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NIGHTMARE CITY(END) (ろっきー)

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第一話*―少年・ギコ―*


光り輝く太陽が照りつける。全くいつもと変わらない朝。
だが、ただ一つ真新しい出来事があった。
なんとこの少年、ギコがNIGHTMARE CITY計画のテスターに
ひょんなことから選ばれてしまったのだ。
「あー……ついに今日かぁっ!」
身だしなみを整え、持ち物を何度も確認しているギコ。
人一倍好奇心旺盛なギコは今日をどんなに待ち望んだことだろう。
昔からの大親友のフサ、あと≫1とおにぎりや流石兄弟など、
彼等もこの計画のテスターに選ばれているらしい。

ピンポーン

ギコの家のチャイムが鳴った。
「おーい、ギコ! もう出発の時間だぞ!」
窓の外から大声で呼びかけている少年。
「あ……分かった! すぐ行くーっ!」
その少年に、ギコは窓から顔を出し返事をした。

ガチャッ

「ごめん、フサ」
「遅いぞ。あと三分で置いてこうと思ってたんだからな」
手を腰にあて、茶髪の少年が胸を張って言った。
「まぁ、遅刻しなかったらいいんだ。さっさとチャリ用意しろ」
「っしゃぁ!」
そういうとギコはガレージへと駆けていった。


今日は晴天。雲一つないこの空に、この明るい世界に


――悲劇の幕は開く――


第一話終わり



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第二話*―2chビル―*


NIGHTMARE CITYのテスターに選ばれたギコとフサは、
テストの舞台『2chビル』に向かっていた。
大勢の人が行き来する道路を自転車で駆けていく。
「フサっ!」
「……なんだよ」
立ちこぎをして、ルンルン気分のギコがフサに喋りかけた。
「俺たち本当にテスターになれたんだよな!!」
「お前……さっきから何回同じこと言ってんだ」
フサが呆れながら言った。
信号で止まった時、家から出て行く時。全く同じセリフを聞いていたのだ。
「だってーっ! 信じられねェじゃん!!
NIGHTMARE CITYに行けるんだぜ!?」
「まぁなぁ……。もう無いかもしれない体験するんだし」
「だろっ!? うはーっ! 楽しみ~!」
急に自転車のスピードを上げたギコに、
フサは急ぎもせずゆっくり後をついていく。
フサは昔から冷静で、めったにはしゃぎなどしないのだ。
そんなフサとは正反対で、ギコはすぐにはしゃいで調子にのってしまう。
ちなみに早とちりしやすい方。
「あれ??」
ギコは向かい側の道路を見ている。
「どうした? ギコ」
「あれさー……≫1とおにぎりじゃねぇ??」
ギコの視線の先には、≫1とおにぎりと思われる二人組がいた。
二人はこっちをパッと見ると更にスピードを上げて、
2chビルの方向に自転車を走らせて行ってしまった。
「あいつら何急いでんだ? まだ時間は余裕なのに……」
「目ェ合ったのに挨拶なしか」
フサは挨拶のことで少しイラッときている。
「そんなことどーでもいーけど……。
もしかして……集合時間変更とかっ!?」
ギコが顔を真っ青にして言った。
「いや……それは絶対な……」
“それは絶対ない”と言おうとしたフサの言葉は途切れてしまった。
「うわ~~!! ヤバイっ!! フサ、早く行こう!!」
「……ったく、人の話聞けよ」
小さい声でつぶやいたフサ。
そんな声はギコの耳に届いていなかった。
さっきよりスピードを上げ、自転車を走らせるギコに
フサは少しスピードを上げてついていった。


++2chビル++

雲に触れそうなくらいの高さがある大きなビルが二人を待ち構えていた。
そのビルの入り口付近に自転車にもたれかかっている少年と、
その少年の脇に立っている少年がいる。
「つ……着いたぁ~」
「お疲れさん。お前んちからよく五分で来れたもんだ」
フサは息切れしているギコに言った。
フサはゆっくり後をついて来た為、全然疲れていなかった。
「あ、ギコとフサだ~」
「ホントだ! おはよう、二人共~」
元来た道から先程見た≫1とおにぎりが、自転車をこいでやってきた。
「あ……あれ?? なんで……≫1とおにぎり……一回帰ったのか??」
呼吸を整わせようとしているギコが途切れ途切れに言葉を発する。
あのハイスピードでこいでいたわりには、
あまりに遅い≫1とおにぎりの到着だったので疑問を抱いたのだ。
「え? ううん?? 帰ってないよぉ??」
≫1が自転車から下りながら不思議そうに答える。
「じゃあ……なんであんなに急いで……」
「あー。あれはね、僕が早とちりしちゃったんだ。
 ギコとフサが急いでるから集合時間変わっちゃったんじゃないかって」
「……は??」
「それからそのあと、僕が急いで自転車こいでたらおにぎり君がね―
“ギコのことだから
どうせはしゃいでるだけなんじゃないか”って言ったんだ」
ほぼ合っているおにぎりの予想にフサは隠れて笑った。
「な……っ、フサ分かってたのかッ!? 時間変更じゃないって……」
「それは絶対ないって言ったぞ、俺は」
「な……なんだぁ。そうだったのかよ……」
ギコは力が抜けて座り込んでしまった。

笑い声とともに、四人は2chビルへと足を踏み入れて行く。


第二話終わり



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第三話*―NIGHTMARE CITY計画―*


あれこれありながらも、2chビルに来たギコたち。
「ぉお――っ! でっけぇ――!!」
「確かにでけェ……」
「広いねぇ~」
「キレイだしね」
2chビルはギコたちの住んでいる街で他のビルより飛びぬけて大きく、
一つの行事にウン万円かけている。
やけに一人ではしゃいでいるギコの声は玄関ホール中に響きわたった。
「お! ギコたちじゃないか!!」
その響いた声を聞きつけ、早急に流石兄弟が駆けつけてきた。
「兄者、弟者、妹者! もう来てたのか」
「ああ。俺たち誰かさんのせいで手続きまだだったからな」
「そうじゃそうじゃ。一番兄者がパソコンばっかりしてたからっ」
そう言いながら、弟者と妹者は兄者を横目で見た。
「な……っ、なんだよ! 別にいいだろ! 来れたんだから」
あいかわらず、兄者はパソコンを抱えている。
「兄者、今日くらいパソコン家に置いてくればよかったのに」
そんな二人の兄弟喧嘩にギコも参戦する。
「そんなのできないに決まってるだろ! 俺にとってパソコ……」
「はいはい、そーですね」
呆れてフサが首をつっこんだ。

ピンポンパンポーン

『NIGHTMARE CITY計画ノテスターノ皆様ハ、
七階ノ“実験室2”ニ来テ下サイ』
棒読みのアナウンスがビル全体に流れる。
同時に玄関ホールにいたほとんどの人が、
エレベーターやエスカレーターを上っていった。
テスターはギコたちだけではなく、ほかにも数名いる。
ギコは巨大ビジョンに映し出されている登録リストを見た。
「登録人数……百五十人かぁ」
「意外と少ないねぇ」
≫1もビジョンを見て話しかけてきた。
「さて、俺たちも移動するか」
「おおっ!!」
フサの提案に全員が気持ちいい返事を返す。


++2chビル・実験室2++

実験室2に入ったギコたち七人はものすごい光景を見た。
大きく広い実験室の両端に並べられているいくつものカプセル。
そのカプセル一つ一つに一人ずつの名前が書かれていた。
「ギコ……ギコ、ギコっと…………あった!!」
ギコは自分の名前が書かれているカプセルを見つけた。
「俺のはココだ」
フサも見つけたようだ。
それに続いて全員が自分のカプセルを見つけた。
「俺たちは向こうだから、またNIGHTMARE CITYでな!」
「ああ!」
そう言って流石兄弟や≫1、おにぎりは部屋の奥へ進んで行く。
フサはギコの隣のカプセルだった。
『テスターノ皆様、自分ノ名前ノ書カレタ、カプセルヲ見ツケラレマシタラ、カプセルノ右ニツイテイルカードヲオ取リ下サイ』
アナウンスに従い、皆が同じ動作をする。
「このカプセルってなんなんだ?」
「さあ……」
ギコとフサの会話を聞き取ったのか、アナウンスが再び流れ出した。
『コノカプセルハ魂ヲ実体化サセテ、
NIGHTMARE CITYニ転送スル装置デス』
「そうなのか……。ハイテクだなぁ」
フサは色々なプログラムに関心した。
『デハ皆様。カードヲ手ニ持ッタママ、カプセルニオ入リ下サイ。
決シテ、カードヲ手放サナイデ下サイ。
ソノカードハ、NIGHTMARE CITYデノテスター証明書ニナリマス。
ソレガナケレバ向コウノ世界ニ行ッテモ、何モデキマセン』
アナウンスの説明が終わったと同時に、皆いっせいにカプセルに体を預けた。
「じゃ! フサ、また後でな!!」
「ああ」
全てのカプセルのフタがゆっくり閉まる。
『大変長ナクオ待タセシマシタ。
NIGHTMARE CITYヘ魂ヲ転送シマス。
心ユクマデ、オ楽シミ下サイ』

そのアナウンスが切れた直後、カプセルが青白く光りだした。
「ぅわ……っ!?」
あまりの眩しさに目を閉じたギコ。

バシュンッ


人間が造り出した“NIGHTMARE CITY”……

―――この世界が悪夢の街に染まるまで、時はそんなに長くなかった――。


第三話終わり



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第四話*―管理AI―*


目を開いたギコの視界にはいくつものビルや、店が限りなく立ち並んでいた。ここはまさしく“NIGHTMARE CITY”……。
人間に造られた世界。
「ここが……NIGHTMARE CITYかぁ」
想像していた街とは随分違った。
ギコの想像していたNIGHTMARE CITYとは、
テーマパークのような遊園地のような明るい感じの街。
しかし、実際はというとごく普通にビルが建って、店が建って……。
本当にただの街。そして特にすごいという箇所もない。
むしろ、暗い雰囲気のある世界。
「なんか……思ってたのと違ったなぁ」
ギコは少しガッカリして下を向いた。
「……ん?」
下を向いたギコの目に映ったのは黄色い足。
五本の指がなく、足先は異常に丸まっている。
すぐさまギコは両手を見た。五本の指はあるが、やはり黄色い。
すぐ傍に建っていたビルのガラスに自分の姿を映してみる。

「……俺……猫になってるうぅぅぅッ!?」

ガラスには黄色い猫が映っていた。
この猫はこのビルの中に置いてある置物が、
ガラスに透けて映っているだけかもしれない……そう思ってギコは右手を挙げてみた。
すると、ガラスに映っている猫も同時に右手を挙げた。
「……ホントに俺だ……」
ギコは呆然とした。なぜこんな猫の姿に……?
あたふたしているギコの周りには、他のテスターらしき人々(といっても猫)がいた。
あれが人と言えるだろうか……。
その猫たちの会話を聞き取ってみる。
「なんで猫になんかなってんのー!?」
「気持ち悪ーい」
そんな会話ばかりである。
やはりあの猫たちもテスターだ。全ての人物が猫と化している。
『皆様オ気ヅキカト思ワレマスガ、猫ノ姿ニナッテイルノハ
人間ノ姿ノママダト、サーバーノ負担ガ重イカラデス』
とっさに空に流れたアナウンスが答えた。その答案に皆が関心する。
「へぇ~、結構いろいろ考えてんだ……」
これで疑問は消えた。
ギコは街を見回してみる。背後に一つの大きな看板を見つけた。
“NIGHTMARE CITY=夢を共有することを目的とした仮想空間”
「夢を……共有する……??」
『コノ世界ハ夢ヲ共有スルコトヲ目的トシテ造ラレマシタ。
ソノタメニ、テスターノ皆様ガテストニ参加シ、ソノゴ感想ナドヲ参考ニシテ、
ヨリ良イ世界ニ近ヅケテイコウト計算シテイマス』
「さっすが2chビル……。することデケェなぁ」
『皆様ガ先程持タレテイタカードハ、皆様ノ体内ニ収納サレマシタ。
ナノデ皆様ガ、テスター証明書ソノモノトナッテオリ……』

ブツッ……!

急にブツッっとアナウンスが切れた。
(何だ? 中途半端な終わり方だなぁ……)
この時、ギコはただアナウンスの電波が悪くなっただけですぐに直るだろうと思っていた。
いきなり空がふっと暗くなった。空を見上げるとそこには……

「黒い……太陽……?」

日食だと思っていた。
清らかに、光り輝く太陽に被さっているもう一つの黒い太陽……。
これもギコは全然気にしなかった。
でも、この二つの出来事は……

―――そう、悪夢の始まりだった。

太陽が黒い太陽に覆われた。
その光景はフサたちもしっかりと見ていた。


++商店通り++

ギコはしばらく一人で街を歩いて行った。
一軒のかなり大きな武器屋が目にはいったのか、そのまま店に足を踏み入れていった。

チリンチリーン

「いらっしゃいませー」
店には五人ほど客が来ていた。
ギコは店の奥へと進んでいったが、
店の通路は狭くヒト一人が通るのがやっとだった。
その狭い通路の先に、一人の茶色い剛毛をした猫……というより犬を見つけた。
「いぬ……?」
(犬になる人もいるのか……)
ギコはそのままその犬の後ろを、ゆっくり、ぶつからないように通ろうとした。

ドンッ

「イテッ!!」「ぅわっ!!」
二人が同時に声をあげた。
ギコは急に振り返ったその犬とぶつかってしまったのだ。
すぐ傍らに並べてあった商品がいくつか落ちてしまった。
「すいません。俺、急に振り返って……」
相手の犬はこんな場なのに、冷静に対処している。
「こっちこそごめんなさい!! 無理やり通ろうと……んっ?? その声……」
とてもとても聞き覚えのある声……。
「……ギコ……?」
「フサっ!?」
やはりフサだった。
「フサー!! 久しぶりだなー!!」
「久しぶりって……さっきまで一緒にいたし」
フサはいつもと変わらなく冷静だが、
心のどこかで再開を喜んでいるように見えた。
「お前……猫になったのか」
「フサはなんで犬になってんだ??」
「知らねぇ。目ェさめたらこんな姿」
何故フサは犬になったのか不思議だった。
ギコはフサの持っている大剣に気がついた。
「それ、買うのか??」
「ああ。こっちの世界の記念にな」
「あぶねーことするなぁ。現実世界戻ったらケーサツに捕まるぞ??」
「んなこと知るか」
冷たく対応されるギコ。少しガッカリした。そのギコに今度はフサが尋ねる。
「おにぎりたちには会ったか??」
その質問にギコはかぶりを振って無言で答えた。
「姿や顔が変わると探しにくいな……」
「……まぁ、すぐに見つかるって! 探しに行こうぜ!!」
ギコは笑顔でフサを励ました。
フサが大剣を買った後、ギコはフサと共に店を出て行った。

2人は人がにぎわう道をゆっくり歩いている。
「なぁなぁ、フサ」
「なんだ」
「……なんか思ってたのと違った」
「……俺も」
「もっとキラキラした街だと思ってた」
「俺はもっと機械がゴッチャゴッチャしてる街だと思ってた」
二人の雑談は続く。
想像はそれぞれ違っても、二人がガッカリしていることに違いはない。
そのまま道を突き進んでいった。人通りも少なくなってきた頃……。
「ん?? あっこのでっかいドームなんだろ??」
ギコが指差す先には巨大なドームがあった。
2人はためらいもなく、ドームに入っていった。


++NIGHTMAREドーム++

ドームの中にはさまざまな実験の記録や写真が飾られていた。
しかし、ここは遠いからか、人が全然いなかった。静まり返っている。
「人……いねェなぁ……」
少し不安げにギコは言った。
「ここかなり遠かったからな……。もし居たとしても数人だろ」
ギコとフサはドームの端から端まで全て見ていった。
歩いて歩いて……最後の部屋に来た2人。
その部屋その隅に、見覚えのあるパソコンを抱えている人が立っている。
「あのパソコン……。兄者のじゃねェか?」
フサがパソコンを眺めながら言う。確かに兄者のパソコンだ。
「本当だ!! ってことはあれ……兄者だ!」
ギコはそう言うとその人の所へ走っていった。
「兄者ー!!」
その声に振り返ったのは、まさしく兄者の面影がある猫だった。
ギコは兄者に勢い任せに抱きついた。
「ギ……ギコっ!?」
足元がふらついて、急の再開に焦る兄者。
「ああ!! やっぱり兄者かっ!!」
「フ……フサは一緒じゃないのか?」
「フサならあっこにいるぞ!」
ギコは振り返って言った。またフサは急がずにゆっくり歩いてやってくる。
「よっ、兄者。あんたも猫か」
「フサ……お前、犬か?」
「……ぁあ」
フサが不満気に言う。
「兄者、その人たちは誰だ?」
声からして弟者と思われる人がやってきた。
その後ろから、三人続けてついてくる。
「ああ、弟者。ギコとフサが見つかった」
「おお!! 見つかったんだな!!」
弟者が満面の笑みで喜んだ。
「あ~、ギコとフサかぁ~。誰か分からなかったよー」
おにぎりの顔をしたおにぎりが言った。
「本当だ。全然分からないや」
おにぎりの言葉に≫1もつづく。
「兄者!! またパソコン持ってる!! 置いて来いってあれ程言ったのに……」
「そんなことできるわけないだろっ!
俺の身体の一部のような物なんだからな」
「でも絶対邪魔になるから置いてくるのじゃ!」
妹者と兄者の小さな言い合いが始まった。
妹者と≫1とおにぎりの外見はどうなってるかというと……
あまり変化はなかった。が、一人。
おにぎりは名前からの由来か、おにぎりの顔になっていた。
「おにぎり……って」
ギコはサッと後ろを向いて隠れて笑った。
「全員揃ったな! よかったよかった!」
兄者が嬉しそうに言った。と、その時……

ドォォォォン!!

ものすごい爆発音……と、地響きがドームを揺らした。
「なんだっ!? 今の音……」
「外だ! 行ってみよう!!」
ギコたちは出口に向かって全速力で走った。

外にでたギコたちは、ありえない光景を見ることになった。
「なんだ……これ……」
「どうなってんだよ……」
全員が凍りついた理由……。彼等が見たのは……


血まみれの屍の山―――……


そこらじゅうに赤いものが飛び散っている。
もはや“赤い海”と言ってもおかしくはない。
あまりの残酷さに、妹者は気を失って倒れた。
「妹者!!」
弟者がとっさに受け止める。
「あれ……誰かいるぞ!!」
フサが見つけたその人物は、この街を悪夢に染めた六人だった。
「お前たちが……やったんだな……!!」
「……何故そう思うモナ?」
白色の肌をした猫が少し笑いながら問い返してくる。
「そりゃ分かるぞ。お前たちの体に血がついているじゃないか……!!」
兄者が赤い血を見ながら言った。
「どうしてこんなこ……」
ギコが問いかけようとした。しかしその言葉は青色の肌をした猫の言葉に遮られた。
「一人たりとも逃がしはせん。この世界が貴様たちの墓場となるのだ」
「お前たち……何者なんだ……!?」

「……このNIGHTMARE CITYの管理AIだ」


第四話終わり



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第五話*―悪夢の街―*


“……このNIGHTMARE CITYの管理AIだ”
「管理……AI……」
「ってなんだ……?」
ギコが兄者に聞いた。兄者は少し自信なさそうに答えた。
「そのAIが存在する世界……
この場合は、NIGHTMARE CITYのプログラム……の管理をしている者の事だと思う」
「奴等が!? じゃあ……なんで人々を……」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!
お前たちには何も分からない、お前たちは何も知らない! 僕たちの勝ちだね!」
赤い肌をした猫が笑いながら言った。
「……貴様等には消えてもらう。
この世界からは誰一人逃げることはできんのだ……!」
この言葉と同時に、煙幕がギコたちと管理AIの目の前にかぶさった。
「なんだ……!?」
「今のうちに、早くこっちへ!!」
誰かがギコたちを呼んでいる。女の人の声。
まだ管理AIのいる煙幕の中から、急にまばゆい赤色の光が空間を駆け巡った。
その次の瞬間、煙幕は一瞬で吹き飛ばされて風に舞っていった。
煙幕が吹き飛んだ後、赤い光も消えた。
「……逃げたか」
管理AIの目の前には人々の屍しかなかった。
「まあ良い。今度じっくりお相手をしてやろう」
「アヒャ! 楽しみだねぇ……」
そのまま管理AIたちは消えていった。

「はぁ……はぁ……」
ギコたちはドームの隠し地下室に非難していた。
地下室は暗く、それにまして冷たい空気が流れている。
「あ……ありがとうございます、レモナさんたち」
≫1が感謝した。
そう、煙幕を放ったのはレモナたちだった。ニダとぼるじょあもいる。
「……無事でよかった」
レモナがほっとして肩の力を大きく抜いた。
気を失っていた妹者も意識を取り戻していた。
「レモナたちもテスターだったのか??」
「ああ、手続きが遅かったから登録リストに最初は書かれてなかったんだニダ」
フサが問い、ニダが答えた。
「でも本当に助かったぞ。あと少しで管理AIとかいう奴らに殺されるところだった」
弟者が思い出しながら言ったその言葉にレモナがピクリとした。
「管理AI……?? 奴等はそういったのか!?」
「え……あ、ああ。確かに」
弟者が戸惑いながら言った。
「奴等が……」
「レモナ、お前知ってるのか??」
兄者が聞く。それにレモナは深く頷いた。
「あいつらはこの世界の中でおそらく……一番強い。
あたしたちでかなう相手か分からない」
レモナが深刻そうに説明した。
「あいつらはなんで俺たち……テスターを殺そうとしてるんだ??」
「奴等はこのNIGHTMARE CITY計画の開発が始まった頃から、この反乱を起こしているんだ」
ぼるじょあが即座に答えた。それにレモナが続く。
「そして、この世界に転送されてきた人々を殺していってる……」
「この世界に留まっていると、かなり危険ニダ。
一刻も早く出口を見つけてログアウトしないと……!」
「出口……って、どこにあるんだ?」
ギコがぼるじょあに尋ねた。
「いや……それがどこにあるのか分からないんだ」
困り果てた表情で小さく答えるぼるじょあ。
「ログアウト場所(出口)はアナウンスから伝えられるはずだったんだ。
でも、AIたちによってアナウンスの電波を切られたんだ」
ギコはハッとした。
(あの時……!!NIGHTMARE CITYに来た時、アナウンスが途中で……)
“―――皆様ガ、テスター証明書ソノモノトナッテオリ……”

ブツッ……!

この中途半端だと思っていた説明が、アナウンスが完全に切れた瞬間だったのだ。
その異常をギコはサラリと流してしまっていた。
「まだ生存者はいるかもしれないニダ……。
手分けして生存者を探して、全員でここを脱出するニダ」
最後にニダが言った。その言葉に全員が「ああ」と返事を返す。
「しかし、管理AIはこの世界の全てが見えている。
いつ襲撃してくるか分からない……。十分に警戒しておかないと危険だぞ」
ぼるじょあが言った。その後にレモナはいくつかの拳銃を出した。
「これ持っていきな。少しでも役に立つだろうからさ」
拳銃は一人一個ずつもらえた。
だが、フサは「自分は大剣があるから」と、一つも貰おうとしなかった。
「フサ、お前も貰っといた方が……」
そんなフサにギコが説得した。
「いらねェッつってんだろ。俺の分はお前が持ってけ」
「でも……っ」
「ギコ」
フサの強く威勢の良い声が、ギコの気持ちを貫いた。
「……分かった」
何を言っても無駄だと悟ったギコは、フサの分の拳銃を貰った。
「こんなにたくさん……買ったんですか??」
おにぎりがレモナに問いかけた。
「いいや。武器屋から盗んできた。人一人いなかったからね」
レモナは、その時に武器屋で見た光景を思い出しているかのように見えた。
「……」
全員が黙り込み、沈黙が覆った。その沈黙を破ったのはギコの声だった。
「とにかくっ!! 立ち止まってもしょうがないんだ。早く生存者を探そう。
こうしている間にも、次々に人が殺されてるかもしれないんだろ? 
ある程度見回ったら出口を探してログアウト。
そして現実から全員ログアウトさせればいいんだろ? さっさと行こう!」
「分かった」
その返事をスイッチとして全員が散らばっていった。

流石兄弟は三人で行動、おにぎりと≫1も二人で共に行動、
レモナとぼるじょあ、ニダも三人で行動。フサとギコは別々に探しに回った。


++路地裏++

ギコは一人で薄暗い路地裏を歩いていた。
正直、この世界で1人とはとても心細いものだった。早く生存者を見つけたいが……
こんな所を探しているギコに見つかるのだろうか。
(こんなとこ……誰もいないよなぁ)
ギコがそう思った瞬間だった。路地の曲がり角で何かが動いた。
ビクッとしたギコはとっさに拳銃を胸元に構え、ゆっくりゆっくり曲がり角へと近づいていく。
ギコは思い切って拳銃を前に突き出し、曲がり角に出た。


そこにいたのは――……

ピンク色の肌をした

透き通ったキレイな青い瞳をしている猫


「き……君は……」
ギコは勇気を振り絞って口を開いた。
相手は急に聞こえたギコの声にビックリして目をまん丸にした。
その瞳も清い青色に澄んでいる。が、少しかげりがあった。
「わ……私はしぃ……。あなたは……?」
「俺? ……俺はギコ。こんな所で何してたんだ?」
ギコはしぃに聞いてみた。その言葉を聞いた瞬間にしぃは下を向いてしまった。
「私は……ただ……座ってただけ……だよ」
しぃは俯いたまま言った。
「ギコ……君……は何してたの?」
しぃは顔をあげ、おそるおそる聞いてきた。
「俺は……そうだ! 生きてる人を探してたんだ!!
しぃも早くこの街からでた方がいいよ。
管理AIってのが生存者を見つけて殺していってるんだ」
そのギコの言葉はしぃの心に深く響く―――。
ギコがしぃにログアウト場所を知っているか聞こうとした。
……その時。彼女の口から信じられない言葉が飛び出た。
「知ってるよ……ログアウト場所」
「えっ!? 本当ッ!?」
「……うん」
ギコの目が輝いた。こんなにもアッサリ場所がつかめるなんて思ってもいなかった。ギコとしぃはその場に座った。
「この街をずっと北の方向に行ってたら、ピットルという長い橋があるの。
その橋を渡ったら現実の世界と、この仮想空間との境界がある……。
そこからログアウトできるの」
あまりにもしぃが詳しく知っているのでギコはビックリした。
でも、説明の意味はきちんと理解した。
「つまり、ここから北の方向にずっと行けばいいんだな?」
「うん」
そう言うとギコは立ち上がった。
「じゃ、行こう!!」
ギコはしぃに手を差し出した。
「え……?」
しぃは差し出された手を見て呆然としている。

「しぃも一緒に行くんだ!」

「…………私も?」
「ああ!」
「でも……」
「心配しなくて大丈夫! 必ずキミを護るから!!」
「…………」
しぃはまた俯いた。考えているんだろう。

「一緒にこのイツワリの街を出よう」

しぃは何か決意したような目をして、
ギコの手に右手を預け、ゆっくり立ち上がった。
「よし! じゃあピットル目指して出発だ!」
ギコはこの時、何も疑問に思っていなかった。
どうしてしぃは“ログアウト場所を探さないといけない”とギコが告げる前に、事柄が分かったのか。
何故ログアウト場所を知っているのか……。
そんなことはカケラも思っていなかった。
ただ、ログアウトできるという喜びでギコの胸はいっぱいだった。

そんな謎を抱えたまま、二人は北に向かって走り出す。


第五話終わり



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第六話*―襲撃―*


誰もいない道……いや、誰も存在していない道をフサは大剣を背負って歩いていた。
「生き残り……はいないか」
フサはずっと南方面を捜索していたが、未だに誰一人生存者は見つかっていない。
足に鉛がついているかと思うくらい、足取りが重くなってきている。
しばらく歩いていると、遠い先に駅らしき建物が見えてきた。
「駅か……。電車に乗っていったら誰かいるかもしれないな」
フサは駅で電車に乗ることにした。


++駅++

駅にはやはり誰もいなく、まだ屍がないだけマシだと思った。
気持ちが少し落ち着いたフサ。
しかし、次の瞬間に悪魔は舞い降りる。
「電車……こねェか……」
フサは諦めて帰ろうとした。その時、トンネルの奥から……

プアァァン……

電車の音だ。フサは足を止めた。

キキィィィィィ

耳をふさぎたくなる程の大きな音と共に電車はやってきた。
フサは開いた電車の扉の中に入ろうと重い足を動かす。

―――背後に人の気配……。

「誰だ!!」
フサは振り返った。


フサが見たのは、白い肌をした猫―――……。


そう、管理AIの一人だった。

「お前……。管理AIの一人だな」
フサが息をのんでいった。白い猫はにやりと口を歪ます。
「そうだよ。顔覚えてたモナ?」
「あん時の光景とお前等を忘れるわけねェ……!」
その一言を言ってフサは大剣を構えた。
「……残念だけど、君たちを逃がすわけにはいかないんだよね」
管理AIは静かにつぶやいた。
「俺はお前たちを倒さないと気がすまねぇ……!!」
フサの声は駅全体に響いた。
地上からの冷たい風が地下鉄のこの駅に流れ込んで、
二人の頬を伝ってはまた出てゆく。
「君に僕は倒せない。でも、僕に君は倒せる」
「何ふざけたことほざいてやがる……!」
大剣をにぎった手に力が入る。
フサの大剣の刃先は駅の電灯を反射して光っていた。
「名前も分からない奴に殺されるなんて嫌モナね?
まあ名前くらい教えてやるモナ。僕は……」

管理AI №23 

名前:モナー

「モナーだよ」
モナーはフサに襲い掛かってきた。
「お前も名前知らない奴に殺されるなんて気にくわねェだろ。俺はフサだ」
フサは大剣を力強く握った。
「……お前たちは……ぜってェ許さねぇ!!」
戦いの風が流れる。望んでいないこの風が、二人を包む。
モナーは素手でかかってきた。何故か武器は持っていない。
素手の相手なんかすぐ倒せる、そう思っていた。

―――しかし、フサのその考えは間違っていた。


戦いの風は、もう止めることはできない。
その風が止むまで待つしかないのだ。


++サンセットビル++

弟者と妹者は兄者の帰りを待っていた。
弟者と妹者も生存者をできる範囲まで探したのだが、
一人も見つからずこのサンセットビルに集合しており、
兄者は未だに生存者を探している。
「兄者……無事だろうか……」
そんな弱音を吐く弟者に、妹者は励ますように声をかけた。
「大丈夫じゃ! あの兄者が大丈夫じゃないなんて絶対ないのじゃ」
「……そうだな」
弟者は微笑む。その時だった。

ブロロロロロ……

遠くからバイクの走ってくる音が聞こえてきた。
その音を聞いて、妹者はビルの窓から外をのぞいた。
「一番兄者じゃ!」
妹者は叫んだ。
弟者は急いで駆け寄って双眼鏡を取り出し妹者が指差すほうを覗いた。
確かに兄者だ! あれは兄者だ!
「兄者ー!!」
弟者は精一杯呼んだ。兄者はその呼びかけに気づき、こっちを見た。
「弟者ー! 妹者ー!! 武器を準備しろー!!」
「え……?」
「二番兄者! あれ!!」
妹者が再び指差すビルの屋上には、
あの悪夢の瞬間に見た赤い肌をした猫がいた。
「アヒャ! 逃がさないよぉ??」
兄者はあの猫から逃げてきているのだ。そう、あの猫は……管理AIだ。
「あいつ……管理AIだ……!!」
弟者が顔を暗くさせて言った。
「妹者! 武器の準備だ!!」
「わ……分かったのじゃ!」
妹者はリュックの中から銃を二つ取り出し、そのまま銃を構えた。
兄者はビルの前の巨大な坂を、ものすごいスピードでのぼってきている。
弟者はハッとした。
「兄者……! あの坂からの勢いでここに突っ込むつもりだ……!!」
ここはビルの四階。
バイクで来るには窓を突き破って入ってくるしかないのだ。

ブロロロロロロ

だんだん音が近くなる。次の瞬間

ブォン!!

兄者の乗ったバイクは宙に浮いた。そのままこっちに突っ込んできた。

ガッシャーンッ!

窓ガラスがそこら中に飛び散った。兄者について管理AIも入ってきた。
「妹者!!」
弟者の合図で妹者は銃口を管理AIに向けた。そして撃とうとした……が。

ザシュッ

「な……っ!?」
拳銃は鋭い音をたてて床に落下した。妹者の銃は真っ二つに切断されていた。

「動き遅いよぉ……アヒャヒャヒャヒャ!」

管理AI №56

名前:つー

「銃が……真っ二つに……!?」
兄者は唖然とした。
しかし、つーの手には武器らしい物はなにも握られていない。

……素手でやったのか……? 

そう思った次の瞬間。つーの両手に紫の光が集結してきた。
「なんだっ!?」
「僕の武器だよ。どんなものでも切り裂く……」
幾つもの紫の光が……

「“裂斬光”」

短刀の形を生み出した。
「さっさと死んじゃいな!! アヒャヒャヒャヒャ!!」

悪魔は次々と襲い掛かる。


++大通り++

「ねぇ、おにぎりく~ん」
「なぁに? ≫1さん」
「僕たち寂しいねぇ」
「うん……」
大通りでは≫1とおにぎりがノコノコと歩いていた。
もう何時間歩いただろう。とうに二時間は経っていると思うが……。
「はぁ~。やっぱりあいつら相手に生きてる人なんて……いないんじゃないのかなぁ……」
「かもねぇ~」
「だってテスターはみんなで百五十人くらいでしょ~?
僕たち十人を抜いても百四十人くらいしかいないんだよねぇ……」
「そうだねぇ……」
二人は同時に肩を落とした。その時だった。
「わ~お♪ 色男発見かも~♪」
「うっそ―! どんなのどんなの!?」
二人の遥か後ろから、誰かの会話が聞こえてくる。気がついて振り返ったが、まだその人は米粒くらいにしか見えない程遠くにいる。
しかし、その会話は空気を震わせてここまで響いてきた。
「あらっ! 本当だ♪ 色男じゃな~い♪」
やけに背の高い三人がこっちに向かって猛スピードで走って……
いや、あれは飛んできているのだろうか。
全速力で走っているのと、手足にオレンジの光をまとって飛んでるのと、
同じくオレンジ色の光が、尻にプロペラの形でついているのと。
「なんだろう……あれ」
おにぎりが目をこらした。
背の高い三人組はスピードを落とさず、こっちに来る。
≫1も目をこらしてよく見た。
「おぁ♪ こっち見たよ~♪」
「違うよ! 僕の方を見たんだよ~♪」
あまりの気持ち悪さに人は凍りついてしまった。
その状況の中で、おにぎりは管理AIだと認識した。
あの時……あの場にいた三人だ!
あの時の悪夢とはまた違う、気持ち悪いという二人は恐怖を感じた。
「きもいよぉぉぉぉぉぉっ!!」
≫1は絶叫した。もう三人は数十メートルのところまで来ている。
おにぎりは辺りを見回してみた。
道路の隅に止まってある一台のトラクターを見つけた。
「≫1さん、あれで逃げよう!!」
おにぎりはトラクターを指差して≫1に言った。
≫1はパニック状態に落ちて動けない状態だった。
おにぎりはそんな≫1を引っ張ってトラクターの荷台に乗せた。
トラクターの運転席におにぎりはすぐさま座った。
「ぶっとばすよ―――っ!!」
おにぎりは初運転なのに思いっきりトラクターをとばした。
おにぎりも恐怖に震えていた。
「あっ! 逃げたよ!」
「待って~色男~♪」
「つかまえてぇ~♪」
「お……っ、おにぎり君助けてぇぇぇ!!」
「≫1さんしっかりぃぃぃっ!!」
そう叫びながら、おにぎりはとにかくトラクターを走らせた。

管理AI №10~13

名前:八頭身


++ピットル++

街からひたすら走ってきたギコとしぃ。二人はもうピットルを渡っていた。
「はぁ……はぁ……。あと少しだ……」
「ぅ……うん」
二人の呼吸は乱れ、呼吸が苦しい状態だった。
でも、二人は止まらず走り続けた。

―――早くログアウトするんだ……!

その二人を橋の上部から見下ろす者がいた。
「二人か……。しかもあやつも共に行動しているとはな……」
青い肌をした猫。管理AIの一人だ。
「……逃げることはできない。そう言ったはずだったが……!」
そう言うと赤い光が右手に集結し、赤く輝く剣へと変形した。

「“闇斬光”」

管理AI No.01

名前:モララー


ヒュウウゥゥゥ……

ギコの頭上から何かが落ちてくる。その音を聞いたギコはとっさに上を見た。
次の瞬間、目の前に赤い剣を持った管理AI、モララーが襲撃を開始した。
ギコは墜落してくるギリギリのところで
「危ないッ!!」
振り返り、しぃを抱えて倒れ込んだ。
墜落してきたモララーの襲撃で、土ぼこりが舞い上がる。
「しぃ……っ! 大丈夫かっ!?」
「ぇ……ええ……」
この場にも戦いの風は舞いだした。
土ぼこりでよく見えなかったが

ギコにはしぃの瞳が潤んでいるように見えた―――。


第六話終わり



**********************************************************************

第七話*―戦い―*


ピットル辺りは土ぼこりでいっぱいだった。
とても周りが見える状態ではなかった。その時……
「ふん、避けたか。反射神経はいいほうだな」
モララーは土ぼこりの中に立っていた。
そう……赤く光る剣、“闇斬光”を持って。
「お前……っ! 管理AIの……!」
「モララーだ。覚えておくんだな」
「モララー……」
しぃの呟きと同時にモララーは剣を構えた。
「お前たちはこの世界から逃げられないと言われても、
逃げれるかもしれないという夢を見るのか」
「夢なんかじゃない……。俺は夢だなんて思っていない!」
ギコはモララーに向かって走り出した。
「うおおおおぉぉぉ!」
「……哀れだ」
ギコはモララーを素手で殴ろうと飛び掛った。
しかしそれは無残にも、ヒラリとかわされてしまった。
「……っ!?」
ギコは地に足をついた。
と、同時に後ろに殺気を感じたギコはとっさにしゃがんだ。
「痛……ッ!」
赤い血が飛び散った。モララーの攻撃がギコの顔をかすった。
「お前は俺に勝つことなんてできんのだ」
モララーは悪魔の笑みを浮かべた。
その後、すぐにギコは銃を二つ構え、無造作に連発した。
しかし、どれもかわされてしまい弾は全てなくなってしまった……一瞬だった。
「くそ……っ! こんなにも力に差があるなんて……!」

動きが素早い、攻撃が強い、こっちの攻撃は当たらない。


この状況で……どうやってあいつを倒すことができよう?


「ギコ君……!」
しぃの声が心に響いた。
(そうだ。俺には守らなきゃならない約束がある……。
しぃを護って……一緒にこの街から脱出するんだ!)
「俺は……お前には絶対負けない!!」
ギコはさっきのモララーの襲撃で崩れた橋の部分へ走った。
今にも倒れそうな道路標識が風で揺れている。
ギコはその標識を地面から引っこ抜いた。

「うおおおぉぉっ!!」

ギコはモララーに戦いを挑んだ。勝利という言葉を叶えるために―――……


++駅++

駅に来た電車は仮想空間とあるだけで、自動運転で動いていた。
その電車の上でフサとモナーは戦っている。フサはおされていた。
「ちッ……! 素手の相手にこんなに手こずるなんて……!」
フサには大剣がだんだん重く感じるようになっていた。
買ったばかりの代物をそう簡単に使いこなすことはできないのだ。
だが、銃を持っていないフサには大剣しか武器はない。
フサは再び大剣を強く握った。
「これぐらいで手こずってるモナ?? それじゃあもう君に勝ち目は無いモナ」
モナーの両手に緑色の光……。

「“魔斬光”モナ」

光はモナーの両手に集まって、両端に刃の付いた長刀を生み出した。
「なんだとっ……!? いきなり出てきやがっ……」
モナーは長刀を振り下ろす。

キンッ!

それをフサは大剣で防ぐ。
「この武器は管理AIにプログラムされた実在しない武器だモナ。
闇の光を集めればいくらでも造り出せるモナ」
モナーはそう言うとまた長刀を振り下ろした。

ガキィィィンッ!

フサはモナーの攻撃を塞ぎきれず、電車の最後尾の部分まで飛んばされていった。
ギリギリの所で電車の端を掴んだものの、身動きがとれない。
フサの大剣は鋭い音をたてて宙に舞った。そのまま風に逆らい、線路へと落ちていった。
「だから言ったモナ。君は僕に勝てない、と……」
「く……そ……っ!」
フサの体力はもう限界の底を遥かに超えていた。
「……これで終わりモナ」
緑色の光がフサの目の前に振り下ろされる。

ザシュッ!

赤いものが風にのって舞う。それはフサのものだった。

フサの左腕に深い切り傷が刻まれる。

そのまま抵抗なく、力尽きた彼は線路へと落ちてゆく―――……。

「……死んだか。この程度の奴だったモナ……」
モナーはそのまま“止”を知らない電車に乗って過ぎ去っていった。

++駅・線路上++

「ぐ……っ」
フサは線路の上でもがいていた。
「ちっ……まさかあそこまで……強いなんてな……」
フサは負傷した左腕から落下して、骨を折っていた。
それにまして線路にAIが破壊したと思われる、
建物のガラスの大きな破片が落ちていてその破片で腕を切ってしまった。
「使いもんになんねェな……こりゃ……」
フサは血だらけで動かない左腕をおさえた。
「……とにかく、ギコたちの所へ……行かねェと……!
あいつらも危ねェ……!!」
足がフラつきながらも壁をつたってフサは駅を出て行った。


++大通り++

流石兄弟は三人で管理AIから少しでも離れるように、
近くにあったバイクで大通りを走っていた。
「ギコたちは大丈夫かな……」
「あいつ等は大丈夫だ。ちょっとの事でへこたれたりしないからな」
「ねぇ兄者。さっきの赤い猫はどうして妹者たちを襲ったのじゃ?」
妹者が不思議そうに聞いた。まだ妹者は状況をあまり理解していないようだ。
「奴等は……敵だ。管理AIという名の……な」
兄者は深刻な顔で答えた。
そんな兄者の表情を見て妹者も深刻な表情になった。

最後になるかもしれない会話をしながら、
三人は大通りを走りぬけていった。


++トラクター++

「待ってぇぇ~色男~♪」
「き! も!! い!! ってば~~ッ!!」
≫1はあいかわらずさっきから叫び続けていた。
「≫1さん逝っちゃだめだよぉぉぉ!」
おにぎりは≫1を落ち着かせながらトラクターを運転していた。
「おにぎり君~~!! もっとスピード出して~~!!」
「もう限界だよぉ! これ以上は運転できないよぉっ!」
おにぎりが困り果てて言う。
そのままトラクターは全速力で道路を駆け巡っていく。


第七話終わり



**********************************************************************

第八話*―絶望―*


ピットルではギコとモララーの壮絶な戦いが繰り広げられていた。
モララーの大剣“闇斬光”と、ギコの標識がぶつかり合って鋭い音が何度も鳴る。
だが、ギコは圧倒的におされている。
「お前は何故、勝てないと分かっている相手にしつこく立ち向かうんだ?」
モララーは尋ねた。
ギコは体じゅうボロボロだった。それでもギコは立ち向かう。
「俺には……必ず護ると約束した人がいるんだ。
その人をお前たちから護りきるまで……お前には絶対負けない……!!」
ギコは標識を精一杯の力で振り上げた。
また大剣とぶつかり合って甲高い音をたてる。
「なら力ずくで壊してやろう。その約束を……!!」
モララーは大剣をギコに向かって振った。それを寸前で避けたギコ。
そこからギコも標識をモララーに振り下ろす。
「……ッ!!」
しぃはあまりの戦いの激しさに目をつむってしまった。
目を開けると戦う二人の姿がなかった。
「ギコ君……!?」

キン……ッ

その音はしぃの頭上から再び聞こえてきた。
しぃは上を見上げた。そこではギコとモララーが橋の支柱の上で戦っていた。

「うおおおぉぉ!!」
「だあああぁぁ!!」

二人は武器を構えて相手に突っ込んでいった。

ザシュッッ!

鈍い音が空気全体を震わした。
二人は一瞬、時が止まったように動かなかった。

「……甘いな」

モララーがそう言った、その次の瞬間。

「ギコ君ッッ!!」

ギコは青い海へと落ちてゆく。

「ぃ……ゃ……」

しぃの瞳から一粒の涙が流れる。

「いやあぁぁぁぁ!!」

ドボォォォンッ

彼女の声は空に響いた。だが海に落ちていった彼には響かない。

「……ギコか。たいした奴ではなかったが面白いやつだった」
モララーは海を見て呟いた。
「ぅ……ぅう……っ」
しぃはその場に膝を折って涙を流している。
「泣いてもなにもならん。何処に行ったのかと思っていたが……。
まさかこんな奴と共に行動していたとは」
モララーはしぃに言った。
しぃはモララーの言葉に耳を傾かせようともしない……いや、
“聞くことができない”のだ。

今、しぃの頭の中には一つの言葉しかなかった。

しぃにとってギコは、いつしか“愛しい人”となっていた。
自分を護る為にも戦い、無残にも死なせてしまった彼。
自分のせいで死んでしまった。そう思った彼女には何もなかった。
希望も、真実の光も……。

“絶望”……その言葉はしぃの意識を閉ざしてしまっていた。


(……俺……やられちゃったのか……)
ギコは暗くなってゆく周りを見て悟った。水面は綺麗に輝いている。
(みんな……ごめん。もう会えねェ……)
身体から力が抜けていく……。
(しぃ……約束守れなくて……ごめんな……)
そう思った瞬間、ギコの頭に直接響いてきた声……
その言葉はギコを死の淵から救った。

その声はギコにこう言った。

『これがお前の望んだ結末か?』


第八話終わり



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最終話*―想いと真実―*


『これがお前の望んだ結末か?』

(誰だ……?)
声しか聞こえないが、その声をしっかと受け止めたギコ。
(俺の……望んだ結末……?)
ギコは瞳を開いた。身体に力が戻ってくる。
(こんな……こんな結末になんかさせない!!)
その瞳は今護るべき者、自分の使命をしっかりと覚醒した色を放っていた。

ザバァァァンッ!!

「何……ッ!?」
モララーはありえない光景を見た。
「ギ……ギコ君……!?」
空高くまで水面を突き抜けてきた一人の少年。
その少年はありえない高さまで飛んでいた。
「そんな……馬鹿な……!!」

「ぅぉおおおおお!!」

ギコの右手に水が集結してくる。その水はギコのたった一つの武器となった。
「俺は……お前を倒す!!」
小さな想いの粒が水となり、想いの水は奇跡の形の剣となる。
「だああぁぁぁっ!!」
ギコはそのままモララーに突っ込んでいく。
モララーはとっさに闇斬光を構えた。

ガキィィィンッ!

「ぐっ……!」
モララーは余りの力ギコの偉大さに疑問を抱いた。
「何故だ……。あの状況から何故立ち上がることができた……!?
ましてや何故ここまでの力を発揮できる?
その剣は……何処から出現した……!!」
「俺には護らないといけない人がいる。たくさんの大切な仲間が待ってるんだ……!!」
フサ、≫1、おにぎり、流石兄弟、レモナ、ニダ、ぼるじょあ……
そして、しぃという少女。
「俺はここで負けるわけにはいかない!!」
「ギコ君……」
ギコとモララーの戦いは続いた。剣と剣が交わり、奇怪な音が何度も鳴る。
「モララー!! これで最後だ!!」
「お前の方こそ……この一撃で今度こそ終わらせてやる!!」
二人は互いに相手に突っ込んでいく。

―――この一撃で勝敗が決まる。


ザシュッッ!!


「……俺……は」
モララーの口が小さく開く。
「決して……お前達を……逃がし……は……」

ドサッ……

言い終えることもなくモララーはその場に倒れた。
「……終わった……」
ギコは剣を青い海へ還した。
いつでもあの武器は還ってくる。強い想いに反応して……。
「ギコ君……」
しぃはゆっくりギコの元へと駆け寄ってきた。
「……大丈夫。行こう」
「……うん」
ギコの何メートルか離れた後ろにいるモララーを見ながら、しぃは頷いた。
二人はピットルを再び走り出した。


++世界の狭間++

「ここが……出口なのか?」
広大な砂漠に辿り着いた。
何もない……が、あるとしたら少し先に大きな矢印の看板が、
進行方向を指して佇んでいるだけだ。
「……うん、ここだよ……」
静かに答えるしぃ。その瞳には暗い影がかかっていた。
「よし! あと少しだ!」
ギコはそう言うとまた一度走り出した。しぃはそのギコについて行く。

―――この時……二人は手を重ねていなかった。

しぃが立ち止まった。ギコは看板を通り過ぎ、しぃは看板の手前にいる時に。夕日が二人の影を大きく偽っている。
そのしぃに気づいてギコも立ち止まり、振り返る。
「しぃ? 早く行こう」
「……ありがとう」
彼女は俯きながらギコに言った。
「……でも、ここから先には……一緒に行けない……」
いきなりの発言で戸惑うギコ。しぃは何を言ってるんだ?
「何を……」
ギコがしぃの元へ行こうとした、その瞬間。
「こないで!!」
しぃは拒絶した。今まで見たことのない表情、聞いたことのない声で。
その声と同時に二人の間に巨大な壁が生まれた。
その壁はどこへ行っても絶えることのないような数……限りなく続いている。
雲に触れる程の高さでギコとしぃの間に出現した。
二人は完全に遮られた。
「な……っ、なんだ!? これ……」
ギコは唖然とした。
「しぃッ! ……何でだよ!!」
ギコは壁を何度も叩いて呼びかける。だが、しぃからは返事がない。
わけが分からず呆然としているギコ。その時……

地面に光る線がはいった。その線に沿って地面は消えていく―――。

「地面が……っ!」
ログアウト作業が始まった。もう止めることはできない。
ギコは何歩も後ずさりした。
そのまま背中はあの壁にぶつかった。
背中が壁に触れている。その間にも地面はどんどん消えていく。

「早く……早く行きなさい……!」

壁を伝って聞こえてきたしぃの声。
その声から、しぃが泣いているのが分かった。

「しぃ……!」

ギコは消える地面に自ら飛び込んで行った。
時空の炎がギコをまとう。

「待ってろ……必ず救い出してやる……!!」

そう言い残してギコは時空の狭間へと消えていった。

「……さよなら」

しぃは壁の前に一人立っていた。
その背後に迫る悪魔の影……。
「逃がしたのか……。貴様、俺たちを裏切ったな……!!」
青い肌をした赤く光る大剣を持つ者……

モララーだった。

「貴様をこの世界から消し、あいつも……消す……!」
彼女はある決心をしていた。

自分と同じ“管理AI”という存在を裏切り、
元の仲間を全員敵にまわすことを……。

「消えろ」
モララーはしぃに剣を振り下ろそうと飛び込んできた。
「……あの人の……」
しぃの手に青い光が集まる。
「あの人の邪魔はさせない!!」
振り返ったしぃの手には青く光る弓矢が握られていた。

「“聖斬光”……!」

「何……ッ!?」
飛び上がったモララーに不意打ちをかけるように矢を放った。

キィィィンッ

「くっ……!」
モララーはギリギリのところで避け

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