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空を見る。
ふと、彼の事を思い出した。
そこまで、親しかったわけではないが。
あの時だけは、彼と共にその刻を感じた。


──あの時だけは。



「何をしているんだい?」
「君は?」
「……僕はモララー」
「ああ、あの。僕はモナー」

彼が、にっこりと微笑んだ。
あの、とは何だと、僕は少々ぶっきらぼうに尋ねた。

「君は有名だモナ。アイドルなんでしょ?」
「望んでなったわけじゃないからな」
「それでもいいモナ。少なくとも、君は今不幸じゃない」

彼が、空に視線を戻した。
僕は確かに、俗にはアイドルと呼ばれている。それでお金も貰っている。
しかし、それは物心ついた時からやらされていた事で、望んでいるとは言えない。
それでも僕がやめないのは、僕の収入が家計を支えているのは明らかであるし、
女手ひとつで育ててくれた母にも負担をかけたくないからだ。

彼は少し寂しそうだ。
僕は彼の事を知っているわけではない。
だから、何故彼がそんな顔をするのか分からない。
それでも、空が彼にそんな顔をさせているのだろうとは薄々感じていた。

「空が嫌いかい?」
「どうしてモナ?」
「寂しそうにしているから」
「……そう?」
「僕は普段の君を知らないけれど、
 少なくとも、今の君は誰がいても寂しそうな顔だと思うだろうさ」
「……そうかもしれないモナね」

彼はそのまま、苦笑いをした。
立っているのに疲れた僕は、彼の隣に座り込んだ。

「……聞いてくれるモナ?」
「聞くだけなら、やってあげないこともないからな」
「……ありがとう」

彼はそっと語りだした。


────猫をね。飼っていたんだ。
  よくある事モナ。つい最近、死んだんだよ。
  あいつは空が好きでさ。
  出掛けたりしない日は、一日中でも見てたモナ。
  あいつが何を見つめていたのか、モナには分からないけれど
  あいつと同じように、空を見つめていたら
  モナにも何か見えるかな、と思うんだモナ。



「……くだらないモナ?」
「さぁ。僕にはそんな経験は無いから、よく分からないけれど」
「ありがとうモナ。聞いてくれて」
「……空が」
「え?」


空が、青かった。
当たり前のことだとは思ったけれど、
それが、彼の話を聞いた後に
とても特別に見えた。

「青いね。」
「空が、青いモナ」
「当たり前だけどな」
「……あいつには、青く見えていたのかな」
「……さぁ」

彼はそのまま、静かに涙を流していた。
空を、見つめていた。




──今更、何を思い出しているんだろう。

空を見上げた僕は、自嘲気味に笑みをこぼした。

「あなたーっ」
「パパーっ!」
「……あぁ。今行くよ」

彼が今、どこで何をしているか。
僕に知る術はない。
けれど、彼はきっと今でも。
あの空を見上げているのだろう。











──fin.

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