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彼女と機械と恋とゴミと (だばば)

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匿名ユーザー

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「お父さん、結婚相手がね、やっと見つかりました」
父は目をまんまるにして、顔中に笑いを広げた。
「なんだって!?あぁ、おまえ・・・・いや、・・・あぁ・・・だ、だ、誰なんだ!?おまえを幸せにする男は!」
そんな父の様子を彼女は少し笑って、ゆっくり答えた。
「彼の名前は―――。お父さんも昔から知ってるはずよ」
父の顔の色がじょじょに変わっていった。
青い顔のまま、父は一言、いや、一音発した。
「ぷっ・・・・」
「なぜ笑うのよ、失礼ね。まったくもう。」
「当たり前じゃないか。だってソイツは――――」



彼   女
      と
          械          恋            ミ
       機                  と
               と              ゴ        と
   




春。暑くもなくて、ちょびっとだけ冷えていて。気持ちのいい季節。
ワタシは、庭のベンチに腰掛けて、読書をしていた。
とっても小さな足音がして、横を見る。
飼い猫のセセルティアがベンチに上ってきていた。
「セセル、お隣の家の猫のボーイフレンドとの遊びはどうしたの?」
セセルティアは、顔を前足で擦ってから、小さく鳴いた。
その声が酷く哀しそうだったものだから、ワタシはとても驚いた。
「彼とケンカでもしたの?」
セセルティアは同意するように尻尾を縦に揺らした。
猫もケンカするもんなのね。
そう思って、ワタシは笑いそうになる。
しかし、笑ってしまえばセセルティアの機嫌は絶不調へと下がるだろうから、欠伸を抑えるように笑いを抑えた。
ため息をつくようにセセルティアは息を漏らした。
妙に人間的な仕草だと思った。

少し喉が渇いてきた。
ワタシは飲み物を何か飲むことにした。
「フーン!フーン!冷たいコーヒーを持ってきてはくれない?」
そう叫ぶと、しばらくしてから、コーヒーの乗っているお盆を持った、ウェイター姿の男がきた。
「お持ちしましたよ、お嬢様。砂糖はいつもどおり入れてありますので、そのまま飲んでください。」
やけにお嬢様という部分が強調されている。
フーンはその呼び方を嫌う。それはワタシ自身もだ。
「そう呼びたくなければ呼ばなきゃいいじゃない。ワタシだってそう呼んでほしくないわ。」
フーンからコーヒーを受け取りながら言う。
「バカ、俺がご主人様に叱られるだろ。そう呼ぶように設定されてるんだよ。」
「まぁ。媚を売るなんて、とんだ感情のはいったロボットだわね。」

フーンはロボットだ。高性能で、世界に一つしかない。

「屁理屈ばっか言ってないで、さっさとコーヒー飲めよ。冷めるぞ。」
アイスコーヒーなんだから、冷めるはずないじゃない。
機械のくせに、そんな間違いをするなんて変なの。
きっと、早くワタシにコーヒーを飲ませようとしてるんだわ。だからあんな変な間違いを。
でもなぜ、早く飲んでほしいのかしら?
多分、感謝の言葉でも待ってるんだわ。ホント皮肉な人。
思いながら、コーヒーを口にした。
途端、ワタシはコーヒーを噴き出し、むせ返った。
「これブラックじゃないのよ!バカぁ!砂糖入ってるって言ったじゃない!!ワタシ苦いのって辛いのよりダメなのにぃ!」
フーンは笑い転げている。憎たらしいロボットだこと。
他の人にはキチンとした態度なのに、フーンはワタシにだけやたら態度が悪い。
きっとワタシの方がフーンより年下だからだわ。5歳年下ってだけなのに。それに、そう設定されてるだけで、
外面と設定を変えてしまえばフーンの歳を遅らせることもできるのに。
隣でセセルティアが一声鳴いた。
セセルティアはフーンに擦り寄った。
普段は、セセルティアはワタシ以外誰にも懐かないのに、フーンには懐いている。
フーンがセセルティアを撫でてる姿は、絵のような風景で、ワタシはなんとなく好きな風景だ。
見惚れていると、不意にフーンが言葉を発した。
「俺、いつ消滅するんだろ。」
あまりにも突然すぎる言葉で、ワタシは本を落としてしまった。
「え?」
「機械ってさ、人間みたいながないんだよ。だから、世界が滅亡したり、誰かに壊されるまでは、消滅できないんだ・・・」
ワタシは無表情で話を聞いていた。
周りの人が亡くなっていき、一人ぼっちで彷徨うフーンの姿が目に浮かぶようだった。
風の音が響く。庭の巨木の葉は、光を作り出し、輝いている。
そんな魔力達に後押しされたのか、ワタシの口から言葉が出てきた。

「じゃあ、世界滅亡までずっとワタシと一緒に居よう?」

フーンが驚愕そのものの表情をした。
ワタシは後悔も驚愕もしなかった。前々から自分の気持ちには気付いていた。
ずっと一緒にするのは当たり前のことだ。フーンはこの家に仕えているのだから。
ワタシの言った意味が、そういう意味ではないことをフーンは理解している。
それは「結婚」するという意味だ。

「だ、だって・・・おま・・・・俺、ロボットだし・・・」
フーンが慌てるのも当然だ。
「ううん、いいの。ロボットでも。ワタシはフーンのことが好き。大好き。
だから、とにかく、一緒に居たいの。子供とかは居なくていいし、人間と機械ってあんまり変わりないわ。
ワタシ、フーンと一緒に居てそう気付いたの。」
フーンはしどろもどろしている。
「本当に・・・・俺で・・・・機械で・・・いいのか?」
「もちろんっ」
そして、フーンも、躊躇いがちに笑顔になった。
ワタシの胃は喜びに引っくり返りそうだった。
セセルティアが嬉々として鳴いた。
どんな祝福よりも嬉しいもんだわね。





結婚の発表はしなかった。当分するつもりもなかった。
以前とあまり変わらぬ関係。だけど、それが嬉しくてたまらないの。
内緒の関係。二人っきりになったときだけ、ワタシたちは目配せをし、二人だけの内緒の話をする。
ちなみに、キスはまだしていない。フーンいわく、「まだお子様には早い」ですって。
「ねーぇ、フーン、法律ではどうなってるの?」
「何がだよ」
「だからぁ、人間と機械の結婚よぉ」
「・・・・さぁな」
「さぁなじゃ無いわよ。機械なんだから、法律書なんてインプットされてるんでしょ?」
「っるせぇな、なんだっていいだろ、んなもん。」
「良くないわよ」
フーンはさっさと何処かに行ってしまった。ホント、無愛想なんだから。
「ね、セセルはどう思う?」
傍で何かをじっと見ていたセセルティアに問う。
ところが、セセルティアは反応しないし、ピクリとも動かない。
寝てるのかと思っても、目はしっかり開いている。
何かをじっと見て、目を開ききっている。
目を開ききっている。
瞬きもせずに、目をしっかり開いている。
瞬きもしない。
ピクリとも動かない。
瞬きをしない。
目が開いている。瞳孔も開いている。
瞳孔が 開いている 冷たい 瞬きをしない 息もしていない

「セセル?」






セセルティアが死んだ。
目くらい閉じてくれたっていいのに。
目、閉じないと、セセル、いつまでたっても眠れないじゃない―・・・っ
お墓を立てた後、ようやく実感と悲しみが沸いてきた。
「おい」
不意な声に驚いた。
「フーン・・・」
「ご主人様が、新しい猫飼うかどうか聞いてるぞ」
「バカ って言っておいて・・・」
「承知しました、お嬢様」
「――・・・待って」
「んだよ」
言葉に詰まる。何を言えばいいのかわからない。
「慰めてほしいのか?」
嘲るような口調。
「ちがっ――・・・!!!なんでそんなこと言うのよ!!!」
怒鳴った後に、ようやく目頭が熱くなった。
でも、泣くものか。ワタシを、セセルを嘲ったフーンの前で、泣くものか。
俯いて目頭の熱を冷まそうとしていると、唐突にワタシの体中を温もりが包んだ。
フーンに抱きしめられたようだ。
何故だか、冷めたはずの熱がまたこみ上げてきて、泪がこぼれ落ちた。
安心感に包まれる。
「なんで・・・尖った言い方なんてしたのよ・・・馬鹿・・・」
「俺に向けてか?自分に向けてか?」
「どっちもよぉ・・・!」
「泣きそうだって、わかってたからだよ」
「え?」
「我慢なんかすんじゃねぇよ、ガラじゃねぇよ」
「ガラじゃないって何よ。ワタシが普段我が侭で傲慢な女みたいに聞こえちゃうわ」
「え 違った?」
「五月蝿いわよこのポンコツロボット!!!」
「ポンコツたぁなんだよ 俺は高性能なんだからな」
「自分でそんなこと言うんじゃないわよ」
「けっ」
「・・・・・・ねぇ、フーン」
「あん?」
「やっぱりね、ワタシ、結婚がしたいの」
「だって、おま・・・」
「だからね、お父さん達に言ってほしいの」
「ちょ、ちょっと待て!前までこのままの生活が幸せだとかなんとか・・・」
「じゃあ、言うわよ!寂しいのよ!セセルが居なくなって!」
顔が熱い。きっと真っ赤だ。
「パートナーが欲しいの!ずっと一緒に居てくれるって、誓いを持った人が!」
フーンは何も言わなかったけど、黙って近づいてきた。
ワタシは叱られると思った。今のワタシって、とっても我が侭だもの。
ところが、フーンは顔を近づけて―・・・口付けてきた。
「・・・・っん・・!?」
唇の間から蛇が―・・・いや、フーンの舌が入ってくる。
キスの仕方はぎこちない。舌の動きもあまりなめらかではない。キスについては何も設定されていないのだろう。
何故か冷静になり、そんなことを考えていた。
ワタシからも舌を絡ませる。
フーンが、初めて「可愛い」って思えたの。
そのキスは長い間続いて・・・、ワタシがやっと我にかえって無理矢理唇を離した。
白い橋なんてできないじゃない。
「いいぜ、別に」
「ほ、ほんと?」
「あぁ。た、だ、し。自分で言いな」
そう言うとフーンは何処かに行ってしまった。
ワタシはしばらく呆然と突っ立っていたが、ガッツポーズをとって「よっしゃあ!」と叫んだ。











「お父さん、結婚相手がね、やっと見つかりました」
父は目をまんまるにして、顔中に笑いを広げた。
「なんだって!?あぁ、おまえ・・・・いや、・・・あぁ・・・だ、だ、誰なんだ!?おまえを幸せにする男は!」
そんな父の様子を彼女は少し笑って、ゆっくり答えた。
「彼の名前はフーン。お父さんも昔から知ってるはずよ」
父の顔の色がじょじょに変わっていった。
青い顔のまま、父は一言、いや、一音発した。
「ぷっ・・・・」
「なぜ笑うのよ、失礼ね。まったくもう。」
「当たり前じゃないか。だってソイツは、ロボットじゃないか!」
「そうよぉ。世界一ステキなワタシのロボット」
父は青い顔を信号機のように素早く赤に変える。
「な、ならぬっ!あんなガラクタに、だ、だ、だ、大事な一人娘を渡すものか!!!」
まさか否定されるとは思わなかった。もう、お父さんたらツバ飛ばしすぎ。
「あ、あ、あ、あんな機械に・・・!何をたぶらかされておる!あの忌々しい機械め!!許さん!!!!」
「お、お父さん!?何勘違いしてるのよ!」
しかし、もう父には声が届かない。
召使を呼ぶと、
「もっと新しい、感情設定の無いロボットを買って来い!!!金ならいくらでも払う!!!」
と怒鳴り散らした。
「何やってるのよお父さん!!!」
「古いロボットはいらん!!!処分せよ!!!!」
召使が軽く一礼して、部屋を出た。
ワタシはその場に崩れ落ちてしまう。処分って、まさか・・・!!!
しばらくすると、廊下から ダウゥゥン という銃声が聞こえた。
ワタシの目は、壊れた蛇口のように変わり果ててしまった。
フーン・・・フーン・・・
いっそ、自分の泪で洪水が起こって欲しかった。
いっそ、みんな泪に溺れてしまえば良いと思った。
もちろん、ワタシ自身も。

切り。

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