NIGHTMARE CITY-NEXT STORY-
=新章<第一話>~光の兆し~=
(さよなら…)
(しぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!)
バッ!
オレは慌てて起き上がった。
「夢…か……」
ここはオレの部屋。今はベッドの上に上半身だけ起こしたような状態だ。
決して大きくも小さくもなく、ベッドにテレビ、本棚と机だけがある、ごく普
通のシンプルな部屋である。
「いや…夢じゃない。あれは……全部事実なんだよな………」
額に手をあて、眼から何故か涙がこぼれる。いや、理由はわかってる。
オレは眼を隠すように額に手をあてたまま、またベッドに寝そべり、悲しみに
暮れていた。学校にも、もう何日も言ってない。
「しぃ、オレはまだ罪を…償いきれてないよな。どうすれば…どうすれば償いきれる?死か?それとも別の何か……?わからねぇ…教えてくれよ…しぃ…」
ピンポーーーン。
家のベルが鳴った。父さんも母さんもいないからオレが出なきゃならない。でも、何もする気にならない。動くのもだるい。
「ギコーーー! お前何日学校来てないのかわかってんのかーーー!?」
窓から飛び込んできたのはフサの声だった。
「ともかく入るからな!!」
ガチャッ
玄関のドアが開いた音がした。そういえば鍵をしてなかったような気もする。
カツカツと階段を上がってくる足音がする。
カチャッ
今度はオレの部屋のドアが開く音。
「いるなら返事くらいしろよ…」
フーと息を吹き出して机の椅子に腰を下ろした。
「ギコ…お前何やってんだよ」
「………」
「眼ぇ覚ませよ…」
「眼は覚めてる。だからこそ…辛いんだよ…」
「……そうだよな。わかってるさ……でも、親友なんだからお前の力になりたいんだよ」
「あぁ…お前には何度も励ましてもらってる。感謝してるさ。でも……」
「こればっかりは…親友にも…どうにもできないか…?」
「…………」
何分間か沈黙が続いた。そして、沈黙をやぶったのはフサの携帯の音だった。
フサの好きそうな音楽の着信音が鳴り響く。
(ったく、こんな時に……)
フサがオレを横目に電話を取った。
「何だ」
電話は兄者からだった。
「大変だフサ!! 大事な話がある!!! >>1とおにぎりはもう来てる!! コアの前にギコを連れて来い!! 今すぐだ!!!」
キーーーーーン!
耳鳴りがなる程、オレにも声が聞こえる程大声だった。
「大声で叫ぶな! 鼓膜が破れるだろ! …ったく。で? 何が大変なんだよ?」
「詳しくは後だ! わかったな!?」
プッ、ツーツーツー……
「切りやがった…ま、あんな大声だったんだ。聞こえたよな?行くぞ」
「オレは行かない。行く気になれない……」
「いいから来い!」
そういうとフサはオレの手を引っ張って連れて行った。
「おい! 離せ! オレは行かねぇ!」
「……」
「無視かよゴルァ! 離せ!」
フサはオレの言葉には聞く耳も持たず、無理矢理引きずっていった。そしてみんなの所に到着した。
「待たせたな」
「あぁ。待ったぞ」
そこには弟者と妹者はいなかった。兄者、≫1とおにぎり、それと、
「!? サザン!」
と驚くオレ。
「久しぶりだな」
「こっちに来てたのか……」
「あぁ。あのサーバーも壊れたからな。元気してたか?」
「………」
「あれ?」
フサが間を割って、
「実はな…」
フサはしぃの事をサザンに話した。オレは、その話は聞きたくなかったから、少し離れた場所にいた。
「そうか…そんな事が……」
「あぁ……」
兄者が音が鳴るように手を叩き、こう言った。
「とりあえず本題に入ろう。今日は何の話で呼んだんだ?」
フサは目を丸くした。
「あれ? お前まだ聞いてないのか?」
「当たり前だろう?」
「いや、だってさっき…」
「あぁ、あれか。ああ言えばお前らすぐ来ると思ってな」
これには>>1とおにぎりもビックリして、
「え!? そうだったの!?」
「ひどいよ兄者!」
フサはあきれて言った。
「なんだ? お前らもか?」
兄者が眼を光らせて、
「全員さ。くっくっく…」
バカみたいに笑う。
「くっくっくじゃねぇよバカ! …まぁ、んなことどうでもいい。サザン」
「あぁ。今日みんなを呼んだのはな、大事な話があるからなんだ」
みんながゴクリとかたずを飲んだ。
「単刀直入に言おう。NIGHTMARE CITYは…消えてない。一部分だけが残ってるんだ」
「何!?」
全員が驚いた。
おにぎり、兄者、>>1、フサが順に、
「どうして…!?」
「戦いは終わったはずじゃ…」
「まままままさか、あいつまで残ってないよね!?」
「ちゃんと説明してくれ」
サザンが軽く頷いた。
「兄者、ナイトメアプログラムが存在しないとなると、街を救う方法は一つに絞られるよな?」
「あ、あぁ。管理AIを全員倒す。これしか残らない」
「そうだ。そして君達はそれをやってのけた。……のように思えた」
「違うのか?」
「管理AI全員が死ねばいい訳じゃない、全員を君達の手によって倒さなきゃいけないんだ」
「つまり……必ずこっちの住人が止めを刺さなきゃならないっていう事?」
「正解だ。そして管理AIは全員で8人。モララー、モナーにつー、8頭身が三人、そしてしぃ。モララーはギコが」
「つーは、妹者が」
「モナーは、あっちで避難してたこっちの奴らが」
「8頭身はレモナさん達が」
「そう。そしてお前らが手を下してないのは誰か。ギコ、・・わかるよな?」
「しぃ…」
「そうだ。だからしぃが死んだとこだけが残っている。そこで死んだ管理AIと共に」
オレは耳を疑った。信じられず、もう一度聞き返した。
「…なんだと? 今……今何て言った!?」
「わからなかっなら簡単に言おう。しぃは生きている。そう言ったんだ」
「しぃが…生きてる……?」
オレは涙を流した。最近は涙脆くてだめだ。あいつの事となると何かと泣いちまう。
「あいつが…生きてるんだな……?もう1度…あいつに…会えるんだな…?」
「そうだ。そしてこれからはずっと会える。聞いた話によるとしぃにも人間の姿があるとか。ならしぃもこっちに連れて来ればいいだけだ」
「そうか…そうか……!!」
拳を強く握って喜んだ。夢だとしても、覚めない自信があった。オレはしぃに言わなきゃいけない事があるから。守れなかった事を謝って、言わなきゃいけない。“オレも大好きだ”って…
<第二話>~再会の意外な結末~
フサがギコに向かって言った。
「ギコ、行くんだろう?」
「あぁ、もちろん!」
(ちっ、こいついきなり元気になりやがって……なによりだ)
オレはこの時フサが小さく笑ったように見えた。
「よし! なら行くのはお前一人だ!」
「へ?? なんで??」
兄者があきれたように、
「当たり前だろう? 俺達は二度とあんな場所行きたくないんだよ」
おにぎり&>>1が声を揃えて、
「同感」
二度ほど頷いた。
「そうゆうこった。それにお前達の再会に水差したくねぇ」
「そうか……」
「しぃが心配してるようならこう言ってやれ。こっちに来ても、もうお前の敵はいないってな」
「あぁ! サンキューなフサ!」
「大した事じゃねぇよ。礼ならサザンに言いな」
「そうだな……」
オレはサザンに駆け寄った。
「サザン、ありが……」
オレが礼を言いかけると、サザンが人差し指を立て、オレの口を押さえて、
「その言葉は、君がしぃを無事に連れ帰る事ができたら受け取るよ」
「サザン……わかった。必ず連れてくる!」
「さぁ、行くんだギコ。しぃは今でも君に会いたがってるはずだ」
「ああ! 言ってくる!!」
オレはコアに飛び込む準備をした。深呼吸を繰り返し、高鳴る心臓を静めた。
「じゃぁみんな、行ってくる!」
みんなが声を揃えて言った。
「絶対にしぃを連れてこいよ!」
オレはコクリと頷き、コアに飛び込んだ。
<NIGHTMARE CITY>
ヒュン!
黄色い光が地面に降り立ち、黄色い猫が目を開けた。
オレは辺りを見渡した。半壊したビルの数々、抉れた地面……様々な戦いの後が残っている。そしてここは紛れもなく、オレがモララーと戦った場所だ。
「ここは……そうだったな。ここしか残ってないんだ。って事はこの辺にしぃがいるはずだな…」
これで何度目だろうか。オレは桃色の体をした猫を探した。でも、範囲が狭いためか、今度は比較的早く見つかり、崖の近くで座っていたのを見つけた。
この辺は何か剣で思いっきり斬りつけたような傷が地面にあった。おそらくこれもあの戦いのせいだな。
心の準備はできた。これから声をかけるんだ。…って時なのに、何故か声が出ない。目もぼやけてきた。
(あれ…? なんで……)
ポタポタと水滴が地面に落ちた。目がぼやけていたので目をこすった。
(…? 指が濡れちまった……)
水滴はいまだに地面に落ち続ける。
頬に温もりを感じた。
(泣いてるのか……まったく、ここ何日かで何回も泣いちまってるぜ……今は悲しくなんて無いのに……嬉しいから泣いてるのか。いや、違う……この感情はもう嬉しいなんてもんじゃないよな……しぃ、会いたかった…良かった……また…巡り逢えた……!)
オレは力を振り絞って声を出した。
「しぃ!!!」
しぃの耳がピクリと動いた。辺りをキョロキョロ見渡して、後ろを向いてオレを見つけた。
「しぃ……」
でも、しぃは嬉しがるところか、驚きもせずに、ただ呆然として、どこか不思議そうにオレを見ながら、その口を開いた。
「えっと……しぃってあたしの事??」
「え……何言ってるんだ、当たり前だろう??」
「そう……それじゃぁ君は……誰??」
「え……な……」
「あ、ゴメンね。あたし、実は…何も思い出せないの…」
オレは言葉を失った。涙も気付かぬ間に止まっていた。信じられなかった。
信じたくなかった。
そんな……やっと会えたのに……忘れた……?この街が何なのかも、オレと会った事も……全部……忘れちまったってのかよ……
<第三話>~蘇る記憶~
「あの……あたしの事、知ってる限りで良いから教えてくれない? 何か思い出すかもしれないし」
「そうだな……わかった。少し辛い話になるかも知れないけど…聞いてくれるか?」
しぃは少し不安そうに、
「うん……自分が何だとしても、受け入れる覚悟はできてるよ」
「わかった。実は、この街はな……」
オレは話し始めた。この街が何なのか、オレの街で何が起きたか、何故オレがこの街に来たか。
オレとしぃが出会った事、友達になった事も。そして管理AIが何をしたか、しぃも管理AIだった事も話して、それをオレに黙っていた事も、オレがしぃを守りきれなかった事も話した。
でも……しぃがオレに好きだと言った事だけは、どうしても言えなかった。
「そっか…あたしは…そんな酷い事する人たちの仲間だったんだね……」
「仲間と言ってもしぃは何も悪さをしてないんだぞ? お前は悪くないんだ。悪いのは……管理AIと……オレだ」
「ありがと……でも、ギコ君は悪くないと思うな」
「いや、でも……」
「結局あたしは生きてたんだから! ギコ君に責任は一つも無いはずだよ?」
「そうだな・・ありがとう」
(しぃに記憶があってもこう言われただろうな。)
そう思うと、少し悲しくなってきた。でも…ホントに悲しいのはしぃの方だよな……記憶が無いってどんな気持ちなんだろうな……今、オレが来るまでしぃの頭の中は真っ白で、誰も知らないし、何の思い出も無かったんだ。それって絶対……寂しいよな……
「よし! 決めた!」
「え?? 何を?」
「しぃ、オレの街に来ないか?」
「え…でも…行ったって迷惑なだけだし……」
「誰が迷惑するんだよ??」
「ギコ君は……迷惑じゃないの??」
「誘ってる張本人が迷惑する訳ねぇだろ!」
「でも、あたしの事を敵って思ってる人もいる訳だし…それに、住む所も無いし…」
「大丈夫だよ! お前を敵なんていう奴は、もう一人もいない! 住まいなら泊めてくれる知り合いがいっぱいいるし、なんならオレん家に来てもいい!」
「でも、やっぱり……」
「あ~~でもでもうるせぇなゴルァ! 来たらいいんだよ! 戦いはもう終わってるんだ! 今はみんなしぃの友達だ!」
しぃが目を丸くして、少し泣きそうになった。
(やべ、強く言いすぎたかな……?)
「ホントに良いの……?」
心配してるしぃにとって、半ば強引に言われたのが逆に嬉しかったようだ。
「ああ。オレも、記憶なんかなくてもしぃの友達だからな! 思い出なんてこれから作れば良い! 悲しい時や辛い時はずっと傍にいてやる! 楽しい時は二人で大声だして笑い合おう! 絶対楽しいぜ!!」
しぃがポロポロ涙をこぼし始めた。そして、目に掌をあてて行った。
「ありがとう……」
「さ、行こう!」
オレはしぃに手を差し伸べた。
「うん!」
しぃはオレの手を取った。
(ギコ君の手…温かいな…でも、この温もりどこかで……)
(しぃと手を繋ぐのも久しぶりだな…)
なんて思ってると、しぃに変化があった。
(ドクン…)
「あ……」
「? どうしたしぃ?」
「何か…何か思い出せそう……」
「え……え!? ホントか!?」
「うん……ちょっと静かにしてて……」
そう言うと、しぃは頭に、オレと繋いでいない方の手をあてた。
オレは見守るしかない。祈る事しかできないけど……何か力になりたい。
オレはしぃの手を両手で握り締めた。
(声が……ギコ君の声が聞こえる……)
“オレが友達第一号だ!”
あ、ギコ君と初めてあった時だ。そっか、この時に友達になったんだっけ。
“このイツワリの街を出よう。必ず君を守るから”
うん…ずっと守ってくれたよね……
“良い管理AIもいるかもしれないだろ”
この言葉はすっごく優しい言葉だった。うれしかったなぁ……
“しぃ!オレは絶対にお前を守ってみせる!”
この時はギコ君が生きててホントに良かったって、あたしにとってギコ君は大切な人なんだなって思えた。
“すぐ戻るから……待ってろ。きっとキミを救い出してやる”
ホントに戻ってきてくれたんだよね。そしてあたしの心を救ってくれた。
“オレはお前が管理AIでも嫌いになったりしない!! ずっと友達だ!!!”
ぐすっ、なんだか泣きたくなってきちゃった……
“しぃ…やだよ…最後なんて言うなよ……”
ギコ君…あたしがいなくなるのをこんなに悲しく思ってくれたんだね…
“しぃーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!”
ギコ君………
「ギコ君!!!」
しぃが泣きながら、突然オレに抱きついてきた。
「んなっ……しぃ……?? 思い出したのか??」
真っ赤になりながらも、質問を投げかけた。
「うん…ぐすっ……全部思い出したよ………ありがとう、ギコ君……」
「良かった…しぃ…やっと……」
「やっとギコ君を見つけた…………」
「やっとしぃに会えた…………」
「「もう……離さない……!」」
唇と唇が重なった。言うまでも無く、オレもしぃも初めて。
顔を離し、目を合わせるとかなり恥ずかしくなってきた。
顔を真っ赤にして、涙目で、でも二人とも今までで一番の笑顔で笑いあった。
しぃが涙を拭いながら言った。
「あたし……もっとギコ君と二人で話したい……」
「じゃぁちょっと話してから行こっか」
オレとしぃは日が暮れるまで話した。ずっとこの幸せが続くと思うと、嬉しくてたまらなかった。
それから……しぃはこっちの街に来て、オレの家に住んでる。妹者かレモナさんとこに住めって言ったんだけど、オレと一緒が良いってきかねぇんだよな…
あと、戻ってきた時、フサ達は夜まで待ってた訳で、やっぱ怒られた。
そんで、しぃにはオレの街のある程度の事を教えて、今は一緒に学校に行ってる。しぃはいっつもオレに、「幸せだね」って言ってくれる。
だからオレはこの幸せな日常の為に、これからもしぃを守っていく。
<第四話>~次の戦い~
あれから一ヶ月が経った……
ここはオレ達の通っている学校。ここの校風は、服装は自由。名門校でもないごく平凡な中学校。学校自体は三階建てで、一クラス十八人ずつ。一学年二クラスで、それが三学年。全校生徒百八人の小さな学校だ。オレの席はしぃの横。後から二番目の一番左の窓際。んで、オレの後がフサで、フサの隣が兄者。こんな風に都合よくメンバーが集まった席配置。弟者と>>1とおにぎりは別のクラス。レモナさん達は高校に言ってて、妹者はもっと良い中学に行ってる。
二階の一番奥。ガヤガヤ騒いでいる三年B組の教室。そこにしぃが入っていった。
「おはよう。フサ君、兄者さん」
しぃが言うとフサは力が抜けた声であいさつを返した。
「お~~っす」
兄者はあいさつを返すと、質問を投げかけた。
「? ギコと一緒に来なかったのか?」
「途中までは一緒だったんだけど『忘れ物した!』って戻っちゃった」
そういうと兄者が鼻で笑い、フサは声を上げゲラゲラと笑った。
「ははは。ギコらしいな~~」
「しかし、あいつ間に合うのか?」
「う~~ん……わかんない。間に合うと良いんだけど……」
しぃの心配も虚しく、学校の鐘が鳴り、先生が入ってきて出席をとり始めた。
「はい、ゲームオーバ~~」
フサが言った。
「ギコ! ギコはいないのか!?」
先生の怒り混じりの質問にフサが答える。
「遅刻っす。そろそろ来る頃と思いますよ」
「そうか、全くあいつは……まぁいい」
全員の出席をとり終わり、一時限目が終わってもギコは来なかった。
「ギコ君遅いな~……もしかして何かあったんじゃ……」
しぃが心配そうに言った。
「大丈夫さ。ギコは何かあったってお前がいる限り死なんと思うぞ? なぁ、フサ」
兄者が言うと、フサは少し可笑しそうに、
「ま、そいつは間違いねぇな。なんたって、傷だらけで海に落ちてもしぃの為に生き延びた様な奴だかんな~」
「もう! 恥ずかしいからその話は出さないでよ!」
「良いじゃねぇか。ギコの数少ない武勇伝だぜ??」
「うんうん。その上、しぃが関ってないと何もできない情けない奴だからな」
フサと兄者がふざけていると、後に金髪の人影が現れた。
「勝手な事言ってんじゃねぇよ!!」
ギコがフサと兄者の頭にゲンコツをした。ゴツンという鈍い音が、二回続けてオレの耳に入ってきた。
「ってぇな! 冗談だよ冗談!」
フサが涙目で言う。
「ほう? 冗談には聞こえんかったが?」
「馬鹿だなぁ、ギコ。もう長年付き合ってるのに、フサやオレの冗談も見抜けんのか?」
兄者があきれたように言った。
「ったく、よくそんな言い訳がスラスラと出てくるもんだな」
オレは兄者の言い訳も聞く耳持たず、ドカッと自分の席に座った。
{ダメだ……ギコの奴、不機嫌モードに入っちまった。しぃ、何か話題代えてくれ}
フサが小声でしぃに頼むと、しぃは頷いてオレに話しかけた。
「ギコ君、随分遅かったけど何かあったの?」
{{ナイスフォロー!!}}
こらまた小声で兄者とフサが。そしてしぃにガッツポーズ。
「ん?? …そうだった! 忘れるとこだったぜ! 実はな、来る途中にサザンがいてよ、オレ達に話があるらしいんだ。でも、『しぃとフサと兄者はもう学校行ったぜ?』って言うと、『みんなが集まってる時に話したい。学校が終わったらコアの前に来てくれ』だとさ。かなり思いつめた顔してたから、『そんなに重要な話なんか?』ってオレが聞くと、『とても深刻なんだ。君達にもホントは話したく無い。巻き込む事になるからな。でも、私一人の力では…奴らは倒せないんだ』だってよ」
しばらく、三人は状況を把握できないでいたが、フサがかたくなに口を開いた。
「倒せないって事は……」
それをしぃが付け足すように言った。
「また……戦いが始まっちゃうの?」
そして、兄者が言った。
「奴ら……と言う事は、複数だな」
オレはコクリと頷き、言った。
「あいつ、ホントに深刻そうだった。多分、かなり厳しい戦いになるんだろうな。『ホントに戦う覚悟がある者だけ来て欲しい』って言ってたし・・」
「どうするよ?」
フサがみんなに聞いた。オレは最初に答えた。
「オレは行くぜ。あいつには恩があるし、大切な仲間なんだ」
続いて兄者が、
「だな。オレも行こう。フサ、お前自身はどうする?」
「行くに決まってんだろ? オレだけ逃げてどうすんだよ」
フサが言うと、オレはしぃに言った。
「しぃ、危ないからお前は……」
「あたしも行く! なんて言おうと行くからね!」
しぃが強い決意の目で言ったんで、オレは
「わかってるよ。お前はそういう奴だ。でも危険な戦いになる。だからお前は……オレが守る。絶対にオレの傍から離れるなよ」
「うん! 絶対に離れない!」
「ヒューヒュー! 熱いねぇお二人さん!」
フサがからかう様に言った。
「うるせぇなゴルァ!」
オレは怒りながら、しぃは黙りながら赤くなっていた。そこを兄者が仕切るように言った。
「よし! ともかくこれで決まりだな」
フサがいきなりキリッとした顔つきになって、
「あぁ、そうだな」
「てめぇは何いきなり真面目そうになってんだよゴルァ!」
「なんだと!? オレはいつでも真面目だろうが!」
オレがフサと言い争っているのを、兄者が爽やかに無視して言った。
「にしても、仲間の為に危険をおかすなんて……流石だよなオレら」
「くすっ、兄者さんのその台詞、久しぶりに聞いたな」
そこへ、
「おい、そこ!! もうとっくに授業は始まっとるのに、いつまでも騒いどるんじゃ無い!!!」
オレ、しぃ、フサ、兄者の四人に先生の怒号が響く。
「「「「す、すみません……」」」」
{おいフサ、てめぇのせいで怒られちまったじゃねぇか・・}
{何!? そりゃぁオレの台詞だ!}
{まだやってるの~?}
{どう考えてもお前ら二人のせいだろ……}
「何ぃ!? 兄者! お前も横で何か喋ってたろ!?」
「全くだ! オレとフサだけ悪者かゴルァ!!」
「オレはそんなに大きな声じゃなかったんだよ!」
「もう! 三人ともいい加減にしなよ!!」
教師は怒りのあまり、チョークを砕いて四人を指差した。
「四人とも廊下に立っとれーーーーー!!!!!」
「ゲ……」
「マジかよ……」
「あたしも~?」
「最悪だ……」
キーン コーン カーン コーーーン……
---放課後---
オレは疲れ果てて、大きなため息をついた。
「はぁ~~……今日は散々だったぜ……」
「誰かさんのおかげでね」
「悪かったよしぃ……」
「全く、いい加減にしろよギコ!」
「もうこれっきりにしてくれな」
フサと兄者が言う。
「お前らには言われたくねぇ!」
「もうケンカはやめてよ? コアに行くんでしょ、ギコ君」
しぃがオレを止めて、別の話題を振った。どうもこいつはこういったのが得意だ。
「そうだった! おい、急ごう!」
オレ達は校門を出た。
そしてコアに向かう途中、フサが気付いたように言った。
「あ! おにぎり達はどうすんだ!?」
すると兄者が言った。
「休み時間の間に確認は取ってる。あいつらは来ない」
「なんで?」
「妹者と弟者は兄として危険な目に会わせたくない。おにぎりと>>1は戦いに不向きだろう?」
オレは聞いた。
「レモナさん達は?」
「……『不吉な空気が漂っているのは気付いてました。でも、私達は不必要な戦いは好まない。あなた達とは仲間と思ってますが、そのサザンという方とは会った事が無い。故に手助けする義理はありません』だそうだ」
「そうか……仕方ねぇな。もっともな理由だし」
「ねぇ……レモナさんって……誰なの?」
しぃの質問に、オレ達は顔を見合した。そして、フサが答えた。
「あぁ、しぃは知らねぇんだよな。一緒に街を救った仲間だ」
「へぇ、そうなんだ」
オレは大きな声で言った。
「なぁに! あの悪管理AIより強い奴なんていねぇさ! オレ達だけでサザンを手伝おうぜ!」
「ああ、もちろんだ!」
---それから数分後---
オレ達はコアに着いた。そこにサザンの姿があった。
「よっ、サザン」
「ギコ……来てくれたのか。ありがとう」
「久しぶりだな~」
「フサ、兄者も……」
「あたしも来たよ~」
「しぃ! ……君まで来てくれたのは嬉しいが、危険な戦いになるんだぞ?」
「大丈夫! ギコ君が絶対守ってくれるから!」
「そうか……みんな、恩に着る。君達の力があればどうにかなるかも知れない……ギコ、しぃ、フサ、兄者。……頼む。私に力を貸してくれ」
「な~に言ってんだよ! 仲間だろ? サザン!」
「最初からそのつもりだよ!」
「どんな敵でも、チャチャッとかたづけてやるよ!」
「オレの力でよければいくらでも貸すさ。さぁ、話してくれ。次の敵の事を」
「感謝する……では話すぞ。念を押すようだが……この話を聞くと後戻りはできない。しかし、君達の決意は伝わった。私も………覚悟を決めよう」
そしてオレ達はこの日、サザンの過去を知る事になる。でも、それは信じられない事で……まさか、あのモララーが……それに、クロノスって……?
<第五章>~サザンの過去・上~
「みんなに敵の事を話す前に、話さなければいけない事がある」
話さなきゃいけない? こんな重要な時に? それ以上に重要な話なのか? オレにはいくつかの疑問がとっさに浮かんだが、フサの一つの質問でわかった。
「こんな時に話すんなら、敵に関係してる事なんだな?」
サザンが首を縦にコクリと振る。
「私の……過去だ」
「「「「!?!?!?」」」」
オレ達は全員が目を丸くした。
そう言えばサザンの過去は聞いた事がない。聞こうともしなかったし、サザンも話そうとしなかったからな……でも、話そうとしてくれたって事は…それ程オレ達の事を信頼してくれたんだな……
「これは六年前の話だ・・・---
当時、この『DREAM CITY』にはいつ何時も行動を共にする三人の男がいた。赤い髪の男に青い髪、緑の髪をした男。この男達はある仕事を共にしていた。殺人以外の戦闘依頼ならなんでも受け付ける仕事だ。当時も今も、とても珍しい仕事でな、この仕事に名前なんて無いんだ。
この仕事は正に三人の天職だった。三人は次々と来る難儀な依頼を簡単にこなしていった。その内、この三人組にはある呼び名が着いた。色鮮やかな髪をした三人の戦士で、『色彩三戦士』。個人個人の呼び名もあった。
『赤髪のサザン』、『緑髪のクロノス』、そして・・・『青髪のモララー』。
---現在---
「「「「モララー!!??」」」」
オレ、しぃ、フサ、兄者はまた同時に驚いた。
「あいつもこの街の住人だったんか!?」
「モララーがサザンの仲間だったなんて……」
「何がどうなってんだ!!??」
「サザンの仲間だった奴がどうしてあんな悪になれるんだ??」
ギャーギャーとオレ達が騒いでいると、
「み、みんな……話は落ち着いて、最後まで聞いてくれ」
オレ達は静まり返った。オレはみんなを代表して謝罪した。
「あ、悪い……続けてくれ」
そう言うとサザンが話を続けた。
---六年前---
私達は自分達が一番強いと思っていた。そんな私達の元に一つの依頼が転がり込んできた。その依頼内容は・・・
『この街と同じ電波を発する街の調査』
そう。わかったと思うが、これが『NIGHTMARE CITY』だ。夢と悪夢、正に表裏一体のこの二つの街はどうゆう関係なのか、この調査だった。普通の調査団体に頼めば良いのだが、危険を伴うため、私達に依頼したそうだ。
クロノスが目を輝かせて言った。
「面白そうじゃんか! 危険な臭いがプンプンする! 行ってみようぜ!?」
それにモララーが答えた。
「いつもいつも暑苦しい男だ。だが……行ってみる価値はある。サザン、貴様はどうする?」
その質問に私が答えた。
「お前達が行くのに私が行かない訳にもいかないだろ? それに、行ってみたいのは私も同じだ」
この一言ずつである程度わかると思うが、クロノスはリーダーシップがあり、情熱的な男で、モララーは冷静沈着で口は悪いが、根は仲間想いの男だった。
この二人と共にする日々は、充実していた。そして、大切だった。だが、そんな大切な日々が、依頼実行当日に崩れる事になるんだ……
---現在---
サザンが話を急にやめ、オレ達に言った。
「……もう一時間も話し続けたのか。一息つこう」
サザンも話し続けで疲れたと思い、オレは同意した。
「そうだな……少し休むか」
オレ達はこの後、サザン達にあの街で何があったのかを知る事になる。そしてそれを聞き終えた時に……次の戦いが始まる。
<第六章>~サザンの過去・下~
休憩して十分が経った。
「サザン、そろそろ良いか?」
「ん……ああ、そうだったな。ではそうしよう」
サザンは何か考え事をしているようだった。やっぱ昔話をしてると色々思い出すのかな……
「どうかしたの? ギコ君」
「へ? いや、なんでもないよ、しぃ。サザン、始めてくれ」
オレが言うとサザンはコクリと頷き、話を再開した。
---六年前---
依頼実行当日……私達は依頼者の元に向かった。
小一時間程歩くと依頼者の仕事場である、大きな研究所に着いた。
「でっけぇな~~……ってゆうかさ、研究所って事は…依頼者って科学者なのかな?」
「……は?」
クロノスの漏らした言葉にモララーは絶句した。私はクロノスに言った。
「クロノス、依頼の手紙が来た時は依頼内容だけでなく、ちゃんと差出人まで確認しろといつも言ってるのに……」
「ん? そんなん書いてたか?」
「貴様……もう帰れ」
「まぁまぁ、モララー。いつもの事ではないか」
「いつもの事だから愛想が尽きたんだ」
依頼の手紙が来ると、クロノスは依頼内容だけ見て受けるか受けないかを決めていた。この男は全ての依頼を受けたがな……
「別に良いじゃんか! 誰の依頼でも実行するのは俺らなんだ!」
「まあ……一理ある」
「よし、それじゃぁ中に入ろうか。クロノス、モララー」
私達は研究所のドアを開けた。中に入ればまるで別世界の様な所だった。前を見れば科学者。右を見ても左を見ても科学者だからな。人が千人は入るほど大きな建物だった。
中に入った私達に、一人の科学者が話しかけて来た。
「ようこそ。色彩三戦士様ですね? お待ちしておりました」
「と言う事は、あなたが依頼者ですね?」
そう私が聞くと、彼はこう答えた。
「そうですねぇ……正確に言えば、ここの科学者全員が依頼者です」
この言葉からわかる様に、その同じ電波の街と言うのは、ここの科学者全員を動かす様な問題だった。
「どうぞ、こちらです」
「どこへ?」
「博士の元に案内します」
博士はここの総責任者だった。
{俺こう言う堅苦しい雰囲気に苦手なんだよなぁ……}
{……俺もあまり得意じゃない}
道理でこの二人は口数が減るわけだ。難しい話が嫌いらしい。
一つの大きな直線を数分間歩くと、大きな部屋に到着した。
「博士。色彩三戦士様がお見えになられました」
「そうか、入れ」
部屋の中から声が聞こえた。その声を聞くと、科学者がカードキーでそのドアを開けた。
「どうぞ、お入り下さい」
中はコンピューターとファイル、ディスク等、科学者ならではの物が数多くあった。
「お待ちしておりました。私がここの総責任者の者です。ここの科学者には『博士』と呼ばれております。早速ですが、本題に入ってよろしいかな?」
「どうぞ。ここの二人は頭が悪いので、率直簡潔にお願いします」
「サザン、てめっ!!」
「まとめるな。この男よりはいくつかはマシだ」
「モララー! なんだそりゃ!」
「事実を述べたまでだ」
ギャーーギャーーと言い争いをしてる二人を後に、
「では博士、具体的な依頼内容を」
「い、良いんですか?」
「構いません」
「そうですか……では申し上げましょう……同じ電波を発する街。これは手紙に書きましたよね?」
「ええ」
「実はですが……同じ電波を発する街、これは絶対に有り得ません。同じ電波を発するなら、構造が全く同じでないとならない。だがそんな事は絶対に有り得ません。しかし実際にその街は今も尚、その電波を発している。以上を踏まえて考えられるのはただ一つ。この街は……」
急には信じられない話だったが、私は瞬時に理解した。そこで一つの答えに行き着いた。
「データの街……」
私がそう言うと博士が頷いた。
「御名答。そこで私達は、あなた方をデータの街にも転送できる装置を至急開発しました。その装置はこちらにあります。ついてきてください」
私達は更に奥へと進んだ。その部屋には大きな穴しかなかった。
「では飛び込んで下さい」
「「「……何?」」」
あまりにも唐突だったので何を言ったのかわからなかった。数秒すると全員理解した様だ。
「おうおうおう! いきなりなんだ飛び込めとは!」
「どけ、クロノス。この男……死にたいらしい」
「モララー、それはやり過ぎだ……博士、どうゆう事です?」
「サザンさん、こちらが先ほど言った装置です」
「装置!? この穴が……ですか?」
「はい。これに飛び込めばあの街に転送されるはずです。ただ……一つ問題が……」
「問題? なんです?」
「要領制限です。その人の力量が多いと、別の姿になってしまいます。そしてあなた方は……制限をかなりオーバーしている。つまり、強すぎるのです」
「はっはーん! 俺達が強いってか! わかってるじゃねぇか! 聞いたかモララー!? 強いだってよ!」
「当然だ。だが別の姿と言うのが気にかかる」
「同感だな。博士、別の姿とは?」
「入ってみないとわかりません」
「ま、とりあえず入ってみようぜ。サザン、モララー」
「「ああ」」
そうして私達は穴に飛び込んだ。気がつけばすでに猫の姿だった。それぞれ髪の色になっていた。クロノスは驚き、モララーは力が弱くなったのを嘆いていたその時、遠くに四つの光の玉が見えた。
私はそれを見つけ、未知の物だった為二人に言った。
「二人共、あれを見てみろ」
「「何だ?」」
その玉はそれぞれ、『黄』『青』『白』『黒』の色合いだった。
黄の玉ははじける様な、青の玉は静寂な、白の玉は聖なる気が漏れていた。だが黒の玉だけは……邪悪な感じがした。
「あれは危険だ……」
「モララー!? 汗だくじゃねぇか! そうしたんだ!?」
「クロノス……サザンもだ…どこか遠くへ行ってろ。黒の玉は…俺を呼んでいる」
モララーが言ったこの言葉。私はこの言葉を信用し、納得した。何故なら…
「私も……黄の玉が呼んでいる様な気がする……」
「お前もか? 実は俺もだ。どうも白の玉が俺を呼んでるようでならねぇ」
「そうか……貴様らもか。それなら話は早い。各々その光の前に行ってみろ。十中八九、何かおきるに違いない」
私達は息を呑んだ。一番心配なのはモララーだった。あの邪悪な光に触れて大丈夫なのか……
「行くぞ」
私達は少しづつ光の玉へと近づいた。最初に私が触れた。黄の光の玉は私の体へと入っていった。すると、体の中にとてつもない力を感じた。
「こ、これは……」
「力の覚醒か…」
「力の覚醒? 知ってるのかモララー」
「ああ……この世界のどこかには『自然の力』を封印したオーブがあると聞いた事がある……そして選ばれし者がその光に触れれば……力が覚醒する。察するに貴様の力は『雷』だな」
そう、はじける様な気の正体は『雷』の力だった。そしてこの時青のオーブだけが街の外へと飛び出していった。おそらく私の覚醒がキッカケで、適合者を探しに行ったのだろう。青のオーブは『水』の力。適合者はギコの父だ。
そして今度はクロノスが白のオーブに触れた。
「モララー……白は何の力だ?」
「おそらく……『光』だな」
事実、その時クロノスの体には聖なる気、オーラが出ていた。
そして次はモララー。だがモララーに触れさせるのは、あまり気は進まなかった。
「モララー、その黒いオーブは……」
「『闇』の力だ。この邪悪な気から見ても間違いない」
「な……だめだモララー! 闇なんて……そんなの力じゃない!」
クロノスがモララーを止めようとした。私も止めたのだが、モララーは聞かなかった。
「貴様らが覚醒したと言うのに、俺一人が弱いままじゃぁ情けねぇんだよ」
そう言ってモララーは黒のオーブに手を触れた。この時に……力尽くででも止めるべきだったんだ。
闇のオーブはモララーの中へ入っていった。
「ぐっ……」
「「モララー!!??」」
「が……あ……」
モララーの手が赤く光った。
「クロ…ノス……サ……ザン……どこか……遠くへ……逃げろ……」
「な、何を……」
モララーの歯を食いしばった音が聞こえる。それ程強く力を抑えているんだ。
モララーが全身の力を振り絞って叫んだ。
「早くしろ! これ以上は抑えきれん!! 貴様らに危害を加えてしまう前に!! 早く!!!」
モララーの言葉を聞いたサザンが私の手を掴んだ。
「サザン! 行こう!!」
「しかし……」
「あいつの覚悟を無駄にする気か!?」
そう言ったクロノスの口には血が垂れていた。クロノスも歯を食いしばって耐えているんだ。
「わかった……行こう」
「よし! モララー!! 待ってろよ!! どうにかしてみせるからな!!」
私達は走り出した。
「クロノス、どうするつもりなんだ?」
「とりあえず博士のとこに戻ろう。あんなに科学者がいりゃぁ解決策の一つは考えてくれんだろ」
そうして私達はコアを目指した。その途中に……
「う……が……あああああああああ!!!」
巨大な闇の力が空に放出された。空には大きな黒い球が現れた
それを見たクロノスが言った。
「な、なんだ!?」
闇の力が放出されたんだ。大方の予想はついた。
「おそらく……モララーが……」
「くっ……サザン! お前は先に戻れ! 俺はモララーの様子を見てくる!」
「な……しかし……」
「大丈夫だ! 絶対にそっちに行く!!」
私はこの時クロノスを信じた。
「……わかった! 必ず戻るんだぞ!」
「ああ!!」
そうしてクロノスはモララーの方へ向かった。
数分走って、私はコアにたどり着き、そこへ飛び込んだ。
だが……そこにはあの大きなコンピューター室しか残されていなかった。後は跡形も無く……消し飛んでいた。コアの部屋は、その穴だけどこか別の場所へ飛ばされたらしい。
そしてここからはクロノスから聞いた話だ……
「モララー! 平気か!?」
クロノスがそこに着くと、ここの住人だった者達が集まっていたらしい。
「な、何だ今のは!?」
「俺は見た! そこの紫の猫が空に何か黒い物を!!」
「あれか……? 『ダークマター』って言うんだよ。次元の消去だ」
「なんだと~~? いきなり意味わからんことほざきやがって!」
「この辺じゃぁ見ん顔だな! どこから来た!?」
「どこから……?教える必要は無い。その代わりと言っては何だが…貴様らの行き先は教えてやろう」
「あ~~~?」
「あの世だ」
突然モララーの手から赤い剣が出て、その剣でその場にいたクロノス以外の人達を一瞬にして……殺した。
(な……モララーが……殺した……のか?)
「フン。骨のある奴はいないのか」
モララーがそう言うと、白い猫と赤い猫。それと白で胴の長い猫が三人が騒ぎを聞きつけて来た。
「な、何モナこれは!?」
「アヒャ!? お前らどうしたんだ!?」
「ハァハァ……お前がやったのか!?」
「ハァハァ……許さん!!」
「お前らハァハァうるさいぞ!! ハァハァ……」
「オマエモナー!!」
「くっくっく……お前らもそうなるか?」
この五人がかなり強かったらしく、モララーも苦戦した。
この五人は倒れたが、モララーも限界で、殺すまではいたらなかったらしい。
「貴様ら……なかなかの腕前だ……面白い、俺の部下になれ」
そう言うとモララーは、赤い剣から黒の小さな玉を出した。
「ダークマインド」
小さな玉は五人の体に入っていった。
「「「「「う……」」」」」
五人が立ち上がった。しかし、この五人には先ほどの正義の面影は無く、モララーと同じく邪悪な気を出していた。
「貴様らはこれから俺に従え。俺と共にこの街を支配するんだ」
「了解モナー」
「アヒャ! 殺しまくってやるよ!」
「「「ハァハァ……色男……」」」
「俺達は『管理AI』だ。邪魔する者は誰であろうと殺せ。かつての……仲間でもだ!」
そう言った瞬間、モララーはクロノスを睨みつけた。
「もしくは貴様も悪に染まるか!? くらえ! ダークマインド!」
再び黒い玉が出てきた。クロノスも危険を感じたらしく、コアのある場所まで逃げた。
そしてコアの前……
「ふ~~ここまで来りゃ安し(ドクン)…ん……」
黒い玉はここまで追跡していて、遂にクロノスの体に入り込んでしまった。だがしかし、クロノスが光の適合者のためか、闇の効果は現れなかった。
「……ビ、ビックリした~~~! まさかここまで来てたとはな……まぁ何とも無くて安心だ。さてと……サザンに合流すっか」
そうしてクロノスは私のとこに戻ってきた。そこでこの部屋しか残ってないのを説明した。
おそらく、科学者達は全員……死んだという事も。
私達は対策を練った。だが…もはやその作戦はモララーを救うものではなく、管理AIを全滅させる為のものになっていた。
---現在---
…---まぁこう言ういきさつで、モララーはああなったと言う事だ」
「ギコ君……わかった?」
しぃがオレに問いかけ来た。オレは正直に白状した。
「全然。いきなり色んな事がわかりすぎて逆にわからん!」
すると兄者が、
「で、サザン。それと今度の敵の関係は……?」
「……クロノスにダークマインドが入った事は言ったよな?あの効果が……六年の時を経て現れた」
「何!?」
もちろんオレは驚いた。しぃもフサも兄者も驚いたようだった。
「それって……もしかして…」
「今度の敵は……」
「闇に染まった……」
サザンがコクリと頷いて、
「クロノスだ。皮肉なものだ……光の力を持つ者が闇に染まるとは」
オレはサザンに聞いてみた。
「で、でもよ、クロノスが闇に染まったからっていきなりサザンのとこに来るって事は無ぇだろ!?」
「いや………まずは適合者を狩りに来るはずだ。ここには適合者が三人いるからな」
「三人?サザンが『雷』でギコが『水』、他に誰がいるんだ?」
フサの言ったこの疑問はオレ達全員が思っていた事だった。そしてそれは、全員が思いもしなかった意外な答えだった。
「そうか…言ってなかったな。実は……しぃ、君は『風』の適合者だ」
「え!? あたしが!?」
やはり全員驚いた。でも、オレは少しだけ心配になってきた。
「じゃぁしぃも狙われてるのか!?」
「そんな……」
心配しているオレとしぃに、フサが言った。
「そ~んな心配そうな顔すんなって! ギコが守ってくれるんだろ!? なら安心じゃねぇか! なぁ兄者!」
「ああ、ギコなら必ずしぃを守るだろうな。なぁギコ!」
「! お、おう! 当たり前だ! しぃはオレが守る!」
「ギコ君……」
「なぁサザン。オレと兄者はお前たちみたく、今は武器が無いんだが……取りに行ったほうが良いか?」
「そうか……ギコは剣、しぃは弓、サザンも何かしら能力があるわけだしな…」
「ああ、取りに戻ったほうが良い。と、言いたい所だが……もう遅いみたいだ」
「え……?」
オレ達は振り向いた。そこには大柄な、緑髪の男が立っている。
誰だ……?
「クロノス……久しぶりだな」
な……こいつがクロノス!?
「よう、サザン。殺しに来たぜ。それとそこの金髪のガキと女。お前らも殺しといてやる!」
はぁ? こいつはいきなり来てガキだの殺すだのムカツク野郎だな……しぃには手を出させねぇ! こいつはオレがぶっ飛ばしてやる!
<第七章>~戦闘開始、炎地覚醒、宿敵蘇生~
クロノスはオレ達を一通り見渡して言った。
「三対一か……ちと辛いかな」
その言葉を聞いたフサが小声で言った。
{おい兄者……今あの野郎、オレ達を頭数に入れんかったぞ}
{必然だ。力の無いオレ達など、奴から見ればムシケラ同然だろう}
「ちっ、気にくわねぇな!」
フサが丸腰でクロノスに向かって行った。
「フサ!? 無茶だ! 武器も持たず……」
そんなサザンの忠告も虚しく、フサは拳を振りかぶった。
「おらーーー!」
「力も持たねぇ奴が、この戦いに手を出すんじゃねぇよ!」
クロノスは大きく上にジャンプした。フサの拳は空を切った。
クロノスの両手に力が集まるのがわかる。
「エレメントアーム! 光の斧・ライトアックス!」
クロノスの手には、白い斧がある。あれがあいつの武器だろう。
「とりあえず……お前から死ぬか!?」
「くっ……!!」
オレはフサの元へ走った。
「水の剣!」
オレの手に水の力が集まり、集約され剣となった。
光と水が交わった。オレはクロノスの斧を受け止めた。
「お前が……『アクアブレード』の使い手か」
「アクア……ブレード?」
「その武器の名前だよ」
嘘をついてるようには見えない。『アクアブレード』、それがこの剣の名前。
「ギコ……」
「フサ、下がってろ!」
「で、でもよ……」
「早くしろ!!!」
「う……」
フサが走り出した。
「あんな奴どうでも良い。今の狙いは……お前だ! 金髪!」
「へっ、お前がその斧をどけた瞬間、剣が喉にグサリだぜ?」
「どける…? 俺がか? バカいうな! 剣は斧に比べて軽いため、小回りが利くが……力なら斧が上だ!」
どんどんオレの剣が押されてきた。
(くそっ…もう耐えられない……!)
「ギコ君!!」
「!? しぃ!?」
しぃが弓を構えている。
「しぃ! やめろ! 標的がお前になっちまう!」
「あたしだって戦える! 守られてばかりじゃない!」
「…しぃ……」
オレはボソリと口にした。
「女。撃ってもいいが、このガキの寿命がちょっと伸びるだけだぜ?」
「あなたには誰も殺させない!」
「ほう、肝っ玉の座った女だ。おいガキ、どうする? このままじゃぁあの女が先に死ぬぜ?」
ピクッ
耳障りな台詞に、オレの耳が反応した。
「何……だと?」
グググ……
オレの剣がクロノスの斧を押し始めた。
(こ、このガキ……力が上がりやがった!)
オレは右足を上げ、あいつの腹に蹴りをくらわしてやった。
「ぐあっ!」
クロノスは五m(5メートル)程吹っ飛んだ。
オレはあいつの方に剣を向けて言った。
「おいクロノス! しぃに指一本でも触れみろ! 容赦しねぇぞ!」
「……それは俺の台詞だ。お前……楽には死ねないぜ!」
「フサ! ギコがやったぞ!」
兄者がフサに言った。フサは下を向いていて、地面には水で濡れて滲んだ部分が数箇所ある。
「……情けねぇ」
「…フサ……?」
「オレは……管理AIを一人も倒せなかった…今回も…足手まとい…なのか…?嫌だ! 足手まといはもう嫌だ……!」
「…フサ、オレもだ。面白いもんだ……ギコの奴、ちょっと前まではすぐにオレ達を頼ってきたのになぁ。今じゃぁオレ達が頼る側だ……」
「「力が……欲しい!」」
その話を聞いたサザンが二人の元に駆け寄り、言った。
「フサ、兄者。力を手に入れて……どうするつもりだ?」
その質問にフサが涙を拭い、答えた。
「オレは……街を救うだとか、そんな大それた事は考えてない。ましてや今回の戦いはいきさつが良くわからねぇ。……オレの答えは単純だ…
オレはギコの力になりたい
次に兄者が。
「オレも知らない誰かの為なんてのは考えてない。でも……弟者と妹者がいつ危険にさらされるかわからない。その時は長男のオレが守らなきゃならないから…
オレは兄弟を守れる力が欲しい
二人の答えを聞いたサザンが言った。
「…君達の決意は伝わった。君達なら……適合できるかもしれない」
「「適合って……まさか!?」」
サザンがコクリと頷いた。
「受け取れ。『地』と『炎』のオーブだ。この一ヶ月間、私はコアを探しに世界中を歩き回った。この二つがその収穫だ」
サザンが取り出したそのオーブは、『茶』と『赤』の色をしていた。
「どうだ……呼ばれてる感じはするか?」
「「ああ」」
「!? こんなにあっさり適合者が見つかるとは……」
「オレが『赤』って事は……兄者、お前は『茶』か」
「ああ…これでオレ達も…」
「「戦える!」」
二人はオーブに手を触れた。オーブは二人の中へ入っていった。
「よし、今から君達のエレメントでの戦い方を教えよう」
三人は数分話し合った後、
「よし、ギコの元へ行こう!」
サザンが言うと二人は頷き、オレのとこに来た
=新章<第一話>~光の兆し~=
(さよなら…)
(しぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!)
バッ!
オレは慌てて起き上がった。
「夢…か……」
ここはオレの部屋。今はベッドの上に上半身だけ起こしたような状態だ。
決して大きくも小さくもなく、ベッドにテレビ、本棚と机だけがある、ごく普
通のシンプルな部屋である。
「いや…夢じゃない。あれは……全部事実なんだよな………」
額に手をあて、眼から何故か涙がこぼれる。いや、理由はわかってる。
オレは眼を隠すように額に手をあてたまま、またベッドに寝そべり、悲しみに
暮れていた。学校にも、もう何日も言ってない。
「しぃ、オレはまだ罪を…償いきれてないよな。どうすれば…どうすれば償いきれる?死か?それとも別の何か……?わからねぇ…教えてくれよ…しぃ…」
ピンポーーーン。
家のベルが鳴った。父さんも母さんもいないからオレが出なきゃならない。でも、何もする気にならない。動くのもだるい。
「ギコーーー! お前何日学校来てないのかわかってんのかーーー!?」
窓から飛び込んできたのはフサの声だった。
「ともかく入るからな!!」
ガチャッ
玄関のドアが開いた音がした。そういえば鍵をしてなかったような気もする。
カツカツと階段を上がってくる足音がする。
カチャッ
今度はオレの部屋のドアが開く音。
「いるなら返事くらいしろよ…」
フーと息を吹き出して机の椅子に腰を下ろした。
「ギコ…お前何やってんだよ」
「………」
「眼ぇ覚ませよ…」
「眼は覚めてる。だからこそ…辛いんだよ…」
「……そうだよな。わかってるさ……でも、親友なんだからお前の力になりたいんだよ」
「あぁ…お前には何度も励ましてもらってる。感謝してるさ。でも……」
「こればっかりは…親友にも…どうにもできないか…?」
「…………」
何分間か沈黙が続いた。そして、沈黙をやぶったのはフサの携帯の音だった。
フサの好きそうな音楽の着信音が鳴り響く。
(ったく、こんな時に……)
フサがオレを横目に電話を取った。
「何だ」
電話は兄者からだった。
「大変だフサ!! 大事な話がある!!! >>1とおにぎりはもう来てる!! コアの前にギコを連れて来い!! 今すぐだ!!!」
キーーーーーン!
耳鳴りがなる程、オレにも声が聞こえる程大声だった。
「大声で叫ぶな! 鼓膜が破れるだろ! …ったく。で? 何が大変なんだよ?」
「詳しくは後だ! わかったな!?」
プッ、ツーツーツー……
「切りやがった…ま、あんな大声だったんだ。聞こえたよな?行くぞ」
「オレは行かない。行く気になれない……」
「いいから来い!」
そういうとフサはオレの手を引っ張って連れて行った。
「おい! 離せ! オレは行かねぇ!」
「……」
「無視かよゴルァ! 離せ!」
フサはオレの言葉には聞く耳も持たず、無理矢理引きずっていった。そしてみんなの所に到着した。
「待たせたな」
「あぁ。待ったぞ」
そこには弟者と妹者はいなかった。兄者、≫1とおにぎり、それと、
「!? サザン!」
と驚くオレ。
「久しぶりだな」
「こっちに来てたのか……」
「あぁ。あのサーバーも壊れたからな。元気してたか?」
「………」
「あれ?」
フサが間を割って、
「実はな…」
フサはしぃの事をサザンに話した。オレは、その話は聞きたくなかったから、少し離れた場所にいた。
「そうか…そんな事が……」
「あぁ……」
兄者が音が鳴るように手を叩き、こう言った。
「とりあえず本題に入ろう。今日は何の話で呼んだんだ?」
フサは目を丸くした。
「あれ? お前まだ聞いてないのか?」
「当たり前だろう?」
「いや、だってさっき…」
「あぁ、あれか。ああ言えばお前らすぐ来ると思ってな」
これには>>1とおにぎりもビックリして、
「え!? そうだったの!?」
「ひどいよ兄者!」
フサはあきれて言った。
「なんだ? お前らもか?」
兄者が眼を光らせて、
「全員さ。くっくっく…」
バカみたいに笑う。
「くっくっくじゃねぇよバカ! …まぁ、んなことどうでもいい。サザン」
「あぁ。今日みんなを呼んだのはな、大事な話があるからなんだ」
みんながゴクリとかたずを飲んだ。
「単刀直入に言おう。NIGHTMARE CITYは…消えてない。一部分だけが残ってるんだ」
「何!?」
全員が驚いた。
おにぎり、兄者、>>1、フサが順に、
「どうして…!?」
「戦いは終わったはずじゃ…」
「まままままさか、あいつまで残ってないよね!?」
「ちゃんと説明してくれ」
サザンが軽く頷いた。
「兄者、ナイトメアプログラムが存在しないとなると、街を救う方法は一つに絞られるよな?」
「あ、あぁ。管理AIを全員倒す。これしか残らない」
「そうだ。そして君達はそれをやってのけた。……のように思えた」
「違うのか?」
「管理AI全員が死ねばいい訳じゃない、全員を君達の手によって倒さなきゃいけないんだ」
「つまり……必ずこっちの住人が止めを刺さなきゃならないっていう事?」
「正解だ。そして管理AIは全員で8人。モララー、モナーにつー、8頭身が三人、そしてしぃ。モララーはギコが」
「つーは、妹者が」
「モナーは、あっちで避難してたこっちの奴らが」
「8頭身はレモナさん達が」
「そう。そしてお前らが手を下してないのは誰か。ギコ、・・わかるよな?」
「しぃ…」
「そうだ。だからしぃが死んだとこだけが残っている。そこで死んだ管理AIと共に」
オレは耳を疑った。信じられず、もう一度聞き返した。
「…なんだと? 今……今何て言った!?」
「わからなかっなら簡単に言おう。しぃは生きている。そう言ったんだ」
「しぃが…生きてる……?」
オレは涙を流した。最近は涙脆くてだめだ。あいつの事となると何かと泣いちまう。
「あいつが…生きてるんだな……?もう1度…あいつに…会えるんだな…?」
「そうだ。そしてこれからはずっと会える。聞いた話によるとしぃにも人間の姿があるとか。ならしぃもこっちに連れて来ればいいだけだ」
「そうか…そうか……!!」
拳を強く握って喜んだ。夢だとしても、覚めない自信があった。オレはしぃに言わなきゃいけない事があるから。守れなかった事を謝って、言わなきゃいけない。“オレも大好きだ”って…
<第二話>~再会の意外な結末~
フサがギコに向かって言った。
「ギコ、行くんだろう?」
「あぁ、もちろん!」
(ちっ、こいついきなり元気になりやがって……なによりだ)
オレはこの時フサが小さく笑ったように見えた。
「よし! なら行くのはお前一人だ!」
「へ?? なんで??」
兄者があきれたように、
「当たり前だろう? 俺達は二度とあんな場所行きたくないんだよ」
おにぎり&>>1が声を揃えて、
「同感」
二度ほど頷いた。
「そうゆうこった。それにお前達の再会に水差したくねぇ」
「そうか……」
「しぃが心配してるようならこう言ってやれ。こっちに来ても、もうお前の敵はいないってな」
「あぁ! サンキューなフサ!」
「大した事じゃねぇよ。礼ならサザンに言いな」
「そうだな……」
オレはサザンに駆け寄った。
「サザン、ありが……」
オレが礼を言いかけると、サザンが人差し指を立て、オレの口を押さえて、
「その言葉は、君がしぃを無事に連れ帰る事ができたら受け取るよ」
「サザン……わかった。必ず連れてくる!」
「さぁ、行くんだギコ。しぃは今でも君に会いたがってるはずだ」
「ああ! 言ってくる!!」
オレはコアに飛び込む準備をした。深呼吸を繰り返し、高鳴る心臓を静めた。
「じゃぁみんな、行ってくる!」
みんなが声を揃えて言った。
「絶対にしぃを連れてこいよ!」
オレはコクリと頷き、コアに飛び込んだ。
<NIGHTMARE CITY>
ヒュン!
黄色い光が地面に降り立ち、黄色い猫が目を開けた。
オレは辺りを見渡した。半壊したビルの数々、抉れた地面……様々な戦いの後が残っている。そしてここは紛れもなく、オレがモララーと戦った場所だ。
「ここは……そうだったな。ここしか残ってないんだ。って事はこの辺にしぃがいるはずだな…」
これで何度目だろうか。オレは桃色の体をした猫を探した。でも、範囲が狭いためか、今度は比較的早く見つかり、崖の近くで座っていたのを見つけた。
この辺は何か剣で思いっきり斬りつけたような傷が地面にあった。おそらくこれもあの戦いのせいだな。
心の準備はできた。これから声をかけるんだ。…って時なのに、何故か声が出ない。目もぼやけてきた。
(あれ…? なんで……)
ポタポタと水滴が地面に落ちた。目がぼやけていたので目をこすった。
(…? 指が濡れちまった……)
水滴はいまだに地面に落ち続ける。
頬に温もりを感じた。
(泣いてるのか……まったく、ここ何日かで何回も泣いちまってるぜ……今は悲しくなんて無いのに……嬉しいから泣いてるのか。いや、違う……この感情はもう嬉しいなんてもんじゃないよな……しぃ、会いたかった…良かった……また…巡り逢えた……!)
オレは力を振り絞って声を出した。
「しぃ!!!」
しぃの耳がピクリと動いた。辺りをキョロキョロ見渡して、後ろを向いてオレを見つけた。
「しぃ……」
でも、しぃは嬉しがるところか、驚きもせずに、ただ呆然として、どこか不思議そうにオレを見ながら、その口を開いた。
「えっと……しぃってあたしの事??」
「え……何言ってるんだ、当たり前だろう??」
「そう……それじゃぁ君は……誰??」
「え……な……」
「あ、ゴメンね。あたし、実は…何も思い出せないの…」
オレは言葉を失った。涙も気付かぬ間に止まっていた。信じられなかった。
信じたくなかった。
そんな……やっと会えたのに……忘れた……?この街が何なのかも、オレと会った事も……全部……忘れちまったってのかよ……
<第三話>~蘇る記憶~
「あの……あたしの事、知ってる限りで良いから教えてくれない? 何か思い出すかもしれないし」
「そうだな……わかった。少し辛い話になるかも知れないけど…聞いてくれるか?」
しぃは少し不安そうに、
「うん……自分が何だとしても、受け入れる覚悟はできてるよ」
「わかった。実は、この街はな……」
オレは話し始めた。この街が何なのか、オレの街で何が起きたか、何故オレがこの街に来たか。
オレとしぃが出会った事、友達になった事も。そして管理AIが何をしたか、しぃも管理AIだった事も話して、それをオレに黙っていた事も、オレがしぃを守りきれなかった事も話した。
でも……しぃがオレに好きだと言った事だけは、どうしても言えなかった。
「そっか…あたしは…そんな酷い事する人たちの仲間だったんだね……」
「仲間と言ってもしぃは何も悪さをしてないんだぞ? お前は悪くないんだ。悪いのは……管理AIと……オレだ」
「ありがと……でも、ギコ君は悪くないと思うな」
「いや、でも……」
「結局あたしは生きてたんだから! ギコ君に責任は一つも無いはずだよ?」
「そうだな・・ありがとう」
(しぃに記憶があってもこう言われただろうな。)
そう思うと、少し悲しくなってきた。でも…ホントに悲しいのはしぃの方だよな……記憶が無いってどんな気持ちなんだろうな……今、オレが来るまでしぃの頭の中は真っ白で、誰も知らないし、何の思い出も無かったんだ。それって絶対……寂しいよな……
「よし! 決めた!」
「え?? 何を?」
「しぃ、オレの街に来ないか?」
「え…でも…行ったって迷惑なだけだし……」
「誰が迷惑するんだよ??」
「ギコ君は……迷惑じゃないの??」
「誘ってる張本人が迷惑する訳ねぇだろ!」
「でも、あたしの事を敵って思ってる人もいる訳だし…それに、住む所も無いし…」
「大丈夫だよ! お前を敵なんていう奴は、もう一人もいない! 住まいなら泊めてくれる知り合いがいっぱいいるし、なんならオレん家に来てもいい!」
「でも、やっぱり……」
「あ~~でもでもうるせぇなゴルァ! 来たらいいんだよ! 戦いはもう終わってるんだ! 今はみんなしぃの友達だ!」
しぃが目を丸くして、少し泣きそうになった。
(やべ、強く言いすぎたかな……?)
「ホントに良いの……?」
心配してるしぃにとって、半ば強引に言われたのが逆に嬉しかったようだ。
「ああ。オレも、記憶なんかなくてもしぃの友達だからな! 思い出なんてこれから作れば良い! 悲しい時や辛い時はずっと傍にいてやる! 楽しい時は二人で大声だして笑い合おう! 絶対楽しいぜ!!」
しぃがポロポロ涙をこぼし始めた。そして、目に掌をあてて行った。
「ありがとう……」
「さ、行こう!」
オレはしぃに手を差し伸べた。
「うん!」
しぃはオレの手を取った。
(ギコ君の手…温かいな…でも、この温もりどこかで……)
(しぃと手を繋ぐのも久しぶりだな…)
なんて思ってると、しぃに変化があった。
(ドクン…)
「あ……」
「? どうしたしぃ?」
「何か…何か思い出せそう……」
「え……え!? ホントか!?」
「うん……ちょっと静かにしてて……」
そう言うと、しぃは頭に、オレと繋いでいない方の手をあてた。
オレは見守るしかない。祈る事しかできないけど……何か力になりたい。
オレはしぃの手を両手で握り締めた。
(声が……ギコ君の声が聞こえる……)
“オレが友達第一号だ!”
あ、ギコ君と初めてあった時だ。そっか、この時に友達になったんだっけ。
“このイツワリの街を出よう。必ず君を守るから”
うん…ずっと守ってくれたよね……
“良い管理AIもいるかもしれないだろ”
この言葉はすっごく優しい言葉だった。うれしかったなぁ……
“しぃ!オレは絶対にお前を守ってみせる!”
この時はギコ君が生きててホントに良かったって、あたしにとってギコ君は大切な人なんだなって思えた。
“すぐ戻るから……待ってろ。きっとキミを救い出してやる”
ホントに戻ってきてくれたんだよね。そしてあたしの心を救ってくれた。
“オレはお前が管理AIでも嫌いになったりしない!! ずっと友達だ!!!”
ぐすっ、なんだか泣きたくなってきちゃった……
“しぃ…やだよ…最後なんて言うなよ……”
ギコ君…あたしがいなくなるのをこんなに悲しく思ってくれたんだね…
“しぃーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!”
ギコ君………
「ギコ君!!!」
しぃが泣きながら、突然オレに抱きついてきた。
「んなっ……しぃ……?? 思い出したのか??」
真っ赤になりながらも、質問を投げかけた。
「うん…ぐすっ……全部思い出したよ………ありがとう、ギコ君……」
「良かった…しぃ…やっと……」
「やっとギコ君を見つけた…………」
「やっとしぃに会えた…………」
「「もう……離さない……!」」
唇と唇が重なった。言うまでも無く、オレもしぃも初めて。
顔を離し、目を合わせるとかなり恥ずかしくなってきた。
顔を真っ赤にして、涙目で、でも二人とも今までで一番の笑顔で笑いあった。
しぃが涙を拭いながら言った。
「あたし……もっとギコ君と二人で話したい……」
「じゃぁちょっと話してから行こっか」
オレとしぃは日が暮れるまで話した。ずっとこの幸せが続くと思うと、嬉しくてたまらなかった。
それから……しぃはこっちの街に来て、オレの家に住んでる。妹者かレモナさんとこに住めって言ったんだけど、オレと一緒が良いってきかねぇんだよな…
あと、戻ってきた時、フサ達は夜まで待ってた訳で、やっぱ怒られた。
そんで、しぃにはオレの街のある程度の事を教えて、今は一緒に学校に行ってる。しぃはいっつもオレに、「幸せだね」って言ってくれる。
だからオレはこの幸せな日常の為に、これからもしぃを守っていく。
<第四話>~次の戦い~
あれから一ヶ月が経った……
ここはオレ達の通っている学校。ここの校風は、服装は自由。名門校でもないごく平凡な中学校。学校自体は三階建てで、一クラス十八人ずつ。一学年二クラスで、それが三学年。全校生徒百八人の小さな学校だ。オレの席はしぃの横。後から二番目の一番左の窓際。んで、オレの後がフサで、フサの隣が兄者。こんな風に都合よくメンバーが集まった席配置。弟者と>>1とおにぎりは別のクラス。レモナさん達は高校に言ってて、妹者はもっと良い中学に行ってる。
二階の一番奥。ガヤガヤ騒いでいる三年B組の教室。そこにしぃが入っていった。
「おはよう。フサ君、兄者さん」
しぃが言うとフサは力が抜けた声であいさつを返した。
「お~~っす」
兄者はあいさつを返すと、質問を投げかけた。
「? ギコと一緒に来なかったのか?」
「途中までは一緒だったんだけど『忘れ物した!』って戻っちゃった」
そういうと兄者が鼻で笑い、フサは声を上げゲラゲラと笑った。
「ははは。ギコらしいな~~」
「しかし、あいつ間に合うのか?」
「う~~ん……わかんない。間に合うと良いんだけど……」
しぃの心配も虚しく、学校の鐘が鳴り、先生が入ってきて出席をとり始めた。
「はい、ゲームオーバ~~」
フサが言った。
「ギコ! ギコはいないのか!?」
先生の怒り混じりの質問にフサが答える。
「遅刻っす。そろそろ来る頃と思いますよ」
「そうか、全くあいつは……まぁいい」
全員の出席をとり終わり、一時限目が終わってもギコは来なかった。
「ギコ君遅いな~……もしかして何かあったんじゃ……」
しぃが心配そうに言った。
「大丈夫さ。ギコは何かあったってお前がいる限り死なんと思うぞ? なぁ、フサ」
兄者が言うと、フサは少し可笑しそうに、
「ま、そいつは間違いねぇな。なんたって、傷だらけで海に落ちてもしぃの為に生き延びた様な奴だかんな~」
「もう! 恥ずかしいからその話は出さないでよ!」
「良いじゃねぇか。ギコの数少ない武勇伝だぜ??」
「うんうん。その上、しぃが関ってないと何もできない情けない奴だからな」
フサと兄者がふざけていると、後に金髪の人影が現れた。
「勝手な事言ってんじゃねぇよ!!」
ギコがフサと兄者の頭にゲンコツをした。ゴツンという鈍い音が、二回続けてオレの耳に入ってきた。
「ってぇな! 冗談だよ冗談!」
フサが涙目で言う。
「ほう? 冗談には聞こえんかったが?」
「馬鹿だなぁ、ギコ。もう長年付き合ってるのに、フサやオレの冗談も見抜けんのか?」
兄者があきれたように言った。
「ったく、よくそんな言い訳がスラスラと出てくるもんだな」
オレは兄者の言い訳も聞く耳持たず、ドカッと自分の席に座った。
{ダメだ……ギコの奴、不機嫌モードに入っちまった。しぃ、何か話題代えてくれ}
フサが小声でしぃに頼むと、しぃは頷いてオレに話しかけた。
「ギコ君、随分遅かったけど何かあったの?」
{{ナイスフォロー!!}}
こらまた小声で兄者とフサが。そしてしぃにガッツポーズ。
「ん?? …そうだった! 忘れるとこだったぜ! 実はな、来る途中にサザンがいてよ、オレ達に話があるらしいんだ。でも、『しぃとフサと兄者はもう学校行ったぜ?』って言うと、『みんなが集まってる時に話したい。学校が終わったらコアの前に来てくれ』だとさ。かなり思いつめた顔してたから、『そんなに重要な話なんか?』ってオレが聞くと、『とても深刻なんだ。君達にもホントは話したく無い。巻き込む事になるからな。でも、私一人の力では…奴らは倒せないんだ』だってよ」
しばらく、三人は状況を把握できないでいたが、フサがかたくなに口を開いた。
「倒せないって事は……」
それをしぃが付け足すように言った。
「また……戦いが始まっちゃうの?」
そして、兄者が言った。
「奴ら……と言う事は、複数だな」
オレはコクリと頷き、言った。
「あいつ、ホントに深刻そうだった。多分、かなり厳しい戦いになるんだろうな。『ホントに戦う覚悟がある者だけ来て欲しい』って言ってたし・・」
「どうするよ?」
フサがみんなに聞いた。オレは最初に答えた。
「オレは行くぜ。あいつには恩があるし、大切な仲間なんだ」
続いて兄者が、
「だな。オレも行こう。フサ、お前自身はどうする?」
「行くに決まってんだろ? オレだけ逃げてどうすんだよ」
フサが言うと、オレはしぃに言った。
「しぃ、危ないからお前は……」
「あたしも行く! なんて言おうと行くからね!」
しぃが強い決意の目で言ったんで、オレは
「わかってるよ。お前はそういう奴だ。でも危険な戦いになる。だからお前は……オレが守る。絶対にオレの傍から離れるなよ」
「うん! 絶対に離れない!」
「ヒューヒュー! 熱いねぇお二人さん!」
フサがからかう様に言った。
「うるせぇなゴルァ!」
オレは怒りながら、しぃは黙りながら赤くなっていた。そこを兄者が仕切るように言った。
「よし! ともかくこれで決まりだな」
フサがいきなりキリッとした顔つきになって、
「あぁ、そうだな」
「てめぇは何いきなり真面目そうになってんだよゴルァ!」
「なんだと!? オレはいつでも真面目だろうが!」
オレがフサと言い争っているのを、兄者が爽やかに無視して言った。
「にしても、仲間の為に危険をおかすなんて……流石だよなオレら」
「くすっ、兄者さんのその台詞、久しぶりに聞いたな」
そこへ、
「おい、そこ!! もうとっくに授業は始まっとるのに、いつまでも騒いどるんじゃ無い!!!」
オレ、しぃ、フサ、兄者の四人に先生の怒号が響く。
「「「「す、すみません……」」」」
{おいフサ、てめぇのせいで怒られちまったじゃねぇか・・}
{何!? そりゃぁオレの台詞だ!}
{まだやってるの~?}
{どう考えてもお前ら二人のせいだろ……}
「何ぃ!? 兄者! お前も横で何か喋ってたろ!?」
「全くだ! オレとフサだけ悪者かゴルァ!!」
「オレはそんなに大きな声じゃなかったんだよ!」
「もう! 三人ともいい加減にしなよ!!」
教師は怒りのあまり、チョークを砕いて四人を指差した。
「四人とも廊下に立っとれーーーーー!!!!!」
「ゲ……」
「マジかよ……」
「あたしも~?」
「最悪だ……」
キーン コーン カーン コーーーン……
---放課後---
オレは疲れ果てて、大きなため息をついた。
「はぁ~~……今日は散々だったぜ……」
「誰かさんのおかげでね」
「悪かったよしぃ……」
「全く、いい加減にしろよギコ!」
「もうこれっきりにしてくれな」
フサと兄者が言う。
「お前らには言われたくねぇ!」
「もうケンカはやめてよ? コアに行くんでしょ、ギコ君」
しぃがオレを止めて、別の話題を振った。どうもこいつはこういったのが得意だ。
「そうだった! おい、急ごう!」
オレ達は校門を出た。
そしてコアに向かう途中、フサが気付いたように言った。
「あ! おにぎり達はどうすんだ!?」
すると兄者が言った。
「休み時間の間に確認は取ってる。あいつらは来ない」
「なんで?」
「妹者と弟者は兄として危険な目に会わせたくない。おにぎりと>>1は戦いに不向きだろう?」
オレは聞いた。
「レモナさん達は?」
「……『不吉な空気が漂っているのは気付いてました。でも、私達は不必要な戦いは好まない。あなた達とは仲間と思ってますが、そのサザンという方とは会った事が無い。故に手助けする義理はありません』だそうだ」
「そうか……仕方ねぇな。もっともな理由だし」
「ねぇ……レモナさんって……誰なの?」
しぃの質問に、オレ達は顔を見合した。そして、フサが答えた。
「あぁ、しぃは知らねぇんだよな。一緒に街を救った仲間だ」
「へぇ、そうなんだ」
オレは大きな声で言った。
「なぁに! あの悪管理AIより強い奴なんていねぇさ! オレ達だけでサザンを手伝おうぜ!」
「ああ、もちろんだ!」
---それから数分後---
オレ達はコアに着いた。そこにサザンの姿があった。
「よっ、サザン」
「ギコ……来てくれたのか。ありがとう」
「久しぶりだな~」
「フサ、兄者も……」
「あたしも来たよ~」
「しぃ! ……君まで来てくれたのは嬉しいが、危険な戦いになるんだぞ?」
「大丈夫! ギコ君が絶対守ってくれるから!」
「そうか……みんな、恩に着る。君達の力があればどうにかなるかも知れない……ギコ、しぃ、フサ、兄者。……頼む。私に力を貸してくれ」
「な~に言ってんだよ! 仲間だろ? サザン!」
「最初からそのつもりだよ!」
「どんな敵でも、チャチャッとかたづけてやるよ!」
「オレの力でよければいくらでも貸すさ。さぁ、話してくれ。次の敵の事を」
「感謝する……では話すぞ。念を押すようだが……この話を聞くと後戻りはできない。しかし、君達の決意は伝わった。私も………覚悟を決めよう」
そしてオレ達はこの日、サザンの過去を知る事になる。でも、それは信じられない事で……まさか、あのモララーが……それに、クロノスって……?
<第五章>~サザンの過去・上~
「みんなに敵の事を話す前に、話さなければいけない事がある」
話さなきゃいけない? こんな重要な時に? それ以上に重要な話なのか? オレにはいくつかの疑問がとっさに浮かんだが、フサの一つの質問でわかった。
「こんな時に話すんなら、敵に関係してる事なんだな?」
サザンが首を縦にコクリと振る。
「私の……過去だ」
「「「「!?!?!?」」」」
オレ達は全員が目を丸くした。
そう言えばサザンの過去は聞いた事がない。聞こうともしなかったし、サザンも話そうとしなかったからな……でも、話そうとしてくれたって事は…それ程オレ達の事を信頼してくれたんだな……
「これは六年前の話だ・・・---
当時、この『DREAM CITY』にはいつ何時も行動を共にする三人の男がいた。赤い髪の男に青い髪、緑の髪をした男。この男達はある仕事を共にしていた。殺人以外の戦闘依頼ならなんでも受け付ける仕事だ。当時も今も、とても珍しい仕事でな、この仕事に名前なんて無いんだ。
この仕事は正に三人の天職だった。三人は次々と来る難儀な依頼を簡単にこなしていった。その内、この三人組にはある呼び名が着いた。色鮮やかな髪をした三人の戦士で、『色彩三戦士』。個人個人の呼び名もあった。
『赤髪のサザン』、『緑髪のクロノス』、そして・・・『青髪のモララー』。
---現在---
「「「「モララー!!??」」」」
オレ、しぃ、フサ、兄者はまた同時に驚いた。
「あいつもこの街の住人だったんか!?」
「モララーがサザンの仲間だったなんて……」
「何がどうなってんだ!!??」
「サザンの仲間だった奴がどうしてあんな悪になれるんだ??」
ギャーギャーとオレ達が騒いでいると、
「み、みんな……話は落ち着いて、最後まで聞いてくれ」
オレ達は静まり返った。オレはみんなを代表して謝罪した。
「あ、悪い……続けてくれ」
そう言うとサザンが話を続けた。
---六年前---
私達は自分達が一番強いと思っていた。そんな私達の元に一つの依頼が転がり込んできた。その依頼内容は・・・
『この街と同じ電波を発する街の調査』
そう。わかったと思うが、これが『NIGHTMARE CITY』だ。夢と悪夢、正に表裏一体のこの二つの街はどうゆう関係なのか、この調査だった。普通の調査団体に頼めば良いのだが、危険を伴うため、私達に依頼したそうだ。
クロノスが目を輝かせて言った。
「面白そうじゃんか! 危険な臭いがプンプンする! 行ってみようぜ!?」
それにモララーが答えた。
「いつもいつも暑苦しい男だ。だが……行ってみる価値はある。サザン、貴様はどうする?」
その質問に私が答えた。
「お前達が行くのに私が行かない訳にもいかないだろ? それに、行ってみたいのは私も同じだ」
この一言ずつである程度わかると思うが、クロノスはリーダーシップがあり、情熱的な男で、モララーは冷静沈着で口は悪いが、根は仲間想いの男だった。
この二人と共にする日々は、充実していた。そして、大切だった。だが、そんな大切な日々が、依頼実行当日に崩れる事になるんだ……
---現在---
サザンが話を急にやめ、オレ達に言った。
「……もう一時間も話し続けたのか。一息つこう」
サザンも話し続けで疲れたと思い、オレは同意した。
「そうだな……少し休むか」
オレ達はこの後、サザン達にあの街で何があったのかを知る事になる。そしてそれを聞き終えた時に……次の戦いが始まる。
<第六章>~サザンの過去・下~
休憩して十分が経った。
「サザン、そろそろ良いか?」
「ん……ああ、そうだったな。ではそうしよう」
サザンは何か考え事をしているようだった。やっぱ昔話をしてると色々思い出すのかな……
「どうかしたの? ギコ君」
「へ? いや、なんでもないよ、しぃ。サザン、始めてくれ」
オレが言うとサザンはコクリと頷き、話を再開した。
---六年前---
依頼実行当日……私達は依頼者の元に向かった。
小一時間程歩くと依頼者の仕事場である、大きな研究所に着いた。
「でっけぇな~~……ってゆうかさ、研究所って事は…依頼者って科学者なのかな?」
「……は?」
クロノスの漏らした言葉にモララーは絶句した。私はクロノスに言った。
「クロノス、依頼の手紙が来た時は依頼内容だけでなく、ちゃんと差出人まで確認しろといつも言ってるのに……」
「ん? そんなん書いてたか?」
「貴様……もう帰れ」
「まぁまぁ、モララー。いつもの事ではないか」
「いつもの事だから愛想が尽きたんだ」
依頼の手紙が来ると、クロノスは依頼内容だけ見て受けるか受けないかを決めていた。この男は全ての依頼を受けたがな……
「別に良いじゃんか! 誰の依頼でも実行するのは俺らなんだ!」
「まあ……一理ある」
「よし、それじゃぁ中に入ろうか。クロノス、モララー」
私達は研究所のドアを開けた。中に入ればまるで別世界の様な所だった。前を見れば科学者。右を見ても左を見ても科学者だからな。人が千人は入るほど大きな建物だった。
中に入った私達に、一人の科学者が話しかけて来た。
「ようこそ。色彩三戦士様ですね? お待ちしておりました」
「と言う事は、あなたが依頼者ですね?」
そう私が聞くと、彼はこう答えた。
「そうですねぇ……正確に言えば、ここの科学者全員が依頼者です」
この言葉からわかる様に、その同じ電波の街と言うのは、ここの科学者全員を動かす様な問題だった。
「どうぞ、こちらです」
「どこへ?」
「博士の元に案内します」
博士はここの総責任者だった。
{俺こう言う堅苦しい雰囲気に苦手なんだよなぁ……}
{……俺もあまり得意じゃない}
道理でこの二人は口数が減るわけだ。難しい話が嫌いらしい。
一つの大きな直線を数分間歩くと、大きな部屋に到着した。
「博士。色彩三戦士様がお見えになられました」
「そうか、入れ」
部屋の中から声が聞こえた。その声を聞くと、科学者がカードキーでそのドアを開けた。
「どうぞ、お入り下さい」
中はコンピューターとファイル、ディスク等、科学者ならではの物が数多くあった。
「お待ちしておりました。私がここの総責任者の者です。ここの科学者には『博士』と呼ばれております。早速ですが、本題に入ってよろしいかな?」
「どうぞ。ここの二人は頭が悪いので、率直簡潔にお願いします」
「サザン、てめっ!!」
「まとめるな。この男よりはいくつかはマシだ」
「モララー! なんだそりゃ!」
「事実を述べたまでだ」
ギャーーギャーーと言い争いをしてる二人を後に、
「では博士、具体的な依頼内容を」
「い、良いんですか?」
「構いません」
「そうですか……では申し上げましょう……同じ電波を発する街。これは手紙に書きましたよね?」
「ええ」
「実はですが……同じ電波を発する街、これは絶対に有り得ません。同じ電波を発するなら、構造が全く同じでないとならない。だがそんな事は絶対に有り得ません。しかし実際にその街は今も尚、その電波を発している。以上を踏まえて考えられるのはただ一つ。この街は……」
急には信じられない話だったが、私は瞬時に理解した。そこで一つの答えに行き着いた。
「データの街……」
私がそう言うと博士が頷いた。
「御名答。そこで私達は、あなた方をデータの街にも転送できる装置を至急開発しました。その装置はこちらにあります。ついてきてください」
私達は更に奥へと進んだ。その部屋には大きな穴しかなかった。
「では飛び込んで下さい」
「「「……何?」」」
あまりにも唐突だったので何を言ったのかわからなかった。数秒すると全員理解した様だ。
「おうおうおう! いきなりなんだ飛び込めとは!」
「どけ、クロノス。この男……死にたいらしい」
「モララー、それはやり過ぎだ……博士、どうゆう事です?」
「サザンさん、こちらが先ほど言った装置です」
「装置!? この穴が……ですか?」
「はい。これに飛び込めばあの街に転送されるはずです。ただ……一つ問題が……」
「問題? なんです?」
「要領制限です。その人の力量が多いと、別の姿になってしまいます。そしてあなた方は……制限をかなりオーバーしている。つまり、強すぎるのです」
「はっはーん! 俺達が強いってか! わかってるじゃねぇか! 聞いたかモララー!? 強いだってよ!」
「当然だ。だが別の姿と言うのが気にかかる」
「同感だな。博士、別の姿とは?」
「入ってみないとわかりません」
「ま、とりあえず入ってみようぜ。サザン、モララー」
「「ああ」」
そうして私達は穴に飛び込んだ。気がつけばすでに猫の姿だった。それぞれ髪の色になっていた。クロノスは驚き、モララーは力が弱くなったのを嘆いていたその時、遠くに四つの光の玉が見えた。
私はそれを見つけ、未知の物だった為二人に言った。
「二人共、あれを見てみろ」
「「何だ?」」
その玉はそれぞれ、『黄』『青』『白』『黒』の色合いだった。
黄の玉ははじける様な、青の玉は静寂な、白の玉は聖なる気が漏れていた。だが黒の玉だけは……邪悪な感じがした。
「あれは危険だ……」
「モララー!? 汗だくじゃねぇか! そうしたんだ!?」
「クロノス……サザンもだ…どこか遠くへ行ってろ。黒の玉は…俺を呼んでいる」
モララーが言ったこの言葉。私はこの言葉を信用し、納得した。何故なら…
「私も……黄の玉が呼んでいる様な気がする……」
「お前もか? 実は俺もだ。どうも白の玉が俺を呼んでるようでならねぇ」
「そうか……貴様らもか。それなら話は早い。各々その光の前に行ってみろ。十中八九、何かおきるに違いない」
私達は息を呑んだ。一番心配なのはモララーだった。あの邪悪な光に触れて大丈夫なのか……
「行くぞ」
私達は少しづつ光の玉へと近づいた。最初に私が触れた。黄の光の玉は私の体へと入っていった。すると、体の中にとてつもない力を感じた。
「こ、これは……」
「力の覚醒か…」
「力の覚醒? 知ってるのかモララー」
「ああ……この世界のどこかには『自然の力』を封印したオーブがあると聞いた事がある……そして選ばれし者がその光に触れれば……力が覚醒する。察するに貴様の力は『雷』だな」
そう、はじける様な気の正体は『雷』の力だった。そしてこの時青のオーブだけが街の外へと飛び出していった。おそらく私の覚醒がキッカケで、適合者を探しに行ったのだろう。青のオーブは『水』の力。適合者はギコの父だ。
そして今度はクロノスが白のオーブに触れた。
「モララー……白は何の力だ?」
「おそらく……『光』だな」
事実、その時クロノスの体には聖なる気、オーラが出ていた。
そして次はモララー。だがモララーに触れさせるのは、あまり気は進まなかった。
「モララー、その黒いオーブは……」
「『闇』の力だ。この邪悪な気から見ても間違いない」
「な……だめだモララー! 闇なんて……そんなの力じゃない!」
クロノスがモララーを止めようとした。私も止めたのだが、モララーは聞かなかった。
「貴様らが覚醒したと言うのに、俺一人が弱いままじゃぁ情けねぇんだよ」
そう言ってモララーは黒のオーブに手を触れた。この時に……力尽くででも止めるべきだったんだ。
闇のオーブはモララーの中へ入っていった。
「ぐっ……」
「「モララー!!??」」
「が……あ……」
モララーの手が赤く光った。
「クロ…ノス……サ……ザン……どこか……遠くへ……逃げろ……」
「な、何を……」
モララーの歯を食いしばった音が聞こえる。それ程強く力を抑えているんだ。
モララーが全身の力を振り絞って叫んだ。
「早くしろ! これ以上は抑えきれん!! 貴様らに危害を加えてしまう前に!! 早く!!!」
モララーの言葉を聞いたサザンが私の手を掴んだ。
「サザン! 行こう!!」
「しかし……」
「あいつの覚悟を無駄にする気か!?」
そう言ったクロノスの口には血が垂れていた。クロノスも歯を食いしばって耐えているんだ。
「わかった……行こう」
「よし! モララー!! 待ってろよ!! どうにかしてみせるからな!!」
私達は走り出した。
「クロノス、どうするつもりなんだ?」
「とりあえず博士のとこに戻ろう。あんなに科学者がいりゃぁ解決策の一つは考えてくれんだろ」
そうして私達はコアを目指した。その途中に……
「う……が……あああああああああ!!!」
巨大な闇の力が空に放出された。空には大きな黒い球が現れた
それを見たクロノスが言った。
「な、なんだ!?」
闇の力が放出されたんだ。大方の予想はついた。
「おそらく……モララーが……」
「くっ……サザン! お前は先に戻れ! 俺はモララーの様子を見てくる!」
「な……しかし……」
「大丈夫だ! 絶対にそっちに行く!!」
私はこの時クロノスを信じた。
「……わかった! 必ず戻るんだぞ!」
「ああ!!」
そうしてクロノスはモララーの方へ向かった。
数分走って、私はコアにたどり着き、そこへ飛び込んだ。
だが……そこにはあの大きなコンピューター室しか残されていなかった。後は跡形も無く……消し飛んでいた。コアの部屋は、その穴だけどこか別の場所へ飛ばされたらしい。
そしてここからはクロノスから聞いた話だ……
「モララー! 平気か!?」
クロノスがそこに着くと、ここの住人だった者達が集まっていたらしい。
「な、何だ今のは!?」
「俺は見た! そこの紫の猫が空に何か黒い物を!!」
「あれか……? 『ダークマター』って言うんだよ。次元の消去だ」
「なんだと~~? いきなり意味わからんことほざきやがって!」
「この辺じゃぁ見ん顔だな! どこから来た!?」
「どこから……?教える必要は無い。その代わりと言っては何だが…貴様らの行き先は教えてやろう」
「あ~~~?」
「あの世だ」
突然モララーの手から赤い剣が出て、その剣でその場にいたクロノス以外の人達を一瞬にして……殺した。
(な……モララーが……殺した……のか?)
「フン。骨のある奴はいないのか」
モララーがそう言うと、白い猫と赤い猫。それと白で胴の長い猫が三人が騒ぎを聞きつけて来た。
「な、何モナこれは!?」
「アヒャ!? お前らどうしたんだ!?」
「ハァハァ……お前がやったのか!?」
「ハァハァ……許さん!!」
「お前らハァハァうるさいぞ!! ハァハァ……」
「オマエモナー!!」
「くっくっく……お前らもそうなるか?」
この五人がかなり強かったらしく、モララーも苦戦した。
この五人は倒れたが、モララーも限界で、殺すまではいたらなかったらしい。
「貴様ら……なかなかの腕前だ……面白い、俺の部下になれ」
そう言うとモララーは、赤い剣から黒の小さな玉を出した。
「ダークマインド」
小さな玉は五人の体に入っていった。
「「「「「う……」」」」」
五人が立ち上がった。しかし、この五人には先ほどの正義の面影は無く、モララーと同じく邪悪な気を出していた。
「貴様らはこれから俺に従え。俺と共にこの街を支配するんだ」
「了解モナー」
「アヒャ! 殺しまくってやるよ!」
「「「ハァハァ……色男……」」」
「俺達は『管理AI』だ。邪魔する者は誰であろうと殺せ。かつての……仲間でもだ!」
そう言った瞬間、モララーはクロノスを睨みつけた。
「もしくは貴様も悪に染まるか!? くらえ! ダークマインド!」
再び黒い玉が出てきた。クロノスも危険を感じたらしく、コアのある場所まで逃げた。
そしてコアの前……
「ふ~~ここまで来りゃ安し(ドクン)…ん……」
黒い玉はここまで追跡していて、遂にクロノスの体に入り込んでしまった。だがしかし、クロノスが光の適合者のためか、闇の効果は現れなかった。
「……ビ、ビックリした~~~! まさかここまで来てたとはな……まぁ何とも無くて安心だ。さてと……サザンに合流すっか」
そうしてクロノスは私のとこに戻ってきた。そこでこの部屋しか残ってないのを説明した。
おそらく、科学者達は全員……死んだという事も。
私達は対策を練った。だが…もはやその作戦はモララーを救うものではなく、管理AIを全滅させる為のものになっていた。
---現在---
…---まぁこう言ういきさつで、モララーはああなったと言う事だ」
「ギコ君……わかった?」
しぃがオレに問いかけ来た。オレは正直に白状した。
「全然。いきなり色んな事がわかりすぎて逆にわからん!」
すると兄者が、
「で、サザン。それと今度の敵の関係は……?」
「……クロノスにダークマインドが入った事は言ったよな?あの効果が……六年の時を経て現れた」
「何!?」
もちろんオレは驚いた。しぃもフサも兄者も驚いたようだった。
「それって……もしかして…」
「今度の敵は……」
「闇に染まった……」
サザンがコクリと頷いて、
「クロノスだ。皮肉なものだ……光の力を持つ者が闇に染まるとは」
オレはサザンに聞いてみた。
「で、でもよ、クロノスが闇に染まったからっていきなりサザンのとこに来るって事は無ぇだろ!?」
「いや………まずは適合者を狩りに来るはずだ。ここには適合者が三人いるからな」
「三人?サザンが『雷』でギコが『水』、他に誰がいるんだ?」
フサの言ったこの疑問はオレ達全員が思っていた事だった。そしてそれは、全員が思いもしなかった意外な答えだった。
「そうか…言ってなかったな。実は……しぃ、君は『風』の適合者だ」
「え!? あたしが!?」
やはり全員驚いた。でも、オレは少しだけ心配になってきた。
「じゃぁしぃも狙われてるのか!?」
「そんな……」
心配しているオレとしぃに、フサが言った。
「そ~んな心配そうな顔すんなって! ギコが守ってくれるんだろ!? なら安心じゃねぇか! なぁ兄者!」
「ああ、ギコなら必ずしぃを守るだろうな。なぁギコ!」
「! お、おう! 当たり前だ! しぃはオレが守る!」
「ギコ君……」
「なぁサザン。オレと兄者はお前たちみたく、今は武器が無いんだが……取りに行ったほうが良いか?」
「そうか……ギコは剣、しぃは弓、サザンも何かしら能力があるわけだしな…」
「ああ、取りに戻ったほうが良い。と、言いたい所だが……もう遅いみたいだ」
「え……?」
オレ達は振り向いた。そこには大柄な、緑髪の男が立っている。
誰だ……?
「クロノス……久しぶりだな」
な……こいつがクロノス!?
「よう、サザン。殺しに来たぜ。それとそこの金髪のガキと女。お前らも殺しといてやる!」
はぁ? こいつはいきなり来てガキだの殺すだのムカツク野郎だな……しぃには手を出させねぇ! こいつはオレがぶっ飛ばしてやる!
<第七章>~戦闘開始、炎地覚醒、宿敵蘇生~
クロノスはオレ達を一通り見渡して言った。
「三対一か……ちと辛いかな」
その言葉を聞いたフサが小声で言った。
{おい兄者……今あの野郎、オレ達を頭数に入れんかったぞ}
{必然だ。力の無いオレ達など、奴から見ればムシケラ同然だろう}
「ちっ、気にくわねぇな!」
フサが丸腰でクロノスに向かって行った。
「フサ!? 無茶だ! 武器も持たず……」
そんなサザンの忠告も虚しく、フサは拳を振りかぶった。
「おらーーー!」
「力も持たねぇ奴が、この戦いに手を出すんじゃねぇよ!」
クロノスは大きく上にジャンプした。フサの拳は空を切った。
クロノスの両手に力が集まるのがわかる。
「エレメントアーム! 光の斧・ライトアックス!」
クロノスの手には、白い斧がある。あれがあいつの武器だろう。
「とりあえず……お前から死ぬか!?」
「くっ……!!」
オレはフサの元へ走った。
「水の剣!」
オレの手に水の力が集まり、集約され剣となった。
光と水が交わった。オレはクロノスの斧を受け止めた。
「お前が……『アクアブレード』の使い手か」
「アクア……ブレード?」
「その武器の名前だよ」
嘘をついてるようには見えない。『アクアブレード』、それがこの剣の名前。
「ギコ……」
「フサ、下がってろ!」
「で、でもよ……」
「早くしろ!!!」
「う……」
フサが走り出した。
「あんな奴どうでも良い。今の狙いは……お前だ! 金髪!」
「へっ、お前がその斧をどけた瞬間、剣が喉にグサリだぜ?」
「どける…? 俺がか? バカいうな! 剣は斧に比べて軽いため、小回りが利くが……力なら斧が上だ!」
どんどんオレの剣が押されてきた。
(くそっ…もう耐えられない……!)
「ギコ君!!」
「!? しぃ!?」
しぃが弓を構えている。
「しぃ! やめろ! 標的がお前になっちまう!」
「あたしだって戦える! 守られてばかりじゃない!」
「…しぃ……」
オレはボソリと口にした。
「女。撃ってもいいが、このガキの寿命がちょっと伸びるだけだぜ?」
「あなたには誰も殺させない!」
「ほう、肝っ玉の座った女だ。おいガキ、どうする? このままじゃぁあの女が先に死ぬぜ?」
ピクッ
耳障りな台詞に、オレの耳が反応した。
「何……だと?」
グググ……
オレの剣がクロノスの斧を押し始めた。
(こ、このガキ……力が上がりやがった!)
オレは右足を上げ、あいつの腹に蹴りをくらわしてやった。
「ぐあっ!」
クロノスは五m(5メートル)程吹っ飛んだ。
オレはあいつの方に剣を向けて言った。
「おいクロノス! しぃに指一本でも触れみろ! 容赦しねぇぞ!」
「……それは俺の台詞だ。お前……楽には死ねないぜ!」
「フサ! ギコがやったぞ!」
兄者がフサに言った。フサは下を向いていて、地面には水で濡れて滲んだ部分が数箇所ある。
「……情けねぇ」
「…フサ……?」
「オレは……管理AIを一人も倒せなかった…今回も…足手まとい…なのか…?嫌だ! 足手まといはもう嫌だ……!」
「…フサ、オレもだ。面白いもんだ……ギコの奴、ちょっと前まではすぐにオレ達を頼ってきたのになぁ。今じゃぁオレ達が頼る側だ……」
「「力が……欲しい!」」
その話を聞いたサザンが二人の元に駆け寄り、言った。
「フサ、兄者。力を手に入れて……どうするつもりだ?」
その質問にフサが涙を拭い、答えた。
「オレは……街を救うだとか、そんな大それた事は考えてない。ましてや今回の戦いはいきさつが良くわからねぇ。……オレの答えは単純だ…
オレはギコの力になりたい
次に兄者が。
「オレも知らない誰かの為なんてのは考えてない。でも……弟者と妹者がいつ危険にさらされるかわからない。その時は長男のオレが守らなきゃならないから…
オレは兄弟を守れる力が欲しい
二人の答えを聞いたサザンが言った。
「…君達の決意は伝わった。君達なら……適合できるかもしれない」
「「適合って……まさか!?」」
サザンがコクリと頷いた。
「受け取れ。『地』と『炎』のオーブだ。この一ヶ月間、私はコアを探しに世界中を歩き回った。この二つがその収穫だ」
サザンが取り出したそのオーブは、『茶』と『赤』の色をしていた。
「どうだ……呼ばれてる感じはするか?」
「「ああ」」
「!? こんなにあっさり適合者が見つかるとは……」
「オレが『赤』って事は……兄者、お前は『茶』か」
「ああ…これでオレ達も…」
「「戦える!」」
二人はオーブに手を触れた。オーブは二人の中へ入っていった。
「よし、今から君達のエレメントでの戦い方を教えよう」
三人は数分話し合った後、
「よし、ギコの元へ行こう!」
サザンが言うと二人は頷き、オレのとこに来た