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Keep my beer (雲井)

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 とある中華街で一人の男がブラブラしていた。それなりに高い背にそれなりの容姿の顔がちょこんと乗っている、青いボディのギコだった。韓国からこの地へ観光へやってきた彼は夕飯を食いにホテルから出張ってきたのである。

『厨華飯店』

 一つの店の前でギコは足を止めた。少し考えると店の中へと足を踏み入れる。どうやらここで夕飯を取るつもりらしい。

 店のドアを開けると中には小さな男の子が立っていた。なにやら民族衣装のような服を着ている。胸元の名札には『ジェン』と書かれていた。どうやら店員らしい。
「あ、お客さんですか?」
 幼いながらもシッカリとした口調でジェンが言う。ギコは無言のまま頷いた。ジェンはニッコリと笑うと店の奥へと駆け出していった。
「みんなー! お客さんが来たよー!」
 すると店の奥から三人の女性が出てきた。
「いらっしゃいませー」
 満面の笑みで迎えられる。ギコはちょっと戸惑った、なかなか美人の多い店である。
 
 一人はモナー族の店員だった、ちょっと幼い顔つきに満面の笑みが魅力的である、胸に付けている名札には『モーナ』と書かれていた。
 隣にいるのはモララー族だった、胸元が大胆に開いたチャイナドレスがセクシーである、名札には『ララ』と書かれていた。
 最後の一人はしぃ族だった、チャイナドレスが盛り上る程に筋肉ムキムキだった、目がギラギラ光っていた、店員というより用心棒だろうと思わせる体格である。『シー』という名前らしい。


「いらっしゃいませ~、こちらへどうぞ」
 モーナが席へと案内する。他の席に客の姿はなかった。ギコの脳裏に一抹の不安がよぎる。
「ようこそ、ぱっとしない男ですね」
 茶を置きながらモーナが思いっきり暴言を吐いた。突然の暴言にギコも眉を寄せる。
「……おい、いきなり客に喧嘩売るのかよ」
「え? 喧嘩?」
 笑顔でキョトンとするモーナ、罪悪感など微塵も感じられない笑顔である。どうやら悪気はなく、素で言っているらしい。ギコは頭を痛めた。

 その時、店の奥からさっきの男の子の声が聞こえた。
「ねぇ~、食材がもう何も無いよ~?」
「はぁ?」
 ギコは耳を疑った、仮にも料理屋のクセに食材が無いとは何事であろうか。
「あ、大丈夫ですよ。これがありますから」
 モーナが懐から白い物を取り出した。ハンペンである。おでんに入ってるはんぺんである。モーナはニコニコしながらハンペンをギコに差し出している、どうやら食えと言いたいらしい。
「なんでハンペンだけなんだよ、俺は中華料理を食いに来たんだが」
「贅沢言うな」
「いや……」

 やってられんとギコは椅子から立ち上がった。……が、前を何者かが立ちふさがった。見るとさっきの筋肉女、シーである。右手にジェンを抱えて此方を見下ろしている。
「……あ、あの、俺もう帰る」
「チョット オマチ クダサイ スグニ ヨウイ シマスノデ」
 ギラギラ光る目に睨まれながら片言でこう言われてしまってはギコも席に戻るしかない。命のほうが大事である。
 ギコが席に戻ったのを確認すると、いきなりシーはジェンを投げ飛ばした。片手で、ブンッと、野球投手顔負けの勢いで。哀れ、ジェンは窓を突き破って外へと飛び出して行ってしまった。
「ナンカ トッテキテー!!」
 シーは夜空へ消えてゆくジェンにこう叫ぶと此方へニッコリと笑いかけた。ちょっと待ってろ 逃げるなよ とシーの目は語っていた。

「はぁ……」
 ため息を付くギコ、そんな彼の元にララがやってきた。
「これじゃ店の評判が落ちちゃうわよ、ねえ……お客さん」
 ララが怪しい目付きでギコにせまる。服の胸元をちょっと引っ張ったりしている、ドキドキである。
「な……なんすか?」
「料理が出来るまでの間、私を…」
「そういう店じゃないだろうが……」 
 ちょっと慌てるギコ、そんな彼を見てララはいきなり笑い出した。
「あははは! 冗談冗談、お客さん可愛いねー」
「うるさい!」
「あ、もしかしてまだチェリー?!」
「やかましいわ!」
 ララは笑うだけ笑うと奥へ引っ込んでいった。

 とんでもない店へ来たもんだとギコがため息を付いていると今度はモーナがやって来た。
「あの、ハンペン三つ見つかりましたけど?」
「だから何でハンペンしか無いんだよ! ここは飯屋だろうが?!」
「うだうだ言うな童貞が」
「どどどどど 童貞ちゃうわ!」
 ギコとモーナが不毛な言い争いを繰り広げるなか、店のドアがあいた。
「ただいまーっ! 食材取ってきたよ~!」
 なんと先ほど投げ飛ばされたジェンが笑顔で帰ってきた。全身傷だらけで背中には何か袋を背負っている。ギコはちょっと彼に同情した。
「はいはいお疲れ様~」
 ララがやって来るとジェンから袋を受け取った。
「お客さん、いい海老が取れたみたいだからすぐ調理しますね」
 そう言いながらララが袋から海老を出す。……が、その海老にはハサミが二つ付いていた。つーか、海老じゃなくて……
「おいっ! それザリガニだろ?!」
 ギコが慌てて突っ込みを入れる、ジェンがトコトコやって来るとフォローを入れた。
「お客さん、川の中でも活きのよさそうな海老を選んだから安心してよ」
「あくまで海老と言い張るのか……」
 傷だらけの彼を目の前にしてこれ以上否定を続けるのも躊躇われ、ギコは大人しく待つことにする。


 やがてララが料理を持ってきた。ザリガニを使っている事を忘れれば中々美味しそうに見える。
「んじゃ、いただきます」
 やっと飯にありつけたと安心しながら料理を頬張るギコ、次の瞬間、口の中の物を噴出した。
「ありゃ、お客さんに海老の味わからなかった?」
「うるさい! ザリガニを食う風習は俺の国にはねえんだよ!」
 モーナが相変わらずニコニコしながら皿を引っ込めて行った。

 顔色を悪くしつつもギコはふと何かに気付いて顔を上げた。
「おい……、まさかこの店には酒もねえのか?」
「あ……それは……」
 モーナとララが困り顔をする。どうやら酒すら無い様子である。

「何を騒いでるんだ」
 その時、鋭い声が店内に響き渡った。
「店長?!」
 ララが驚いた声を上げる。出てきたのは気の強そうな目をしたツー族の女性だった。どうやら彼女が女店長らしい。
 ツーは店の隅の金庫のようなところを空けると中から一本の瓶を取り出した。
「さあ酒だ、飲め」
 そう言いつつギコのテーブルに瓶を置く。店員の態度が悪いのにはもはや慣れたギコ、言われるがままに瓶の中身を口にした。
「うっ……これは……」
 飲んだ途端、ギコの顔が真っ青になった。
「当店自慢のビールだ、美味しいだろう?」
 ツーが胸を張って答える。しかし、ギコは聞いていなかった。その場に突っ伏して悶えている。
「どうした?」
「ビールは苦手なんだよ……焼酎でないと……」
 脂汗をかくギコ。そんな彼をみてツーがため息をついた。
「おいおい、ビールくらいでへばるなよ……男のプライドあんのか?」
「悪かったな……」
 ようやく回復したギコが頭を上げる。
「ま、どーでもいいけどね」
 ツーは興味なさそうに奥へと戻っていってしまった。ギコの堪忍袋の緒が徐々に切れそうになってゆく。

「もう、何一つ満足に出してないじゃないの」
 モーラが肩を落とす。すると奥からツーが戻ってきた。なにやら大切そうに瓶を抱えている。
「ビールがダメならしょうがない、これを飲め」
 そう言ってギコのテーブルに再び瓶を置く。しかし、ギコはそれには手をつけずに立ち上がった。
「なんだ、飲まないのか?」
「やなこった、これかなり高級な水じゃねえか」
 ギコの指摘どうり、ツーが持ってきたのは一本30万円相当の高級な水である。
「……ちぇ、ばれたか」
 悪びれもせずツーが悔しがった、ぼったくる気満々だったらしい。それを見たギコ、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしろ! 何一つ食えるモンがねえじゃねえか! 俺はもう帰るぞ! 文句あっか?!」
「…………」
 ツーは頬を膨らましながら黙っている。
 すると他の店員がニコニコしながらやって来た。
「お会計ですね?!」
「お茶代、ハンペン代、料理代、ビール代、サービス料ふくめまして……」
「合計4、5000円になります」
 ギコは唖然とした。
「高けえよ! つーか俺ハンペン食ってねえよ!」
 怒るギコの前にシーがぬうっと立ちはだかった。
「ゴライテン マコトニ アリガト ゴザマシタ」
「…………」
 

 ギコは軽くなった財布を胸に、中華街を後にしたのだった。

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