モナー小説掲示板ログ保管庫@wiki(´∀`*)

このゲームには暴力的な表現が含まれておりますので注意してください (藤居 啓太(元 冷蔵庫))

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ゲーム編
Chapter 1 ジャーナリスト魂

ドキューン!バキューン!ズガーン!

「ああ!くそっ、この最終ボスうぜぇぇぇ!」

様々なゲームの電子音が鳴り響くこのゲームセンターで、一人の青年が近代的なガンシューティングゲームを、汗をじわりと垂らしながら一人で楽しんでいる。

まあ、もっとも今の彼は「楽しんで」やっているとは限らないのだが・・・

「ああっ!もう1回コンテイニューだゴルァ!」

おそらくダメージをゲーム中の敵の喰らったのであろう、怒声を発しながらポケットの中のコインを入れる。

その際、ポケットから、ポトッと5円玉が落ちた。

すぐに、そばの子供が鼻を垂らしながら、5円玉が落ちた、と言ってくれた。

だがそれもたいして聞かずに、彼は、そんなものくれてやるから何処かへ逝け。

それだけ言って、また彼は続ける。

「よし、よしッ・・・!もうちょっとだ・・・!やったぁぁぁ!」

そのゲームをクリアーしたとき、彼は一気に歓喜にあふれながら思わず飛び上がってしまった。

・・・周りの人々の何ともいえない視線が彼にそそぐものの、彼はそんなことは一切気にしなかった。パシャッ、と小さく音が鳴ると、

「よし、スクリーンショットゲット!攻略情報もな・・・これはいい特ダネだゴルァ!」

デジカメを手に、ゲームの画面を写した。それと同時に彼は汗まみれの手でポケットメモに殴り書きでいろいろと書き始めながらゲーセンの外へと帰る。



「ん?何だ・・・?新作の入荷・・・?」

彼は歩みを止めると、またポケットメモのページを新しくして、目立つとも限らない位置に置いてある看板に目を向けた。

『新作入荷のおしらせ 9月30日、新作入荷!「ザ・バーチャルリアリティ」仮想現実に入り込み、活躍するのはキミだ!実体験!なんとキミがゲームの中に入り込み、プレイできるのだ!』

・・・周りに飾り付けも何もなく、大きな文字で書かれている看板を撮ると、足早に彼はゲーセンを後にした。

・・・稼働日は明日か。仮想現実に入り込める、なんだかワクワクするな。俺の好奇心が止まらないぜ。まったく俺はついているな。明日の取材対象はこれで・・・決まりっと。

汗が冷えて冷たくなる体を身震いさせながら、彼は夕日の沈む中、自宅へと向かった。

・・・俺は「ギコ・ハニャーン」。26歳。性格は、まあ子供っぽいと言われるかな。ニラ茶とコロッケが好きなただの一般市民さ。血液型はこんな性格でもA型だ。今日は結構なゲームの攻略情報が手に入った。なにしろ職業は雑誌のジャーナリスト。ゲームのな。

・・・思い出してみれば、いろいろな体験があったな。ゲーム会社の社長さんとも話した。けっこう楽しかったな。おっと、明日はあのゲームについて一番に取材しないとな。他社には負けてられないってもんよ。



・・・まだ雀の鳴く頃の朝に、この前のゲーセンに一人の陰が急ぎ足で入り込む。幸いまだ人は来ていないようだ。

彼はカメラとポケットメモを手に目を皿にしながら、かのゲームを探した。

目を凝らすと、奥の方に見慣れないデザインの直方体のゲーム機。

周りには、黒いカーテンとおぞましい、モナー族の顔をした、ゾンビらしき生物が描かれている。そしてそこには「ザ・バーチャルリアリティー」と書かれていた。

たぶんあれだな。彼はいち早くカーテンの中へ入り込むと、薄暗くて見えづらいが、百円を入れる場所に書いてある説明を読み始めた。

しかし、なんだ。あのデザインからすると、バ○オハザードみたいな物かな?説明にはこう書かれていた。

『ここではあなたが主人公となって、迫り来るゾンビを倒してゆくゲームです!』

そんなのはあたりまえだ。外見からしてもうそうだろう。と思いつつも説明を読み流す。

『まずは椅子に腰掛けてください。そしてそのまま百円を入れてください。10秒後にあなたはもう仮想現実へ!ちなみに痛みや気温、臭いなども実感できる!それと死んだら、また現実に戻されます!』

・・・彼はそれだけを見ると、さっさと百円を入れてしまった。特ダネを早く手に入れたい気持ちと、自分が楽しみたい気持ちが交錯していた。

さあ、ゲーム開始まで、あと4、3、2、1・・・

彼は心の中で呟くと、10秒後すぐに目の前を強烈な閃光が覆った!

彼は、閃光に驚いている間に、自分の意識が何処かへ飛んでしまう感じになった。

自分の体と意識がだんだん離れてゆく・・・



閉じていた自分の目がしだいに開いていく。

どうやらゲームの中の世界に来たようだ。しかし見た光景は、このゲーセンの外と何ら変わりの無い風景だけがいつもと同じように見え、違いなど全く無いように見えた。ただ一つ、自分の手に黒光りの冷たい物が握られている以外は・・・

「いいっ!?こ、これって・・・拳銃?」

彼は手に持つものをいろいろと調べてみたが、どう見ても本物としか言い様が無い。

彼は始めて拳銃を手にしたとき、本物の恐怖と、早く打ちたい童心が心の底から湧きあがってきた。

憧れのまなざしでいろいろポーズを取りながら銃を構えたりしたが、やはり、好奇心からして、撃ちたくなるものだ。

しかし途中で、とてつもなく生臭い死臭が漂ってきた。そう、ゲーム機に描かれていた、モナー族の顔をした八頭身のAAで、体のあちこちに傷跡があり既に朽ちている部分さえある。

・・・彼は明らかにこちらに対して殺意をむき出しにしている。

「へっ、こういうのを待っていたんだ!さっそくぶっ倒してやるよ!」

ギコは少年のような震え上がる心をもってして、一発の銃声の元に体が大きくよろめいてしまった。

いくら様々なゲームをプレイしてきた彼だとしても、本物の銃を手にしたことなど一度も無いのだ。耳にいつまでも残る銃声が鳴り終わったとき、彼は改めて本物に対する恐怖感、それと好奇心が強まっていた。

・・・ほぼ同時に敵を見ると、敵は頭から血煙を上げながら地面に倒れこんでいた。

「うっ・・・流石に本物のゾンビとなると気持ち悪りぃな。だが・・・この撃った感じは二度と忘れられないぜ!・・・で、結局気づいたんだが、このゲームの目的って・・・」

彼が呟いている途中に不意に自分の上半身辺りから、ピピピ、ピピピと電子音が鳴る。彼は冷や汗を同時に書きながら自分の上着のポケットを、まるで宝物を探すようにまさぐった。

・・・あった。でもおかしい、こんな高価そうで頑丈そうな携帯なんざ俺は持っていないぜ?

まだ電子音は鳴っていた。とりあえず『通話』ボタンを押すと・・・

「何だ?ギコさん!?こっちはピンチなんだ、道草を食っていないで早く来て下さいよ!俺は、モナー板町の過去ログで待っています!早く援護してください!」

・・・!?どうやらこれはゲーム中の初期装備のようだ。幸いにもこの町は俺が長いこと暮らしてきた町だ。小さい頃からの近道も全て把握している。周りの風景や前日あった電柱のビラなんかもそのままだ。

早速彼は言われるままにモナー板町に急いだ。だがしかし、ゲーム中の仲間が俺の名前まで知っているなんて流石だな。これはいい特ダネだぜ!

でもあの声、どこかで・・・




Chapter 2 謎に包まれた仲間

「・・・ギコって、将来の夢はあるモナ?」

「おう、あったりめぇよモナー!ゲームクリエーターか、まあゲーム会社で働くことだな!」

懐かしいセピア色の思い出の廊下を、幼げな4人組が軽やかに歩きながら気軽な雑談を交わす。

「あいかわらずギコはゲーム好きだな。そんなのばっかりやって馬鹿になっちゃっても知らないからな!まあ僕は大会社の社長に決まっているからな!」

少し嫌味な口調で、鼻高々に黄色い猫が話している。名をモララーというが、あまりにも頭が良すぎて、他の3人なんて及びもしないことからあだ名が『ガリ勉』とついた。本人は嫌いではないようだし、それで小学校は通していた。

「私は、看護士さんか、介護士ね!あなたの学力なら、きっと出来るわよ、ガリ勉君!」

最後のピンク色の猫は、ギコが密かな思いを抱いている猫である。名をしぃと言う。

・・・このまま小学校の卒業式。

「じゃあ、中学でまた会おうぜ!みん・・・」

「ゴメンモナ・・・」
「すまないからな・・・」
「ごめんなさい・・・」

「え・・・?」

ギコが予想していた相手の相槌とは大きく違っていたので、彼は不安な思いを抱きながらより問い詰めた。

どうやら話によると、3人とも親が厳しく、有名な私立中学校への入学がきまったそうだ。それ故に4人は別々の道を歩む・・・

「・・・そうか。だが、お前らの将来の夢、叶えられるなら、喰いなんて無いぜ!大きくなったお前らも見たいしな!もちろん俺の夢もな!」


・・・どうだ、3人とも、この通り俺はゲーム雑誌の取材担当になってるぜ!しかも最新のゲームに一番乗りだ。これが成功すれば大儲け・・・

襲い掛かるゾンビを倒し、走りながら、いろいろ考えているとさっきのような八頭身のゾンビが不意に自販機を突き破って出てきた。しかも2体である。

彼は走りざまに飛び出してきた敵の引っかき攻撃を喰らってしまったらしく、強烈な痛みと熱い鮮血が衣服を湿らせる。

「いって~!このゲームって痛みも実感できるのかよ・・・って当たり前だよな。おっと、もうモナー板町だ・・・?」

最先端の大都会と言われるモナー板町。周りには高層ビルが立ち並び、青空が映えている。だが電話で言われたようにしても人っ子一人いる気配がしない・・・?彼はあることを思い出した。

「確か・・・ゲームではこういう雰囲気の場所って、『ボス』ならぬものがかなら」

ドシィィィィィィィィィィィィン!!!

地面が揺れるほどに強烈な足音が彼へと次第に伝わってくる・・・

彼は驚く間もなく、強烈な、ズダダダダダ、と地をかける音を耳にした。よくよくあたりを注意深く見回せば、物凄いスピードで土煙が飛び交っていた。

「な・・・!よし、カメラの準備はもう済んだぜ。さあ、いつでも出て来い!」

彼は、銃ではなくカメラを構えた。自分の安全より特ダネが大事、と考えているようだ。

と、次の瞬間、自分の背中に強烈な衝撃が走った。反射的に口から嘔吐物が滝のように流れる。朝食も大して食べていなかったので酸っぱい胃液しか出てこなかった。

気を引き締めて、カメラから拳銃に持ち替え、衝撃の走った背面を向いた。

そこには、ビルの壁に垂直に立っている、鶏の頭に、筋肉の隆々とした人間の体、血管が少し浮き出た両腕。いかにも雑魚の統制者と言わんばかりの外見だ。

彼は仕込んでいたカメラでそいつを撮ると、間髪いれずに発砲した。

だが、そいつは迫る弾丸をまともに受けても、怯まずに突進をしてきた。そして、捨て身の姿勢でこちらに向かってくる。

彼は視界が少し狂うほどの衝撃に襲われると、そのままビルの壁に激突してしまった。彼の口から小さい血煙が吹き出る。

「ちぃっ・・・最初のステージだからといって油断しすぎたな。フフン・・・」

彼はそのまま体を少しも動かさずにただ体力の回復を待っていた。

当然のごとく、またけたたましい走行音がギコに迫る・・・

「今だ!死ねやぁ!」

パーン!と5発の大きな銃声がビルにこだますると、そいつは頭から大量の血を流して苦しみ悶えている・・・

「作戦成功っと。あ~・・・くっそ、まだ痛てぇ・・・」

彼はのっそりと、血混じりの唾を吐きながら立ち上がると、またカメラを一回撮り、残弾を補充しながら冷たい銃口をまた眉間へ向ける。

作戦とは、壁にそのまま動かないでいると、相手からこちらに向かってくれるので楽に昇順が定まる、と言うのが彼なりの考えだった。

「やっぱ最初のステージだな。こんな銃撃で瀕死か・・・ま、これでステージクリアっと。」

残りの大きな銃声が響き渡ると、敵はそのまま赤い血を流しながら吸い込まれるように地面に溶け込んでしまった。

・・・彼はその解けた跡から、一枚の文字の書かれた紙を見つけた。

Date 1999.5.30
1日目 我らの楽園は完成した。ここは他人との心を「文字」で繋げる、夢のような世界となる設定だ。だが、この研究所の機密情報からの発生により、外部へ知れ渡った者は数えるほどしかいない。
閉鎖された研究室「aisnet」にてこのプログラムが見つかった。
プログラム名「夢・独り言」開発中、そこには5/30にそのプログラムは完成したと記されていた。
同プログラムの中に、最高指揮官「ひろゆき」の言葉も記されていたそうだが、もうそれを確認する術などは無い・・・

・・・とだけ書いてあった。

「へ~・・・興味深いな。よし、これをメモってと・・・たいていこういうのは全部集めると何かが分かるってやつだな。よし!」

彼が気合を改めて入れなおして間もない間に、突然空から風を切る音が聞こえた。

見上げると、黒い物体の影が3つばかり宙を舞っている。彼は突然の出来事に傍観している中、それは軽い音を立てて地上に舞い降りた。思わず彼は後ずさりをする。

何だこいつらは?待てよ、こいつらの服装、どう見ても、黒ずくめ、顔が良く見えない、となると敵・・・か?だったらマズイな。さっきのダメージがまだ残ってやがる・・・

それは、3人とも、真っ黒なフード付のローブを着ており、顔は、フードで目のあたりまで不自然なくらいに覆われているので、よく見えない。

一人は、3人の中で一番長身で、スリムなその身体は、3人の中のリーダー格らしき外見をしている。もう一人は、少し胴回りが太めな、前記の者よりも少し小さい外見をしている。そして最後は、一番身長が低く、でも身体はコンパクトである。

ギコは片手に銃を、もう片手は、素早くポケットの中のカメラを抜き取り、パシャッ、と写真をとる音を鳴らせた。

「ううっ、な、何をするんだ!ギコ!何を唐突にそんな物を・・・第一この任務にそのような不要物なんて・・・」

カメラのフラッシュに驚いたのか、一番長身の者は手で光をさえぎるように身体をすくめた。声は青年らしい、まだ若い男性のようだ。どうやらこちらの咄嗟の行動に対しても身構えない所を見ると、どうやらゲーム上で設定された「仲間」と判断して良いらしい。

しかし、それよりも気になったのは彼が言い放った「任務」という一語。やはりこのゲームには何かしらの目的があるようだ。

「なあ、ちょっと聞きたいんだが、俺たちの任務、忘れちゃったんだよね・・・で、また教えてくれないか?」

彼は、任務を知らないとは言えないので、遠まわしに任務を、試すように尋ねた。

「ええ!?ちょっとあんた・・・じゃあ何でさっきの敵を斃していたのよ・・・まあいいわ。教えてあげる。まったくもう・・・」

答えたのは、一番小柄な者で、少し声色が高い、となると女性か。と彼は思った。

彼女は呆れたような口調で、今回の「任務」という物のあらましを彼に告げた。

事の始まりというのは結構彼にも分かりやすいものだった。

今から3日前。とある新聞の3面記事に大きく書かれていた、奇怪な生物による一般市民の大量虐殺。写真には、体中が腐った、腕には血のべっとりついたあまりにも奇怪極まりない細身のAA。これは俗に言う「ゾンビ」とまったく同じの外見をしており、常に殺意を身体に宿している。

その後、自分たちが所属していた政府の機密機関「2ch」が、詳細を調べたところ、根源は、この町の外れにある巨大ビル「ウララーコーポレーション」がそうなのだと。

で、この四人は、政府機関2chのスペシャルエージェントとして、そこに向かうように派遣されたのだ。詳しい目的は分からないが、とにかくこのような虐殺事件は、当然のことだが放っては置けない。

「・・・簡単に言うとね、こういうわけなのよ。まったく、分かった?今度は忘れないでよね・・・まあ実際はもっといろいろあるんだけど。」

彼女は大きくため息をついた。ギコは、一応、ポケットメモとペンを胸ポケットから抜き出してメモを取った。任務を忘れないためと、特ダネに使うためだ。

「で、ギコ。さっき斃した奴から何か紙を取って読んでいたな。俺も、その一枚らしき物を見つけたんだが・・・」

一番長身の者が、ローブの懐から一枚の紙を出すと、ギコはそれにかじりつくように、無理にひったくって読み始めた。

99/05/30(Sun)12:42
読者投稿欄に宣伝です。
あめぞう掲示板っぽいものをつくりました。
どうでしょう? どうかな? どきどき

・・・最高指揮官の言葉はこれしか記録されていない。

99/08/23(Mon)

他の雑誌出版社「アスキー」にて私たちの楽園のプログラムが取り上げられた。
「すばやい反応で多くの生の声が聞ける。最高指揮官「ひろゆき」が管理する超大型掲示板。
どこの印刷業者がいいかとか、データ入稿のアドバイスなど、 聞けば生の声が返ってくる。参加者が多いので、中にはイヤな ことを言う人もいるが、参考になることも多い。」
他のテレビ放送局「テレビ朝日」の中の番組「TVタックル」のインターネット犯罪特集に、ポスペメル友@2chの画面がほんの一瞬放映される。
(旧プログラムあめぞうの画面もあった)
TV媒体に2ch初登場である。
ロビーでは「ひろゆきに許可を取っているのか?」などと盛り上がる。

・・・これだけが書いてあった。それは彼の好奇心をますます大きくした。

ちょっと待てよ、やっぱり・・・あいつらの声、どこかで・・・




Chapter 3  過激にドッキリ

「今のところ分かっているのはこの紙に書いてあった通りだ。俺たちは周囲を探索して何か分かったら報告する。次はVIP板町で落ち合おう!解散!」

リーダー格の物が手を振ると、残りの黒いローブを着た者は、ビルの壁を垂直に蹴り高速移動をしながら、空に消えていった。

「・・・そういえば、少し胴回りが太い奴って何も喋っていなかったな。っと、こんなことしている場合じゃねぇ!」

彼はVIP板町まで出来る限りの駆け足で向かった。この町は、現実世界と全く同じ構造をしているので、おそらく場所も同じであろう。彼は高鳴る心臓を駆け足で表現しながら、特ダネを手に入れる準備を着々としていた。

ビルの間を駆け抜ける間に、彼の耳をつんざく金切り声が、自分のすぐ左で聞こえた。

「うぎゃあああああああああああああっ!誰か、誰か・・・」

見ると、まだ15歳半ばとおぼしき青年が、ボロボロの黒装束に、忍者刀を構えた、2人の小柄のゾンビに襲われていた。擦れた声で、わずかながら聞こえる。

「+激しく・・・お命・・・頂戴・・・+」

強烈に骨を引き裂く音と、おびただしい血煙が、ゾンビの顔を緋色に染めた。

たとえゲームだとしても、目の前であんな悲惨なシーンを見せられては、良心が動く。写真を撮ると、彼は、途端にハンドガンを構え、2発発砲した。一つは運良く眉間に命中したが、もう一人は、残像を残すほどの速さで回避していた。

彼は唇を噛み、辺りを注意深く見回すと、冷や汗がどんどん垂れてきた。時間もそんなにたたない内に、肩に重い、朽ち果てた物質が乗ってきた。

「くそっ・・・離しやがれ!」

罵声を吐くと、彼は身体を自分の意志で転ばせて、振り払った。銃は撃った直後に隙が生じるので、彼はみぞおち向けて、腕にうなりをつけて思い切り殴り飛ばした。

敵は小型なので、この攻撃で悶死した。ゾンビをそっちのけで、彼は青年の身体へと足を運んだ。

彼は、意識を確認するも、その青年の息は既になかった・・・。

「くっ・・・?あ、あれ、この人・・・お隣のニダー君?」

いくら現実世界とまったく同じだとしても、ここまで再現されているとは、彼は驚くより他無かった。彼は、死んだ知り合いに、申し訳ないので、さっき撮った写真のデータを、何も考えずに、目を細めて消去した。

この惨劇を皮切りに、辺りから、キャーッ、うわーっ、だのの悲鳴があちこちから聞こえた。彼の心を思い切り揺らすのに充分すぎるくらいに。

「な・・・!と、とりあえずさっさとステージクリアーだな。VIP板町へ・・・」

彼は、すぐに立ち上がると、手に、今はもう慣れた触感が伝わった。それと同時に薄い紙の触感・・・

「え・・・ちょっと、ニダー君って・・・やっぱり!これは・・・」

主語の無い言葉が途切れ途切れに口からこぼれる。期待を胸に秘め、改めて彼の骸をどかす・・・

やっぱり!拳銃だ!しかも、サブマシンガンが2丁!何で持っているのかなんて、もうどうでもいいぜ!特ダネ決定!あと・・・紙だな。



このプログラムを最新式にアップデートすることに成功した。
新プログラムは、「アスキーコード・文字コード(ISO-8859-1)」を使用した、この楽園をさらに普及させるためにさらに役立つに違いない!
試作品「TYPE-A 00 Mona」をとりあえず導入してみたが・・・民衆はどんな反応をするだろうか?

翌日
結果は大成功さ!みんなこいつを愛してくれている!
さあ、どんどん作品を導入しよう!
おかげでここの楽園に参入する人も増えた!さあ、これからの未来が楽しみだな・・・!

・・・なんということだ。テロリストが突然この研究所に・・・!なんとしてでもこいつは守らんといかん!こいつは奴らの好き勝手にはさせん!
しかし、困ったもんだ!奴ら、こいつを奪い取って商売道具にしようとなんざ・・・
こいつは楽園で自由に生きる野良だ!おまえらの商売道具なんかじゃない!奴はタカ



中途半端な位置で途切れている。恐らく、これにはまだ続きがあるようだ。

ポケットに折りたたんで、それをしまうと、また駆け足で目的地を急いだ。

サブマシンガンが手に入ったせいか、雑魚との戦いでダメージをうけることはほとんど無くなっていた。

民間人も何人か見たが、救助は、マシンガンですぐに敵を始末できるので比較的容易だった。全ての民間人が自分の知り合いだった以外は・・・

・・・そろそろVIP板町だな。彼は、期待と恐怖で胸を躍らせる。

VIP板町は、モナー板町と同様に、非常に栄えた大都会である。

彼は、駆け抜けていく先の道路の遠くのほうに黒い人影を。3つ見た。仲間があそこにいる!

「たいてい目的地にくるとステージクリアーだな。はやく紙の続きが見てぇな・・・おっと、最後には、ガンシューには伝統的な『ボス』がいるんだった・・・」

一人でぼやくと、その3つの影と合流した。

「・・・遅いぞ、ギコ!もう敵の本拠地はつかめたっていうのに・・・」

一番長身の影が、ギコに吐き捨てるように愚痴をこぼした。

そっちが早すぎるんだよ。こちとらそんな超人じみた跳躍力もないっつうのに・・・

「・・・このごろお前なぁ・・・少し腑抜けてるぞ!第一任務に私服でくるなんざ・・・それとな、首に付いてる物、何だ?」

長身の影は、ギコに色々と、彼には理解できない注意を繰り返した。初期設定でそんな自分が情けないキャラ設定だと言うことに彼はすこし怒りを覚えた。あと、首にかかっている紐は、取材前から身に付けていた物だ。仕事の時にはいつも身につけている。

「こ、これはな・・・まあお守りだよ。まあな・・・今回の任務には失敗は許されないからなぁ・・・だからこれ以上詮索しないでくれよ。」

ふと、中くらいの背の女性が急にたじろいだ。すぐに彼女は、右を向いて、後ずさりをした。

「ちょ・・・ちょっと皆・・・警戒信号がこの電話から出ているわ。皆戦闘態勢に!」

ギコは、ポケットに入っていた電話を急いで確かめると、確かにそれらしき反応は出ている。小型の液晶画面が赤く、ゆっくりと光っている。

彼は腹の底でなる心臓の高鳴りを身体の動きで表して、彼女が向いた方を、ハンドガンで一発発砲した。

出てしまった。

目の前にそびえるビルを粉々に砕きながら、巨大な足音を響かせて。

「オイシソウナニク、ミツケタ~・・・」

これまでに登場した八頭身と同じ姿のゾンビで、モナーの顔をしたAAが、数十倍もの大きさになって、こちらを見下ろしている。

日はそいつの影で全く見えなかった。

これだけに体格差があると、不思議と威圧感と恐怖が数倍に膨れ上がる。

ギコは、少しも怯まずにサブマシンガンを、雄叫びをあげながら発砲した。手汗で銃が少し錆び付き、衣服も湿ってきた。

このジャンルのゲームは恐怖はつきものだが、ここまで来ると、リアルさもさながら精巧な作りにも恐怖を覚えた。

「まかせろ、ギコ!参戦するぞ!」

一番長身の影が、ローブの下から、こちらの武器よりも数倍大きい、重火器の外見をしている黒光りの物体をとりだし、がっしりと構えた。

「死ねぇぇぇ!グレネードランチャー!」

強烈な爆音と閃光があたり一面に広がった。巨大な敵は、ももの辺りがえぐれている。が、少し怯んだだけでより殺意を増加させてしまった。

そいつが、腕を空高くに、風を斬る音をたてながら、身体にうなりをつけた・・・

「避けて!皆!こんどはこっちの番よ!ショットガン!」

地面を割るくらい強烈なパンチを彼女の合図で避けながら、その名のとおり、ショットガンを取り出して彼女は、超人的な跳躍力を見せながら腹に発砲した。

身体の末端よりは、臓器の大量に詰まっている腹のほうが有効なのは常識だ。

「・・・」

その間に、胴回りが太く、中くらいの背の陰が、懐からまたもや重く鈍く光る兵器を黙ったまま取り出した。

どうやら外見は、ゲーム通には分かる、「ガトリングガン」というものであろう。

彼もまた、手を震わせながら腹向けて発砲した。

本物のガトリングガンの爆音と閃光を聞いたことも無いギコは、初見の驚きと恐怖にかられ、一瞬目を背けて、耳を強くふさいでしまった。

発砲音が鳴り止んだ。

目を開けると、さっきまでガトリングガンを撃っていた香具師が、敵の巨大な手に収まって、顔の目前までつかみあげられていた。

それでも尚、彼は一言も喋らない。他のみんなも救助に向かったが、あまりにも握力が強く、なかなか手がはずれない。

ギコも発砲するも、やはり身体の末端は効果が薄い。

そして、そいつの口へと彼がゆっくり運ばれてゆく・・・

「そ、そんな~!!!!!!!!」

ほぼ同時に、3人が腹の底から叫んだ。

「・・・!!!!!!!!!!!!!!!!」



メキメキ グチャグチャ バリバリ



・・・鮮血が降って来た。彼は、上半身をがぶりと深くかじられ、骨肉が折れ、裂ける音、彼の断末魔の悲鳴。

「ちっくしょおおおおおおあああああああああああ!」

超人的な脚力を怒りによりさらに強めて、長身の影は、敵の脳天向けてグレネードランチャーを発砲した。仲間を傷つけられたのなら、これほど怒って当然だ。

「私も!・・・仲間だもの!」

続いて、女性がまた首元向けて発砲をする。長身の影は、今だに連射を続けている。

・・・こっちはそっちのけか。しかしこの辺は問題ありだな。ゲームはプレイヤーが楽しむもんだろ?コンピューターが楽しんでどうする・・・

クォォォォォォォォォォォォ・・・

しばらくして、腐った血煙と共に、敵がふらつきながら倒れてきた。手から、無口な影がこぼれ落ちた。ギコは、落ちてくるそれをがっしりと受け止めながら、血だらけのローブをがっしりと握った。

ローブには紙が一枚挟まっていた。おそらくステージクリア後の戦利品として敵が持っていたものだろう。



ラと言う名のテロ  らし   死 でもこいつ けはやるわ には
いかん!
この愛さ て る野良猫、  をみ みす渡すわけ   かん!
 高指 官、ひ  きはまだか!?あいつはこの の  なんだ!早く動いて れ!

どうやらあい ら 去ったようだ。危な ったな。しかし   らもあ つらだぜ。
いくら   録され  いからって、こいつは 共  と言う とで、ま  通って るんだ。
  が独占 することは されな んだ!まっ く・・・


・・・彼の血のりのせいで部分的にしか読めない。

「お~い!大丈夫か!生きているか!?」

想像したとおりの台詞が長身の影から吐かれた。つづいて女性も、今俺が抱えている無口な影の容態を心配しているようだ。

「・・・くっ、なんてこった・・・お前ほどの奴が・・・」

長身の影が、声を震わせながら手をひしと握り締めた。わずかながら見える腕も、冷や汗ですっかりびしょぬれになっているのが分かる。

ふと、微かながら、無口な影のフード部分から、息の音が聞こえた。

「・・・地図、彼、拝借・・・」

単語ばかりが、今にも空間にまぎれて消えそうな声で聞こえた。声の低さから見て、男性らしい。彼は懐から震える手で何かの紙をギコに差し出した。

・・・どうやら地図のようだ。微かながら血のりがついている。

「・・・ラウンジ板、黒幕、存在・・・至急、直行、推奨・・・」

彼は、地図に大きく書かれた黒丸を指差して、場所らしき言葉をギコに言い放った。

彼の発言は分かりづらい。無口にもほどがある・・・っていうか持ってたんなら最初から出せやぁ!

「・・・俺たちはこいつを病院に送ってくる。ギコ、信じているぞ。こいつが任務を託すほどの男だ。きっと成し遂げてくれるはずだ。」

うってかわって明朗な声で彼に呼びかける。

・・・ちょっと設定が都合良すぎないか?何一つ疑っていないし!第一、みんな俺よりいい武器使っているじゃないか!これはちょっとメーカーさんに・・・

「ギコ・・・」

女性が、声を震わせながら高い声でまた彼に、背中を押すような威圧感を秘めたオーラでさらに彼を追い詰める。

無口な影は、コクッ、とゆっくり首を縦に振った。

・・・分かった分かった。しょうがない・・・少々理不尽な所があるが、大目に見てやろう・・・

「任せとけ!」

明らかに作ったような笑顔と、わざとらしいくらいに明るい声でも、2人、いや3人は信用したような仕草をとった。

3人の大きく空にかざされる腕を背に、彼は苦笑いを浮かべながら、無口な影の指した場所へと、のらくらした足取りで向かった。幸いなことにここも馴染みがある。少し遠いが、交通手段は全て把握している。ここは自分の庭みたいなものだ。

「うっし、紙も結構集まったな・・・ウララーコーポレーションとかって言っていたな。さっきのがそれだった・・・ということはもう終盤か!?早いな・・・」

周りに誰もいないので、彼はわざと大声で独り言を漏らす。口調もなんだかダラダラしている。

「これ・・・全部集まるといいんだけど・・・ってえっ!?」


Date 1999.5.30
最高指揮官「ひろゆき」の言葉も記されていたそうだが・・・


彼は最初から読んだ紙の内容を、頭の中で読んだ言葉が自然に自分の中でこだましていた。

・・・やっぱりすげえな。俺の町の長の名前までそのままだ!マスターひろ・・・


99/08/23(Mon)
他のテレビ放送局「テレビ朝日」の中の番組「TVタックル」のインターネット犯罪特集に、ポスペメル友@2chの画面がほんの一瞬放映される。
(旧プログラムあめぞうの画面もあった)
TV媒体に2ch初登場である。


                     TV媒体に2ch初登場である。


「2ch!これは・・・ちょっとあまりにもぴったり過ぎる・・・何か変だな。」

彼の住む町「2chシティ」は、大きさにして約、新潟県くらいの大きさがある大都市だ。そこでは全ての近代的技術が駆使された、戦後最大級の大きさのビルなどが立ち並ぶ場所。ここに、いろいろな会社の本社や、全国で名門と言われる大学、それの合格者数全国一の進学校、と、あらゆる町が屈指するほどである。
そこの都心部と田舎の部分の中点に彼は住んでいた。

それにしてもあまりにも精巧すぎる・・・全身の血液の流れが急速に速くなる。彼は関心と尊敬の念の他に、何か特別な、灰色の物が自分の中で渦巻いていた。



Chapter 4  半狂乱

彼は、地元の駅の券売機に向かって歩いていた。

道中の敵も、幾度に見てきたので動きのパターンも予測して、そして確実に倒せる方法を完全にマスターしていた。

軽やかに敵を倒してゆく爽快感を完全に覚えてしまったらしく、一人、また一人倒すごとに彼の表情が緩む。これが、底に隠れていた彼の楽しみであり、これの醍醐味の一つでもあった。

「ふ~ん・・・大人、1080円・・・って何だと!?」

彼は突拍子も無い声で叫んだ。一人でオーバーリアクションをとるほどにも、ビックリ、そして予想外、

交通費は自分で負担しなければならない様だった。ポケットで小銭の音をチリチリと鳴らせながら、引きつった表情でずっと料金表示を見つめていた。

「・・・一か八かだ。ちゃんと帰ってくれよ!」

南無三、彼は頭の中で苦しむように、そして半泣きの状態で勢いよく手持ちの小銭を、巨大な金属音がするまでに力強く入れ込んだ。

当然のごとく切符が出てきた。何も言わずに、目をつぶってただ改札機に切符を入れ、それを取るだけだ。

「くそ~・・・」

八頭身型のゾンビが、4人、登り階段の影から、威嚇するように襲ってきた。

「こちとら交通費払ったせいでコンテイニューもできねぇだろがぁぁぁぁぁぁ!!」

壁を振るわせる大声の元に、サブマシンガンを敵向けて容赦なく発砲した。飛び散る血煙が、勢いよく階段に降りかかる。

次発の電車が来るまでに、少し間があった。それでも、ゾンビ軍団は容赦なく殺意を宿し彼に牙を向ける。

もう雑魚敵との戦闘術を完璧にマスターした彼へ、何のひねりも鳴く向かってくるなんざ、無謀としか言い様が無い。

それでも彼は紙の内容を確認しながら、ハンドガンで頭を射撃するくらいなら楽だった。ただ時刻も、ポケットに仕込んでおいた電車の時刻表とまったく同じなのが気にかかる。


・・・聞きなれたアナウンス。そして、けたたましい電車のブレーキ音と共に、戦場へ向かう列車は動く。無論のこと、一般人など、もう外にいる人数も無きに等しい。

ので人っ子一人いない。けれど彼は、こういういつもと違った電車の雰囲気を、むしろ楽しんでさえいた。

好きな小唄を口ずさみながら、紙の内容についても困惑していた。しばらくすると、急に視界がぼやける・・・

ゆっくりとした快感と意識のまどろみを感じながら、完全に目蓋を閉じ、深い意識の底へ落ちてしまった。車輪の音もだんだん小さくなる・・・

終点が目的地なので、のんびりと眠りにつけた。

終着の近代的なプラットホームを駆けながら、切符を改札口に入れる。はやく最終ステージへ向かい、結末を見たい。あと紙の内容についても真相を突き詰めたい。

寝起きで思うように動かない唇の感触と、妙な感触のする唾液を口の中で動かしながら、ハンドガンとサブマシンガンのマガジンをフルに装填する。

・・・よっし、カメラもいつでも撮れるようにしておいたぞ!さあどんな敵でも来やがれ!

市街地を駆け抜けながら、襲い掛かるゾンビをなぎ倒しながら、写真をとりながら彼は着々と仕事も自己の欲求も満たしていた。




「・・・ここをクリアすれば最終難関だな。」

風の鳴る音をわずかに感じながら、生える青空を見上げ思いにひたっていた。目の前には、およそ東京タワーの5倍はあろうかと言う高さ、東京ドームおよそ3個分と言う高さのビルには、見上げる青空さえも邪魔されていた。

と、次の瞬間!

ブオオオオオオオオン!とひときわ強い、風を切り裂く音、強い何かが回転する音。見上げた大空に、何か人影が写った・・・

絶好のチャンスを、パシャッ。という音の元に撮ったあとは、サブマシンガンを構えて目の前を見据えた。

「ここを通すわけには行かないお!ここの荒らしは氏ねお!(^ω^)」

謎の影が甲高い声で喋った後に、ギコも同調するように続ける。

「あのさ。別に荒らしに来たわけじゃないんだからさ・・・早く紙をおくれよ。」

子供が小遣いをねだるような声でギコが返す。

「紙!?そんなの知らないお!ウララー様に聞いてみればしっているお・・・?そうだ!お前のそのペンダントをくれたら聞いてきてやってもいいお!」

「はぁ!?これはやるわけにはいかねぇんだよ!たとえ相手がどんな香具師であってもな!市長でも総理でもコイズミでもな!やっぱボスって奴は倒さなくっちゃいけねぇのかよ・・・」

何故かキレだしたギコに、敵が冷や汗を急に垂らし困惑すると、そのキレっぷりをぶつけるかのようにギコはハンドガンを敵の頭部向けて発砲した。

「危ないお!綺麗だからちょっと言ってみただけだお・・・仕返しだお!」

敵は、腕を広げながら空高く跳ね、銃撃を回避した。やはり、終盤ともなるとボスも一筋縄ではいかなくなってくるのが普通だ。今までどおりの方法では苦戦は必死だろう。

彼は歯を食いしばりながら、覚悟はしていた。

「氏ねお!ハリケーン!」

きりもみ大回転のように、超高速で、敵は空中で回転しはじめた。

チュイイイイン、とそのまま地面にぶつかるたびに地面は火花を散らす。それほどの回転だった。

あまりの威力に、背筋さえ冷たくなるほどだった。まともに喰らったら、大量出血は間違いないだろう。

彼は、サブマシンガンを、回転の中心、そう、敵の頭めがけて発砲した。

マシンガンが火を吹くたびに赤い血煙が飛び散る。

「くっ、甘いお!」

急に回転を止めた。と思ったらものすごいスピードで走りながらこちらに接近してきた。

マシンガンは鳴り止むことなく火を吹いているが。まったく怯む様子もない。

「うあっ!」

これまでとはまた違った、のどを唸らせたような低い声がこぼれ出た。敵に胸倉をつかまれ、地面を引きずりまわされているのである。服が裂ける。頭が何度もぶつかる。

生命の危険を感じたのだろう、彼の全身の血流が乱れる。

「そこだお!喰らえ!」

敵は、彼を投げ捨てるように、腕の一振りの元に彼をビルの壁に叩きつけた。

また敵は走りながら向かってくる。

彼は、ゆっくりと起き上がると思い切り、頭を奥に構えた。

ゴチィィン!

寺の鐘が鳴ったかのような鈍い音。彼の頭と敵の頭が正面衝突して、この音が発生した。お互いの頭に熱いものが伝わってくる。

「うう・・・痛てぇよ・・・でもゲームだしな。まあ死んでもいいか!」

唇の辺りまで来た血液をペロリと一回なめまわしながら、またサブマシンガンを構えた。

「うおりゃあああああ!氏ねお!ハリケーン!」

想像していたとおりの相手の反応だが、回転はより速く、凶暴になっていた。

彼は、全速力で走りながら敵の頭へと発砲する。

20秒もすると、回転もだんだん弱まってきた。やがて顔が見えなくなるくらいの血を帯びた敵が、肩で息をしながらこちらをじっと見ている。

これまでにない大量の血を見たせいか、心の割合は恐怖が半分以上を満たしていた。

「・・・もう、もう許さんお!ここまでコケにしやがって・・・うおおおおおおおおおおおお!」

なぜか地面が、亀裂を帯びながら、揺れている。彼は、思わず大きく後ずさりをした。

「くっ、最終ステージ前にこれかよ・・・」

唇をかみしめる。

と、視点が急に低くなった?なんだか身体が軽い。

ドサッ、という音と共に、何かの身体が地面に叩き付けられたのが見えた。

すぐに分かった。俺だ。俺の身体だ。

首元からおびただしい血が流れる。というより、首すらなかった。

その首は今、俺の意識の元に・・・

「首をとられちゃあ、お終いだお!ざまあみろだお!」

・・・敵の声は、どこか遠くから聞こえてくるようだ。

視界がだんだんぼやけてきた。これは現実をモチーフにしたゲームだ。

現実は、リセットもコンテイニューもできない。案の定、死んだらそれすらも・・・


・・・You are Dead。真っ暗な視界のなかに、血で書いた、殴り書きの文字が脳裏に浮かんできた。


プレイヤー、ギコ・ハニャーン。ステージ3にて死亡・・・


         GAME    OVER







その1

・・・あ、あれ?ここは・・・

・・・あのゲーセンか。確か俺って、あいつに殺されてゲームオーバー・・・だよな?

目がさめた。いつものとおりの様々な電子音、人々の黄色い声。そして真っ暗なこのゲーム機の中・・・

それにしても何なんだよ。いきなり一撃必殺とはよ・・・コンテイニューぐらいさせろよな。

しかし、これは、ホラーガンシューティングの至高の名作だな。これやったらもう他のゲームをやるのなんざ馬鹿馬鹿しくなるな。

・・・痛いのは勘弁だけどな。

肉体的と精神的な疲れが同時に彼を襲った。しばらくは何も考えずにいた。ただ、これまでの恐怖とたのしみで、身体を動かす気もしばらく浮かばなかった。

やはりゲームだ。身体には傷一つついていないし、デジカメの内容もそのままだ。

・・・ちょっとこれの内容にも興味深くなってきた。どれどれ、製作会社は・・・

目を凝らして、説明のところをもう一度詳しく見た。

・・・株式会社AGE、か。

ちょっと無謀にも近いけど・・・制作秘話とかも聞きたいしな。よっし、突然だがお邪魔させてもらおう・・・?


「早くここから出るニダ~!!せっかくの休日ぐらい遊ばせるニダ~!!」

「こっちゃ順番待ちなんじゃネーノ?だから早く出たほうがいいんじゃネーノ?」

外には大行列が並んでいた。その全員が、彼に対して罵声やら愚痴やらを吐いている。

あの看板をみたのはギコだけではなかったからだ。一般人もやりたいに決まっている。

「あ、ああ悪いな。」

軽く詫び、急いで彼はゲームセンターを後にした。


・・・抜き打ちだけど、まあダメ、と言われたことは一回もないしな。さあ、取材スタートだぜ!

現実の世界のビルの間を駆け抜け、何一つ嫌な顔をせず電車の交通費を払い、目的地へと彼は向かっていた。

目的地の名は、株式会社AGE、のはずだった。

その2

「よっし、AGEはここだな、一気に大量の特ダネゲットだぜ!」

ウララーコーポレーションの、3分の1、といった大きさだろうか。その大きさと、最先端の技術が施されたような外見に、彼はしばらくは見とれていた。

いらっしゃいませ、と女性スタッフの声がギコを、歓迎するかのような声で向かえた。彼は、開発部の階層を、早口で尋ねた。

・・・ここか。

「ザ・バーチャルリアリティ開発部」と書かれたプレートがくっ付いたドアのノブに、彼は手をかけた。この時点では、とにかく制作秘話やストーリーの起点などを聞きたくて、何も考えていなかった。

・・・おじゃましまーす。

心臓も、今までどおり静かに鼓動している。鼻でかすかに息をしながら、辺りを見回した。

が、不自然なほどに誰もいない。

「・・・?おっかしいな。これって本当に開発b」

静寂を切り開くうめき声。それはあまりにも聞きなれた。脳髄を刺激するような腐臭。できれば思い出したくない感覚が、彼を襲った。

それと同時に、あまりの不可解さ、意外さ、により、彼はしばらく、冷や汗を滝のように流し、全身の筋肉が強く張り、動くことすらできない。脳も狂気の淵へと追いやられていた。

ゲームでは、何の苦もなく倒していた「ゾンビ」であることはすぐ判断できたのだが・・・

「・・・え?ちょ、ちょ・・・現実だよな、現実だよな!!!???」

腹から出した大声。それと共に、本能的にドアへと手をかける。

だが空かない。どんなに押しても引いても。これはお約束のパターンだ。だが、ありえない!それと、怖い!怖い!怖い!ここは現実なんだ!死んだらもう終わりなんだ!リセットは効かないんだ!

と、ギコの肩に、朽ち果てた細胞の塊が、バン、と強烈に、頭まで揺れるぐらいに叩かれた。

硬直する表情、細胞を無視して、敵、ゾンビの牙が彼の肩に、リンゴを丸かじりするかのように噛み砕く。

室内に響くかすれた悲鳴。と、同時に肩から赤い、鉄の臭いのする何かがこぼれ出た。本物だ。怖い。が、確かめる勇気まで彼には無い。

肩から流れた物質を察知すると同時に、ゾンビの腹に彼の肘が強烈に打ち込まれた。わずかに怯んだ隙に、彼は逃走をはかった。

だが、元の出口に逝っても封鎖されている。彼はできるだけ、奥へ奥へと身体の疲れを無視して逃げた。

「・・・な、何なんだよあいつは!こちらを殺す気マンマンじゃねーかゴルァ!」

足を地面に強くこすりつけて後ずさりした。

と、その時足に何かが当たった。この重さは、覚えがある。

ハンドガンだ!彼は、急いでそれを手にした。

ウガアアアアアアアアアアアッ!

急いで息を上がらせながら立ち上がる。もう敵はすぐ1mもない範囲に来ていた。

「く、来るんじゃねぇゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

ズガガガガガガガガ!!

よほど慌てていたのか、ブルブル震える手をもう片方の手で抑えながら、やっと発砲できた。ただ、弾丸を使い果たしてしまった。

無機質な、灰色のコンクリートの壁と、一人のゾンビがいる以外何も無い殺風景な部屋に、血の装飾と、完全な屍と化した肉体の装飾が施された。

彼はしばらく何も考えられなかった。というより、現実の恐怖にただひれ伏すのみだった。

「こ、こいつぁ・・・マジで・・・『本物』・・・うっ・・・」

ゾンビから視線をそらさずに、また呆然と立ち尽くしている。

ふと、彼はゾンビの腹に何か黒い、小さな棒状の物が深く突き刺さっているのが見えた。

生き延びる手段がこれしかない彼は、急いでそれに手を向けた。

「・・・マガジン八個、か。これで妙な開発部から生きられればいいんだがな・・・」

戻る手段も無い。でも、ぼーっ、としていると殺される危険性も無いとは言い難い。

では彼はどうすればいい?ただ奥へと武器を構え進むしか道は無いのだ。

震える足を、神経の全てを使うつもりで何とか動かして、奥の扉に手を掛けた。

生きて帰れますように・・・



バタァン!

「うわぁっ!?」

扉を開けた瞬間に、2人のゾンビが自分に喰らいつくように倒れこんできた。

幸いにも相手の口の辺りまで全身が届いていないので、噛み付かれる事無く、身体を半回転させて抜け出した。

ゾンビだ!さっき殺されかけたのに、ちくしょう、また出やがったか。

だが今度は、しっかりとお前たちを消すための武器もある。

恐怖心は薄れていた。だが八頭身のゾンビとの身長差、緋色と緑に、醜悪に輝く牙、何よりも片目が潰れて、もう片方はものすごい垂れ目。外見だけでも怖い。

でも、

「ヘッドショットだ!くたばりやがれ!」

ダダン!と2発の銃声が、2人の乾いた叫びをかき消すように鳴り響いた。

その時にはもう敵は地面に還っていった・・・

敵を攻撃するときは頭を狙う。ホラーガンシューティングゲームの基本中の基本だ。これが弾数の節約にもなる。

そしてゲームでは、よく敵を倒すと「アイテム」と呼ばれる物を落とすのだが、先刻のマガジンはおそらくそれだろう。

アイテムを落とさなかったことを確認すると、また足を震わせながら細い通路を奥へと進んだ。

先ほどの敵はノーダメージで通過できたせいか、恐怖心はわずかながら消えていた。が、心臓の鼓動と絶え間なく流れる汗は止まることが無い。

何か不吉なものを思わせる、コンクリートにカビの生えた通路にまたこじんまりとしたドアが見えた。

・・・応接間、と書いてある。

これぐらいの会社だから応接間があるのは当然だが、なぜこうも激しく危険を伴う場所にあるのだろう。

不自然な、現実とかみ合わない部分はどうでも良かった。死にたくないから、生きる。

生きたいから彼は前に進むしかないのだ。従って、自分の言うままにドアを開けた。

俺は目を疑った。

「・・・!?な、なんじゃこりゃあああああああああああ!?」

松〇優作風に、その部屋のゾンビのうめき声を圧倒し叫ぶと、その直後に左右からゾンビが襲ってきた。

「くっ、こんな時ぐらいゆっくり考えさせろ!緊急回避!」

某ゲームの仕草を見様見真似で試しにやってみたが、予想以上にうまくいった。

マガジンは大量にある。今度も正確に敵の頭部を打ち抜いた。ヘッドショットが決まった。

・・・内装は普通の会社や学校の応接室と変わらない外見をしている。光沢のある木製の机、その上のテーブルクロス。そして黒いソファー・・・

なのだが、そのソファーに乗っていたのは血だらけの、

猫、いや犬か。毛がボサボサ生えていて、痩せ型の男性が白目をむいてのたれ死んでいる。

腹からはみ出た肋骨がこちらに向けた口の中のようでなんとも薄気味悪い。

そして向かい側には、さっきの死人と酷似したポーズの男性がまた、ゾンビよりも気味悪い外見で、腹から大量の血を流し死んでいる。

スーツの胸ポケットの名刺には、「ネーノ・ヒャルランド」と書いてある。



・・・そんなことはさておき、さっさと奥へ進みたいので彼は扉の取っ手をがっしりと掴んだ。

だが開かない。何度やっても、ガチャガチャと音がして1ミリほどしか動かない・・・それでも彼はこれが何なのか理解するまで執拗に引き続けていた。

「ロックしてあるようだな・・・どうやらここで見落としていた物が・・・?」

呟きながらもう一度辺りを見回すと、クッキリともう一つの扉が見える。

灯台もと暗し、ということわざがあるが、恐怖で周りに対して盲目になっていたのだろう。

「・・・ここか。ここを先に進んだ方がよさそうだな。」

予想通りにすんなり開いた。そしてその先の廊下で待つゾンビの頭を撃ち、先へと進んだ。

なんだかかなりカビが多い。コンクリの壁にもかかわらず、夏場ぜんぜん掃除をしていない学校のプールの底面のようにも見える。

それが深淵への入り口のようでできれば入りたくなかった。

だが、生への執着と隠れた好奇心が彼の背中を押した。

キィィィィ・・・

「出ないでくれよ~・・・ってうわああああああ!」

扉を開けた瞬間、彼は強烈に、必要以上の力で目を閉じた。一人のスーツを着た男が傷だらけで、身体を『縦』に両断され屍と化している。

床はコンクリの灰色さえも変えてしまうほどに紅に染まっていた。

「うぐぅっ!こいつぁ、グロい・・・?」

想像以上に地の飛び散り様がひどかったので気づかなかったが、紙が一枚、外側の張り付いていない部分だけが見える。

彼はそれを嫌々それをペリペリと取り外し、文字の書かれた裏側を見た。


         「新開発計画」請求書

培養液5千㌧   5,500万円
ジーンズ3億7千万枚 2,800万円
上着 2億9千万枚 3,700万円
廃棄物処理代 2億1,900万円
ネーノ会長 ギャラ 5億7,700万円

・・・残りは血が染み渡って読めない。

「な、何に使ってんだよこの会社は!馬鹿か!アホか!」

思わずすっとんきょうな声で叫んで

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