モナー小説掲示板ログ保管庫@wiki(´∀`*)

Feeling World (初心者X)

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
              果てしない世界…。

 その上に乗って、様々な出来事を巻き起こす。それが人間である。

 人間の住んでいる世界は一つ……。そう、思っていないだろうか。

 それは違う。世界は一つではない。

 世界は、無限大にある。数え切れない程に。

 それは人々の気持ち…………。

 その中には、人それぞれの世界がある。

 楽しい気持ち…、その中には楽しい世界が生まれる。

 怒りの気持ち…、その中には怒りの世界が生まれる。

 そう、人の感情によって世界は限りなく増えるのだ。

 世界の中には、その人が思っている人間が現れる。

 その中にいる人間も、限りない。

 そのかわり、その世界に人間は入り込めない。

 なぜなら世界は、その気持ちを思う人間自体だからだ。




 しかし、何かの切欠で、その世界に入り込んでしまう人もいる。

 では、その中から一人、ある少年の話で考えてみよう。

 これで、貴方も自分の世界を考える機会が…出来ただろう。


             ~Feeling World~

第一章 「突然の電話」

 トゥルルルルルッ……トゥルルルルルッ……

 始まりは一つの電話からだった。

 ある家に響くわたる着信音。そして、ドタドタと床を揺らす足音。少し後に、元気な声が聞こえた。

「はい、ギコハニャーンです」

 学生服を着こなす少年が電話に出ている。手には、先程まで勉強をしていたのか、鉛筆が握られていた。

“あっ、君がギコ君かい…?”

 少年、ギコにとっては聞きなれない声だった。しかし、自分の名前が呼ばれたので、返さなければならない。

「そうですけど…」

 少し動揺しているのか声のボリュームが下がる。手にはまだ鉛筆が握られていた。

 だが。

 コトンッ……

 握られていたはずの鉛筆が落ちた。その衝撃で、黒く光る芯も先端が折れてしまう。

 そして、先程までとは違う、驚愕の声が響いた。

「か、母さんが!!?」

 額には冷や汗が流れ始めていた。



 ギコは自転車を走らせている。学校へ向かうときとは正反対の、西へ。県道には思ったより車が多い。

 ギコの向かっている所、それは。

(急げ、急げ! 急げぇ!! 母さん!!!)

 いつもよりペダルは強くこぐ。早くしないと間に合わないかもしれないからだ。

 先程の電話。それは、病院からだった。

 母がトラックに撥ねられた…、そう言っていた。母は、元々夕方担当のパー
トに行っている。そろそろ帰ってくる時刻だったから、帰りの道のりで撥ねられたのだろう。

 そんなことはどうでも良い。今は、ただ母に会いたいだけだ。

 学生服のまま、ギコは自転車で駆けた。大通りに出た今でも、スピードは緩めない。とにかく、早く病院に着きたかった。




 それから五分後。二丁目の『2ちゃんねる病院』に着く。自転車置き場まで行ったのは良いものの、乗っている自転車を適当に乗り捨ててしまった。後から、苦情が来るかもしれない。

 そんなことはお構いなしにギコは走る。入り口の自動ドアも一度ぶつかってしまった。

 中に入り、ギコは受付の前に飛び込む。周りは骨折した人や、車椅子に乗っている人で、いっぱいだった。

「おい!! 外科はどこだ!!?」

 いきなり現れたギコに受付の女性は驚きを隠せない。ぽかん、とした状態で彼女は答えた。

「に、二階ですけど…?」

 最後までギコは聞かずに走り出す。受付の女性は走り去るギコをまたぽか
ん、とした表情で見ていた。

(二階か…!)

 エレベーター乗り場に向かったがすぐに動ける状態ではなかった。しかし、ギコは手際良く、右の階段を登り始めた。

(待ってろよ…!!)

 三段跳びで登るギコは拳を握り締めた。



 二階に着いたギコも、足を止めることはない。廊下も全力で走り抜けた。周りの患者も驚きの表情で見つめている。

(ギコハニャーン…。どこだ!?)

 辺りを見渡すギコ。すると、左の方に見慣れた文字が見えた。

  『204号室 ギコハニャーン様』

(ここか!?)

 判別のする時間もない。ギコはノックもせずに部屋の扉を開けた。

 ガチャ!

 開けた瞬間、ギコは扉に手をつけ、息を荒くする。どうやら、一人用の病室
のようだ。奥行きも少ない。はぁはぁ、と息を荒くするギコだが、視界に入った人物を見てギコはゆっくりと歩き出した。

「か、母さん……?」

 まだ、息は荒いままだ。しかし、そんなことより今は、母の姿に驚くだけだった。顔に白い布をかぶせられ、ベッドに横たわる母の姿に。

「ギコ君か…?」

 どこかで聞いたことのある声。彼は、母のベッドの横にいる。声を聞いて分かったが、彼は先程電話をもらった医者だった。

「あの…、母さんは…?」

 恐る恐る聞く。医者は少し顔を下に向け、首を振った。

 横に。

「最善は尽くした…。けれど、間に合わなかった…」

 ギコは、目の前が真っ白になる。何かの冗談なら良かった。全て、夢なら良かった。だが、現実だった。

「う、嘘だろ…?」

 ベッドに近づく。そして、白い布をゆっくりと持ち上げた。そこには、紛れもない母の顔が、目を瞑った母の顔があった。

 鉛筆を落としたように、白い布も床に落ちる。そして、ギコの目から、透き通る液体が流れ出した。

「か、母さん……!」

 呟いたのも一瞬で、ギコの目からは滝のように涙が零れ出した。温かい雫だった。

「うわぁぁぁあああ!!!」

 ベッドに縋り付く。医者も、目を逸らすことしか出来なかった。



 少年は泣く。

 悲しみに襲われて。

 今、彼の世界には悲しみの世界が出来ているだろう。

 悲しみの世界は、その他の世界より恐ろしく、なかなか消えない。

 彼の悲しみはとても深いものだった……。

第一章 完

           ◆     ◆     ◆

第二章 「謎の世界」


 ギコは歩く。自転車には乗らず、ゆっくりと、歩いている。

 もう日は暮れ、西の空には橙の夕焼け浮かび、町を照らしている。彼の瞳
も、橙に。

 しかし、ギコの瞳は暗く、尚且つ悲しい光を帯びていた。目の下の腫れから泣いた様子も良く分かる。母を失った悲しみ…。それは、どんな人でも重く圧し掛かる。

 だが、人間にはその悲しみを断ち切ることが可能だ。誰かを愛し、誰かを信じることで、悲しみを開放させることが出来る。ところが、一転して悲しみをずっと心の奥にしまい込み、それを一生引き摺っていってしまう人も多い。大半はそのままだが、エスカレートすると自殺に追い込んでしまうこともある。

 ギコも、そうなってしまった。

(もう…、生きている意味なんてない…)

 元々、ギコは勉強が苦手だ。特に、英語や数学は担当の教師に怒られることも度々。スポーツでは野球のみ得意だが、その野球でも最近はうまくいかない。監督に怒られる毎日だった。

 しかも、それを励ましてくれた母がもういない。もう、ギコは生きる希望を完全に見失ってしまったのだ。

 また、父にはもう十年前に先立たれている。もう、身寄りも少なかった。

(死のう………)

 ギコは近くの公園に入った。そこには、深めの池がある。そこで、自殺をしようというのだ。夕方になり、子供の姿は少ない。

(絶好のチャンス、って訳か……)

 死が近づいているのにギコの口元には微笑が浮かぶ。適当に自転車を放り捨て、ギコは池に近づいた。

 少し濁った池。水草も浮かび、少ないが魚の姿も見られる。

「母さん……。今行くからな…」

 ギコは淵に立つ。なぜか恐怖は感じない。それどころか、母に会えると思うと嬉しくなってしまう。

「よし…」

 短い決意の言葉。その少し経った後、ギコの体が傾く。

 水音が、響いた。



 深く、濃いまどろみの中。ギコは浮かんでいるのか立っているのか分からない。しかし、水の中に飛び込んだこともあり、死んだということは容易に想像
が出来た。

―――あぁ…、俺、死んだんだなぁ…

 目もしっかり開けられないまま、ギコは心で呟く。

―――もう一度…、母さんに…

 少し笑いかけた瞬間、ギコの頭に声が響いた。

『それは…、まだおあずけだ』

―――!?

 どこかで、聞いたことのある声だった。ギコは思い出そうとする。しかし、
何にも思い出せなかった。

『お前には、安心して死んでもらわれないと困るんだよ』

 そのまま声は続ける。まだ、全然思い出せない。ただ、とても懐かしい声で
あることだけは、思い出せた。

―――お前、誰だ?

 仕方なく、ギコは聞くことにする。誰かも分からない声に聞くのも、何か変な気がしたが。

『私か? ……まだ、時間が足りない』

―――え?

 訳が分からないので、ギコは間の抜けた声を出してしまう。時間…、意味が分からなかった。

『お前は、解放しなければならないのだ。私の名はお前が帰るときに言おう』

 目を開けてはいないが、目の前が明るくなる。どうやら、外の世界が光り輝いているようだ。そんなことはどうでも良い。声の言っていることを考えていた。

―――分かった。じゃあ、またいつか会えるんだな?

 本当は何も分かっていない。しかし、声は信用できそうだった。

『あぁ。じゃあ、解放して来い』

 光がより密度を増し、ギコの意識が飛んだ。



 微かに当たる、冷たい空気でギコは目を覚ました。少し、寒気がして小さなくしゃみをした。

 何回か、瞬きをし、ギコは身を起こす。自分は死んだはずだった。しかし、
周りに見えるのは暗い空。そして、辺りを囲む、沢山の木々達だった。

 「ここは……?」

 人の姿は無く、とにかく周りに見えるのが沢山の木々。どうやら、森の中のようだが、生き物の姿は見えない。

 唐突に、ギコの頭を奔る激痛。それを右手で撫でた。

 手を下げても何にもなかったが、それより驚いたのは、自分の手の状態だっ
た。

「なぁ!? 手が…!? 猫ぉ!!?」

 手にいつもの五本指はなかった。猫の手のような形をしている。もしやと思い、体を見ると体全体が猫のような姿をしていた。先程から起こる異変にギコは動揺を隠せない。

「どうなってんだぁ…!? 体は猫になるし…」

「正確にはAAだ、ギコ」

 突然、声が聞こえた。びくっ、と驚きギコは後ろを振り向いた。

 そこに立っていたのは自分にそっくりの猫。毛が多めに生えている。ただ、自分より背は高く、腰には見慣れない長剣を掲げていた。

「誰だぁ!?」

「俺か? 俺はフサギコ。簡単にフサで良い」

 ギコの剣幕に彼、フサは微笑をもらす。

「何で、俺の名前を…?」

 フサは、微笑をもらす口元に変化を出さぬまま、ギコの質問に答えた。周りの木々も、風でざわつく。

「そりゃあお前、知ってるに決まってるじゃないか。俺は、お前に作り出されたAAなんだから」

「…!?」

 ギコは驚愕の表情で、一歩後退りする。初めて会った人――もしくはAA―
―を自分が作り出したというのだ。

「何言ってるんだ…? 俺、そんなことやった覚えはないぞ」

「それはな。実際の人間は気づかない。…しかし、ギコも世界に入り込んでしまうとはなぁ」

 後半の方はもう聞く耳も持たなかった。ギコは腕組して考える。自分は死んだはずだった。ということは、ここは天国か地獄なのだろうか。

「おい、此処はどこなんだ?」

 ギコの質問にフサは鼻で笑う。やっぱりか、と呟くと、フサはギコの目の前で言った。

「此処は、悲しみの世界。お前の気持ち、悲しみで出来た世界だよ」

第二章 完

           ◆     ◆     ◆

第三章 「魔物の襲撃」

「…はぁ? 意味がわからねぇんだけど…」

 ギコが子供のような声を出す。今度は困った表情になり、フサは眉を細める。

「やっぱり、お前にはまだ早いみたいだな。…しょうがない、奴らのところに
行こう」

「奴ら?」

 ギコは首を傾げる。しかし、一方的に歩き出すフサに、慌てて着いて行こうとした。その時。

『シャァァァァアアアア』

 いきなり、不気味な叫び声が響いた。どこからか分からないが、木々の上、そこまでは理解できる。しかし、ギコは肩を竦め、フサは顔を顰める。そして、剣の柄に手をかけた。

「…来るぞ!」

 フサが叫んだかと思うと、真後ろの木から何かが飛び降りてきた。ギコが振り向くがそれより早く、何かの爪がギコの左肩を引っ掻いた。

「うわぁ! 痛ってぇ!」

 微量に血が出る。右手でその傷口を押さえた。大した怪我ではないが、いきなりの攻撃にギコは怯える。

 フサとの距離は二メートル弱ある。その間にいたのは、蝙蝠だった。

『キシャァァァァアアアア』

 再びの咆哮。ただの蝙蝠ではない。自分達より少し大きめ。そして、何より違うのが腕が生えていることだった。右腕の先端には鋭い爪があり、そこにギコの血が滴っている。

「大丈夫か!?」

「あぁ…。大丈夫だ」

 曖昧な返事で、ギコは答える。右手を離すと血が吹き出るので、手を離すことは出来なかったが。

「どうするんだ…」

 もう頼れるのはフサしかいなかった。弱音のような声でフサに聞くが、フサはもう、長剣を握り締めていた。

「大丈夫だ。俺に任せな」

 ギコに白い歯を見せてから、フサは気合の声と共に走り出す。近づいたかと思うと素早く、長剣を振り下ろした。


 ザクッ!


 嫌な音が響く。いつの間にか、森のざわめきは消えていた。

 直後に、蝙蝠の叫び声が響いた。

『ギシャァァァァアアアア!!?』

 口から、傷からと鮮血が迸る。ギコの怪我よりは数段上の痛手だろう。蝙蝠も顔を顰めている。

「やったか!?」

 ギコの口には思わず微笑が表れる。しかし、蝙蝠は倒れることはなかった。それどころか、そのままフサに襲い掛かった。

『シャァァァァアアアア!!!』

 鋭い爪で襲い掛かる。

「フサァ!!」

 ギコが叫ぶ。フサも嫌な顔をしているが、すぐに表情を改めた。

「本当は、使いたくないがな…!」

 そういったかと思った途端、フサは目を閉じ、手を前に出す。魔物が襲いかかろうとしている時なのに、これでは自殺行為である。しかし、それは違った。

 フサは目を見開いた。

『炎の術、ヘルバーニングッ!』

 そして、叫ぶ。その瞬間、目の前が光に包まれた。その光は、熱く熱を帯び
ている。ギコも、目を開けられない程だった。

『ギシャアアアアアアアア!!!』

 薄く開いた目に飛び込んできたのは、炎に包まれ、踊るようにのた打ち回る蝙蝠。そして、耳に入ったのは、胸の痛くなるような絶叫――所謂、断末魔――だった。

「うわぁ…!」

 驚きのあまり言葉を出しにくい。ただただ、呆然とするだけだった。

 煙が消え、蝙蝠がいたところを見ると跡形もなく、微量の煤が空気中を浮かんでいるだけだった。凄まじい力である。

「ふぅ、とりあえずOKだな」

 その力を出したフサは、何事もなかったように額の汗を拭う。力を出した手も、反動は見て取れなかった。

「お、お前…! 何、それ…!」

「ん? 俺の力だよ。炎の。この世界じゃ、別に普通のことだぜ」

 曖昧な質問に、フサはにっ、と笑いながら答える。この世界にはこんな奴がいるのか、とギコは内心、困り果てた。

 しかし、それは一気に吹っ飛ぶ。

「ふぅん、バットデビルを意図も簡単に倒すとは…。なかなかやるみたいだね」

 先程、蝙蝠の叫びが聞こえた所ぐらいからの声。男性のようだが、姿は見て取れない。二人は辺りを見渡した。

「けど所詮、ただのAA。僕が直々に殺してあげるよ」

 この言葉が終わるより早く、声の主は木から飛び降りた。木は四メートルほどあるが、難なく地上に着地する。二人は一歩後退りをした。

「僕の名前はモララー。ソロウ様の命令でこの世界を悲しみに沈ませてやろう。さぁ、歯向かうなら歯向かえ。無駄なことだがな!」

 自己紹介、のようなことを言い声の主、モララーは襲い掛かってきた。手に
はフサと同じような剣を持っている。そして、何より目を惹くのが、左手に宿る群青の光だった。

「ちっ、新手か。…それに、コイツは何か違うようだな…」

 フサは微笑をもらすが、本心はまずい、と思っていた。呟いた言葉と同様、彼は同じAA。しかし、自分達と何かが違う。そんなオーラが漂っている。

 そして気になるのが、モララーの口にしたソロウ、と言われる者だった。様
付けをしているところを見ると、どうやら彼らより上の立場に立つものらしい。

 そんなことを考えているうちに、モララーは攻め込んでくる。フサもしまいかけた長剣を握りなおした。

「ふん!」

 短い気合の直後、モララーは剣で斬りかかる。フサはギリギリで止めたが、彼の攻撃は疾く、重い。何度もうけれるものではなかった。

「くっ、強ぇなお前…」

 こんな時でも、フサは微笑を隠さない。お互いが剣で対峙している中、ギコ
は見守ることしか出来なかった。

(糞! 俺にも何か出来ることは…)

 唇を噛み、フサの背中を見守る中、ギコは不意に思い出す。先程、フサの言っていた言葉。

(此処は俺の世界…!)

 自分の世界なのに――まだ確信はないが――、その本人が何も出来ないなん
ておかしい。自分が、彼を助けなければ。

 そう思い、拳を握り締める。その時、ギコは驚いた。

「……!!?」

 自分の手が光っているのだ。右手が橙に。それは、まるであの時見た夕日のようだった。

「これは…!?」

 ギコが呆然と呟いた。背中を向けているフサも彼の異変に気づく。しかし、期待はしていない。まだ、この世界に慣れていないAAだ。戦いに参戦できるはずがない。しかし、次の彼の言葉に、フサは驚愕することになるだろう。

(力が漲る……!)

 拳は握り締めたままだが、彼らの向けて突き出す。そして、ゆっくりと目を瞑った。まるで、先程のフサの様だった。

 そして、静かに彼は囁く。


『光の術、マナスティス』


 彼の手が、光り輝いた。

第三章 完

           ◆     ◆     ◆

第四章 「悲しみの世界」

 彼の手から発せられた光は一直線に二人の元へ伸びる。明るく、闇をも全部照らしそうな光。邪悪な光も聖なる光も全て混ざっているようだ。

「なっ…!」

 フサの目の前を横切り、光はモララーの腹部に直撃した。

「ぐはぁあああぁ!!」

 衝撃のあまり、光は少し密度を増す。そのまま、モララーは吹っ飛ぶ。光に押され、木々の中で一番巨大な大木に激突した。

「ば、馬鹿なぁ…! その光は…」

 モララーは苦悶の声を上げる。その直後、口から鮮血を噴出し、その場に蹲った。

 フサは長剣を握り締めたまま、唖然とした表情でモララー、そしてギコを見る。ギコは、息を荒くしながら立っていた。

「何だ、この力は…。これが、お前の力……」

 呟いた直後、ギコの体力が底を尽きたのか、彼は急にしゃがみ込んだ。息は荒いままだ。咽込む気配もある。

「はぁはぁ…! どうなってんだ…!?」

 ギコ本人も、自分の使った力に困惑している。ただ、ギコの力は凄まじいということは確かのようだった。

「すっげぇよ、お前! 意図も簡単に倒しやがった! さすがこの世界の張本人だな!」

 フサがギコの元へ走り出し、喜びの声を上げる。そして、続けた。

「よし、このことをモナー達にも知らせなくちゃな」

 息がまだ荒く咽込んでる中、ギコは出しにくい声を絞り出し、ゆっくりと言った――呟いた。

「モナー、達って…?」

「俺の仲間だ。早く村に戻るぞ」

 そう言ってフサが振り返った時だ。いきなりフサの表情が硬くなる。どうしたのか、とギコがフサの背中から覗いた。

「!?」

 モララーが巨木を支えに立ち上がっていた。ギコ同様、息は荒い。口元には、先程の鮮血が滴っていた。しかし、顔には邪悪な笑みを浮かべ、こちらを見た。

「フフッ…。フハハハハハハハハハハハ!!」

 そして、喉も涸れよと哄笑を上げる。その笑いには、少し恐怖も感じられ、二人は少し後退る。

「はぁはぁ…! 分かったぞ…! お前がこの世界を作り出した奴か…! この悲しみの世界を…! 僕に勝ったとでも思ったか! 僕はソロウ様の片腕とも言える存在だ! お前なんかに殺されねぇよ!」

 モララーは笑みを濃くする。そこには、死神のような――それ以上かもしれない――瘴気が感じられる。

 しかし、モララーは再び膝をつき、鮮血を吐いた。生々しい、赤色だ。

「そうは言っても…、少し効いたな…。だが、僕達に歯向かったことをいつか後悔するだろうさ! じゃあな、この世界の、悲しみの世界を作り出した本人さんよぉ!」

 その後、再びモララーは哄笑を響かせる。それは、この森全体に響き渡っただろう。森の木々達も怯える。

 そして、群青の光と共に彼は消えていった。死んだのではなく、瞬間移動したと予想がつく。

 一瞬のうちに静寂に包まれた森。二人も一瞬、静かに佇んでいた。

「こりぁ、モナー達に話すことが増えちまったな…。…行くか、奴らも待っているしな」

 静寂を破ったのは、フサの呟き。そのまま、彼が走り出したので、ギコも少し慌ててついて行く。

「待てよー! こっちは病人だぞゴルァ!」

 言っていることとは反対に彼も元気に走り出す。

 森は、先程までの静寂に包まれ、見え始めた夕日に染められていた。



 森は思ったより深く、出るだけでも十分はかかった。これでは、病人ではなくてもかなり疲れてしまうだろう。案の定、ギコは息を荒く走っていたが、フサは平気に走っていた。

 森を抜けると、すぐに小さな村が……。村と言えるのかどうか分からない程荒んだ、所が見えた。

 入り口に立つと、小さな村が一望できる。最も数が多いのは、人間でも、家でもなかった。目を惹くのは軽く二百は超える、墓だった。

 十字に組まれた墓。その十字は、腐りかけた木で出来ている。これでは、死んだ者も報われないだろう。

「此処に…、そのモナー達って奴が…?」

 確認のため、フサがいる方向――いた方向を向く。そこにフサの姿はなく、あれ? 、と呟いた後彼の声が聞こえた。

「おぉーい、早く来いよ!」

 彼はとっくに、村の中に入っている。ギコは慌てて彼の所へ走り出した。

「早ぇよ! 何回も言うけどこっちは病人だぞ!」

 ギコが非難した時、二人とは違う、別の声が耳に入った。

「フサさん、どうでしたか?」

 フサの影にいて、ギコには姿を見ることは出来ないが、どうやら女性らしい。フサの彼女か? 、と少し右に寄ったら彼女の姿が見えた。

「おぉ、どうも。森で一体倒しましたよ。特に異変は無しです」

 フサが白い歯を見せて話していたのは、幼児を連れた母親だった。彼女は不安そうな表情で聞いていたが、この言葉を聞いて、安心したようだ。

「そうですか、良かった…。ほら、お前もお礼を言いな。いつも有難う御座いますってね」

「ありがとおございます!!!」

 可愛らしく、幼児はお礼を言う。フサはにっ、と笑いながら、右手でガッツポーズをした。

 しかし、彼女達に言ったのは嘘だ。本当は、今までに無いことが起こった。この悲しみの根源とも言える、彼奴等との接触を果たしたのだ。だが、フサはこのことを言わない。彼女達や村の者に不安をかけたくないからであろう。

「では、お仕事頑張ってください」

 簡単に彼女は会釈をして、二人と別れた。

「へぇー、お前って結構有名人ってかぁ?」

 ギコが、フサを肘で突付く。フサがやめろよ、と苦笑いで言う。そのまま、優しい笑みを浮かべ、彼は呟いた。

「どんなに、悲しみが襲っても…。皆は絶望に立ち向かっている。皆で力をあわせて戦う…。この村が俺は好きだ」

 ギコも優しい笑みを浮かべる。

「だから俺は戦う。この村に、もう一度笑顔を取り戻したいから…。悲しみは、笑顔には勝てないんだ」

 フサは言い放つ。この村も夕日に包まれていった。

第四章 完

           ◆     ◆     ◆

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー