぅ、冷たっ!痛っ!」
冷たい水と氷がいっぱいにかけられた。
「なぁにがひゃぅだよ。もう、いい加減にしろなんじゃネーノ!今何時だと思ってんだってーの!!」
「わ、ごめん!うるさくしすぎたみたいですね。もうやめますよ。
それにしったってこの寒い冬に氷水はきついですよ!」
この人は、僕の部屋の下に住んでいる、ユクリ・ユルス。
~じゃネーノが口癖な僕の幼馴染。
その彼の眉間がピクッっと動いたような気がした。
「ハァ!?テメェ、この一年前までは冬の海潜ってたんじゃネーノ」
「あれは、ついその場のノリでt…あ、今お客さんが来てるから、もう帰って下さい!」
僕はドアを閉めようとしたが、ユクリはそれを足で押さえた。
うぁ、ややこしいことになりそうですね。
はやく、帰さないと。
「へへ、お客さんとか言って、本当は女連れ込んだんじゃねーの?」
ユクリは部屋の様子を覗こうとした。
「ななな何言ってるんですか!?そんなことないですよ!」
「はは、お前は本当に顔にでやすいんじゃネーノ。もう、顔が真っ赤なんじゃネーノ。
そうか、お前もあの日以来もう彼女なんてつくらないと思ったが、やっぱり男なんだな」
ユクリは僕の肩に手を置いて嫌な笑みを浮かべ、うなづいていた。
僕はその手を払いのけた。
「もう、あの日の話はやめて下さい」
ユクリは少しびっくりした様子だった。
あの日はもう壊れています。
もう一度組み立てることなどできない。
「あぁ、ごめんなんじゃネーノ。
でもな、お前いつまでもあれを引きずって生きていくわけにはいかないんじゃネーノ」
「わかってます!わかってますけど・・・」
「よしっ!いいか?女ってのは家に連れ込んでそのまんまヤっちまえばいいんじゃネーノ。
特に酔いやすい女はやりやすいんじゃネーノ」
ニヤニヤしてる。
「なっ、ヤるって・・・。ったく、僕は君とは違います!」
酔いやすい・・・か。
あの子はどうだろう?
「まっ、がんばれよなんじゃネーノ。じゃな、よい夜を」
「な、何をがんばるんですかっ!?」
そう怒鳴ると彼はケタケタ笑いながら階段を降りていった。
僕は溜め息一つ。
「あっ!!!そうだ!俺の部屋下なんだから、あんましすごいことするなよ」
「だあああああぁーーー!!!だから、そういう事を言うのはやめなさい!!」
も一個溜め息。
僕はドアを開けて部屋に戻った。
「あはは!怒られてやんの~!」
彼女は僕を指さして笑っていた。
今度はこっちが笑いまくってますね。
「しー!!」
酔いやすい・・・。
ったく、ユクリに変な事言われたから意識しちゃうじゃねいですか。
「もう、あいつのおかげで酔いが醒めちまいましたよ。うひィ、寒い。
あいつバケツいっぱいに水かけやがって」
氷水はやりすぎですよー・・・。
うぅ、寒い。
「ねぇねぇ!まだあたし、あなたの名前聞いてない!!」
ほんと酔いまくってますね・・・。
僕はストーブに駆け寄り、スイッチを押した。
次に和室から毛布を出して包まった。
「あちゃ~、今度は君ができあがっちゃってるんですか。
教えてあげますけどちょっと声のボリュームを下げてください」
あいつにこれ以上、誤解はさせたくないですよ。
「は~い、わかりましたセンセー!」
元気すぎるほどの返事で結構ですね・・・。
はぁ、酔っ払いに常識は通じませんか。
「まったくもう、僕の名前は『ニコニ・スカイ』ですよ」
さて、酔っ払いにココアでも出してあげましょうかね。
僕は台所に向かった。
「あはは、ニコニコの空だ!!かわいい~」
彼女は無邪気な笑顔と一緒に僕を指さした。
―――笑う空。かわいい名前ですね。
あぁ、彼女も同じような事を言っていましたね。
ん?
何故でしょう?
ホワイスはさっきから引きつったような笑顔しかしてませんね。
「男に『かわいい』は失礼ですよ。
ま、しょうがないかもしれませんが」
できた。
「はい、ココアどうぞ。
もうお酒はやめておきましょうね」
僕はココアをテーブルに置く時、気付かれないように彼女の顔をしっかりと見た。
彼女は体全部が白くて、目はうすいルビー色。
やっぱり、かわいいですね。
じゃなくて・・・。
はぁ、一体僕は何をしたいんでしょうか?
あ・・・。
傷が見える。
口のあたりに良く見ないと見えないけど、確かにその傷はあった。
気付けば、傷はたくさんあった。
どれも何故か薄く透けた感じで見づらい。
彼女の引きつった笑顔はこの傷達のせいですか。
僕はテーブルの上に置いてある空き缶とまだ入っている缶をひっこめた。
「あぁ~!!あたしのおひゃけ返せ~」
ろれつまでおかしくなってますね。
あ、ぼぅっとしてる。
ん?何かにわかに笑っているように見えるのは気のせいですかね。
・・・・・・。
かわいいなァ・・・。
だ、だめです!
ったく、相手は酔っ払いですよ!
そういえばどうして彼女は一人であんなところにいたんでしょうか?
気がつけば時計は1を差していた。
「あの、質問があるんですが」
僕はついに尋ねてみた。
「んぅ~?何ィ~?
このしぃセンセーに何でも聞きなさい」
そうだ、どうして僕は気付かなかったんでしょうか・・・。
額に汗が吹き出るのを感じた。
「あなた何歳ですか?」
「ん?あたし?あたしは19だよ」
一瞬僕は意識が遠のいていくような気がした。
じゅ、19ゥ!?
うあー、僕はなんてことをしてしまったんでしょう・・・。
はやく、はやく家に帰さないと。
「だだだだだめじゃないですか!!
まだハタチでもないのにお酒なんか飲んで!!
それに家はどうしたんですか!?
女の子がなんであんなところに一人でいるんです!?」
わわわ、こりゃ酔ってる場合じゃありませんよ。
でも、どうしてあんなところに一人でいたんでしょうか。
親との喧嘩で家出か、それか他になにか原因が・・・。
僕はその場を行ったり来たりした。
どうやっても考えがまとまらない。
「あたしの・・・おうちはダンボールよ。
ちゃんと入ってたでしょ」
ダ、ダンボール!?
たしかに入っていましたたけど。
いや、別にしぃが箱に入ってることはおかしいことじゃないんですけど。
この真冬にダンボールですか!
僕は頭を抱え、その場に座り込んだ。
「じゃあ、親は!?」
僕は少し苛立ちを込めて質問した。
「お母さんもお父さんもいないわ。
生きてるのか死んでるのかもわからない。
お願い、このことについてはもうこれ以上聞かないで」
彼女はとろんとした目のまま少し顔を歪めた。
何かを思い出そうとしているかのように。
それにしても身寄りがないとは。
これからどうしましょう。
ここにおいてあげましょうか。
いや、それはダメです。
男の僕がいつ何をするかわかったもんじゃないですからね。
でも、真冬の外に彼女を捨てるわけにもいきません。
あぁ、どうしよう。
彼女はとうとう俯いてしまった。
「プファ~!やっぱしお酒はおいしいね!」
泣いているかと思ったのに彼女はお酒を飲んでいた。
僕がお酒を下げる前に隠し持ったらしい。
「∑あっ、まだ持ってたんですか!
もう年齢関係無しに飲みすぎですよ!」
僕は彼女のお酒をひったくった。
振ってみるともう半分以上も無くなっていた。
飲むの早っ・・・。
「ああああ!!!!」
彼女は驚きの声を上げた。
僕はひったくったお酒の残りを飲みほした。
もう、これ以上お酒を飲ますわけにもいきませんしね。
「ふ~、ご馳走様」
あ、間接キス・・・。
うぁ、僕は何を気にしてるんでしょうか!
小学生じゃあるまいし・・・。
僕は顔が火照っていくのを感じた。
お酒のせいですよ。
「お風呂は要ります?酔ってる人一人じゃ危なっかしいですけど」
僕は赤い顔を隠すように風呂場のほうを向いた。
女の子ですし、お風呂入りたいですよね。
「入る入るぅ~」
彼女はふにゃふにゃした返事を返して、よろよろと立ち上がった。
あぁ、もう、ほんっとに危なっかしいですねェ・・・。
あっ、危ない。
彼女が僕に覆いかぶさってきた。
どうやれば何も無いところで転べるんですか・・・。
「わ・・・」
声を上げたのは僕のほうだった。
普通こういうところでは女の子のほうですよね・・・。
何で僕はこんなに女々しいんでしょうか。
「こ、こらっ、危ないじゃないですか!」
「へへ~、ニコニくんってあったかいね」
彼女は起き上がることなく僕にひっついている。
ああ~!!また、顔が赤く・・・。お酒のせいです。お酒のせい!
僕はひっついている彼女の顔を見た。
とろんとした目が僕を見つめている。
か、かわいい・・・。
だああ!しつこい!!
あ゛、まずい・・・。
僕は下半身に目をやった。
まずいまずいまずいまずい!
おさまれおさまれおさまれおさまれ!!
「あ、顔赤いよ」
「そんなことありません」
バレた。
でもまだ下のほうは・・・。
大丈夫みたい。
僕は天井のほうに目をやった。
どうしよう・・・。
ひとまずお風呂ですね。
「これじゃあ、お風呂はだめですね」
「ええ~」
当たり前ですよ。
こんなによろよろだったら、お風呂の中で沈んじゃいます。
「ええ~、じゃありません」
僕は起き上がった。
彼女はとろんとした目のままその場に座っている。
もう2時ですか。
そろそろ寝ますかね。
「さてと、僕はそろそろ寝に行きます」
今日は近くの公園でいいか。
僕は玄関のほうに足を進めた。
「布団のほうはもう和室にひいてありますから、じゃあまた明日」
きっと外はものすごく寒いですよね。
「え?どこに行くの?」
彼女は少し驚いたように尋ねた。
「どこって、女の人と一緒に寝るわけいきませんし、今日は外で寝ますよ」
ドアを開けた。
うひィ、寒い!
外で寝れますかね・・・。
明日には死んでるかな。
「だめだよ、外なんかで寝たら風邪引いちゃう」
彼女は立ち上がってこちらに近づいてくる。
僕は彼女を冷やさないようにドアを閉めた。
溜め息一つ、白い煙になって消えた。
「僕があなたを襲うかもしれませんよ」
彼女の顔は何故か見ることができなかった。
あの日と同じような1シーンだから?
それとも子猫のような彼女が今にも泣き出しそうだったから?
「いいよ」
彼女が言った。
僕は振り返った。
顔が真っ赤だ。
「い、いいってだめですよ!」
何を言ってるんですか!
そんなのだめに決まってる。
理由はないがだめだと決まっている。
「どうしても外で寝るって言うならあたしが外で寝る!」
彼女は言い張った。
どうしましょう。
「他人のあなたを外で寝させるわけにはいきませんしね」
そうだ、僕がなにもしなければいいんです。
ん?どうしたんでしょう?
彼女の顔が赤くてどこかふらふらした様子だった。
どたっ
次の瞬間、彼女はその場に倒れた。
「ぅ・・・ぁいたい」
急性アルコール中毒ですか!?
まさか、そんなことはないだろうけど・・・。
でも、倒れるなんて。
「ギャー!何やってるんですか!!?」
彼女はぴくりとも動かない。
どうしましょう!!どうしましょう!!
呼吸はしてる。
大丈夫、生きている。
「ちょっ、ねぇ!大丈夫ですか!?おーい!」
呼んでみた。
返事はない。
額に手を当ててみた。
わ、熱っ!
どうやら、熱で気絶しているらしい。
あの日は今日の丁度一年前でしたっけ?
ふと、そんな考えが頭をかすめた。
今はそんなこと考えている場合じゃない。
彼女を抱きかかえ、ぼくは和室に向かった。