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他八小説 『想い』(青桜)

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匿名ユーザー

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※『黒百合』『嫉妬』から少し話を引っ張ってますので、これを読む前に『黒百合』と『嫉妬』を先に読まれた方が話が繋がるかと思われます。でも『連載しているわけではない』ので誤解しないでください。

――――――――――――――――――――――――・




鶏小屋の前で何やらもそもそ動いている偽モナーの姿を見つけ、こそこそと近寄る。幸い向こうはこちらの様子に気付いていないようだ。背後に立っても振り向く様子は皆無。
ふぅ、と溜息をついた直後、テナーはガバッと偽モナーの両腕を掴んで無理矢理立たせた。
「ちょ・何をするんですかいきなり!?」
「お前まぁた妙なもん生産しているんじゃねぇだろうなァ?」

百合パイの木やら、胴無しカボチャやら、マンドラゴルァやら…偽モナーの作る野菜はシュール系で不気味なものばかりだ。
それでも味は良く本人も料理が上手な為普通に食べれるのだが、喰わされる側としてはその秘密を教えられるとたまったものではない。勿体ないとは思いながらも今すぐ生ゴミに出したい気持ちだ。
「失敬な!妙なものとは何ですか。丹誠込めて作り上げた野菜ですよ?」
「お前の場合存在自体が妙だからな。お前が野菜を作るとそれに性格が移っちまうんだよ。」
「っえ、何もそこまで言わなくても…」
テナーの言葉は偽モナーの胸にズドンと突き刺さったらしい。何時もの如くいじいじと土を指でいじり始めた偽モナーから一旦目を逸らし、テナーは何気なく塀の向こうへ体を向ける。


途端、テナーはピタリと固まった。
ふと顔を上げた所石像のように固まるテナーを不思議に思い、偽モナーも立ち上がって土を払いながら塀の向こうへと目をやった。



茶色で傷だらけの体。水色の美しい瞳。パタパタと尻尾を振りながら、手に持っている灰色の紙袋をしっかり抱く。ガサ、と音を立てて彼女の胸に顔を埋めるその紙袋から、クリーム色のコートのようなものが顔を覗かせていた。
二人とも自分に気が付いたことを確認し、彼女は深々と頭を下げた。

「ディさん…?」
「アノ…偽モナサン、チョット話ガ……」
昨日会ったといえば会った人なのだが、特に何か大切な話題を振った訳でも約束事をした訳でもない。テナーの視線を感じつつ、偽モナーはこそこそと表玄関の方へ回ってディの元へと早歩きで歩み寄っていった。













「昨日ハ、アリガトウゴザイマシタ。」


ベンチに座ったままペコリと頭を下げるディを見つめ、偽モナーは目尻を細めてあの時と同じ屈託のない笑顔を見せた。
「いいんです、って。当然の事をしたまでですから」
「デモ、オ礼ガシタカッタンデス。…アノ、コレ…受ケ取ッテクダサイ。」

抱くようにして持っていた紙袋を自分と偽モナーの間に置き、ディは袋の口をガサガサと開き始めた。先程チラリと見えたクリーム色のコートと、それにくっついて取り出した際ひらりと膝に落ちた、白いハンカチ。
自分のものだと分かるまでにそれ程時間は掛からなかった。土が少し付着したから、わざわざ洗って綺麗にして返そうとしてくれたようである。
偽モナーはそれを徐に拾い上げ、ディに一礼してそれをコートのポケットに入れた。

「…このコートを私に、ですか?」
「ハイ。…偽モナサンノ笑顔、凄ク優シクテ柔ラカクテ…丁度、コノクリーム色ミタイナ感ジニ見エテ…」
最後の方はぼそぼそと小声で聞き取りにくかったが、目と鼻の先ほど近い位置に座っている偽モナーには充分聞こえていた。

恥ずかしそうに俯くディをフォローするように、偽モナーは微笑しながら何度も頷いた。
「それで、私の笑顔と同じ色のコートを、探し出してくれたのですね?」
「…ハイ……」

クリーム色のコートを受け取り、偽モナーは立ち上がってそれを掲げてまじまじと見つめた。


柔らかい、優しい色合い。重くもなく軽すぎず、丁度もう一着コートが欲しかった等と考えていた偽モナーにとっては理想そのものだった。今着ている黒いコートを脱いでベンチに置くと、偽モナーはそのコートに腕を通してみた。
すんなりと腕が入り、きつくもなく大きすぎない。軽くてサイズもピッタリだ。

「…あぁ、これはいいですねぇ……」
「気ニイッテ頂ケテ嬉シイデス…」

ほっと溜息をつき、ディは嬉しそうに微笑んだ。だが、その何処か寂しげな表情に偽モナーは目を細める。
ガサガサと紙袋を畳んでいるディを瞳に映し、暫し腕に通したそのコートを見つめる。確かに、自分が来ておかしいという色合いでもないし、寧ろ似合っているのかもしれない。けれど、




「…有り難いのですが、受け取れません。」



途端、ディの表情が少し揺らぐ。不安そうな顔つきに変わり、けれど必死にその感情を出さないようこらえているのが丸分かりだ。立ち上がって偽モナーに近づき、コートを触ってきつく感じる場所があるのかどうかを必死に確認するディを、偽モナーはただ微笑んで瞳に映していた。

「ドウシテデスカ?…アノ、コノ色…オ嫌イデスカ?」
「いえいえ。ディさんが私目のために用意してくださったこのコート、私は好きですよ」
「ジャア―」 「けれど」
言いかけたディの唇に指を置き、偽モナーはただその微笑みを消さずに静かに言った。



「そのコートを渡すべき相手は、私ではありません。」


はっと目を見開き、ディは偽モナーの金色の瞳を見つめ返した。
ただただ微笑んで自分を目に映す偽モナーのその笑顔は、昨日見たものと全く同じで。
けれど、どこか、どこかで見たことのある、優しくて柔らかい笑顔。

この人と同じように、全く笑わない自分を気に掛けて何時も微笑んでくれている、『彼』の笑顔。


「お礼のお気持ちだけ受け取っておきますよ。…貴方の事を心配してくれている方々はたくさんいます。しかし、その思いよりも強く逞しい『想い』を秘めて、貴方を見てくれている方は、貴方のすぐ傍におられる筈です」
唇に当てられた指が、ほんのりと暖かい。
ディは大人しく偽モナーの言葉に耳を傾け、その指を払おうとはしなかった。
少し経って、偽モナーはディの唇からそっと自らの指を離した。

「……このコートは、その方にこそ相応しくお似合いなものです。…それは貴方も、分かっている筈…」

コートを脱ぎながらそう呟くように一言言うと、偽モナーはディに再びコートを戻した。
ベンチに戻って黒いコートを羽織り直す偽モナーをじっと見つめていたディだが、手元にあるクリーム色のコートに視線を戻してそのまま色を見つめた。
クリーム色。優しくて柔らかくて暖かい、あの人の色。



「…アノ」

ぽつり、と口を開くディに気が付いていながら、偽モナーはベンチに置かれた紙袋を拾う姿勢でディに背を向けていた。
ぶるぶると震えるその体は、見えていなくとも大体感じ取れる。



「―――…本当ニ、……アリガトウゴザイマシタ。」


何時もの彼女とは違う、はっきりとした口調。
その一言が聞きたかったのだと、偽モナーはディと向かい合って微笑んだ。
「いいえ。」

ぺこっ、と頭を下げて、ディは踵を返して走り去っていった。








暫し、その場に立つ。
乾燥した風が頬に吹き付けていくのを感じながら、偽モナーは再び口を開いた。


「…追われた方がよろしいのではないですか?……タカラさん…。」


すぐ横目に見える草むらが、ドキリとしたように大きく揺らめく。同時にそこから一瞬見えた水色の耳を、偽モナーは見逃さなかった。だが、彼を草むらから引っ張り出そうともせず、出てこいと叱る気も持たず。
目を細めてディが走り去った方向を見据えたまま、偽モナーはそのまま続けた。

「…何を誤解していたのか存じませんが、彼女が思いを馳せているのは貴方だけですよ。……彼女は優しい人ですから、貴方が自分を好きになることはないだろうと今まで考えていたのだと勝手に推測してしまいましたが、……概ね、合っているのではないですか?」


暫しの沈黙の後、それは草むらから飛び出して偽モナーの前に立った。



水色の体。何時もと変わらぬ、笑った瞳と顔。
その瞳が不安げなのは、自分の体の色が彼女の瞳と同じ色で、彼女の瞳に自分の姿が映っていないからだと思い込んでいるからなのか。


「…偽モナさん、僕は……」
「私は彼女が好きですよ。ただし、ご近所の仲としてね。…まぁジーさんとカップル組めばそれ以上に百合という素晴らしい名の愛がわき上がります故、その水晶より美しい輝きに魅せられて好きにはなってしまいそうですg(ry」
云々かんぬん力説する偽モナーをただ瞳に映し、タカラは嬉しそうに頬を染めた。
「さっきディさんに言われちゃいましたけど、……ありがとうございますっ」
「……今のシーンは突っ込んで欲しかった…」
普段の調子と同じく沈みがちなオーラを放ちながら、それでもタカラの笑みに応えて微笑し返す。

「…さ、すれ違いになってしまいますよ。早く行ってあげなさいな♪」
「はいっ!」
力強く頷くと、タカラは頭を下げてくるりと踵を返し、先程ディが走っていった道と同じ道をしっかりと踏みながら、同じように走り去っていった。




― 一人になり、偽モナーはふぅと溜息をついた。

これだけ恋愛について考えたのは、今回が初めてだ。
ポケットに入れたハンカチを再び取り出して、広げてそれを見つめる。真っ白で、香水のような香りがふんわりと漂う。受け取るまで持っていたディの香水の香りが少し移ったのだろうか。
ただ二人が上手く行くことを祈って、偽モナーは空を仰ぐ。

水色の空は、二人と同じ色で偽モナーを見下ろしていた。



「百合厨は生涯一人の方がお似合いか。………なぁんちゃってe」
一人つまらない迷言を呟き、偽モナーはハンカチをポケットに戻して両手も突っ込んだ。
いろいろなCPというものがあるが、多分自分はこのままの方がお似合いなのかもしれない。
そう思うと、情けなく感じながらも少し、寂しい。

「…さ、帰って『しぃ見て』でも読みますかね………」

くるり、と向きを変えて歩き出す。
影は左側にうっすら浮かび、偽モナーと同じ動きをしていた。風でバタバタはためくコートをポケットに突っ込んだ手で押さえ、偽モナーは目に埃が入らないよう姿勢を低く保つ。
何となく、責任重大な一仕事を終えた後のサラリーマンの気持ちが良く分かったような気がした。




『偽モナーさんっ!』


ふ、と足を止める。女性の声に少し驚いたが、偽モナーは表情を一つ変えずに声のした方向へと体を向けた。真横、というわけではなくて、正面より少し斜め右の方向。
親しげに手を振ってくれたのは、パーマがかかった黒髪が美しい、あの ―

「ブラックレモナさん…!?」
「偶然ですねw私もこれから帰る所なんですよ」
帰る途中で自分の姿を見つけ、わざわざ走ってきてくれたようだ。
息を上げて方を上下しているブラックレモナを見て、偽モナーは小さく笑い声を上げた。
「途中まで一緒に帰りません?あ、私もこれ、買っちゃいました♪」

言いながら、ブラックレモナは手にぶらぶらと持っていた紙袋から一冊の雑誌を取りだした。
それは、自分が発売日を調べて揃えている『しぃ見て』の雑誌。どちらかといえば女性用の雑誌でもあるためブラックレモナが持つと凄く自然に見える。



まさか、と思いつつ、その考えを心の中で自分自身に問う。

それは、自分と会話をする際話を合わせる為に、買おうと思ってくれたのか、と。





「…んなわけないです、よね…」
「はい?」  「あぁ、いえいえ。何でもないです。」


人には人の『想い』がある。自分には自分の、『想い』がある。
自分に笑いかけてくれているブラックレモナを瞳に映し、偽モナーはほんのりと心が温まるのを感じていた。

「…帰りますか。」
「はいっ♪」




偽モナーの問いかけに対して、ブラックレモナはコクコクと頷いた。





 ―End・・・―

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