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Soul Break ~魂砕き~ (テイル)

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プロローグ The beginning... / 始まり


 ここは地図に載らない町、『ソウルタウン』。

 元々は貿易で栄えていたが、あの事件以来、この町は吹き溜まりの町と化している。

 それは輸出されてきた、あの剣。

               『魂の剣』

 西の王国が戦争で滅びたときに、宝物庫から見つかった物だという。

 黒いオーラを纏い、鋭い刃紋はなんでも斬れそうな、立派な剣。

 だが、それを欲しがるものは少なかった。

 しょうがなく、魂の剣は町長の家に保管された。


―――それから一ヵ月後


 町長の家に強盗が入ったのだ。まだ、日も昇らない明け方だった。

 咄嗟に、魂の剣を掴んだ町長は、強盗を斬った。

 すると、不思議なことに切り口から鮮血は浴びせられない。だが、強盗は魂が抜けたように動かなくなった。

 皆は信じなかったが、強盗の姿を見た途端、唖然とするだけだった。

 皆は口々に言った。

『これは恐怖の剣だ! 魂を吸い取る、悪魔の剣だ!』

 と…………。

──────────────────────────────────────────

第一章 an attack... / 襲撃


「はぁ、腹減ったなぁ……」

 俺は人通りの多い繁華街を歩いている。人通りが多いといっても、歩くのは全て乞食みたいな奴らだ。

 俺はフサギコ。友達は皆、フサってよんでいる。この町の片隅で小さいバーを経営しているんだが、昼間は客が来なくて、こうしてフラフラとうろついている。

「金もねぇし、薄汚い所にいるし……。あぁー、金持ちの生活に憧れるぜ」

 頭の後ろに手を組んで、理由もなく歩き続ける。普通の奴なら、昼食の時間だろう。だが、金もない俺はただただ歩き続けるだけだ。

 この町に金持ちは少ない。当たり前かもしれないが、このような場所を好み暮らす金持ちもいる。変わった奴がいるもんだ。

「あぁー、臭ぇ臭ぇ! 路地にでも入るか」

 鼻が曲がるような臭いが俺を揺さぶる。この町を歩く乞食の臭いだろう。耐え切れなくなり、狭い裏路地へと入り込んだ。いや、逃げ込んだ。

 裏路地は裏路地なりに臭う。生ゴミが端を埋め尽くし、親のいないガキが遊んだりしている。住居スペースを持ち込んでいる奴もいるみたいだ。

「こいつ等も可哀想だな。親の顔も知らずに一生懸命だ」

 それでもあどけなく笑うガキに、俺は色々勉強させられる。

 薄暗い路地に入るのは久しぶりだが、バーへの近道にもなるので、俺は歩き続けた。


      ※※※


 行き先変更で、俺は自分のバーについた。まだ日は高い。こんなんじゃ客も来ないはずだが、面倒くさいので中に入ることにした。

「ただい―――!?」

 中には、種類様々な酒だけがいるだけのはずだった。

 だが、目の前にいるのは二人のAA。見覚えはないはずだが、俺に視線を送ると口元に笑みを浮かべ、二人とも近づいてきた。

「だ、誰だよお前ら!?」

 俺が少し後退りながらも問うと、右側のAA―――青い体の少年型AAが馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「客にその口の聞き方はどうだろうな、マスター」

 彼の右腕にはグラスが握られている。テーブルを見ると、酒が一本置いてあった。それは、酒の中でもアルコールが高めの『ウォッカ』だった。だが、ビンの中には三分の一程しか残ってない。

「そうモナ。別に悪さするつもりじゃないモナ」

 もう一人は白い体の、こっちも少年型AA。さっきのガキみたいな笑みを浮かべている彼は、隣の奴より信用できそうだった。

「じゃあ誰なんだ?」

 後退りしすぎて、ドアに頭をぶつける。青いAAは白い歯を見せ、白いAAは表情を変えずに俺の質問に答えた。

「俺はギコだ」

「モナはモナー。『甦りの剣』に選ばれし者……、つまり君を迎えに来たモナ」

「はぁ?」

 咄嗟のことに、俺は間の抜けた声を出してしまった。見たこともない奴らから言われたことは信用しにくい。

「よっしゃ、自己紹介が済んだところで、行くか!」

 強引に腕を引っ張る青いAA、いやギコに俺は動揺を隠せない。モナーって言う奴が、慌てて止めに入った。

「強引はいけないモナ。う~ん、自分のことを理解しきれたないようモナ」

 腕を組んで考え込むモナーを、俺は口をポカンとあけて見ているしかない。

「参ったな、流石んちも待っているし……」

 ギコも頭を掻いて困惑している。

 俺は、意味が分からぬまま二人に声をかけようとした。だが、それは外に響く絶叫でかき消される。

『シギャアァァァ―――!!!』

 いや、どちらかと言うと吼えだ。何かの甲高い吼え。バーのすぐ近くらしい。

「来やがったな……!」

「彼を傷つけないように、頼むモナ!」

 俺は、声の方向をしばらく見つめていたが、ギコとモナーが真剣な声で呟いているので、振り返った。

 俺が何なのか聞こうとすると、ギコは長く伸びた槍、モナーは太刀をそれぞれ握り締めていた。ギコは右手、モナーは左手だ。

「え……?」

 武器のことを聞こうとするより早く、二人はバーのドアを開ける。外から見えたのは、もう夕日に近づいた太陽の光と、後もう一つ。

「うわっ!! 何だあれ!?」

 俺が腰が抜けそうになるくらい驚いたのは、その存在。

 真っ黒な体色の塊。そこについているのは、手足と金色に光る目玉。金色の目玉以外は全て漆黒に包まれている。

 それが、全部で三体いる。どうやらこいつ等が先程聞いた吼えの張本人だ。

「モナー、行くぞ」

 静かに呟いたギコの声を、俺ははっきり聞き取ることは出来ない。モナーは声を出さずに頷く。

 そして、二人は握り締めた武器を持ち、それぞれの相手に突っ込んでいった。

      ※※※

第二章 soul... / 魂


 バーで激戦が起こっている頃、フサのバーから南西へ五キロメートル程離れた所でも、戦いは始まっていた。

 いや、戦いとは言わないかもしれない。一方的に彼が攻めていた。

「やめてくれぇ!!」

 壁際に追い詰められた小さめのAA。右手を前に出し、相手を止めようとしている。

「それは無理。魂をもらって、君にはソルノウになってもらう。全ては、この僕、モララーのため。判るだろう」

 黒いマントに身を包んだ、黄色いAA。彼の右手には、マントと同色のオーラを纏っている剣があった。

 それは今、小さめのAAに向けられている。

「ソルノウって何なんだよ!!」

 小さめのAAが叫ぶ。黒い剣を一旦下げ、彼、モララーは口元に嫌な笑みを浮かべた。

「つまり『魂の抜け殻』。大丈夫、自分がなるのが一番判りやすい」

 そのまま黒い剣を頭上に持ち上げる。

「やめろぉ!」

 恐れの叫びを聞き入れることもなく、モララーは相手の頭に剣を落とした。

じゃぐり

 嫌な音が響く。両方とも、静寂に包まれていた。

 そして、小さいAAの体がゆっくりと傾く。頭に突き刺した剣を抜き、モララーは微笑を浮かべた。

 うつ伏せの状態で倒れた小さいAAの頭には、痛々しい傷跡が残っている。

 しかし、赤い血が吹き出ることはなかった。

「魂ゲット。君の魂は無駄にしないよ。……そして、君も直になるよ。ソルノウに……」

 黒い剣が纏っているオーラの色が少し濃くなった。

 倒れているAAに冷たい一瞥を投げ、モララーはその場を立ち去った。

      ※※※

 先手を取り攻め込んだのはギコだった。

 水色に彩られた、彼の体より大きい槍を振り回す。そして、振り回している槍を一気に叩き下ろす。

「おらぁ!」

 殺傷力のある先端が一体の黒い奴に突き刺さった。

「やったか!?」

 俺は拳を握り締める。

 だが、奴は少しの痛手を負っただけのようで、湧き出る青色の液体――血をそのままにして、襲い掛かってきた。

「ちっ、このくらいじゃ死なねぇか……。ならこれだ!」

 叫んだのと同時に、ギコは跳躍をした。俺でも一メートル跳ぶかどうかだろう。けど、ギコは三メートル以上の高さまで跳んだ。

「凄ぇ! ありえねぇだろ!?」

 俺は驚いていたが、彼はお構いなし。

 空中に出て、すぐに重力が体を包む。そして、黒い奴目掛けて突っ込んでいった。

「凍りな!」

 これも叫ぶと同時に、持っていた槍を突き刺す。重力のおかげで先程の倍以上の威力だ。

『シギャアァァァ!!』

 吼えとは違う、苦悶の声が響く。青色の血も先程の倍以上に吹き出る。

 それを要領良く避け、黒い奴が倒れる後ろに着地した。

 すると、驚くべきことに、傷口からどんどんと黒い奴の体が凍り始める。ピキピキと音を立て、瞬く間に氷は黒い奴の体を包んだ。

「こっちは終わり。モナー、そっちはどうだ?」

 彼は突き刺さったままの槍を抜き取り、仲間、モナーの方向を振り向いた。

 俺が、唖然としている目の前で。

「んー、ちょっと時間がかかってるモナ」

 モナーの声は真後ろから聞こえた。俺が振り返ると、彼は太刀を握り締め、別の黒い奴と対峙していた。

 既に相手は傷だらけで、何回かの攻撃を入れたと見られる。だが、相手はそんな体になりながらもモナーに突っ込んできた。

『シャアァァァ!!』

 口のないはずなのに聞こえる吼え。少し尖がった爪を振り下ろすのが、通常攻撃のようだ。

「敵とはいえ、殺すのは嫌モナけど」

 その通常攻撃を太刀で威力ごと止める。

「他の人達を傷つけるのは許せないモナ」

 当たっている爪を相手の体ごと吹き飛ばす。相手が空中に投げ出されるときは無防備だ。モナーはそこを狙った。

 吹っ飛んだ敵を同じ軌道で追う。無防備な体にモナーは、太刀を叩きつけた。

「『五月雨落とし』、モナ」

 実際には一メートル程しかない高さでも、叩きつけられそのまま強く打ち付けられるのは、大きな痛手になることは間違いなしだった。

ドゴォーンッ!

 地割れのような音と共に、黒い奴は地面に叩きつけられた。

 俺は声も出ず立ち尽くしている。けど、ギコは当たり前のように微笑を浮かべていた。

 黒い奴は皹の入った地面の上に寝転んでいる。もう動くことはないだろう。

「ふぅ。後一匹モナね」

 ギコと違い、鮮血を浴びていない彼の刀はとても綺麗に見えた。

      ※※※

第三章 a job... / 役目


「戻ったよ」

 黒い剣を持ったAA、モララーが、廃墟のようなところの錆びたドアを開ける。横にある看板には『ソウルタウン町立病院』と書かれている。

 中は外から見る以上に荒れている。外来用の待合席も壊れ、自動販売機などは時が止まったように壊れている。

「お帰りなさい、モララー」

「アヒャ! 魂、取ってきたか!?」

 崩れかけた受付に座っていたのは、二人のAA。一人はにこにこと笑っている薄黄色のAA。だが、口がないように見える。もう一人は赤い体のAA。男性か女性かは、確認しにくい。

「あぁ、三つ。奴らも直にソルノウになることだろうね」

 モララーは薄汚い椅子に腰をかける。そして、黒い剣を眺めた。

「便利な剣だ……。僕がソルノウになってからずっと、働いてもらってる」

 薄い微笑のはずなのに、なぜかその笑みは邪悪なものに見えた。

「魂の剣……、『2ch王国』の秘宝……。貴方が持っていることが不思議でなりませんね」

 薄黄色のAAはノートパソコンを弄っている。画面には、モララーの持っている黒い剣、魂の剣のデータが映し出されていた。

「アヒャ! お前だけ殺しやるなんて卑怯だぞ! 俺もやりてぇもんだ!」

 赤いAAが右腕につけている爪を振り回す。危ないですよ、と薄黄色のAAが呟いた。

「それだけど、北東に凄腕の戦士共がいるってさ。ソルノウを専門に戦ってるて……。僕達の敵って訳だよ」

 モララーは魂の剣を持ち上げた。

「僕だけじゃ倒せないかもしれないから、山崎、つー、応援を頼むよ」

 最後まで言うより早く、赤いAA、つーが立ち上がった。

「アヒャ! 善は急げだ! 早く行こ」

「待ってください。まだ正確な情報が入っていません。冷静に行きましょう。相手はソルノウを倒す実力です。下手をすれば私達もやられる可能性がないとも言い切れません」

 相変わらずパソコンを動かす手をやめない薄黄色のAA、山崎がつーの言葉を遮る。つーはちっ、と愚痴を吐き、また座った。

「そうだな……。まぁ、負けることはないと思うけど」

 魂の剣に纏ったオーラはより色を深めている。

「『甦りの剣』があると、厄介だからな」

      ※※※

『シギャアァァァ!』

 後もう一体は先程の二体より、一回り大きいようだった。吼えも、空気がびりびり揺れるほどの振動が伝わる。

「コイツは……、今までのとは違いそうだな……」

 ギコは、舌で口の周りを舐める。

 モナーも、太刀を握り締める左手に力を入れた。

「さーてと、簡単にやってやるか」

 先程と同様、ギコが先手を取り相手に近づいた。そしてこれもまた同様、俺は眺めているだけだ。

 彼は握り締めた槍――冷たい凍風を纏ったコールドランサー――を相手の顔目掛けて振り下ろした。冷たい先端は、黒い奴の頭に突き刺さる。

 だが、それだけだった。何事もなかったかのように、黒い奴は槍を振り払う。ギコが驚くより早く、黒い奴の爪が彼に当たった。

「ぐはぁ!」

 殺傷力の少ない爪は、ギコの腹にぶつかっても、血は出てこない。だが、それよりも当たったことによる激突の痛みの方が辛い。

「ギコ!」

 俺は彼の名を呼び近づいた。

 苦しんではいるものの意識はあり、命の危険はないだろう。だが、それはギコにすることではなかった。

「!! 後ろだ!」

 ギコが叫んで俺は、はっと我に返る。後ろを振り向くと、ギコを苦しめた爪が今、俺に当たろうとしていた。

(やられる……!!)

 俺は両手で頭部を押さえた。そして目を瞑る。怖かったからだ。

 そのまま奴の爪が俺に直撃した―――

「…………?」

 しかし、何の痛みも覚えない。不思議と目を開けると、目の前に立っていたのは太刀で俺を守っているモナーの姿が飛び込んできた。

「大丈夫モナか!?」

 振り向かずに叫んだモナーに、俺は頷いた――見えてないはずだが――。

 だが、彼が押さえているのにも限界があった。だんだんと後ろにいってしまう。

「く、モナ……!」

 口から漏れた苦悶の声は、俺を守っているから出てきたものだ。

「モナー……」

 悔しかった。自分のためにモナーが体をはって守っていてくれる、それでは自分が何も出来ないのと一緒だ。

 まだ、二人の言っていることは理解できない。だけど、俺が必要な存在なんだ、と言うことは馬鹿の俺にも理解できる。

(そのために、俺は何が出来る?)

 俺にも武器があれば? 違う。それはただの甘えだ。自分の力で、頑張りたい。

「モナァ……!」

 モナーの足が俺に近づいてくる。

 その時だ。黙って俯いていた俺は自分の拳が光っていることに気がつく。

「え……?」

 握り締めていた手を広げると、眩しいくらいの光が湧き出た。白く、神々しい、そんな光だ。

―――魂ある限り、戦え

 頭の中で声が響く。すると、手から湧き出る光が白く、神々しい、まるで光そのものが変化したように、長剣に変わった。

「これは……!?」

―――魂を呼び戻す力……、それがお前の力だ

 やがてはっきりと鋼色の長剣に変わった。だが、鋼色に変わっても、神々しさは消えない。

(それが俺の力なら……。使いたい。俺を必要としてくれる人のために)

 それを握り締め、俺はモナーの横に出る。

「モナ……?」

 モナーが驚いていることは判ったが、声をかける気にはなれなかった。今は、黒い奴を倒すだけだ。

『それが、俺の役目なら……。果たしてみせる。それを望んでいる人のために』

 俺は、戦い始めた。

     ※※※

第四章 a sword... / 剣


「兄者、しぃ、レモナ!! 大変だ! 甦りの剣がない!!」

 一見普通の家。だが、そこに大声が響いている。

 どたどたと乱暴な音を立て、居間のような所へ彼が出てくる。

「何!? 弟者、本当か?」

 新聞を読んでいたと見られる男性AA、大声を出す弟者と同じぐらいの背から兄者ということが判る。兄者は椅子から勢い良く立ち上がる。

「うそ……!?」

 隣に座っていた女性AA、レモナは飲んでいたコーヒーを机に置く。大人らしい彼女は唖然とした表情で弟者を見た。

「何で……!? 泥棒?」

 もう一人の女性AA、彼らの中では一番年下と見られる桃色のAA、しぃも唖然とした表情だ。

「あぁ……。さっきまであったのに……」

 いかにも困惑に包まれている表情だ。皆も一瞬黙り込む。

「これじゃ、選ばれし者を連れてきても意味がねぇな……」

 少し冷静さが伺える兄者は顎に手をつけ考え込む。しかし、冷静と言っても内心困っているのは間違いないだろう。

「ねぇ、ギコ君達が帰ってくるまで、待ってみよう」

「そうね、彼らなら何か分かるかもしれないし」

 しぃの意見をレモナが肯定する。そうだな、と二人は頷き、兄者はパソコンを取り出す。

「おいおい、こんな時にブラクラか?」

「失礼だな。今から甦りの剣のデータをアップするんだ」

 FM-Vを取り出した彼は慣れた手つきでパソコンを打ち込む。

 レモナはコーヒーの残りを飲んでいる。どうやら皆、やっていることを覗く気はないようだ。

      ※※※

「お前……!! それは、ぐっ!」

 ギコが驚きの声を上げるが、急に痛みがきたのか、腹を抱えて蹲る。

 モナーも唖然と持ち上げていた太刀を下ろした。

(力が……、漲る!)

 俺は黒い奴に剣を振り下ろした。ギコの攻撃に大してダメージを食らわなかったのに、俺の攻撃は効いているようだ。

『シギャアァァァ!!』

 青色の鮮血が吹き出る。それをギコのようにかわし、再びの攻撃を入れる。防御を考えずに振り斬った。

 俺の捨て身は、相手に大きなダメージを与えたようだった。

「はぁはぁ……!」

 二人と違い、戦いなれていない俺はすぐに息切れしてしまう。だが、それでも攻撃してくる相手を前に、剣を下ろすのは自殺行為だ。

「ッ!!!」

 静かな気合と共に、俺は最後の力を振り絞る。

ザクッ

 体内に入り込んだ剣は、容赦なく肉を断ち切る。断末魔を上げる暇もなく、黒い奴は真っ二つになった。

「はぁはぁ…………」

 相手が動かないことを確認し、俺はその場に腰を落とした。剣も、からん、と転がる。

 相手を動かさなくした自分の手を俺は見つめた。いつもと変わらない、毛が生えている手だ。

 そして、剣を見る。青い血がついているはずの刃。だが、先程と一緒で、剣が纏っているのは、神々しい気だった。

「凄いモナ! これが選ばれし者の力モナ!」

「けど、何でここに甦りの剣が……?」

 ギコはよろよろと歩いてくる。そんなギコの片足になるようにモナーが付き添った。

 俺は、腰が抜けながらも彼らの方向を見た。

「どうなってんだ……!? やべぇ……! 殺しちゃったよ……!!」

 俺は完全に動揺していた。頭を抱える俺の肩に、何か優しいものが置かれた。

「良いんだモナ。相手が襲ってきたんだモナから……。それに殺したんじゃないモナ。天に昇っていった……、元々彼らは死んでいるモナ」

 空を見上げて言うモナーに俺は視線を送る。

「え……、死んでる……?」

 俺の呟きに、腹を押さえているギコが答えた。

「そうだ。魂の剣でもう既に、魂は天に昇っているんだ。そして抜け殻となったのがソルノウ――つまりさっきの奴になる。……まぁいろいろな形が在るけど。それを天に送るのが俺達の仕事」

 傷で苦しいはずなのに、ギコは白い歯を見せて笑う。あるいは、俺を安心させようとしているのかもしれない。

「魂の剣って……?」

 俺が再び質問すると、二人がいきなり立ち上がる。

「詳しいことは家に戻ってからだ。行くぞ」

 まだ腰が抜けてるというのに、二人はさっさと行ってしまう。だが、やっと落ち着いたらしく、俺は立ち上がることが出来た。

「待てよー!」

 俺はこの時、まだ事の重大さがよく判らなかったんだ……

      ※※※

第五章 join... / 加わる


「ソルノウ幹部NO.16、『ビッグステルス』……。やられたみたいですね」

 暗い病院の廃墟で、山崎は色々なデータを調べていた。その中で『ソルノウ管理データ』というのを、今開いている。

「アヒャ!? 幹部がやられたのか!?」

 爪を研いでいたつーだが、この言葉には驚く。

 幹部というのは、普通のソルノウより力を持ったソルノウのことを言う。実際には少ない数だが、彼らは普通のソルノウを上手く統合して、沢山のグループに分けているのだ。

「ふっ、『ビッグステルス』……。幹部の中でも弱い方じゃないか……。けど」

 静かに座っていたモララーは、静かに言い放つだけだった。

「これは、気をつけたほうが良いな……」

      ※※※

 俺は無理矢理二人に着いて行かされた。ギコもすっかり回復したみたいで、普通に歩いている。

 もう十分は歩いただろう。だが、二人は足を止めずに東の方へ歩いていった。

「まだかよー」

 少し疲れた俺は額の汗を拭う。

「もう少しモナ。選ばれし者の君がこうじゃ困るモナよ」

 モナーが振り返らずに答える。

「だからぁ、選ばれし者ってな」

「着いたぞ」

 俺が再び質問しようとしたらギコの声でかき消される。ちぇっ、と舌打ちをし、ギコの指差した方向を見た。

 どうやら一階建ての住居らしい。周りの住居と同じく、灰色のコンクリートで囲まれている。

「あそこに何があるんだ?」

 俺はまだ遠くのそれを眺めた。

「正確にはいる、かな。あそこに流石んちと、レモナとしぃがいるんだ」

 ギコが頭をかきながら答える。

 今度は二人は走り出した。ギコもさっきまでのあれはどうなんだ、という感じに走っている。

 俺も着いていったが、元々へとへとなのでよろよろと着いていく。

「ただいまモナー」

 モナーが扉を開けた。

 結構広い部屋のようで、中は片付いている。その片付いている部屋に人影が四つ。

 ある程度背の高いAAが二人。隣同士でパソコンを起動させている。あと、コーヒーを飲みながら雑誌を読んでいるAA。金髪が目立つ女性型AAだ。そしてもう一人は、桃色の体をした少女AA。彼女だけは俺より年下かもしれない。

 彼らは、扉を開けたモナーを見てからギコ、そして俺へと視線を送る。

「おかえり。……あら、見慣れない顔があるみたいだけど」

 金髪の女性が俺に視線を送りながら問う。異性に見つめられるのは初めてだったから、俺は少したじろいだ。

「ギコ君お帰り。今日、ちょっと大変なことが起きて……」

 桃色のAAは真っ先にギコの元へ向かった。このことから、彼女はギコの彼女なのだろうか、と予測できる。

 彼女の言葉を継ぐかのように、奥の二人が口を開いた。

「『甦りの剣』が……、なくなったんだ」

 パソコンをやっている緑色のAA。その横に立っていた水色のAAが申し訳なさそうに言った。

 『甦りの剣』、と言われて俺は思い出した。自分の握り締めている剣は、確か『甦りの剣』だったような……。

 考えているうち、緑色のAA、つまりパソコンをやっているAAが気がついたようだ。

「おい……、それ『甦りの剣』じゃないか?」

 視線が俺の右手に送られたので、俺は剣を出来るだけ上に上げた。剣は、未だに神々しさを纏っている。俺は呟くように、これ?、と言った。

 金髪のAAが驚いたように立ち上がる。

「それ……! 何故貴方が持ってるの?」

 パソコンをやっていたAA、二人とも立ち上がった。そして、俺の方へ、いやモナー達の方だろう。こちらへ近づいてきた。

「説明、してもらわないとな」

 ギコが頭を掻く。しょうがねぇなぁ、と呟きながら。

「一部始終を、話そうか」

      ※※※

第六章 barking dog... / 吼える犬


 薄暗い病院の廃墟をモララー達は歩いている。今は階段を登っており、薄汚れたせいで、階段に書かれていたはずの『3F/4F』の文字は見難くなっていた。

「アヒャ! 俺達の住まいは汚ぇな!」

 崩れかけたコンクリートの柱を手慣れたように跳び越え、つーは愚痴を洩らした。

 山崎はパソコンを持っていたが、ノートパソコンなのでたたんだ状態で持ち歩いていた。

「モララー。本当にあれを使うのですか?」

 先頭を歩いていたモララーに山崎は後ろから問う。

「あぁ。ソルノウの中でも最も凶暴な……」

 振り返らず答えたため、山崎には彼の表情は見えない。だが、声からして不気味な微笑を浮かべている、と予測した。

「アイツをな」

『ウォォォーーーン……ッ!!!』

 薄暗い廃墟に、その吼えが響いた。

      ※※※

 俺はまだ、今自分に起きていることの判断が出来ていない。ギコが、適当に座れ、と言われたので椅子を使わせてもらっているが、もじもじしている姿は情けないと思われるだろう。

「―――とまぁ、コイツ、フサが『甦りの剣』に選ばれし者なんだ」

 ギコとモナーの話していたことは俺の耳に全然入ってこなかった。だが、いきなり名指しで呼ばれたので、俺は少し戸惑う。

「つまり、やっと見つけたと言うことだな」

 黄緑色をしたAAが腕を組む。とりあえず、全員の名前はモナーに教えてもらった。

 その黄緑色のAAは兄者と言う。隣にいる水色のAAが弟者。彼らは実の兄弟のようだ。二人をまとめて言うときは、流石兄弟と呼ばれる。

 コーヒーを飲んでいた金髪の女性AAはレモナと言うらしい。俺を含めた七人の中で一番年上で、リーダーシップをも兼ねている。

 そして、桃色のAA。彼女はしぃと言う。彼女はつい最近入った新入りで、年も俺より年下だ。

 入った、と言うのは彼らの仲間のことで、六人、いや俺も入ったから七人で『REVIVAL』と言う組織だ。『甦り』と言う意味らしい。

「『甦りの剣』に選ばれし者……、君がだ」

 弟者も壁に寄りかかりながら続ける。だが、まだ俺には『甦りの剣』とか『選ばれし者』とか『ソルノウ』とかは良く判っていない。

「あ、あの……。俺に判るように説明してくれないか?」

 ちょっと詫びながら俺は聞いた。俺以外の奴は、あぁ、と呟き、モナーから話し始めた。

「五年前……、君は覚えてないかもしれないモナけど、町長の家に強盗が入ったモナ。町長は躊躇いながらも、ある国から輸出されてきた剣……、『魂の剣』で強盗を斬ったモナ。勿論、強盗は血を噴出し、死ぬはずだったモナ……」

 五年前……、その時俺は、バーを開いた時ぐらいだろう。だが、俺はそんなことを覚えてはいなかった。

「けど、強盗は血を噴出さずに、傷口も出来ぬままだったわ。けど、無傷のはずの強盗は動かなくなった。まるで、魂が抜けたように。……結局、正当防衛になって、強盗の亡骸は町外れの山に放置された。何もかもが終わったかのように思えたわ……」

 レモナが空になったコーヒーカップを眺めながら続けた。

 俺はこんな事件を聞いたこともなかった。ただ、常識がなかっただけかもしれないけど。

「だが、事件は終わってなんかいなかった。町の西……、強盗の放置された山がある方向に、不気味な黒い物体が現れたんだ。黄色い瞳をした、黒い物体が……」

 兄者の話した黒い物体、と聞いて俺は思い出した。ギコ達、いや俺も戦ったあの黒い奴。そいつのことなのだろうか。

「それは魂が抜けたように、町を練り歩いたの。そして、人を見つけては攻撃した。攻撃された人は……、動かなくなったんだ。彼らと同じように、魂が抜けたように……」

 しぃもゆっくりと語りだす。彼女の両手は震えていた。

「そいつらは、魂がないみたいな感じから『ソルノウ』……、『ソウルノット』の略だがな。そう呼ばれるようになった。やがて、ソルノウは町全体に現れるようになった。時には姿の違う奴も……」

 弟者も続ける。俺は、あの時戦った黒い奴、ソルノウの事を聞いて、口に溜まった唾を飲み込んだ。

「でな、俺達が調べていくうち、気になることがあったんだ。それは『魂の剣と一緒に甦りの剣と呼ばれるものも輸出されてきた』と言うことだった。それは魂を呼び戻す力があると言う……。俺達は必死に探し、そして二ヶ月前、やっと手にした。だが、それを使いこなすのは、選ばれし者じゃないと駄目だった。案の定、俺達の中にそんなのはいない」

 俺はふと思い出す。ギコはソルノウに攻撃されたはずだった。だが、魂は抜けていない。そっと、モナーに聞くと『力あるものは本物の剣、つまり魂の剣じゃないと、魂は抜けない』と言うことだった。

「二ヶ月探して、やっと今日、君を見つけたモナ。―――わかったモナ?」

 五分程度のはずだったが、とても長く感じる。そして、俺の立場が少しずつ判ってきた。

      ※※※

第七章 break... / 砕ける


 同時刻。

 廃墟の四階――と言っても廃墟なので実際では三階ほどの高さ――にある廊下の一番奥に、その部屋はあった。

 やはり、ここにも崩れた柱や壊れた建造物などが彼らの行く手を阻む。が、本人達はそうは思ってないようで、ただ一点を見つめていた。

 その部屋の、扉を。

『ウォォォーーーン……ッ!』

 そこから空気をびりびりと振るわせた吼えが聞こえた。人間で言えば怒声だろうか。ただ、少し苦しさまでも感じられた。

「アヒャヒャ! 吼えてる吼えてる!」

 その吼えを嘲笑うかのように、つーが言葉を洩らす。

「これから彼には働いてもらいませんとね……」

 つーとは正反対に、山崎は冷静な声で言った。だが、一般人なら恐怖を感じられる程の吼えに対し、このように冷静だと、こちらの方が少し怖い。

 もう一人、モララーは言葉を洩らすことなく歩いていた。ただ、やはり口元には微笑を浮かべている。

 そして、部屋の前に着いた。

「開けた瞬間襲い掛かってくるかもしれませんね」

 さりげなく脇に抱えたノートパソコンを隠しながら、山崎が言う。

「大丈夫だ。首輪に鎖をしてあるからな」

 初めて声を発したモララーの声は不気味なものだった。

 そして、ゆっくりと扉の取っ手を回す。

ガチャ……ッ

『ウォォォオンッ!!』

 開けた瞬間、否、開けるより少し早く吼えが響いた。今回のは紛れもなく怒声。振動により、変化を見せていなかった空気が、モララー達を襲った。

 だが、モララー達は少し舌打ちを洩らすだけで、吼えの元へ、歩き出した。

「いつでも五月蝿い奴だ。今回は仕事だと言うのに」

 そこには、黒い体毛をした巨大な獣が座っていた。だが、種族から言ったら、これは犬だろう。座り方も、少しだが犬の面影が見える。

 顔だけでも、モララーの身長程度あった。巨大な口からは、白い牙が顔を覗かせる。横にある窓から、夕日が見えた。そして、その橙の光が白い牙を照らしていた。

「ふぅ、首輪は大丈夫そうですね。鎖を外したら、つー、頼みましたよ」

 山崎はただ一点を見ていたが、ようやく言葉を発する。その視線の先には、青い首輪が付けられた、獣の首があった。

『ガルルルルルゥ……ッ!』

 威嚇のつもりだろうか。それとも、首に付けられた首輪が苦しいのかもしれなかった。首輪は、ぎりぎりとも言える程、首を圧迫している。圧迫された所は肉が剥き出しになっていた。

「アヒャ!? 俺がぁ!?」

 そんなことはお構いなしに、つーは山崎の言葉に愚痴を洩らす。

「コイツと一緒にいれば、絶対血が見れるぞ」

 そのつーに、モララーは窓から見える夕日を眺めながら言った。

 この言葉に、つーは少し興奮している。

「アヒャ! 行ってやるよ!」

「待て。町の奴が少なくなった夜中に決行だ。……反抗したらあれだぞ」

 つーはもう行きたい、と思っているらしく、かなり興奮していた。だが、モララーの後半の言葉には、ちゃんと頷く。

「これで……、選ばれし者は終わりだ」

 モララーはまだ夕日を見つめていた。

      ※※※

 まだ少し、彼らの仲間になった実感が沸かないまま、俺達は無言でいる。俺も、ポカーンとしながら、日が暮れた町の風景を見ていた。もう、空には一番星が輝き始めている。何となく綺麗だなぁ、と思った。

 だが、急に疑問が浮かぶ。

「なぁ、それで『魂の剣』はどうなったんだ?」

 俺の質問に、皆は口を噤む。何か悪いことを聞いたか、と少し戸惑っていると、兄者が口を開いた。

「見つからないんだ。どうしても。このままじゃ、どんどん『魂砕き』の犠牲者が……」

「魂砕き?」

 聞きなれない単語に、俺は首を傾げた。すると、俺の右の方に立っていたレモナが、あっそっか、と呟く。

「教えてなかったね。……魂の剣で魂を取られることを、私達は『魂砕き』と呼んでいるわ。つまり、取られることを砕く、って言ってるの」

 成る程、と何故か納得する。確かに魂を取られる、と言うより、砕かれる、と言った方が何となく語呂が良かった。

 まぁ、俺だけかもしれないが。

 ふぅ、とため息ついて、俺は急に疲れてきた。大きな欠伸まで出てくる。

「フサ君、寝てて良いよ。どうせ私達もすぐ寝るから」

 しぃが優しい笑顔で言ってくれた。俺は一応断ろうとしたが、皆が良いよ、と言ってくれるので、奥の部屋で休ませてもらうことにする。

(今日だけで、色々あったしなぁ)

 自分でも肯定して、布団の中へ潜り込んだ。そして、急に眠気が襲う。

 俺はゆっくりと寝息を立て始めた。

      ※※※

第八章 an enemy... / 敵


 どれくらい経っただろうか。何かが蠢くような音で、俺は目覚める。聞き間違いか、と思ったがそうじゃない。確かに、何かが蠢いている。

 気づいたのは俺だけじゃなかったようだ。それどころか、俺の周りに寝ている全員が身体を起こす。俺とは違い、皆しっかりと目を開けていた。

「……来る」

 誰が呟いたかは知らないが、その直後、激しい怒声が響く。

『ウォォォオンッ!』

 犬みたいだ。だが、声の大きさからして、普通の犬ではないのは俺でも判る。

 次第に、床が揺れ始める。何かが走っているかのようなリズムで。

「外だっ!」

 兄者の声で、皆が武器を構える。俺も、いつの間にか枕元においてあった『甦りの剣』を掴んだ。

 そして、扉へ走り開ける。外にあったのは、煌く星達の夜空と、一段と大きい満月。そして、一番近くにあったもの。

『ガルルルルル……ッ!』

 外に待ち構えていたのは、黒い体毛の獣だった。赤い瞳をした、狂犬。引き裂かれたかのような口からは、白い牙が顔を覗かせる。

 夕方会った巨大ソルノウより、数段大きい。

「アヒャ! お前達が選ばれし者の護衛係ってかぁ!?」

 その狂犬の上に乗っていた赤い体のAA。両手には、鋼の爪が装着されており、小柄な体格からは考えられないようなオーラが感じられた。

「誰だお前は!?」

 ギコが激しい口調で問う。手には、あの槍が握られていた。

「俺達かぁ? 俺はつー。そして、コイツはケルベロス。今、お前らを逝かせに来た死神ってところか!」

 叫んだ後、つーと名乗る奴は俺たちを見渡す。つーは、狂犬、いやケルベロスの背中に乗っているため、俺たちを見下しているような感じだった。瞳も、何か怪しい感じだ。

『ガルルルルル……ッ!』

 そこまで確認した所で、ケルベロスが威嚇と見られる感じで吼えた。この状態では、牙が剥き出しになっている。

 にっ、と嫌な笑みを浮かべ、つーはケルベロスの背中から飛び降りた。結構な高さだが、何事もなく着地するつーは、相当の実力者だろうと察知できた。

「ちっ、コイツら……。普通の奴らじゃねぇ……」

 ギコが舌で口の周りを舐めた。それは、彼が気合を出すときに使ってしまう動作らしい。

「とにかく……、フサが遣られたら終わりだ。俺達は遠距離でいくから、お前らでフサを守れよ」

 兄者が脇に抱えていたノートパソコンを開く。彼と弟者、しぃは遠距離攻撃が得意なので、ある程度後ろに下がった。

 そして、もし相手が近距離に入ってきた場合のため、モナーが彼らの護衛に入る。

 残りの、つまり俺、ギコ、レモナは近距離攻撃。ある程度、前線に立たなければならないのだ。

 だけど、まだ俺は戦闘二回目だった。いきなり前線に立つのは少し怖い。一応、ギコとレモナが守る形で戦おうとしているが、不安は残った。

「判ったわ。フサ君、頼むわよ。貴方が私達の希望の光―――」

 レモナが手に付けているのは、『ガーディアングラブ』と言う。その昔、世界一の剛力がつけていたと言われる、伝説のグラブだ。はめると、生地の中から磁力が装備者の手を包む。それが、威力を増幅させるのだ。

「全ては貴方にかかっている」

 全員の視線が、俺に向けられているような気がした。

「へっ、最後の会話は済んだか!?」

 一瞬の静寂に包まれていた俺達の耳に、つーの声が入り込む。はっ、と我に返り、皆武器を握りなおす。勿論、俺も。

「行けぇ、ケルベロス!! 奴らを食い殺せ!!!」

 つーの号令とともに、ケルベロスが襲い掛かる。その時……、俺はなぜか、その瞳が苦しそうに見えた。

      ※※※

 病院の廃墟に残っていたのは、山崎だけだった。先程のように、兄者の持っているパソコンより、少し小型のノートパソコンを起動させている。

「つーは、上手く遣っているでしょうかね……」

 手慣れた手つきでパソコンのキーを打ちながら、山崎はポツリと独り言を言う。相変わらず、顔はにこやかだ。

「いや……、私が気になるのはモララーの方ですか」

 一度、パソコンを動かしている手を止めて、窓ガラスが朽ち果てている所を見る。すっかり、荒れ果てた廃墟には、月明かりだけが寂しく照らしていた。



 廃墟から、然程離れていない森林。

 新緑の葉が、空を仰げなくさせている。そのため、ここには月明かりが入ってこない。夜行性動物には丁度良いのか、梟の鳴き声、蝙蝠の羽音などが聞こえる。

 そんな所、しかも奥の方に、黄色いAAの姿があった。

「山崎の言うとおりだ……。ここには、何か感じられる……」

 彼、モララーの右腕には、やはり魂の剣が握られている。ただ一つ違うのは、それに取り付いている黒いオーラが、密度を増している、と言うことだ。暗いため、実際には確認し難いが。

「ここが……、僕の力を強くしてくれるんだね……」

 いつも通りの微笑。だが、この微笑も何か違った。夕方の微笑より、かなり邪悪さが増している。

「フフフッ……フハハハハハハハハッ!!」

 突然、暗い森に哄笑が響き渡った。狂ったように笑う彼に、夜行性動物も少し怯えているみたいだ。

「これさえあれば……! 僕はもっと強くなれる!」

 そして、再びの哄笑。

 目線の先には、鱗の生した祠らしきものが、静かに佇んでいた。

      ※※※

第九章 pain... / 苦しみ


『ガァアッ!』

 白く光った牙が、ギコの体に近づく。それにちゃんと気づきながら、ギコは右に跳躍した。

 鋭い牙は地面にのめり込む。

「おらぁ!」

 そこに、ギコは素早く攻撃を仕掛けた。凍風を纏った槍が、ケルベロスの黒い皮膚に突き刺さる。

 だが、俺みたいな毛に囲まれている皮膚は、思ったほど丈夫そうだ。案の定、槍は意図も簡単に吹き飛ばされる。

「ちっ、肉弾戦は難しいか……!」

 数メートル離れた所に落ちてしまった槍をギコは拾う。ゆっくり拾っていれば、ケルベロスの犠牲者になってしまうのは確実だ。そのため、素早く拾い、少し後退る。

『攻撃プログラム起動! ツインストームッ!』

 俺達が対峙しているうち、後ろから声が響く。

 刹那繰り出されたのは、二つの竜巻。激しく舞う砂煙や、切り裂くような烈風に、ケルベロスも一度たじろいだ。

 プログラム、と言っているところから、これを繰り出したのはパソコンを武器にしている兄者だろう。案の定、少し振り向くと、兄者がにっと笑っていた。

「ギコ! 止めを刺すのではなく、攻撃を重ねてダメージを与えろ! 止めはフサに任せるんだ!」

 弟者が、何発かの弾を発射しながら発した言葉に、ギコは無音の応答で、槍を繰り出す。が、その前にレモナが攻撃を仕掛けていた。

「覇ッ!」

 右手の正拳突き―― 気力をその腕だけに集めて相手に攻撃を与える業をレモナが放つ。

「焚ッ!」

 次は左足の回し蹴り。それは跳躍して放たれたため、ケルベロスの顔面に直撃する。

「圃ッ!」

 三発目はサマーソルトキック―― つまり、爆転をしながら足で攻撃をする大技を、最後に放つ。

 巨体は、この三つの攻撃で、間違いなく揺らいでいる。

 レモナが振り返ることなく後ろに跳び戻る。その直後、電撃と見られる光が、ケルベロスの頭に落下した。

 それはしぃの放った魔法だ。

『グッ……』

 ケルベロスの巨体がゆっくりと倒れ掛かる。攻撃の間がなく、一方的に遣られていたため、当たり前だろう。

「ちっ、使えねぇ奴だな!! 何のためにお前をソルノウにしたと思ってんだ!! こうするしかねぇな!!」

 それを後ろから見ていたつーが右手を振り上げる。すると、ケルベロスの首に付けられていた首輪が絞まり始めた。

『グゥ……ッ!!』

 間違いなく苦しんでいる。それを紛らわせるためだろうか。ケルベロスは攻撃に転じた。

 狙われたのは、ギコ。月夜の光に反射している爪が、彼に迫った。

「げっ!?」

 巨体からは考えられないような俊敏さだ。今現在は、犬と言うより狼と言った方が良いかもしれない。

 爪はギコの腹部に命中した。間一髪、鋭い部分には当たらずに済んだため、神経を揺さぶるのは鈍い衝撃のみだ。

 だが、それだけでもギコの表情は険しくなる。

『回復プログラム起動! ヒーリングレイン!』

 後ろから兄者の声が叫びが聞こえてきた。直後、ギコの体を緑色の光が包む。頭上からは、同じ色をした光の雨が降り注ぐ。

 険しい表情はやがて和らぎ、ギコは起き上がった。そして、徐に俺の所へ来る。

「大丈夫か?」

 俺が聞くと、ギコはまだ少し険しい表情をケルベロスに向けたまま、答えた。

「あぁ……。ソルノウの攻撃だからな……、気をつけないと……」

 安全を確認し、俺は甦りの剣を握りなおす。

「だけどアイツは……、無理矢理戦わされているみたいだな……」

「え?」

 ギコの洩らした言葉に、俺は少し反応した。

 確かに、後ろにいるつーが右手を振り上げた直後、ケルベロスの首についている首輪がきつく絞まった。

 俺は気がつく。首輪からは微量の血が見えていた。絞められたときに出来たものだろう。

 無理矢理にでも、奴らの道具となって戦っているケルベロスを見ていると、俺の頭の中で、何かが切れる気がした。

「なぁ……、甦りの剣で魂が呼び戻されるんだろ? だったら、俺が奴の体を斬れば魂は―――」

「無理なのよ」

 俺の提案を、レモナが冷たく遮る。

「甦りの剣は、魂がこの世を彷徨っている時にしか使えない。ソルノウになっているってことは、魂が天上の世界へ行ってしまったってこと。つまり……ケルベロスの魂はもうこの世にはない。彼だって、元々は普通の犬だったでしょうに……。倒すしか、方法はないのよ」

 哀しげな表情で語るレモナに成る程、と俺はまた納得する。

 だから、昼間倒したソルノウは元に戻らなかったのだ。魂はもう、この世にないから。

「あいつらが……、こいつを苦しめているのか……!」

 俺の中で、何かが切れた。今度は、完全に。

      ※※※

第十章 evolution / 進化


『ウガァァァアアアッ!!』

 ケルベロスが、今度は俺に襲い掛かってきた。背中に当てられる月の光が暖かい。だけど、今はそんなことを思っている時間じゃない。

 振り下ろされた右腕の爪は俺の頭上に命中――― する前に俺は甦りの剣で止める。

 激しく強い力だ。今までの俺なら、あっという間に打ち負けてしまっただろう。

 だが、今は違う。何か怒りのようなものが、心の奥底から湧き上がってくる気がした。

 それは、俺の腕力を強くする。

「ッ!」

 音のない気合。表情を変えぬまま、俺はケルベロスの爪を振り払った。その衝撃で、奴の爪が二本折れる。

 奴の痛みは首と連携し、無傷の左腕を、今度は下から俺に襲い掛かる。皆がまずい、と思い武器を握りなおし、俺に近づこうとするのが判った。

 だが、俺はそれに応じない。

「……!!」

 息を一瞬止め、跳躍する。昼間のギコ程ではないが、十分な高さまで跳ぶことが出来た。

 そして、丁度足元に来た奴の爪は空しく空を切る。それを俺は見逃さない。

 重力に捕らわれた俺の体は、爪の着地することの引き金となる。少し固い感触の爪は、俺の体重に耐え切れるみたいだった。

 案の定、ケルベロスは爪に乗った標的を振り払う。その力をも、俺は利用した。精悍な表情のまま。

「うおぉぉぉおおおっ!!」

 振り払う力を利用し、俺は跳躍する。着地点は、ケルベロスの首。狙うは奴自身ではなく、奴を苦しめている首輪だった。

「助けてやるよ……!! 俺が……ッ!!」

 静かに、だが力強く、俺は言い放った。刹那、奴の首輪に甦りの剣を振り下ろす。剣は、首輪に突き刺さった。

ガキィンッ

 鋼の壊れはてるような音が、俺の耳に入ってくる。再び、俺の体を重力が包む。それに従い、甦りの剣も下に落ちる。首輪は、一つの傷と共に、地面に落ちた。

「すげぇ……!」

 ギコの声が聞こえたが、俺はそのことで笑う気にはならなかった。寧ろ、怒りと悲しみが、心の全てを覆い尽くしている。

 首輪だけ、と言っても綺麗に首輪だけ斬れたわけじゃない。皮膚にだってめり込んでいる。そして、元々奴の首には古傷が浮かんでいた。

『グゥ……ガァ……!』

 痛みで蹲るほどの威力は込めていた。

「畜生……畜生! 首輪が取れちまえばどうしようもねぇ、って訳だな!? ……アヒャ、完敗だぜ……」

 つーが舌打ちしながら俺達に言った。だけど、俺は聞く気にはなれなかった。

 生き物を苦しめる、痛めつける、道具にする――― こんなに酷いことは、許せなかった。

「お前達が……、こんなことやってるのか……?」

 地面に転がっていた甦りの剣を拾い、握りなおす。近くにケルベロスがいたが、蹲ってるので行動しないだろう。

「アヒャ! その通りだぜ! この世界を魂無き者、つまりソルノウで覆うことが俺達の目的……、こんなことで俺達の計画が終わらない!」

 哄笑を上げながら、つーが叫ぶ。そして、右手を振り上げた。そこに、黒っぽいオーラが纏わりつく。

 渦巻くようなオーラは、やがて闇に包まれた扉を造った。

「報告しに行かないといけないからな……! あばよ」

 その禍々しい闇に、つーは消えていく。俺がそれに近づく頃には、その闇は消えていた。

      ※※※

ザッ……ザッ……ザッ……

 草を掻き分け、黄色いAAは歩いていた。右手には漆黒の剣が握られており、邪悪なオーラを発している。

 モララー、と言うことが判るが、少しだけ違う所があった。それは、背中に生えている白銀の翼。そして、彼自身が纏うオーラだった。

 彼は、目線の先にあった廃墟に足を踏み入れる。中にいたもう一人のAAが、こちらに気がついた。

「フフッ……。お帰りなさいモララー」

 自分の主とも言える彼が、少し変わったことには一言も触れず、山崎は何時もの笑みを浮かべていた。

 背中の翼を微妙に揺らし、モララーは鼻で笑う。

「モララー、か。それはもう古い名前だよ。僕はもう変わった。……そう、彷徨う魂が集まる所、『魂魄の祠』によって……。僕の受けた名前、それは―――」

 そこまで言ったところで、モララーは魂の剣を振り上げた。それに連携して、翼も激しく揺れる。

『大天使モララエル』

 そして、彼を黒いオーラが包み込んだ。瞳も、より邪悪な光を帯び、廃墟の空気も蠢く。

 一般人なら凄まじい恐怖を覚えるだろう。だが、彼の前に立つ山崎は、何時もと変わらない口調で相槌を打つ。

「神々しい限りですね……。そろそろつーが帰ってくるようです。ですが……、私は駄目だったと思いますがね」

 具現化パソコンをその場に置き、山崎は廃墟の入り口――とは言っても完全に崩れ果ててはいるが――を見やった。

 そこに、黒い塊が現れる。やがて、それは人物ほどの大きさになり、中心から赤いAAが出てきた。

「ただいま戻ったぜ……。血を見れずに敗北だ。情けねぇったらありゃしねぇ」

 不満そうな表情で姿を表したのはつーだ。月が綺麗に見えるようになった頃出発したときとは違い、隣に狂犬の姿はなかった。

「そうか……。やはり、その人達は侮れないね」

 つーはモララーの姿を見て、変化を口には出さなかった。所詮、彼には関係のない話なのだろう。

 そのモララーは自分の特等席――とは言っても傷だらけで薄汚れている椅子――に腰を下ろした。魂の剣は自分の隣に置いてある。

「なぁ! 今度こそ俺に行かせてくれよ! 殺したくてしょうがねぇんだよ!」

 つーが荒い声でモララーに強請った。だが、モララーは顎に手をつけて考えている。

「いや……、ここはねぇ……」

 呟きながら考えているが、直ぐに口元を歪め、立ち上がった。

「僕が行くよ」

 魂の剣を握り締めながら。

      ※※※

第十一章 determination... / 決意


 つーとの連絡手段が途切れ、俺は甦りの剣を地面に叩き付けた。

「畜生ッ!!」

 俺の心に残ったのは、怒りと後悔。元々は普通の犬だった奴を、こんな哀しい戦いに巻き込んだ、奴らへの怒り。

 そして、結局は相手を倒すことでしか解決できなかった、自分への後悔だった。

「フサ……」

 ギコが歩み寄ろうとするが、足を踏み出した直後に止める。

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