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『ケイ』 (?)

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匿名ユーザー

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星が降ってきそうな道。
暗闇の中、ひた走る。
大事な手紙、思い、約束。
使命。


「これって、いろいろな監督さんが題材に選ぶんだよね。元が神クラスだからね」
監督の説明を、俺は聞くともなしに聞きながら、手渡された台本に目を通していた。
確かに、この題材は名作が多く、今でも根強い人気を誇る作品が多い。
ということは同時に

「リスクが大きすぎるって言われたんだけどね」

その通りだ。
良い題材であり、それが名作を多く生み出した物となれば、評価の目も厳しくなり、いやがおうにも監督の構成能力の差が歴然とする。

「叩きも多いだろうし、ファンの方々の目も厳しいよ。僕もいまだにファンだし、駄作は許せない。
だけどね、これは僕がこの道を目指そうと思った、きっかけの作品でもあるんだ」

目深にかぶった野球帽のせいで、監督の表情は良く見えない。
俺は聞いているふりをして、台本に目を通していた。
「聞いている」から、めくるわけにはいかないので、先ほど開いた1ページ目。
登場人物の名前と、題名。
はっきりいって、俺なんかに請け負える仕事じゃねぇ。
配役ミスもいいとこだ。

「それにね、僕は人様と同じ事をするのが大嫌いなんだよ。だからこの作品も、僕なりのアレンジをしたいんだ。
監督が10人いれば皆違う作品を出せる。十人十色とはこのことだよ」

たしかに、こんな奇天烈な台本、よく考えたもんだ。劇団でも、見本としても見たこともない。
原作のイメージを大事にするファンには、受け入れてもらえないんじゃないのか?

「監督…」

思い切って俺は手を上げた。

「やっぱり、俺にはこの役は荷が重過ぎますよ。もっとキャリアのある先輩方にお願いした方が…」

永遠に続くかと思った監督の語りが、止まった。

「だからね、この役をやれるのは、君しかいないと思うんだよね。うん。
今までいっぱい稽古したじゃないか、うん。思う通りにやってくれればいいんだよ」
「稽古っていったって…」

100回以上に渡る台本の読み合わせだけ。それに、

「どうしたの?台詞忘れちゃったの?」
「いえ、あれだけ読み込めば、そんなことないですけど…」

それに、毎回の演出のアドバイスは…

「君らしくやってくれればいいんだよ。うん。僕の作品は君にしかできないんだからね」

俺よりずいぶん小柄な監督は、思い切り背伸びをし、台本で俺の胸を叩いた。

「さぁさぁ!僕はすぐにでも撮りたい気分だよ!すぐにシーン1だよ!」

テケテケテケ、と椅子に戻り、役者連に向け、手をパタパタと動かす。
スタッフさんに急かされ、持ち場に着かされた。

「ではでは、シーン1、ギコ君、モナー君、準備して!」

カメラとカチンコが用意され、照明が光る。
見ると、モナーさんが、少し困ったように笑いながら、俺を見ていた。


             ☆☆☆ Act.1 ☆☆☆ 

週末。この陰気な街にも、少しばかりの賑わいが訪れる。

全身黒づくめの甲冑に、黒いフードを着込んだ俺は、大通りを堂々と歩く。
向かいからは、あからさまに浮かぶ恐怖へのごまかしの笑みと、通り過ぎざまに浴びせられるさけずみの視線。
わざと剥き出しにした左腕の刺青が、俺が犯罪者であるという事を明らかにしていた。

黒いかぎ状の帯。人殺しの烙印。
同時に、島の住人であることを物語る。

「島」と呼ばれるこの陸の孤島。円の形に城壁が組まれ、世間で言う「罪人」が入れられる監獄。
政府によって選別された、人殺し、盗賊、思想犯、同性愛者、異教徒。
世間から「特別異質」と判断されたものばかりを集め、監視し、さけずむことで、世界の普通を守っている。

くだらない。
そんな事はどうでもいい。
俺は…

ガツンッ!

振り向きざまに、拳を打ちつけた。
首をおかしな方向に向けた男が、どっと倒れた。

「…ンのやろう!」
連れらしき2人が、物騒なものを抜き放った。

「んぁあ?這いずり回りてーのか?」

亀裂のような笑みを浮かべ、俺は嬉々として拳を解き放つ。
ただでさえ目立つ風貌。生意気な自己主張。トラブルの源となるには十分だ。

「バラしてやるよ!十分痛めつけてからな!」

猫のような俊敏な動きで獲物に飛びかかると、いたぶり、弄ぶように。
自分の持っている、ありとあらゆる武器で獲物を追い詰め、ありとあらゆるぶきを試し、使い、全て2匹とも平等に、余すところなく。
拳を、脚を、牙を、ナイフを、火気を、薬物を、鈍器を、銃器を。

「ヒャハハハハハハハ!」

別に異質なことではない。

「あああああぁぁぁぁぁ~楽しぃなぁ!もう!ゴルァ!」

この「島」では、俺は…別に異質ではないんだ。
だって、ここは、世界に存在すること自体が「特別異質」なんだからね。

「ゴルァ!ヘばってんじゃねーよ!」

石畳に、鮮血が飛び散った。

                ☆☆☆☆☆

「はいはいはいはい」

シャワーを浴び、血糊を落としたところで、監督がテケテケテケと近寄ってきた。

「いや~、怖い怖い、上出来!上出来!うん。主人公の気持ちが良く出ていたよ」
「はぁ・・・」

何と答えてよいのやら。
出番の後は、いつも何ともやりきれない気分だ。

「うん、今日はちょっとこのくらいにしようか、いや~イイ!ほんとに君にして良かったよ!」

お茶を入れてもらい、俺は今しがた立っていた舞台セットを見た。
スタッフさんが、せっせと血糊を拭き取っている。
ふとドアを見ると、先ほどの共演者さんがみえた。

「あ、テナーさん」
シャワーの後だろう、急いで駆け寄ると、ほんのり湯の香りがした。

「ありがとうございました。なんか、その…」
「ははははは!いいって事よ!これが俺の仕事だからな」

やられ役、死に役専門。
暴力シーンを引き立たせるには、無くてはならない役どころだ。
俺の同業者。
そして、同じ事務所の先輩。

「今までにないでかい仕事だ、気張りな」
にっと笑って、肩を叩いてくれた。
「んじゃ、弁当もらってくるわ、死んだやつがウロウロするもんじゃないぜ」
笑いながら、テナーさんは監督と言葉を交わし、スタジオから出て行った。

「・・・・・・・」
「凄い迫力だったモナ」

いきなり声をかけられ、俺は心臓が飛び上がった。
振り返ると、モナーさんが立っていた。

「あ、ありがとうございます。その、本業はこっちなもので・・・」
しどろもどろ返事をすると、モナーさんはおかしそうに笑った。

「とても同一人物とは思えないモナ」
「いえ、その、よく言われます」

実際。俺はギコ種の癖に威勢が無い。自分は本当にギコ種なのかと疑わしくもなるほどだ。
モナーさんは、にこにこと笑うと、俺の手を引いた。

「監督が呼んでるモナ」
びくっとした。
モナーさんの手、とても温かかったから。

「あ、ごめんモナ。モナーは馴れ馴れしすぎるモナ」
「いえ!そ、そんなこと…」

ふと、頭をよぎる「何か」。
思い出されそうになったが、すぐに打ち消した。

「あの、仰る意味がよく分かりませんが…」
俺は目を白黒させながら監督に質問した。
「だから、僕は無駄なことが嫌いなんだよ、うん。
だから、撮影が終わるまで、しばらく一緒に生活して欲しいんだよ。
君とモナー君にはね」

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