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FFAA Afterstory (美怜)

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 眩しい「破滅の閃光」の中、目を閉じたまま落下する黄色い猫型AA、ギコ。彼の胸には、つい直前まで彼の武器であった槍が突き刺さっており、それは彼の身体を貫通していた。幸いにして、急所は外れていたが。
まだ辛うじて残っていた意識の中、ギコは考えた。

 ・・・負けたのか・・・俺たち・・・

 あんな野郎に・・・負けちまったのか?

 あんな、あんな・・・彼女の身体を借りた、ヤツに・・・?

 ・・・・・・へっ、口ではあんな大それたこと皆で声そろえていってたが、実際にゃあ大した事無かったんだな・・・。

 ・・・そのツケが、これだ。

 待ってな、しぃ・・・今すぐ、会いに行ってやるからよ。抱っこでも何でもしてやるから・・・な。

『諦めてはなりません、哀れなる猫よ』

 ・・・え?

『君はまだ生きてるYO・・・でもこのままじゃ、死ぬのは時間の問題だNE』

 ・・・そうだ・・・俺は、もう死ぬ・・・皆の・・・彼女のとこに逝く・・・

『しかし、貴方はまだ死ぬべき方ではありません』

『君を救ってくれる偉大なお方がいらっしゃるんだYO』

 ・・・何だと?

『貴方はこのまま、地獄に落ちることをお望みなのですか?』

『そんなの、嫌だよNE?まだまだ、寿命ぎりぎりまで生きたいんだよNE?』

 ・・・そう・・・だ。

 こんなトコで・・・みすみす死ぬわけにゃいかねぇんだ。

『そう、それで良いのです。貴方は死んではいけない』

『決まりだNE。じゃ、僕達と一緒においでYO』

 信じて・・・良いんだな?

『我らが偉大なる神に誓って』

『保証はするYO』

 ・・・そうか、分かった・・・だが、如何すればそちらに行ける?

『今はそのままお眠り下さい』

『次目覚めれば、全部分かるYO』

 ・・・分かった

『ごゆっくりお休みなさい、迷える猫』

『あっちでまた会おうNE』



まだだ・・・

まだ・・・更なる力が要る・・・

やはり・・・行かねばならぬか・・・



死霊の山『カコログ』へ・・・



 巨大な鉄の塊の山にもたれかかり、まるで死んだようにピクリとも動かない、白い猫型AA・・・モナー。
「・・・うぅ・・・ん」
 やがて、モナーはうっすらとその細い目を開け、自分の白い体をゆっくりと起こし、辺りを見回した。
「ここ・・・どこモナ?2chシティじゃあ・・・ないモナ」
 モナーは、一面の荒野に座っていた。彼の丁度真後ろに、巨大な瓦礫の山。
「どうして・・・確か、モナたち・・・ナナシアに殺されたはずじゃ」

「だが、俺達は生き延びた。アークの自己防衛システムに巻き込まれた事によって」

 驚いたモナーが振り向くと、そこには自分と同じ細目で自分より少しだけ背が高い、黄緑色の猫型AAが立っていた。この非常時でも、脇に彼愛用のPCを抱えている。そして彼の言葉で、モナーは自分の後ろにある瓦礫が、飛空艇・アークの成れの果てだということを悟った。
「あ・・・兄者!」
「無事だったか、モナー」
 モナーの言葉で、兄者と呼ばれた黄緑の猫型AAは、微笑しながら言った。
「ここ、何処モナ?」
「俺にも分からん。だが、1つ言えるのは、ここが2chシティではないという事だ。・・・それと、1つ妙な事がある」
 モナーの質問にそれだけ答え、兄者はPCを起動させ、慣れた手つきでキーボードを叩きはじめ、やがて1つのプログラムを起動させた。
「それ、何モナ?」
「全生命体感知プログラム」
「ぜん・・・?」
「俺たちの半径十m以内にあるとおぼしき、この世界に生きる生命体なら誰でも体内のどこかにある『命の光』・・・要は、魂みたいなものを感知し、映し出すプログラムだ。俺たちAAは勿論、ごく小さい反応だが植物とか焚き火、水たまりや地面なんかでも反応する。機械とか、アスファルトじゃあそうは行かんがな」
 こう説明し、兄者は再びPCに向かい、やがてエンターキーを押す。画面に砂時計のアイコンと「検索中」の文字が映し出され、数秒後「検索終了」の文字が映り、画面が切り替わった。
「???」
「・・・やっぱりか」
 切り替わったPCの画面は、何故か真っ黒。モナーは驚きと訳の分からなさが入り混じったような微妙な表情をし、兄者は難しい表情をしながらそれだけ呟いた。
「な、何でモナ?ここ、一面の荒野だから・・・ええっと、地面の・・・命の光?が、感知される・・・んじゃ無いのモナ?」
「ああ、本来ならばな。俺が目覚めた時、どこかに同士がいないかと思って1度これを起動させてみたが、同じ結果だった。俺は丁度、ここの真裏にいたからな。俺の丁度真後ろあたりに、唯一の、つまりお前の『命の光』の反応があったわけだ」
 兄者が説明したが、彼とは違って機械にも頭脳にもとりわけ詳しくないモナーにとってはちんぷんかんぷんだった。
「えぇっと、つまり??」
「まだ分からんのか?もう結論しか残ってない」
 混乱するモナーに向かって呆れながら言った後、兄者は宣言した。



「ここは、言ってみれば…死者の国とでも言うべき場所なんだ」



「・・・ぅ」
 どこか、薄暗い部屋の中。不思議な夢からようやく目が覚めたギコは、うっすらと目を開け、ゆっくり身体を起こした。
「此処は・・・」
「やっと起きたNE」
 見慣れない風景に戸惑う彼の耳の中に、突然飛び込んできた声。そちらに顔を向けると、黒いパッチリした瞳におちょぼ口、深緑色の身体をした猫型AAが立っていた。
「運が良かったNE。刺さってたトコがあと数センチずれてたら、君、即死だったYO」
 やや調子はずれな口調で言い、その猫型AAは何かをギコに投げてよこした。ギコの槍だった。先端に、少し血がこびりついていた。
「頑張って洗浄してみたけど、あんまり綺麗にはならなかったYO」
「ああ、サンキュ・・・アンタ、何者だ?」
「あ、ゴメンNE。僕は、ボルジョア=フュエル。ぼるじょあで良いYO・・・君WA?」
「フュエル・・・煽りか。なんとも物騒な名前だこと・・・俺はギコ。ギコ=ハニャーン」
「へ~ぇ、なかなか可愛げのある名前だNE」
 ぼるじょあと名乗るそのAAは、名乗ったギコを茶化すように返答した。少し顔をしかめたあと、ギコは不意に思い出した。
「・・・あ、そういやお前、夢に出てきた。丁寧な口調した奴と一緒に、死にたくないなら僕達と一緒に来い、みたいなこと言われた」
「あるぇ?夢だって思ってたNO?」
 ギコの言葉で、ぼるじょあは目を丸くし、言った。

「まっさか、現実に決まってるじゃないKA」

「・・・何だって!?あの声は現実なのか!?俺はお前らの仲間になんなきゃいけないのか!?」
「それは君が決める事だYO。時間はたっぷりあるから、それまでに決めると良いYO」
「・・・わ、分かったよ」
 ぼるじょあの言葉を渋々受け入れ、ふと気がついたギコは再び質問した。
「・・・あ、そういえばもう1人いるんだろ?そいつ、今どこにいる」
「もう1人ぃ?・・・ああ、ヤマザキのことだNE。彼ならぁ・・・」

「ちょこっと、お仕事中だYO」

 一方・・・此処は、2chシティの裏路地。
「い、い、嫌だ!!頼む、命だけは・・・殺すのだけは勘弁してくれぇ!!俺は、まだ・・・死にたくないッ!!」
「・・・何を今更・・・」
 紫色の亜人型AAの命乞いを冷たく返す、橙色に冷たい微笑をたたえた橙色の猫型AA。彼は自分の丁度胸の前あたりの位置に浮かぶ、デジタル回路で構成された具現化PCを操っていた。やがて、その電気的に作られたPCが、ぼうっと光る。猫型AAが呟いた。

「デジタル魔法『ウィンドウスラッシュ』起動」

 すると、突如としてPCの画面部分から亜人型AAに向かって、巨大な『窓』が勢い良く振り下ろされた。断末魔をあげる暇も無く、亜人型AAの身体はたちまちケーキでも切るかのように、さっくりと真っ二つになった。その場に真っ赤な血の泉が、亜人型AAの亡骸の断面から湧き出す。
 猫型AAはその状況をものともせず、再び具現化PCに向かう。やがてPC画面に『データ転送』と表示された。
「・・・ドクオ=チュウ=アオール・・・ふん・・・こんな愚かなAAに、「厨」「煽り」などという我らが代名詞たる偉大なる名前など、要るはずもありませんね。我らが神の糧となっていただきましょう・・・ん?」
 ふと、彼はPC画面の隅に目をやった。「新着Eメール受信」の表示があった。彼はすぐにメールの受信ボックスを開いてみる。

「ヤマザキへ 
 あの黄色い猫が目を覚ましたYO。ギコ・ハニャーンって名前だってSA。あはは、顔に似合わずなんとも可愛げのある姓貰っちゃったもんだよNE。彼に、あの夢での答えを聞くから、今の仕事が終わったらすぐ戻ってきてNE。
 ぼるじょあより 」

 その文面を、彼は満足そうに何度も頷きながら見つめる。やがて1人で語りだした。
「・・・そのような名なのでしたか。フム、本日のノルマが終わり次第、すぐに帰還するとしましょう。・・・我々の正体を明かし、それでもし・・・そのギコ・ハニャーンとやらが我々にたてつくようであれば・・・」

「彼も・・・われらが神・・・大天使ナナシア様の・・・存在意義の糧となっていただきましょうか・・・フフフ・・・」

 不気味に笑いながら、ヤマザキはその場から姿を消した。



「・・・おかしい」
 一面に広がる荒野の中ぽつんと1人たたずむ、紫色の身体に黒いパッチリした目、片手に黒い大剣を携えた猫型AA、モララー。
 彼はつい先ほどまでこの場所に仰向けに倒れていたのだが、やがて目覚め立ち上がった。そしてその直後、自分が立っている場所の異変にすぐさま気がついた。
「どうもこの辺りには・・・生気、ってモンが感じられないな」
 短い間だけとは言え、ナナシアの配下として彼に常人離れした精神力を賜った彼なら、すぐに分かる異変だった。自分の周りあるもの全てが・・・死滅している。しかしながら、存在している。・・・しかし、それらが存在していられるのは、きっと長くない。
 そう考えると、普段はあえて冷静沈着なモララーも、今回ばかりは背筋に寒気が走った。
 ・・・その時。

「怖いですか?・・・我らが大天使が統べる、この世界が」

 驚いたモララーが振り返ると、そこにはどこかあどけない微笑をたたえた青い猫型AAが立っていた。片手にテディベアを持った、小さい水色の亜人型AAのもう片方の手を引いていた。
「おっと、脅かしてごめんなさい。僕はタカラ=トイ=エンタープライズ。こっちはポロロ=アッペタイトです」
(appetite・・・食欲・・・か)
 モララーは突然話しかけてきた彼らにぎこちなく会釈する一方、頭の片隅でこう考えた。
「この子は歴代から食いしんぼでね。食べる事ばっか考えてたおかげで・・・会話能力が退化しちゃいまして。だからこの子は話せない。そこら辺、ご容赦下さい・・・ところで、君はなんていうんです?」
「・・・モララー・・・モラール」
 タカラという名らしい猫型の質問に、モララーは完結にこれだけ答えた。それから、尋ねてみた。
「あんた達、ここに来る途中で・・・黄色、白、黄緑の猫型AAを見かけなかったか?俺の仲間なんだが」
「?・・・いいえ。ぽろろ、何か知ってる?」
 タカラに尋ねられたぽろろは、首を横に振った。モララーはため息をつき、
「知らないなら良い。・・・それじゃ」
 こう言うと、タカラたちと反対方向に向かって歩き出した。その時。
「あ、待ってくださいよ」
「?」
 タカラに呼び止められ、モララーは少し首をかしげながら振り返った。タカラは少し不気味な微笑を作り、尋ねた。



「あなたの仲間のこと・・・聞いてみます?我らが存在を・・・そしてこの死霊の世界を統べる、大天使様に」



「ぼるじょあさん、ただいま戻りました」
「お帰りだYO~」
 部屋に入ってきた橙色の猫型AA・ヤマザキを、相変わらず間の抜けた声でぼるじょあが出迎えた。ヤマザキは近くの長いすに腰掛けるギコに目をやり、近寄った。
「ぼるじょあさんからのメールで伺いました。ギコ=ハニャーンさん、でしたっけ?私は、いわばぼるじょあさんのパートナー。ヤマザキ=ルイニングと申します」
「ruining・・・荒らし・・・」
「そう。ぼるじょあさんはfuel、すなわち煽り。それらがあるからこそ、我らが信仰し、敬愛する大天使の存在意義があるのです」
「存在意義ぃ?んなモン知るかよ・・・で、真っ先に質問したい事があるんだが」
 少しだけ表情を曇らせたヤマザキに鋭い視線を向け、ギコは尋ねた。
「ここは何処なんだ。あたり一面に嫌というほどまとわりつく瘴気・・・現実世界じゃない」
「ほほう、流石ですね・・・では、そこの窓から外を見て御覧なさい」
 言われるがままにギコが窓から顔をのぞかせると、そこは断崖絶壁であった。がけを覆う木々は全て枯れ木。眼下に濁った雲が一面に広がっていた。
「・・・山の・・・頂上?」
「そう」

「ここは・・・我らが名無しの大天使・ナナシア様が統べる、死霊の山・カコログ本山の頂・・・名無しの聖地、ホーリー・ネームレスなのです」

「・・・な・・・ん、だと・・・?」
 ヤマザキの口から開かされた真実に、ギコはただ絶句した。そして心の片隅に、再びナナシアに対する憎悪が・・・ふつふつと、甦ってきた。
 すかさずギコは立ち上がり、先ほどぼるじょあから受け取った槍を構えた。
「おやおや、なんとも身の程知らずな事を」
「せっかく治してあげたのNI、また大怪我するつもりなNO?」
「うるせぇ!!」
 茶化すように言う2人にこう怒鳴りつけ、ギコは静かに言い放った。
「・・・俺はしぃの仇の配下になんかなるつもりも、お前らに負けるつもりも・・・更々無い」
 ギコは血の上る頭の片隅で考えた。もし本当に自分たちがカコログに飛ばされたとしたら、それはおそらくナナシアの放った「破滅の閃光」の影響であろうと。しかし、それがアークに放たれる少し前、しぃはナナシアの閃光で、4人の目の前で弾き飛ばされ、夜の街に堕ちた。・・・この世界にも・・・彼女は、もういない。
「・・・我らが大天使を否定するとは・・・愚かな」
「・・・助けてあげたのNI、恩知らずだYO」
 思い思いの返事をし、2人も戦闘の構えを取ろうとした・・・その時であった。



「まぁまぁちょっと待ってくださいよお二人さん。大天使様のお膝元で戦うなんて、それこそ無礼なんじゃないですかぁ?」  



「・・・えーと、えーと・・・だからつまりー、えと・・・」
「・・・ま・・・お前のことだからすぐには分からんとは思ってたがな」
 場面は再びがれきと化したアークの側に戻る。
 兄者の出した答え「死の世界」に、頭の上に?マークを浮かばせながらしどろもどろになるモナー。その様子を呆れた目つきで見ながら、兄者はやはり呆れた口調で言った。
「簡単に言えば、2chシティとは全く違うプログラムの世界、という事だ」
「ぷろぐらむ・・・そんなもので出来てたモナ??」
「うむ」
 モナーの質問に軽く頷き、兄者はやや遠慮がちに説明した。
「お前らにはあまり言いたくなかったが・・・俺と弟者は、2chシティ管理人助手としてセントラルビルに勤めていてな。だから、一般人ならば平和な時は無論、先のような非常事態では入る事すら許されない2chシティの総合管理室にも入れたし、アークを起動させる事も出来たんだ」
「・・・そうだったモナか」
 兄者の説明に、モナーが感嘆の声を上げた。
「それで、プログラムがどうとか・・・って?」
「うむ」
 モナーの質問に軽く頷き、兄者は再び説明し始めた。
「この世界は、おそらく「生」の概念を取り払ったプログラムで出来ているようだと思う。当然、そのプログラムの中では生あるものは存在しないし、存在する事も出来ない。ゆえにこの様な生気の無い環境なのだ・・・しかしながら、俺らは生きている。ここにずっとそのままいれば、おそらくプログラムの食い違いによるバグが生じて、あぼーんだろうな」
「そ、そんな!!そんなの嫌モナ!!」
「俺だって嫌だ」
 思わず声を荒げたモナーを遮り、兄者は続けた。
「しかし、ここから2chシティに帰る手段が見つからない以上、ここにとどまらざるを得ないだろう。ギコとモララーも探さなければならんからな」
「う・・・じ、じゃあ、如何するモナ??」
 不安げに尋ねるモナーに、兄者は不適に笑うと、答えた。



「・・・プログラムを、書き換える」



「・・・タカラさん」
「今は無駄に体力消耗してる場合じゃないって事、大天使様のお膝元に1番近いお2人さんなら、最も分かってるはずでしょ?」
 顔をしかめながら呟くヤマザキに向かって言うタカラ。あの愛想の良い、少し胡散臭い笑顔は無くさず。その時。

「・・・! ギコ!?」

「うわゎ!何ですかぁいきなり・・・」
「!・・・モララー!!」
 タカラの身体を押しのけ、モララーが前に出る。彼の姿を見たギコが目を丸くした。
 モララーは彼に勢いよく駆け寄って、安心しきったように両手を握った。
「生きていたのか、良かった・・・てっきりナナシアに殺されてしまった物だと・・・」
「あぁ、こいつらに助けられた・・・が、俺は恩を返すつもりは無い・・・しぃの仇だからな」
 ギコが目いっぱい憎しみを込めたような口調で、静かに言った。
「しぃの仇?・・・となると、ナナシアの手下か」
 モララーの質問に、ギコは黙って頷いた。
「どうやら・・・そこの紫の猫も彼と同意権のようだNE」
「・・・良いでしょう、しばらく猶予を与えましょうか」
「「猶予?」」
 ぼるじょあに続いたヤマザキの言葉に、ギコとモララーがほぼ同時に聞き返す。ヤマザキは頷くと、語り始めた。

「既に分かっているでしょうが、ここは生ある者は決して暮らすことは愚か、存在する事すら許されない世界。しかし、1年に1度だけ・・・ここが『生の輝き』に満ち溢れる日が存在します。・・・それは、いよいよ・・・後24時間後に迫っているのです。
 大天使様は2chシティでもたくさんの力を・・・AAの名前から貰っています。AAたちの『生の輝き』を無くし、存在を消す事によって・・・でも、例え2chシティに住むAA全部の存在を消しても、大天使様は完全にはならない。だから、大天使様は明日に、この世界を完全に消し去られるおつもりなんですよ。我々が出るまでもなく、自らの手でね・・・元々この世界の環境には、大天使様のお力がまんべんなく降り注いでいる。たとい2chシティのAAどもを皆殺しにしなくとも、普通よりずっと霊力の高い、この世界の生あるもの全てを奪ってしまえば、大天使様は・・・完全なる復活を遂げます」

「「・・・・・・」」
 2人は絶句した。
 あの日、セントラルビル屋上で見せ付けられた力は、まだまだ未完全な状態であったのだ。
 もしも明日、ナナシアが本当に完全復活を遂げてしまえば・・・

 とても、勝ち目は無い。

「・・・24時間の猶予を与えましょう・・・答えによっては、あなた方の存在意義も危うくなってきますよ」
 ヤマザキが冷ややかに言った、その時。

「んん?・・・わぁ!非常事態だYO!」

 突然ぼるじょあが騒ぎ始めた。ヤマザキが怪訝そうに、タカラが首をかしげてそちらを顧みる。
「如何したのですか?騒々しい」
「何かあったんですかぁ?」

「カコログ具現化プログラムに・・・異常発生だYO」

 ぼるじょあの言葉で、ヤマザキとタカラの血の気がさっと引いた。
「なっ・・・何ですと!?」
「ちょっとちょっとぼるじょあさん!悪い冗談はやめてくださいよぉ!ここのプログラムにどれだけ複雑で、しかも強固なプロテクトがかかってるかは、僕らが1番良く知ってるはずでしょぉ!?」
「冗談なんかじゃないYO!早く復興しないと、大変な事になっちゃうYO!」
 嫌な空気を察しているのか、ぽろろがぎゅっとタカラの手を握る。タカラはそっとぽろろの前にかがむと、
「大丈夫、君の身の安全は絶対に保証するからね」
 そう言いながら、優しくぽろろの頭をなでた。
「さあ、早くプログラムを復興しなければ!お二方、良い考えを期待しておりますよ」
 呆気にとられたままその場に立ち尽くすギコとモララーにそう言い残し、4人はその場から足早に立ち去った。
「・・・何だってんだ、ゴルァ」
「・・・知るか」



 場面は再びアークの前に戻る。
「うぅむ、まずいな」
「?どうしたモナ?」
 PC画面を見ながらうなる兄者に、モナーが心配そうに問いかけた。
「どうやらプログラムにアクセスしてるのがばれちまったらしい。さっさと片付けなきゃな」
 そう言い、兄者は再びPCの操作を再開した。
「・・・」
 とりつくシマも無いほど、兄者は真剣な表情でPCに向かっている。
(大丈夫モナかね、兄者・・・理屈は分かるけど、カコログの具現化プログラムを書き換えてモナたち生あるものでも自由に存在できる環境にする、って・・・絶対、容易い事じゃないモナよね・・・モナなんかじゃ・・・絶対、足手まといモナ・・・)
 自分のふがいなさに思わず泣き出したい衝動をぐっとこらえながら、モナーは黙ったまま兄者を見守っていた。

 

 一方ヤマザキたち4人は、プログラム復興に総力を挙げていた。しかし、
「・・・これは・・・まずいですね」
「はい・・・異常を発生させた犯人、かなりのやり手と言えるでしょうねぇ」
「普通のAAじゃないYO・・・プロテクトが、次々と解かれていくYO」
 彼らは焦っていた。彼らが相手しているハッキングの犯人・・・すなわち兄者が、かなりのペースでプロテクトを次々と解除していくのだ。
 やがて、ヤマザキは決意した。
「こうなったら、徹底的にハッキングの犯人をつぶしましょう。タカラさん、ぽろろ君と一緒に向かいなさい・・・私はぼるじょあさんと一緒にプログラム復興に全力を尽くしますゆえ」
「は、はいです!」
 ヤマザキに命じられたタカラが慌てて一礼する。それからタカラはふとぽろろのほうを見、言った。
「さぁてと、久々の仕事ですねぇ・・・・さあぽろろ、ご飯の時間だよ」
 こう問いかけられたぽろろは、嬉しそうに頷いた。



「・・・もうすぐだ・・・もう少しで、プロテクトは全部解ける!そうなれば、後はこっちのモンだぜ」
「・・・・・・」
 兄者は確かな手ごたえを感じていた。が、モナーは暗い表情のままだ。
 やがて、モナーは心配そうに言った。
「・・・でも・・・ギコは、あの時・・・ナナシアに」
 モナーの脳裏に、あの忌々しい光景が甦った。



「・・・バイバイ・・・ギコクン」



 しぃの身体を偽った『奴』が、大事な戦友を・・・殺した、あの光景を。



「そんな・・・ギコが・・・!」
「っ!いかんっ!!」
 モララーの絶望の呟きに続いて、兄者が叫んだ時には、時すでに遅し。

 化身を解いて夜空へ舞い上がったナナシアが、破滅の閃光をアーク目がけて放っていた。

「・・・ッ・・・ギコぉぉぉぉーーーーーー!!!!!!」



 自分の絶叫が、モナーが2chシティにいた最後の記憶だった。



 今にも泣き出しそうなモナーを見た兄者は少し表情を曇らせると、説明した。
「・・・あくまでも俺の過程だが、あの時ナナシアが放った破滅の閃光によって何かしらの異変が起き、ここに来る手段が出来た。それにアークが巻き込まれた・・・。ここが死者の世界という事を考えれば、どっちにしてもギコはいると思う」
 モナーは黙ったまま、あいまいに頷くばかりであった。
 ・・・その時。

「やっと見つけた。ハッキングの犯人さん」

「「!?」」
 驚いた2人が顔を上げる。タカラが、ぽろろの手を引きながら立っていた。
「悪いですけど、時間が無いんで・・・タカラ=トイ=エンタープライズ、ならびにポロロ=アッペタイト・・・ハッキングの犯人は、僕らの手で始末しちゃいます」
「「・・・」」
 身構える二人を見据えながら、タカラはそっとぽろろの背中を押した。・・・次の瞬間。

 1匹の亜人型AAは・・・2人の目の前で、変革を遂げた。

「「・・・!!??」」
「どーですどーです、この雄雄しくも神々しい姿!子供とは思えないでしょ??」
 もはや原型すらもとどめていない姿を前に、2人はただ絶句するばかり。タカラは誇らしげにこう言った。
「ほらほら、ぼやぼやしてるとプログラムが復旧しちゃいますよ?」
 はっとした兄者が慌ててPCを見る。ようやく解けかかったプログラムが、既に半分近く回復していた。
「っ、まずい!」
 慌ててPCに向かう兄者。その様子を見ていたモナーは立ち上がると、
「・・・兄者」
「?」
 顔を上げた兄者に向かって、モナーは何時に無い真剣な表情で言った。

「あいつは・・・モナが引き受けるモナ」

「なっ・・・本気か、お前!?」
「本気モナ。モナ、これまで嘘ついたことは一切無いはずモナよ?」
 思わず声を荒げる兄者に向かって、モナーが言い返した。
「モナが戦ってる間に、兄者はプログラム改造に全力を挙げれば良いモナ。それが終わったら、加勢して欲しいモナ」
 モナーの言葉で、兄者はしばらく押し黙っていたが。
「・・・・・・・・・くたばったら、承知しないからな」
「了解モナ!」
 観念したらしい兄者の言葉に笑顔で返答し、再び真剣な目つきに戻ったモナーは大刀を構えた。
「今のぽろろにたった一人で、しかもそのようななまじ武器で立ち向かうとはねぇ。自殺行為も良いとこではないですか」
「・・・負ける気なんか、更々ないモナ」
 タカラの台詞に、負けじとモナーが言い返す。タカラの表情から笑顔が消えた。
「な~る・・・どうあっても大天使様に逆らおうってんですね・・・」

「でしたら潔く、さっさとぽろろのおやつになりなさい」

 タカラのこの言葉で、ぽろろが我慢の限界とばかりにモナー目がけて飛び掛った。



「はぁ!!」
 飛び掛ってくるぽろろの身体を、モナーの大刀がいなす。
「さっきから見てると、防戦一方じゃあないですか。負ける気なんか更々無い、と言ったのは貴方のはずなのですがねぇ?」
 タカラが呆れたように言い放った。モナーは答えない。と言うより、答える余裕がなかった。
 でかい図体とは裏腹に俊敏性のある動き。そして常人離れした破壊力。モララーの暗黒やナナシアの閃光には劣るであろうが、まともには受けられない。
(勝機が見えないモナ・・・このままじゃいずれ・・・)
 頭の片隅でこう考えていると、突然目の前が暗くなった。
「!?」

「モナー!上だ!!」

 兄者の声で我に返り、すかさず後退する。先ほどまでモナーが立っていた場所に、ぽろろの巨体が勢いよくのしかかった。
「・・・危機一髪モナ」
「流石は大天使様とやりあっただけはある。なかなかの素早さですねぇ」
 思わず呟いたモナーに、タカラが茶化すように言った。
(・・・かするだけでも、もうそろそろ限界っぽいモナ・・・リミットブレイクも出来そうにないし・・・)
 そう考え、モナーは自分の胸に手をかざし、唱えた。
「・・・『ケアル』!」
 瞬間、モナーの体を包む翡翠色の光。暖かい輝きが、モナーの傷を少しずつ癒していく。
「へ~ぇ・・・ケアルが使えたのですか・・・」
 タカラが感心した、その時。



「・・・出来た・・・!!」



「・・・プログラムが・・・!!」
「うわぁ、どんどん環境が変わっちゃうYO~!」
 一方、カコログ山頂の神殿。焦りながら具現化PCを操るヤマザキとぼるじょあであったが。
「・・・く・・・とうとう変えられてしまいましたか・・・」
「どうしよぉ・・・大天使様のお力が十分出せなくなっちゃうYO・・・」
 がっくりと肩を落とす2人。その時であった。



『・・・一体、何をしているのだ、貴様ら・・・』
 


 振り返った2人は、その声の正体に仰天した。
「「・・・あっ・・・貴方は・・・!!!」」
『まさか私がカコログを支配するにあたる一番のデメリットを易々と許してしまうとは・・・何とも情けない話だ』
 驚きのあまり、腰を抜かした2人を見下ろしながら冷たく言い放つ、山吹色の身体に金色の天使の話、背中に純白の翼をはやした猫型AA。

 紛れもなく・・・モナーたちが対峙するべき相手、『名を奪う者』・・・名無しの大天使、ナナシア。

 すぐさまヤマザキが、勢いよく頭を下げた。
「も、申し訳ありませんナナシア様!!」
「この失態はぁ、必ずやフォローしますYO!!」
 ぼるじょあも続いて頭を下げる。ナナシアが静かに口を開いた。
『何をへこへこと無様な真似をしている?私はまだ貴様らにどうこうしようとは思ってはいない』
「「・・・ぇ」」
 ナナシアが出した予想外の答えに、驚いて顔を上げる2人。ナナシアは続けた。
『・・・鼠を退治しに、タカラとぽろろが行っている様だが』
「は、はいぃ!そうですYO!」
「き、吉報をお待ち下さい。必ずや退治してくるでし・・・」



『・・・呼び戻せ』



 2人が再び拍子抜けした。
「・・・うぇ?」
「今・・・何と?」
『聞こえなかったのか!?呼び戻せと言っているのだ!!』
「は、はい!!只今!!」
 ナナシアの怒号で、ヤマザキが慌てて具現化PCを起動させた。
『応接間にいる2名と、今対峙している2名。彼らは私が直々に滅する』
「何故ですka?」
 ぼるじょあが首をかしげて尋ねた。
『何しろ私を裏切り、私に傷をつけた者どもだ。この借りを私が返さずしてどうする?』
「「・・・!!」」
 ナナシアの言葉で、2人が耳を疑った。
「まさかそんな!貴方様に傷をつけたとは・・・!!」
『これで思い知ったろう。貴様らでは話にならん。貴様らは今まで通り、現実プログラムの街で私に愚か者どもの名をささげればそれで良い』
 一呼吸置いてから、ナナシアは命じた。
『良いか!この失敗は見逃しておいてやる!もっともっと、今まで以上に沢山の名を奪え!失敗の穴を埋めるのだ、よいな!!』
「「は、ははぁっ!!」」
 ナナシアの命令で、2人が慌てて一礼した。



 一方、アーク前。
「・・・っ・・・!!」
「なっ、何か変モナぁ~!!」
「こっ・・・これは・・・!!」
 兄者のプログラム変換によって、歪んでいく辺りの光景。そのリバウンドのようなものが、モナーたちに容赦なく降り注いでいく。
「この気配・・・生あるものと死せるものが共存する環境プログラム・・・ですね・・・」
「ご明察・・・何もここの存在意義を消す必要は無いからな・・・っ」
 顔を上げたタカラが確認するように言い、兄者が苦しさをかみ殺すような口調ではあったが、さらりと答えた。
 やがて、タカラは苦笑いしながら言った。
「存在意義・・・ですか。我々4大神官と大天使様以外は決して持ち得ない存在・・・赤の他人、愚かなる大天使の糧となるべき存在が・・・それを認めるとはね」
「・・・何?」
「どういう・・・ことモナ?」
 思わず兄者とモナーが聞き返した。「私という絶対なる存在だけが残る」といった、ナナシアの言葉がよみがえる。
 タカラは当然だ、とでも言いたげに説明を始めた。

「そりゃあ、大天使ナナシア様は全世界に生きるAAの名前、つまり存在意義をつかさどるお方ですからねぇ。ナナシア様直々に出られるか、僕らが手を下してその名前をデータ化してナナシア様に捧げる。そうする事でナナシア様は着実にお力を着けることが出来るのですよ」

「・・・!!」
「ナナシア・・・だと!?」
 モナーが、兄者が、耳を疑った。
「さっきから大天使様大天使様と口々に言ってたが・・・ナナシアのことだったのか・・・確かに容姿は天使だが・・・」
「そうモナ!あいつは悪魔・・・いや、邪神モナ!!」
 兄者が呟き、モナーが宣言する。タカラの表情から笑みが消えた。
「僕の前で大天使様を侮辱するとは・・・なんとも許しがたい行為ですねぇ?」
 冷たく言い放った、その時。

「ん?・・・何ですってぇ?」

「「・・・?」」
 何やら1人でぶつぶつ言い出したタカラ。モナー達が不審に思った時、タカラはモナーたちのほうを振り返ると、言った。

「よ~くお聞きなさい。ナナシア様との決戦は、今から・・・大体・・・20時間ってトコに迫ってます。僕達4大神官が手を出さずとも、ナナシア様自らが手を下すおつもりなのですよ。ここからまっすぐ歩けば・・・カコログ本山、名無しの聖地・・・ホーリーネームレスが見えてくるはずです。あなた達の仲間は、その山頂の大神殿の応接間で、貴方たちを待ってらっしゃるはず。すぐに合流して、戦いに望んでくださいねぇ?」

 一気にこう言い、いつの間にか化身を解いていたぽろろの手をつないで。
「ナナシア様がお呼びなので、これにて失礼致します」
 タカラはその場から姿を消した。



「・・・っ・・・」
「あ~きつかった・・・」
 カコログ具現化プログラムを書き換えた際の反動は、ギコ達の身にも響いていた。
「何だったんだ、今の・・・?」
「知るか・・・ん!?」
 ギコの疑問にそっけなく答えたモララーが、驚いて顔を上げた。
「どうした?」
「・・・どうしたんだろう・・・」

「さっきまで・・・蛇みたいにまとわりついてた嫌な瘴気が・・・消えてる」

「何だって?・・・あ、そういえば・・・」
 思わず聞き返したギコも異変に気がついた。自分たち生きる者を拒む死者の世界特有の嫌な空気が消え、普通に行動していても違和感は何も無い。
 彼らのように、魔法を使う事が出来る者であるなら尚更だ。通常のAAとは段違いに鋭い感覚、常人離れした精神力。兄者のデジタル魔法のように人為的に備わった力ではなく、ケアル、ファイア、ヘイスト・・・自らの精神力を削って行う力であるからこそ、この変化に気づく事が出来たのだ。
 ・・・その時。

「貴方の仲間がこざかしい真似をしたからですよ」

 2人が顔を上げると、ヤマザキが立っていた。ぼるじょあはいない。
「先ほどの衝撃は、環境プログラムの変換による歪みです」
「・・・お前か」
 顔は笑ってはいるが、そのような様子は一切含まれない口調で説明するヤマザキ。ギコが軽く睨みを聞かせながら、それだけ言った。
「・・・待て。今、あなたの仲間と言ったな。と言う事は、やはりモナーと兄者はいるんだな?」
「ええ。そしてこちらに向かっていますよ。我らが大天使に裁かれるべく、このカコログ本山の頂を目指して。そして、あなた方も裁かれる運命にある。あなた方の仲間達と一緒に」
 追求したモララーに向かって、ヤマザキが言った。
「さて、私はこれにて失礼致しますよ。大天使様の召集がございますからね・・・さあ、あなた方に残された猶予も、残り20時間を切りました。いい加減、腹をくくりなさい?」
 それだけ言い残し、ヤマザキはさっさと部屋を出て行ってしまった。
「・・・モナー・・・兄者・・・生きてた・・・」
「きっとプログラム変換っつーモンをやり遂げたのは兄者のほうだろうな。アイツの機械音痴は相当なもんだし」
 ギコは呆然と、モララーは皮肉そうに、それぞれ口走る。
「大丈夫だギコ。あいつらはきっとたどり着く。俺たちはきっと再会できる。・・・信じよう、モナーの優しさ、兄者の知識、そして二人の力を」
「・・・あぁ」



 一方、ここは神殿の大広間、ホーリーネームレス聖域。
 中央に配置された台座の上に浮かぶナナシアを取り囲むように、ヤマザキ、ぼるじょあ、タカラ、ぽろろがひざまづいている。
『タカラよ。白と緑の猫をこちらへ向かわせるよう仕向けたか?』
「えぇ。19時間以内に着くと思いますよ」
 ナナシアの質問に、タカラが朗らかに答えた。
「ヤマザキよ。黄と紫の猫に、真実は伝えたか」
「はい。それなりに喜んでいたようでした」
 再び質問を投げかけるナナシア。ヤマザキが律儀に答えた。
 ナナシアは頷き、言った。
『よし・・・さて。少しばかり弱まってしまったが、19時間後にここが生に満ち溢れる事に変わりは無い。それらを喰らえば・・・いよいよ私は完全復活・・・とまではいかんが・・・確実に、これまで以上の力を手にする事が出来る』
 それだけ言い、ナナシアはにやりと笑う。それと同時に、背中の翼が輝いた。
『そして・・・これから向かう愚かなる4人の愚者の名を・・・彼らに宿る生の息吹を喰らえばきっと・・・私は最終変化を遂げる。そうに違いない』
「真でございますNE!」
 ぼるじょあが嬉しそうに言った。他の3人も勿論、同じ気持ちだ。
『良いか皆の者。これからの戦いには、お前達は手出し無用。私直々に引き受ける。・・・お前達には、事の成り行きを見守る役割を命じよう。良いな、最期までしっかりと見届けるのだ』
「はっ、ナナシア様!!」
「お任せ下さいまSE!!」
「必ずや!!」
 ナナシアの命令で、4人が頭をたれ、会話不可能なぽろろを除く3人が、口々に言った。



 一方モナーと兄者は、タカラの言う「カコログ本山」を目指して進んでいた。先ほどのプログラムを開いた兄者がうなる。
「むぅ・・・相変わらず全生命体感知プログラムは無反応・・・本当にもうすぐ、これが反応しまくる事になるのか?」
「うーん・・・分かんないけど、あのタカラさんって人、本気で言ってたっぽいから多分ホントだと思うモナ・・・それよりも」
 兄者の疑問に苦笑いしながら答えた後、モナーはやや暗めの口調で言った。
「ギコ・・・生きてたモナね・・・」
「・・・あぁ」
 兄者も、複雑そうに返す。
「あのタカラとかいう奴は、ギコやモララーがナナシアの本拠地、カコログ本山にいる、と言った。となると、2人は連中の手下に助けられたんだろう。まあ2人とも恩を返すつもりは更々無いだろうが」
「そうモナね・・・とくにギコは。ナナシアはしぃちゃんの仇モナ」
 兄者の推測にこれだけ答え、不意にモナーは顔を上げ、宣言した。
「だから!モナも協力するモナ!ギコが恋人の仇なら、モナは仲間の仇モナ!!」
「・・・そうだな。俺も協力せねば」
 兄者も、笑顔で賛同した。その時。

「・・・あ・・・!」
「・・・あれが・・・か」

 雷鳴とどろく真っ黒い雲を、まるで安物の帽子のようにかぶった、周りのものよりも段違いに高い、堂々とそびえ立つ山。

 誰がどう見ても間違いなく、カコログ本山、名無しの聖地・・・ホーリーネームレス。

「あんなおどろおどろしい外見で、よく聖地って言えるな。ナナシアに酔いしれるあまり、価値観まで捻じ曲がったか」
 兄者が思わず呟いた。
「あそこにギコとモララーがいるモナね・・・じゃあ兄者、行くモナ!」
「うむ」
 意気揚々と、2人はカコログ目指して歩き出した。



『・・・来たか』
 神殿の奥のほうで・・・背中に2対の純白の羽、頭に金色の輪をたたえた山吹色の猫型AA・・・ナナシアが、にやりと笑った。
『・・・誰かいるか』
「はっ、ここNI!」
 ナナシアの呼びかけで、ぼるじょあが進み出る。
『よし、ぼるじょあ。私が用意しておいた雑魚どもを放て。なるべく戦闘能力が低いものをな。こんな所でやられてしまっては面白くない』
「了解しましTA。あ、それから・・・」
 冷ややかに命じたナナシアに向かって頷いたぼるじょあが、思い出したように具現化PCを出しながら言った。
「下界に降りたヤマザキから、お名前のご提供ですYO」
『そうか。早速貰おう』
「はいぃ。では起動しますNE」
 言われるがままに、ぼるじょあが具現化PCを操る。すると画面に当たる部分が、蛍光塗料を塗ったように鈍く発光し、その中から色とりどりの光の玉のようなものがでてきた。光の玉はゆっくりと、ナナシアに向かって飛んでいく。
 ナナシアがそれを手の中に集めると、それらは色とりどりのボールガムのような、球状の物体に形を変えた。
『我が糧となれ・・・要らぬ存在を持つものども』
 そういうや否や、ナナシアはそれらを一気に口の中に流し込んだ。
 その直後。

 ナナシア全体を包む、虹色のオーラ。

「おぉ・・・また1つ、お強くなられたのですNE・・・」
 ぼるじょあがうっとりと呟いた。
『何をしている?雑魚を放てといったはずだが』
「は、はい只今ぁ!!失礼しますYO!」
 一息ついたナナシアが、ぼるじょあをじろりと睨みながら言い放つ。ぼるじょあが慌ててその場を後にした。
 再び静寂が訪れた神殿の一室で。
『・・・とだ・・・』
 ナナシアは、狂ったように連呼した。
『もっと・・・もっとだ・・・私に・・・名を・・・力を捧げよ・・・!』



 ゼッタイナルソンザイタルワタシニ・・・モット・・・チカラヲ・・・!!



「はぁあっ!!」
「行け、電磁窓(でんじそう)!」
 モナーと兄者は、襲い来る雑魚を蹴散らしつつ、確実にコマを進めていた。ギコとモララーに会う為に。今度こそ完全に、ナナシアを倒すために。
「とりあえず片付いたモナね!」
「あぁ。・・・しかし、妙だな。ラストダンジョンたる場所なら、もうちょっと手ごたえのある雑魚が出そうなものだが」
 朗らかに言うモナーを尻目に、兄者がモナーの剣で真っ二つになったニライムの亡骸を見やりながら言った。
「あ・・・言われて見れば確かに。何でだろモナ?」
 モナーも、兄者の電磁窓で黒焦げになったカサーリを見下ろし、言う。兄者が推測した。
「・・・わざと弱いモンスターを放って油断でもさせようという魂胆か?・・・いや、アークの上であの力を見せ付けられた俺らには通用しない戦法だ。自分の力に酔いしれてる野郎なら、尚更・・・だとしたら・・・」
 やがて顔を上げ、兄者は呟いた。
「あのタカラだのぽろろだのと言う家来の手すらも借りることなく、ナナシア自らの手で俺らを始末し、思い知らせる・・・という魂胆・・・だろうか?」
「そうか・・・モララー、ナナシアを裏切ったモナからね・・・」
 兄者の推測に、モナーも賛同する。
「自画自賛自称大天使の考える事っつったらそうかもな」
 そう言いながら、兄者が苦笑いした。
「兄者、急いでギコたちと合流しなきゃモナ!」
「そうだな」
 モナーに促され、兄者も再び歩き出した。



「・・・」
 ホーリーネームレスの神殿の最上階の高台で、双眼鏡をのぞいている青い猫型AA、ナナシアに仕える神官の1人、タカラ。
「そろそろですかねぇ・・・」
 呟きながら、登山道を眺め続ける。彼の背中には、テディベアを抱えた水色の亜人型AA・ぽろろが寄りかかっていた。時々、テディベアの手足を口に持って行ったりしながら。
 そのとき、何かに気づいたらしいぽろろがタカラの尻尾を軽く引っ張った。視線を双眼鏡から部屋の中に戻し、タカラは優しく問いかけた。
「?・・・どうしたんですか?ぽろろ」
「・・・」
 食べる事だけに特化しすぎて話す事が出来なくなってしまったため当然ではあるが、ぽろろは無言のまま首を使って、高台の出入り口である螺旋階段の方を示した。

 続いて、大理石の床を踏む、無機質な音。

「ああ、誰か来るんですね。ありがとう」
 タカラの言葉で、ぽろろは嬉しそうに頷いた。すると、階段の中から、1匹の橙色の猫型AAの姿が現れた。
「タカラさん、彼らは現れましたか?」
「あぁヤマザキさんですかぁ。いいえ、まだですよ・・・きっともうすぐこの辺りに来ると思うんですけどねぇ・・・」
 猫型AA・・・ヤマザキの質問にこれだけ答え、タカラは再び双眼鏡に視線を戻した。そして今度はその視線のまま、質問する。
「こっちも質問なんですけどぉ・・・ナナシア様への名前のご提供、上手く行ったんですかぁ?」
「上手く行かなきゃ困るでしょう。大丈夫、ぼるじょあさんの具現化PCが名前のご提供を済ませたこと、しっかり確認しておりますよ」
「ですか~。それは何よりですねぇ」
 ヤマザキの回答に、タカラはそれだけ答えた。すると。

「・・・あ!いらしたようですよぉ!」

 タカラの言葉で、ヤマザキが慌てて彼の側に駆け寄った。
「貸しなさい!」
 ヤマザキは慌てた手つきで、無理やりタカラの手から双眼鏡をひったくり、自分の目にあてがい、山道に視線を落とした。

 くっきりと映る、2体の・・・白と黄緑の猫型AAの姿。

「おぉ、真ですね・・・さあ、我らが大天使様の定められた運命に・・・従いなさい、愚かな猫たちよ・・・」
 やや不気味な口調で呟き、ヤマザキは双眼鏡をその場に放ると、言った。
「さあ、大天使様にご報告しましょう」
「あ、はい・・・さあ行こう、ぽろろ」
 3人は、足早にその場を後にした。



「・・・ここか」
「ホーリー・・・ネームレス・・・名無しの聖地・・・」
 モナーたちの目の前に威風堂々とそびえ立つ、白い石材で作られた巨大な神殿。

 ホーリーネームレスの神殿。

「ここにギコたちがいるモナね!」
「そうらしいな・・・行くか」
 兄者の言葉で、2人が歩き出す。モナーが扉に手をかけようと腕を上げたその時。

 ギィィィィ・・・

 扉が、ひとりでに開いた。
「・・・どうぞお入り下さい、だってよ」
 兄者が、皮肉っぽく呟いた。
「・・・行くモナ、兄者!」
「うむ」
 決意を新たに、2人は神殿に足を踏み入れた。



「すっごいモナぁ・・・!」
 足を踏み入れた途端、モナーが感嘆の声を上げる。神殿内は、ありとあらゆる場所が豪華絢爛な装飾品で飾り立てられていた。
 おのぼりさんのように、あちこちを見回しながらはしゃぐモナーを尻目に、兄者は生命体感知プログラムを立ち上げる。そして。
「む!強い命の光を2体確認!」
「え、ホント!?ギコたちモナか!?」
「そこまでは分からないが、可能性は高いな。たぶんあっち・・・」
「い、急ぐモナ!」
 兄者の言葉を最後まで聞き終わらないうちに、モナーは兄者が示した方向へ走り出していた。
「あ、待て!落ち着け、モナー!!」
 兄者も、慌ててモナーの後を追った。



「・・・そろそろかな」
 壁に寄りかかって、モララーが呟く。
「さぁなぁ」
 長いすに横たわって、ギコが返した。
 先ほどヤマザキが忠告しに来たきり、神官たちは一向にギコたちのいる部屋へ来る様子がなく、2人は暇をもてあましていた。このやりとりは、何度目か回数すら覚えていないほど数多く行われていた。
 部屋の中に、重苦しい沈黙が流れる。
 聞こえるのは、時々重々しく唸る雷の音だけ。
 そのときであった。

 ドドドドンドンドン!!

「「!?」」
 突然2人の耳に飛び込んできた、激しい音。思わず2人とも顔を上げる。
「な、何だゴルァ?」
「・・・まさか・・・!」
 何かを察したモララーが、扉を開け放っていた。遠くの方から声が聞こえてくる。



「モナー!!落ち着け!!」
「落ち着いてなんか居られないモナ!!ギコたち、ホントにこっちに居るモナよね!?」



「・・・この声・・・!」
「来たか。相変わらずせっかちな野郎だな、全く」
 ギコの顔がほころび、モララーが苦笑いしながら呟く。
「とっとと2人んとこ行ってやろうぜ」
「・・・そうだな」
 苦笑いしながら、2人は扉を押した。



『そうか・・・来たか』
「はいっ!」
「いよいよですな、ナナシア様!」
 謁見の間で、タカラとヤマザキの報告を聞いて、満足そうにナナシアが頷いた。
「でぇ、我々は運命をただ見届けるので宜しいのですNE?」
「うむ。手出し無用・・・・・・」
 ぼるじょあの確認に頷きかけ、ナナシアは言葉を切り、少し考え込んだ。
「「「?」」」
 3人が首をかしげたとき、ナナシアは少し不気味な微笑を作り、呟いた。

『・・・少しばかり・・・余興があっても良かろう・・・』



「ギコぉっ!!」
 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、モナーはギコの胸に勢い良く飛び込んだ。
「良かったぁ・・・ホントに・・・良かったモナぁッ・・・!!」
「そうだな・・・良かったな。また会えて」
 泣きじゃくるモナーの頭を撫でながら、ギコも少し涙ぐんで言う。
「で、これからどうするのだ?」
 モナーとギコの和気藹々とした光景を尻目に、兄者は近くに立っていたモララーに尋ねた。モララーが呆れたように、苦笑いしながら答える。
「・・・決まりきってる事だと思うぞ。ギコがすっかりその気だ」
「当然だろゴルァ!」
 モナーを自分の胸からようやくはがしたギコが、きっぱりと言い切った。
「しぃの仇を討つまでは死ねるかよ!」
「ナナシアとの、最終決戦・・・モナか?」
 ようやく泣きやんだモナーが聞き返す。ギコが無言で頷いた。
「・・・」
「・・・何暗い顔してんだよ」
「・・・だ・・・って・・・」
 先ほどの笑顔が嘘のように、声を震わせてモナーが呟いた。
 他3人は戸惑ったが、やがて優しい笑みを浮かべると、優しく言った。
「大丈夫、二度と同じ手は食わねぇよ」
「さっきギコに協力するといったのはお前だろう」
「絶対勝って、2chシティへ帰ろうな」
「・・・ギコ・・・兄者・・・モララー」
 3人の言葉で、モナーの表情に笑顔が戻った。
「・・・うん!モナたち、絶対勝つモナ!」
「その意気だゴルァ!」
 笑いながら、ギコが勢い良くモナーの背中を叩いた。



 その時。



「それは無理ですね」



 バリバリィ!!



「「「!?」」」
「っ、ファイアウォール!!」
 突然4人の耳に飛び込んできた電撃の音。兄者がとっさにデジタル魔法を発動させると同時に、何処からか放たれた電撃が炎の壁に弾かれ、辺りに飛び散って消えた。

「ほほう、今の電撃を防御するとはなかなかの威力ですね」

 こう言いながら、4人の目の前に、1匹の猫型AAが降り立った。
「しかし我々には到底及ばない」
 橙色の猫型AA・・・ヤマザキが、あざ笑うように言う。
「さあ黄色に紫。結論は出ましたか?」
「結論も何もねぇよ!最初っからナナシアを倒す事しか考えてねぇからな!!」
「そう。俺たちは最初からこの結論だからな」
 ギコとモララーがきっぱりと言い切る。ヤマザキの表情が険しくなった。
「そうですか。でしたら仕方ありませんね」
 ヤマザキがこう言うと同時に、もう3匹の神官たちがどこからか現れた。



「・・・でしたら、手加減は致しません」
「僕らの力、思い知るが良いYO」
「さっさと大天使様に取り込まれちゃって下さいねぇ?」
「・・・」



「・・・悪い冗談だな」
「どうでもいい。勝てばそれでいいからな」
「ああっ、とっととナナシアに会わせてもらうぜ!」
「そうモナ!こんなとこで立ち止まってられないモナ!!」



『・・・始まったか』
 合計8匹のAAたちが向かいあう光景が、水晶玉に映っている。
 時おり稲光を受けて眩く光るそれを、ナナシアは玉座で頬杖をつきながら、ぼんやりと眺めていた。



『・・・私の糧になるのは、果たして・・・どちらかな?』



「『ヘイスト』っ!!」
 ギコが両手を高々と掲げ、大包丁を構えたモナーに向かって唱える。それと同時に、モナーを包む橙色の輝き。
「ありがとモナ、ギコ!・・・やぁぁぁっ!!」
 ギコに笑顔でお礼を言うと、モナーは武器の包丁大剣を構え、叫びながら勢い良く駆け出した。目標は・・・ぽろろ。
「援護する!電磁窓っ!!」
「『ファイア』っ!!」
 走るモナーを、兄者の電気を帯びた小さい「窓」とモララーの魔法が追った。
 いつの間にか化身していたぽろろと一気に間合いを詰め、
「はぁっ!!!」

モナーが包丁大剣を振る。
電磁窓とファイアが追いついたのも同時だった。

「『リフレクションウィンドウ』!」

 3人の攻撃が当たると同時に、タカラが具現化PCを操って唱える。
ぽろろを守るようにに巨大な「窓」が現れ、3人の攻撃を全て受け止めた。

「なっ!?完全防御だと!?」

「それだけじゃあないですよ!Reflection、すなわち・・・」

 目を疑う兄者に向かって、タカラが誇らしげに言い放った。

「『反射』です」

 そう言ったのとほぼ同時に、炎、電撃、衝撃波が、勢い良く『窓』の中から放たれた。

「うぁ・・・っ!!」

「「・・・っぐ・・!!」」

「分かったでしょ?自分の力が強ければ強いほど、己の首を絞める結果になるんですよっ!」

 タカラが得意そうに言った。続いてぼるじょあが言う。

「さてぇ、こちらのターンだYO」

 そう言うと、ぼるじょあは具現化PCを操り始め、唱えた。

「『オールフリーズ』ぅ!」

 それと同時に、具現化PCから放たれる凄まじい冷気。

「なっ!?」

「兄者と同じ技モナっ!?」

「くそ!『ファイアウォール』!!」

 驚くギコとモナーを尻目に、兄者が急いでデジタル魔法を放った。
氷と炎で魔法が相殺され、辺りに閃光が走る。

「私も参りますよ!行け、火炎窓!」

 そう唱え、ヤマザキがPCを操ると、小さい『窓』が飛び出した。
兄者の電磁窓とは違い、赤みを帯びている。

「『ブリザド』!」

 それをモララーの魔法が相殺した。
その光にまぎれるように、化身したぽろろが突進してくる。

「電磁窓!」

 兄者が電磁窓を放ち、突進攻撃を退けた。

「ほぼ互角、といったところか」

 モララーが剣を構え、呟いた。

「とりあえず、防御技を使うタカラって野郎を先に挫こうぜ」

「うむ。賢明な判断だ」

「了解モナ!」

 ギコの提案に、兄者とモナーが賛同した。

「行くぞっ!」

 号令で、モナーとモララーが一斉に、タカラ目がけて走り出す。
後ろでギコが魔法を唱え、兄者もPCを操り始めた。

「『ヘイスト』!」

「恩にきる!」

 次のギコのヘイスト対象は兄者だった。
こう完結に言い、兄者は再びPCに向かう。

「「はぁぁあっ!!」」

 前線では、モナーとモララーがタカラに斬りかかっていた。

「うわゎ!」

 防御術が間に合わなかったらしい。
今度はちゃんとダメージが与えられた。

「まだ行くぞ!『フラッシュボム』!」

「だぁぁぁぁぁ!!!」

 兄者が魔法を放ったと同時に、ギコが勢い良く床を蹴った。
ギコの身体は屋根を突き破り、やがて見えなくなる。
 兄者の魔法が、先の2人の攻撃で防御が薄くなった神官たちを確実に襲っていく。

「「「わぁぁぁっ!!」」」

 3人が絶叫し、フラッシュボムの凄まじい電撃が消えかかったところに、

「・・・ぁぁぁぁぁ!!!」

 再び屋根を突き破ってギコが落ちてきて、落下速度をくわえた攻撃をタカラにお見舞いした。

「・・・くぅ・・・っ・・・」

 たまらず、タカラがくずおれる。
ヤマザキが叫んだ。

「タカラさんっ!!」

「やったっ!1人片付いたモナ!!」

 ぽろろが慌てて化身を解き、倒れこむタカラに駆け寄って必至に揺さぶった。

「そこだ!『サンダー』っ!!」

 モララーが唱え、無防備なぽろろに直撃する雷。
外とサンダーの雷が同時に光り輝き、鳴り響いたのは偶然の演出だろうか。

「ぽろろ君!?・・・はぁ、仕方ありませんね」

 やれやれ、とため息をつき、ヤマザキは具現化PCを操り始めた。  
4人は仕返しが来るか、と身構えたが。
 その期待は、大きくハズレ。

「『リヴァイヴァルサーキット』」

 そう唱えると、タカラとぽろろの身体を翡翠色の光が、ゆっくりと包み込み。

「・・・っ・・・」

「うぅ・・・あいたたた・・・」

 2人はうめきながらゆっくりと身体を起こした。
兄者が思わず声を荒げて叫ぶ。

「なっ・・・蘇生技だと!?」

「貴方のようにただ攻撃と少しの回復技のみを閉じ込めた物質型PCと、我々のように複雑なプログラムをより合わせた具現化PC。どちらが優勢かは・・・言わずとも分かるでしょう?」

 ヤマザキが誇らしげに言う。

「さあ、そろそろ反撃と参りましょうか」



 暗いよ・・・  怖い・・・  ここは・・・何処・・・?

 モナー君・・・・モララー君・・・

 ・・・ギコ君・・・助けて・・・

「・・・・は・・・んだ・・・先・・・て・・・れ」

 ・・・え?

「心・・・・ら・・・じ・・・る」

 ああ、そうだ・・・この雰囲気・・・

 2chシティのハイウェイで・・・

「しぃ。これ以上は危険だ・・・先に逃げてくれ」

「・・・え?どうして!?嫌よ!私もギコ君たちと一緒に行く!!」

「・・・しぃ・・・聞いてくれ。お前のためなんだ」

「・・・ギコ・・・君・・・だ・・・って・・・」

「・・・心配するな・・・必ず無事に戻る」

「・・・本当・・・に?」

「ああ。約束する」

「・・・絶対よ・・・」

 ギコ君・・・死んじゃ嫌よ・・・

 約束・・・守ってよ・・・

 会いたい・・・今すぐ・・・


 ・・・一方・・・2chシティ総合病院の・・・集中治療室にて。 

「・・・どうですか?」

 みかん色の身体に黒目の猫型AAが、隣で腕を組み、白衣を着た茶色い長毛種の猫型AAに、心配そうに話しかける。

「・・・いや、現状は全く変わらん。一体どうなってるんだ、この娘の容態は・・・」

 茶色い猫型が、首を横に振りつつ答え、やがて呟いた。

「脳波も脈も異常なし、意識だけがないとは・・・一体どうなっているのだ・・・?」

 医師と看護婦が見つめる先で、カプセルの中で死んだように・・・その桃色の猫型AA・・・しぃは眠っていた。

「確かこの子、空からこの病院の屋上に降ってきたとか・・・?」

「うむ。彼女の杖に名前が登録されていたな。シィナ=シャルル、か。・・・少しの麻痺と全身打撲の大怪我。ケアル・エスナの魔法と私特製の集中治療機械でじきに治ると予測していたが・・・何故か一向に目覚める様子がない・・・」
 みかん色の質問に、茶色が頷き悩む。その時。

「・・・ぅ・・・っ・・・く・・・」

「「!」」

 カプセルの中のしぃが、苦しそうな表情を浮かべてうめき始めた。
慌てつつも、2人は慣れた手つきでカプセルの精密部分を操り始める。

「ガナー、液化エスナを」

「はい、フサ先生」

 フサという名らしき茶色い医師の命で、ガナーと呼ばれたみかん色の看護婦が、部屋の隅の冷蔵庫から、フラスコに入れられた透き通った液体を取ってきて、フサに渡した。
フラスコに、「液化エスナ」と記されたラベル。

「エスナの魔法オーラを展開させたところにすかさずブリザドを放ち液化。それを研究し続け、常温でも気化しない治癒魔法液化物質・・・総称ポーションを、我が病院が最初の発明。悪夢による心の傷すらも、たちどころに・・・回復とまでは行かんが、かなり長時間は押さえられよう」

 語りつつ、フサがカプセルの隣に据えられたタンクの中に、ゆっくりと液化エスナを注いでいく。
液化エスナはタンクから伸びる細い管を通じ、しぃの腕に刺さる注射針へと注がれて行った。
 すると、今まで苦しみに満ちていたしぃの表情が、少しずつ、ゆっくりと和らいでいった。

「・・・今日で丸々4日・・・これだけ使っても効力が衰える事がないとは・・・ポーションとは凄いのですね」

「ああ。後は彼女の精神力を信じるのみだな」

 ガナーの率直な感想に賛同し、フサは言った。



「はぁぁぁっ!!」

 黒い大剣を片手に、モララーがヤマザキに切りかかるところを。

「『シェルブラインド』!」

「・・・っ!」

 タカラの防御系魔術が阻止し、モララーがよろめく。

「隙あり!行きなさい、氷晶窓!」

 その隙を突き、青みと冷気を帯びた小さな『窓』が、ヤマザキの具現化PCから放たれた。

「ぐぁっ・・・!」

「モララー!?『ケアル』!」

 攻撃をまともに受けたモララーに、モナーが回復魔法をかける。

「すまない、モナー・・・」

「大丈夫モナ」

 申し訳なさそうに頭を下げるモララーに向かって、モナーが笑う。
すると兄者が2人に向かって叫んだ。

「余所見をするな!何か来るぞ!」

「今頃気づいたなんてのろまさんだNE?」

 一同をあざ笑うかのように、ぼるじょあが言う。
彼の持つ具現化PCが、紫色のオーラを放っていた。

「「「「・・・!?」」」」

「行くYO!『グラビティハック』ぅ!」

 ぼるじょあがとなえた瞬間、オーラが4人の立っている場所を取り囲んだ。

「っ、やべぇ!」

 ギコが慌てて地面を蹴って、先ほど自分で開けた天井の穴の中へ消えて行った直後。

 ズシィッ!!!

「「「・・・っぐ・・・ぁあ・・・っ!!」」」

 残された3人の全身に、突然凄まじい重圧が掛かった。

「みんなは『グラビデ』って攻撃魔法知ってるかNA?魔力で強い重力磁場を発生させて押しつぶす魔法なんだけDO・・・『グラビティハック』は、それの全体&強化版、ってトコかNA。ついでに、持続効果だってあるんだYO。凄いでしょぉ?」

 誇らしげにぼるじょあが言う。
3人には反論する余裕など無かった。
そこへ。

「だぁぁっ!!」

 ギコが槍を構え、ヤマザキ目がけ舞い降りてくる。

「『シェルブラインド』!」

 これもタカラの魔術で防御された。
舌打ちしつつ陣営に戻ろうとしたギコが、重力の力で押しつぶされかけているモナーたちに気がついた。

「・・・!みんな!!」

「おぉっと!駆け寄れば、あなたも同じような目に遭いますよぉ?」

「・・・くそったれ・・・」

 タカラが冷ややかに言い放ち、ギコが悔しそうに唇をかんだ。

「・・・っぐ・・・が・・・・・・」

「苦し・・・モ、ナ・・・」

「人口、的に・・・作り出した・・・重力の・・・磁場、を、我々に・・・浴びせて、いると・・・言うのか・・・っ!?そんな、事・・・」

「あり得ない。そう言いたいのですか?」

 あえぐモナーたちに続いて、かすれた声で推測する兄者に向かって、ヤマザキが言った。

「不可能を可能に変えることが出来るのが、ここ、カコログのプログラムです。貴方はただ、バグによる自らの消滅を防ぐために、生者と死者の共存できるプログラムを作ったのでしょう?この具現化PCだって、カコログのプログラムがあるからこそ存在している物体。広い範囲で物事をみれば、プログラム変換によってこのPCを消滅させる事だって出来たはずですよ。そこだけにしか目が行かなかったのが、あなた方の決定的な誤算です・・・さて」

 言うだけ言うと、ヤマザキはぼるじょあに向かって尋ねた。

「ぼるじょあさん?このデジタル魔法は、ただ重力圧によるダメージを与えるだけではありませんでしたよね?」

「そうそう~。それを今からやって見せるYO。ついでに、そこの抜け駆け君にもダメージ与えなくっちゃNE」

 ギコを見やりながら、再びぼるじょあが具現化PCを操り始め。
彼の具現化PCに再び紫色の光が灯った。

「そぉれ、行けぇ!」  

 唱えると、突然4人の体がふわりと宙に浮いた。
超重力からようやく開放されたモナーたちが胸を押さえ、荒い息をつく。

「ぅ・・・はぁっ、はぁ・・・え!?」

「なっ・・・なんだ!?」

 慌てて腕をばたつかせてみても、4人の身体はなかなか思い通りに動いてくれなかった。

「今君達がいる場所は、無重力!もがいたって無駄だYO!もっかい潰れちゃえぇ!」

 ぼるじょあが言い放ち、再び具現化PCが発光した次の瞬間。

 グゥンッ!

 4人の胸が勢い良く見えない何かに押され、  

ダァンッ!!

「「「「ぐぁ・・・っ!!!」」」」  

4人は、背後の壁に勢い良く叩きつけられた。
 その後も、重力磁場は4人を凄まじい力で容赦なく、壁に押さえつ続ける。

「こんな風にぃ、重力の力や磁場の働く場所まで操る事だって出来るんだYO!このまんま他のみんなの攻撃の的になっちゃうが良いYO!」

「ふざ・・・け・・・る、な・・・・」

 モララーが、かすれた声で言い放ったその時、彼の身体を闇色のオーラが包み込み始めた。

「これは・・・もしや・・・っ・・・」

「駄目、モナ・・・そんな・・・状態で・・・っ!」

 兄者とモナーの制止も聞かず、モララーは声の限り叫んだ。

「・・・喰らえ・・・『暗黒』!!!」

 ゴァアァッ!!

「「「ぐあぁぁぁぁっ!!??」」」

 次の瞬間、モララーの全身から勢い良く放たれた闇の波動。
不意を疲れた3人が仰け反り、それと同時に4人を襲っていた重力も消え、4人はぎこちなくも立ち上がった・・・と思いきや。

「・・・ぐ・・ぅ・・・っ・・・」

 今の暗黒で体力を使い切ったのだろうか。
モララーが壁に持たれ、そのままずり落ちるように倒れこんだ。

「「「モララー!!」」」

 3人が慌てて、倒れたモララーに駆け寄る。

「・・・大丈夫・・・気絶してるだけのようだ」

 兄者の診断で、他2人がほっと胸をなでおろす。
直後、モナーがモララーの額に手をかざし、唱えた。

「・・・『レイズ』!」

 水晶色の輝きがモララーを包み、やがてモララーはゆっくりと目を開けた。

「すま・・・ない・・・」

「アホか。あんな極限状態で『暗黒』なんか使ったら、ぶっ倒れるに決まってんだろが」
 モララーがかすれた声で言う。
ギコがげんこつでモララーの額を軽く叩いた。

「とりあえず無事だったのだ。問題ない」

「そうモナよ!」

 兄者とモナーも言う。
モララーが軽く微笑した。

「ぐ・・・おの、れ・・・ぇ」

 今までうずくまっていたヤマザキが立ち上がった。
フルパワーで放った『暗黒』だったのだろうか、彼の背後では突っ伏したまま動かない他3人の神官がいた。

「数で劣っているとは言え・・・あなた方の体力もわずかなはず・・・ここで・・・けりを・・・!」

 壁に持たせかかりつつ、ヤマザキが具現化PCを起動させ、モララーを休ませる結論に達したらしい3人も身構えた・・・次の瞬間であった。

『・・・やめぬか。愚か者め』

「「「「・・・!?」」」」

「・・・いらしましたか」

 何処からともなく聞こえてきた、嫌でも聞き覚えのある声。
4人が耳を疑い、ヤマザキがあわてて膝を突く。
 次の瞬間、8人が向かい合う場所のちょうど真ん中辺りに空間の亀裂が現れ、その中から・・・
 黄金の輪に純白の翼、山吹色の身体を持つ猫型AA・・・ナナシアが、颯爽と現れた。

「・・・っ・・・」

「・・・ナナシア・・・っ!!」

「・・・時に、落ち着け」

 怯えるモナーを尻目に、怒りをあらわにしてナナシアを睨むギコ。
兄者がなだめる。

『・・・貴様たちには、まだ用はない。少しは生かしておいてやる』

 ナナシアは4人を睨みつつこう言うと、翼をはためかせた。
羽が、きらきらと輝きながら雪のように、ナナシアを見上げる一同の上に舞い散る。
 すると、落ちる羽の中のうち8枚が突然輝き始め、何か瓶のような物体に姿を変えた。
瓶は落下速度を変えずに舞い降り、やがてそれが8人の手に吸い寄せられるように入っていく。

「何モナ?これ・・・」

 透明に透き通った液体が、ガラスのような素材で出来た瓶の中に入った何かを見て、モナーが言うと、突然兄者が目を丸くする。

「・・・!これは・・・エリクシールではないか!?」

「「「・・・え!?」」」

 兄者の結論で、他3人も驚く。

「エリクシールって・・・究極蘇生魔法『アレイズ』を常温液化した、伝説の代物って言われる、幻のポーションの事モナ!?」

「命に関わるぐらい酷い怪我でも、たちどころに全快するっつー・・・あれか」

『さよう。そのまま突っ込まれてすぐ死なれては困るのでな。使いたければ使うが良い。断じて毒ではない』

 モナーとギコが驚きつつ言うのを肯定し、ナナシアは言った。
 驚きつつも、4人はエリクシールのふたを開けた。
同時に瓶の中の液体が、モナーの使う『レイズ』に似た水晶色の光へと変わり、4人をゆっくりと包んでいく。

「・・・流石は伝説級。凄い効力だ」

 先ほどの怪我が嘘のように、モララーが立ち上がりつつ言う。
見ると、ヤマザキも他の3人にエリクシールを使ってやっているのが見えた。

『・・・さて。感動の再会は済んだかな?』

 冷ややかな笑みをたたえ、ナナシアがモナーたちを見つめて尋ねた。

「うむ。とっくに、だ・・・ところで。こんなところまでわざわざ出向いてきたって事は、ここで俺らを始末する気か?大天使とやら」

 今にもナナシア目がけて突っかかりそうな勢いのギコをなだめつつ、兄者が聞き返す。
一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに平常心を保ちなおしたナナシアは首を振り、言った。

『言ったはずだ。まだ用はないと。用があるのは・・・』

『こやつらだ』

「「「・・・!?」」」

 ナナシアに指名されたのは、神官たちだった。
神官たちが息を飲む。

「・・・して・・・何用です?なんなりと・・・」

『無様な真似を二度もするつもりか?』

 ヤマザキの言葉を遮り言うと、ナナシアは突然頭を垂れたままの4人の上に手をかざし・・・唱えた。

『・・・『サンダガ』』

 ズガァアン!!!

「「「「・・・!?」」」」

 ナナシアの予想外の行動に、モナーたちは驚愕した。
 神官たちの身体に、雷属性の最強呪文・サンダガが、容赦なく降り注ぐ。

「「「ぐあぁぁぁぁっ!!??」」」

 絶叫し、くず折れる神官たち。
彼らの前に舞い降り、ナナシアは冷ややかな目で神官たちを見回す。
身体を痙攣させながら、ヤマザキが顔を上げ、尋ねた。

「大・・・天使・・・、様っ・・・何・・・故・・・っ!?」

『始めてこやつらと対峙していた時から思っていたことだ。あの程度の攻撃で倒されるほど弱く創った覚えは、私にはないぞ』

「つっ・・・創った・・・!?」

 モナーが驚いて聞き返す。
それを無視し、ナナシアは冷たく言い放った。

『・・・貴様らの支えはもう必要ない。我が糧となれ・・・』

「・・・そん・・・な・・・っ・・・」

「どうして、ですKA・・・!?」

「お願いですよ・・・っ、慈悲を・・・下さい・・・!」

『・・・くどい』

 神官たちの必死の哀願を一蹴し、ナナシアは手を大きく掲げた。
手の中に・・・邪悪な気が集まっていく。

「あれは・・・!」

『・・・出来損ないめ。消えろ』

 言い放ち、ナナシアは大きく舞い上がり・・・
 手を掲げ、気を放った。

 ドガァァァァッ!!

「「「「・・・ッ・・・!!」」」」

 目も開けられないほど眩い閃光で、4人が目を覆う。

『・・・断末魔もあげる間もなく消えたか。まあ仕方あるまい』

 ナナシアが言うのを合図に、4人が恐る恐る目を開けると。

「・・・ぅっ・・・」

「・・・酷ぇ」

 元がどんなAAだったかも分からないほど真っ黒に焼け焦げた『物体』が4つ、一同の目の前に、無造作に転がっていた。

「何でこんな酷いことするモナ!?貴方が創った家来だったのに!!」

『・・・何度も言わせるな。貴様らぐらいの力量しか持たぬ輩に打ち倒されるほど、役立たずだったと言う事が分かったから消したと、言ったはずだが?』

 モナーの批判に、ナナシアは振り返りもせずに答えた。

「・・・だったら何故に、わざわざエリクシールを使わせたのだ?」

 モナーに続いて兄者が、あくまでも冷静に、怒りを噛み殺すように静かに尋ねる。
フン、と鼻で笑い、ナナシアは言った。

『我が糧となり私に力を与えるためには、糧となるべき者もそれなりの戦闘力や生命力が必要になる。2chシティの連中に戦闘力は期待などしていないゆえに、こやつらにはなるべく一撃で片をつけるように言っていた。今の場合は別だ。私が創った存在ゆえに、それなりの戦闘力はつけていたはずだったが、こんなものだったとは・・・つくづく失望した。・・・さて』

 言うだけ言い終わり、微笑すると、ナナシアは神官たちだった物に手をかざした。
物体から光る珠がふわりと登り、物質化し、ナナシアの手の平に乗る。

『今まで遊ばせて貰ってご苦労だった・・・愚かな神官風情が』

 冷ややかに言い、ボールガムのような4つの球体を、口に含むナナシア。
七色のオーラが、ナナシアの身体を包む。

「「「「・・・っ・・・!」」」」

『・・・文句があるのならば・・・上で待とう。良い物を見せた後、貴様らも我が糧にしてやる』

 絶句する一同にこう言い放ち、ナナシアは消えた。



「ふぅ・・・相変わらず彼女の容態は変化する気配すら見せんな」

 2chシティ総合病院の集中治療室で、フサが以前カプセルの中で眠り続けるしぃを見つつ、呟く。
彼の隣に立っていたガナーが言った。

「彼女、魔法使いのようですね。ケアルにケアルラ、ファイア、ブリザド、サンダーを習得していたようですが」

「そのようだな。それだけ沢山の魔法を習得していながら、何故精神病の一種とおぼしきこの状態に陥ったか。それが疑問だ」

 彼女の確認に頷きつつ、フサが言った、その時。

「・・・ぅ・・・う・・・」

「「・・・!」」

 再び、カプセル内のしぃがうめき始めた。
早速ガナーがポーションを取りに行こうと立ち上がった時、しぃは途切れ途切れに、呟いた。

「・・・ギ、コ・・・く・・・」

「!?・・・ギコ・・・だと?」

「・・・先生?どうかしたのですか?」

 ポーションを手に戻ってきたガナーが、驚きを隠せない様子のフサに尋ねた。
フサは頷きつつ、答えた。

「・・・俺の勘違いか同姓同名の人違いでなければ・・・ギコは俺の従兄弟だ」

「まぁ・・・」

「そいつとこの子が何か、とんでもない事件にでも巻き込まれて・・・彼女は逃げ延びた後、この状態になったのか・・・?うぅむ・・・」

「・・・事件と言えば・・・」

 悩みながらも、フサは慣れた手つきでカプセルを操る。
不意に、ガナーも語りだした。

「兄の家が、モンスターか何かの襲撃で・・・壁に大きい穴が開いていたんです。中にメリケンサックが放り出してあって、兄の姿もなくて・・・彼がモンスター対策に持ってた包丁型の剣が、消えていたんです」

 それだけ言って、ガナーは一旦目を伏せ、先ほどと同じようにポーションをカプセル内部に注入しつつ、呟いた。
 
「・・・モナー兄さん・・・何やってるのかしら」



 神殿の頂、広間のような場所。
 その部屋の中心で、ナナシアは顔を上げ、つぶやいた。

『・・・来たか』

 つぶやいたのと、ほぼ同時に。

 バァン!!

「ナナシアっ!!」

 彼の背後の大きな扉が、勢いよく開け放たれる音。
続いて自分の名を呼ぶ、威勢のいい怒号。

『・・・待ちかねたぞ。愚か者ども』

 ふりかえり、ナナシアは扉を開け放った4人の人物・・・無論、モナーら4人を冷たい視線で見回しつつ、言った。

「無駄な会話は要らねぇんだよ!今すぐぶっ潰す!ゴルァ!!」

 ギコが怒鳴ると同時に、槍を片手に走り出そうとしたとき。

「ギコ!やめろ!」

 その腕を、兄者が強く掴んでとめた。

「兄者!何を・・・」

「熱くなるな!・・・時に、落ち着け。好機を待て。ここに飛ばされる前のように、策略にはまって死に掛けたくなければ・・・な」

 何をする、と言いかけたギコの言葉をさえぎり、兄者が厳しい口調で言う。
彼らの後ろでそのやり取りを眺めていたモナーとモララーも、同じような厳しい視線で、ギコを眺めていた。

「・・・」

 ギコは渋々引き下がる。
それでも、ナナシアを憎悪の目つきでにらみつけるのは忘れなかった。

『・・・やれやれ。とんだ茶番を見せてくれたものだ』

 一部始終をすべて見ていたナナシアが、呆れきったように言い放つ。

「茶番なんかじゃないモナ!ここであんたを倒せば、無駄なんかじゃなくなるモナ!」

 モナーが、声を震わせながらも言い放つ。

「俺を散々利用してきた落とし前、つけさせて貰うからな」

 モララーが、モナーに続いて前に出る。ナナシアが邪悪に笑った。

『ククク・・・それを茶番だというのだ。・・・お前らにはわからんだろうが・・・物事は実に、私が想像していたよりもはるかに、良い方向へ向かっているらしい』

「「「「・・・!?」」」」

 4人が息を飲んだ。
脳裏に走る、いやな予感。

「それでは、もしや・・・」

『その通り・・・!頑張ったようだが、無駄足のようだったな』

『・・・タイムリミットだ』

「タイム・・・リミット!?」

「あの神官が言い残した、24時間・・・切ってしまったか」

 モナーの疑問符に、兄者が冷静に答える。

『クククク・・・どうやら私は、貴様らを喰らわずとも、覚醒可能らしい・・・満ち溢れた生命を食いつぶし、ここを崩壊させる!そしてカコログという世界は永遠に葬り去られる!この、愚かな電脳世界から・・・!』

 ナナシアが、高らかに宣言した、次の瞬間だった。

 ピシィッ・・・パキパキパキ・・・

「・・・何モナ?この音・・・」

 モナーが天井を見上げながら言う。
ガラスのような素材に、ひびが入るような音。
しかし、今いるこの部屋の壁には、傷一つ見当たらない。

『何処を見ている。言ったはずだ。この愚かな電脳世界は、崩壊すると』

 言い放ちつつ、ナナシアが力をため始めた。兄者が、はっと気づく。

「・・・もしや・・・!おい!伏せろ!!」

「「うわっ!?」」

 兄者が怒鳴り、両隣にいたモナーとギコの頭を掴んで伏せさせる。
モララーも言われるがままに、床に伏せた。
・・・その時。

『はぁぁぁっ!!』

 ナナシアが叫ぶと同時に、彼の体全体から放たれる見えない力。
その力は伏せる4人の頭上を掠め、壁にぶち当たる。
壁にたちまちひびが入り、5人が立っている床を除くすべての壁と天井が崩れ落ち、最上階はカコログすべてを見回す巨大な展望台へと変わった。

「いったい何が・・・」

 4人が、恐る恐る顔を上げてみると。

「「「「・・・!!」」」」

 文字通り、空に・・・否、空間にいく筋もの亀裂が入っている、カコログの変わり果てた姿が、あたり一面に広がっていた。

「崩壊・・・まさに、文字通り・・・か」

『崩れた世界を食い尽くして、私はいよいよ・・・絶対なる存在を手にすることが出来るのだ・・・』

 ひびがどんどん広がっていく世界を仰ぎ、ナナシアが言う。
不意に、ナナシアは4人に視線を戻すと、言い放った。

『貴様らにもう用は無い・・・ここを食いつぶした後、私はいよいよ・・・貴様らの元いた世界へと進出する。一足先に戻り、楽しみに待つが良い。絶対なる存在たる私の、・・・神々しき姿をな・・・!』

「な・・・何だと!?」

 ギコの聞き返すのを無視し、ナナシアは力を手の中にため始めた。

「あれは・・・破滅の閃光・・・モナ・・・!?」

『・・・せいぜい楽しみに待つが良い。大天使の光臨を・・・』

 言うや否や、ナナシアは手を大きく掲げ・・・放った。

 カァッ!!

「「「「うわぁぁぁぁっ!!!」」」」

 まぶしい閃光の中、狂ったように高笑いするナナシアの声が、薄れ行く彼らの意識の中に、いつまでも響いた。



「兄さん、一人暮らしするって本気?」

「本気モナ。モナ、嘘ついたことは一度だって無いはずモナよ?」

「・・・」

「大丈夫モナ。そんなに遠いところじゃないし、たまには連絡するモナ。だから、ガナーも頑張っていっぱい勉強して、立派な看護婦さんになるモナ。約束出来るモナよね?」

「・・・うん!絶対、連絡してね!電話してね!手紙書いてね!約束よ!」

「うん。約束するモナ」



「・・・う・・・・っく」

 モナーは、息を吹き返した。
 目を開けるや否や、満天の星空が彼の視界全体に飛び込んで来た。
機械で埋め尽くされた部屋に、天井にぽっかりと開く不自然な穴。

「・・・夢、モナか・・・結局、ただの一度も連絡入れてないけど・・・こんな事になって、さぞかし忙しいモナよね、ガナー」

 みかん色の体に黒い瞳。
似ていない兄妹としてさぞかしからかわれたなあ、と回想にしばらく浸った後、モナーは再び辺りを見回した。
 見てみると、どうやらここはかつてセントラルビルの屋上だった場所。
恐らく、カコログで無残な姿になった飛空艇・アークが格納されていたのだろう。

「そうか・・・モナたち、強制的にもとの世界へ帰されたモナね・・・あ!」

 身を起こして辺りを見回しつつ呟くと、自分の隣で突っ伏して気絶しているギコが目に入った。
かなり離れた場所に、モララーと兄者の姿も見える。

「・・・!ギコ、ギコ!!起きるモナ!ギコ!!」

「・・・っ・・・ぐぅ・・・」

 モナーに肩を揺り動かされ、ギコが目を覚ました。

「おう、モナーか・・・大丈夫か?」

「モナは一応大丈夫モナ。・・・帰って来たモナ?モナたち・・・」

「・・・あぁ」

 モナーの疑問に、ギコが頷いて答える。
表情は優れなかった。

「・・・ギコ、やっぱり、あそこでナナシアを・・・」

「・・・うっ・・・痛ってぇ」

「・・・むぅ」

「「・・・!」」  

モナーの質問をさえぎるように、遠くで倒れていたモララーと兄者が目覚めた。
2人があわてて立ち上がり、モララー達の側に駆け寄る。

「ギコにモナーか・・・時に、無事か?」

「おう。2人ともピンピンしてるぜ」

 兄者の質問に、ギコが胸を張って答えた。

「と、とりあえず・・・『ケアル』・・・」

 モナーが回復術を、自分を含める全員にかけた。

「さて。丸々2日、戦いにつぐ戦いに追われまくってた訳だが」

「・・・あ、そっか。モナーたちが襲われてからまだ、2日しか経ってないモナよね、確か」

 兄者の切り出した言葉で、モナーが不意に思い出した。
 モナーはカサーリ2体とヤマザキの亜種、モララーとギコはさいたま、しぃはクマーに襲われた。
 ナナシアに捧げる為の存在意義を奪う部下として、凶暴化されていたAAたちに。
 その中でただ一人、モララーだけがさいたまの体から漏れ出した、何らかの力によって『裏人格』が目覚め、モナーたちに襲い掛かった。
 彼を追って、モナーとギコはしぃをその場に置いて行き、ここ・セントラルビル最上階に来た。
そこでナナシアと出会い、一度は倒したが復活し・・・しぃを弾き飛ばして、ギコを弱みにつけ込んで殺しかけ・・・
 そして、カコログに飛ばされた。
この場合、ナナシアが放った破滅の閃光はあくまでもアークを破壊するため。
モナーらがカコログへ行けたのは、運が良かったからであろうか。
 そこで、ヤマザキら4人の神官たちと激突。
結局彼らはナナシアに見捨てられ、存在意義となってしまった。
そしてナナシアはカコログを文字通り『崩壊』させ、モナーたちは再びナナシアの破滅の閃光によって、2chシティへ戻って来たのである。

「最後にナナシアが放った閃光は、ワープの為のものだろう。アークに乗っていた時はただの破壊目的。我々がアークごとあちらへ行けたのは、きっとラッキーだったのだな」

「・・・こんな沢山の出来事が、たった2日で繰り広げられてたとはな。信じられない」

 兄者の推測に続いて、モララーが率直な感想を述べる。
他3人も同じ気持ちであった。
その時。

「・・・兄者!?兄者か!?」

「「「「?」」」」

 聞き覚えのある声に驚きつつ一行が振り返ると、建物の奥のほうから1人の猫型AAが、こちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。
深く青い体にモナーたちより若干高めの身長、兄者そっくりの目鼻。

「お・・・弟者!!」

「無事で何よりだ、兄者」

 兄者が酷く驚いて声を荒げる。
弟者が苦笑いしながら言った。

「何しろ管制室はこの下だからな。発進させたはいいが、俺はここに置き去りだったって訳だ。丸1日待ちぼうけだぜ」

「すまん。色々と厄介なことになってな」

「分かってる。あのギコエルっぽい奴だろう。あの爆発では、もう生きてはいないと思った。お前達、4人とも」

 弟者が安心しきったように笑った。

「それにしても、いきなり紫色の光とともにここに現れたんだぞ、お前達。 どっかの異次元にでも行って来たのか?」

「「「・・・う・・・」」」

 いきなり図星をつかれ、兄者を除く3人が言葉に詰まる。
弟者が笑った。

「はっはっは、気にするな。俺が興味はあるのは管理人がいなくなった後の2chシティの情勢と、兄者がいつになったらエロ画像に釣られてブラクラを踏まなくなるのかって事だけだ」

「・・・時に弟者、それは無いだろう」

 兄者が肩を落としつつ言い返す。
モナーたちにも思わず笑みがこぼれた。
 その時、弟者が何か切り出した。

「そうだ、おい。そこの黄色いの」

「え、俺!?」

「ギコに何か用モナ?」

 思いがけない呼びかけに、ギコが驚く。
モナーが首を傾げて尋ねた。

「確かお前の相棒にもう一人、ピンクの女の子がいたよな」

「!・・・あぁ、しぃか・・・それがどうかしたか?」

 過去の悲劇を頭に思い出し、ギコが表情を曇らせながら聞き返した。
弟者が頷き、答える。

「その子にそっくりの子が今、2ch総合病院で昏睡状態らしいぞ」

「え!?しぃちゃんが・・・うわっ!!」

「しぃが生きてるだと!?本当だろうな!!嘘なんかつきやがったら承知しねぇぞゴルァ!!」

「誰が好き好んでこんな縁起でもない嘘をつくか」

 血相を変え、同じ事を言いかけたモナーを突き飛ばして、ギコが弟者に勢い良く詰め寄った。
少し戸惑いながらも、弟者は冷静に返す。
兄者がギコの腕を引っ張りながら言った。

「お前はしぃやナナシアの事に絡むと、熱が入りすぎる。時に落ち着け」

「・・・分かったよ・・・」

 兄者に二回目のお叱りを受け、ギコが渋々引き下がる。
変わりにモララーが前に出て、たずねた。

「それで、それは真実か?」

「うむ。桃色の身体に、お前らぐらいの等身に、右目の下の、赤い花の刺青。間違いなかろう」

 頷きつつ、弟者がきっぱりと断言した。

「2ch病院か・・・ここからあまり遠くないな」

「ギコはともかく・・・モナたちも行くモナ!心配モナ、しぃちゃんのこと」

「おっと。その件だが」

 モララーとモナーが相談しているところに、兄者が間に入って、言った。

「俺は弟者と、ここに残らせてもらう」

「「「・・・え!?」」」

「やはりな」

 モナー・ギコ・モララーが驚いて聞き返し、弟者が頷いてそれだけ言う。
兄者はモナーのほうを向くと、言った。

「モナー、忘れたか?カコログ具現化プログラム書き換えの途中、言ったはずだ。俺達兄弟は2chシティ管理人助手だと。管理人ひろゆき、副管理人夜勤・・・あの爆発じゃ、生きている確率はきわめて低い。そうなると、ここの管理は当分、俺達がやらざるを得ない、というわけだ」

「そう言えば・・・そうだったモナね」

「そ、そうだったのか!?・・・信じらんねぇ」

「・・・仕方ないな、それじゃ」

 モナーが納得し、事実を知らなかったギコとモララーが驚きつつ肯定した。

「そういう訳だから、俺は棄権する。行って来い」

「まぁ、せいぜい感動の再開でも楽しんでこいや」

 彼らの言葉に無言で頷き、3人は走り出した。
 病院に到着するや否や、ギコはナースステーションの受付を勤める看護婦に思いっきり詰め寄った。

「おい!!しぃは、しぃは何処の病室にいる!?」

「え!?し、しぃさん・・・と言いますと?」

 病院じゅうにこだますギコの怒声で、ざわついていた病院のロビーが一気に静まり返り、患者や見舞いに来ている人たちの視線が、一斉に3人に向けられた。

「おい!公共の場所で迷惑だろ!第一、その名じゃ誰だか分かりゃしないだろう!」

 ギコを無理やりカウンターから引き剥がし、モナーにギコの身柄を拘束させたモララーが、面食らう看護婦に向かって言った。

「えぇと、シィナ=シャルルさんはどちらの病室ですか?」

「は、はい・・・少々お待ちください」

 モララーの柔らかい口調で少し驚きが和らいだのか、ようやく落ち着きを取り戻したらしい看護婦が、近くの本棚から「患者名簿」と書かれたシールが張られたファイルを取り出し、めくり始める。
それと同時に、静まり返っていたロビーは普段どおりのざわつきを取り戻した。
 ため息をつくと、モララーはモナーが取り押さえているギコをキッと睨み、言った。

「何考えてんだ。しぃが心配なのは痛いほどよく分かるが、少しは落ち着け。さっき兄者に言われたこと、もう忘れたのか?」

「・・・こんなときに落ち着いてられるほうが馬鹿だ」

 モララーの忠告にそれだけ答え、ギコはそのまま目を伏せた。

「こんな時だからこそ落ち着け、って。兄者なら言うと思うモナよ」

 戸惑いながらも、モナーは優しい口調でなだめるように、ギコを自分の腕から開放しながら言う。

「・・・モララーだから、分からないんだ」

「「え?」」

 呟いたギコに向かって、2人が聞き返す。

「その場に居合わせたモナーはともかく、俺たち3人を裏切ろうとしたお前は・・・モララーは、俺がどんな気持ちでしぃをあの場所に置いて行ったか、分かるか?・・・どうせ、分からないだろうがな」

「ギ、ギコ・・・!そんな言い方、無いモナ!!」

 ギコの言葉で、モナーが思わず声を荒げた。

「モララーは、ナナシアに利用されて・・・!」

「それでも!!」

 モナーの言葉をさえぎって、ギコが震える声を張り上げた。

「・・・俺があそこにあいつを置いていかなければ・・・しぃは、俺を追ってアークに来て・・・ナナシアに、殺されかけることには・・・」

「・・・なるほどね。しかしな」

 頷きながら、モララーが反論した。

「もしあの場にしぃを連れて行ったとしても、彼女の安全は保障できなかったと思うぞ。ナナシアとの、最初の激闘が繰り広げられていたわけだからな」

「・・・それは・・・」

 モララーの言葉に、ギコが言葉を詰まらせた、その時。

「あの、外来さん?」

 先ほど話しかけられた看護婦が、患者名簿を片手に3人に呼びかけた。

「はい!何か分かりましたモナ?」

 モナーが尋ねると、看護婦は頷きつつ答えた。

「シィナ=シャルルさんは集中治療室で昏睡状態ですね。フッサール医師とガナー女医が担当医です」

「・・・フッサール、だって!?」

「えっ、ガナーが!?」

 ギコとモナーが同時に聞き返す。
モララーが首をかしげた。

「何だ、知り合いか?」

「フッサールってのは、俺のいとこで・・・」

「ガナーは、モナの妹モナ」

 モララーの質問に、2人が頷きつつ答えた。

「集中治療室は、この棟の3階の奥ですよ」

「おぅ!行くぞ、ゴルァ!」

「あ、待つモナ、ギコ!あ、ありがとうございましたモナ!」

 看護婦に頭を下げつつ、モナーとモララーは、再び先頭を切って走り出したギコを追って、駆け出した。

「・・・ここ、モナ?」

「みたいだな」

 集中治療室、と書かれたタグがはられたドアの前に、3人は立っていた。
疑問を口にしたモナーに、モララーが冷静に答える。
そして、モララーは無言のままのギコに向かって、不安げにたずねた。

「・・・大丈夫か」

「・・・おう・・・」

 一言だけ答え、ギコはそっとドアをノックした。

「入れ」

 低い男の声に促され、3人は恐る恐る集中治療室内へ入った。

「!・・・ギコ・・・!?」

「・・・久しぶりだな、フサ兄」

 ギコの顔が目に入ったとたん、酷く驚愕した茶色い長毛種の猫方AA・・・フッサール医師に向かって、ぎこちない笑みを浮かべながらギコが言う。
モナーとモララーも、軽く会釈した。

「・・・シィナ=シャルルなら・・・そこだ」

 目線を使い、病室の一角に設置されたポッドを示したフサ。
ポッドの中にいた人物を目にしたとたん、3人の顔色から、さっと血の気が引いた。

「「「・・・しぃ(ちゃん)・・・!?」」」

 間違えようが無い。桃色の身体に長い尻尾、右目の下の赤い花の刺青。
 紛れも無く、しぃだった。

「・・・し・・・しぃっ!!!」

 声を荒げ、ギコはポッドに駆け寄った。

「しぃ、しぃ!!俺だ!!ギコだ!!モナーもモララーもいる!!目ぇ覚ませ!!いつまでも寝てんじゃねぇゴルァ!!」

 ポッドのふたを拳で何度も叩きながら、狂ったように絶叫するギコ。
その様子を見守ることしか出来ないモナーたちを尻目に、フサが慌ててギコに駆け寄った。

「ギコ!久しぶりに会っておいていきなりご乱心はよせ!」

「おいフサ兄!!お前、医者なんだろ!!しぃの事死なせやがったら絶対ぇ許さねぇぞゴルァ!!」

「騒ぐな!!少しは頭を冷やせ!!」

「先生のおっしゃるとおりです。ここは公共の場ですよ」

 突然耳に入ってきた女性の声に一同が驚きつつ振り向くと、黒い瞳に丸い尻尾、橙色の体の猫型AAの女性が、いかにもご立腹、と言った様子で立っていた。モナーが柄に無く、細い目を見開く。

「ガ・・・ガナー!しぃちゃんの看護婦だったモナ!?」

「そうよ。全く兄さんったら、急にひとり立ちしてからただの一度も連絡よこさないばかりか、あのボロボロの家残して急に消息絶っちゃうんだもの・・・心配したわ、全くもう」

「う・・・ごめんモナ」

 ガナーのお叱りで、モナーが申し訳なさそうに目を伏せた。

「・・・少しは落ち着いたか?ギコ」

「・・・まぁな・・・で、しぃは助かるんだよな」

 フサの言葉を肯定しつつ、ギコは声のトーンを落とし、念を押すように尋ねた。

「よっぽど大切な人、なのね」

「うん。モナ達にとっても、一緒モナよ」

 苦笑いしながら呟くガナーの言葉を、モナーが肯定した。
フサはやれやれ、とため息すると、切り出した。

「・・・それでは・・・説明しよう」

「彼女は、病院の屋上で倒れていたのを発見したのが最初だった。どうも、空から落ちてきたらしい」

「空から・・・そうか。奴に弾き飛ばされちまったからな」

 モララーが頷きながら呟く。
幸い、フサはそのことを詮索せず、話題は続行された。

「症状としては、全身打撲の大怪我に加えて麻痺症状。ポーションでじきに目覚めると踏んでいた。実際、今の彼女はいたって健康だ。怪我も麻痺症状も完治、脳波も脈も異常なし。・・・しかし、何故か・・・彼女は目覚めない。時折、悪夢にうなされながらな」

 3人の表情が凍りついた。

「おかしいところが何処にも無いのに目覚めないって・・・どういうことモナ!?」

「それが分かっていれば苦労はしない。うなされるたびにポーションを使って抑えているのだが・・・あと数回使えばじきに効力は衰えるかも知れん」

 声を荒げたモナーを冷静に制し、フサは苦々しげに真実を伝えた。

「・・・しぃ・・・俺は・・・ここにいるぞ・・・」

 ポッドにそっと歩み寄りながら、ギコは震えた声で、ポッドの中のしぃに呼びかけた。

「・・・目ぇ覚ませよ・・・ゴルァ」

「ギコ・・・」

 モナーも、モララーも・・・彼を見守ることしか、出来なかった。

「・・・う・・・ぅ・・・」

 その時、再びしぃの表情が、苦悶に満ちた表情に変わった。

「・・・!?しぃ!?しぃ!!」

 血相を変え、ギコが慌ててポッドを再び叩き始める。

「ギコ!やめろ!!」

 慌ててフサがギコを制しようと駆け寄る。
途端に、ギコはフサの胸倉を掴むと、すごい形相でフサに詰め寄った。

「フサ兄!ベッドのふたを開けてくれ!今すぐ!!」

「何!?そんなの駄目に決まっているだろうが!!」

「そうです!衛生面の問題が・・・」

「しぃがこんなに苦しんでやがるんだぞ!側に行く事さえ許されねえってのか!?」

「・・・ギコ!!!」

 途端に、病室内に響くフサの怒声。あたりが一気に静まり返った。

「・・・お前はシィナの事だけが心配でこんなにも俺につっかかるんだろう?・・・だがな。ここは病院だ。仮にも2chシティ前代未聞の大事件だ。破壊活動被害者の・・・患者は彼女だけじゃない!もっと苦しい思いをしてる連中が大勢いる!・・・そこらへんを、よく考えるんだ」

「・・・っ・・・」

 ギコが言葉をつまらせる。
フサはやれやれ、とため息交じりに、言った。

「今から面会謝絶だ。迷惑外来は帰れ」

「・・・行くモナ、ギコ・・・」

「この医者の言うとおりだ。少しは頭を冷やせ」

「・・・」

 モナーが哀れむように、モララーが厳しく言う。
ギコが、力なく俯いた。

「・・・やれやれ。やはりこうなったか、ギコ」

 一行は重い足取りで、セントラルビルの管制室に戻ってきた。
 うなだれるギコに向かって、完全に呆れきった口調で、兄者が言い放つ。

「冷静さを欠いては、その後に待ち受ける最終決戦など、とてもやっては行けんぞ」

「・・・ごめん」

 機械を弟者との2人がかりで操作している為、3人に背中を向けたままの体制ではあったが、彼の言葉には厳しさがひしひしと感じられるものがあり。
ギコは、それだけ搾り出すように言った。

「まあ良いじゃあないか兄者。こいつの相棒を心配する気持ちも、俺は分からなくはないが」
「・・・まあ、そうだがな」

 弟者が苦笑いしながら兄者をなだめる。
兄者は渋々、と言った感じで呟いた。

「そ、それで・・・これからどうするモナ?」

 モナーの質問に、一同が考え込んだ。

「うーむ・・・カコログへの帰還は不可能。ナナシアがいつこちらに来るか分からない以上、下手な手出しは・・・」

 兄者が言いかけた、その時。

 ガガァァン!!

「「「「「!?」」」」」

 突然、屋外で鋭い雷鳴が響いた。

「こりゃ、落ちたな。しかし、さっきまで満天の星空だったのがどうして?雨の音なんか聞こえないのにな」

「・・・!まさか・・・!!」

 弟者が不思議そうに言ったその時、何かを感づいたモララーが突然部屋を飛び出した。
「モ、モララー!?」

「あ、待つモナ!モララー!危ないモナよ!!」

 ギコとモナーも、慌ててモララーのあとを追った。

「おいっ、モララー!!待ちやがれゴルァ!!」

「い、一体、どうした、モナぁ!?」

「・・・・・・」

 ギコとモナーの呼びかけを無視し、モララーは一心不乱に階段を駆け下りて行った。
ロビーに到達するや否や、自動ドアに剣をこじ入れて無理やりこじ開け、空を仰ぐ。

「この空・・・ついに来たか」

「何が・・・って、な、何だぁ!?」

「そ・・・空が・・・!!」

 ようやく追いついた2人も、モララーに習って空を見るなり、素っ頓狂な大声を上げた。
 夕焼けにも朝焼けにも似ても似つかない、まるで血のように真っ赤に染まった空。

「何なんだ、この空・・・」

「この空の色・・・カコログに似てるモナ」

 ギコとモナーが思わず呟く。
モララーが、唇を噛みつつ言った。

「じきに、来るな。・・・あの、穢れた大天使野郎が」

「・・・ナナシアの影響か」

 ギコが呟いた、次の瞬間だった。

 ズドオォン!!!

「「「うわっ!?」」」

 先ほどよりもかなり大きい雷が、街の外れの小高い丘の上に落ちたのが見えた。

「あ・・・あの丘」

「・・・俺達の思い出の場所、だな」

 モナーが何かに気づき、ギコが頷きつつ言う。
モララーが皮肉っぽく笑った。

「あの場所を最終決戦の場所に選ぶとは、なかなか皮肉だこと」

「いつか、遊んだモナよね。あそこで・・・・」

 少し言葉を切り、モナーは懐かしむように、そっと言った。

「・・・4人で」

「・・・」

「4人で、な」

 頷き、モララーとギコも寂しげに言う。

「・・・よし。それじゃあ・・・」

 モララーの言葉で他の2人も顔を上げ、頷いた。

「・・・おぅ。行くか、ゴルァ!」

「最後の・・・決戦モナ!」

「・・・ここだけは・・・変わってないな」

 2chシティ全体を一望する谷の上で、モララーがしみじみと言った。

「おい。あれ見ろよ」

 ギコの言葉で他2人が視線を泳がせると、1本の木が立っていた。
1本だけ、不自然に枝が折れたあとがある。

「あー。あの枝の折れたあと、確かブランコがあったよな。乗ったな、4人で」

「うん。モナと、ギコと、モララーと・・・しぃちゃんで・・・」



「よっしゃぁ!一等賞~!」

「ま、また負けたモナぁ・・・」

「相っ変わらずギコは足だけはいいよなぁ」

「・・・モララーっていっつも一言多いんだよなぁ・・・じゃ、今日も俺が最初にブランコなっw」

「あ~あ、またかよぉ」

「ギコ君、いっつも1人で乗ってるよね、私達で作ったブランコ・・・」

「だって作った時に決めただろー?学校からここまでかけっこして一等賞の奴から順番にブランコに乗る、って」

「でもそれじゃあ不公平だろう。モナーなんかいっつも最後だぞ?」

「も、モナは大丈夫モナ。モナ、いっつもとろいから・・・」

「んー・・・それじゃ、今日はみんなで乗るか?」

「ちょっと怖いね・・・」

「大丈夫だろっ。じゃ、行くぞー!」

 バキッ!!

「「「うわっ!?」」」

「きゃぁっ!?」

「あだだだだだ・・・」

「あーあ・・・枝ごと折れちゃったモナ・・・」

「他の枝、今折れた奴より細そうだよな」

「これじゃ、もう乗れないね・・・」

「「「「・・・」」」」

「・・・あはははは、この木って意気地なしのひ弱だったんだなぁ!まあブランコ以外にもここでやれる遊びはあるよなっ」

「あははは!そうモナね~。ずーっとここで遊べるモナね~」

「えへへ・・・うん、そうだよねっ」

「・・・やれやれ。単細胞なんだから」



「「「・・・」」」

 小さい頃の思い出に浸り、3人とも黙り込んでしまった・・・その時。

 ズガァァン!!

「「「わっ!!??」」」

 至近距離で雷鳴が響き、3人が驚いて顔を上げると。

「うわ・・・真っ黒モナ」

「・・・俺達の、思い出の木が・・・」

 あの日ブランコがぶら下がっていた木が、真っ黒に焼け焦げていた。

『下らぬ思い出など不要だ。いずれ私の支配下となる、この地にはな』

 驚いた3人が振り返ると。

「・・・!!」

「・・・貴様っ・・・」

「・・・来たか」

 体の色が山吹色から金色に変わり。
 背中の翼が2対から3対に増え。
 頭の輪にも1対の羽を生やしてはいたが。
 ・・・ナナシアが、3人を軽蔑の目つきで見下ろしていた。

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