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Panic!! (Gummy!)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集


もしもこの世に魔法があるなら…
もしもこの世に魔王がいたなら…
アニメのように正義の使者が魔王を倒して世界を平和にする…
だがそれはたんなる空想、事実はまったく違うだろう…
何故ならこの世界には、人間という欲望に満ちた生物がいるからだ…


ほしい…魔法の力が欲しい…
ずっと求めてきた…たった一つの希望なんだ…

超えたい…魔法の力を超えたい…
証明するんだ…力がなくてもヒーローになれることを…

知りたい…魔法の力を知りたい…
この世の真理を探すんだ…この命が燃え尽きるまでに…

消したい…魔法の力を消したい…
怖いんだ…この力が僕に向けられる事を思うと…


人は力を求め争う…
人は力を恐れ争う…

それぞれの意思が絡み合うなか…
やがて世界はパニックになるだろう…


  The one that is more frightening than beelzebubs...
 
     The one that is stronger than witches... 

                It...



第一話 マジカルしぃちゃん変身!

私は恋する中学生、光沢 しいな。
皆からはしぃと呼ばれています。
平凡な日常を送って、平和な毎日を過ごすと思っていた…

あの日までは…


いつもと変わらず始まる今日、いつもと変わらずそこにある部屋。
クリーム色の壁紙に真っ白いカーテン、まるで綿雲のようにふかふかのベッド。
勉強机には書きかけのノートとシャーペンが無造作に置かれており、ベッド横にはたくさんのぬいぐるみが飾られていた。
だが変わらないのは部屋の風景だけではない、大音量で鳴り響く目覚まし時計もその変わらない物の一つだ。
真っ赤な目覚まし時計はガタガタと揺れながら、絶えず耳障りな音を発し続けていた。
その音に気付いたのか、一人の少女がゆっくりと目を開ける。
どうやらここは彼女の部屋のようだ。
「…今…何時…?」
鳴り響く目覚まし時計の音で目を覚ました彼女は、眠気眼で時計を探り当てた。
そして二本の針が、現在どの数字を指しているのかを調べる。
短い方の針は七、長い方の針は六をしかっりと指していた。
時刻は七時半、学校の始まる丁度三十分前だ。
それを理解したのか、彼女はベッドから飛び起き大声で叫ぶ。

「……遅刻だー!!」

彼女が光沢 しいな、二葉中学校一年生でクラスは二組。
勉強も運動も中途半端でぱっとしない少女だった。
特に酷いのがその遅刻癖。
彼女が余裕をもって、学校に着いたことなんてほとんどない。

彼女は速攻で歯磨きを終わらせ、白と紺の学生服に着替える。
そして粗末な食パン一枚くわえて、家を飛び出した。
しぃの家から学校まで走って二十分、普通なら確実に間に合わないだろう。
だがこの状態を打破する一つの手段が、彼女の後ろから近づいてくる。
それは黒い制服の少年が漕ぐ、銀色の自転車だった。
「よう、しぃ! また遅刻かよ」
その少年は風間 ぎこ、しぃのクラスメイトであり幼馴染だ。
家が近く同い年のため、昔からよく遊ぶ機会もあり友達としての仲は結構親しかった。
「ちょうど良いところに、乗らしてもらうわよ!」
そう言うとしぃは、ギコの乗る自転車の荷台に飛び乗る。
しかし本来荷台は人を乗せるものではない、荷物を載せるものなのだ。
当然自転車はバランスを崩す。
「おい! ちょっと無茶だって! こける! こける!」
次の瞬間、自転車が大きく傾き、やがてガシャーン!! と音を立てて倒れた。
「いてて…だから言っただろ…」
「むー、ギコ君なら大丈夫だと思ったんだけどな…」
「おまえな…いきなり乗られてバランスがとれるわけがねえだろ。あれは始めの状態で勢いをつけて…とか言ってる場合じゃねー!!」
始めの状態で勢いをつけて自転車をこぎだすギコ、当然後ろの荷台にはしぃが乗っている。
しかし学校までは坂道が多く、彼はハァハァと息切れをしていた。
「がんばれギコ君! 学校までもう少しだよ!」
「おい…あとで…覚えてろよ…」
ふらつきながらも何とか学校に着くしぃとギコ。
時間は…まだ間に合いそうだ。
だが問題なのは自転車置き場に自転車を置きに行く二、三分。
今の状態ではその少しの時間すら惜しい。
しぃは自転車から飛び降り、校舎に向かって走っていった。
「ありがとうギコ君! あとよろしくね!」
「おいいっ! ふざけんな待て! マジで覚えてろよ!!」


いつもと変わらず始まりだした今日…
いつもと変わらないはずだった今日…
だが、すでにその今日は少しずつ崩れ始めていた…
すでに世界は破滅へと向かおうとしている…

闇の支配する破滅の世界へ…


「ふーん、ここが魔王様の言っていた世界か…」

黒いマントに身を包んだ男が一人、しぃ達の入った学校をじっと見ていた。
笑みを浮かべたその顔からは、何か悪意のようなものを感じる。
やがて彼は、その笑みのまま小さくつぶやいた。

「早く始末しなくちゃね…ステッキに選ばれし者を…」


そんなことは露知らず、ギコは走った。
風になった。
そして教室に入って一番に発した言葉は…
「おいっ、しぃ!よくも俺を置いていってくれたな」
「あれっ? 間に合ったのね。絶対に間に合わないと思ったんだけどな」
「ふざけんな!おまえあれから俺が……」
懇親の力で怒鳴っていたギコなのだが、ここにきて急に言葉に詰まる。
「どうしたの、ギコ君」
「……なあしぃ…なんか嫌な予感がしないか…」
「ん? そう言われたら…」

「何もおきなきゃ良いんだがな…」

その時だった、さっきまで明るかった教室が急に暗闇に包まれた。
クラスの中の一人が、空の異常に気付き大声で叫ぶ。
「大変や皆! 空見てみ!」
その声を聞いたギコとしぃは、急ぎ足で窓まで行き空を見上げる。
「そんな…空が…まだ昼なのに…」
その空には太陽がなかった。
あたり一面の真っ暗闇、まるで夜のようだ。

(なに? この胸騒ぎ…なにがおきようとしているの…)

そのとき、しぃの心の中に誰かが語りかけてきた。

――シィ… シィ…――

(声?いったい……誰…?)

「それにしても不気味だな…ん? どうした、しぃ?」
「今…誰かに呼ばれた気がした…」
「はい?」
「行かなくちゃ!」
そう言うとしぃは、突然廊下に向かって走り出した。
その尋常じゃない様子に不信を抱き、ギコは呼びとめる。
「おい! どこ行くんだよ、しぃ!」
しかし、しぃは止まらなかった。
廊下を走りぬけ、階段を駆け下り、下駄箱で靴に履き替える。
校舎に出ると彼女は、人目のつかない校舎裏までその足を運んだ。
そして誰もいない空間に向けて、声を上げる。
「誰?私を呼ぶのは!?」
「ボクダ!」
「どこ? どこに居るの!?」
あたりを見渡すが、どこにもいない。
やがてじれったくなったのか、声の主は大声で叫ぶ。
「ウエヲ ミル イイ!」
しぃが上に目をやると、そこには丸っこい変な生き物がいた。
真っ白な羽と頭の上の光る輪、その風貌からは天子のようにも見える。
「…? …!? かっわいー!!」
たまらず抱きかかえるしぃ、だが丸っこい奴は嫌がっているようだ。
「ヤメロ! クルシイ!! ツブレル イクナイ!!」
慌てて放すしぃ、そして一言。
「ゴメン…」
「ショタイメンノ ボクニ イキナリ シメツケ コウゲキカ! シヌカト オモッタゾ!」
「はは…ほんとゴメン」
苦笑いをしながら再度謝るしぃ、だがこんな事をしている場合ではない。
しぃは本題の方を聞いた。
「で、なんで私を呼んだの?」
「コレヲ ヤル!」
しぃは丸っこい奴から何かを受け取る。
見たところ、それはステッキのようだった。
綺麗なハートの形を象っており、埋めこまれた宝石は赤く鮮やかに輝いている。
変わった形をしているが、変わっているのは形だけではない。
そのステッキからは、何か大きな力を感じることが出来た。
「なに…これ…?」

「マジカル ステッキダ!」

いきなりのわけの分からない回答に当然疑問を抱くしぃ。
「あの、わけがが分からないんだけど…」
「ツイテクル イイ!!」
そう言うと丸っこい奴は、しぃの背中を押して校舎裏から裏庭の方へ誘導する。
普段あまり人の立ち寄らない裏庭は、暗闇の影響でより一層不気味な雰囲気を出していた。
そんな中、黒いマントで身を包んだ一人の男が立っている。
しぃが近づくと彼は、無気味に笑いながらこう言った…

「待っていたよ…ステッキに選ばれし者……まさかこんな小娘だとはね…」

「あなた……誰…?」
「よくぞ聞いてくれた! 俺は魔王五人衆の一人、魔獣使いのモララー!! 魔王様復活の妨げになるステッキに選ばれし者…即ちおまえを始末しに来たからな!!」
「魔王様…?」
「そうだ! 魔王様は偉大なお方だ…この世界を闇の支配する理想の世界に変えてれる…」
すると丸っこい奴が飛びだし反論する。
「ナニガ リソウノ セカイダ! ヤミノ シハイスル セカイナンテ イクナイ!! コッチニハ ステッキニ エラバレシ モノガ イルンダ! オマエ ナンテ イチコロ イイ!!」
丸っこい奴はモララーを脅しているようだった。
だが、モララーは余裕の表情を崩さない。
それどころか満面の笑みで言葉を返す。
「へぇ、そいつは面白そうだね。それじゃあ…」

「少し遊んでやるからな!」

そう言うとモララーの周りに黒い闇が集まった。
その闇は次第に渦を巻き、やがてブラックホールのような闇の穴が出来る。
「さあ! 出でよ棒人間!あいつらを消せ!」
モララーがそう言い放つと、さきほどの闇の穴から人の形をした棒のような奴らが出現する。
奴らは一斉にしぃ達を取り囲むと、全員攻撃の態勢に入った。
「な、なに!? あいつら!」
「モララーノ ヨンダ マカイノ マジュウダ… キヲツケロ シィ! オソッテ クルゾ!!」
そう言ったのもつかの間、魔獣達は一斉にしぃに向かって襲いかかる。
なんとか逃げかわすが、しぃはただの少女、体力的にも限界に近かった。
「あいつら何で私を襲ってくるの! 私は何をすればいいの…!」
「クワシイ ハナシハ アトダ! トリアエズ ヘンシン シロ! ヘンシン シテ アイツラヲ タオス イイ!!」
しぃには彼の言ってる意味がまったく分からなかった。
だが、とりあえずこの場をかいくぐるには彼とステッキの力が必要なのは分かる。
とにかく分からないことは聞いてその通りにすれば良いと…
「その変身ってどうやってやるの!?」
「ステッキヲ ニギッテ ツヨク オモエ、 ソシテ マジカル シィチャン ヘンシント サケベ! ソウスレバ ヘンシン デキル!!」
「強く思うって…」
その時だった、しぃの後ろから一匹の魔獣が跳びかかる。
手はカギヅメのようになり今まさに切りかかる瞬間だった。
とっさに丸っこい奴が叫ぶ。

「アブナイ! シィ!! ウシロダ!!」

だが遅かった。
しぃが後ろに振り向く間もなく、魔獣の手がなにかを切り裂く。
ズバッ! という生々しい音と共に飛び散る血。
地に落ちる制服の切れ端。
しかし様子がおかしかった。
しぃは無傷、足元には血に染まる制服…

倒れていたのはギコだった…

「ギコ君…どうして…」
「いや、おまえの後を追ってさ…そしたら変な奴に襲われてて…それで…」
ギコの言葉は途中で途切れ、やがて目を閉じる。
傷を負ったギコを見つめ、しぃは頬に涙を流した。
「ギコ君…私のせいで…私を守って…」
「はは…俺の邪魔をするからそうなるんだ…!当然の…酬いだからな…!!」
モララーがそうあざ笑うと、しぃはギコから視線を逸らしモララーをキッと睨む。
「許さない…」

「許さない! モララー!!」

その時だった。
急にステッキが眩く光りだし、周りの闇を照らし始める。
今まで暗闇になれていた目に、突然光が飛び込みモララーは怯るんだ。
「クッ…なんだ…この光は!?」
「ハンノウ シテ イルンダ… シィノ ツヨイ オモイニ ステッキガ ハンノウ シテ イルンダ…」
光の中でしぃはステッキを強く握り、天に向けて振り上げた。
そして大声で叫ぶ…


「マジカルしぃちゃん変身!!」


すると、先程以上の光りが束となって集まりしぃを取り囲む。
まるで光が意思を持っているかのように、しぃに向かって集まっていくのだ。
制服姿だったしぃの服装がピンク色のスカート姿に変わり、耳にはハートのイアリングが付いた。
だがその状態にしぃは慌てる様子はない。
彼女はモララーにステッキを突き出し言いはなった。

「モララー、あなたを倒す!」

「なるほど、これがステッキの力か…面白い! いけ、棒人間!」
モララーがそう命じると魔獣達が一斉に、しぃにむかって襲いかかる――

――だが…

「なに! 馬鹿な!」
モララーがそう言ったのもつかの間、大勢の魔獣が一瞬にして光にかき消される。
そう、しぃに近付いただけで消えてしまったのだ。
「スゴイ… コレガ ステッキノ… イヤ、 シィノ チカラ…」
ジエンはその威力に呆然とする。
だがモララーの方は相変わらずニヒルに笑っていた。
だが、その笑いは先ほどとは違う。
無気味な笑いではなく、ただ純粋に楽しんでいる笑い…
しぃの力を認めた笑いだった。
「ハハハ…ハッハッハッ…!! 流石はステッキに選ばれし者…いや、流石は魔女っ子しぃとでも言ったほうが良いな! それなら、こっちも本気の魔獣で相手してやるからな!!」
すると先程よりも大きな闇の穴が出現する。
だが大きさだけではない邪悪な力もさっきとは比べものにならないほどだった。
モララーは手をかざし叫ぶ。
「出でよワイデス! 魔女っ子しぃを消すんだ!!」
闇の穴から出現した魔獣は、先ほどの魔獣とよく似た形をしていた。
しかしその魔力と邪悪さは、まったく違う。
明らかに先ほどの魔獣よりも強敵なのは確かだった。
「コ、 コイツ… サッキノト クラベモノニ ナラナイ チカラダゾ…」
丸っこい奴も思わず怯むが、しぃは怯まなかった。
何か考えがあったのだ。
「ねぇ、天使君! このステッキの力、まだまだこんな物じゃないでしょ! 教えてよ、あいつを倒すなにかを!」
「マ、 マリョクガ ワカルノカ!?」
「うん、なんとなくだけど感じる…このステッキの力を…」
丸っこい奴は少し考えると、しぃに向かって言う。
「マジカル フラッシュヲ ツカウンダ!!」
「マジカルフラッシュ?」
「ソウダ! ヤミヲ ホロボシ ヒカリニ カキケス コウゲキ ワザダ! ツヨク オモエバ ヒカリノ チカラモ マス!!」

「強く…思う…」

(あいつは…ギコ君を危険な目にあわせた…許さない!)
しぃが強く思うと、突然ステッキが強く光を放つ。
「ボクニ ツヅク イイ!! セカイヲ テラス セイナル ヒカリヨ!!」
「世界を照らす聖なる光よ…」
「ヤミヲ メッスル カテト ナレ!!」
「闇を滅する糧となれ…」
「マジカル フラッシュ!!」
しぃは魔獣に向かってステッキを突き出し、混信の力で叫ぶ。


「『マジカルフラッシュ』!!」


「な、馬鹿なこんなはずが…」
邪悪な魔獣がステッキから放たれる強烈な光にかき消される。
その光は今までの光とは比べ物にならないほどの魔力だった。
モララーは唖然としていたが、すぐに開き直り言い放つ。
「ハッ! 今日のところは勘弁しといてやる! だが、次会ったときはおまえの最後だからな!」
そう言うと高らかな笑い声をあげて闇の穴に消えていく。
それと共に空の闇は次第に消えていき、やがて太陽が姿を現した。
しぃはその様子を見てホッと肩をなでおろす。
「たお…した…」
そう言うとしぃは地面に倒れこんだ。
今までの疲れが一気に出たのだろう。
わずかな意識の中で、丸っこい奴の声がしぃの頭に響く。

「オイ!! ダイジョウブカ!? シィ…」

「シィ…」


(ここは…)

「目覚めたようだな…」
「もう、心配したで!」
目を覚ましたしぃに二人が話しかける。
一人は、はねた毛が特徴の男性教師。
もう一人は、関西弁で喋っている女子生徒だった。
教師の方は茶谷 にらし、しぃの担任をしている国語の先生だ。
ちなみに部活は茶道部の顧問、部員不足に悩んでいる。
生徒の方は星川 のうこ、皆からはのーと呼ばれている。
高校になってからのしぃの友達で、つい最近大阪の方から引っ越してきたらしい。
「保険…室…?」
「そうや、まったくごっつう驚いたで…なんや知らんけど裏庭にしぃちゃんとギコ君が倒れとったんや……しかもギコ君は大怪我しとるし…」
「ギコ君…ギコ君は大丈夫なんですか!」
「ああ、大丈夫だ。すぐに救急車を呼んだからな。医者によると、たいした怪我ではないらしい。二、三日で復帰できるはずだ」
「良かった…」
しぃはひとまず安心のようだが、にらし先生とのーは深刻な表情のままだった。
当然だ、こんな大事件が自分達の身近でおきてしまったのだから…
「さて、ちゃんと説明してもらうで。あそこで何があったのか…ギコ君がどうしてあんな怪我をしたのかをね…」
しかし、しぃは答えることが出来なかった。
これ以上まわりの人を巻き込みたくない、自分のせいでまわりの人を傷つけたくないと思ったからだ。
「先生…のーちゃん…すいません。話すことは出来ません」
「なんでや! 話してくれてもええやろ…」
「星川…止めておけ…」
深入りをするのーを、にらし先生が止めに入った。
「光沢、この事は話してくれなくて良い。だが、もしつらくなったら遠慮なく先生に話してくれ。いつでも相談にのるぞフォルァ!」
「な、なんや!! うちが悪もんみたいやん! しぃちゃんの為ならうちだって相談にのるわ! いつでも話してや!!」
そういうと二人は保健室を出て、教室のほうへ帰っていった。
(ありがとう…先生…のーちゃん…)

「ハナシハ オワッタ ヨウダナ…」

二人が出て行ったのを見計らって、カーテンの後ろから先ほどの丸っこい奴が出てくる。
そしてしぃに話しだした。
これからの事を…
「シィ、 オマエハ ステッキニ エラバレタ。 タタカワズトモ サッキノ ヨウナ ヤツガ オマエノ イノチヲ ネラウ… ヘタヲシタラ マタ マワリヲ マキコム カモ シレナイ…」
「また…ギコ君みたいに…?」
「ソウダ、 オマエガ コノセカイ… イヤ、 スベテノ セカイノ タメニ タタカッテ クレルナラ ソンナコトモ ナクナル…」
「…」
しぃは黙って考える。
自分の運命を変える選択、簡単には決めれるわけがなかった。
だが、丸っこい奴も引くわけには行かない、すべての世界のために彼女の力が必要なのだ。
「オマエノ チカラガ ヒツヨウ ナンダ…」
やがて彼女は覚悟を決める。
世界のために戦う覚悟を…
「ふー、分かったわ…でも条件があるわ」
「ジョウケン?」
「な、ま、え、名前教えてよ。これから一緒に戦っていく仲なんだからさ」
「ワカッタ シィ!! ボクハ ジサクジエン、 ジエント ヨンデクレ! コレカラ イッショニ ヨロシクタノム! イイ!!」
「よろしく、ジエンちゃん」


こうして魔女っ子しぃの戦いは始まった。

これから愛と魔法の力で世界を守る。


それだけのはずだった――

――それだけのはずだったのだ…


         ⊂⊃
   ~~ ィ⌒ヾヽ
    ~ ノツリ(, ・∀)


第二話 夢叶えるため

世界は『マナ』によって構成されて、人々はそれを消費して生きている。
まあよく聞く話しだけど、そんな確証のないこと世間は信じちゃくれないだろうね。
でも間違っているという確証もない、それならどちらも同じだとモナは思う。
だから知りたい、確証がほしい…

昔から好きだったんだ……こんな空想…
勇者様や魔法使いが悪の魔王を倒すありがちな物語。
それには心を引くものがあった。
このありえない力に世界がどう動くのか。
自分がもしその力を手に入れたら何をするのか。
そういうことを考えると自然に興味がわいた。
とにかく調べた、ありとあらゆる神話やおとぎ話を。
でも、調べただけでその力は手に入らなかった…
だから銃を握った…
だから毎日血の滲むような努力をした。

悔しかったんだ…才能のない自分が…
惨めだったんだ…力のない自分が…
そして、ある日気付いたんだ…

モナはただの人間、特別な力なんてあるはずがないと…


モナの名前はモナー・オマエム。
なんの力もない、ちっぽけな人間モナ…


イギリスのとある町、とある屋敷。
真っ赤に映える絨毯に金色に輝く柱、床には一面に大理石が敷き詰められた豪華な屋敷。
ここが彼モナーの家、誰もが敬う大豪邸だ。
だがモナーはこの家も、この家のやり方も好きになれなかった。
とにかく何も不満なことが無かったのだ。
腹が空けばメイドが食べ物を持ってくる。
欲しい物があればすぐに手に入る。
何も不満がないことが、逆にモナーには不満だった。
なんの困難も無い毎日は、モナーにとっては苦痛だったのだ。

そんなある日。
彼は見てしまった…
自分の運命を変えるニュースを…

「今日、日本のとある場所で異常気象が発生しました。空が突然暗くなるという異常気象です。現在その原因は判明していません…」

(異常気象?妙な話しモナ…)
モナーは考えた。
自分が今まで調べた知識の中にある黒い闇、世界を破滅においやる闇…
(突如暗くなる空…何か引っかかるモナ…調べてみる価値はありそうモナね…)
「マララー! マララーはいるモナ!?」
「はいはい、今すぐ…」
モナーが名を呼ぶと一人の男が部屋に入ってくる。
彼の名前はマララー・ティーチ、モナーに使えている執事だ。
モナーが生まれる前からこの屋敷で働いており、モナーの事は自分の息子のように可愛がっている。
「マララー、明日ここを発って日本に行く。帰るのはいつになるか分からない、よろしく頼んだモナ」
「はい!? 急に何を言ってるんですか! いけません!! 何があるか分かったものじゃありません! そもそも、それ以前に旦那様が許しませんよ!」
それを聞いたモナーは、自分の頭を軽くコンッと殴って舌打ちをした。

「そうだ…あいつが居たんだった…」

モナーの父、資産家ショダイ・オマエム。
大会社オマエムカンパニーの会長で、世界有数の億万長者。
その権力は強大で、彼の一言で世界が動くほどだ。
そんな彼だが最愛の妻を亡くしており、それ以後息子と娘を溺愛している。
おそらく、そう簡単には遠出させてくれないだろう。
だがモナーも諦めるわけにはいかない。
「父様に直々に頼みにいくモナ」
「無理だと思いますけど…」
「物事は結果がでなければ意味がない。過程で止めてしまっては何も始まらないモナ」
そう言うとモナーは部屋を出て、ショダイの部屋に向かう。

歩くこと数分、部屋の前まで来たモナーはドアをコンッ!コンッ!とノックする。
「どうぞ」
「失礼するモナ」
モナーが部屋に入ると、そこには優しそうなおじいさんが一人居た。
顔はどことなくモナーに似ているのだが、耳が丸く、少し痩せている。
彼がモナーの父ショダイ・オマエム。
少々老けているという以外は特に特徴も無く、彼が大会社の会長だとはとても思えない。
「モナーさんですか。どうしたんですか?」
「父様、明日この地を離れ日本に行きたいと思うモナ」
モナーは早速議題に入った。
軽く話して軽く流したかったのだが、どうやら読まれていたらしく痛いところを突いてくる。
「ほう、いきなりですね。前々から予定はなかったんですか?」
「急の用事でね。とりあえず飛行機を手配してほしいモナ」
モナーがそう言い返すと、ショダイはわざとモナーに聞こえるほどの声で呟く。

「今朝のニュースですか…」

「!!?」
「いや、まことに興味深いニュースでしたね…是非とも真相を調べたいところです…」
(すべてお見通しってわけモナか…)
モナーはフゥー…とため息をついて観念した。
ここまで読まれていては事実を話すしかなかったのだ。
「正直に言うとそのとおりモナ。この奇妙な現象に興味があってね…調査に行きたいモナ」
ショダイはわざとらしく考えるふりをして、適当に答えを出す。
「ふむ、まあいいでしょう。許可します」
「え!? 良いモナか!」
「はい、ただし条件があります」
「条件?」
「そうです。一つ、人様に迷惑をかけない事。二つ、ボディーガードを最低一人つける事。三つ、妹も連れて行くことです」
三つ目の妹も連れて行く…
その言葉にモナーは機敏に反応した。
「な! ガナーを!? じょ、冗談モナよね!!」
「いいえ、冗談ではありません。彼女は勉強盛りですからね…日本の文化について学ばせたいのですよ」
(くそっ、むこうでの動きを制限する気モナね…)
何故、彼女がいると動きが制限されるかは後々分かるだろう。
とにかく、モナーは妹であるガナーと共に行動したくなかったのだ。
彼は考える。
このままショダイの思い通りになっては、計画が台無しになってしまうからだ。
やがて彼は、一つの逃げ道にたどりついた。
流石はショダイの息子なだけあって、頭の回転は速かった。
「では、むこうの学校で授業を受けさせるのはどうモナ? こっちの方が日本の勉強になるし、学生が勉学をサボるわけにはいかないモナ!」
「ふむ、なるほど一理ありますね。ではそれでいきましょう、入れる学校は今朝のニュースの場所で良いですよね」
「問題無いモナ」
「では、事前に手続きをしておきます。色々と準備が大変なので、一週間後に正式な入学ということにしておきます」
「分かったモナ。出発は明日の午後六時、よろしく頼んだモナ」
「はいはい、良い旅を…」
なんと、あっさり通ってしまった。
こうもあっさりしていると逆に怪しく思える。
(おかしい、なんで突っかからないんだ…また何か考えてるモナね…)
だが、そう思っていても特に反論する部分も無い。
引っかかる気持ちを抑え、その場を立ち去るしかなかった。

モナーが部屋を出た後、マララーがショダイに向かって問いただす。
「何故簡単に許可したんですか?貴方の性格でしたら色々突っかかりますのに…」
彼の質問を上の空で聞いていたショダイは、軽く微笑みつつ独り言のようにつぶやいた。

「夢ですからね。彼の…」

「は、はぁ…」


「おにーちゃん♪ 何話してたの?」
モナーが部屋を出ると、一人の少女がいきなり飛びついた。
彼女が先ほどの会話に出ていたモナーの妹、ガナー・オマエムだ。
パッチリとした目で、人一倍元気がよく、いつも笑顔を絶やさない。
「ガナーか、ちょうど良いところに帰ってきたモナね。明日、日本に行くことになったモナ」
「旅行? えー良いな…私も行きたかったな…」
ガナーがうらやましそうにそう言うと、モナーは深いため息をついた。
「なに言ってるモナ、ガナーも一緒に行くモナよ。父様の意思でね…」
「え? いいの!? やったー! 流石お父さん、太っ腹だね♪」
彼はガナーから視線を逸らし一人ぼやく。
「どこが…」
乗り気のしないモナーとは裏腹に、ガナーは一人はしゃいでいた。
「兄弟で旅行なんて久しぶりだね♪」
「言っておくが旅行に行くわけじゃない、日本文化の勉強に行くモナ。それに滞在期間は未定、おそらくかなりの期間むこうに滞在することになるモナ。ガナーはその間、むこうの学校に通ってもらうモナ。だから生活に必要な物はありったけ持っていったほうがいいモナよ。出発は明日の午後六時だからよろしくモナ」
「じゃあ、準備してくるね!」
全然気にしていないガナーに不安を抱き、念を押すモナー。
「もう一度言うが遊びに行くわけじゃない、勉強しに行くんだ。勘違いしないよう…」
「大丈夫、大丈夫、全然OKよ!」
(大丈夫じゃなさそうモナ…)
そう、彼女と共に行動したくないのはその異常な遊び癖。
彼女と共に遊びに行くと、まる一日振り回されることになる。
異常気象の調査に行くモナーにとってはこれほど邪魔な存在は無かった。
だが、ここでもモナーは頭を捻る。
ようは彼女の遊び相手を他の者に移せば良いのだ。
「そうだ、実はボディーガードを一人同行させなくちゃいけないモナ。モナはネーノをお勧めするモナ」
「あー! ネーノ君か! 良いね、ネーノ君に決定!!」
それを聞いてモナーはニヤリと笑う。
ネーノはモナーと同い年でガナーと歳が近く、代わりの遊び相手には最適だったのだ。
おまけに人からの頼みを断れない性格で、ガナーはネーノ方ばかりを誘うという寸法だ。
(ネーノ…スマンモナ…)
心の中でネーノに誤りつつ、この事を伝えに彼の部屋に向かった。


ネーノの部屋に着いたモナーはノックもせずに部屋に入る。
まあ、ネーノだしどうでもいいやと思っているからだ。
「ネーノ、居るモナ?」
「はいはい、いるんじゃネーノ」
モナーが呼ぶと一人の男が出てくる。
彼がネーノ・インジャー、オマエム家に小さい時から仕えているボディーガードだ。
縮れた耳と吊り上った目が特徴で、黒いスーツを羽織っている。
「ネーノ、明日日本に行く。午後七時出発だから準備しておくように…」
「はい? 明日? …正気?」
「バッチ正気モナ。んじゃ」
「おい! ちょっと待つんじゃネーノ!」
呼び止めるネーノを無視し、モナーは部屋を後にする。
彼の話した出発時間の他にも、滞在理由、滞在期間など大事な話もあるのだが、話す気はまったく無い。
これまた、ネーノだしどうでもいいやと思っているからだ。


とりあえず伝えることを伝えたモナーは、部屋に戻り明日の準備に取り掛かかった。
何日分もの着替えを旅行鞄の中に詰め込み、一箇所にまとめる。
だがモナーには、その他にも準備すべきものがあった。
これから何が起こるのかわからない、最低限の武器が必要だったのだ。

彼は地下の武器保管庫に向かい、気に入った武器弾薬を次々と旅行鞄に詰め込んだ。
その中で一つ、彼は銀色に輝く銃に目をやった。
そしてその銃を手に取り、機器に不備がないかこまめに調べる。
彼が手に取った銃はピエトロベレッタ モデル92、何の変哲もない普通の銃だった。
どうやら彼は絶えず持ち歩く御信用の武器として、この銃を選んだようだ。
だがおかしい、武器の種類は十分すぎるほどあり、他にも高性能な銃はいくらでもある。
確かにこの銃は使いやすく、特に劣っているところはない。
だが特別秀でたものもなく、使い込める銃ではなかった。
しかし彼は、この何の変哲もない普通の銃を意図的に選んだのだ。
モナーはその銃を握り締め、一人つぶやく。

「おまえに決めたモナ…」


翌日…

すべて準備が整ったモナーは、いよいよ日本に旅立とうとしていた。
黒いスーツに着替え、内ポケットには昨日の銀色の銃を入れる。
そして、ポケットの上から銃をポンポンと叩いた。
「頼んだモナよ…これからおまえと共に戦うかもしれないんだ…」
「お兄ちゃん何してるの!?早くしないと先に行っちゃうよ!」
外からガナーの声が聞こえ、モナーは慌てて返事をする。
「今行くモナー!」
手荷物を持って外に駆けつけると、すでにガナー達は車の前で待っていた。
「もう! 遅いよ!」
「はは…悪かったモナ…」

そんな事をしている間にマララーが車のドアを開け、モナーたちに向かって言う。
「さあ、出発しますよ。自家用機でも離陸時間は決まっているんですから…」
その言葉を聞いたモナーたちは、急いで車に乗り込んだ。
マララーは全員乗った事を確認すると、運転席に乗り込みエンジンを吹かす。
そしてアクセルをグッと踏み、車を空港にむけて走らせていった。

空港までの距離はそう遠いわけではなく、一時間弱ほどで到着した。
モナー達は車から降りたが、マララーはその場に残って彼らを見送る。
「さて、私の役目はここまでです。モナー様、ガナー様、くれぐれもお気をつけて」
「大丈夫。心配する必要は無いモナ」
「そうそう、御土産に期待してね!」
結局最後まで旅行と勘違いしているガナーを見て、彼はネーノに念を押した。
「ネーノさん、くれぐれも頼みますよ。あの二人は旦那様に似て少々危険ですから…」
「任せるんじゃネーノ」

空港内に入ったモナーたちは、手続き無しですぐに飛行機に乗り込むことが出来た。
自家用機なので、余分なチェックを通さずにすんだからだ。
おかげで武器の持ち込みもスンナリ通って、ひとまず安心といったところ。
少ししたら飛行機が離陸しだす。
雲を抜けた機体は、まっすぐ日本に旅立ち始めた。
滅多に旅行に行かないガナーはその様子に興奮し、はしゃぎだす。
「見て! 雲! 雲だよ、お兄ちゃん!」
「ご指名じゃネーノ。お兄ちゃん」
「シカトモナ」
初めはまったく相手にしないのだが、向こうは気にせず呼び続けるのでつい反応してしまう。
結局最後には、ガナーの話し相手になってしまうのはいつもの事だ。
「ねー、日本ってさ腹切りの国日本だよね。見たいなー腹切り♪」
「言っておくが、モナはそんな恐ろしい国に行く予定はない」
「そうそう、日本といったら寿司もあるよね。御土産に寿司を大量に買わないと」
「いやいや、腐るから。大変なことになるからやめてほしいモナ…」
機内では日本についての強烈なボケに追われるモナー。
だが、少ししたら突然ガナーが静かになった。
それもそのはず、すでに時間は深夜になっておりすっかり寝付いてしまったのだ。
彼は眠る妹に毛布をかけ、窓の風景をじっと見つめた。

(今までどうしても手に入れることが出来なかった力…何だか近づいている気がするモナ…)

「どうした?真剣な顔しちゃって」
ネーノがそうたずねると、モナーは視線を窓に向けたまま言った。
「ネーノ、ガナーが寝てる間に話しておくモナ。モナが日本に行く理由を…」
「そういえば聞いてなかったんじゃネーノ。で、その理由って?」
モナーは視線を窓から戻し、今度はネーノのほうを見て言った。
「魔法の調査モナ」
「はい?魔法?」
「そう、小さいころから憧れていたモナ…今回その有力な情報が日本で見つかってね。自分の目で確認しに行きたかったってことモナ…」
モナーの希望はあまりにも馬鹿馬鹿しかった。
こんな夢物語、今どきは子供でも笑うだろう。
だが、彼の目は真剣だった。
ただまっすぐに希望だけを見つめるその目は、普段のモナーでは絶対に見られない目だ。
あたりに無言の空気が流れる中、ネーノはモナーに向かって言った。
「…見つけること……出来るのか?」
するとモナーは、ゆっくりと空中に腕を伸ばす。
そして何かを掴み取るかのように、グッと手を握った。


「…見つけるさ……かならず希望を手に入れるモナ…」


そんなこんなで、飛行機に乗って数時間。
モナー達はようやく日本に到着した。
空港を出て出迎えの者を待つが、ここでもガナーがはしゃぐ。
「うーん! こっちの方がちょっと暖かいね、お兄ちゃん!」
「大きな声で言わなくてもわかるモナ…周りの目が痛いから、静かにしてほしいモナ…」

二人が話している間に、やがて一台の真っ黒い車がやってくる。
「二人とも、お迎えが来たんじゃネーノ」
ネーノの一言と共に、真っ黒い車の中から二人の男が降りてきた。
一人は長身で筋肉質のグラサン男、もう一人は忍者衣装のコスプレ男。
とてもじゃないが、まともな奴には思えなかった。
だがネーノは、そんな二人の外見を無視し紹介にはいる。
「こちらがクックル・ドゥドゥさんと激しく忍者さん。オマエムカンパニー日本支部の警備委員をやっている。今回ホテルまでの送迎役を、引き受けているんじゃネーノ」
ネーノはまったく気にしてないようだが、モナーはかなり気にしているようだ。
浮かない顔でネーノにたずねる。
「まて、ネーノ…どういうことモナ…」
「あー、忍者さんね。彼は大の日本好きだからね。まあ、ただのコスプレだから気にすることはないんじゃネーノ。それに激しく忍者は本名じゃないし」
「本名は…?」
「知らね」
「……」


なんとなく不安要素を残しながらも、車に乗り込むモナーたち。
車で移動する中、モナーはあることをネーノにたずねた。
「ところでネーノ、日本語は喋れるモナ? モナたちは小さいころから勉強してて喋れるけど…」
「当然喋れるが…なんで今頃言うんだよ…」
ネーノがそう言うと、モナーはとぼけた顔で言い返す。
「まあ、忘れてた。みたいな?」
「おい!」

そんなくだらない会話をしながら、空港から出発して数時間。
事件のあった町、突如闇が空を蔽った町に到着する。
モナーは車の窓から空を見渡すが、いくら見ても何の変哲もないただの空だ。
だが、ここに来てモナーはある異変に気付いた。
車に乗り始めてからガナーの様子が何かおかしいのだ。
「ん?どうしたガナー、元気無いモナね」
「ねえ、お兄ちゃん…」

「なんか…嫌な予感がする…」


力を求めて戦う男…
これから彼は大きな障害にぶつかるだろう…
だが彼は決してあきらめない…

つまらぬ財産を持つより、立派な希望を持つほうがマシだ
     byセルバンテス「ドン・キホーテ」


                     ⊂⊃
               ー三 ィ⌒ヾヽ
              ー三 ノツリ(, ・∀)


第三話 白と黒と灰色と…

今日は休日、だが魔女っ子しぃはゆっくり休んでいる場合ではなさそうだ。

――オキロ… オキロ…――

「まだ眠い…もう少しだけ…」

――ハヤク オキロ…――

「もう少し…」

「オキロト イッテルダロ! ネボスケ イクナイ!!」
そうジエンがしぃの目の前で叫ぶと、彼女はあわてて飛び起きる。
「うわ!変な丸っこいのが!!」
「オイ!! キノウモ ソンナコト イッタダロ! イイカゲン ナレロ!!」
「あはは…そうだったねジエンちゃん…」
とりあえず布団から出て、ジエンの前に立つしぃ。
起きたばかりでまだ調子が出てない状態なのだが、問答無用にジエンは言い放つ。
「タイヘンタ ゙シィ! スグニ ヘンシンシロ!!」
「な、何が大変なのよ…」
「『マナ』ガ ユライデイル… ヤミノ チカラガ セマッテ キテルゾ!」
ジエンの言葉にしぃは首をかしげる。
「『マナ』?」
「ソウダ! 『マナ』ハ コノヨヲ コウセイスル モトダ! ソノ 『マナ』ガ ユライデイル トイウコトハ、 コノセカイニ アリエナイ ソンザイ… スナワチ マゾクガ アラワレタ ショウコダ!!」
「そういえばなんか嫌な予感がするような…」
「ソウ! ウマレツキ マリョクガ タカイモノナラ ワカル ハズダ… マナガ ユライデイル ノガ…」


「どうしたんだガナー、嫌な予感って…」
ネーノが心配して、ガナーに問いかける。
普段は有り余るほど元気なので、余計に心配だ。
「何だか悪い事がおきそうな気がする…」
ガナーは特に体の調子が悪いというわけではなさそうだ。ただ嫌な予感がするだけらしい。
そんなガナーの様子を見てモナーは考える。
もしこのガナーの症状が何かの前触れならば…
そう考えたモナーは必死に空を覗き込む、またあの闇が出ると思ったからだ。

(空を蔽う闇…また出るかも知れないモナ…)


「分かった…じゃあ変身すればいいのね」
そう言うとしぃはステッキを取り出し、天に向けて振り上げ叫ぶ…

「マジカルしぃちゃん変身!!」

だが、変身してからしぃはあることに気がつく。
「でも、ここで変身しちゃってどうするの?このままで移動するのはちょっと…」
「アンシン シロ! モクテキチヘ イッキニ ムカウ ワザヲ オシエテ ヤル!」
ジエンの言葉を聞きしぃは感心する。
「ヘー…そんな便利な技もあるんだ…」
「ソレト モウヒトツ オシエテオク! マジカル フラッシュハ ツカイヅライ カラネ! コレハ ツカイヤスク、 イリョクガ ヒクイカラ ヨクツカウ ワザダ! シッカリ オボエテ オケ!!」


(空を蔽う闇なんてちっとも出ないモナ…やっぱりガセネ……!!)
空を蔽う闇を探すモナーの視界に、ある重要なものが入る。
しかし彼が見たものは空を蔽う闇ではない、彼の運命を変える人物だった…

「天使…」

しぃがジエンから教わった新しい術。
それは、自分の背に魔力の翼を作り出す飛行魔法だ。
彼女がその魔法を使って目的地に向かう様子を、偶然モナーが目撃してしまったのだ。
彼は走行途中でありながら、車のドアを開け身を乗り出す。
「ネーノ、ちょっと野暮用ができたモナ…先にホテルに行ってほしい…」
そういうとモナーは車から飛び降りホテルとは逆方向に走っていった。
まるで何かに取り付かれたかのように…
「おいどうしたんだ! モナー! モナー!!」


「やあ、しぃちゃん。待っていたよ…」
しぃたちが向かった場所にいたのは、二日前にあったモララーだった。
相変わらずニヒルな笑いを浮かべて完全に浸っている。
「マタオマエカ!ナンドヤッテモムダダ!」
ジエンがそう言うと、彼は腕を振り上げ、前回と同じように一つの闇の穴を出現させる。
「ははっ、それはどうかな…俺は前回の戦いで君の弱点が分かっちゃったからな! 出でよ、うっほっほ!!」
闇の穴からは、二足方向で片目が完全に逝ってるような魔獣が現れる。
そして、うっほっほ!という声と共に猛スピードでしぃに突っ込んできた。
「は、早い…!」
敵の容赦ない攻撃に魔法を唱える隙ができず、こちらから攻撃を仕掛けることができない。
しぃはただ攻撃を回避することしかできなかった。
「どうだ! どうだ! おまえの弱点は魔法の発動の遅さだ!! このスピードにはついていけまい!!」
(クッ…どうすれば…)

その時だった…

どこからか飛んできた一発の銃弾が、魔獣を貫いた。
その銃弾は正確に魔獣の眉間を貫いており、人間だったら即死しているだろう。
だが魔獣は、致命傷を負ったものの完全にやられたわけではないようだ。
魔獣は再び走り出そうと、助走を付ける。
しかし、しぃから一瞬注意を逸らしたのが仇となった。
ジエンはその隙を見逃さずに、しぃに向かって叫ぶ。
「ナンダカシラナケド、イマダシィ!」
「う、うん…! 世界を照らす聖なる光よ…闇を滅ぼす糧となれ…」

「『マジカルフラッシュ』!!」


世界を狂わす恐ろしい力…
光よりも、闇よりも強大な力…
それは人の欲望…

 The one that is more frightening than beelzebubs...
 
    The one that is stronger than witches...


            It is human...


「やっと見つけた…」

魔獣が消えた後。
しぃ達が振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
真っ黒いスーツに、同じく黒い革靴の紳士的なイギリス人。
独特な細目から貧弱な優男に見えるのだが、手には銃とナイフがしっかりと握られていた。
ハァハァと息を切らす様子から、ここまで必死に走ってきたことを物語っている。
やがて彼はうつむきながら呟く。

「十年…いや十五年…ずっと探していたんだ…」

「何だおまえは…! 俺たちの戦いを邪魔するな!」
そうモララーが言うと、彼モナーはこう言い返した。
「邪魔をするな…」
「はあ? なにを言っている! 俺が邪魔するなと言っているんだ!」
モララーがそう言い放つと、モナーは細目を少し見開き彼にむかって言い返す。
「モナは、君達の邪魔をすることを邪魔するなと言ってるモナ…」
「なに!?」
「モナの邪魔をするなら…」

「殺すよ…?」

モナーは強気の言葉で巧みに挑発する。
だがモララーは、いつものポーカーフェイスでかるくあざ笑う。
「ハッハッハッ! 人間風情が何を言ってる! この俺を殺すだと!? 馬鹿なことを言うな、この俺は優秀な魔族…」

だが次の瞬間――

――モナーのはなった一発の銃弾がモララーの頬を掠める…

「魔族だか何だか知らないけどさ…」


「脳天ぶち抜いたら死ぬモナ?」


モナーがそういった瞬間、モララーはその場に崩れ落ちた。
「ば、馬鹿な…!? こ、この俺がビビッている…!? そんなはずが…」
モララーに続き、ジエンも力が抜けてその場に落ちる。
「ナ、 ナンナンダ!? アノ コウゲキハ…!」
モナーは、その様子を楽しんで見ていた。
自分の参戦で滅茶苦茶になったこの場を…
自分の力で他人が驚くさまを…
「軽率だったモナね、天使君、マント君。君達はこの世界の科学力と醜さを侮っていたようモナ」
「へぇ…おまえ何者だ…?」
警戒の眼差しで睨みつけるモララーにむかって、彼はペコリと頭を下げ丁寧に自己紹介をする。

「これは失礼、モナの名前はモナー・オマエム。このパーティー、是非ともモナも参加をお願いしたいモナ…」

「なるほど、だが次はそうはいかないぞモナー。今度は事前に計画にいれてきてやるならな!」
そう言うとモララーは闇の穴の中に消えていった。
その様子を見たモナーは残念そうに呟く。
「お帰りモナか…つまらないモナね…」

突然のモナーの参戦によって、何とかこの場をしのいだしぃ。
とりあえず恩人であるモナーにお礼を言うことにする。
「あの、モナーさんと言うんですか。危ないところを助けてくれてありがとうございます」
自分を助けてくれたのだから当然敵だとは思えない。
しぃは、彼が好意を持って自分を助けてくれたのだと思った。
だが次のモナーの一言は、しぃの予想とはまったく反していた。
「勘違いしないことモナ。別にモナは君を助けたわけじゃない」
「…へ?」
すると、さっきまでモララーの方を向いていた銃口は、今度はしぃを捉える。
そしてしぃに向かって問いただす、彼が最も聞きたかったことを…
「さて、話してもらうモナよ…さっきの力、一体なんだったのか…」
「なんで…そんなことを聞くの…?」
しぃには理解できなかった。
世界の平和のために戦う自分に、何故銃口が向けられたのか…
何故彼はそんなにも、この力に興味を示しているのかが…
だが、モナーにも色々と複雑な事情がある。
彼は目の色を変えてしぃに向かって言う。
「モナは君の力が欲しい! だからまずは情報が欲しいモナ…」
「じゃあ…なんでこの力が欲しいの…?」
今度はそう聞くと、モナーは少し考えて彼女に聞こえるように呟く。

「偽りの翼は天をも超え…作られた力は地をも崩す…」

「……?」
「分かりづらかったモナ? 神が住むと思われた雲の上には飛行機が飛び交い、神の加護を受けた大地は核兵器で破壊できるってわけモナ…」

「なにが…言いたいの…」
しぃがモナーを軽蔑の目で見つつ言い放つと、モナーはニヤリと笑みを浮かべ答える。
「つまりさ…」


「人知こそ神って事モナ…」


「人はね! 神の上に立つべき存在なんだよ!! 神の力も…! 魔法の力も…! 全部人の利用すべき物モナ!!」
「オマエ…! コノヨノ スベテヲ ジブンガ リヨウ スベキモノダト オモッテイルノカ! ナンテ ジブン カッテナ ヤツダ!!」
ジエンがそう反発すると、彼は目を見開いて強く言い返す。
その様子は、まるで先ほどとは別人のようだ。
「失礼モナね…! モナは人の心を代弁して喋ったまでモナ…! 人は誰でも欲望を持っているんだ…」


「モナは気付いたんだ!! いくら努力しても! いくら血を流しても! 特別な力は手に入らない!! それなら他から奪ってでも手に入れるモナ! 一人の人間としてすべての力を支配するんだ!!」


「そんなの…そんなの間違ってる!! 力で力を支配するなんて間違ってる!!」
しぃはそう強く言い放ち、ステッキを突き出して呪文を唱える。
「世界を照らす聖なる光よ…! 大空に舞う白翼となれ…!」

「『マジカルウィング』!!」

「じゃあその魔法の力は、なんのために作られたんだい? 答えは簡単だろ? 敵をねじ伏せるために作られたんだよ!!」
モナーはそう言って、空中に飛び立つしぃにむかって銃を多数発砲した。
だがしぃは華麗に空中を舞い、なんとかその銃弾をかわす。
「違う! この力は幸せを奪う力じゃない! 人に幸せを与える力よ!!」
そう言い返すと、今度はステッキをモナーに突き出し呪文を唱える。
「世界を照らす聖なる光よ…! 邪心を貫く閃光となれ…!」

「『マジカルショット』!!」

ジエンが彼女に教えたもう一つの技。
それはマジカルフラッシュより威力が低く、閃光のような速さで敵を討つ遠距離技だった。
これなら人にも攻撃でき、なおかつたいして致命傷にならない。
おまけに攻撃自体が早いので、敵に命中させるのはたやすいだろう。
だがモナーは軽々とした動きでしぃの攻撃を難なくかわしてしまう。
なぜ閃光のような速さの攻撃を回避できたのか…
「どんな速い攻撃でも、撃つ場所が分かっていたら意味は無いモナ!」
なんと彼は、自分にステッキを突き出したしぃの様子から、瞬時にどんな攻撃が出るのかを測定して先読みをしていたのだ。
さらに彼は、さきほどの魔法で隙のできたしぃにむかって瞬時に銃を連射し、飛行高度の低下をねらう。
「わっ…! わっ…!!」
銃弾には当たらなかったものの、モナーの計算どおりバランスを崩して飛行高度が下がってしまう。
その瞬間モナーは一気に間合いをつめ、低高度のしぃに向かって鋭い回し蹴りを繰り出す。
「くっ…」
しぃはモナーの容赦ない攻撃によって地面に叩きつけられて、その場に倒れこんでしまう。
そんな彼女に彼はゆっくりと近づき、やがて眉間に向かって銃口を突きつける。
「まったく、正直拍子抜けモナ…確かに魔法の力や身体能力は強力だけど、使い手の戦闘技術がど素人モナ。日本流で言う『宝の持ち腐れ』ってやつモナね」
実際ど素人なのでどうしよもない。
いきなり魔法のステッキを渡された彼女に、戦闘技術などあるはずがなかったのだ。
そんなモナーの怒涛の連続攻撃にしぃはほぼ無抵抗で追い詰められてしまい、なすすべがない。
(この人、すごく強い…魔法とかそんな問題じゃない、純粋に勝てない…)


「なあ、クックル…少しスピードの出しすぎじゃないか…?」
ガナーをホテルに送ったネーノは、クックル達と共にモナーを探していた。
だがクックルの運転の荒っぽさにビクビクしてそれどころではない。
そんな状態でもクックル本人は、まったく気にする様子もなく運転をする。
いつもと同じように上機嫌だ。
「……♪」
しかしネーノの不安は的中する。道路の真ん中に誰かが立っているのだ。
とっさにネーノは叫ぶ。

「クックル!! 前に誰かいる!! 止まれ!! 止まれー!!!」


「世界を照らす聖なる光よ…大空に舞う白翼となれ…『マジカルウィング』!!」
何とか立ち上がったしぃはもういちど魔法を発動し、再び空に逃れる。
だがモナーには完全に読まれていた。
銃は既に空のしぃを捕らえており、いつ発砲してもおかしくない状態だ。
「ヤメロ モナー! シィハ セカイヲ マモル ユイイツノ キボウ! セイギノ シシャ ナンダゾ!」
ジエンがそう叫ぶと、モナーは不気味な笑顔であざ笑う。
「なに言ってるモナ…」


「この世の中は灰色モナ…!! 白でもない…! 黒でもない…! 正義も悪もな……グガッ!!!」


ドフッ!! という生々しい音と、何者かの絶叫と共に黒い車は急停止する。
「おい、クックル…嘘だよな…おい!」
ネーノが動揺しつつ問いただすと、クックルは普段

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