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強く生きるために ((゜д゜))

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匿名ユーザー

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1.

肌にあたる空気が冷たくなってきた季節の早朝に、
俺と弟者は行き成り起こされた。

「全く・・どうしたんだ母者」

「まだ四時半じゃないか・・こんな朝早くに起こすなんて
どういうつもりかと小一時間問い詰めた(ry)」

「父者が死んだよ。」

それは母者の口から一言発せられた言葉だった。

父者が倒れて病院に運ばれたのは約5ヶ月前、
病名はありがちな「急性白血病」だった。

「なっ、嘘だろう!?」

弟者が柄にも無く声を張り上げた。

そして一番意外だったのは・・・

この状況を冷静に受け止めている自分だった。

「・・・そうか・・・。」

俺の言葉に弟者が驚いた様にこちらを見た。

「母者」

「・・・・なんだい?」

「父者は・・・苦しまずに死ねただろうか・・・?」

母者の顔が辛そうに歪んだ。

「・・・父者の荷物を引き取りに行かないといけないな・・・
母者は後から来るといい・・・。
弟者、行くぞ。」

「・・・あ、あぁ・・。」

弟者は狐に摘まれたような顔をして俺の後ろをフラフラと
ついてきた。

扉を閉めた途端聞こえてきたのは母者の泣き声だった。




2.

「・・・何か言いたげな顔だな。」

その一言に弟者の肩がビクっと揺れた。

もうすでに病院には着いていて、父者の荷物をまとめて
父者の所にいくところだった。

「別に・・・」
「別にという感じの顔でもないな。」

弟者は眉をしかめると淡々とした口調で話し始めた。

「父者が死んだというのに
われ等がお兄様は随分と冷静なんだな。
まるで父者が死んだ事を全く悲しんでいない様子だ。」

弟者の質問に俺は答えなかった。
いや、答えられなかったというほうが正しいだろう。

「・・・何とか言え、兄者・・」

「解らない・・・」

その言葉に弟者は思いっきり眉を顰めた。

「悲しいと思ってる。何故死んだんだとも思ってる。
でもそれ以上に父者の死を正直に受け止めてる自分が居るんだよ」

「そんなの・・可笑しいじゃないか!!」

「・・・弟者の言う通り・・俺は可笑しいのかも知れないな・・。」

俺の言葉に弟者が声を詰まらせた。

なんと言ったらいいのかが解らないのだろう・・・

「でも、弟者。」

「何だ」

「お前も日に日に痩せていく父者を見ていて解っただろう
あぁ、こいつは死ぬんだってな」

次の瞬間頬に激痛が走った。

その言葉に返ってきたのは弟者の拳だったのだ。


3.


「・・・・何をするんだ。ここは病院だぞ」

「ふざけるな・・・・!!」

いつもの弟者と違い冷静さを欠いた様子に、
俺は言葉を失った。

「・・・・少なくとも・・俺は思っていた。
父者が倒れて、ドンドン痩せていく姿を見た時から
もう助からない事は解っていた。」

「黙れっ黙れ黙れ黙れ!!ぅぐッ!!」

次の瞬間弟者が頭を抱えてかがむ。

「病院で騒ぐんじゃないわよ、しかも霊安室の前で。」

「姉者・・!!」

弟者の頭部を襲ったものは姉者の拳だったのだ。

「あんたたち・・父者に会いにきたんでしょ?
こっちよ・・・」

さっき見た姉者の目が心なしか腫れていた。

泣いたのかもしれないな・・・・

そんな事をボーっと考えていると

床に座ったままの俺を睨みつけて弟者はさっさと行ってしまった。

「放置プレイですか・・と、言ってみるテスト・・・」

バカな事を言っている自分に自嘲した。

冷静に受け止められたのはきっと・・・

あのときのコトがあったからだ・・・


4.


「兄者、父はもうそんなに長くないようだ。」

行き成り言われた言葉に俺は目を瞬くしかなかった。

「何を血迷った事を言っているんだ
母者に血祭りにされるぞ「ふざけた事言ってんじゃないよ!」って」

「ハハ、母者には恐ろしくて言えないさ。
父はお前が長男だからお前に言うんだ。」

「断る。俺は父者の弱音なんて聞きたくない。」

「弱音じゃない。本音だからこそお前に聞いてほしい。
父の願いを聞けないのか?」

「む・・・卑怯な・・。」

「兄者・・・父は・・・」

「ストップ。聞きたくないと言っただろう。」

「往生際の悪い。黙って聞け。父親の命令だ。」

「・・・解った。手短に話せ。」

「兄者さっきも言ったように、父はこの先長くは無い。」

「だから・・・「黙って聞け。」

俺の言葉は父者の言葉に遮られてしまった。

「父は、お前に遺言を残しておく。」

「俺は・・困る。」

「兄者、父はな・・・」




5.
あれから数日間の時があっという間に経ち、
通夜が終わり、葬式も済ませた。

今日は父者を火葬する日だった。

「・・・・・兄者。」

「おぉ弟者か先ほどの挨拶は見事だったぞ。」

正直弟者と会話するのは久しぶりだった。

「何故火葬場に来ない」

「・・・骨になっていく父者を見るのが居た堪れなくってな・・・」

あくまで薄笑いを浮かべたままの俺に弟者は辛そうにする。

「兄者・・・聞いていいか?」

「何だ?」

「この前・・病院で言った兄者の言葉は本心ではないのだろう?」

「さぁ・・どうだろうな・・・。」

「質問に答えろ。」

弟者の追及はやむ事訳がなく、どんどん尋ねてくる。

「兄者・・・俺は悲しいぞ。」

「俺もだ。」

「ちがう、そうじゃない。」

「・・・どういうことだ?」

「兄者は何故泣かない?」

「泣けないからだ。」

「俺はさっきまで泣いた。」

「あぁ、そうだったな。」

「従兄弟者もあれは泣いてたぞ。」

「それは見てみたかったな」

「それなのに何故兄者は泣かない。」

「・・・・弟者何が言いたい。」

「泣けよ、バカ兄。」


7.

「・・・・・兄に向かってバカとはなんだ」

「バカだろ、バカバカバカバカ何度でも
言い足りない位バカですねと」

弟者の口ぶりに俺はだんだん腹が立ってきた。

「何が言いたい。」

「兄者は泣けないと言った。」

「あぁ。」

「なら何でそんな泣きそうな顔をしてる。」


・・・・・泣きそうな顔・・・?誰が・・?


途端に弟者の顔が霞んだ。

弟者は目を見開いて俺の顔を見てる。

気付けば俺の頬には幾筋もの涙が伝っていた。

「兄者・・・・」

「父者が死ぬ一ヶ月位前に・・言われた事があるんだ・・・・。」



8.


「父は・・お前たちの親でよかったと思ってる。」

「何をそんな・・・当たり前の感情だろう?
俺も、父者が親で良かったと思ってる。」

「当たり前か・・・してそれは本当の感情だろうか?」

俺は父者の言葉を聞いて眉を顰めた。

「どういう意味だ。」

「そのまんまの意味だ。
兄者お前はこの父が親でよかったという・・・
だが、それは本当に本心からの感情か?」

「俺はうじうじしているのは好きじゃない。
ハッキリ言え何が言いたい。」

しばらく間をおくと父者は再び口を開き始めた。

「父は・・・お前たちが生まれてくる事が少し怖かった・・・。
仕事をするにもお前たちのコトを考えていなくてはならない・・・
それが面倒だったのかもしれんな。」

「な・・・」

「でも、今はお前たちを、家族を愛してる。
お前はどうだ?長男としてではなく、
お前は父のコトをどう思う?」

「だから・・・・・・っ!」

「ハッキリ行ってくれて構わんよ」

その言葉に声を詰まらせる。

「・・・・解らない・・・だけど・・・
どんなに下らない奴でも・・・
俺は家族が好きだ。
そして・・父者・・どんな事があっても・・・
父者は・・・親・・なんだよ・・・。」

その言葉に、父者は少し笑った。

「・・・・・・・・・・そうか・・・ありがとう。」

「・・・なに、当然のことだ。」

「・・・・なぁ兄者よ・・・」

「なんだ。」

「お前はあとこれから先・・どれだけのものを失って
どれだけのものを手に入れて、歩いていくんだろうな・・・」

「そんなの・・先にいって見ないと検討もつかない。」

俺の言葉を解っていたかのように父者は笑った。

「父もそうだった。
お前位の時は今がとても眩しすぎて先のことなんて何もわからなかった。」

眩しい物を見るように父者は目を細めて窓の外を眺めた。

「でもな、兄者、父はそれでいいと思ってた。
いつだって今が大切なんだ。
今、生きているという事が何よりも・・・
この先、お前はこの父の分まで長く長く生きていく。
それはとても長い気の遠くなるような道のりだ。
そんななかできっと挫ける事もある。
辛く悲しい事だって経験する。
でもどんなに辛いことにも目をそらすなっ
背を向けるなっ立ち向かえ!
いつだって苦しみの出口はあるんだ。
それらに立ち向かって・・・強く生きるために・・・」

父者の言葉は力強く、俺は胸が締め付けられそうだった。

「強く・・・生きるために・・・?」

「あぁ、そうだ。
強く生きるためだ。
いつだって人間は世間を否定して、自分を否定して、
逃げる事だってできるんだ。
大事なのはその後のことだ。
そのまま腐って生きていくのか・・・ちゃんと立って前に進むのか・・・
弱くなることはどんな事より簡単なんだ。
後悔する事だって・・・きっと、どんな事より・・・
だから弱さに背を向けるな・・・他人のせいにするな・・・
これは、父が長男であるお前に言える最期の事だ。」

その言葉に涙が止まらなかった。

可笑しいだろ・・・17にもなって・・・

「ごめん・・・引きこもりなんて・・・親不孝で・・・
こんなに大きくなるまで育ててもらって・・・俺は何も返せていない・・・!!」

止め処なく流れてく涙を拭おうともせずに
嗚咽を漏らしながらだらしなく泣きじゃくる俺の頭に
父者の痩せ細った手が乗った。
その事にまた涙が溢れてきた。

「それでも、どんな愚弟でも・・・お前は父の自慢の息子だ。
お前に・・・父が死んだ後にみんなに伝えて欲しいことがある。」

9.

「・・・みんなの所に行こう、弟者。」

暫く何もいえなかった気がする。

話があると言ってからずっと泣いてばかりだった。

だけど弟者はそんな俺を責めようともせず黙って待っていた。

気がつけば明るかった筈の辺りは薄暗くなっていた。

「・・・解った。」

それだけ待たせたのに怒りもしないで頷いてくれた
弟者に感謝した。

朝とはまた違った寒さが身を包んだ。

そのせいかシン、と静まり返るこの場所で、
目の前に弟者が居るというのにたった一人のような気がした。


「・・・寒いのじゃ・・・もう、戻りたいのじゃ・・・」

遠くで妹者の声が聞こえた気がした。

重い足取りでそちらへと向かった。

「妹者、こっちへ来い。
コートを貸してあげるから。」

「小っちゃい兄者・・・」

弟者のこういうところは本当に流石だと思う。

妹者に自分のコートを着せてやると妹者の目線まで屈んで抱き上げた。

「暖かいのじゃぁ」

ほっとした表情を見せる妹者に弟者は静かに微笑んだ。

「母者・・・兄者たちがきたわよ・・・」

「・・・そうかい。」

母者はそこから動こうとはしなかった。

「みんなに・・・聞いてほしい事がある。」

静かにそう告げると母者がゆっくりと顔を上げた。

「何?兄者・・・。」

流れそうになる涙をこらえて父者からの言伝を話し始めた。

10. 

「・・・父者は・・・幸せだった。」

ポツリと話し始めた兄者の顔には迷いは無かった。

「母者と出会えて、愛し合って結婚して、姉者が生まれて
本当に幸せだった。
姉者が生まれた時その場で叫んでやりたくなった。
『俺が世界で一番幸せな父親だ』と・・・
その次に弟者が生まれて妹者が生まれて・・・
家族ができるという事がこんなにも嬉しいことだと
知った。
兄者からこの話を聞くときはもう父はこの世に居ないのだろう。
とても認めたくない現実だ。
だからこそ父はお前たちに言葉を残す。」

ここまで話したら続きが言えなくなった。

ゆっくりと母者をみた。

「母者・・・いつまでも苦労かけて済まなかった。
本当に・・愛していた。」

次にうつむいて涙を堪える姉者を見た。


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