↓の続きです。
読んでない方は、こちらから目を通していただけると幸いです。
http://town.s96.xrea.com/cgi-bin/long/anthologys.cgi?action=html2&key=20051218195919
第二章
「はぁ、疲れた……」
朝の通勤ラッシュにたっぷりともまれた後、駅を降りたルーは、自分の荷物を椅子のようにして腰掛け、愚痴をはいた。
狭い電車の中では、生活に一通り必要なものをつめたボストンバッグはあまりにも大きすぎた。
他の乗客の邪魔にならないよう、ただでさえ安定しない車内の中に足を踏ん張って持ち上げていたため、
いまや体は、朝っぱらからの予想もしえなかった労働にダウン寸前である。
気分転換にすこし周りの様子を伺ってみることにした。
まだ朝早くなので、多くの大人たちが流れるようにせわしなく移動していくのが目に入った。
次に少し目線をはずしてみた。
自分のすぐ後ろには「準備中」と札がかかった建物がそびえたっていた。
しゃれたカフェテリアのようだ。
隣にはファーストフード店、銀行、本屋と、駅前にはありそうな有名店がその身を並べていた。
今まで自分が見てきた景色とは微妙に異なる光景に少し戸惑い、そして自分の中の胸の高鳴りをあらためて感じる。
新しい生活への不安と期待が入り混じり、それが笑みとなって口元へとこみ上げてきた。
「転機か……。俺にも来るような気がしてきたな」
誰に問いかけるでなく、ただ自分の胸の高鳴りを押さえるように言葉を漏らした。
ボストンバッグをあらためてかつぎなおし、学校までの距離をもう一度確認する。
それから重い腰を起こし、ルーはゆっくりと学校の方向へと歩き始めた。
駅へ向かう人のほうが圧倒的に多い時間帯なので、多くの人が視界に入っては消えていく。
だが徐々に歩くにつれて、目に入る人々はいなくなっていった。
それどころか、だんだんと自分の周りから人が消えていくのが分かった。
さすがにおかしいと思い、立ち止まって地図を見ようとして、ルーは動きを止めた。
自分の視線の先に、想像以上のものを確認したからである。
思わず我が目を疑って何度もまばたきを行うも、目線の先には変わらぬ景色が存在していた。
地図を取り出して中を覗き込み、もう一度目の前を確認してルーは呟いた。
「嘘……だろ?」
ルーが歩いていた場所は、もうすでに高校の敷地内であった。
真っ白に塗られたコンクリートの道は、まっすぐに目の前の建物へとつながっていた。
視線の前には、まるで大企業の所有物であるかのようなビルが、その身を天に伸ばしていた。
その隣には、これまた立派な宿泊施設のような建物が負けじとそびえていた。
それらはいとも自然に駅前の景色と溶け合っていて、少しも違和感を感じさせない。
さらに敷地内には高い柵が周りを覆っており、そこにここには少々不釣合いな桜の木々が花をいっぱいに広げていて
まるで新入生であるルー達を祝福しているかのようにすら見えた。
あまりの目の前の光景に、ルーは口を開け放ったまましばし立ち尽くしていた。
ドンッ
「うわっ!」
いきなり後ろからぶつかられ、思わずバランスを崩し前のめりにつんのめる。
なんとか転ばずに体勢を立て直すと、後ろから謝罪の言葉がかけられた。
高めな調子な声なので一瞬女子かとも思ったが、振り返ってよく見てみると男子のようだ。
ルーと同じぐらいの背丈で、行儀の良い服にその身を包み、後ろには大きめのバッグが背負われていた。
モララー族の顔つきではあったが、その細身の体を見る限りモララーではないようだ。
「あの、大丈夫ですか?」
そこまで考えて、ようやくルーは自分が相手のことを無遠慮に眺めていたことに気づく。
「あ、大丈夫……です」
思わず親しげに声をかけそうになり、慌てて言葉を繕った。
相手のほうはそんなことは気にも留めず、顔を安堵の色に染めた。
「ごめんなさい。ちょっと周りを見ながら歩いていたもので……」
「いえ、ほんとに大丈夫です。それより、もしかしてここの新入生の人ですか?」
ルーが手に持っていたバッグを見せると、彼は少し考え込み、そして顔を輝かせた。
「もしかして、君もここの新入生? 良かった~。僕、中学から一人だけ合格だったから、すごく不安だったんです。
良かったら友達になってくれませんか?」
彼は手を何度も服でこすって、人懐っこい笑顔とともにルーの前に差し出した。
ルーも笑顔でそれを握り返す。
「ルーです。よろしく」
「ジャスティスマスターのジャスティス。ジャスって呼んでくれればいいよ。
これからよろしくね!」
さっきまでの丁寧な態度から、一変して人あたりのよさそうな態度へと変わった。
ルーとジャスはお互いに軽く自己紹介しあい、校舎と思しき建物へと歩き出した。
「ルーはここへ来るのは初めてなの?」
「うん。正直、ここに通うことになるなんてこれっぽっちも考えてなかったから。
ジャスは来たことあるの?」
「一度だけ学校見学に来たけど、そのときよりもさらに綺麗になってるね。
さすが、聖モナー学園だ。他の高校とは一味違うね」
二人は顔を見合わせて笑った。
「ところでさ、ルー」
「なに? ジャス」
「その包帯……どうしたの?」
ジャスが心配そうに見つめる視線の先には、ルーの胸囲にまかれた包帯があった。
ルーは思わず目線を逸らし、困ったように頭をかいた。
これは本来の使用法のように、怪我の治癒のためとしてまいているわけではない。
しかし、本当のことを言うわけにはいかなかった。
ここでの高校三年間の生活をすばらしいものにするためには、絶対に厳守しなければならない秘密なのだ。
「ちょっと……ドジしちゃってさ」
結局、普段言い訳に用いている言葉をそのまま引用した。
少しの罪悪感に悩まされたが、ジャスは疑う事もせず心配の言葉をかけてくれた。
二人は高校の中に入ると、そのまま体育館へと向かった。
聖モナー学園ではすぐに始業式が行われることになっていて、その中でクラスなどが発表されることになっていた。
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第二章
「はぁ、疲れた……」
朝の通勤ラッシュにたっぷりともまれた後、駅を降りたルーは、自分の荷物を椅子のようにして腰掛け、愚痴をはいた。
狭い電車の中では、生活に一通り必要なものをつめたボストンバッグはあまりにも大きすぎた。
他の乗客の邪魔にならないよう、ただでさえ安定しない車内の中に足を踏ん張って持ち上げていたため、
いまや体は、朝っぱらからの予想もしえなかった労働にダウン寸前である。
気分転換にすこし周りの様子を伺ってみることにした。
まだ朝早くなので、多くの大人たちが流れるようにせわしなく移動していくのが目に入った。
次に少し目線をはずしてみた。
自分のすぐ後ろには「準備中」と札がかかった建物がそびえたっていた。
しゃれたカフェテリアのようだ。
隣にはファーストフード店、銀行、本屋と、駅前にはありそうな有名店がその身を並べていた。
今まで自分が見てきた景色とは微妙に異なる光景に少し戸惑い、そして自分の中の胸の高鳴りをあらためて感じる。
新しい生活への不安と期待が入り混じり、それが笑みとなって口元へとこみ上げてきた。
「転機か……。俺にも来るような気がしてきたな」
誰に問いかけるでなく、ただ自分の胸の高鳴りを押さえるように言葉を漏らした。
ボストンバッグをあらためてかつぎなおし、学校までの距離をもう一度確認する。
それから重い腰を起こし、ルーはゆっくりと学校の方向へと歩き始めた。
駅へ向かう人のほうが圧倒的に多い時間帯なので、多くの人が視界に入っては消えていく。
だが徐々に歩くにつれて、目に入る人々はいなくなっていった。
それどころか、だんだんと自分の周りから人が消えていくのが分かった。
さすがにおかしいと思い、立ち止まって地図を見ようとして、ルーは動きを止めた。
自分の視線の先に、想像以上のものを確認したからである。
思わず我が目を疑って何度もまばたきを行うも、目線の先には変わらぬ景色が存在していた。
地図を取り出して中を覗き込み、もう一度目の前を確認してルーは呟いた。
「嘘……だろ?」
ルーが歩いていた場所は、もうすでに高校の敷地内であった。
真っ白に塗られたコンクリートの道は、まっすぐに目の前の建物へとつながっていた。
視線の前には、まるで大企業の所有物であるかのようなビルが、その身を天に伸ばしていた。
その隣には、これまた立派な宿泊施設のような建物が負けじとそびえていた。
それらはいとも自然に駅前の景色と溶け合っていて、少しも違和感を感じさせない。
さらに敷地内には高い柵が周りを覆っており、そこにここには少々不釣合いな桜の木々が花をいっぱいに広げていて
まるで新入生であるルー達を祝福しているかのようにすら見えた。
あまりの目の前の光景に、ルーは口を開け放ったまましばし立ち尽くしていた。
ドンッ
「うわっ!」
いきなり後ろからぶつかられ、思わずバランスを崩し前のめりにつんのめる。
なんとか転ばずに体勢を立て直すと、後ろから謝罪の言葉がかけられた。
高めな調子な声なので一瞬女子かとも思ったが、振り返ってよく見てみると男子のようだ。
ルーと同じぐらいの背丈で、行儀の良い服にその身を包み、後ろには大きめのバッグが背負われていた。
モララー族の顔つきではあったが、その細身の体を見る限りモララーではないようだ。
「あの、大丈夫ですか?」
そこまで考えて、ようやくルーは自分が相手のことを無遠慮に眺めていたことに気づく。
「あ、大丈夫……です」
思わず親しげに声をかけそうになり、慌てて言葉を繕った。
相手のほうはそんなことは気にも留めず、顔を安堵の色に染めた。
「ごめんなさい。ちょっと周りを見ながら歩いていたもので……」
「いえ、ほんとに大丈夫です。それより、もしかしてここの新入生の人ですか?」
ルーが手に持っていたバッグを見せると、彼は少し考え込み、そして顔を輝かせた。
「もしかして、君もここの新入生? 良かった~。僕、中学から一人だけ合格だったから、すごく不安だったんです。
良かったら友達になってくれませんか?」
彼は手を何度も服でこすって、人懐っこい笑顔とともにルーの前に差し出した。
ルーも笑顔でそれを握り返す。
「ルーです。よろしく」
「ジャスティスマスターのジャスティス。ジャスって呼んでくれればいいよ。
これからよろしくね!」
さっきまでの丁寧な態度から、一変して人あたりのよさそうな態度へと変わった。
ルーとジャスはお互いに軽く自己紹介しあい、校舎と思しき建物へと歩き出した。
「ルーはここへ来るのは初めてなの?」
「うん。正直、ここに通うことになるなんてこれっぽっちも考えてなかったから。
ジャスは来たことあるの?」
「一度だけ学校見学に来たけど、そのときよりもさらに綺麗になってるね。
さすが、聖モナー学園だ。他の高校とは一味違うね」
二人は顔を見合わせて笑った。
「ところでさ、ルー」
「なに? ジャス」
「その包帯……どうしたの?」
ジャスが心配そうに見つめる視線の先には、ルーの胸囲にまかれた包帯があった。
ルーは思わず目線を逸らし、困ったように頭をかいた。
これは本来の使用法のように、怪我の治癒のためとしてまいているわけではない。
しかし、本当のことを言うわけにはいかなかった。
ここでの高校三年間の生活をすばらしいものにするためには、絶対に厳守しなければならない秘密なのだ。
「ちょっと……ドジしちゃってさ」
結局、普段言い訳に用いている言葉をそのまま引用した。
少しの罪悪感に悩まされたが、ジャスは疑う事もせず心配の言葉をかけてくれた。
二人は高校の中に入ると、そのまま体育館へと向かった。
聖モナー学園ではすぐに始業式が行われることになっていて、その中でクラスなどが発表されることになっていた。