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NIGHTMARE CITY-NEXT STORY- (ギコ)

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匿名ユーザー

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NIGHTMARE CITY-NEXT STORY-
NIGHTMARE CITY-NEXT STORY-
=新章<第一話>~光の兆し~=

(さよなら…)

(しぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!)

バッ!

オレは慌てて起き上がった。

「夢…か……」

ここはオレの部屋。今はベッドの上に上半身だけ起こしたような状態だ。

決して大きくも小さくもなく、ベッドにテレビ、本棚と机だけがある、ごく普
通のシンプルな部屋である。

「いや…夢じゃない。あれは……全部事実なんだよな………」

額に手をあて、眼から何故か涙がこぼれる。いや、理由はわかってる。

オレは眼を隠すように額に手をあてたまま、またベッドに寝そべり、悲しみに
暮れていた。学校にも、もう何日も行ってない。

「しぃ、オレはまだ罪を…償いきれてないよな。どうすれば…どうすれば償いきれる?死か?それとも別の何か……?わからねぇ…教えてくれよ…しぃ…」

ピンポーーーン。

家のベルが鳴った。父さんも母さんもいないからオレが出なきゃならない。でも、何もする気にならない。動くのもだるい。

「ギコーーー! お前何日学校来てないのかわかってんのかーーー!?」

窓から飛び込んできたのはフサの声だった。

「ともかく入るからな!!」

ガチャッ

玄関のドアが開いた音がした。そういえば鍵をしてなかったような気もする。

カツカツと階段を上がってくる足音がする。

カチャッ

今度はオレの部屋のドアが開く音。

「いるなら返事くらいしろよ…」

フーと息を吹き出して机の椅子に腰を下ろした。

「ギコ…お前何やってんだよ」

「………」

「眼ぇ覚ませよ…」

「眼は覚めてる。だからこそ…辛いんだよ…」

「……そうだよな。わかってるさ……でも、親友なんだからお前の力になりたいんだよ」

「あぁ…お前には何度も励ましてもらってる。感謝してるさ。でも……」

「こればっかりは…親友にも…どうにもできないか…?」

「…………」

何分間か沈黙が続いた。そして、沈黙をやぶったのはフサの携帯の音だった。

フサの好きそうな音楽の着信音が鳴り響く。

(ったく、こんな時に……)

フサがオレを横目に電話を取った。

「何だ」

電話は兄者からだった。

「大変だフサ!! 大事な話がある!!! >>1とおにぎりはもう来てる!! コアの前にギコを連れて来い!! 今すぐだ!!!」

キーーーーーン! 

耳鳴りがなる程、オレにも声が聞こえる程大声だった。

「大声で叫ぶな! 鼓膜が破れるだろ! …ったく。で? 何が大変なんだよ?」

「詳しくは後だ! わかったな!?」

プッ、ツーツーツー……

「切りやがった…ま、あんな大声だったんだ。聞こえたよな?行くぞ」

「オレは行かない。行く気になれない……」

「いいから来い!」

そういうとフサはオレの手を引っ張って連れて行った。

「おい! 離せ! オレは行かねぇ!」

「……」

「無視かよゴルァ! 離せ!」

フサはオレの言葉には聞く耳も持たず、無理矢理引きずっていった。そしてみんなの所に到着した。

「待たせたな」

「あぁ。待ったぞ」

そこには弟者と妹者はいなかった。兄者、≫1とおにぎり、それと、

「!? サザン!」

と驚くオレ。

「久しぶりだな」

「こっちに来てたのか……」

「あぁ。あのサーバーも壊れたからな。元気してたか?」

「………」

「あれ?」

フサが間を割って、

「実はな…」

フサはしぃの事をサザンに話した。オレは、その話は聞きたくなかったから、少し離れた場所にいた。

「そうか…そんな事が……」

「あぁ……」

兄者が音が鳴るように手を叩き、こう言った。

「とりあえず本題に入ろう。今日は何の話で呼んだんだ?」

フサは目を丸くした。

「あれ? お前まだ聞いてないのか?」

「当たり前だろう?」

「いや、だってさっき…」

「あぁ、あれか。ああ言えばお前らすぐ来ると思ってな」

これには>>1とおにぎりもビックリして、

「え!? そうだったの!?」

「ひどいよ兄者!」

フサはあきれて言った。

「なんだ? お前らもか?」

兄者が眼を光らせて、

「全員さ。くっくっく…」

バカみたいに笑う。

「くっくっくじゃねぇよバカ! …まぁ、んなことどうでもいい。サザン」

「あぁ。今日みんなを呼んだのはな、大事な話があるからなんだ」

みんながゴクリとかたずを飲んだ。

「単刀直入に言おう。NIGHTMARE CITYは…消えてない。一部分だけが残ってるんだ」

「何!?」

全員が驚いた。

おにぎり、兄者、>>1、フサが順に、

「どうして…!?」

「戦いは終わったはずじゃ…」

「まままままさか、あいつまで残ってないよね!?」

「ちゃんと説明してくれ」

サザンが軽く頷いた。

「兄者、ナイトメアプログラムが存在しないとなると、街を救う方法は一つに絞られるよな?」

「あ、あぁ。管理AIを全員倒す。これしか残らない」

「そうだ。そして君達はそれをやってのけた。……のように思えた」

「違うのか?」

「管理AI全員が死ねばいい訳じゃない、全員を君達の手によって倒さなきゃいけないんだ」

「つまり……必ずこっちの住人が止めを刺さなきゃならないっていう事?」

「正解だ。そして管理AIは全員で七人。モララー、モナーにつー、8頭身が三人、そしてしぃ。モララーはギコが」

「つーは、妹者が」

「モナーは、あっちで避難してたこっちの奴らが」

「8頭身はレモナさん達が」

「そう。そしてお前らが手を下してないのは誰か。ギコ、・・わかるよな?」

「しぃ…」

「そうだ。だからしぃが死んだとこだけが残っている。そこで死んだ管理AIと共に」

オレは耳を疑った。信じられず、もう一度聞き返した。

「…なんだと? 今……今何て言った!?」

「わからなかっなら簡単に言おう。しぃは生きている。そう言ったんだ」

「しぃが…生きてる……?」

オレは涙を流した。最近は涙脆くてだめだ。あいつの事となると何かと泣いちまう。

「あいつが…生きてるんだな……?もう1度…あいつに…会えるんだな…?」

「そうだ。そしてこれからはずっと会える。聞いた話によるとしぃにも人間の姿があるとか。ならしぃもこっちに連れて来ればいいだけだ」

「そうか…そうか……!!」

拳を強く握って喜んだ。夢だとしても、覚めない自信があった。オレはしぃに言わなきゃいけない事があるから。守れなかった事を謝って、言わなきゃいけない。“オレも大好きだ”って…


<第二話>~再会の意外な結末~

フサがギコに向かって言った。

「ギコ、行くんだろう?」

「あぁ、もちろん!」

(ちっ、こいついきなり元気になりやがって……なによりだ)

オレはこの時フサが小さく笑ったように見えた。

「よし! なら行くのはお前一人だ!」

「へ?? なんで??」

兄者があきれたように、

「当たり前だろう? 俺達は二度とあんな場所行きたくないんだよ」

おにぎり&>>1が声を揃えて、

「同感」

二度ほど頷いた。

「そうゆうこった。それにお前達の再会に水差したくねぇ」

「そうか……」

「しぃが心配してるようならこう言ってやれ。こっちに来ても、もうお前の敵はいないってな」

「あぁ! サンキューなフサ!」

「大した事じゃねぇよ。礼ならサザンに言いな」

「そうだな……」

オレはサザンに駆け寄った。

「サザン、ありが……」

オレが礼を言いかけると、サザンが人差し指を立て、オレの口を押さえて、

「その言葉は、君がしぃを無事に連れ帰る事ができたら受け取るよ」

「サザン……わかった。必ず連れてくる!」

「さぁ、行くんだギコ。しぃは今でも君に会いたがってるはずだ」

「ああ! 言ってくる!!」

オレはコアに飛び込む準備をした。深呼吸を繰り返し、高鳴る心臓を静めた。

「じゃぁみんな、行ってくる!」

みんなが声を揃えて言った。

「絶対にしぃを連れてこいよ!」

オレはコクリと頷き、コアに飛び込んだ。

     <NIGHTMARE CITY>

ヒュン! 

黄色い光が地面に降り立ち、黄色い猫が目を開けた。

オレは辺りを見渡した。半壊したビルの数々、抉れた地面……様々な戦いの後が残っている。そしてここは紛れもなく、オレがモララーと戦った場所だ。

「ここは……そうだったな。ここしか残ってないんだ。って事はこの辺にしぃがいるはずだな…」

これで何度目だろうか。オレは桃色の体をした猫を探した。でも、範囲が狭いためか、今度は比較的早く見つかり、崖の近くで座っていたのを見つけた。

この辺は何か剣で思いっきり斬りつけたような傷が地面にあった。おそらくこれもあの戦いのせいだな。

心の準備はできた。これから声をかけるんだ。…って時なのに、何故か声が出ない。目もぼやけてきた。

(あれ…? なんで……)

ポタポタと水滴が地面に落ちた。目がぼやけていたので目をこすった。

(…? 指が濡れちまった……)

水滴はいまだに地面に落ち続ける。

頬に温もりを感じた。

(泣いてるのか……まったく、ここ何日かで何回も泣いちまってるぜ……今は悲しくなんて無いのに……嬉しいから泣いてるのか。いや、違う……この感情はもう嬉しいなんてもんじゃないよな……しぃ、会いたかった…良かった……また…巡り逢えた……!)

オレは力を振り絞って声を出した。

「しぃ!!!」

しぃの耳がピクリと動いた。辺りをキョロキョロ見渡して、後ろを向いてオレを見つけた。

「しぃ……」

でも、しぃは嬉しがるところか、驚きもせずに、ただ呆然として、どこか不思議そうにオレを見ながら、その口を開いた。

「えっと……しぃってあたしの事??」

「え……何言ってるんだ、当たり前だろう??」

「そう……それじゃぁ君は……誰??」

「え……な……」

「あ、ゴメンね。あたし、実は…何も思い出せないの…」

オレは言葉を失った。涙も気付かぬ間に止まっていた。信じられなかった。

         信じたくなかった。

そんな……やっと会えたのに……忘れた……?この街が何なのかも、オレと会った事も……全部……忘れちまったってのかよ……


<第三話>~蘇る記憶~

「あの……あたしの事、知ってる限りで良いから教えてくれない? 何か思い出すかもしれないし」

「そうだな……わかった。少し辛い話になるかも知れないけど…聞いてくれるか?」

しぃは少し不安そうに、

「うん……自分が何だとしても、受け入れる覚悟はできてるよ」

「わかった。実は、この街はな……」

オレは話し始めた。この街が何なのか、オレの街で何が起きたか、何故オレがこの街に来たか。
オレとしぃが出会った事、友達になった事も。そして管理AIが何をしたか、しぃも管理AIだった事も話して、それをオレに黙っていた事も、オレがしぃを守りきれなかった事も話した。
でも……しぃがオレに好きだと言った事だけは、どうしても言えなかった。

「そっか…あたしは…そんな酷い事する人たちの仲間だったんだね……」

「仲間と言ってもしぃは何も悪さをしてないんだぞ? お前は悪くないんだ。悪いのは……管理AIと……オレだ」

「ありがと……でも、ギコ君は悪くないと思うな」

「いや、でも……」

「結局あたしは生きてたんだから! ギコ君に責任は一つも無いはずだよ?」

「そうだな・・ありがとう」

(しぃに記憶があってもこう言われただろうな。)

そう思うと、少し悲しくなってきた。でも…ホントに悲しいのはしぃの方だよな……記憶が無いってどんな気持ちなんだろうな……今、オレが来るまでしぃの頭の中は真っ白で、誰も知らないし、何の思い出も無かったんだ。それって絶対……寂しいよな……

「よし! 決めた!」

「え?? 何を?」

「しぃ、オレの街に来ないか?」

「え…でも…行ったって迷惑なだけだし……」

「誰が迷惑するんだよ??」

「ギコ君は……迷惑じゃないの??」

「誘ってる張本人が迷惑する訳ねぇだろ!」

「でも、あたしの事を敵って思ってる人もいる訳だし…それに、住む所も無いし…」

「大丈夫だよ! お前を敵なんていう奴は、もう一人もいない! 住まいなら泊めてくれる知り合いがいっぱいいるし、なんならオレん家に来てもいい!」

「でも、やっぱり……」

「あ~~でもでもうるせぇなゴルァ! 来たらいいんだよ! 戦いはもう終わってるんだ! 今はみんなしぃの友達だ!」

しぃが目を丸くして、少し泣きそうになった。

(やべ、強く言いすぎたかな……?)

「ホントに良いの……?」

心配してるしぃにとって、半ば強引に言われたのが逆に嬉しかったようだ。

「ああ。オレも、記憶なんかなくてもしぃの友達だからな! 思い出なんてこれから作れば良い! 悲しい時や辛い時はずっと傍にいてやる! 楽しい時は二人で大声だして笑い合おう! 絶対楽しいぜ!!」

しぃがポロポロ涙をこぼし始めた。そして、目に掌をあてて行った。

「ありがとう……」

「さ、行こう!」

オレはしぃに手を差し伸べた。

「うん!」

しぃはオレの手を取った。

(ギコ君の手…温かいな…でも、この温もりどこかで……)

(しぃと手を繋ぐのも久しぶりだな…)

なんて思ってると、しぃに変化があった。

(ドクン…)
「あ……」

「? どうしたしぃ?」

「何か…何か思い出せそう……」

「え……え!? ホントか!?」

「うん……ちょっと静かにしてて……」

そう言うと、しぃは頭に、オレと繋いでいない方の手をあてた。

オレは見守るしかない。祈る事しかできないけど……何か力になりたい。

オレはしぃの手を両手で握り締めた。

(声が……ギコ君の声が聞こえる……)

“オレが友達第一号だ!”
あ、ギコ君と初めてあった時だ。そっか、この時に友達になったんだっけ。

“このイツワリの街を出よう。必ず君を守るから”
うん…ずっと守ってくれたよね……

“良い管理AIもいるかもしれないだろ”
この言葉はすっごく優しい言葉だった。うれしかったなぁ……

“しぃ!オレは絶対にお前を守ってみせる!”
この時はギコ君が生きててホントに良かったって、あたしにとってギコ君は大切な人なんだなって思えた。

“すぐ戻るから……待ってろ。きっとキミを救い出してやる”
ホントに戻ってきてくれたんだよね。そしてあたしの心を救ってくれた。

“オレはお前が管理AIでも嫌いになったりしない!! ずっと友達だ!!!”
ぐすっ、なんだか泣きたくなってきちゃった……

“しぃ…やだよ…最後なんて言うなよ……”
ギコ君…あたしがいなくなるのをこんなに悲しく思ってくれたんだね…

“しぃーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!”
ギコ君………

「ギコ君!!!」

しぃが泣きながら、突然オレに抱きついてきた。

「んなっ……しぃ……?? 思い出したのか??」

真っ赤になりながらも、質問を投げかけた。

「うん…ぐすっ……全部思い出したよ………ありがとう、ギコ君……」

「良かった…しぃ…やっと……」

「やっとギコ君を見つけた…………」

「やっとしぃに会えた…………」

「「もう……離さない……!」」

唇と唇が重なった。言うまでも無く、オレもしぃも初めて。

顔を離し、目を合わせるとかなり恥ずかしくなってきた。

顔を真っ赤にして、涙目で、でも二人とも今までで一番の笑顔で笑いあった。

しぃが涙を拭いながら言った。

「あたし……もっとギコ君と二人で話したい……」

「じゃぁちょっと話してから行こっか」

オレとしぃは日が暮れるまで話した。ずっとこの幸せが続くと思うと、嬉しくてたまらなかった。

それから……しぃはこっちの街に来て、オレの家に住んでる。妹者かレモナさんとこに住めって言ったんだけど、オレと一緒が良いってきかねぇんだよな…
あと、戻ってきた時、フサ達は夜まで待ってた訳で、やっぱ怒られた。
そんで、しぃにはオレの街のある程度の事を教えて、今は一緒に学校に行ってる。しぃはいっつもオレに、「幸せだね」って言ってくれる。


だからオレはこの幸せな日常の為に、これからもしぃを守っていく。


<第四話>~次の戦い~

あれから一ヶ月が経った……

ここはオレ達の通っている学校。ここの校風は、服装は自由。名門校でもないごく平凡な中学校。学校自体は三階建てで、一クラス十八人ずつ。一学年二クラスで、それが三学年。全校生徒百八人の小さな学校だ。オレの席はしぃの横。後から二番目の一番左の窓際。んで、オレの後がフサで、フサの隣が兄者。こんな風に都合よくメンバーが集まった席配置。弟者と>>1とおにぎりは別のクラス。レモナさん達は高校に言ってて、妹者はもっと良い中学に行ってる。

二階の一番奥。ガヤガヤ騒いでいる三年B組の教室。そこにしぃが入っていった。

「おはよう。フサ君、兄者さん」

しぃが言うとフサは力が抜けた声であいさつを返した。

「お~~っす」

兄者はあいさつを返すと、質問を投げかけた。

「? ギコと一緒に来なかったのか?」

「途中までは一緒だったんだけど『忘れ物した!』って戻っちゃった」

そういうと兄者が鼻で笑い、フサは声を上げゲラゲラと笑った。

「ははは。ギコらしいな~~」

「しかし、あいつ間に合うのか?」

「う~~ん……わかんない。間に合うと良いんだけど……」

しぃの心配も虚しく、学校の鐘が鳴り、先生が入ってきて出席をとり始めた。

「はい、ゲームオーバ~~」

フサが言った。

「ギコ! ギコはいないのか!?」

先生の怒り混じりの質問にフサが答える。

「遅刻っす。そろそろ来る頃と思いますよ」

「そうか、全くあいつは……まぁいい」

全員の出席をとり終わり、一時限目が終わってもギコは来なかった。

「ギコ君遅いな~……もしかして何かあったんじゃ……」

しぃが心配そうに言った。

「大丈夫さ。ギコは何かあったってお前がいる限り死なんと思うぞ? なぁ、フサ」

兄者が言うと、フサは少し可笑しそうに、

「ま、そいつは間違いねぇな。なんたって、傷だらけで海に落ちてもしぃの為に生き延びた様な奴だかんな~」

「もう! 恥ずかしいからその話は出さないでよ!」

「良いじゃねぇか。ギコの数少ない武勇伝だぜ??」

「うんうん。その上、しぃが関ってないと何もできない情けない奴だからな」

フサと兄者がふざけていると、後に金髪の人影が現れた。

「勝手な事言ってんじゃねぇよ!!」

ギコがフサと兄者の頭にゲンコツをした。ゴツンという鈍い音が、二回続けてオレの耳に入ってきた。

「ってぇな! 冗談だよ冗談!」

フサが涙目で言う。

「ほう? 冗談には聞こえんかったが?」

「馬鹿だなぁ、ギコ。もう長年付き合ってるのに、フサやオレの冗談も見抜けんのか?」

兄者があきれたように言った。

「ったく、よくそんな言い訳がスラスラと出てくるもんだな」

オレは兄者の言い訳も聞く耳持たず、ドカッと自分の席に座った。

{ダメだ……ギコの奴、不機嫌モードに入っちまった。しぃ、何か話題代えてくれ}

フサが小声でしぃに頼むと、しぃは頷いてオレに話しかけた。

「ギコ君、随分遅かったけど何かあったの?」

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こらまた小声で兄者とフサが。そしてしぃにガッツポーズ。

「ん?? …そうだった! 忘れるとこだったぜ! 実はな、来る途中にサザンがいてよ、オレ達に話があるらしいんだ。でも、『しぃとフサと兄者はもう学校行ったぜ?』って言うと、『みんなが集まってる時に話したい。学校が終わったらコアの前に来てくれ』だとさ。かなり思いつめた顔してたから、『そんなに重要な話なんか?』ってオレが聞くと、『とても深刻なんだ。君達にもホントは話したく無い。巻き込む事になるからな。でも、私一人の力では…奴らは倒せないんだ』だってよ」

しばらく、三人は状況を把握できないでいたが、フサがかたくなに口を開いた。

「倒せないって事は……」

それをしぃが付け足すように言った。

「また……戦いが始まっちゃうの?」

そして、兄者が言った。

「奴ら……と言う事は、複数だな」

オレはコクリと頷き、言った。

「あいつ、ホントに深刻そうだった。多分、かなり厳しい戦いになるんだろうな。『ホントに戦う覚悟がある者だけ来て欲しい』って言ってたし・・」

「どうするよ?」

フサがみんなに聞いた。オレは最初に答えた。

「オレは行くぜ。あいつには恩があるし、大切な仲間なんだ」

続いて兄者が、

「だな。オレも行こう。フサ、お前自身はどうする?」

「行くに決まってんだろ? オレだけ逃げてどうすんだよ」

フサが言うと、オレはしぃに言った。

「しぃ、危ないからお前は……」

「あたしも行く! なんて言おうと行くからね!」

しぃが強い決意の目で言ったんで、オレは

「わかってるよ。お前はそういう奴だ。でも危険な戦いになる。だからお前は……オレが守る。絶対にオレの傍から離れるなよ」

「うん! 絶対に離れない!」

「ヒューヒュー! 熱いねぇお二人さん!」

フサがからかう様に言った。

「うるせぇなゴルァ!」

オレは怒りながら、しぃは黙りながら赤くなっていた。そこを兄者が仕切るように言った。

「よし! ともかくこれで決まりだな」

フサがいきなりキリッとした顔つきになって、

「あぁ、そうだな」

「てめぇは何いきなり真面目そうになってんだよゴルァ!」

「なんだと!? オレはいつでも真面目だろうが!」

オレがフサと言い争っているのを、兄者が爽やかに無視して言った。

「にしても、仲間の為に危険をおかすなんて……流石だよなオレら」

「くすっ、兄者さんのその台詞、久しぶりに聞いたな」

そこへ、

「おい、そこ!! もうとっくに授業は始まっとるのに、いつまでも騒いどるんじゃ無い!!!」

オレ、しぃ、フサ、兄者の四人に先生の怒号が響く。

「「「「す、すみません……」」」」

{おいフサ、てめぇのせいで怒られちまったじゃねぇか・・}

{何!? そりゃぁオレの台詞だ!}

{まだやってるの~?}

{どう考えてもお前ら二人のせいだろ……}

「何ぃ!? 兄者! お前も横で何か喋ってたろ!?」

「全くだ! オレとフサだけ悪者かゴルァ!!」

「オレはそんなに大きな声じゃなかったんだよ!」

「もう! 三人ともいい加減にしなよ!!」

教師は怒りのあまり、チョークを砕いて四人を指差した。

「四人とも廊下に立っとれーーーーー!!!!!」

「ゲ……」

「マジかよ……」

「あたしも~?」

「最悪だ……」

キーン コーン カーン コーーーン……

---放課後---

オレは疲れ果てて、大きなため息をついた。

「はぁ~~……今日は散々だったぜ……」

「誰かさんのおかげでね」

「悪かったよしぃ……」

「全く、いい加減にしろよギコ!」

「もうこれっきりにしてくれな」

フサと兄者が言う。

「お前らには言われたくねぇ!」

「もうケンカはやめてよ? コアに行くんでしょ、ギコ君」

しぃがオレを止めて、別の話題を振った。どうもこいつはこういったのが得意だ。

「そうだった! おい、急ごう!」

オレ達は校門を出た。

そしてコアに向かう途中、フサが気付いたように言った。

「あ! おにぎり達はどうすんだ!?」

すると兄者が言った。

「休み時間の間に確認は取ってる。あいつらは来ない」

「なんで?」

「妹者と弟者は兄として危険な目に会わせたくない。おにぎりと>>1は戦いに不向きだろう?」

オレは聞いた。

「レモナさん達は?」

「……『不吉な空気が漂っているのは気付いてました。でも、私達は不必要な戦いは好まない。あなた達とは仲間と思ってますが、そのサザンという方とは会った事が無い。故に手助けする義理はありません』だそうだ」

「そうか……仕方ねぇな。もっともな理由だし」

「ねぇ……レモナさんって……誰なの?」

しぃの質問に、オレ達は顔を見合した。そして、フサが答えた。

「あぁ、しぃは知らねぇんだよな。一緒に街を救った仲間だ」

「へぇ、そうなんだ」

オレは大きな声で言った。

「なぁに! あの悪管理AIより強い奴なんていねぇさ! オレ達だけでサザンを手伝おうぜ!」

「ああ、もちろんだ!」

---それから数分後---

オレ達はコアに着いた。そこにサザンの姿があった。

「よっ、サザン」

「ギコ……来てくれたのか。ありがとう」

「久しぶりだな~」

「フサ、兄者も……」

「あたしも来たよ~」

「しぃ! ……君まで来てくれたのは嬉しいが、危険な戦いになるんだぞ?」

「大丈夫! ギコ君が絶対守ってくれるから!」

「そうか……みんな、恩に着る。君達の力があればどうにかなるかも知れない……ギコ、しぃ、フサ、兄者。……頼む。私に力を貸してくれ」

「な~に言ってんだよ! 仲間だろ? サザン!」

「最初からそのつもりだよ!」

「どんな敵でも、チャチャッとかたづけてやるよ!」

「オレの力でよければいくらでも貸すさ。さぁ、話してくれ。次の敵の事を」

「感謝する……では話すぞ。念を押すようだが……この話を聞くと後戻りはできない。しかし、君達の決意は伝わった。私も………覚悟を決めよう」

そしてオレ達はこの日、サザンの過去を知る事になる。でも、それは信じられない事で……まさか、あのモララーが……それに、クロノスって……?


<第五章>~サザンの過去・上~

「みんなに敵の事を話す前に、話さなければいけない事がある」

話さなきゃいけない? こんな重要な時に? それ以上に重要な話なのか? オレにはいくつかの疑問がとっさに浮かんだが、フサの一つの質問でわかった。

「こんな時に話すんなら、敵に関係してる事なんだな?」

サザンが首を縦にコクリと振る。

「私の……過去だ」

「「「「!?!?!?」」」」

オレ達は全員が目を丸くした。

そう言えばサザンの過去は聞いた事がない。聞こうともしなかったし、サザンも話そうとしなかったからな……でも、話そうとしてくれたって事は…それ程オレ達の事を信頼してくれたんだな……

「これは六年前の話だ・・・---

当時、この『DREAM CITY』にはいつ何時も行動を共にする三人の男がいた。赤い髪の男に青い髪、緑の髪をした男。この男達はある仕事を共にしていた。殺人以外の戦闘依頼ならなんでも受け付ける仕事だ。当時も今も、とても珍しい仕事でな、この仕事に名前なんて無いんだ。

この仕事は正に三人の天職だった。三人は次々と来る難儀な依頼を簡単にこなしていった。その内、この三人組にはある呼び名が着いた。色鮮やかな髪をした三人の戦士で、『色彩三戦士』。個人個人の呼び名もあった。

『赤髪のサザン』、『緑髪のクロノス』、そして・・・『青髪のモララー』。

---現在---

「「「「モララー!!??」」」」

オレ、しぃ、フサ、兄者はまた同時に驚いた。

「あいつもこの街の住人だったんか!?」

「モララーがサザンの仲間だったなんて……」

「何がどうなってんだ!!??」

「サザンの仲間だった奴がどうしてあんな悪になれるんだ??」

ギャーギャーとオレ達が騒いでいると、

「み、みんな……話は落ち着いて、最後まで聞いてくれ」

オレ達は静まり返った。オレはみんなを代表して謝罪した。

「あ、悪い……続けてくれ」

そう言うとサザンが話を続けた。

---六年前---

私達は自分達が一番強いと思っていた。そんな私達の元に一つの依頼が転がり込んできた。その依頼内容は・・・

     『この街と同じ電波を発する街の調査』

そう。わかったと思うが、これが『NIGHTMARE CITY』だ。夢と悪夢、正に表裏一体のこの二つの街はどうゆう関係なのか、この調査だった。普通の調査団体に頼めば良いのだが、危険を伴うため、私達に依頼したそうだ。

クロノスが目を輝かせて言った。

「面白そうじゃんか! 危険な臭いがプンプンする! 行ってみようぜ!?」

それにモララーが答えた。

「いつもいつも暑苦しい男だ。だが……行ってみる価値はある。サザン、貴様はどうする?」

その質問に私が答えた。

「お前達が行くのに私が行かない訳にもいかないだろ? それに、行ってみたいのは私も同じだ」

この一言ずつである程度わかると思うが、クロノスはリーダーシップがあり、情熱的な男で、モララーは冷静沈着で口は悪いが、根は仲間想いの男だった。

この二人と共にする日々は、充実していた。そして、大切だった。だが、そんな大切な日々が、依頼実行当日に崩れる事になるんだ……

---現在---

サザンが話を急にやめ、オレ達に言った。

「……もう一時間も話し続けたのか。一息つこう」

サザンも話し続けで疲れたと思い、オレは同意した。

「そうだな……少し休むか」

オレ達はこの後、サザン達にあの街で何があったのかを知る事になる。そしてそれを聞き終えた時に……次の戦いが始まる。


<第六章>~サザンの過去・下~

休憩して十分が経った。

「サザン、そろそろ良いか?」

「ん……ああ、そうだったな。ではそうしよう」

サザンは何か考え事をしているようだった。やっぱ昔話をしてると色々思い出すのかな……

「どうかしたの? ギコ君」

「へ? いや、なんでもないよ、しぃ。サザン、始めてくれ」

オレが言うとサザンはコクリと頷き、話を再開した。

---六年前---

依頼実行当日……私達は依頼者の元に向かった。

小一時間程歩くと依頼者の仕事場である、大きな研究所に着いた。

「でっけぇな~~……ってゆうかさ、研究所って事は…依頼者って科学者なのかな?」

「……は?」

クロノスの漏らした言葉にモララーは絶句した。私はクロノスに言った。

「クロノス、依頼の手紙が来た時は依頼内容だけでなく、ちゃんと差出人まで確認しろといつも言ってるのに……」

「ん? そんなん書いてたか?」

「貴様……もう帰れ」

「まぁまぁ、モララー。いつもの事ではないか」

「いつもの事だから愛想が尽きたんだ」

依頼の手紙が来ると、クロノスは依頼内容だけ見て受けるか受けないかを決めていた。この男は全ての依頼を受けたがな……

「別に良いじゃんか! 誰の依頼でも実行するのは俺らなんだ!」

「まあ……一理ある」

「よし、それじゃぁ中に入ろうか。クロノス、モララー」

私達は研究所のドアを開けた。中に入ればまるで別世界の様な所だった。前を見れば科学者。右を見ても左を見ても科学者だからな。人が千人は入るほど大きな建物だった。

中に入った私達に、一人の科学者が話しかけて来た。

「ようこそ。色彩三戦士様ですね? お待ちしておりました」

「と言う事は、あなたが依頼者ですね?」

そう私が聞くと、彼はこう答えた。

「そうですねぇ……正確に言えば、ここの科学者全員が依頼者です」

この言葉からわかる様に、その同じ電波の街と言うのは、ここの科学者全員を動かす様な問題だった。

「どうぞ、こちらです」

「どこへ?」

「博士の元に案内します」

博士はここの総責任者だった。

{俺こう言う堅苦しい雰囲気に苦手なんだよなぁ……}

{……俺もあまり得意じゃない}

道理でこの二人は口数が減るわけだ。難しい話が嫌いらしい。

一つの大きな直線を数分間歩くと、大きな部屋に到着した。

「博士。色彩三戦士様がお見えになられました」

「そうか、入れ」

部屋の中から声が聞こえた。その声を聞くと、科学者がカードキーでそのドアを開けた。

「どうぞ、お入り下さい」

中はコンピューターとファイル、ディスク等、科学者ならではの物が数多くあった。

「お待ちしておりました。私がここの総責任者の者です。ここの科学者には『博士』と呼ばれております。早速ですが、本題に入ってよろしいかな?」

「どうぞ。ここの二人は頭が悪いので、率直簡潔にお願いします」

「サザン、てめっ!!」

「まとめるな。この男よりはいくつかはマシだ」

「モララー! なんだそりゃ!」

「事実を述べたまでだ」

ギャーーギャーーと言い争いをしてる二人を後に、

「では博士、具体的な依頼内容を」

「い、良いんですか?」

「構いません」

「そうですか……では申し上げましょう……同じ電波を発する街。これは手紙に書きましたよね?」

「ええ」

「実はですが……同じ電波を発する街、これは絶対に有り得ません。同じ電波を発するなら、構造が全く同じでないとならない。だがそんな事は絶対に有り得ません。しかし実際にその街は今も尚、その電波を発している。以上を踏まえて考えられるのはただ一つ。この街は……」

急には信じられない話だったが、私は瞬時に理解した。そこで一つの答えに行き着いた。

「データの街……」

私がそう言うと博士が頷いた。

「御名答。そこで私達は、あなた方をデータの街にも転送できる装置を至急開発しました。その装置はこちらにあります。ついてきてください」

私達は更に奥へと進んだ。その部屋には大きな穴しかなかった。

「では飛び込んで下さい」

「「「……何?」」」

あまりにも唐突だったので何を言ったのかわからなかった。数秒すると全員理解した様だ。

「おうおうおう! いきなりなんだ飛び込めとは!」

「どけ、クロノス。この男……死にたいらしい」

「モララー、それはやり過ぎだ……博士、どうゆう事です?」

「サザンさん、こちらが先ほど言った装置です」

「装置!? この穴が……ですか?」

「はい。これに飛び込めばあの街に転送されるはずです。ただ……一つ問題が……」

「問題? なんです?」

「要領制限です。その人の力量が多いと、別の姿になってしまいます。そしてあなた方は……制限をかなりオーバーしている。つまり、強すぎるのです」

「はっはーん! 俺達が強いってか! わかってるじゃねぇか! 聞いたかモララー!? 強いだってよ!」

「当然だ。だが別の姿と言うのが気にかかる」

「同感だな。博士、別の姿とは?」

「入ってみないとわかりません」

「ま、とりあえず入ってみようぜ。サザン、モララー」

「「ああ」」

そうして私達は穴に飛び込んだ。気がつけばすでに猫の姿だった。それぞれ髪の色になっていた。クロノスは驚き、モララーは力が弱くなったのを嘆いていたその時、遠くに四つの光の玉が見えた。

私はそれを見つけ、未知の物だった為二人に言った。

「二人共、あれを見てみろ」

「「何だ?」」

その玉はそれぞれ、『黄』『青』『白』『黒』の色合いだった。

黄の玉ははじける様な、青の玉は静寂な、白の玉は聖なる気が漏れていた。だが黒の玉だけは……邪悪な感じがした。

「あれは危険だ……」

「モララー!? 汗だくじゃねぇか! そうしたんだ!?」

「クロノス……サザンもだ…どこか遠くへ行ってろ。黒の玉は…俺を呼んでいる」

モララーが言ったこの言葉。私はこの言葉を信用し、納得した。何故なら…

「私も……黄の玉が呼んでいる様な気がする……」

「お前もか? 実は俺もだ。どうも白の玉が俺を呼んでるようでならねぇ」

「そうか……貴様らもか。それなら話は早い。各々その光の前に行ってみろ。十中八九、何かおきるに違いない」

私達は息を呑んだ。一番心配なのはモララーだった。あの邪悪な光に触れて大丈夫なのか……

「行くぞ」

私達は少しづつ光の玉へと近づいた。最初に私が触れた。黄の光の玉は私の体へと入っていった。すると、体の中にとてつもない力を感じた。

「こ、これは……」

「力の覚醒か…」

「力の覚醒? 知ってるのかモララー」

「ああ……この世界のどこかには『自然の力』を封印したオーブがあると聞いた事がある……そして選ばれし者がその光に触れれば……力が覚醒する。察するに貴様の力は『雷』だな」

そう、はじける様な気の正体は『雷』の力だった。そしてこの時青のオーブだけが街の外へと飛び出していった。おそらく私の覚醒がキッカケで、適合者を探しに行ったのだろう。青のオーブは『水』の力。適合者はギコの父だ。

そして今度はクロノスが白のオーブに触れた。

「モララー……白は何の力だ?」

「おそらく……『光』だな」

事実、その時クロノスの体には聖なる気、オーラが出ていた。

そして次はモララー。だがモララーに触れさせるのは、あまり気は進まなかった。

「モララー、その黒いオーブは……」

「『闇』の力だ。この邪悪な気から見ても間違いない」

「な……だめだモララー! 闇なんて……そんなの力じゃない!」

クロノスがモララーを止めようとした。私も止めたのだが、モララーは聞かなかった。

「貴様らが覚醒したと言うのに、俺一人が弱いままじゃぁ情けねぇんだよ」

そう言ってモララーは黒のオーブに手を触れた。この時に……力尽くででも止めるべきだったんだ。

闇のオーブはモララーの中へ入っていった。

「ぐっ……」

「「モララー!!??」」

「が……あ……」

モララーの手が赤く光った。

「クロ…ノス……サ……ザン……どこか……遠くへ……逃げろ……」

「な、何を……」

モララーの歯を食いしばった音が聞こえる。それ程強く力を抑えているんだ。

モララーが全身の力を振り絞って叫んだ。

「早くしろ! これ以上は抑えきれん!! 貴様らに危害を加えてしまう前に!! 早く!!!」

モララーの言葉を聞いたサザンが私の手を掴んだ。

「サザン! 行こう!!」

「しかし……」

「あいつの覚悟を無駄にする気か!?」

そう言ったクロノスの口には血が垂れていた。クロノスも歯を食いしばって耐えているんだ。

「わかった……行こう」

「よし! モララー!! 待ってろよ!! どうにかしてみせるからな!!」

私達は走り出した。

「クロノス、どうするつもりなんだ?」

「とりあえず博士のとこに戻ろう。あんなに科学者がいりゃぁ解決策の一つは考えてくれんだろ」

そうして私達はコアを目指した。その途中に……

「う……が……あああああああああ!!!」

巨大な闇の力が空に放出された。空には大きな黒い球が現れた

それを見たクロノスが言った。

「な、なんだ!?」

闇の力が放出されたんだ。大方の予想はついた。

「おそらく……モララーが……」

「くっ……サザン! お前は先に戻れ! 俺はモララーの様子を見てくる!」

「な……しかし……」

「大丈夫だ! 絶対にそっちに行く!!」

私はこの時クロノスを信じた。

「……わかった! 必ず戻るんだぞ!」

「ああ!!」

そうしてクロノスはモララーの方へ向かった。

数分走って、私はコアにたどり着き、そこへ飛び込んだ。

だが……そこにはあの大きなコンピューター室しか残されていなかった。後は跡形も無く……消し飛んでいた。コアの部屋は、その穴だけどこか別の場所へ飛ばされたらしい。

そしてここからはクロノスから聞いた話だ……

「モララー! 平気か!?」

クロノスがそこに着くと、ここの住人だった者達が集まっていたらしい。

「な、何だ今のは!?」

「俺は見た! そこの紫の猫が空に何か黒い物を!!」

「あれか……? 『ダークマター』って言うんだよ。次元の消去だ」

「なんだと~~? いきなり意味わからんことほざきやがって!」

「この辺じゃぁ見ん顔だな! どこから来た!?」

「どこから……?教える必要は無い。その代わりと言っては何だが…貴様らの行き先は教えてやろう」

「あ~~~?」

「あの世だ」

突然モララーの手から赤い剣が出て、その剣でその場にいたクロノス以外の人達を一瞬にして……殺した。

(な……モララーが……殺した……のか?)

「フン。骨のある奴はいないのか」

モララーがそう言うと、白い猫と赤い猫。それと白で胴の長い猫が三人が騒ぎを聞きつけて来た。

「な、何モナこれは!?」

「アヒャ!? お前らどうしたんだ!?」

「ハァハァ……お前がやったのか!?」
「ハァハァ……許さん!!」
「お前らハァハァうるさいぞ!! ハァハァ……」

「オマエモナー!!」

「くっくっく……お前らもそうなるか?」

この五人がかなり強かったらしく、モララーも苦戦した。

この五人は倒れたが、モララーも限界で、殺すまではいたらなかったらしい。

「貴様ら……なかなかの腕前だ……面白い、俺の部下になれ」

そう言うとモララーは、赤い剣から黒の小さな玉を出した。

「ダークマインド」

小さな玉は五人の体に入っていった。

「「「「「う……」」」」」

五人が立ち上がった。しかし、この五人には先ほどの正義の面影は無く、モララーと同じく邪悪な気を出していた。

「貴様らはこれから俺に従え。俺と共にこの街を支配するんだ」

「了解モナー」

「アヒャ! 殺しまくってやるよ!」

「「「ハァハァ……色男……」」」

「俺達は『管理AI』だ。邪魔する者は誰であろうと殺せ。かつての……仲間でもだ!」

そう言った瞬間、モララーはクロノスを睨みつけた。

「もしくは貴様も悪に染まるか!? くらえ! ダークマインド!」

再び黒い玉が出てきた。クロノスも危険を感じたらしく、コアのある場所まで逃げた。

そしてコアの前……

「ふ~~ここまで来りゃ安し(ドクン)…ん……」

黒い玉はここまで追跡していて、遂にクロノスの体に入り込んでしまった。だがしかし、クロノスが光の適合者のためか、闇の効果は現れなかった。

「……ビ、ビックリした~~~! まさかここまで来てたとはな……まぁ何とも無くて安心だ。さてと……サザンに合流すっか」

そうしてクロノスは私のとこに戻ってきた。そこでこの部屋しか残ってないのを説明した。

おそらく、科学者達は全員……死んだという事も。

私達は対策を練った。だが…もはやその作戦はモララーを救うものではなく、管理AIを全滅させる為のものになっていた。

---現在---

…---まぁこう言ういきさつで、モララーはああなったと言う事だ」

「ギコ君……わかった?」

しぃがオレに問いかけ来た。オレは正直に白状した。

「全然。いきなり色んな事がわかりすぎて逆にわからん!」

すると兄者が、

「で、サザン。それと今度の敵の関係は……?」

「……クロノスにダークマインドが入った事は言ったよな?あの効果が……六年の時を経て現れた」

「何!?」

もちろんオレは驚いた。しぃもフサも兄者も驚いたようだった。

「それって……もしかして…」

「今度の敵は……」

「闇に染まった……」

サザンがコクリと頷いて、

「クロノスだ。皮肉なものだ……光の力を持つ者が闇に染まるとは」

オレはサザンに聞いてみた。

「で、でもよ、クロノスが闇に染まったからっていきなりサザンのとこに来るって事は無ぇだろ!?」

「いや………まずは適合者を狩りに来るはずだ。ここには適合者が三人いるからな」

「三人?サザンが『雷』でギコが『水』、他に誰がいるんだ?」

フサの言ったこの疑問はオレ達全員が思っていた事だった。そしてそれは、全員が思いもしなかった意外な答えだった。

「そうか…言ってなかったな。実は……しぃ、君は『風』の適合者だ」

「え!? あたしが!?」

やはり全員驚いた。でも、オレは少しだけ心配になってきた。

「じゃぁしぃも狙われてるのか!?」

「そんな……」

心配しているオレとしぃに、フサが言った。

「そ~んな心配そうな顔すんなって! ギコが守ってくれるんだろ!? なら安心じゃねぇか! なぁ兄者!」

「ああ、ギコなら必ずしぃを守るだろうな。なぁギコ!」

「! お、おう! 当たり前だ! しぃはオレが守る!」

「ギコ君……」

「なぁサザン。オレと兄者はお前たちみたく、今は武器が無いんだが……取りに行ったほうが良いか?」

「そうか……ギコは剣、しぃは弓、サザンも何かしら能力があるわけだしな…」

「ああ、取りに戻ったほうが良い。と、言いたい所だが……もう遅いみたいだ」

「え……?」

オレ達は振り向いた。そこには大柄な、緑髪の男が立っている。

誰だ……?

「クロノス……久しぶりだな」

な……こいつがクロノス!?

「よう、サザン。殺しに来たぜ。それとそこの金髪のガキと女。お前らも殺しといてやる!」

はぁ? こいつはいきなり来てガキだの殺すだのムカツク野郎だな……しぃには手を出させねぇ! こいつはオレがぶっ飛ばしてやる!


<第七章>~戦闘開始、炎地覚醒、宿敵蘇生~

クロノスはオレ達を一通り見渡して言った。

「三対一か……ちと辛いかな」

その言葉を聞いたフサが小声で言った。

{おい兄者……今あの野郎、オレ達を頭数に入れんかったぞ}

{必然だ。力の無いオレ達など、奴から見ればムシケラ同然だろう}

「ちっ、気にくわねぇな!」

フサが丸腰でクロノスに向かって行った。

「フサ!? 無茶だ! 武器も持たず……」

そんなサザンの忠告も虚しく、フサは拳を振りかぶった。

「おらーーー!」

「力も持たねぇ奴が、この戦いに手を出すんじゃねぇよ!」

クロノスは大きく上にジャンプした。フサの拳は空を切った。

クロノスの両手に力が集まるのがわかる。

「エレメントアーム! 光の斧・ライトアックス!」

クロノスの手には、白い斧がある。あれがあいつの武器だろう。

「とりあえず……お前から死ぬか!?」

「くっ……!!」

オレはフサの元へ走った。

「水の剣!」

オレの手に水の力が集まり、集約され剣となった。

光と水が交わった。オレはクロノスの斧を受け止めた。

「お前が……『アクアブレード』の使い手か」

「アクア……ブレード?」

「その武器の名前だよ」

嘘をついてるようには見えない。『アクアブレード』、それがこの剣の名前。

「ギコ……」

「フサ、下がってろ!」

「で、でもよ……」

「早くしろ!!!」

「う……」

フサが走り出した。

「あんな奴どうでも良い。今の狙いは……お前だ! 金髪!」

「へっ、お前がその斧をどけた瞬間、剣が喉にグサリだぜ?」

「どける…? 俺がか? バカいうな! 剣は斧に比べて軽いため、小回りが利くが……力なら斧が上だ!」

どんどんオレの剣が押されてきた。

(くそっ…もう耐えられない……!)

「ギコ君!!」

「!? しぃ!?」

しぃが弓を構えている。

「しぃ! やめろ! 標的がお前になっちまう!」

「あたしだって戦える! 守られてばかりじゃない!」

「…しぃ……」

オレはボソリと口にした。

「女。撃ってもいいが、このガキの寿命がちょっと伸びるだけだぜ?」

「あなたには誰も殺させない!」

「ほう、肝っ玉の座った女だ。おいガキ、どうする? このままじゃぁあの女が先に死ぬぜ?」

ピクッ

耳障りな台詞に、オレの耳が反応した。

「何……だと?」

グググ……

オレの剣がクロノスの斧を押し始めた。

(こ、このガキ……力が上がりやがった!)

オレは右足を上げ、あいつの腹に蹴りをくらわしてやった。

「ぐあっ!」

クロノスは五m(5メートル)程吹っ飛んだ。

オレはあいつの方に剣を向けて言った。

「おいクロノス! しぃに指一本でも触れみろ! 容赦しねぇぞ!」

「……それは俺の台詞だ。お前……楽には死ねないぜ!」

「フサ! ギコがやったぞ!」

兄者がフサに言った。フサは下を向いていて、地面には水で濡れて滲んだ部分が数箇所ある。

「……情けねぇ」

「…フサ……?」

「オレは……管理AIを一人も倒せなかった…今回も…足手まとい…なのか…?嫌だ! 足手まといはもう嫌だ……!」

「…フサ、オレもだ。面白いもんだ……ギコの奴、ちょっと前まではすぐにオレ達を頼ってきたのになぁ。今じゃぁオレ達が頼る側だ……」

「「力が……欲しい!」」

その話を聞いたサザンが二人の元に駆け寄り、言った。

「フサ、兄者。力を手に入れて……どうするつもりだ?」

その質問にフサが涙を拭い、答えた。

「オレは……街を救うだとか、そんな大それた事は考えてない。ましてや今回の戦いはいきさつが良くわからねぇ。……オレの答えは単純だ…

      オレはギコの力になりたい

次に兄者が。

「オレも知らない誰かの為なんてのは考えてない。でも……弟者と妹者がいつ危険にさらされるかわからない。その時は長男のオレが守らなきゃならないから…

      オレは兄弟を守れる力が欲しい

二人の答えを聞いたサザンが言った。

「…君達の決意は伝わった。君達なら……適合できるかもしれない」

「「適合って……まさか!?」」

サザンがコクリと頷いた。

「受け取れ。『地』と『炎』のオーブだ。この一ヶ月間、私はコアを探しに世界中を歩き回った。この二つがその収穫だ」

サザンが取り出したそのオーブは、『茶』と『赤』の色をしていた。

「どうだ……呼ばれてる感じはするか?」

「「ああ」」

「!? こんなにあっさり適合者が見つかるとは……」

「オレが『赤』って事は……兄者、お前は『茶』か」

「ああ…これでオレ達も…」

「「戦える!」」

二人はオーブに手を触れた。オーブは二人の中へ入っていった。

「よし、今から君達のエレメントでの戦い方を教えよう」

三人は数分話し合った後、

「よし、ギコの元へ行こう!」

サザンが言うと二人は頷き、オレのとこに来た。でも……

「「「な……ギコ!」」」

オレは倒れていた。崖の一部分が抉れ、そこに埋もれていた。

傷はそんなに多くは無いが、腹部に深い傷を負った。

「ギコ君! しっかりして!!」

しぃがオレの傍にいて、涙を流しながら叫んでいる。     

兄者がオレの様子を見た。

(血を流しすぎている……このままだと危険だ……)

「てんめぇーーー!!!」

フサがクロノスに向かって行った。

「フン、性懲りも無くきやがって! お前には興醒めなんだよ!」

「さっきと同じと思うなよ? エレメントアーム! 炎の槌・フレイムハンマー!」

フサの手から、赤い大きなハンマーが出てきた。

「!? お前……適合したのか!?」

「くらいやがれ!」

フサがハンマーを思いっきり振り下ろした。クロノスがかわし、ハンマーは地面に。そこから炎が広がり、クロノスは炎に囲まれた。

「ちっ…一人倒したっつうのにまた一人増えやがった」

兄者がニヤリと笑い、自慢げに言った。

「二人……だろ?」

「何っ!?」

「エレメントアーム! 地の鎧・アースアーマー!」

兄者の体に地の鎧が装備された。

「ふん、何の能力かと思えば……地の鎧は攻撃力・防御力が共に上がり、脅威だが・・・お前の筋力では重くて早く動けねぇだろ!?」

サザンが兄者に言った。

「兄者…見せてやれ。攻・防だけがその鎧の効果ではないと」

「任せろ!」

ヒュッ

兄者の姿がその場から消えた。

「な……消えた!?」

兄者は一瞬にしてクロノスの後に回りこんでいた。

「背後に要注意!」

(何!? バカな!! なんだこのスピードは!?)

兄者の拳がクロノスの背中に当たった。再び五m程吹っ飛ぶ。

その時……クロノスの体から邪悪な、それでもどこか神々しいオーラが。

「お前ら…・・・俺を怒らせたな?」

サザンが大声で叫んだ。

「(なんだこれは…危険だ!)みんな! ここに集まれ!」

「「「!?」」」

しぃ、フサ、兄者の三人が、しぃはギコを担いでサザンの周りに集まった。

「どうしたの? サザン」

「あんな奴さっさとやっちまおうぜ?」

「そんなに強くはない様が気がするが……」

サザンは大量の冷や汗をかいていた。そして慎重な口調で言った。

「ギコがやられる程の強さだぞ? ギコはクロノスの逆鱗に触れてしまった。そして今、君達の相手をしていた時……クロノスは一割以下の力だった。……君達はまだ……あの男の恐ろしさをわかってない」

クロノスが斧を地面に下ろし、手を空に向けた。

「お前達は俺を怒らせた……全員、楽には殺さねぇ! 聖なる神よ……彷徨える霊魂を各々の身体と共にここへ舞い戻せ!! 『遊魂回帰』!!!」

そうクロノスが叫ぶと、空から三つの光が舞い降りてきた。

しぃが不思議そうに言った。

「何? あれ……」

フサ、兄者が言葉を返した。

「わからねぇ……」

「紫、白、赤の光……」

サザンがボソリと言葉をこぼした。

「直に……わかるさ」

クロノスがなにやら独り言を言っている。

「ちっ、まだ同時に三人が限界か……光力が未熟な証拠だな。まぁ……あいつらならこの三人で十分だろ……管理AI……復活だ!!!」

クロノスがそういうと、三つの光はどんどん人型になっていった。

そして……赤の光はつー、白の光はモナー、紫の光は……

「モララー・・・最悪のシナリオだ・・・」

サザンは額に手を当てて言った。

「アヒャヒャヒャヒャ!!! シャバの空気は久しぶりだねぇ!!」

「まさか戻れるとは……思いもしなかったモナー」

「クロノス……貴様が……」

「ようモララー。久しぶりだな。最後に会ったのは……お前が闇に染まった時か。ま、今は俺も同じだ。一緒にあいつらを殺そうぜ!!」

「フン、相変わらずあつかましい男だ。だが……殺しには同意だ」

サザンがみんなに話しかけた。

「三人共……今からは私の言う通りに動いてくれ」

三人は頷いた。

「よし…まず、ターゲットだ。私はクロノス。フサはモナー、兄者はつー。しぃ、君は……ギコが目を覚ますまでモララーを足止めしてくれ」

「わかった……できるだけやってみる!」

「モナーか……今ならあいつにも勝てるかもな……」

「まさかつーとまた戦う事になるとは……しかし、負けるわけにはいかん!」

サザンはみんなを座らせ、なにやら作戦の様なものを話し合っている。

話し終わり、サザンが言った。

「よし、行こう……前面衝突開始だ」

まさか…管理AIが出てくるとはな……てゆうかオレは何やってんだ? 情けねぇ……


<第八章>~第二覚醒~

クロノスは斧を手に持ち、モララー達も武器を取り出した。

「光魔赤大刀……」

「光両棒」

「光短剣!」

三人が光器を出した時、クロノスがモララーに尋ねた。

「なぁモララー。光魔赤大刀って……何なん?」

そう。モララーは適合者なのだが、エレメントアームではなく、光器としてその武器を使っている。

「俺の好みだ。管理AIである以上、武器は光器でないと落ち着かん」

「なるほど……お前らしいや。さてと……戦闘開始と行くか!」

相手のその声に負けじと、サザンがみんなに言った。

「負けるな! 先手を取れ!」

それを聞いたサザンとフサと兄者は走り出した。しぃは遠距離系の武器なんで、遠くから攻撃するつもりらしい。

「炎の槌・フレイムハンマー!」

「地の鎧・アースアーマー!」

二人は先ほどの武器をもう一度装備した。

「エレメントアーム……雷の槍・エレキスピア!」

サザンの手から、普通の槍とは違う黄の槍が現れた。普通の槍は、突くところが先端にダイヤモンドの様な形で付いているが、この槍は先端から手元までにかけて、三角形に近い形になっている。つまり、普通の槍よりも重く、パワーがある形になっている。

そして次はしぃが、

「エレメントアーム! 風の弓・ウィンドボウ!」

いつもの弓を手に取った。この瞬間、一斉に攻撃……つまり、戦闘開始だ。

棒と槌が激突し、短剣は鎧に弾かれ、槍の突きは斧の横腹に受けられた。

モララーが戦況を見て言った。

「モナーと茶髪。つーと黄緑の髪、クロノスがサザンなら……俺は奴か。」

モララーが自分の敵は、オレだと判断したみたいだ。今は戦えねぇんだけどな……

モララーがどんどんオレに近づいてくる。

「ちっ、無様にやられやがって……まぁ相手が悪かったな。できれば万全の貴様を倒したかったが……自信の不運だと悔いたまま……死んでいけ!」

モララーが剣を構えた。そのモララーの目の前を、一本の矢が通る。

「この矢は……あいつか」

「モララー! ギコ君には手を出さないで! あなたの相手はあたしよ!」

「貴様が……? しかし、貴様も女とは言え適合者だからな…良いだろう。貴様を地獄に送った上でギコを始末する!」

「そんな事……させない!」

しぃが三本連続で矢を射った。

「馬鹿が……貴様の矢は通じんという事はすでに実証済みだ! 赤魔層壁!」

以前モララーが出した闇の壁に、今回もしぃの矢は弾かれた。

(…この……嫌な気配は……何……だ…? 闇の…気配が……する……まさかあいつが…? まさかな……それより…オレは何で寝てんだ? 起きなきゃ…(ズキン!)ぐっ…腕一本でも動かそうと思ったら体中に激痛が走りやがる…なんで…?……そうか…そうだったな……オレは…負けたんだ…あいつに…)

オレはモララーの闇の気配に意識を取り戻した。けど、まだ体中が痛くて起き上がれない。

「やはり貴様と戦っても面白くない。先にギコを始末して他のとこを加勢に行くか……」

「やめてっ! ギコ君には手を出さないで!」

しぃは弓を握りしめた。

(お願い……モララーを倒せなくても良い…あの……闇の壁を貫くぐらいの力を貸して!)

しぃは心の中で風に語りかけていた。そして、しぃの弓に風の力が集約された。

「風が騒いでいる…あの女まさか……第二覚醒を!?」

モララーがしぃの方を振り向いた。その瞬間、

「エア・アロー!」

しぃが矢を飛ばした。

「くっ…赤魔層壁!」

矢が壁に当たった。しかし、先程の様に弾かれはしない。

「ぐっ、この風の圧力…やはり第二覚醒を!」

(どうしてだろう…なんだか、風と一体化した気分になれる……思い通りに風を……コントロールできる……)

しぃは気流をコントロールして、矢を回転させた。その為、矢に貫通力が生まれ、闇の壁を貫いた。

貫いた矢はモララーの頬をかすめた。モララーの頬からは血が流れた。

「貴様……許さん」

モララーは右手を前に突き出し、闇の力を集約させた。

「第二覚醒と言うのはな……そのエレメントを自由自在に操れる様になる事だ。そして…これが俺の第二覚醒だ」

オレは闇の力が集約されるのを感じて、目を覚ました。

(ぐっ…何だこの嫌な感じは…あれは…モララー? それに戦ってるのは……しぃ!?)

モララーは集約された闇の力を一気に放出した。

「次元ごと消し飛べ! ダークマター!」

その力は球の形となって放出された。

「しぃーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

オレは痛みなんか忘れてしぃの方へ走っていた。

(くそっ……間に合わねぇ……!)

しぃは目をつむった。諦めたという感じではない。何か、集中してる様に見える。

(気流をコントロール……それができるなら……!)

しぃは目を開いた。その瞬間、しぃの周りで風が渦巻いた。

「行くよ、風さん!」

しぃがそう言った時、風はしぃに集まり、しぃを上に跳ね上げた。

「なに…ダークマターが…かわされた……?」

「しぃ!!」

「あ、ギコ君! 大丈夫!?」

「ああ! 少し痛むけど平気だ! オレが下にいるから安心して落ちて来い!」

「大丈夫だよ、ギコ君! あたし飛べるから!」

「…え?」

しぃの言ったとおり、しぃはずっと落ちて来ない。宙に浮いてると言うよりも、飛んでる感じだった。

「不思議ではない。奴は風の操作を覚えた。飛ぶ事など安易な事だ」

「!? てめぇ…素に話しかけて来てんじゃねぇよ、モララー!」

オレは手に水の力を集約させた。

「エレメントアーム! 水の剣・アクアブレード!」

それでモララーを斬りつけた。

ザシュッ

意外な事に、モララーの体に斬撃が当たっている。

「え…? お、おい……終わりかよ?」

「ギコ君! 後だよ!」

「二の舞だぞ? ギコ……」

(な……しまった! 残像……!)

モララーが剣を振りかぶり、オレに振り下ろした。

オレは目をつむった。

(やられた……! …いや、諦めんのはまだ早ぇ!)

オレは目を強く開いた。

オレの体にモララーの剣が突き刺さる。

「そんな…ギコ君!!!」

しかし、斬られたオレの体は水となり、地面に落ちた。

「なに? これは……?」

「水の分身だ」

「!? ギコ……貴様、何故生きている!?」

「やられたのが分身だからだよ。オレも水のコントロールを覚えたぜ!」

「なるほど……貴様も第二覚醒を……!」

「モララー、お前はもう死人なんだ……もう良いだろう?戦わなくても…お前も、自分が死んだって事はわかってるはずだ……」

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 貴様に何がわかる!? 知ったような口を叩くな!」

「ふーー、やっぱ戦わなきゃ…ダメなのか……」

「そうだ。貴様がもう一度俺を殺せばすむ事だ! 来い! ギコ!!」

オレはグッと剣を握りしめた。

「モララー……お前は悪くない。悪いのはその闇のエレメントだ。お前は…」

「黙れと言っているだろう! 殺されたいのか!?」

「お前、ホントにこれで良いと思ってるのか!? 答えろモララー!」

「黙れえーーーーーーーーーーー!!!!!」

闇の剣と水の剣がぶつかり合う。凄まじい衝撃に大気が揺れた。

この時から……オレは、モララーが可哀相に見えて来た。こいつと戦うのは…気が引ける。こいつは悪くないのに………


<第九章>~『炎』『地』の戦況~

     <兄者 対 つー>

「アヒャ! 久しぶりだねぇ!」

「二度と会いたくなかったがな」

「アヒャ! つれないねぇ!」

緩やかな会話をしているが、二人のオーラはすでに戦闘態勢になっており、緊迫した空気が漂っている。

「アヒャ! くらいな!!」

先手はつーだった。かなりの数の短剣を投げつけた。が、しかし、

「オレの鎧はそんなやわな武器じゃぁ、貫けないぞ?」

全ての短剣は弾かれた。今まであんなにてこずっていたつーの短剣を、いとも容易く防いだ。地の鎧は予想以上の防御力を誇っている。

「じゃぁ次は・・・オレの番だな?」

フッと兄者の姿が消えた。いや、超スピードで移動している。

(アヒャ!? 早いねぇ!)

身軽なつーも、この速度は目でも追えないようだ。

つーの目の前に、いきなり兄者の姿が現れた。

「くらえ!」

兄者は拳を突き出した。

「アヒャ…っ!」

兄者の拳はつーの顔に直撃した。つーの鼻から血が垂れている。

「アヒャ……お前どうやってそんなに……「強くなった!?……か?」

つーの言葉を遮り、兄者の声が飛び込んだ。

それは図星らしく、兄者がその質問に答えるように言った。

「『地』のオーブに適合したんだ。自然の力は光器を遥かに上回る!」

またもや兄者が凄い速度で動く。そして今度はつーの前後左右構わず動き回り、怒涛の攻撃が始まった。

この速度にはつーも防戦一方。いや、防御すらままならない状態だった。

つーが倒れ、それを見下す兄者が言った。

「管理AIがそんな簡単に負けを認めるとは思えんが、一応聞こう。降参か?」

その質問に、つーが意外な言葉を口にした。

「アヒャ……降参だよ」

兄者は驚いた。あの諦めの悪い奴らがこんな簡単に諦めるとは思いもしなかったんだろう。

「意外そうな顔だねぇ…アヒャ! ここまで完膚なきまで負けたらこっちも気持ちいいのさ」

その意外な言葉に、兄者はこう言った。

「お前……何か性格変わったぞ」

その言葉を聞いたつーは、ホントにあの管理AIとは思えない程、実に清々しい顔をしていた。

「アヒャ! そうかもねぇ……生き返る時に触れたあの光……まるで俺達の悪の力を浄化するようだった」

兄者はそれに納得した。でも、それだと一つ矛盾が生じる。兄者はそれを尋ねた。

「それなら何故オレ達に攻撃を?」

「管理AIが善人になる……というのを認めたくなかったから……かもね。アヒャ!」

その時、つーの体が光に包まれた。

「アヒャ! じゃぁ俺はもう逝くよ……」

「ああ……」

つーの体が消えかかった時、兄者が言った。

「つー! 最後だけだが……お前の事、好きになれそうだったぞ」

「……アヒャ、気持ち悪いねぇ……」

光となって天に昇ったつーの体。顔だけが残った時につーが兄者に言った。

     「………ありがとよ………アヒャ」

つーは完全に消えてしまった。最後だけああだっただけに、兄者も後味が悪いようだ。

「闇のエレメント……あんな良い奴も『悪』に染めたのか……」

兄者は強く拳を握った。

     <フサ 対 モナー>

こちらは戦闘開始からすでに十分は経っている。

槌と棒では、力は圧倒的に槌だが、機動力は数段棒が上。

棒術が他の武器より有利な点は、上の叩き口で攻撃した後、下の叩き口で様々角度から追撃ができる事だ。

その攻撃に苦戦しているフサ。戦闘能力ではすでに上回っているが、その攻撃を攻略する糸口が掴めないでいるようだ。

(くそっ、下の方の攻撃が厄介だぜ……あれさえどうにかできりゃぁ、至近距離に入れるんだが…………そうだ!)

何かを考えついたのか、フサがモナーに向かって走り出した。

それを見たモナーが武器を構え直した。

「何度きても無駄モナよ! これを防ぐ方法は皆無モナ!」

モナーは向かってきたフサを迎え撃ち、上の叩き口で攻撃。

それを下にかわしたフサが言った。

「そいつはどうかな!? 確かにその戦法をどうにかするのは難しいぜ! けど………」

(入り込んできたモナ!)

モナーは狙いすましていたかの様に、下の叩き口をフサの横から叩きつけてきた。

「その戦法をどうにかするんじゃなくて、その武器をどうにかすりゃぁ良い!」

それに対抗し、フサも槌を振り上げた。

棒と槌が激しくぶつかり、棒が上に跳ね上げられた。

「しまったモナ!」

「人間てのはな、元々下からの攻撃に弱えんだ! だからお前も、たまらず武器を放しちまったみてぇだな!」

そう言ったフサの槌に、炎の力が集まった。

「くらえ! フレイム・インパクト!」

フサが槌を大きく振りかぶり、地面に叩きつけた。

その瞬間、モナーの足元から空にかけて、炎の柱が突き出た。

「モ、モナーーーーーー!!!」

モナーがその柱に包まれ、叫んだ。本来なら死に至る程の火力だが……

「火加減はしておいたぜ。けど……気分は最悪だろうな」

炎の柱が消え、モナーの姿が見えた。

「こ、殺すモナ……完全にモナの負けモナ……」

その要求にフサはこう答えた。

「やだね。つうかお前はもう死んだんだろ? 追い討ちをかける様な真似はしたくねぇ」

その言葉を聞いたモナーの目には涙が溜まっていた。

「もう……取り返しはつかないモナ……モナはなんであんな酷い事を……」

「!? おい、どうしたんだよ!?」

モナーは管理AIとなって悪事を働いた事を悔やんでいた。

その話を聞いたフサはどうやら、モナーは根は悪い奴じゃないと判断したみたいだ。

「で、でもよ……結局お前らは操られるっつうか……あれはお前らの意思じゃなかったんだろ??」

「当然モナ! モナは戦いなんか望んでないモナ!」

「じゃあなんでオレと……」

倒れていたモナーが上半身だけ起こした。モナーは光に包まれていた。

「モナは悪事を働いたせいで、良い奴にも戻れず、完全に悪い奴にもなれない半端な奴モナ。どうせなら完全に悪い奴になってやるっていうガムシャラな気持ちがあったかも知れないモナ……」

モナーの体はもうほとんど消えかかっていた。

「モナー! 今からでも遅くねぇ! 償ってオレ達と……」

「モナは一度死んでるモナ。このまま消えるのが一番の償いモナ……」

「そんな……」

フサは下を向いた。責任を感じているのかもしれない。

「別にフサが気負う事じゃないモナ。モナは最後にフサに会えて良かったモナよ……」

「……え?」

フサが前を向いたとき、すでにモナーの姿は無かった。

     「フサのおかげで少しだけ……心が救われたモナ……」

「モナー!? ……どこにもいねぇ……でもあの声は……」

フサを空を見上げた。

「モナー……お前をあんなにした闇のエレメントは……オレ達が絶対に排除してやる!!」

そうだ……闇のエレメントは多くの悲しみと戦いを生んだ! だから絶対に許さねぇ!!!


<第十章>~親友との別れ~

こちらでは雷と光がぶつかり合っている。
異なる二つの光は眩しく、嫌でも目に入る。
その雷と光を纏う一つの槍と斧。
全く形と能力が違うこの二つの武器は相性が極端に良いのか悪いのか。
今の戦況では全く分からない。

(クロノスめ……また腕を上げたな………)

少しずつサザンが押され始める。力ではやはり斧が上だ。
しかし槍はかなりの速さで連続の突きが出せる上に、防御がやりにくい。
斧の横腹で受けたところで、反撃に移る前に次の攻撃が来る。
だが、何故かサザンはそれをやらない。攻撃は一突で終わり。次に相手の攻撃が来るまで待つ。その理由はわからない。
もちろんクロノスもそれに気付いている。

「サザン……何のつもりだ? 俺を試してるのか!?」

サザンは頑なに顔を伏せた。口を開かず、ただ攻撃を受けていた。

「やはりな……図星か! 許さん!」

クロノスが斧での攻撃とは思えない程の速さで攻撃を仕掛けてきた。
クロノスは自分が優位に立っていると思った。いや、周りから見てもそうだ。
だが違った。サザンはその全ての攻撃を防いでいた。この攻撃だけでなく、先程から一度も攻撃を受けてない。サザンには傷一つついていない。

「そんな……バカな! いくらお前でも……!」

クロノスは、今まで無意味な攻撃に体力を使っていた事を知り、かなり疲労していた。ショックも大きく、戦意を喪失した。斧を地面に落とした。

「試していた訳じゃない。こういう『作戦』だったんだ」

クロノスの息切れが激しい。心臓の鼓動まで聞こえてきそうだ。
この体力消耗というのがサザンの作戦だった。

「いくらお前でもあの攻撃全てを防ぐなど不可能なはずだ!」

その言葉にサザンはクスッと笑いを漏らした。その笑みはとても意味深な、どこまでも深い意味を持っていそうな笑みだった。

「『いくらお前でも』? 妙だな。私はお前の……いや、誰の前でも本気を出した事はないのだが?」

この言葉はクロノスにとって計算外だった。
『いくら他に戦力がいても、自分がサザンより上なら確実に勝てる』
こういう思考でオレ達に攻め込んできた。
だが今の時点で、サザンの戦闘力はクロノスの戦闘力よりはるか上をいっていた。

「バカな! バカなバカなバカな! こんな事があってたまるか!」

クロノスは膝をつき、地面に拳を叩きつけながら嘆いた。
もう悟ったのだろう。サザンには勝てないということを…

「お前も今は『闇』に染まっているだけ。そしてお前だけは生きている。死人じゃない。クロノス……もう一度やり直そう。今ならまだ間に合うさ」

「いや、もう遅い」

クロノスのその一言が意外だった。サザンは納得できなかった。
なんの根拠も無い言葉だと思った。だが次の瞬間、それを認めざるをえなかった。クロノスが光に包まれ、体が端から消えていった。

「クロノス……? 何故お前まで……消えるんだ? お前は死人ではないはずだろ!?」

あの冷静なサザンが取り乱している。それもそのはずだ。
かつての戦友……親友が今、目の前で消えようとしているのだから。
取り乱さない方が不思議である。

「クロノス!? 聞こえているのか!? 答えてくれ!」

クロノスが顔を上げ、サザンの目を見て話し始めた。
その瞳には今までサザンと時を共にした生活の記億が写っている様に見えた。
この二人にしかわからない様な会話が目の中で交わされているに違いない。
それも無数の会話数で。

「……『遊魂回帰』。あれは光のエレメントの『奥義』だ。死人を生き返らせる……その分…代償は高い。俺の代償はもう分かったよな?」

言いたく無かったに違いない。
友の死を認めてしまう様なものだから。

「……『命』か?」

確信はあった。けどあえてサザンは質問系にした。
認めたくない。と、言うよりもまだ信じられないのかもしれない。

「そう。だからもう取り返しはつかない。俺は消えるんだ」

クロノスの目には涙が滲んでいる。
サザンはすでに涙を零していた。

「……何故お前が……悪いのは闇のエレメントだろう? どうして……お前やモララーが……こんな目に……」

サザンの涙が地面にいくつかの染みを作った。
クロノスはわざと話題を変えるように言った。

「サザン……あのギコとかいうガキは面白い潜在能力を持ってるな。けど一歩間違えればあいつも悪の道を歩む事になる。お前がしっかり育ててやれ……」

遂にクロノスも涙を零した。

「じゃあなサザン……モララーはもう闇から戻れない。生き返らせた俺が言うのもあれだが……止めてやってくれ」

涙は止まらない。流れる量も増える一方。
両者とも歯を食いしばって言った。

「ああ。安心しろ」

クロノスが完全に見えなくなった。サザンは消えたと思わなかった。
『見えなくなった』。そう思い、今でもクロノスはどこかで生きている。そう思った。管理AIもクロノスも、モララーだって……ホントは良い奴なのに……
悲しみを主にした『負』の感情。その全てを闇が生んでいる。

オレはこの『負』の感情には屈さない! オレが闇を消してやる! モララーから闇を取っ払って、この世界中から闇を消す! それが平和の元だから!!


<第十一章>~死守~

一方、こっちではオレとモララーの戦いが始まっていた。
互角の死闘はもう数十分続いていて、どちらも疲れが見え始めていた。
その時……

「ぐっ!」

均衡が剥がれ始めた。
モララーの攻撃がオレの横っ腹をかすった。
かすり傷と言っても軽い物ではなかった。
血も出てきて、倒れそうになった。

「隙あり!」

そう言うと、モララーは容赦なくオレに攻撃を仕掛けてきた。
霞んだその目を一生懸命に凝らし、モララーの攻撃を見極めた。

(落ち着けオレ! あいつの攻撃に集中しろ!)

右上から左下への振り落とし---
左から右への振り払い---
中央からの突き---
オレは自分でも驚く程、鮮やかに攻撃を避けた。

「な……馬鹿な!」

モララーが驚いている間に、オレは反撃に乗り出した。
が、モララーはすぐに気持ちを切り替え、オレの攻撃を防いだ。

オレはその攻撃の時に力を入れた為、血を大量に流した。
膝に力が入らず、倒れそうになった。
だが倒れはしなかった。
オレに倒れる間さえ与えず、モララーが攻撃したから。
どうにか体勢を立て直し、剣の攻撃は防いだが……

「こっちが残ってるぞ? ダークマター!!」

残されたもう一方の手から闇の球が。
それも今までに見たことの無い程大きな。
然程速度は無いが、ただでさえまともに動けないのに、自分の体よりも大きな攻撃が来たら避けられるはずがない。

(ヤベ……)

「次元ごと……消し飛べ!!」

それが通った後にはくっきり球の形が残っている。
地面さえ消し去る威力。人間など一溜まりも無いだろう。

オレは一瞬、勝ちを……いや、生きる事さえ諦めた。
その時、

「ギコ君! 死んじゃヤダ!」

しぃの声が聞こえてきた。
またあいつに助けられたな………
オレの命を、オレの誓いを、オレの希望を。

「わかってる! オレは負けない!」

そう叫んだオレの体は、ダークマターに飲み込まれた。
ダークマターが消えたそこには何者の姿も無い。

「くははははは! 負けないと言って死んでたら世話無いなぁ!」

モララーが高らかに笑った。
しぃは信じたくは無かったが、目の前の現実を見ると信じざるを得なかった。
堅い口を少しずつ動かし、しぃは一言だけ漏らした。

「……いや……」

そう言ったしぃの目からは涙が零れてきた。
その涙は止まらず流れ続けた。
当の本人は、未だ信じられないと言う顔だった。

その時、モララーの背後に一つの影が現れた。
その気配を感じ取ったモララーは気を引き締めた。

(誰だ? サザンか、他の二人か!?)

その背後に立っていたのは、青い剣を持った金髪の少年。
一点の曇りもない、澄んだ瞳をしているその少年は紛れもなくギコだった。

「ギコ君!」

「ギコ! 貴様……どうやって!」

「オレの分身は身代わりの役目も果たすんだ!」

そう言いながら剣を力一杯振りかぶり、斬りつけた。
しかし、腹部の傷の事もあり、思ったような強い攻撃が出来ない。
威力とキレが無く、簡単に弾かれた。

「甘い攻撃だ!」

そう言ったモララーの反撃はオレの体を一閃し、切り裂いた。
斬られたオレの体は水になり、地面を濡らした。

(これも分身!? 本体は……また背後か!?)

振り向いたそこには誰もいない。
正面から攻め込もうと思ったオレの無謀な考え。
モララーの読みの鋭さによって吉と出た。
が、モララーはすぐさま振り向き剣を構え走り出した。

(この場面……あの街で戦った時と同じだな……あの時も今も……オレはしぃを守る事で頭が一杯だ……あの時のオレ、力と想いを少し借りるぜ!!)

その時、剣が光だし、大量の水を纏った。
結果、剣は巨大化し、長さも元の倍以上になった。
これが最後だ!傷の痛みなんか気にするな!後の事なんか考えんな!

     今出せる力を全部出せ!

「「行くぞ!!!!!」」

勝敗は人目でわかった。
いくらモララーの剣が長いと言っても、オレの剣の半分程度。
リーチの差が勝負を分けた。
モララーが構える前にオレは剣を振り始めた。
モララーが降り始めた時、オレの攻撃はすでに届いていた。
モララーが剣を振り切った時、すでに勝負は決まっていた。
モララーの胸をオレの剣が切り裂いた。

     オレの『完全勝利』!!!

モララーは倒れる。意識はあるが立てそうに無い傷。
胸の傷を抑えながら、負けを悔やんでいる。

「いよっしゃ~~~~~~~~~!!!」

オレは天に叫び、剣を地面に落とした。
膝が曲がり、倒れそうになったのをしぃが支えた。

「ギコ君……」

支えた後、しぃはオレを抱きしめた。

「しぃ………」

オレは抱きしめ返そうと思ったが、ある気配に気付き、しぃを突き飛ばした。
しぃは尻餅をつき、お尻を押さえながら言った。

「いった~~~い……どうしたの?ギコ君」

しぃがオレを見上げた時、オレの後には赤い鮮血が飛び散った。
オレは目をつむり、前のめりに倒れた。
オレの背中にはバツ印に切られた跡が。
傷は深く、死んでもおかしくない程の出血量。
いや、死んでもおかしくないと言うより……おそらくもう………

「ギコ君……? 起きてよ……ねぇ………死…死んだフリなんてしても……心臓の音聞いたら分かるんだからね?」

そう言うとしぃは座り込み、オレの胸に耳をあてた。

     『―――――――………』

「……ギコ君……」

しぃの眼からはもう、涙すら流れてこなかった。
自分を守ったが為に愛しい人が死んだ苦しさに似た感情。
二度と一番大切な人に会えないという心に残る空虚。
しぃは今、何も考えられない、いわゆる頭が真っ白と言うやつだろう。

「ハー…ハー…ハー…」

モララーの息切れが激しい。
オレの傷程深くは無いと言え、十分致命傷である。
オレを殺すと言う執念だけで立ち上がった為か、地面に倒れこんだ。
意識が無い……というよりも、傷の回復を図る為に仮眠を取っている様だ。
勝負は終わった。なのに、戦場に立っている者は誰もいない。

…………………………………………………………………………………………………………………


<第十二章>~第三覚醒~

   ---十数分後---
この場では未だに誰も動かない。
心臓の止まっているギコ。
絶望の底に落とされたしぃ。
仮眠をとっているモララー。
この中で動く可能性があるのはもちろんモララー。
しぃがこの場で意識が戻るとは思えない。
ギコが動き出す程の事がなければの話だが……

     <フサ&兄者>

この頃、フサは兄者と合流し、サザンの所へ向かっている。
サザンを見つけると二人が駆け寄った。
足音でサザンは誰かが近づいたという事がわかった。
が、泣いているのを悟られたくなく、二人をギコの所へ行くように言った。

「私は大丈夫だ。先にギコの所へ行ってやってくれ」

二人はその言葉を聞くと足を止め、顔を見合わせた。
そして頷くと、そのままギコの方へ走り出した。

     <ギコ&しぃ>

その場へ到着したフサと兄者。
外から見てはどういう状況なのかは把握できない。
が、ギコが倒れているのがわかるとギコの元へ走り出した。

「ギコ! どうした!? 何があった!?」

フサがギコへと怒鳴りつける。
しかしギコには聞こえない。
どんな声も届かない。

「しぃ、何があったんだ?」

兄者がしぃに尋ねた。
が、ギコ同様、今のしぃにもどんな声も届かない。

(こいつどうしたんだ? 明後日の方向見たままピクリとも動きやがらねぇ)

フサはそう思った。
その言葉の通りしぃは俯いたまま動かない。
兄者がしぃの向いている下を見た。
地面はいくつかの水滴で濡れていた。

(涙の跡………まさか!)

兄者はギコの心臓に耳をつけた。
フサがその兄者の行動にビックリする。

「お、おいおい……縁起でもねぇ事するんじゃ……」

フサが言いかけた時、兄者が涙を流した。
ビックリした上で更にビックリした。
だが、フサはギコの生死を確かめようとはしない。
手から槌を出し、立ち上がった。

「兄者……立て」

兄者が涙を拭い、フサの向いている方向を見た。

そこには立ち上がったモララーの姿が。
兄者がギコの仇を見つけたとでも言わんばかりに走り出した。
フサもそれについていく様に走り出した。
そして走りながらフサは叫んだ。

「モララーーーー!!!」

怒りの絶頂。それが引き金となったのか、フサに『第二覚醒』が起きた。
モララーが眼を丸くして言う。

「これで本日三人目……貴様等の成長力は脅威だ」

フサが槌を投げつけた。
モララーが最小限の動きでそれを交わす。
次の瞬間、フサが手を合わし、前に突きつけた。

「ボルカノキャノン!!!」

そう叫ぶとフサの手から高熱の炎の球が。
モララーが右手から『ダークマター』を発射し、相打ちになる。
その時、モララーの体から膨大な闇の気が放出される。

「良いだろう……全力で相手してやる!! 『第三覚醒』!」

モララーの剣が一度消え、次に二本の剣が現れた。
片方は鉄で出来た巨大な洋刀。
もう一方は怪しい光を放つ自分の背丈くらいの日本刀。
それを見たフサが言う。

「二本!? それに……エレメントで出来てない!!」

それに続いて兄者が。

「あれが『第三覚醒』!? 新しい武器の覚醒か!?」

モララーがそれに答えるように言った。

「それだけじゃない。この『メテオム・ヴァルキリー』と『色即是空』の様に、武器の名前と性質が全く変わる。そしてその新しい武器には、『神話の生物』が一つ宿っているのさ」

にわかには信じられず、理解しにくい話だ。
簡単に言えば………
武器名が変わる。(モララーの場合はメテオム・ヴァルキリーと色即是空)
特別な性質の武器になる。(モララーの場合は剣が二本。洋刀と日本刀)
武器には各々『神話の生物』が宿る。(モララーの場合は???)
という訳だ。

「この中で一番気になんのは……」

フサが兄者に話しかける。
それに兄者が答えた。

「神話の生物」

フサが頷く。
が、考えてもキリがないという結論に辿り着き、モララーに攻めかかった。
モララーが大分距離が離れている場所から剣を軽く振る。
すると、フサと兄者が吹き飛ばされた。
二人共崖に激突する。

     何が起こったんだ?

二人共そういう顔をしていた。
どう足掻いても剣が届く位置ではなかった。

「どうした? 俺は剣を軽く振っただけだが……」

剣を振っただけ?
まさか、その風圧だけで?

「嘘だろ? こんなに……こんなに力の差があるわけねぇ!」

「おいおい、何を根拠にそんな事を言っている?目の前の事実を見ろ」

フサが嘆いたのに追い討ちをかける様にモララーが言う。
フサが地面に拳を叩きつけた。
そして兄者は静かに悟った。

     敵わない。絶対に。

戦意喪失………
たった一度の攻撃で二人は勝機を無くした。
モララーが『勝負をかけるなら今だ』と言わんばかりに攻撃を続ける。

「俺の神話を見せてやろう」

二つの剣をクロスさせ、呪文の様なものを唱えている。
空が曇り、雲が渦を巻いた。そこに穴が出来る。

「こいつが姿を現せば……お前らには『死』しかない」

命がない者。
意識がない者。
戦意がない者。
容赦がない者。
様々な状況が入り混じったこの場に救世主が現れる要素は一つも無い。
モララーに敵う者等、もはやいないのだから………

……………………………………………………………………………………………トクン……………………


<第十三章>~闇、雷、神話~

モララーの闇の力により渦巻いた雲。
そしてそこにできた穴から禍々しいまでの気を感じる。
そこから何かが顔を出した。
そう。『何か』が。

「こいつが俺の神話、『魔王』だ。『デーモン』と言った方がわかりやすいか?」

その何かの正体はなんと『魔王』だと言う。
闇にピッタリな神話の生物だとは思うが……

「勘弁してくれ……」

フサが嘆く。
ただでさえ絶望の淵にいる様な状況。
そこに魔王が現れた。
絶望の淵から奈落の底に落とされた様な気分だろう。

「もう……駄目なのか? あと一人なのに……!!」

兄者が呟いたその時。
後から希望に満ちた一言が。

「諦めるな!」

フサと兄者が反応する。
声の主は誰だ?
まさかギコが眼を?
二人が振り向いた。そこには……
長くも短くも無い赤髪。
左手には珍しい型の槍。
身の周りには金色の気。

「「サザン!!」」

(そうだ……サザンがいた!)

(同じ色彩三戦士だったサザンなら……!)

サザンが辺りを見渡す。
致死量の血を流し、倒れているギコ。
そのギコの傍で意識を無くしているしぃ。
崖に叩きつけられているフサと兄者。
魔王を召喚しているモララー。
頭の良いサザンは理解した。

「フサ。ギコは……負けたんだな? 命は? 生きてるのか?」

「ぐっ……」

答えられないフサを見て、サザンが大きなため息を一つ。

「そうか……遅かったか」

一歩、また一歩と歩を進めて行くサザン。
そのサザンにモララーが言う。

「魔王を見てわかったか? そう、第三覚醒だ。こいつの召喚時間は一分。一分経つとまた召喚を……」

「黙れ」

モララーの説明をかき消す様にサザンが言った。
優しいサザンから出た言葉とは到底思えない。

「強気だな、サザン。魔王を破る手段でもあると?」

「そうじゃないだろう。モララー……お前は長く闇に染まりすぎた」

サザンの周りの気が膨れ上がった。
パチパチっという音がフサ達にも聞こえる程である。

「貴様……第三覚醒か? そんな思い付きでできる程甘い技ではな……」

その時、天空から一筋の雷が地面に落ちる。
雷が落ちたそこに、一つの槍が刺さっていた。

「な……まさか……!?」

「ゴールド・セッション」

眩い光を纏うその槍はなんとサザンの第三覚醒の武器。
特殊効果、神話の生物等はまだわからない。
だがフサと兄者は期待を抱いた。

     サザンならやってくれる。

「モララー! 私の仲間を傷つけた罪は重い!」

……………トクン………………トクン…………………トクン……………………トクン………………


<第十四章>~変わり続ける戦況~

サザンの第三覚醒である、金色の槍『ゴールド・セッション』
サザンがそれを手に取り向かった先は………

「そいつを倒せばいいのだろう?」

なんと、モララーではなく、魔王の方であった。
大きく、硬度も高そうな鎧を身に着けた魔王。
只でさえ常人よりも何倍も大きい体つきなのに、サザンはこの防御力を崩す事が出来るのだろうか………

(どんなに大きくても弱点はあるはず……どこだ? 頭の横に付いている角か?)

そう思ったサザンは地面を蹴り、ジャンプする。
更に魔王の膝を蹴りもう一つ、そして肩を蹴って角へと辿り着いた。だが……

「小賢しいぞ!」

モララーがそう叫ぶと、魔王が右手を上げてサザンへと振り下ろした。
その大きな拳は、不意を付かれたサザンに直撃した。
とっさに両手を上げてガードしたものの、体の大きさに違いがありすぎた。
味わった事も無い衝撃がサザンを襲った。

「ぐあっ……!」

そのまま勢いを止められず、地面に激突するサザン。
少し、化け物相手に真っ向から向かった事を悔いている様だ。

(ただの右パンチであれならば……あれを使う必要も無いな)

(くっ……神話の生物を倒すのは無理があるか…? ならば一分間粘るしかあるまい。出現からの時間経過を考えて、魔王の時間は残り……)

「「三十秒!!」」

「フサ! 兄者! 残り三十秒、ギコとしぃを守り通してくれ!」

サザンの言葉に二人は無言で答えた。
ギコとしぃの周りに立ち、武器を構えたまま集中している。
それを確認したサザンは、モララーに向かって走り出す。
そしてサザンの槍に雷が纏う。

「狙いはお前だ! モララー!」

その槍を、前に勢い良く突きつけた。
すると纏わっていた雷がモララーに向かって迸る。
しかし、魔王が掌をモララーの前に出し、雷を防いだ。

「ふん、その程度の攻撃……魔王には何のダメージも無い」

「だが、前が見えなくなるぞ?」

モララーが眼を丸くして驚いた。
魔王の手と言う死角を利用し、サザンはモララーの背後に回っていた。
サザンは槍で突きを繰り出した。
するとモララーはメテオム・ヴァルキリーで突きの方向を変え、受け流した。
そして色即是空で攻撃に移った。

「これが二刀流の真骨頂だ」

(まずい! ………やむおえん!!)

しかし、剣は空を切った。
そこにはサザンの姿は無い。
それも、自分の武器である、ゴールド・セッションを残したままである。

「どこへ消えた!? 出て来い!!」

しかし、返事は無い。
辺りを見渡しても、やはり見えるのはフサ、兄者、しぃ、ギコと槍の姿のみ。

(…槍? 何故…槍を置いていった? ……まさか!?)

モララーが槍の方を向いた。
そこには槍を持ったサザンの姿があった。
少々距離はあったが雷なら、魔王の防御よりも早く届く距離だった。

(やはり……こいつの特殊能力は『槍との一体化』!)「くそっ! 魔王!」

「走れ! ゴールド・ストライク!」

雷は真っ直ぐとモララーへと向かった。
そして雷はモララーに直撃した。

「やった! サザンの攻撃が当たった!」

フサが歓喜の声を漏らした。
フサと兄者はサザンの勝ちを確信した。
だが………

     ズドーーーーーーン!!!

魔王の拳がサザンを押しつぶし、地面に叩き落された。
雷を喰らい、満身創痍だったモララー。
そこから奇跡的とも言える反撃。

「そんな……サザン!!」

「敵ながら見事な精神力だ……」

嘆いているフサが兄者の胸ぐらを掴んだ。

「てめぇ! 感心してる場合じゃねぇだろ!」

兄者はハッとし、サザンを救出に行こうとした。
その時、地面に落ちている魔王の拳が少しずつ浮き始めた。

「うあああああああぁぁぁ!!!!!」

なんと、サザンが自分の力だけで魔王の拳を持ち上げた。
そして魔王の拳の下から脱出した。

「馬鹿な! 魔王の拳を生身で……有り得ん! 何がこいつの力を上げている!?」

そうモララーが叫ぶと、フサが答えた。

「仲間の力だよ。 お前にも昔はあった力だ。 あいつは今、6年前のお前の姿とクロノスの信念を背負って戦ってるんだ」

モララーはフサの方を振り向きはしなかったが、しっかりとフサの声は聞こえていた。

(仲間の力……? かつて俺にもあった……? ………)

     仲間………?

血だらけで、骨もおそらく数箇所は骨折しているサザン。
しかし、尚も戦おうと立ち上がった。

「モララー! 私はクロノスと約束をした! だから、お前を止めるまで私は寝る訳にはいかないんだ!」

モララーはピクリとも動かない。
フサの言葉に、サザンの言葉に衝撃を受けている様だ。

     何故立ち上がることが出来る? これが仲間の力なのか?

………トクン……トクン……トクン……トク……スー…ハー…スー…ハー…トクン……トクン……スー……ハー……スー…ハー……


<第十五章>~復活~

衝撃を受け、動けないモララー。
ダメージの蓄積で、体が動かないサザン。
これはサザン達に有利な状況だ。
このまま両者が動かなければ、時期に魔王は消える。
サザンもおそらく、頭ではそう思っているだろう。

(よし、良いぞ…このまま、このままだ……傷の回復にも集中出来る…)

サザンは大きく深呼吸をし、どうにか体が動く様に回復に努めているようだ。

(先程は見栄を張ったが、少し血を流し過ぎた……もう少し…)

その時、魔王が地獄の底から聞こえてくるような呻き声と共に姿を消した。
しかし、この出来事にもモララーは視線すら動かさない。

「よっしゃ! 魔王が消えた!」

「フサ! 今のモララーなら俺達でも……」

確かに、動かない敵ならばいくら強くても勝てるはず。
しかし、フサは首を横に振った。

「そんな決着、サザンが望んでない。多分、ギコもな……」

兄者は、そう言われるとそうだ、と言う様な納得の顔をした。
だが、戦況は未だ変わらない。両者共動かない。

「サザン…動け……!」

その時だった。

「ふざ……けるな」

モララーが堅い口を開いた。
サザンの方は、まだ回復しきっていない。

「仲間だと!? ふざけるな!! そんな物があってたまるか!! 家族、親友、恋人、そして仲間!! 全て偽りだ!! 
所詮、偽善者共が口にする綺麗事に過ぎない!!!」

モララーはフサでも兄者でも、そしてサザンに言うでもなく、自分自身を否定するかのように叫んだ。
少し傷の癒えてきたサザンがモララーに言う。

「モララー……あの頃を思い出せ。その心がお前には残っているはずだ」

ギリッ、と言う歯ぎしりがサザンの所まで聞こえそうだった。
モララーは二つの剣を手に持ち、顔を空に向け叫んだ。

「うがああああ! それ以上喋るなああああああ!!」

モララーは叫ぶと、剣に闇の気を集約させた。
そして、そのままモララーが剣を、自分を中心に円を描くように振った。
するとそこに小さな丸い、闇の空間が出来た。

「広がれ! 『デッドリー・スペース』!!」

そう言うと、瞬く間に闇の空間は広がっていった。
広がる最中、ギコとしぃを除いた三人は、空間にぶつかり弾き飛ばされた。
そしてその空間はドームの形を形取っていった。

「やべぇ! ギコとしぃから離れちまった!!」

フサはすぐに体勢を立て直し、ギコ達の所へ向かった。
しかし、闇の空間に入ろうとすると、拒否される様に後に弾き飛ばされた。

「いって~~~……クソッ! どうして……」

空間の中からモララーの声が聞こえる。

「これが『デッドリー・スペース』の効果だ。行動可能な敵を外に弾き出し、その敵は空間内に入れない。
大した効果では無いが……こうゆう局面では役に立つ。……この女は見せしめだ!!!!」

     ピクッ……

フサはその言葉を聞いた瞬間に叫んだ。

「しぃ! 眼を覚ませ!!」

モララーがしぃの首を掴み、持ち上げた。
そして剣を構えた。

(今の俺はどうにかしている……こいつを殺して暗黒の心を取り戻す!!)

チャキッ、と言う鍔鳴りが聞こえた。
そしてモララーが手に持つ日本刀に闇の気が纏う。

「死ね!!!」

モララーが剣を突こうとした。
三人はモララーの声に危機感を感じ、空間に向かって走った。
やはり弾かれたが、何度も空間に突っ込んで行く三人。
しかしその努力も虚しく、遂に空間を抜ける事は出来なかった。
モララーの剣が動き出す。

「「「しぃーーーーー!!」」」

ブスッ……

耳障りな音と共に鮮血が宙に舞う。
モララーの剣がしぃの喉元に……
届いていない。
何者かが剣を素手で掴んで止めた様だ。


     「この薄汚ない手を離せ」


その剣を止めたのは……
肩にかかる程度の髪の長さ。
色は金と言うよりも黄。
体格はいたって標準。
その姿は正に、

「ギコ!!?? 貴様……心臓が完全に停止していはず…!!」

「口を開けなんて言ってない。手を離せって言ったんだよ」

(何故こいつは生きている!? また仲間の力か!?)

「だんまりか……離す気がないなら力ずくだ」

ギコのもう片方の手に水の気が集まる。
そしてモララーの足元に掌を向けた。

「突き上げろ。『水柱・逆滝』」

そこから突き出た水の柱がモララーを上に突き上げた。
地面に落ちそうになったしぃを、ギコが支えた。
そのままモララーは空間に外に叩きつけられた。
術者が空間から出た為か、ドームが壊れていった。
外にいた三人がギコの立ち上がっているギコの姿を見つけた。

「「「ギコ!!!」」」

三人はギコに向かって走り出した。
そして、しぃもギコと言う名前に反応し、眼を覚ました。

「え……ギコ……? ……! ギコ君! 無事だったの!?」

「ん……ああ。心配かけたなみんな」

「全くだぜ! ったくよーー! 生きてるなら返事しろっつうんだよ!」

まるで戦場とは思えない和やかな空気。
モララーもそれに気付いているようだ。

(何だこの空気は……? 先程まであいつらは不利だったはず……それが何故ギコが生き返っただけでここまで……?)

「ごめん、みんな。喜びたい気持ちは分かるけど、俺には時間が無いんだ」

時間が無いと言う言葉に四人は疑問を覚えたが、あまり気にはしなかった。
何故なら、ギコなら絶対に勝ってくれる。と、言う期待感の方が強い為だ。
すると、モララーが立ち上がりギコに尋ねた。

「ギコ……貴様がまた立ち上がれたのも……仲間の力と言う偽善の力か?」

ギコはその質問に何の迷いも無く、澄んだ眼をして答えた。
真っ直ぐに、モララーの方を向いて。

     「そうだ」

(仲間の力だと………?)

モララーは剣を構え、ギコに言った。

「認めん! 俺は認めんぞ! 来い! 貴様にも第三覚醒の恐怖を教えてやる!」

「第三覚醒……? だったら俺もやってやる。しぃを守る為ならなんだってやってやる」

第三覚醒ができる訳じゃない。けどやらなきゃ負けるって言うならやってやる。それに………時間もあまり無い。


<第十六章>~力の差~

ギコの復活に喜びと期待が溢れる。
そして、モララーは剣を構えながらも疑問を抱いている。
     仲間の力。
偽善だと思っていたこの力が今、目の前に存在している。

「………」

モララーはまた沈黙。
その間に、ギコはサザンに尋ねた。

「サザン、第三覚醒のコツみたいのねぇか?」

「コツ?」

その内容は第三覚醒に対する質問だった。

「コツ、か……感覚はエレメント・アームを出す時と似ているが……」

それを聞いたとたん、ギコは右手に水気を集めだした。
量はかなり多く、とてつもない威圧感だ。
それをギコは凝縮させる。
水は次第に剣の形を成していく。
その剣は、どこまでも静かで、この世で一番の透明感とも思わせる程の透き通った青。
剣の形は洋刀、日本刀のどちらにも属さない奇妙な形。
剣の長さは標準よりも長め。
長すぎもせず、理想の長さとも言える。

色は美しく、奇妙な形に理想な長さ。
このシンプルな剣がギコの第三覚醒。
新しい剣、新しい力。

「ライジング・アビリティ」

(あれだけの助言で……ついさっきまでは第三覚醒が出来る要素など無かったと言うのに……何と言うカリスマ性だ……)

サザンは大きな期待を抱くと同時に、一瞬恐ろしさも感じた。
その時、その只ならぬ空気にモララーは我に返った。
ギコの見慣れない剣を見てモララーは直感した。

「貴様……第三覚醒を……」

「話してる時間は無い! 行くぜ!」

ギコが距離を詰めた。
そして剣を振り下ろす。
モララーは防ぐ事はせず、身をかわした。
次はモララーの攻撃。
何故か日本刀を鞘にしまい、洋刀だけで攻撃する。

一対一ならばギコの不利は無くなる。
しめた、と思いギコが反撃に出る。
しかしモララーは一旦距離をとる。
ギコは再度距離を詰める。
その時、ある領域にギコが足を踏み入れた。

「『和・抜刀術-居合一閃』」

モララーがボソリと呟いた。
ギコは直感で危険を察知し、後に飛び退いた。
次の瞬間、モララーが鞘から剣を抜き、抜刀時の摩擦で剣は加速した。
剣を抜くよりも早く飛び退いた筈が、それも間に合わず胸に掠り傷を負った。

「くっ……神速の抜刀術か……厄介だな……」

「ギコ……俺と貴様の大きな違いを教えてやる。」

モララーが人差し指と中指を立てて言った。

「それは二つ。『剣術の経験』と『攻撃力』だ」

モララーがまた日本刀を鞘にしまい、洋刀で攻撃を仕掛ける。
ギコもモララーの攻撃を必死に防ぐが、徐々にモララーの攻撃数が増え、ギコも防げなくなる。

「グッ……」

「まず一つ、貴様の剣術にはキレが無い。故に剣の攻撃速度が遅い。これが経験の差だ。そして……」

モララーが右手を前に出す。
そこから『ダークマター』が飛び出す。
ギコは横に転がり、身をかわす。
そして反撃に出ようとモララーに近づく。
そこには……

(鞘に日本刀!? しまった!!)

ヒュッ、と言う風斬り音の後に聞こえてきたのはギコの肩から血の吹き出す音。

「二つ目。俺の『ダークマター』と『居合一閃』は言わば一撃必殺。まともに当たれば『死』だ。だがお前にはそれが無い。これが『攻撃力』の差だ」

形成逆転。
それはあっという間に起きた。
しかし、モララーとの差は歴然と思われたが、ギコの眼には『絶望』が無い。
逆に『希望』に溢れている。
そしてこう言う。

「悪いな! 二つ共『ライジング・アビリティ』の特殊効果で解決出来る!」

すると、『ライジング・アビリティ』に『壱』と言う漢字が浮き出た。
ギコは、剣を右手に持ち、剣を上に向かせ、自分の体の中心に合わせた。
すると『壱』と言う漢字が光りだした。

「行くぜ……『FIRST RISE』!!」

早くこいつを倒さねぇと……俺が用があんのはこいつじゃねぇんだ!!! じゃねぇとあいつと話す時間が無くなっちまう!!!


<第十七章>~加速~

FIRST RISE---……
ギコの新しい力。
今からその能力が明らかにされる。

「モララー………ちゃんと着いて来いよ」

剣から発された光はギコを包んだ。
その光の色が黄に染まっていく。

「『GROW』」

その光が解き放たれた。
そこにギコはいた……が、しかし。
服装が変わっていた。
中には黒のTシャツ。
その上から黄色のパーカーをチャックを開けて着ている。
腕の部分に黒のラインが入っている。
背中には『神速』と言う漢字が入っている。
ズボンはダボダボの長ズボン。やはり黄色に黒のライン。

(服装が変わるのが奴の能力!? いや、違う……何かあるはずだ……)

「行くぞ! かわして見やがれ!」

(来る……集中するんだ。奴の動き一つ一つを見逃すな)

モララーの目つきが変わった。
緊迫した雰囲気が辺りに広がる。
しかし、じっと見ていたはずのギコの姿が突然消えた。

「何!? どこへ……」

左右のどこを見てもギコはいない。

「! 上か!?」

モララーが上を向くと、後からポンポンと肩を叩く者がいた。

「どこ向いてる?」

モララーは振り向くとすぐに眼を丸くした。
そこにはいたのはやはりギコ。
ギコは剣を振りかぶり、モララーに振り下ろす。
モララーはかろうじて防いだ。
そして一旦距離をとった。

「速度が……上がった?」

「ピンポーン。『FIRST RISE』は速度の強化だ。ちなみに……今の俺はお前よか速いぜ」

「何!? ふざけ……」

モララーが喋っている間に、ギコはまた背後に回っていた。

(また……)

「お前が俺の動きを眼でも追えていないのが証拠だ。それと……」

ギコが攻める。モララーが防ぎ、反撃しようとする。
しかし、ギコはその間も与えず攻撃を続ける。
それをモララーは防ぎ続ける。

「な……」

「俺が速くなったのは攻撃の速さも含めてだ」

今度はギコの方が距離をとる。
そして剣を構えた。
絶対に剣が届く距離では無いのに?

「何のつもりだ?」

「一瞬で背後に回れるなら……一瞬で距離も詰められるんだぜ?」

ギコが足に力を集め、思いっきり地面を蹴った。
凄まじい速度でギコがモララーの横を駆け抜けた。
モララーは反応できるはずも無く、胸に傷を負った。

「『S(スピード)S(スラッシュ)』」

S・S。
おそらく、今のギコが持ちうる最強の技だろう。
しかし、モララーは倒れない。
傷が浅かったようだ。

「くっくっく……読めたぞ……貴様は速くなりすぎて…攻撃力と言う重要な物がスポイルされているようだな……」

「……それも正解。でもお前に負けを認めさせれば良いから、それは別に良い」

「負けを認める? ふざけるな! 先に死んだ方が負けに決まって……」

「お前の攻撃はもう俺に当たねぇぞ? お前くらい強かったらわかるだろ?」

モララーが言ったギコの攻撃力の無さも事実。
しかし、ギコが言ったモララーの攻撃が当たらないのも事実。
この戦況ならギコの方が有利だ。

「……だが認めん! 負けを認めさせたいのならば俺を殺してみろ!」

「……『S・S』に攻撃力を加える方法ならいくらでもあるんだ。それにな……お前の負けは闇に染まった時から始まってんだよ」

「なんだと……貴様! 俺を侮辱……」

「てめぇには話しかけてねぇんだよ!!」

「……何?」

モララーが理解できないのもわかる。
確かにギコはモララーに話しかけた。
しかしモララーには話しかけていないと言う。
その時、突然ギコが距離を詰めた。
しかし、背後には回らず、モララーの懐に入った。
そしてモララーの胸ぐらを掴んだ。
そのままモララーの胸に向かって叫ぶ。

「俺はお前に話があるんだ!! こいつ(闇)に用はねぇんだよ!! 出て来やがれ!!! モララー!!! こいつがいて出て来れねぇっつうなら、俺がこいつをぶっ飛ばしてやるよ!!!」

モララーがギコの手を振りほどき、また距離をとる。

「貴様、何を言っている?」

「俺は闇を解いてモララーの人格を取り戻す。それが条件なんでな」

「条件だと? 何の……」

「うるせぇ。これ以上お喋りはできねぇんだ。何回も言ってるだろ?」

ギコが剣を構えた。
その構えは、S・Sの構え。
しかし、S・Sはさっき通じないと分かったはず。
まさかさっき言っていた、攻撃力を加える方法を……?

「I have no time(俺には時間がねぇんだ)」

本格的に時間が無くなって来たな……さっさとこいつぶっ倒して、モララーの人格を取り戻さねぇと………


<最終章>~END ОF WОR~

ギコがS・Sの構えを取ると、モララーも剣を鞘に納めた。剣は握らず少し手を離している。いよいよ決着が近づいて来た。

(ここまで背筋が寒いのは始めてだ……俺がこの男に……敗北に恐怖を感じているのか…?)

何か考えている様な表情から鬼の形相へとモララーの表情は移った。

「…有り得ん! その偽善の力も貴様の能力も! 打ち砕いてくれる!」

モララ-がそう叫ぶと、ギコは澄んだ眼をして言う。

「打ち砕かれるのは闇さ。仲間の力は……光はいつでも輝いてる! 輝き続ける!!」

ギコが足に力を集め始める。
するとモララーは日本刀に闇の力を纏わせた。
それはダークマターと同じ次元消去の闇の塊。
簡単に言えば次元消去の剣撃である。
ギコは居合を攻略できてない上に次元消去が加わった。

「ギコ! これで貴様の命運も尽きる!! 『和奥義-抜刀術・居合無帰』!!」

「どんな攻撃でも、当たらなきゃ意味が無ぇんだ!! 『神速奥義-S・S・S』!!」
     
「Sが一つ増えた所でどうにもならん!! 無に帰れ!!」

「俺は負けねぇ!!」

「「俺が必ず勝つ!!」」

ギコが走り出した。そして神速でモララーの横を駆け抜けた。
通り過ぎた後、モララーも剣を鞘から抜いていた。
一体どっちの攻撃が当たったのか、もしくはどちらも当たったか?
あるいはどちらも避けたか……只、未だに二人はピクリとも動かない。
その時……

「ギコ……なんて奴だ……」

サザンが思わず声を零した。
その言葉に兄者が言葉を返す。

「サザン、わかりやすく頼むぞ」

今までのサザンの説明が分かりにくかったかの様に、またこう言う時はサザンが必ず説明するかの様に、慣れた言い回しで言った。

「ん、ああ。ホントに単純に言うと、今の攻撃にギコは回転を加えたんだ」

「回転……!! そうか、遠心力!!」

サザンが小さく頷く。兄者は納得の顔を見せるが、フサはまだ分からない事があると言う顔だ。そのままフサが尋ねた。

「遠心力で攻撃力が加わるのは分かるけどよ、そんなの誰でも出来るじゃん」

その言葉には兄者が答える。

「違うぞフサ、あの速度で攻撃時に回転を加えるのは言葉ほど簡単じゃない」

それにサザンが付け加える。

「一歩間違えれば背を向けている間にあの世さ。新しく加わったS……それは『スパイラル』だ」

淡々と説明をするサザンに更にフサが質問を続ける。

「回転を加えたのがわかったッつう事は……お前今の攻防が見えたのか!?」

再度サザンが頷く。そしてサザンがモララーのいる方向を指差す。
この間、しぃは一度も口を開かなかった。
手を握り締め、ずっと胸にあてたまま、心配そうな顔でギコの戦いを見守っている。

(なんだろう……この感じ……なんだか、とっても嫌な予感がする……)

その時、

「ぐおおあああああ!!」

モララーが悲鳴を上げた。そして血が吹き出した。
右肩から左の横腹にかけて大きな傷跡が見られる。
そのまま膝を地に着いた。

「なんだと……この俺が振り遅れたのか!?」

「闇に染まったお前じゃぁ、俺の神速は止められない」

先程の攻防、ギコが走り出すとモララーは剣を握った。
モララーはギコの速度を計算に入れて、自分でも速いと思うくらい速く剣を振った。
モララーの計算は完璧だった。今までのギコの速度ならば。
ギコは更に速くなった。そして回転を加え始める。
ギコが体を反転したとき、モララーは剣を半分まで抜いている。
彼が回転し、攻撃が届いた時、モララーも剣を抜いていた……が、振れてはいなかった。
結果は……

「モララー、俺の勝ちだな」

「くッ……確かに俺は攻撃を受けた。もう戦えも、立てもしないだろう。だが、貴様の言っていた元の人格を取り戻すと言う事は出来なかった様だな!! 何の条件かは知らんが、それを満たせなかったと言う事だ!!」

「闇の化身を倒せば良いんだろ? 出し惜しみすんなよ」

それを聞いたモララーが和洋、両方の剣を手に取った。
そして座り込んだまま、剣をクロスさせる。

「フ……ハハハ! そこまで死にたいか!? 良いだろう! 残りの闇力全てを振り絞り、奴を召喚する!!」

すると、空が曇り雲が渦巻く。この光景は、魔王が召喚された時と同じである。
そして渦巻いた雲の中心から再び魔族の王が姿を現した。

「今度こそ本当に終わりだ、ギコ! 魔王はサザンですら勝てなかったと言うのに、貴様が勝てる訳が無い!!」

その言葉を聞くと、ギコが地面に剣を突き刺した。
そして、刺したまま両手で剣の柄をを握り、俯きながら言う。

「サザンの心は折れなかったはずだ。仲間の力で何回も立ち上がったはずだ!! それにな……サザンは神話の生物を召喚しなかったろ?」

突然ギコの握っている剣が輝き始めた。

「神話の生物は神話の生物でしか倒せない! それなら俺も召喚してやる!!」

“……返…………を君…………よ”

ギコの剣の輝きが天に伸びた。
その光は空の曇りを晴らし、雲を散らす。
そして、光が様々に差し込んでくる。
そこから姿を現したのは……蒼く、神々しい体の色をした『龍』。

「これは…青龍! 四神の一匹である生物がお前の……! ……いや、今更貴様が何をして来ようと驚くまい。魔族の王が神に挑んでやろう!!」

「さぁ~~て、精神力の勝負だぜ!!」

“……止め………条……”

「魔王!! 『ダークマター・オプション-MANY・SHОT』!!」

そのモララーの言葉に反応し、魔王が両手を前に突き出した。
そこから大量のダークマターを発射する。
しかし、青龍は体をうねらせ、全てのダークマターを回避した。

「青龍!! 水を纏い、蒼き刃となれ!!」

“三人………開……………会……勝………現世……………………”

今度はギコの言葉に反応し、青龍が水を体に纏った。
そして、魔王の右上へと体を進めた。

「飛び回れ!! 『*』(アスタリスク)!!」

“そこ…優…………晴れて……復……”

“君……罪……………闇…巻…………命…………”


     “君は死んだんだ”


青龍が右上から左下へ、左上から右下へ、そして上から下へと飛び回り、魔王の体を貫いた。
三つの線上の攻撃の全てが交わった中心で、水が弾けた。
そして、その水と共に魔王の闇も砕け散った。

     ドゴーーーーーーーン!!

その砕け散った音と共に、モララーも悲鳴を上げた。

「があああああああああああああーーーーーー!!」

その時、モララーの体から闇が解き放たれた。
モララーの体から離れた闇は次第に大きくなっていき、空に溶けていった。
すると、モララーは気を失い地面に前のめりに倒れこんだ。

「「モララー!!」

倒れたモララーにサザンとギコが駆け寄る。
サザンがその場を離れ、そこにいる三人が言った。

「おい……あいつやりやがった!!」

「ああ! 俺はギコならやってくれると思ってた!」

「ギコ君が……勝った……」

「「ああ! あいつが勝ったんだ!! ギコーーーーーー!!」」

ギコの名前を呼びながら、フサと兄者が彼の所へ駆け寄る。
しかし、しぃだけがその場に残った。

(良かった……何も…無くて……)

しぃがホッとして、小さな溜め息を一つ零した。
顔にも心配の色は無い。しぃも彼らの所へ向かった。

「モララー! モララー! 目を覚ませ!!」

サザンがモララーの体を揺らしながら呼びかける。
その声に反応したか、モララーがゆっくりと目を開き始めた。
開いたモララーの目には、眩しい光が差し込んでくる。
その光に刺激されたか、モララーは涙を流した。
いや、涙の理由は光の眩しさじゃ無い。

「サザン……俺は今まで何をしていた……? 何故……こんなにも俺の心が痛むんだ? 俺は……まさか……大きな過ちを……」

モララーが胸に手を当てて、呆然とした顔で言った。
すると、サザンが目を瞑り、優しい口調で言った。

「モララー……君は夢を見ていたんだ……長い長い夢を……でも、もう終わったんだ………NIGHTMARE(悪夢)は終わったんだ」

「そうか……サザン、礼を言う……」

「礼ならここにいる英雄に言ってくれ。君の目を覚ましたのも、悪夢を終わらしたのも、全て彼だ」

ギコがサザンの横からヒョコッと顔を出した。
モララーが立っているギコを見上げた。

「貴様が……いや、恩人に貴様は無礼だな」

モララーが涙を拭い、立ち上がる。
そして少し不器用な笑顔を見せた。

「お前が俺を救ってくれたんだな。……礼を言う」

モララーが手をギコに手を差し伸べる。
その手を見たギコも、笑顔を見せた。

「お前も十分無礼だけどな! モララー、これからヨロシクな!」

ギコはその手を取る。
二人は今までこれを求めたいたかの様に強く握手をした。
そして、ギコはサザンに言葉を投げかける。

「サザン、実はちょっと大事な話がモララーにあんだ。だから……」

ギコが少し言いにくそうな顔をすると、サザンはすぐに言った。

「わかった。少し席を外そう」

「ごめんな、助かるぜ」

サザンは立ち上がり、フサ達が向かって来てるのを見た。
あれも止めておこうとギコに言い、フサ達の所へ行った。

「……それで? 話とは何だ?」

「……実は……―――……

     <しぃ、フサ、兄者、サザン>

フサと兄者がギコの所へ向かっている途中、サザンに足止めされたので、少し怒り気味にフサが言った。

「んだよサザン! ギコんとこ行かねぇのか!?」

全力疾走でギコの所へ向かって行った二人に、やっとしぃが追いついた。
しかし、二人が止まっていたので少し困惑気味だった。

「え? 何々? どうしたの?」

「ギコはモララーと一対一で話をしている。少し待て」

「ちぇーーーっ、んだよ!」

「フサ、時に落ち着け。少し待とうじゃないか」

少しお気楽な二人と違い、しぃはまた何か心配になった様だ。

(二人で話……何を話すの……? モララーは……もう死んでる人なのに?)

しぃはまた胸を締め付けられる様な嫌な予感に襲われた。
二人で話すだけ。これだけの事なのに、異常に心配している。

     <ギコ、モララー>

「そうか……だが、もしそこで負けると……」

「ああ、そん時は……ホントに……」

「……すまんな、巻き込んでしまった様だ」

「良いんだ。俺が弱かったんだから………そろそろ俺もお前も時間が無い。みんなの所へ行こう」

二人が話し終わり、四人の方へ向かって行く。

「お、話し終わったみてぇだな」

それを見たフサが言った。

「全く、長々と話していたみたいだが……」

兄者が腕を組み、呆れた様な口調で言う。

「それで……話した内容は秘密なのか?」

サザンが二人に尋ねると、モララーが答えた。

「今は説明する時間が無い。俺もあの三人と同じく、直に消える」

サザンはその言葉に涙は流さなかった。
やはり、と言う気持ちがあったからだろうか。
モララーの言葉に続け、ギコが言う。

「近い将来にわかるよ。今はホントに時間が無いんだ」

(時間が無い? さっきからずっと言ってるけど……どう言う事なの?)

「時間が無いだぁ!? お前はあんだろぉが! なぁ兄者! さっきも死んだフリなんかしてなぁ!」

フサが怒っている口調だが、笑顔で兄者に会話を振る。
それに兄者が悪戯な笑顔で言った。

「全くだ。お前にはじっくり後で説明してもらおう」

(死んだフリ? どうやったら心臓を止めたフリなんて出来るの? もしかして……そんな……)

こんな会話をしている間に、モララーが光に包まれ始めた。

「ん……時間か……」

「モララー……私は……」

サザンが何かを言いかけたとき、モララーの言葉がサザンの言葉を遮った。

「サザン………クロノスも俺も同じ考えと思うがな」

「……! そうだな……辛気臭い顔はご法度だ」

二人は強く手を握った。
その二人の後ろには、何故か光があるように見えた。
そして、サザンが手を離すと、モララーはもう既に消えかかっていた。
最後にモララーは一言だけ零した。

「ギコ……約束の場所で待ってるからな」

その一言を残し、モララーは天に昇った。

「逝っちまったなぁ……」

「うむ、付け加えればこれで戦争も終わったんだ」

フサが感傷に浸っていると、兄者が歓喜の元とも言える言葉を発した。
フサはハッとし、ギコの方を向きながら言う。

「そうだ! ギコ! お前よくやってくれ………」

ギコを見た時、フサの言葉が止まった。
不思議がって兄者もギコを見る。
そこには………

「おい……ギコ、お前……お前なんで!!」

光に包まれたギコの姿が。
思わずフサが叫んだ。
兄者は呆然として何も言えないといった様子だ。
そのフサの言葉に反応して、サザンとしぃもそちらを向く。
二人は兄者と同じ様な反応を見せた。

「そんな……ギコ君……」

「……ギコ…何故……君が…」

「TIME LIMIT(時間切れだ)」

四人が発する言葉にはそれぞれの心境が込められている。

「てめぇ! ふざけんなよ!! 勝手に死ぬんじゃねぇ!! ギコ!! なんとか言えーーー!!」

「ギコ!! 俺達は無関係なのか!? きっちり説明して逝け馬鹿者!!」

「ギコ………君………いや……いかないで………離さないって言ったじゃない!!」

「落ち着け!! 冷静になれ!!」

うろたえる三人にサザンが叫ぶ。
しぃと兄者は冷静になった。いや、しぃは冷静と言うには程遠いかもしれないが。しかし、フサは冷静になれない。

「落ち着けだと!? この状況でか!? 出来るわけねぇだろうが!! ギコ!! ちゃんと説明を……」

「君がそう騒ぐとギコが何も言えないんだ!!」

フサが大声で騒いでいるのを、それを上回る大声でサザンが止めた。
その言葉に納得したか、フサは冷静になり、落ち着いた口調でギコに言う。

「ギコ……すまねぇ……けど、俺も兄者もサザンも………しぃだってこれじゃぁ納得出来ないんだ。説明してくれ」

「フサ……ごめん。説明してる時間は無いんだ……でも、一つだけ。みんなに約束するよ。俺はまた帰ってくる。モララーも一緒に必ず。ホントに勝手だけど……信じてくれ」

「……OK、ギコ。俺はお前を信じよう。なるべく早く帰ってくるんだぞ」

「ああ、約束するよ」

兄者の言葉に、ギコは笑顔で答えた。
兄者が手を差し伸べる。慣れた仕草でギコはその手を取った。
すると、兄者がギコの背中を押す。
ギコが押されたそこには、サザンのいた。

「ギコ……モララーを……宜しく頼む。彼は強いが……結構一人では何も出来ない奴なんだ。彼に力を貸してやってくれ」

「もちろん! あいつも俺の力になってくれるだろうしな」

会話が終わり、サザンも兄者と同じく手を差し伸べる。

「ったく、みんな同じ事すんのか? もうちょい一人一人違うことするとかさぁ……」

ギコが口を尖らせて文句を言った。
それに対し、サザンは少し微笑む。

「ホントのお別れならそうするが……君は帰ってくるんだろう?」

ギコは少し考えた後、納得の顔を見せた。
すると、サザンは親指を立てて後ろを指差した。
そこにはフサの姿があったので、ギコは小走りでフサに駆け寄る。

「よっ親友。今からどこ行くんだ?」

ギコは少し驚いたが、昔からの付き合いで正確を理解していたのか、すぐに対応した。

「今からあの世だ。しばらくな」

「そうか………」

フサは目を瞑り、ギコに肩を掛けた。
ギコはすぐに肩を掛け返した。
肩を組んだフサが言う。

「なぁ、ギコ。俺なァ、夢があるんだ」

「なぬ!? 初耳だぞ?」

「そりゃそうさ。今思いついたんだから」

「どう言う夢だよそりゃぁ……」

消える寸前だと言うのに、今まで通りのやりとりを交わす二人。
フサがギコの首を冗談程度に絞めながら言う。

「おい、聞きてぇか!? 俺の今考えた夢!」

「痛ぇ痛ぇ! 聞きてぇよ!」

ギコが聞きたいと言うと、フサが絞めるのを止め、ギコの耳にボソッと呟いた。

「一生お前の友達でいる事さ」

ギコがそれを聞くと目を丸くしたが、今度はギコが目を瞑り、そして軽く笑って言う。

「バーカ。夢ってのはもっとデッカく、自分の限界に挑戦する様な事を言うんだぜ。お前のそれは簡単過ぎて夢とは言えねぇなぁ。もはや予定だぜ」

「バカとはなんだてめぇ!」

「そこしか聞いてねぇのかよゴルァ! ……ったく」

ギコが手を差し伸べた。
フサは笑い、手を掴まずに払い飛ばした。

「さっさと行って来やがれ。しばらく留守にするなら一番お別れを言わなきゃいけねぇ奴がいんだろ?」

「ああ……だな!」

ギコはもう一度フサに手を差し伸べた。
すると、今度はしっかり手を握る。
そしてギコはしぃの元へと駆け寄った。

「ギコ君……」

その時、すでにしぃは涙を流していた。

「あ~泣くなよ。帰ってくるって言ってるだろ?」

「でも……でも……帰ってこないかも……」

     「俺を信じろ」

その言葉を聞くと、しぃは涙を拭い、笑顔でギコの方を向いた。

「うん! 信じてるからね!」

「ああ。すぐに帰ってくるよ。そしてらさ………」

「? 何?」

「花火見に祭りでも行くか」

「! うん! 行きたい!」

いつの間にか笑顔でいっぱいの二人がそこにいた。
しかし、ギコが何かを思い出したかの様に、しぃに話しかける。

「あ、あのさ……俺、しぃに言わなきゃいけない事が……」

「? 今度は何?」

「あの…その……もうわかってると思うけど……その……」

「早く言わないと……そろそろ時間じゃないの?」

「わかってるよ! わかってるけど……」

ギコの顔が真っ赤になっている。
その顔を見てしぃもギコが何を言いたがってるか、理解した様だ。
しかし、ギコは後、数秒で消えてしまうと言う所まで来た。

「よぉし、わかった。私もギコ君に言いたい事があるから……せーので言おう?」

「え? あ、ああ、わかった。それじゃぁ……せーの」


     「「大好きだよ」」


しぃは「やっぱりね」、と言う顔。
ギコは、しぃが自分が何を言うか見抜いていた事に驚いた顔を見せる。
でも、その後の顔は二人揃って万遍の笑顔だった。
そしてギコを包む光が消え、ギコもモララーと同じく、空に溶けていった。
しぃは目を瞑り、少し笑っている。涙は見せない。
しぃが三人の所へ向かうと、そこにあるのは話しているフサと兄者二人の姿だけ。サザンの姿は無い。

「なぁ、兄者……」

「どうした、フサ? 寂しいのか?」

「どんくらいしたら、あいつ帰ってくるか……賭けようぜ」

「……OK、乗った!」

あまりにも緊張感の無い二人に、しぃの怒号が鳴り響く。

「そう言う事しないで二人共!」

「「うわっ!!」」

「いきなり後から大声出すなよ!」

「OK、正直スマソかった。時に落ち着け」

「全く……ねぇ、サザンさんは?」

ある程度落ち着きを取り戻したしぃが尋ねる。
それに対し、フサが答えた。

「あいつは……『ギコとモララーの事は君達に任せるよ。私は色々と情報を集める必要があるからね。また何かあれば力になろう。今回は巻き込んでしまってすまなかった』っつってどっか行っちまった」

「へ~。大変ね、サザンさんも」

「それでは……帰ろうか」

二人が話しているのを、兄者が突然仕切り始めた。

「兄者……いきなりどうした?」

「帰るって……」

「我が家にだ」

フサとしぃが顔を見合し、「そうだった」と言う顔を見せる。

「お前ら……家に帰ることを忘れるな」

「悪ィ悪ィ。ずっと戦いっぱだったからなぁ……」

「私は……どこに帰れば良いんだろう……」

今度はフサと兄者が顔を見合わせる。
そして二人一緒に頷き、しぃ言った。

「ギコの家に帰れよ! 一人が寂しいなら学校帰りに毎日寄ってやるよ!」

「ギコが帰ってくるまでお前があの家を守るんだ。いずれあそこで家族を築くのだろ?」

兄者の言葉に、しぃは顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
半端じゃない怒りのオーラが辺りに漂う。

「おい、兄者……お前余計な事は言わなくて良いんだよ……」

「OK、正直スマソかった」

「もう! 二人共~!!」

「フサ! 逃げながら帰るか!!」

「何で俺まで~~~!?」

「コラーーー! 待ちなさ~~~い!」

逃げ出した二人をしぃが追いかける。
ギコがいなくても、この三人は相変わらずの様だ………---



     <???>

「モララー、待たせたな」

「そうでもない。さぁ、案内してくれ。----とやら」

「じゃぁ最後に一つ……これから行く所はかなりの腕を持つ強者達がいる。君達………覚悟はできてるんだね?」

「当たり前だ!!」

「愚問だ。俺達は守らなければいけない約束がある」

「……逃げても良いんだよ? 何のためにそこまで頑張るんだ?」


     「「仲間の為に、帰る為にだ」」



     『NEXT STORY』  完
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「負けたらそこでゲームオーバーさ」

                  「その大会はあの街で行われる」

     「石像の呪いだよ」

                       「戦いは好きじゃないの」

 「しぃは返してもらうぜ!!」

                     「ここは任せるモナー」

   「これが最強のチームだ」

                「あの組織の幹部には手を出すな」

      「この作戦の成功にその女は不可欠だ」

  「ただいま、みんな!!」

               「炎を纏う鳥は不死鳥って決まってるんだ」

「地の力は防御が真骨頂」

                   「やめろウララー!!」

    「生意気なんじゃネーノ?」

              「俺もなめられたものだ」

     「あいつは死なない。必ずまた蘇る」

     

     “TO BE CONTINUED”………

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