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Nightmare city (tubarohu)

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匿名ユーザー

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第一話

俺をずっと見つめていた者、

それは南の十字架?

それは北の明かり?



俺は夜、おかしな夢を見た。俺の体がディフォルメした猫のような体になっている。
 そして同じような姿の人物に殺される夢だ。隣にいたもう一人も・・・。
・・・ん?
 おかしいな・・・。
 猫みたいなって、それが普通じゃないのか・・・?
 
 「ふわあわわわあぁぁぁぁぁぁ・・・・。」
 とある家の中で大きなあくびがこだまする。
 「ん・・・?もう朝か・・・。目覚ましかけといたはずなんだけどなぁ・・・・。」
 目覚ましを置いたと思った方を見ると、夜はセットされていたのであろう目覚まし時計が壁際でバラバラになっている様子が見えた。
 「まさか・・・、夢の中でうるさいサイタマ太陽をぶん殴ったと思ったが、これだったのか・・・?」
 どうやら彼はとてもバイオレンスな夢を見ていたようだ。目覚まし時計はアラームでアドレナリンを大量分泌させてしまったのだろう。
 「あ~~、こうなっちまったもんは仕方ねぇな。とりあえず起きるとするか・・・。」
 俺はギコ。この町、Nightmare cityの住人だ。

 俺はいつものように町の中心に位置する公園に向かう。フサギコ、通称フサ(いつも万引き、ただ食い、などの悪事を共にする一番の友だ)との待ち合わせの時間はもう一時間は回っている。
 「まだいるか・・・?」
 走っていって見ると、どうやら公園のイスに座ってケータイゲームをやっているフサを発見した。
 「お~い、遅れて済まん・・・!」
 俺の呼びかけに応じてフサは顔を上げた。その顔は怒りに引きゆがんでいる。
 「手前!!また遅刻か!!これで何回目だと思ってんだ!!」
 かなり切れている。まずいな・・・。
 「す、すまん。目覚まし時計をぶっ壊しちまって・・・。」
 「これで十回は目覚まし破壊しただろ!いい加減なんか工夫しろ!!」
 いいわけも通用せん・・・。流石に一時間も遅れたら誰だって怒るか・・・。
 「と、とりあえずはおまえの家行こうぜ。その予定だろ?」
 「ち、今回だけは許してやるか。」
 人情味のあるヤツだ・・・。流石は俺の親友だぜ・・・。

 「よし・・・。今度こそソニアタンの画像をゲット・・・・。」
 パソコンに向かう一人がニヤニヤしながら手早く操作している。
 「今日はこれで百回はその言葉をはいたぞ、兄者。そのサイトには本物無いんじゃないのか?」
 そんな声には耳を貸さず、兄者と呼ばれた者はプリンターで印刷を始める。
 ガガガガガガガガガガガガガガガ、という音と共にはき出された紙には意味不明な文字列が並んでいた。
 「よし、ブラクラGET・・・・。このサイトの悪事を全世界に伝えてくれる・・・。」
 「もう諦めろよ兄者。妹者からも言ってやってくれ。」
 「もういい加減にしなさいって。無理なもんは無理なんだから。」
 パソコンに向かっている人物は兄者。この家では一番電波を受信している問題児だ。それに付き添っているのは兄者に影響されて画像収集に興味を持ちだした弟者。兄者よりかは多少ましだ。そして二人からは離れて黙々と本を読んでいるのはこの家の者とは思えないほどまともな人物だ。
 「ん?もうこんな時間か・・・。明日になったら印刷用紙を五百枚購入して作戦続行だ。」
 「・・・・。」
 「そうだ、これをやらなければ一日は終われない。やるぞ、弟者。」
 「OK。」
 「流石だよな、俺ら。」
 二人の決めぜりふは同時に始まり、同時に終わった。世界広といえどもここまで息のあった兄妹は珍しいだろう。
 (何故私だけがまともになったのだろう・・・・。)
 それを聞いていた妹者は自分だけが取り残されたような感じがした。

 「いよいよ作戦決行の日がきたな・・・。」
 「いよいよ我々、AAが世界を征服する日が来たモナ。」
 「ふっふっふ、私が全部切り裂いてあげるよ・・・・。」
 「ハァハァハァハァ・・・・>>1タン・・・・ハァハァ。」(×3)
 
 「うぐあぁぁ!!!これで三十連敗カヨ!!」
 「ふ、俺に格ゲーで勝とうなんて三百四十五年はやいぜ!!」
 フサは格ゲーに関してはほとんど鬼才とも呼べるほどの才能を持っている。いくら頑張って俺は一撃すらも与えられないで負けてばかりだ。
 その時、外で大量の悲鳴が起こった。
 「な、なんだ?今の声・・・?」
 俺は連敗記録からなんとか逃れようと外を見てみる。だが、そんなふざけた感情は一瞬にしてこの世から消えて無くなった。
 「お、お、お、お、おい・・・。これは・・・・?」
 「どうした?なんか見つけ・・・、お、お、お、お、お、お、おい・・・。まじかよ・・・・?」
 俺に続いて外を見たフサの顔も一瞬で凍り付いた。
 俺たちから見えたのは外にまき散らされた赤い液体、そこに転がる切り刻まれた惨死体。そして、ひかりのムチを振るう八頭身・・・。
 「な、何だって言うんだよ・・・・。これはよ・・・・。」
 「とにかく、今解ってるのは外に出ると危険ってことか・・・?」
 「あぶねぇ!!ギコ!!」
 フサがそう言った瞬間、窓を破壊しながら一筋の光のムチが部屋に飛び込んできた。その瞬間、俺とフサの脳内で何かがプツン、と音を立てて切れた。
 「ここにいたって全然安全じゃねぇぞゴルァ!!」
 「こうなったら外に出て逃げるぞ!!」
 「よっしゃあ!!」
 勢いよく階段を駆け下りると扉の前で足を止める。
 「行くぞ、せぇ~の!!」
 ドバン!!扉を蹴り破らんばかりの勢いで開け放ち、二人揃って商店街の方へ駆け出す。それを追って光のムチが打ち据えにかかる。
 「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 悲鳴を上げながら右往左往してムチをかわし、商店街の方へと休む間もなく俺たちは突っ走る。八頭身が異様に怖かった。
 「ゼェハァゼェハァ・・・・。ここが武器屋か・・・。」
 「ゲホ!ゴホ!!よし・・・、適当な武器をパクッていくか・・・。」
 俺たちは手当たり次第に武器をあさり、もてるだけの武器を肩に腰に腕に担ぐと入り口を狙いながらしばし休憩を取った。これ以上恐慌に駆られながら走ったら体が持たん・・・。奪った武装はMP40二丁、パンツァーファウスト二丁、手榴弾六つ、ツヴァイハンダー一本(フサだけ)、デザートイーグル三丁(ギコ二丁フサ一丁)、ウージー二丁だ。
 「よし・・・、そろそろ行くか・・・。」
 「そろそろ息も整ってきたしな・・・。」

 「時に兄者。世間は今大混乱のようなのだが、こんな時でも画像収集か?」
 「あぁ。今とんでもなくもっともらしいサイトを見つけたのだ・・・・。後三十秒待ってくれ・・・。」
 「流石だな、兄者・・・。」
 兄者のそのセリフに弟者は感心しながらそれを上回る気持ちで呆れた。
 「・・・・よっし。ブラクラゲット・・・・。」
 「ならば速く逃げるに越したことはないぞ、兄者。」
 「まぁ、焦るな弟者。二階に行くぞ。妹者はもう行ってるはずだ。」
 「?」
 「お~い、溺れだ。開けてくれ。」
 兄者が上に向かって言うと、天井が開き、階段が降りてきた。
 「い、いつのまに屋根裏部屋なんかを・・・。」
 「ふっふっふ。こんな緊急事態のため・・・・」
 「母者に隠れて画像収集するためでしょ。」
 得意げな兄者の言葉を遮って妹者が真実を告げる。
 「・・・・。」
 「ま、まぁ良いではないか。こうして役に立ってるんだから。」
 そう言うと兄者は階段を上っていった。弟者もため息を一つ付いてから上に上っていった。

 「どけぇい、変態!!」
 気合いと共にはなったパンツァーファウストは見事に八頭身一人を吹き飛ばした。
 「大丈夫か!?おにぎり、>>1!?」
 「か、か、か、神様・・・・仏様・・・・キリスト・・・マリアさま・・・・!!罪深き我らをお救い下され・・・!!!」
 「×○△□゜※←仝〓¨&⇔!!!!!!!!!???????????」
 「しっかりしろ!!」
 >>1とは八頭身から追いかけられる不幸な人物だ。その恐怖に耐えきれず、今は精神崩壊をおこし欠けている。おにぎりはどうやら巻き添えを食っていたらしい。神頼みを始めていた。
 「いやはや・・・、むちゃくちゃだぜまったく・・・。」
 弾が無くなったパンツァーファウストを地面に投げ捨てながらフサが言う。
 「早く行かないと復活してくるぞ!!この際だからそこに止めてあるトラック奪っていこうぜ!!」
 みんな焦っているが俺も焦っている。なりふり構ってなどいられん。
 「持ち主はもうこの世にはいないだろうからな・・・、よし!行くぞ!!」
 俺は真っ先に運転席に飛び込むとトラックの荷台に武器を投げ込み、刺さりっぱなしのキーを回してエンジンを起動させる。鍵を忘れてってくれた持ち主には感謝しとかないとな・・・。
 「全員乗ったか!?」
 「OKだ!!」
 「よし!行くぞゴルァ!!」
 アクセルを思いっきり踏み込んでトラックを走らせる。すると・・・。
 「>>1さ~ん!!」
 厭な声だ・・・・。とんでもない予感がする・・・・。バックミラーに映っているのは・・・・。
 「八頭身!!!??」
 「・・・・・・・!!!」
 「×○△□゜※←仝〓¨&⇔∟㍼!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 「だあぁ~!!静かにしてろ!!」
 フサは叫ぶが絶望的状況なのは見れば解る。だいたい百km以上出してんのにどうして追いついてこられるんだよ!!!
 「フサ!!持ってきたMP40で迎撃しろ!!構わん、撃て!!」
 「よっしゃあ!!」
 トラックの荷台からガギャギャギャギャギャギャギャギャ!!とMP40特有の激しい銃撃音が轟く。流石にこの状況ならば交わせまい・・・。
 「>>1さんをよこせ~~!!」
 ・・・・・。絶望を見たとはこのことだ。ヤツは銃撃を全部かわしてまだ追ってくる・・・・!!!
 「えええええええい!!!パンツァーファウストつかっちまっていいか!?」
 フサはどうやら恐怖に負けてぶちぎれたらしい・・・・。
 「構わん!!撃て!!何でも使え!!!」
 俺の中でも何かが音を立てて切れた。その時の表情は今までで一番醜かったことだろう・・・。
 ズッドォォォォ!!一拍置いて、トラックの後部からすさまじい衝撃が伝わってくる。本気で使うとはなぁ・・・。どうやら今度こそ振り切ったようだ・・・・・。
 「はぁ、どうやらやったらしいな・・・。」
 「おにぎりと>>1は大丈夫なのか?」
 「あぁ、何とかな・・・。」
 もう百kmなんて出さなくても良いか・・・。安全運転安全運転・・・・。

 「時に兄者。安全なところに来たと思ったらまたそれか。」
 「話なら待ってろ。もうちょっとで・・・。」
 ガガガガガガガガガガガガガガガガが。
 「よし、ブラクラGET・・・。」
 「一体いつまでやる気だ、兄者・・・。紙が買いに行けないからって新聞紙に印刷は無いだろう。」
 「いいや、暇があるときは絶対にやらねば。」
 「本当に妹者を見習え、兄者・・・。」
 一体いつまで画像収集にこだわるつもりなのか・・・。兄者はいっこうに止める気配を見せない。
 「妹者、何か変わったことは?」
 「今のところ無いようね・・・。ん?」
 「どうしたのだ、妹者よ?」
 今までパソコンに向かっていた兄者が会話にくわわる。
 「何か、トラックが一台こちらに向かっているようね。」
 「トラックか・・・。AAの可能性もあるからな・・・全員武器を持つぞ。」
 「了解だ、兄者。」
 「OK。」
 すると、聞き覚えのある声が外から聞こえてきた。
 「お~い!兄者、弟者、妹者!いるのかいないのか~!?」
 「この声って・・・。」
 「あぁ、間違いない。」
 「ギコだ。」
 「誰かいないか~~!?」
 「フサね。」
 「どうやら生きてたみたいだな。」
 「よかったよかった。」
 
 「お~い。」
 「いないみたいだな・・・。」
 「とりあえず入ってみるか。」
 ちょっと強引だが仕方ないか・・・。
 「あぁ~~!偉大なるアラーの神よ~~~!罪深き私をすくいたもう~~~~!!」
 「×○△□゜※←仝〓¨&⇔∟㍼☆‐*♭!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 まだ狂ってやがる・・・。
 「いい加減に黙れぇ!!!!!!!」
 ドカ!!バキ!!
 オィオィ・・・・。切れたにしてもやりすぎだろ・・・。
 目の前ではおにぎりと>>1が目を回している。
 「さて・・・、それじゃあ入るとするか・・・・。」
 がちゃがちゃ。
 「鍵かかってるみたいだな。」
 「どうする?銃でぶち壊して入っちまうか?」
 『そんなことしなくても鍵なら開けてやる。』
 聞こえてきたのは兄者の声だな。無事だったか。
 「なんだ、いたんなら返事しろよ。」
 『すまんな、とりあえずはみんな屋根裏の隠し部屋にいるからそこに来るがいい』
 がちゃん。鍵が開いたみたいだな。
 
 「屋根裏に隠し部屋・・・。いったいいつの間にこんなもん作ったんだ・・・?」
 「ふ、流石家を舐めるなよ。あちこちに非常用の隠し通路がある。」
 「それは全て母者から逃げ切るための物だろう、兄者。」
 「こ、こら!軽々しく本当のことを漏らすな、弟者!」
 「何にせよ、こうして役に立ってるんだから良いでしょ。」
 それにしても一体何なんだこの家は・・・。とはいえほんとにいつの間にこんなもん作ったんだ・・・。
 「おにぎりと1が生きてたんだからそこまで悲観することないだろ、絶対誰かいると思う。」
 今のセリフは半分以上自分に向かっていった言葉だ。俺たちの前を見てみるとやはり切り刻まれたような惨死体が大量に転がっている。
 「とりあえずスーパーから食料でも失敬していくとするか・・・。」
 そう言うとフサはすたすたとスーパーの中に入っていき、手当たり次第に封を切ればすぐ食べられるタイプの食料品を万引きしだした。
 「さて、中には誰もいないみたいだし・・・。裏道にでも入っていくとするか?」
 「そうするか。」
 裏道・・・。確かに隠れてるとすればそんな可能性もあるか。そして、フサの勘は当たっていることがすぐに証明された。
 「おい、あれって生き残りじゃないのか?」
 「ん?」
 見ると、目の前には膝を抱えて座り込んでいる少女の姿が見える。
 「お~い。君は生き残りなのか?」
 フサが声をかけると一回、軽く頷いた。
 「だったら俺たちと一緒に行こう。他の生き残りも集まってるから。」
 そう言って俺が手をさしのべるとどうやら立ち上がり、俺たちの後に付いてくる意思を見せた。
 「じゃあ、あそこに止めてあるトラックを勝手に失敬して行くとするか。」
 「よし。」
 そのトラックとはスーパーの駐車場に止めてある物だ。持ち主はこの世の人ではないだろうから、問題はないだろう。運良く、今回も鍵は入ったままだったので普通に使うことが出来た。
 「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はギコ、こいつはフサだ。君は?」
 「私はしぃ・・・。」
 「そうか、よろしくな。」
 
 「どうだった?誰か見つかったか?」
 帰るとすでに戻っていた兄者が声をかけてきた。
 「早いな・・・こっちは一人発見したぞ。」
 「こっちでは二人引きこもりを発見したんだが・・・。どうやらついてきてくれる気はなさそうだ。」
 「そうか・・・。」
 「で、一人発見したって言うのはそこの彼女かい?」
 ちゃかしたような声で兄者が言ってくる。誰の彼女だよ!!
 「しぃです。よろしく。」
 「よろしく、ようこそ流石家へ。」
 「兄者、どうやら他の連中とも交信が出来たぞ。どうやらレモナ達の所に色々集まってるみたいだ。ちなみにあいつらもいるぞ。」
 おお!やはりへぼい兄者と違ってしっかりしてるな。
 「おお!ようやく動く気になったのか。良かった良かった。」
 「う、う~ん・・・。」
 「何か起きたら頭がとっても痛いんだけど・・・。」
 ん?おにぎりと>>1か。どうやら目を覚ましたみたいだな。
 「フサ・・・。」
 俺は笑いながらフサの方をみた。
 「な、何だよ!?」
 「何でもねぇよ。」
 「とりあえず、明日に備えて今日はもう休むとしよう。」
 兄者は切り出すと屋根裏に置いてある布団に横になった。
 「そういや疲れたなぁ。」
 「じゃあ寝るとするか。」
 今まで気づかなかったのが不思議なくらい俺は疲れがたまっていた。そのせいで横になるのと同時に意識が遠のいていった。

 皆が寝静まった頃。
 「なぁ、兄者・・・。」
 「どうした弟よ。」
 「一体どうなってるんだろうな、この世界・・・。」
 「さぁな、しかし解っているのは・・・。母者の最強ぶりに激しく納得がいったと言うことだな。」
 (よくもまぁ、ここまで楽観的になれるもんだなぁ・・・。)
 弟者は呆れると同時に何にも動じない兄者が少し羨ましくなった。
 「まぁ、後解ったことはだな・・・、この町の境界線を越えれば俺たちは真実を知ることになる・・・という事だろうな。」
 その時ばかりは兄者も真剣な顔で応じた。
 「そういえば、管理人から来たメール・・・、皆には黙っておくの?」
 いきなり妹者が加わる。
 「あぁ、その方が良いだろう・・・。これを知ってるのは俺たちだけで充分だろうからな。」
 「それを知ってもこんな事をやっている俺たちはどうなんだろうな。」
 「母者がいつも言ってるだろう。絶望するのは、全ての真実をこの目で見て知ってからだってな。そしてその時の苦しみは最後の最後まで自分で扱えとも言ってただろ。」
 「そうだったな・・・。」
 「ええ。だから私たちはこんな事をやってるんでしょ。」
 兄者の顔は今まで見た中で一番兄らしく見えていたことだろう。
 
 次の日の朝。
 「全員起きたか?」
 「・・・・いや、まだギコが来てないみたいだ。」
 「ったく・・・。起こしに行くとするか・・・。」
 その頃、俺は変な夢にうなされて唸っていた。
 ここは何処だ・・・?
 カプセルの中・・・?
 手足がおかしい・・・。
 何か扱いずらい・・・。
 『・・・・そろ・・・・・・すね。』
 『・・・・・む。』
 一体何の話をしているんだ・・・?
 もう少し・・・、もう少しで思い出せるんだが・・・・。
 『ギコ!!ギコ!!』
 ん・・・?
 「おい!!起きろってば!!」
 バシィィィィィ!!グハァ!!
 「な、何しやがんだゴルァ・・・。」
 目の前にいるのはフサ、よくわからないが目を開けた途端ビンタされた・・・・。
 「何しやがんだじゃねぇよ、みんな集まってんだからとっとと下に来い。」
 「なんでこんな朝早くに・・・。」
 「作戦の打ち合わせだ!とにかくみんな待ってんだから早く来い!!」
 そうだった・・・。ここからの脱出作戦は今日がスタートだったな。

 「脱出作戦の概要は、まず俺たちは正面から橋を通って外に出る。ギコ、フサ、しぃは地下鉄を使え。地下鉄は情報によると町の外へ続いているようだから悪くとも何処かの町に着くだろう。そして>>1とおにぎりは外に置いてあるトラックに詰めるだけ燃料を積んでそれで脱出を計ってくれ。」
 「了解。」
 「りょ~かい。」
 「解りました。」
 「は、はい~。」
 「大丈夫かな・・・。」
 「作戦決行は今から三十分後だ。各員、絶対に生きて再開できることを誓おう!!」
 よし、後は脱出するだけだ。
 しかし、俺は何故かこのとき、兄者達が何故地上を行くのかと言うことに思い至ることはなかった。

 ここに、AA VS 人の壮絶な脱出戦が開始された。

 「兄者、いろいろの準備は終わったぞ。」
 「こっちも銃の調達は終わったわ。」
 「よし、早速出発するぞ。」
 三台のバイクがエンジン音を轟かせ、発進する。
 「使う銃はコルトか・・・・。ありきたりだが使いやすいヤツだな。」
 「弾薬はとりあえずカートリッジ六つを確保したぞ。」
 「これでなんとかするしかないでしょうね。」
 「そう言えば兄者、正面から行こうなんて言い出したのは何故だ?狙われるんじゃないのか。」
 兄者はにやりとして答える。
 「こっちが狙われればギコ達の方に行く敵の数が減って逃げやすくなるだろう。そして逃げ切るのはどちらか一組で良いんだからこれが一番確率が高いだろ?」
 「要するに囮って事ね。」
 「なるほどな・・・。それだったら納得だ。流石だな、兄者。」
 「ふっ・・・。」
 その時、妹者が銃の安全装置を解除する音が聞こえた。
 「どうした、妹者よ?」
 「どうやらお出ましのようね。」
 言いながら後ろに向かって二発発射する。
 「あれは・・・、厄介な事にAAのつーだ。送られてきた情報によると奴らの中では一番素早いぞ!」
 「どうするんだ、兄者!」
 叫びながら弟者も後ろに向けて銃を二連射する。
 「あわてるな、溺れに考えがある!二人はここから右に曲がって正面のビルの四階に行け!通信機は持ったな!?」
 「了解だ、兄者!」
 「ちゃんとやってね!」
 そう言うと弟者と妹者は交差点を曲がってその先のビルに向かった。
 「さぁて・・・、こっちを追ってきてくれよ・・・!!」
 百km以上を出しているバイクに走ってついてくる後方の敵を見ながら、兄者は呟いた。

 「流石達は大丈夫かな・・・。」
 「あいつらのことだ、何とかするだろ。」
 俺たちは地下鉄のステーションを走る。中には人の気配はなく、むっとするような血のにおいと大量の死体が転がっていた。
 「しぃ、休まなくても大丈夫なのか?」
 「ええ、私は大丈夫。」
 なぬ!?俺ですら息切れ気味だというのに全く息を乱してないだと!?凄い体力だな・・・。
 「まぁ何にせよもう少しで地下鉄まで着くはずだ。そこまで頑張るぞ。」
 そう言うフサも少し息切れ気味だ。やっぱり凄い体力なんだなぁ・・・。
 三分ほど走るとどうやら地下鉄が見えてきた。そしてその前に立ちつくす白い人影も・・・。
 「あ、あれは・・・。」
 「AAか・・・。」
 「・・・!!」
 一瞬、しぃが驚愕の表情を浮かべたが、緊張した俺たちはそれを見ていなかった。
 「ここまで来るとは・・・。八頭身は三人も居たくせに何やってるモナ・・・。」
 不意に白い人影が口を開く。
 「あいつはモナーか。厄介なヤツが来たな・・・。」
 そいつは間違いなく兄者に見せて貰ったAAの中の一人、モナーだ。AAのなかでは一番バランスのとれた戦闘能力を持っているらしい。
 「どうする、蹴散らしていくか?」
 俺はデザートイーグルを両手に構え、言った。フサもツヴァイハンダーを手に持ち、MP40を肩に下げている。
 「いや・・・、ここは俺が食い止める。おまえらは先に行け。」
 「何だと!!?」
 馬鹿な!いくらフサといえども相手はAAだ。勝てる見込みはかなり低いはずだ!
 「馬鹿言うな!!おまえ死ぬ気じゃないだろうな!?」
 「馬鹿はおまえだ!!全員生きて帰る約束だろうが!!」
 俺の勢いを遙かに上回る勢いでフサが反論してくる。
 「大丈夫だ。一人ぐらいなら俺だってやれるはずだ!だから行け!!」
 「・・・・。」
 「ギコくん、そうしましょう。今何を言っても、フサくんを止めることは出来ないと思うわ。」
 「・・・解ったよ。」
 しぃにまでそう説得され、俺は引き下がるしかなかった。
 「必ず勝てよ!!そして生き残れよ!!」
 言い放ちざま、俺はしぃの手を取ると全速力で元来た道とは違う出口を走っていった。フサの馬鹿野郎・・・。一人でカッコつけやがって!!
 「仲間を逃がしたかモナ・・・。そんなことをしても無駄モナ。」
 「それはどうかな・・・?丸腰のおまえが俺に勝てるとでも思うのか?」
 言うと、フサはツヴァイハンダーを右手に、MP40を左手に構えて不敵に笑う。
 「あぁ。手抜きしててゴメンモナ。その辺は大丈夫モナ。」
 「!?」
 いきなりモナーの手が、緑色に発光するした。すると何も持っていなかったはずのモナーの手にはカヌーのパドルのような形をした緑色に光る剣が持たれていた。棒の両端の部分が刃物になっているようだ。
 「ち、丸腰じゃあ無いみたいだな・・・。」
 そう言うとフサは左手に持ったMP40のトリガーを引いた。発射された銃弾は全てモナーを襲う。そして打ち崩されたコンクリートにより、モナーのいた場所には噴煙が立ちこめる。全弾撃ち込んだため、MP40は使い物にならなくなった。しかしあの中を生き抜くことなど出来まい・・・。
 「何処に撃ってるモナ?」
 「なぬ!?」
 しかしそこには無傷でモナーが立っていた。馬鹿な!!
 「じゃあ次はこっちから行くモナ!」
 言いざま、モナーは信じられないようなスピードで間合いを詰めてきた。振り下ろされる剣を何とかツヴァイハンダーで受け止める。
 「く、一筋縄じゃ行かないって事か!!」

 「>>1さあぁぁぁ~~ん!!」
 「お、お、お、おにぎり君!!もっとスピード出してよ~!!」
 「もうこれ以上は出ないよ~~!!!」
 夜の町をすさまじいスピードで走り抜けるトラック・・・そしてその後ろには光るプロペラと光るタイヤで追ってくる八頭身二人が猛スピードで走るトラックに追いすがっている。
 ビッシィー!!
 トラックの頭上から光の鞭が振り下ろされてくる。当たった部分は三cm程も凹んでいる。
 「逃がさないよ~~!!」
 横手のビルの上では光の鞭を持った八頭身が疾走している。百五十kmを出しているトラックに走って追いついてくる。
 「あ“あ”あ“あ”あ“あ”!!!!!もうガソリンの残りがないよ~!!!!!」
 驚愕の極み、そんな表情を浮かべながら>>1は運転席のおにぎりをすがるように見つめる。
 「後走れて三十分くらいしかないよ!!!!どうしよう>>1さん~!!!!」
 それを聞いたおにぎりも同じ表情で>>1を振り返る。
 「トラックがダメなら走ろう!!!!地の果てまで!!!!!」
 「ああ!!!!!二人一緒なら何でも出来る!!!!!頑張ろう!!!!!」
 何も出来ないと悟った二人は頭の中の回路が全て直列つなぎにった。要するに切れたのである。
 夜の町をなおもトラックと三人は疾走する。

 「ほらほらぁ、早く捕まって楽になりなよ~。」
 シュ!ガヒィン!
 「うっわ!?くそ、あっちには飛び道具があるってのかよ!!」
 ちらりと後ろを振り返るとつーの手から赤紫色に光る光の包丁が握られていた。
 「弟者―!!妹者―!!!準備はまだか~~!!!!」
 つーから逃げ回る兄者はトランシーバーに向けて悲鳴を上げる。
 『すまん兄者、入ったビルは階段がぶっ壊れてて上れなくなってたんだ!上に上るまではまだ何分かかるか解らん!!』
 その報告は兄者を絶望させるに十分な効果だった。
 「なにぃ~~!!!??こっちはもう殺されそうなんだぞ!!!」
 『とにかく頑張ってくれ兄者!頼りにしてるぞ!!』
 「よそ見してる暇があるのかぃ?」
 再びつーの手から包丁が投げられる。今度は五本いっぺんに来た。
 「うおをををををぉぉぉぉぉ!!!!」
 兄者は器用にハンドルを操って右に左にそれを避ける。
 「くっそ・・・・こんな事になるんなら弟者でも行かせれば良かった・・・!!」
 生きて帰ったら絶対にぶっ殺してやる、と心の中で誓うと兄者はさらにスピードを上げる。
 「そのためにも、何としてでも生き残らないとな!!!!」
 超高速、極限状態。兄者は満身創痍で夕焼けの町を疾走する。
 
 ガィン!!ガキン!!
 狭い地下鉄の線路の上に鋼のこすれる音がこだまする。
 「もういい加減諦めたらどうモナ?」
 いいながらモナーは緑色に輝く光の剣を振り下ろしてくる。
 「誰が!!」
 その攻撃をフサは剣の返しの部分で受け止める。しかしその直後、もう一方についた刃が下から跳ね上がってくる。とても跳ね返せるタイミングではない。
 ちっ、と小さく舌打ちすると後ろへと飛び下がって何とか攻撃をかわす。
 「そんな武器じゃ僕には勝てないモナ。」
 「くっ・・・!」
 フサは強がっているがやはりモナーの方が有利だというのは否めない。しかもAAはデータなので疲労がたまるということもなく、すさまじい勢いで二撃三撃と繰り出してくる。
 (こっちがいくら力を込めてもあいつは全部こっちに流してきやがる・・・。どうする・・・?)
 そう考える間もモナーはするどい斬撃を繰り出してくる。しかも下手に受け止めると受け止めた所を支点にして逆方向から瞬時に攻撃を繰り出してくるため、受け止められる攻撃もかわすしかない。しかし、それを見ていたフサに一つアイディアが浮かんだ。
 (そうだ!!正面からの攻撃ならあいつは勢いを受け流すことは出来ないはず!!)
 「せぇいやあぁ!!!」
 フサは考えた直後瞬時に距離を置く。そして雄叫びと共に十分な間合いから全体重を乗せた面をお見舞いする。
 「くぅ・・・。中々するどいモナ。」
 その攻撃を受け止めたモナーは勢いに負けて片膝をつく。
 「そこだ!!」
 フサはたたみかけるように再び剣を振り下ろす。
 「舐めるなモナ!!」
 しかしモナーは体を横に滑らせつつ前に踏み出す。
 「なに!?」
 フサの振り下ろした剣はモナーの剣の右端の刃を直撃する。そしてその勢いは全て逆の刃に込められ、フサに叩きつけられた。
 その時刃が縦になっていたので致命傷には至らなかったがフサは剣をはじかれ、地下鉄の上を最後尾まではじき飛ばされた。
 「くそっ!」
 落ちる寸前に何とか左手で客車の端に捕まって落ちるのだけは防ぐことが出来た。
 「さて、どうしてくれようかモナ・・・。」
 いつの間に来たのか自分の頭上にはモナーが立っていた。
 「ただ殺すっていうのもつまらないモナね・・・。」
 「く・・・・。」
 悔しいがこの状況ではあがこうにもどうすることも出来ない。
 (ここで終わりだってのかよ・・・。これじゃギコとの約束を破っちまうじゃねぇかよ・・・。)
 「!?」
 フサが心の何処かで諦め欠けたとき、フサの周りで動いていた物の動きが止まった。モナーも、地下鉄も、風も止まっていた。時が止まっている・・・?
 『行け、たとえ困難に直面しても戦え、自分が信じる物のために情熱も喜びも悲しみも、痛みも涙もすべて君の生きる糧になるから、たとえ弱気な自分に負けそうになっても、戦え、自分が信じる者のために。』
 「な、何だ!?誰だ!?」
 『諦めるのか・・・?』
 「諦めたいもんか!!俺には約束があるんだ!!」
 『ならば運命に抗え、そして戦え。』
 「それだけの力が俺にはまだあるのか・・・?」
 『心・・・。それが力だ。信じる者を想う心、それがおまえの力だ。』
 それが聞こえた瞬間、止まっていた時は再び動き出した。
 しかし、前と違い、フサはぶら下がっているのではなく客車の上に立っていた。そしてその手には水色に輝く長剣が握られていた。
 「そ、その武器は何モナ!?」
 モナーの声には少なくない動揺が混じっている。モナーからしてみればターゲットを追いつめたと思ったらそいつは自分の真後ろに見慣れない武器を持って立っているのである。あり得ない・・・。こんな声が聞こえてきそうだった。
 (体に力がみなぎってくる・・・?これが力か・・・。)
 そして、フサは不敵な笑みを浮かべて言い放った。
 「さぁて、第二ラウンドと行こうぜ!!」

 「後一分くらいで走れなくなるよ~~!!!!!」
 「あわわわわ~~・・・どうしよう・・・・????」
 「こ、こ、こ、こ・う・な・った・ら・・・・。最終手段を使おうか・・・?」
 「ま、ま、ま、ま、ま・さ・か・・・・?」
 「バックだ!!!!!!!!!」
 叫ぶやいなや、おにぎりはギアを瞬時に切り替え、思いっきりバックした。トラックと同じく百km以上の速度を出していた八頭身はその急激な減速に対応することが出来なかった。
 「な!?」
 「あわ!?」
 グシャア!!!その行為により飛んでいた方の八頭身はトラックの荷台に猛スピードで衝突してはじき飛ばされ、地面を這っていた八頭身は顔面から背中までを思いっきりトラックに踏みつけられる結果となった。
 「や、や、や、やったよ!!おにぎり君!!!!!」
 「や、や、や、やっちゃったよ!!>>1さん!!!!!」
 「まだ僕がいるよぉ~~!!」
 勝利を確信してトラックの運転席で抱き合う二人の耳にこの世で最も恐ろしい声が再び聞こえてきた。そして衝撃と共にトラックの運転席の上部がまた凹んだ。
 「そ、そ、そ、そういえば八頭身って三人居たような・・・?」
 「ま、ま、ま、まさか・・・・。」
 二人の顔が恐怖と驚愕と絶望に凍り付く。
 「>>1さぁ~ん!!」
 「みぎゃああああーーーーー!!!!!!!!!!」
 「逃げるんだ>>1さんーーーーー!!!!!!!!」
 全員の叫びが交錯した直後、おにぎりと>>1はトラックを飛び出し手近なビルの中に飛び込んでいった。それを追って八頭身一名も躍り込む。まだこの鬼ごっこは終わる気配を見せなかった。
 
 「この橋は外まで続いてるんじゃないのか?」
 「そう・・・みたいね・・・。」
 俺の目の前には先が見えないほどの長さの橋が蒼い海の上に架けられている。明らかにこの町を取り囲む物よりも向こうまで続いているように見える。
 「さて、早くこの橋を渡って助けを求めよう!!」
 そうだ!あそこに残ったフサのためにも早く流石の母者が行くという町に行って助けを求めないと・・・。
 そのまま半分くらいまでは何事もないまま順調に進んだ。しかし、真ん中のゲートらしき物をくぐったところで上から不敵な声が降ってきた。
 「俺が居るところを通るとは、おまえらも不運なことだな。」
 な!?
 ドガァ!!
 上から降ってきた何者かが振り下ろした剣戟で俺の目の前が粉塵で埋まる。くそ、確かについてないな!!!
 「おまえはAAか!?」
 心の中で自分の不運に毒づきながら目の前の敵に向かう。
 「ふ、その通りだ。俺の名はモララー。AAを束ねるリーダーだ。」
 目の前のモララーと名乗ったヤツは不敵な笑みを崩さぬまま俺の言葉に応える。
 その時、しぃが悲鳴を上げそうなほど動揺していたのだが目の前の敵に集中していた俺は気づかなかった。
 「ならぶっ殺しても殺人罪には問われないよな!!」
 言い放ちざま、手に持っていたデザートイーグルを交互に連射する。このタイミングならやれるはずだ!!
 しかしモララーは手に持った赤く輝く光の大剣(形はブレイドと言ったところか?)でことごとく銃弾をはじき返す。馬鹿な!?
 「そんなおもちゃが俺に効くと思うのか?」
 そう聞こえたかと思うと俺の腹にヤツの足がめり込んでいた。
 「っぐぅ!?」
 「ギコ君!大丈夫!?」
 「くっそう!!」
 思わず俺は後ろにはじき飛ばされる。そして標識にぶつかってそれをへし折ってしまった。迷わず俺はその標識を手に取り、前に突き出した。
 それと同時にモララーの剣が標識に激突する。
 「おっと、惜しかったな。中々やるな。」
 「何を!!」
 そのまま俺とモララーは切り結びながら移動する。
 その際、しぃの目の前を通過しながらゲートの上まで移動していく。
 「これで終わりだ・・・!」
 モララーの声が聞こえた瞬間、体中に激痛が走る。俺は体中を切り刻まれていた。
 「!?」
 「ギコ君!!」
 しぃの叫びが聞こえたような気がしたが、俺はそのまま海の中に落ちた。
 くっそう・・・。ここまでなのかよ・・・・。俺にはまだやらなくちゃいけないことがたくさんあるのに・・・。
 『行け、たとえ弱気な自分に負けそうになっても戦え、自分が信じる者のために。』
 な、なんだ・・・この声は・・・?
 『我は運命。このまま諦めるのなら我に従え。さもなくば抗え。このまま諦めるのか?』
 ふざけるな!!俺はまだまだやりたいこともやらなくちゃいかんこともたくさんあるんだ!!
 『ならば我に抗い、戦え。』
 俺はまだ、出来るだけの力が残ってるのか・・・?
 『信じたことを貫く心、それが汝の力だ。それを使いし時、我は希望の扉を開こう。』
 俺は・・・・!!!!
 その時、俺は何かの力に押し上げられ、海上に向かって飛び出していった。
 「さて、次はおまえだ。裏切り者め。」
 座り込むしぃを見ながらモララーは不敵な笑みを浮かべる。
 「死ね。」
 剣が振り上げられた時、しぃの後ろの海面が上に向かってはじけ飛ぶ。それと同時に叫び声が聞こえた。
 「まてぇ!!!」
 モララーが上を見上げる。そこには、俺が居た。その時俺は右手に水色に輝く、光の剣を持っていた。
 「貴様!?」
 「おまえの相手は俺のはずだろ!!」
 言いざま、落ちる勢いとともに剣を振り下ろす。
 ガギィン!!という音と共に激しく剣が咬み合う。
 「く、貴様は俺が殺したはずだ!?」
 「そう簡単に死んでたまるか!!」
 さらに地面に接地するのと同時に横に剣を振り払う。受け止められた後に放たれた一撃をバク転でかわす。
 「死んだのならちゃんと死んでいろ!!!」
 「冗談だろう!!!」
 同時に剣弾を放って距離を置くと、俺もヤツも走りながら同時に剣を薙ぎ払う。鋼の咬み合うが音がしなかったのはどちらかが、あるいはどちらもが斬撃を受けたということだ。
 「ば、馬鹿な・・・・!!??」
 モララーが膝を折った。俺は無事だったようだ。
 「やった・・・の・・・?」
 しぃが驚いた顔でモララーとギコを見比べた。
 「よし、でもあいつはAAだから復活するはずだ。早くここから離れよう!!」
 「ええ。」
 前に俺が聞いた時よりも明るく、かつ素早く答えは返ってきた。なんかあったのか・・・?
 「さて、もう少しだ・・・!!」

 『兄者!!準備が終わったぞ!!生きて戻ってきてくれ!!』
 兄者の耳に勝利の女神と天使様の声が同時に話しかけてきた。
 「よっしゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
 兄者はドリフトしつつUターンを決行すると元来た道を可能な限りの速度で引き返す。
 「?」
 兄者の奇声を不信に思いながらもつーは後を追っていく。あたりはもうすでに暗くなり始めていた。
 「よし、後はここの角を曲がって・・・!!!」
 左に向かって思いっきりハンドルを切ってドリフトすると、エンジンの出力をさらに上げる。
 「往生際がわるぃねぇ・・・。本当にそろそろ飽きてきたし、終わらせようかねぇ?」
 つーの不敵な声を後ろに聞きながら兄者は前方に止まっている車のフロントガラスをにらみつける。
 「うまくいってくれよ・・・!!これに失敗したら後ろのヤツにやられる前にとんでもないことになっちまう・・・!!!」
 兄者は限界ギリギリのエンジンをさらに酷使する。そして前輪を浮かせて車のボンネットを越え、フロントガラスをジャンプ台に前方のビルの四階へと一直線に飛び込んだ。
 その様子を双眼鏡で見ていた弟者は戦闘準備を整えている妹者に向かって叫ぶ。
 「妹者!!兄者が来たぞ!!!」
 「了解!!」
 言った瞬間、窓ガラスをぶち破って兄者とバイクが部屋に躍り込んできた。妹者が外に向かって銃を構える。それと同時にそれを追ってつーもジャンプする。
 「今だ!!!」
 兄者の叫びと共に妹者が手に持った銃を連射する。確かにつーは素早い。普通の場所では銃など物の役には立たないが、空中ならばその素早さをもってしても回避行動などとることは出来ない。一発、二発、三発目と四発目がつーの腹部と上腕に穴を穿った。
 「な!!??」
 驚愕の声が終わるか終わらないかの内に、ドガァン!!と凄まじい音響が響いてきた。
 弟者が下を見ると壁に激突したつーが下に落ちて気絶している様子が見えた。それを確認すると弟者は満面の笑みを作って後ろの二人を振り返る。
 「やったぞ!!!!!兄者!!!!妹者!!!!」
 「ふぅ・・・。」
 「よっしゃあああああ!!!!!!!!!」
 妹者は安堵のため息をつくとその場に座り込み、兄者は喜びのあまり、両手を高々と掲げている。
 さしものAAと言えどもあそこまでの深手を受けては今すぐに復活などは出来まい。
 (溺れ達は何とかなったな・・・。ギコ、フサ、しぃ、おにぎり、>>1・・・。全員、生きて帰れよ!!)
 兄者はすでに暗くなり、星の輝いている夜空を見上げて全員の無事を祈った。その視線の先には煌々と輝く北極星があった。
 Northern lightは下界の争いなど関係ないかのように美しく輝いていた。

 地下鉄の上での戦いは長時間にわたり続いていた。唸りを上げて振るわれる緑と水色の二つの輝きは剣戟の音を周囲に発散させながら二つの輝きはぶつかり合う。
 「せぇい!!!」
 ガギィン!!フサの振るう光の剣がモナーの振るう両刀をはじき飛ばす。フサはモナーの剣の弱点を見極めて集中的に体の中心線を狙って攻撃を加え続けていた。一方モナーは攻撃を効果的に受け流せない中での戦闘を強いられていた。
 「くっ!!何処にそんな力があるモナ!?」
 もう一度剣を発生させながらモナーは叫ぶ。最初にあった自信などはかけらも感じられない。
 「おまえには絶対に分からないさ!俺たちの心なんてな!!」
 微塵の迷いも無い声で叫び返しながらフサはモナーの中心に向かって剣を突き出す。
 「そんな物が何の役に立つモナ!?」
 間一髪のタイミングで突き出された剣を横にはじいて耐える。
 「それは理解できるようになってから自分で考えるんだな!!!!」
 フサは気合いを込めた一撃をモナーの脇腹に向けて野球のスイングのように打ち払う。
 「モナ!!?」
 受け止めたモナーはたまらずはじけ飛び、車両の上から飛び出すと下に落ちて見えなくなった。
 「・・・っはぁはぁ・・・。やったか・・・。」
 息を切らしながらフサは後ろを振り返る。落ちたはずのモナーの姿は見えなかった。
 「よし・・・!後はギコに追いつくだけか・・・。」
 頷くとフサは操作盤のある最前列の車両に向かって歩いていった。

 「・・よし・・・!!ここから外に出れるな・・・!」
 俺の目の前には荒野が広がっている。そしてそこに向かって矢印のような物が立っていた。どうやらここがこの町と外界の境界線らしいな。
 「さぁ、早く行こう。」
 俺は境界線の手前で立ち止まったしぃを振り返る。
 「・・・ありがとう・・・。でも私は一緒に行けない・・・。」
 しぃは悲しそうな表情で俺を見てそれだけを言う。
 「なぜ・・・?」
 「こないで!!」
 境界線にいきなり黒い壁がそそり立ってきた。それは俺としぃを引き離すような圧倒的な存在を感じさせる。
 しぃ・・・・・?
 俺の足下がロジックのように消え去っていく。
 「・・・行きなさい・・・!」
 そんな声が聞こえてきたような気がした。俺は壁に背を向けて走り出した。
 「待ってろよしぃ!!必ず戻るから!!!」
 叫ばずにはいられなかった。しぃからの言葉は俺の中で何度も反響していた。
 そしてついに俺は崩れた足下から下に落ちていった。その過程で体がオレンジ色の光に包まれたような気がしたが分からなかった。
 「これで良かったのよ・・・。これで・・・。」
 しぃの目からは一筋の涙がこぼれていた。
 「逃がしたのか・・・。」
 しぃの後ろから声が聞こえた。それはモララーの物だった。
 「何故おまえはこんな奴らのためにそこまでするんだ?」
 振り返ると傷を負ったモララーが傷を押さえながらこちらへ歩いてくる様が伺えた。
 「私達は作られた存在・・・。こんな事をしても何も変わらないことはあなたも知っているでしょう?」
 その言葉はモララーにと言うよりは自分に向けられたことのようだった。
 「だが、作っておきながら我らをもてあそんだあいつらに、復讐することは出来る。そのために俺たちは行動を起こしたんだ。」
 そう言うとモララーは剣を持ち上げる。
 「それが正しくないことは・・・。あなただって分かっているでしょう!?」
 そう言うとしぃの手が水色に発光した。そして光が収まるとそこには白色に輝く光の弓と矢が握られていた。
 「だが、抗うことも出来ずにただ奴らの手のひらでもてあそばれるだけの存在であることになど耐えられるか!!!俺はここに存在している事を奴らに示すんだ!!!」
 モララーはしぃに飛びかかった。その叫びには溢れんばかりの憎しみと悲しみが込められていた。しぃの目はその感情に加えてそれを包み込もうとする強さが読み取れた。モララーも、しぃも、同じ悲しみを背負っていたのだ。
 それを黙って見守るSouthern Crossは何を思うのだろう。南の十字架は静かに輝き、時を待っていた。

 「いやはや・・・。疲れたな兄者・・・。」
 「あぁ・・・。まさか途中でバイクがエンストするとは思わなかった・・・。」
 「時というのは非常な物ね・・・。」
 流石兄妹はつーとの戦闘の後、大急ぎで橋の方へ行っていたのだが中間地点まで来たところでいきなりバイクがエンストを起こしたので橋の手前まで歩いてきたのである。バイクがエンストしてからの道のりは5km近くあった。戦闘の後なのだから疲れて当然だ。
 「奴らはまだ来ないみたいだな・・・。この建物の中で休むとするか。」
 「確かに休んどいたほうが良さそうだな。」
 「そうね・・・。」
 そう言うと妹者は真っ先に建物の中に入って壁にもたれると寝息を立て始めた。
 「寝付くの早いな・・・。」
 半ば呆れたように兄者は妹者の寝顔を見る。
 「仕方ないだろう。今回は妹者のお陰で俺たちは助かったような物なのだからな。本当に色々大活躍だったぞ。」
 「さて・・・、溺れ達もそろそろ寝るか・・・。明日は早いぞ弟者よ。」
 「そうだな・・・。流石だな、兄者。」
 そう言うと弟者も建物に入って妹者の横に座ると妹者に負けないほどのスピードで寝付いた。
 「溺れ達は手のひらで踊らされていた・・・、か・・・。」
 夜空を見上げながら兄者は一人ごちる。
 「何にせよ溺れは溺れだ。生き抜いて、そして帰る。元の世界へ、本当の自分へ!」
 呟くと兄者も建物の中に入っていく。
 その頭上ではNorthern lightが輝いている。何百年も前から人を導いてきたその北の明かりは今もまだ、輝いている。

 「ぜぇはぁ・・・。>>1さん・・・!もう走れないよ・・・!!」
 「はぁひぃ・・・。おにぎり・・・!頑張れ・・・!!」
 二人はビルの中を縦横無尽に走り回って八頭身を振り切っていた。しかし疲れない八頭身VS恐慌に駆られる>>1&おにぎりではどちらが優勢かは目に見えている。
 「見つけたぁ~~~!!」
 ドアを蹴り開けて八頭身が飛び込んでくる。
 「みぎゃああああああああ!!!!!!!!!!!」
 「うっわああああああああ!!!!!!!!!!!」
 恐怖と驚愕と絶望の叫びを上げるとさっきまでの疲れは何処に行ったのやら>>1とおにぎりは猛スピードで走り出した。
 「逃がさないよ~~~~!!」
 それを追う八頭身も凄まじいスピードで追いかける。
 こちらもこちらで恐怖と絶望のかくれんぼ&鬼ごっこを繰り広げていた。
 
 ここは・・・、何処だ・・・?
 なんか体が重い・・・。
 手の感覚がおかしい・・・足の感覚もそうだ・・・。
 そう言えば俺は何してたんだっけ・・・・?
 そう思いついたところで俺は跳ね起きた。
 「しぃ!!!!」
 しかし俺の体から伸びた管が引っ張られ、鋭い痛みが全身に走った。
 「いっててててて!!なんだこりゃ!?点滴か!?」
 そう言って自分の体を見てみるとそこには見覚えのない物が写っていた。
 「あれ・・・?指が五本ある・・・・?しかも耳がこんな所に・・・?」
 そのほかにも頭部の毛が非常にフサフサしている、とか服を着ている、とか新発売の新型アブトロニックが体中についている、とか気づくことは沢山あったがそれよりも何故俺がカプセルの中なんぞに入っているのか、それが気になった。
 しぃは・・・?さっきまで俺がいた町は・・・・?
 その時、カプセルが開いた。そしてその向こうの扉が開いたかと思うと数人の人が部屋に入ってきた。
 「君!!大丈夫だったか!?」
 目の前の初老の男性は俺に向かって心配そうな声をかけてきた。
 「そんなことよりもここは何処だ!?そして何で俺は点滴なんかされてるんだ!?」
 我ながら驚くほどその言葉は正確に俺の口をついて出た。
 「解らないのか・・・?ここが・・・。」
 「あぁ、こんな所にはまったく身に覚えはないが?」
 そこで目の前の人物は「やはりな・・・。」とため息を一つつく。しかしこの頃になると何故か俺の体は簡単に馴染んでいた。懐かしささえ感じた節があった。
 「点滴を外すから少し眠っていてくれないか?」
 と一言言って俺の腕に注射を刺した。そこから俺の意識は混濁した。
 
 俺が再び目を覚ますと体から伸びた管は全て取り払われていた。カプセルから降りてみると向こうと本当に変わらないほどしっかりした足どりで歩くことが出来た。
 「気がついたようだね、ギコ君。」
 俺は思わず驚いてそちらを見る。
 「何故俺の名前を知っている!?」
 「本当に君は何も知らないんだな。」
 「当然だ!!何故俺はこんな所にいるんだ!?」
 ため息をつく目の前のヤツに俺はくってかかった。いい加減、こちらが何も知らなくてあちらが全て知っているというのがいらついてきた。
 「仕方がないな・・・。ちょっとこちらに来なさい。」
 そう言うと老人は“後藤 ひろゆき”と名前を名乗り、会社の社長室のような場所に俺を案内した。
 「かけてくれ。」
 そう言うとデスクの前のソファを示す。
 「これから君が居た世界とこちらの世界の話を説明しよう。これで君が何か思い出してくれればいいのだが・・・。」
 「?」
 それからの話は俺には到底信じられない物だった。
 まず、俺たちの居た世界、Nightmare cityはプログラム上の存在なのだという。俺たちがカプセルの中で寝ると、意識はその世界に移植されて俺たちのような体になりあちらでの生活を体験できるのだという。その世界は常にリアルタイムで変化を続け、まるで本物の世界のような感じがするのだという。俺たちは実験台を世間に募集した時に集まった人員なのだそうだ。俺にとってはそちらの世界が本物だったのだからその点は少し納得しかねるが。
 そして次にはAAの話が出てきた。兄者達がその存在を知っていたのはこちらから兄者達が使っていたPCにメールを送ってその存在を知らせたからなのだという。そしてモララー達はあの世界のバグを排除したり俺たちが送り込まれる前に入り込んだ人間がどんな行動をとるか等の実験をするためのプログラムだったのだという。戦闘能力が非常に高いのは納得がいった。やられても復活するらしい、と聞いた時もプログラムだから当然だろう、と納得がいった。しかし・・・、だとしたらあいつらは・・・・?
 「じゃああいつらは実験体としておまえらにもてあそばれてた、って事なのか?」
 そこでひろゆきはかなり苦い顔をした。自分の犯したミスへの苦悩が滲み出ていた。
アヒャヒャヒャww 再うpw

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