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夢  現  列  車 (おーあーるぜっと)

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匿名ユーザー

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ATTENTION!
この小説には、1部グロテスクな表現が含まれております。
あらかじめご了承下さい。





序幕
虹色の乗車券



彼は、夢を見た。


奇妙な、夢だった。


大きな、虹色の箱の中に、何人ものAAが入っている。

自分はその箱の中で、1つの『視点』に過ぎないものとなっている。

箱の中のAA達は、何やら話し合っていたり、うろうろしたりしている。

彼の存在には、誰も気付かない。


彼は、辺りを見回した。

(これは……?)

箱の側面に、窓がいくつかあった。

接近し、外の景色を覗いてみる。

そこで見たものは、何かとても長いものだった。

それが、もの凄い勢いで彼らのいる箱のそばを通過している。

襲い来る、引き込まれる様な突風。

その風圧に、『視点』である彼も耐えきれなくなり、窓から離れる。

窓から離れると、そこにはもう、虹色の箱は無かった。

代わりにあったのは、暗い、細長い部屋と、2人のAA。


(え……?)


2人は、赤い色のイスに向かい合わせで座り、話している。

「で、君はどこまで行くんだい?」

「どこまでって……、どこまでも行くに決まってるじゃあないか」

(何だ、この会話……)

「そりゃあそうか。君ならどこまででも行けるよなあ」

「僕だけじゃない。君も、皆も、行こうと思えばどこまでも行けるんだよ。

だって、夢に終わりなんて無いんだもん」

「確かにな。ユメマボロシにカギリナシ、か……」

会話は続いている。

だが、段々と聞き取り辛くなってくる。

どこからか、雑音の様な音が聞こえてきたのだ。

(!?)

雑音はどんどん大きくなる。

それにつれて、視界もぼやけてきた。

(何だ何だあ!?)

もはやまともに聴覚が働かない。

部屋の中も、殆ど見えなくなってしまった。


(うるさいうるさいうるさあああい!)


次の瞬間、雑音はピタッと止み、何も見えなくなった。

続けて、頭の中で、誰かの声がした。



――この度は、『夢現列車』にご乗車頂きまして、誠に有り難うございます……



そして、彼は目を覚ました。





第1幕
白色のホーム



朝だ。

小鳥のさえずる声が聞こえる。

晴れ渡った青空に、チャイムの音が響き渡る。

「ギコくーーーん!」

元気そうな、しかしどこか怒りのこもった声が、とある2階建ての民家から聞こえてくる。

やがて、ドタドタという音の後、ドアが開いた。

「おう、お待たせ!」

眠たそうな顔をして、ギコがドアから出てきた。

「もう、遅いわよギコ君! もっと早くに出る予定だったのに!」

先程ギコを呼んだしぃが、ほおをふくらませている。

「悪い悪い、寝坊しちまったんだゴルァ」

「全く、こういう日くらいちゃんと早起きしろよな!」

しぃの傍らにいたフサギコが、ギコを叱る。

「本当よ! いつも遅れてくるんだから!」

「いいじゃねえかよ、眠かったんだし、それに……」

「それに、何だよ?」

「あ、いや、何でも……」

ギコは嫌に狼狽している。

「ギコ君、何なの?」

「な、何でもねえんだ!ゆ、夢、そうただの夢だゴルァ!」

「夢、ねえ……」

2人は疑いの目でギコを見ている。

「も、もういいじゃねえかよゴルァ! ほら、さっさと行くぞ!」

そう言うとギコは、1人でさっさと歩いていった。

いぶかしげに思いながらも、しぃとフサギコはギコの後についていった。



『今度の休日、一緒に買い物行かない?』

こう2人に誘われた時、最初、フサギコは遠慮した。

自分を誘おうと最初に言い出したのはしぃらしいが、フサギコは2人のデートのお邪魔虫になりたくはなかった。

しかし、どうにも2人が引かないので、結局、彼は折れた。

もっとも、買い物の途中でこっそり逃げだそうかと、密かに思っていたりしているのだが。

2人っきりで過ごす時間を彼らに与えても、バチは当たらないだろうと思ったから…。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



そうこうしている内に、彼らは駅に着いた。

目的地は、この駅から電車に乗って、更に少し先に行った所だ。

改札口を通過した3人は、ホームで乗るべき電車を探している。

ラッシュの時間帯とはだいぶ離れているが、駅は意外と混んでいた。

「えーと、どの電車に乗りゃあいいんだゴルァ?」

ギコは言いながら、辺りをキョロキョロと見回している。

「ギコ君のお陰で、予定していた電車乗り遅れちゃったからなあ~」

どうやらしぃは、ギコの寝坊をまだ根に持っている様だ。

「もういいじゃんかよしぃ~!悪かったからさあ!」

「ははは、やっぱギコはしぃに頭が上がらないな………、

と、おお! あれは!」

フサギコが、突如驚きの声を上げる。

「えっ! フサ、何!?」

「ほら、あれあれ!」

フサギコの指し示す方向には、真っ白な新幹線が、美しいフォルムを遠くのレールに預けていた。

「ギ、ギコ君あれって!」

「お、おう間違いねえぞゴルァ!『まち号』じゃねえか!」


『まち号』とは、数日前に開通したばかりの新幹線である。

新しくできた新幹線、というだけでは、当然あまり有名にはならない。

だがこの『まち号』は、あの『管理人』ひろゆきが絶賛したという事で、突如として有名になったのだ。

ギコ達AAが住むここ『2ちゃんねる』全体を見、管理するひろゆきを知らぬ者は、『2ちゃんねる』には存在しないと言ってもいい。

そのひろゆきがすごいと言ったのだから、その影響力は凄まじかった。


「お、俺ちょっと見に行ってくる!」

フサギコは興奮しながら、すごい勢いで『まち号』の止まっているホームへと走り出していった。

「お、俺も!」

ギコがフサギコの後に続く。

「ちょ、ちょっと待ってよ2人共!」

2人の子供っぽさに呆れながら、しぃは2人を追いかけていった。

階段を昇り、行き交うおじさんおばさんをすり抜け、階段を降り……。

やがて3人は、『まち号』の目の前まで来た。

「でけえ……!」

一番最初に着いたフサギコが、感嘆の声を上げる。

「確かに、こりゃでけえなゴルァ……」

「へえ、遠くから見るのとじゃやっぱり違うんだ……」

各々好き勝手な事を言っている内に、『まち号』はドアを閉め、次の駅へのしたくを終えた。

「出るな……」

やがて、白き輝きを放ちながら、『まち号』は少しずつ速度を上げながら、走り始めた。


 ガタン……

 ガタンガタン……


皆が見守る中、白い大蛇の様な姿をした新幹線は、風を切る様なスピードで走り去っていった。

「行っちゃったね……」

「ああ……、あれ、フサどうしたんだ?」

フサギコは、『まち号』が走り去った彼方を、口を半開きにして呆然と見つめていた。

「お~い、フサ、どうした?」

「……え?あ、いや……」

すぐにフサギコは、何事も無かったかの様に、元に戻った。

少し奇妙に思ったが、ギコはこれ以上詮索しない事にした。



そうこうしている内に、反対側の線路に電車がやって来た。

「お、あれ俺達の目的地行きだな」

「あれに乗りましょ」

やがて電車は止まり、ドアが開いた。中から数人出てくる。

3人は車内に入り、すぐ目の前の座席の左隅に座った。

ドア側から見て、右からしぃ、ギコ、フサギコという順番で。

アナウンスの声が聞こえる。

『3番線、ラウンジ板行きの電車は、5分後に発車致します……』

「発車まで時間があるみたいね。暇だから何かやらない?」

しぃが2人に提案を持ちかけた。

「そうだな、じゃあ……21言ったら負けになる、あれやらないかゴルァ?」

「あ、いいわね。私賛成! フサギコ君は?」

「……」

フサギコは答えない。またも放心状態となっている。

「お~い、フサ、どうした?」

「……」

先程と違って、呼びかけても反応しない。

彼の目線を追いかけてみると、丁度さっき乗ってきた女性のAAの元にたどり着いた。

しぃに似ているが、なかなか強気な感じだ。

しぃは、フサギコに何が起こったのか瞬時に判断できた。

やがてフサギコの視線に気付いたのか、そのAAが彼に話しかけた。

「何だ?俺の顔に何か着いてるか?」

「へっ?あ、いえ……」

顔を赤らめて、視線を戻す。

奇妙に思いながらも、そのAA、つーは、3人が座っている席と、ドアを挟んだ位置の座席に座った。

座った後も、フサギコはつーを気にしている。

フサギコの突然の変化の理由に気付かないギコは、しぃに耳打ちした。

「なあしぃ、フサ一体どうしたんだ?」

「ふふ、要するにあれよ。ひ・と・め・ぼ・れ!」

「えっ!フサがあ?」

ギコは改めてフサギコを見た。

フサギコは視線をつーにやったり戻したりして、明らかに普通じゃない。

(フサ、お前……)

何だか信じられない感じだった。


ふと、ギコが周りを見てみると、だいぶ乗客が増えていた。

ギコ達が座っている座席の右隅2つは、お喋り中のモナーとレモナが座っている。

更にその2人の前に当たる座席に座っているのは、ショボーンだ。

その他にも、色々と乗客が乗り込んできている。

電車もそろそろ発車の時間だ。

『間もなく、3番線、ラウンジ板行きの電車が発車致します…』

「やっと発車か」

やがて聞き慣れた音楽が流れ、アナウンスの声が続く。

『3番線、ドアが閉まります。ご注意下s』

「「ちょおっと待ったぁーーーーーー!!」」

いきなり2人組の男性のAAが、閉まり始めた電車のドアに滑り込んできた。

一瞬動きが止まるドア。車内に入り込んだ2人。

そして勢いあまって、反対側のドアにドシンと激突した。

「「っつうーーー!」」

2人共顔を押さえている。

『駆け込み乗車はご遠慮下さい……』

呆れた様な声が聞こえてきた。続けてドアが閉まる。

「な、何とか間に合ったな、弟者よ……」

2人組の片方が、もう片方に言った。よく見ると、ノートパソコンを小脇に抱えている。

「かなり、痛かったがな……」

もう片方が返事をする。

「まあ、遅れるよりはいいだろう」

「そうだな、兄者よ……」

電車が、動き出した。

周りの視線が注目する中、滑り込んだ2人、流石兄弟は、ギコ達3人の前の座席に座った。


 ガタンガタン……


窓の外の景色が、速度を上げて変化していく。

電線が波打つ様に動いているのが、ギコには面白く感じた。

「でね、友達から聞いたんだけどね」

隣のモナーとレモナの会話が聞こえてきた。

「その宝石店、強盗にあったらしいのよ!」

「本当モナか!? 新聞読んだけど、見なかったと思うモナよ!」

「本当なの! でね、その宝石強盗犯、グループらしいんだけど、銃持ってたんですって!」

「それで、どうなったモナ?」

「強盗犯グループは宝石を盗んで逃走、店員に死傷者は出なかったみたいだけど、グループはまだ捕まってないんだって!」

「危ないモナね! 削除人達は何をやってるモナ!」

「そうよねえ! 罪無き私達一般人が巻き込まれたら、たまったもんじゃないわ!」

そんな会話が、延々と続いている。

(宝石強盗、か……)

世の中も物騒になったなと、ギコは思った。

と、その時、ギコに1つの疑問が浮かんだ。

「ところでさあしぃ、俺思ったんだけどさ……、

しぃ……?」

しぃは、静かに寝息を立てていた。

フサギコもそれに気付き、ギコに小声で話しかけた。

「そっとしとこうぜ」

「ああ……」

目をつぶったしぃの寝顔は、まるで天使の様だった。

目的地に着くまで、この顔を眺めていようと、ギコは思った。


 ガタンガタン……


次の目的地まで、まだだいぶある。

ふとギコが右を向いてみると、フサギコもうつらうつらと船を漕いでいた。

その奥のつーも、殆ど寝かかっている。

(そういや何だか、俺も眠くなってきたな、ゴルァ……)

ギコは、大きくあくびをした。

車両内は、嫌に静まっている。

聞こえてくるのは、ガタンガタンという、単調で催眠的な子守歌。

そして程よい揺れが、ギコを眠りに誘う。

重いまぶたを懸命に持ち上げながら、ギコは周りを眺めてみた。

モナーとレモナも、互いに寄り添いながら寝ている。

静かになったのは、この為だろうか。

先程駆け込んできた流石兄弟も、そしてショボーンも、既に寝ている。

ギコも、もはや限界だ。

(我慢する必要も、無いか……)


 ガタンガタン……


静まりかえった車両内。

この時、この車両内の乗客全員が、深い眠りに、落ちていった。


 ガタンガタン……


 ガタンガタン……





第2幕
赤色の客席



モナーは、宮殿の様な部屋にいた。


モナーは部屋を見渡した。

部屋はあまり広くなく、あるものといえば、中央のテーブルとイス、

そしてイスに座っている、仮面を被ったAA。

テーブルを目の前にして、礼儀正しく座っている。

何かを待っているのだろうか。

そういえば、とモナーは思った。

この部屋には、ドアが1枚も無い。

自分は、そしてこのAAはどうやって入ったのだ?

そう考えながら、テーブルに目をやった。

テーブルにはいつの間にか、ありとあらゆるケーキが乗っていた。

そしていきなり、イスに座っていたAAが、まるで礼儀など知らぬかの様に、犬食いでケーキを仮面の下に運び始めた。

みるみるうちに貪られてゆくケーキ。

だが何故か、一向に量が減らない。

食べているAAの口元は、クリームや果物でベトベトになっていた。

そんな事は気にせず、次々ケーキを胃に運ぶ。

こぼれ落ちるイチゴ。

散らばるパイ生地……。

いつまでこんな光景が続くのかと、モナーが思った、その時だった。


もぞりっ、と、ケーキが動いた様に見えた。

気のせいかと思ったが、そうではない。また動いた。

それまで無我夢中でケーキを食べていたAAも、手を止めて、蠢くケーキを見張った。

やがて、何故ケーキが動いたのか、その訳がわかった。


蟲だ。

様々な姿形をした小さな蟲が、もぞもぞとケーキから這い出してきたのだ。

1匹2匹どころではない。

何十、何百、いやもっといる。

凄まじい数の蟲が、クリームだらけのテーブルをどんどん埋め尽くしてゆく。

「!」

湧き出る蟲に吐き気を覚えたのか、ケーキを食べていたAAは仮面の上から口を押さえ、背骨を曲げた。

そして、そのまま嘔吐した。

胃液の混じったケーキが出てくる、と思っていたが、違った。もっと嫌なものが出てきた。

また蟲だ。食べたケーキの中にも、蟲が入っていたのだ。

テーブルの上から、そして仮面のAAの口からとどめなく蟲が溢れてくる。

蟲、蟲、蟲。

ムシ、ムシ、ムシ。

終わりようがない。

そしてその蟲の内の1匹が、おぞまじい光景を呆然と見守っていたモナーの足に、

ピタッ、とくっついた。



「うわあああああああああ!!」


悲鳴を上げ、モナーは目を覚ました。

「ど、どうしたのモナー君!?」

悲鳴で起きてしまったのだろうか、右隣のレモナが声をかけた。

「だ、大丈夫モナ。嫌な夢を見ただけ………、え?」

「え?」

モナーとレモナは、その違和感に気付いた。

まず、目の前に座席があった。

こちらを向いた横長の座席ではない。

背を向けた、2人座りの、赤い座席だ。

そして気が付くと、モナーとレモナも同じ作りの座席に座っている。

互いに向き合う様に座席が設置してあったはずなのに、今はまるで新幹線の様な配置だ。

更に、レモナの右側に、ワイン色のカーテンが掛かっていた。

カーテンの奥には窓がある様だが、こんな位置にこんなもの、無かったハズだ。

いや、座席やカーテンだけじゃない。

床も、天井も、先程乗っていた電車のそれとはまるで違う。

何ら変わりないのは、断続的に続く、あの独特のガタンガタンという音。

しかしその音も、何かこの世のものとは思えなくなってきた。

2人は、まだ夢でも見ているのかと思った。

「ね、モナー君、私のほっぺた、つねってくれない?」

「モナもお願いするモナ」

互いに互いのほおをつまみ、力を加えた。

「いたた!」

「痛っ!」

痛みを感じた。夢ではない。

では、これは一体……?


 ガタンガタン……


呆然とする2人……。

そいて、何を思ったか、レモナは右を向き、窓を隠しているカーテンを、

大きくめくった。

「「あ…!」」



窓の外の光景。

そこに、現実的なものなど、一切無かった。


虹色の空が、渦を巻いている。

無色透明の光の粒が、不規則に飛び交っている。

そして、下の方を見ると、

2本のレールが、支えも無いのに、回転する車輪をその身で受け止めている。



「な、ななななな……」

これは夢か? 夢でなかったら、何だというんだ?


「な、なんだこりゃあぁ!」

「あ、兄者! これは一体……!?」

周りからも声がする。

皆、起きたのだろう。

「何よ……、何よこれぇ!」

レモナが悲鳴に近い叫び声を上げている。

モナーは、半ば放心状態で外の不可思議な光景を眺めている。

何もかも、あまりに現実離れしている。

誰もが、こう思った。



『一体何が起こっているんだ?』



 ガタンガタン……


 ガタンガタン……



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



しばらくしてどうにか落ち着いた彼らは、各自の自己紹介の後、これからどうするかを決めるための会議をする事にした。

謎の空間に放り出されたのは、ギコ、しぃ、フサギコ、モナー、レモナ、つー、ショボーン、そして流石兄弟の計9人だった。

幸い、あまり混乱したり、騒ぎ出したりする者は出なかった。

もっとも、皆多かれ少なかれ、非現実的な事にショックを受けてはいるのだが……。



「1つ、確かなのは……」

皆、真ん中の方の座席に集まり、ギコの声に耳を傾けている。

「俺達全員、異次元みたいな所に飛ばされたって事だな、ゴルァ」

「何で、こんな事になっちゃったんだよお……」

ショボーンが悲しそうにこぼす。

「起こった事はしょうがないモナ。ともかく今は、ここからどうやって戻るか考えるモナ」

モナーが前向きな発言をする。

「そりゃそうだな。いつまでもこんな所に留まり続ける訳にはいかねえからな」

つーがモナーに同意する。

「ところで兄者よ、インターネットには繋がったか?」

弟者の問いかけに、兄者は首を横に振った。

「全く駄目だ。ウンともスンとも言わない」

「携帯電話も、さっき試してみたんだけど、やっぱり圏外だったわ」

ため息混じりにレモナが言った。

少し置いて、それまで黙ってたしぃがぽつりと言った。

「やっぱり、ここは異次元、少なくとも別世界って考えた方がいいみたいね……」

「……」


重苦しい沈黙が、辺りを包んだ。

その沈黙を最初に破ったのは、フサギコだった。

「なあ皆、さっき外を見た時気付いたんだが、下にレールが敷いてあったよな。

それに、今も聞こえている、このガタンガタンっていう音……」

「それが、どうしたモナ?」

「てことはさ、今俺達がいる所って、つまりその……」

「列車か何かの中だって、言いたいのか?」

フサギコの言葉を、つーが続けた。

「え、う、うん、そういう事……」

言った後で、照れくさそうにフサギコはうつむいた。

フサギコの言葉を聞いた兄者が、呆れたように言った。

「じゃあ何か、俺達の他に誰か乗ってるって言うのか? 確かに、他の車両もあった様だったな。

だがな、乗っていたとしても、ドアが開かないんじゃ入れないだろうが!」

下唇を噛むフサギコ。

そう、ドアが開かない。

会議前に、それは既に調べられていた。



車両内の構造は、次のようになっている。

まず、2人座りの赤い座席が、左右に2つずつ。

これが、10列並んでいる。

次に、部屋の前後に、隣の車両に繋がっているであろう、開かずのドアが1枚ずつ。

もう1枚、前の方のドアの右横に、少々大きめのドアがあったが、これも開かなかった。

床は、赤い絨毯。

天井は灰色で、少し弱めの照明が、3つぶら下がっている。

壁は殆どが窓で埋められていて、僅かに残った部分は、赤紫色だった。


そして最後になったが、ギコ達9人の他にもう1人、車両に乗っているAAがいた。

ただ、何遍揺さぶっても叩いても、その者は眠りから出ようとはしなかった。

ちゃんと寝息は立てていたので、死んではいない。

だがどうにも気になるのは、9人の内誰も、そのAAの顔に覚えが無いのだという。

つまり、ギコ達が乗っていた電車に、彼は乗っていなかった、という事になる。

別の所から来たか、それとも彼らよりも先にここに来たのかは、全く不明だが……。



また思い出したかの様に、フサギコが口を開いた。

「あ、いやでもさ、列車があるって事はさ、つm」

「ああもういい!」

いきなり兄者が大声を上げたので、フサギコは思わず、言いかけた残りの言葉を飲み込んだ。

「おいおい兄者、そんなに腹を立てるなよ」

「腹も立つわ弟者よ! 折角景気づけにエロ画像を手に入れようと思ったのに、こんなワケワカラン世界に連れてこられたお陰で、全ておじゃんだ!

だいたい、いつも通り生きてきたってのに、何で俺達がこんな世界に来なくちゃなんねえんだ!?」

「俺も同感だな」

兄者につーが続く。

「だいたい、どうしてここに来たのか、その理由がわからねえ事にはなあ」

「た、確かにそうモナね。何でこんな所に来ちゃったのか、調べる必要があるモナ」

「俺もそれに賛成だぞゴルァ。ここに来た理由がわかれば、帰り方も解るかもしれねえからな」

ちょっと危うくなったが、ひとまず会議は、ちゃんとした方向性を持ち始めた様だ。

「帰り方と言えば……」

ふと、思い出したかの様に、しぃが言った。

「あの、寝ていた人…、何か知っているかもしれないわよね……」

「そうね。起きたら色々聞いてみましょうよ」

「で、でもさ、あの人……」

レモナの発言の後、ショボーンがおずおずと声を上げる。

「何回声かけても、起きなかったよね?」

「確かにな~。いつ起きるともわからないし」

こう言ったのは弟者だ。腕を組みながら、更に続けた。

「ともかく、あの人の事は起きたら起きたで置いといた方がいいんじゃないか?」

「確かに……、そうした方がいいかもしれないわね」

しぃがこう言った、その時だった。

「!?」

突如として、皆の頭の中に、声が流れ込んできたのだ。


『ご乗車、有り難うございます。次の駅は、『蜜蝕』、『蜜蝕』です。お降りの際は、お忘れ物のなさいません様、ご注意下さい……』


「な、何だ今の……!?」

誰かが、口走った。

皆、一斉に顔を合わせた。

まさか、他の皆もか、と言いたそうな顔で。

この時、ギコはわかった。

あの時フサギコが、何を言いたかったのかを。



――列車があるって事はさ、つまり、その列車の止まる駅もあるって事だよな……





第3幕
緑色の宴



何人かが、カーテンをめくって外を見た。

何かが、こちらに近づいてきている。

(あれが、駅……?)

近づいてくるにつれて、段々とはっきり見えてきた。


それは、確かにプラットホームの様な形をしていた。

だが、壁が一切無い。わざと取り払っているかの様だ。

緑色の、四角いやや広めの足場から、少し細い通路がこちらに延びている。

通路の丁度反対側には、トンネルの様なゲートが、口を開けて待っていた。

ゲートの向こう側は、ここからではよくわからなかった。


やがて、それが目前まで迫り、止まった。

いや、走っていた列車が止まった、と言うべきか。

彼らの乗っている列車の止まり方があまりになめらかで、列車が止まった感じを出させないのだ。

と、突然、シューーー!っという音が鳴り響き、これまでウンともスンとも言わなかった右隅の大きめのドアが、ゆっくり開いたのだ。

開いたドアの先には、上手い具合に先程の通路が収まっていた。

「出入り口、だったんだ……」

誰に言うとでも無しに、しぃがぽつりと言った。

皆が呆然とする中、またあの声が皆の頭の中に聞こえてきた。


『『蜜蝕』、『蜜蝕』です。お足下にご注意下さい……。なお、この列車は、30分後に、再び発車致します……』


「……」

「……」

誰も動こうとしない……。

「なあ、フサ」

突然ギコが言った。

「な、何だよ!?」

「行ってみねえか?」

「お、おい! 何言ってんだよ! 危険かも知れねえんだぞ!?」

「このままここにいたって、何にも変わんねえだろ? だったらさ、危険でも動こうじゃねえか!」

ギコの発言に、皆が動いた。

「ギコ君に賛成!」

「モナも!」

「モナー君が賛成なら、私も賛成!」

「俺も賛成だな」

「俺も賛成だが、弟者も行くだろ?」

「当然だ。2人揃ってこその兄弟だからな」

「1人でいるのも怖いし……」

次々と声を上げる周りを見て、フサギコは静かに笑った。

「多数決で、お前の勝ちだな。

この分だと、リーダーはお前になりそうだな」

「よせよフサ、似合わねえって」

口ではそう言ってはいるが、ギコの顔は満更でもなさそうだった。

「ようし、行くかゴルァ!」

ギコのかけ声の下、乗客達は皆、列車を降り、駅に向かった。

ただ1人、寝ている彼だけを除いて……。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



ぞろぞろと列車から出てくる皆。

通路は意外と幅があったが、1歩誤ったら、本当に落ちてしまいそうだ。

チラリと下を見て、ショボーンは足が震えた。

どこまでも同じ虹色の空が、終わり無く下方に続いていた。

床の緑色は、絨毯だった。1部青みが掛かった緑もある。

歩いていると、何だか偉くなった気分だ。

最後尾のフサギコがふと後ろを向くと、列車の姿を見る事ができた。


列車は、3両編成だった。

3両とも、赤や青、黄、緑等の段だら模様に、白と黒のストライプが1本ずつ入っている。

通路が延びているのは、真ん中の車両、ギコ達が乗っていた車両だけだった。

下に目をやる。

宙に浮いている、2本のレールと、その間の枕木。

列車の窓から覗いた光景と同じだった。

右の方、列車の進行方向を見て、ふと、フサギコはある疑問を持った。


(この列車、どうやって動いているんだ……?)


「おーーーい! フサァ!」

後ろから声がした。

「ああ、今行くよ!」

フサギコは疑問を頭から追い出すと、前を向き直して、小走りでギコ達の元に向かっていった。

「何やってたの、フサギコ君?」

しぃが尋ねる。

「ん、いや、列車を見てたんだ」

そう言って、フサギコはまた後ろをチラリと振り向いた。

虹色の空をバックにしたその列車は、正に夢の世界の情景の如く思えた。

(夢……)

と、横を見てみると、彼の目を引くものがあった。

大きな砂時計だった。

サラサラと、上から下へ金色の砂が零れてゆく。

これが、発車までの時間を計っているのだろう。

「おおーい! 何やってんだあ!」

今度はつーの声が飛んできた。

皆ゲートをくぐろうとしている。

「あ、う、うん!」

どうにもぎこちない返事をして、フサギコはまた小走りで向かった。

(何だあいつ……)

つーは、フサギコのぎこちない返事が引っかかった。

(俺、何かあいつに嫌われる事でもしたか?)

いぶかしげに思いながら、つーは皆と一緒にゲートをくぐり、奥へ進んだ。

奥には、下り階段があった。

明かりが乏しかったので足下が暗かったが、転んだのはショボーンだけだった。

やがて階段が終わると、目の前にまた通路が延びている。

(どこまで続くんだ……?)

まだ5分ぐらいしか経ってないが、帰りの分も考えないと、置いてけぼりを食らいかねない。

皆、少し速歩きになった。

と、先頭のギコが突然立ち止まった。

すぐ後ろにいた兄者が、ギコの背にぶつかった。

芋づる式に、後ろの皆が次々止まっていく。

「おい、立ち止まるなよ!」

兄者がギコに怒鳴る。

だがギコには、その言葉には返事をせず、こう呟いた。

「ドアだ……」

「ドア?」

「ああ……」

兄者が目をこらすと、確かに目の前にドアらしきものがあった。

ドアノブも着いている。

思い切って、ドアノブに手を掛け、回した。

「お……!」

ドアの奥は、部屋になっていた。

ギコが中に入り、様子を見る。

後ろの皆も入ってきた。

少し広いくらいのその部屋の真ん中には、円形の大きいテーブルと、イスが、9脚。

床は緑色の絨毯、壁は大理石と思われる宮殿っぽい作り。

そして、1番目を引くのが、テーブルに乗っているもの…。


「……ケーキ?」


テーブルの上には、ありとあらゆる種類の、20個近いケーキが乗っていた。


「な!え、ええ……!」

これを見て絶句したのは、やはりモナーだった。

当然だろう。何しろ、先程自分が夢で見た光景が、殆どそっくり再現されているのだから。

(こ、これは、モナの見た夢を再現してるモナ?

じゃ、じゃああのケーキの中身は、まさか……!)

モナーが恐怖の目で、テーブルのケーキを見つめる。

そんな中、つーがテーブルに近寄って、ケーキの1つを手に取った。

「結構旨そうじゃねか。食べちまっていいみたいd」

「駄目モナ!」

いきなりモナーが大声を上げたので、皆驚いた。

「ど、どうしてだよ。何で食べちゃいけねえんだよ」

「そ、そのケーキに、蟲が入っているモナ!」

「……は?」

一瞬、モナーが何と言ったのか、皆理解できなかった。


モナーは、自分が見た夢の事、自分の考えている事を、説明した。

蟲の湧き出るあのシーンでは、皆流石に吐き気を覚えた。

今思い出しても、あの情景は身の毛がよだつ。


モナーが話し終えてから、つーはテーブルの端の方に目をやった。

何本ものナイフとフォークが、綺麗に揃えられてる。

「……」

何も言わず、彼女はナイフを1本手に取り、皆が見守る中、手元にあったケーキ向かって、


ナイフを、下ろした。


切れ目に沿って、中のクリームや果物が現れた。

だが、よく目をこらしてみても、蟲は1匹も見当たらなかった。

「入ってないぞ」

「そ、そんなハズは……!」

モナーがうろたえる中、つーは次々とケーキを真っ2つにしていった。

テーブル上のケーキの数は結構多かったが、途中皆が手伝った事もあって、比較的早く全てが調べられた。

結局、蟲入りのケーキは存在しなかった。

「大丈夫じゃないか。何が食べるなだよ」

愕然とするモナーに向かって、兄者が言った。

「嘘モナ……。確かに入ってたのに……」

モナーの呟き声を気にもせずに、ギコが皆に言った。

「なあ皆、折角だし食べようぜ!」

「おお、賛成!」

「賛成!」

次々と上がる、賛成の声。

そしていつの間にか、各自フォークを手に取り、イスに座って、

ケーキを食べ始めた。

「あ! あああ……! やめるモナ!」

モナーが制止しようとするが、誰も耳を貸さない。

まるで催眠術に掛かったかの様に、皆黙々とケーキを食らう。

食らう、食らう、食らう。

先程モナーがあの様な事を言ったというのに、何故皆平気なのだ?

「レ、レモナ、大丈夫モナか!?」

「大丈夫よ、モナー君。もう、心配性なんだからぁ。

ほら、モナー君も食べたら?美味しいわよ」

「い、いや、遠慮するモナ」


やがて、20個前後の全てのケーキが、平らげられた。

女性であるため体重を気にしているしぃやつー、レモナ、小食なショボーンは、あまり食べなかった。

ギコやフサギコ、弟者もあまり食べなかったが、それでも彼らは1人2、3個食べた。

一番多く食べたのが、兄者だった。

1人で6、7個食べ、しかもまだ食べ足りなそうだ。

「そ、そんなに食べて大丈夫、兄者君?」

流石に心配になったショボーンが尋ねた。

「ああ。自分でも結構食べたと思うんだがな、何故か知らんが、あまり腹がふくれた気がしないんだ」

「兄者もか? 俺もそうなんだよ」

フサギコが言った。

「このケーキ、実は食べても太らない、とか?」

しぃのその言葉を聞いて、レモナが悔しがった。

「ええ、そんなぁ! もっと食べればよかった!」


笑いながら話し合ってる彼らを見て、モナーは唖然とした。

(皆、何ともないモナ。もしかして、本当に大丈夫だったモナ?)

そんな中、ギコが突如として声を上げた。

「お、おい皆! いい加減列車に戻らねえと!」

その言葉を聞いて、皆跳ね上がった。

太らないケーキもいいが、置いてけぼりだけは勘弁して欲しい。

一斉にドアに駆け寄り、通路を駆け抜ける。

そして息を切らしながら、皆列車の手前まで戻ってきた。

フサギコが砂時計を見る。

発車まで、後1分と少しといった所だった。

夢中になってると、時間の感覚が無くなってしまう。

(危ない危ない……)

やがて皆が列車に乗り込むと、頭の中に例のアナウンスの声が流れてきた。


『発車します。ご注意下さい……』


ゆっくりと、出入り口のドアが閉まる。


 ガタン……

 ガタンガタン……


列車が出る。

緑色の駅、『蜜蝕』から……。





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