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他八一家小説 『嫉妬』 (青桜)

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匿名ユーザー

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その美しい水色の瞳に映されるのは、薄い藍色と金色と。



     嫉 妬




― マターリ板へ散歩に出掛けたきり戻ってこない『彼女』の事が気になり、『捜してくる』とエーに伝えるとその返事も訊かずにタカラは家を飛び出した。

ナンパされて断ることができずにどこかへ連れて行かれたのかもしれない。いや、もしかしたら散歩の途中で事故に遭ったのかもしれない。
不安が次々と頭を過ぎり、そして消えていってはまた過ぎる。
傍に彼女がいないだけでこんなにも不安に思ってしまうなんて。タカラは歩道の隅に置かれていたゴミ箱を蹴飛ばしてしまった事にさえ気付かずひたすら走り、あちこちを見回して彼女の姿を捜した。


女の子なのに、茶色の体に痛々しい無数の傷。
それでもその透き通った水色の瞳は、他の誰よりも綺麗に思えた。その瞳に自分の姿が映っているのか時折不安になるのは、自分の体が彼女の瞳と同じ色だからなのか。


走りながら、タカラは無意識のうちに自分の掌を見つめていた。













―― もうじき、日が暮れる。


ディはオレンジ色に染まっていく空をただボンヤリと見上げていた。背中に感じるざらざらとした土と小石の感触は、もう気にならない。だがその倍以上、ずり落ちた際挫いた足首が痛い。

綺麗な花が咲く平原で、特に何処も危険な場所はないだろうと思い込んで歩き回っていたら、運悪く結構急な傾斜地から足を滑らせて落ちてしまったのだ。
馬鹿だなぁと自分を責め、動くことも上ることもできずディは再び溜息をついた。それに、先程摘んだこの可愛らしい花を土で汚すのは嫌だ。
皆心配しているだろう…。ディは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


声を出せば、誰か来てくれるかも知れない。その考えが浮かんだのは落ちてから数分も経っていない時で。それでも、落ちた時何度も叫んでは見たが誰も返事をしてはくれなかった。
でも今ならと、ディは普段の倍以上に声を張り上げ、助けを呼んだ。

「アノ、誰カ!誰カソコニイマセンカ!?」

普段こんな大声を出すことは滅多にないから恥ずかしい気もあったが、今はそんなことを思っている場合ではない。このままここで夜を迎えるのは絶対に避けたい事である。
少し間をおいてから、ディは再び口を開いた。



『― 誰かそこにいるのですか?』


低い声。でも、はっきりとした男性の声。
ディはドキリとして閉口したが、空耳ではなかったようだ。ホッと息を付くとすぐに声を張り上げた。
「滑リ落チテシマッテ…ソノ、足ヲ挫イテ動ケナインデス!」
『分かりました。少しお待ち下さい…!』

語尾に勢いを付け、声の主は足下の草をガサッと揺らした。
その音はディにも聞こえていた。何をするのかと必死に上を見上げていると、いきなり体に何かの影が覆い被さった。逆光でその姿をしっかり目に映す事はできなかったが、金色の優しく力強い瞳だけは一瞬だが見えた。


影はディの目の前にトスッと着地し、ゆっくりと立ち上がってディの姿を瞳に映す。普段はあまり会うことはないが見覚えはあるその人物の名を、ディは思わず言葉にしていた。

「偽モナ、サン…」
「足を挫いたと、先程おっしゃっていましたが…見せてもらえますか?」
「………ア、ハイ…」
鈍痛が走るその足首を、そっと偽モナーの前に出す。

赤く腫れているディの足を暫し見つめていた偽モナーだが、ふと思いついたようにコートのポケットからハンカチを取り出した。
彼女の足首の周りにうっすらと付いている泥を自らの手で払うと、偽モナーは汚れがそれ以上付かないようにハンカチをディの足首に巻き付けた。少し強めに、しかし痛くないよう、優しくゆっくりと。
ディはただその彼の姿を、水色の瞳に映していた。

「…はい、OKですね。あとは家に帰って消毒を…」
「……アリガトウ、ゴザイマス…」
大した怪我でなくて良かったというように、偽モナーは目尻を細めてディを見つめた。
その笑顔は、自分が一番気に掛けている誰かの笑顔と、少しだけ似ていた。


「…さて、これくらいの傾斜なら上れますかね…。…はい、負ぶさって」

当たり前のようにディに背を向け、負ぶさるように言う偽モナーの姿を暫しボンヤリと見つめていたディだが、はっと我に返ると慌ててその背中にしがみついた。
少し痛みが走ったが、そんな事気にならない。ただ、足首に巻かれたハンカチが妙に暖かく、心地よかった。
上る、ということなら両手を使うのだから、腰を押さえてはもらえまい。ディは偽モナーが苦しくならないよう首の下に両腕をかけ、ずり落ちないよう力を入れた。

「そうですね、そうしてもらえると助かります。上りきるまで今暫しお待ちを…」

無言でコクリと頷くだけだったが、偽モナーには充分伝わったようだ。出っ張っている大きめの石に手を掛け、身軽にヒョイヒョイと岩肌を上り始めた。
人一人背負っているのだから、それなりに辛いだろうに。ディは不安になってぼそぼそとそう訊いた。
「アノ、重クナイデスカ…?」
「大丈夫。心配御無用ですよ」

その顔は見せないが、多分また笑ってくれているのだろう。ディは偽モナーの肩に頬をくっつけ、楽な姿勢を取った。ぷらりぷらりと左右に揺れる自分の足首に巻かれた白いハンカチを瞳に映し、その後はただ一言も喋らず何もしようとは思わなかった。


この人は、どうしてこんなに優しく、あの人に似ているのだろう。
体の色は違うし、性格も…『百合』だけど、なのにどうしてか、彼の姿と被さる。
優しい微笑みと、自分を見つめる瞳の柔らかい輝きが。

ディは気付かれないよう目だけ動かし、偽モナーの顔を見つめた。
オレンジがかった金色の瞳。薄い藍色の美しくも儚げな体の色は、夕日の色に染められていた。










― 綺麗な花が咲く平原。

こんな場所があったっけ…と、タカラは暫く水色の瞳にその景色を映していた。
ぼ~っと平原に足を踏み入れ、小さく可愛らしい花を踏み潰さないよう気を遣いながらゆっくり歩く。


その瞳に人影が映ったのは、左右を見回し終えて再び正面を向いたまさにその時だった。


「…っえ、ディさ……」
もしや、と思い人影に走り寄る。
だが、数歩近寄った所でタカラの足は止まった。

彼女の背中と膝下に置かれた、薄い藍色の手。
普段はあまり会うことのない背の高く、そして結構声が低めの、『彼』。
世間じゃその抱き方は一言でいってしまえば『姫抱き』と呼ばれている事は当然タカラも知っていた。そういうことなら、当然『この男』も知っている筈。

「…偽モナさん、どうして……」
「グッドタイミング、というものですね」
にこっ、と笑いかけるその笑顔を、初めて憎いと感じた。
自分と何一つ変わらないその笑顔を、初めて『ウザイ』と感じた。失礼だと分かっていながらも。
ディはディで大人しく偽モナーに抱かれたまま、無表情でこちらを見つめている。



―自分だって、彼女の頬にさえ手を触れた事がないのに―



「タカラさん、後はお任せしますね。私はこれからバンドのメンバーと打ち合わせをしなくてはならないので」

急いでいるような口調なのに、何とものんびりしたその動作にディははっと偽モナーを見上げる。
もしかして、打ち上げを延ばしに延ばして自分を捜しに来てくれたのか、と。
誰かが自分のことを話しているのを訊いて、あちこち捜して回っていたのか、と。

「…偽モナーサn」
「はい、じゃ後よろしく♪」
偽モナーがじっと自分を見据えている事に気付き、タカラは慌てて頷くと背を向けた。
無意識に『おんぶ』という方法で彼女を運ぼうとしてしまった事に少し後悔を感じたが、そんなこといったら何かいろいろ怒られそうだから、と心の中で呟くだけにする。
ゆっくりとタカラの背中にディを負ぶわさせると、偽モナーは二歩離れて再び微笑した。

「では、私はこれで」
軽く一礼し、急ぎ足でタカラのすぐ傍を通り過ぎていく偽モナーを、ディはぼんやり見つめていた。



―僕の方を見てくれる事は、ないのかと。



タカラの寂しげな心境に気付くことなく、ディはその目の前に立つその『本人』に渡す小さな花を、ただ握りしめていた。



これだけ彼に嫉妬したのは、初めてだった。


―End・・・―

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