<プロローグ1>
その日は8月だった。蒸し暑く、でも空は晴れていて、月は円く光っていた。
学校で仲の良い友達と自分。あわせて5人。今日は夏の恒例イベント
「肝試し」
が行われる。皆は、気分を盛り上げるため怪談を話していた。 …俺の部屋で。
ただでさえ暑苦しくムシムシしている狭い部屋に、5人がぎゅうぎゅうに入ってい
るのだから余計に暑い。とろけそうなくらい暑い。
「なんでお前ら俺ん家に来るんだよ! 」
と、ギコが怒鳴りつけた。
「だってギコが来るの遅いからいけないんだモナ。」
「ったく。15分も来ないから心配してきたのに…」
それに反論するモナーとモララー。
「ソレナノニタダノイネムリダッタトハ…シィニダメナトコロヲミセテシマッタナ。アーヒャヒャヒャ! 」
ギコにちょっかいを出すつー。
「ぅ…うるせぇっ! お前だってこの間授業中寝てたクセに!!! 」
「ナ…ナンデシッテル!? 」
「兄者情報。」
そのうち言い争いになる2人。
「まったく…なんでいっつも喧嘩になるのかしら。」
ため息をついて呆れているしぃ。
「良いじゃない。会場はここから近いんでしょ。モナー君。」
「そうモナ。」
その会場とは、ギコの家の前の道を100メートルほど進み、そこを左に曲がった
ところにある竹やぶである。
「む…しぃがそう言うなら…」
「シィガナニカイウトアッサリダナ。サスガシィノコトヲスキ…」
ギコがその言葉をストップさせた。 …回し蹴りで。
「どぉりゃああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ものすごい勢いでギコが走ってきて、つーに回し蹴りを食らわした。
ゴスッ…
鈍い音がした。
ギコの足の甲がつーの頭にクリーンヒットし、つーは前にのめり込んだ。
つーの頭にはでっかいたんこぶができていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<プロローグ2>
約1時間後……
気絶していたつーが目を覚ました。
「マッタク、ヒドイメニアッタゾ! 」
つーの頭にはいまだにたんこぶが付いている。
「誰のせいだよ! 」
モララーが2人の間に割って入った。
「まあ、良いじゃないか。早速あの…」
―――――闇の竹薮―――――
「へ行こうじゃないか。」
闇の竹薮とは、学校のクラスでついた名前。今回の会場になる竹薮のこと。
「そうそう。早く行くモナ! 」
「アーヒャヒャヒャ! タノシミダナ! 」
「でも私、怖いかも…」
としぃ。
「大丈夫だって、もし何かでてきたら…」
「ナイフデヤツザキニシテ、テツパイプデナグッテ、ゴミショリジョウニモッテク! 」
「そんなことするわけ無いだろ!!!
だから、俺が…」
ギコが言いかけた時、
「マモッテヤル! 」
「あーーーっ!!! もう! 俺のセリフを取るなぁぁっ! 」
「そこの2人、漫才してるヒマは無いんだ。さっさと行くぞ。」
モララーは少しイラついてる。怒ると怖いのでギコとつーもさっさと家を出た。
外に出た。やはり家の中も外も変わらず蒸し暑い。
しぃとモナーは先に行ってしまったらしい。
「ギコーーー。」
誰かがギコを呼んでいる。
「あ、母さん。」
「ギコ、気を付けて行って来るのよ。」
やっぱりお決まりのセリフ。母さんは何かと心配性なんだな~。
とギコは思った。
「わかってるって。8時までには帰るから。」
「………行ってらっしゃい。」
「いってきまーす」
ギコは元気に挨拶をし、皆の後を追った。
母の目からギコの姿は見えなくなった。
「…ふぅ。ホントに大丈夫かしら。」
ギコの母はカンが良い。そしてその母が
―――――何か悪い事が起きそう―――――
と思っている。やはり何かあるのか。
そしてしぃもそれを感じ取っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第1話>
5人はその「闇の竹薮」の前に立っている。
「う~~~ん…」
何か悩んでいるモナー。
「とてもじゃないが…」
モナーに付け足すように言うギコ。
「ハイルノモタメラウヨウナ…」
あんなに強気だったつーも、不安そうに言う。
「何だこの昼との違いはっ!!! 」
何故か怒るモララー。
その竹薮は、昼でも少し怖いが、入るのなんてラクショー! といった感じ。
上からはかすかな光が届き、かわいらしい小鳥がさえずっていた。
しかーし。
今は昼とは裏腹に、竹薮の中に月の光は届かず、気持ち悪い謎の鳥の鳴き声(ってい
うかうめき声? )が轟き、竹の背も3倍くらい大きく見える。
「…私、こんな所入るのいや…」
しぃが顔を青ざめさせながら言う。
「俺も賛成。入りたくねぇ…;」
珍しくギコも怖がっている。
「カッ、カユイィィー!!! 」
集団で飛行する蚊にさされ、ボリボリと腕をかきむしるつー。
「無理モナ! 絶対無理モナ! モナは行かないモナぁ! 」
震えるモナー。もうすでに少しパニック状態。
「お前らそれでも男かぁ!? (しぃを除く。)まぁ、つーはよくわからないが。」
「オレノセイベツガワカラナイナンテ、モラモマダマダダナ! アーヒャヒャヒャwww」
(ムカッ! )
つーの高笑いにむかつくモララー。
「それなら…優勝者にはこれをやろう! この間新しく出た…
ゲームだっ…! 」
「よっしゃあ! その話、乗った!」
「ええっ!? ギ、ギコが行くならモナもいくモナ!」
「みんな行っちゃうの!? …それなら私も行く。」
「オレモイクゾ! アヒャヒャヒャ! 」
ということで肝試し続行が決定。これからどうなるのか…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第2話>
とりあえず竹薮の中に入るギコたち。
「あれっ…」
何かに気付くしぃ。
「これって…『危険 立ち入らないこと。』」
なんと立ち入り禁止の看板。
「なんかお約束(?)過ぎないか…? 」
ギコがストーリーの展開に気付いてしm…ではなくて。
「まあいいだろ。俺は立ち入り禁止の所に入って危険だったことは無い。」
本当か? モララー……
「……………」
やはりうつむいたままのしぃ。
「と、とにかく入るモナ! 」
5人はガサガサと背の低い草をよけながら、竹薮の暗い闇の中へ消えた。
「ぅっわぁ~…暗いモナ…」
竹薮の中は、かろうじて5メートル先が見えるくらいだった。
5人は1列になって歩いた。
「それにしても…」
モララーがつぶやいた。
それに続けてつーが
「サッキカラナンダカ…キリガデテキタ…」
周りをみると、確かに霧が出ていた。真っ白で、綺麗な霧だった。
まるでその綺麗な霧に吸い込まれそうだった。
しかし、その霧は、5人の視界を更に悪くした。
「うわ…もうほぼ先が見えない…」
しぃが言った。
「もう出よう。これ以上ここに居ると危ないぞ! 」
ギコが後ろのモナーたちに叫ぶようにして言った。
「そうだな。」
モララーが返した。
「もうモナも出たいモナ! 」
モナーが返した。
「そうしたほうが良いみたい。」
しぃが返した。
「モウデルノカ? ツマラナイナ! アーヒャヒャヒャ! 」
つーも返した。
そのうち、最初入ってきた場所に戻ってきた。
月の光が、より一層明るく感じられた。
「…モララーガイナイ…」
いち早く気付いたのはつーだった。
「!? 」
ギコとしぃの顔が青ざめた。
「モナー君もいない…」
しぃも、モララーとモナーがいない事に気付いた。
ギコたち3人は鼓動が早まり、息が詰まった。皆死にそうな顔をしていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第3話>
モララーとモナーがいなくなった日は眠れなかった。
そのことをすぐに母さんに知らせた。モナーとモララーの家に電話もかけた。
だけど、次の日も2人は帰って来なかった。
クラスで捜索活動もした。
でも2人は見つからなかった。
そして今日も捜索する。
「モナーーーーーーっ! 」
「モララーーーーーーーッ! 」
「モナー君! どこー? 」
皆、連日の捜索活動に疲れきっていた。
そして皆、絶望していた。
そんな時だった。
「!? …」
つーが何か発見した。
「つー!? どうした!? 」
近くにいたギコが駆け寄った。
モナーだった。
ほとんど動かない。顔に白い粉がわずかについている。
その後モナーは病院に搬送された。
奇跡的に一命は取りとめた。しかし、まだ意識不明のままだった。
無音の病室に心電図のピッ、ピッ、という音が響いていた。
「良かった。見つかって。」
ギコが独り言のように話す。
「モラモミツカルトイイナ…」
つーも寂しそうに話した。
その数日後、モララーも発見された。
竹薮のほぼ中心部で見つかった。
顔や体には白い粉が、モナーよりだいぶ多く付いていた。
そして、
死んでいた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第4話>
今日はモララーの葬式。白黒の横断幕が会場に張り巡らされていた。
いつも元気でズボンばっかりはいてくる、どこのクラスにも1人はいる男勝りな
女子も、今日ばかりは黒いスカートをはいてきた。
皆泣いた。
皆悲しんだ。
皆寂しがっていた。
泣いた所を見たことが無いつーも、泣いていた。
あれだけモララーをバカにしていても、やはり友達なんだ………
しぃを含む何人かはショックで寝こんでいた。
それでも葬式だけには来ていた。
警察は事件性は無いと、捜査はしなかった。
皆そう思っていた。
3人を除いては。
葬式の帰り道――――――――
「…おかしい。これは事故とかそういうのじゃない。」
「ナ、ナンデダ? 」
「そっ…そうよぉ…どう見たって、私たちの責任。私たちのせいよ…」
みんな鼻声で、しぃはまだ半泣きだった。
「みんな見ただろ、あの白い粉。助かったモナーは少し。死んだモララーは…」
「タシカニ…」
「それに霧。あの白い綺麗な霧。あの霧と白い粉は同じ色だ。」
「それで…何なの? 」
「ぃゃ~…その先は…」
「ワカラナイ…ダロ。」
「ぐ、またしてもセリフをっ」
「こんな時にまで漫才しないで!!! 」
しぃが怒って言った。
「…ごめん。」
「とにかく、3日後また会いましょう。それまでに、何か調べておくから。」
「わかった。」
「ソレジャ、ギコノイエデナ! 」
3人は、それぞれ自分の家に帰っていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第5話>
そしてその約束の3日後……
一同は学校の教室に集まっていた。
「ちゃんと調べてきたわよ! 」
「俺もだ。」
「メズラシイナ…ギコガチャントヤッテクルナンテ…」
「うっせぇな(怒)」
3人は資料の本をぺらぺらとめくり始めた。
しぃはページが黄色がかった古い本を見ている。
「俺もちゃんと調べなくては…」
ギコもまた、白くて整っている、小さめの本を手にした。
紙が下の紙をはじく音。つまりページをめくる音がする。
………………………
特に目に付く記事は無かった。
ギコはその本を近くの、友達の机に置いた。
しぃの机、その隣の机に山積みにされた資料の、一番上から本を取った。
そのままでは届くはずがないので、机の上に乗った。
ギシ…ギィィィ…
机は本とギコの重さで、悲鳴を上げていた。
ガッコーン!
机の両脇にある止め具のボルトが外れ、ギコは本と共に教室の床に落ちた。
…しぃとつーも巻き込んで。
「いったー…もう…何やってんのよ! 」
しぃが怒鳴った。
「イテェジャネーカ! コロスゾ! 」
つーは暴言を口走る。
ギコは、顔の上にかなり大きい、しかも年代物の本がかぶさっていて、
とてもじゃないが喋れなかった。
「ぅーっ…」
ギコの口からうめき声が漏れた。
「ぶはっ! 」
ギコはやっとの思いで重い本を顔からどかした。
「…!? ……………」
ギコは、はっとしてその本の内容を読んだ。
「これは……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第6話>
物語だった。題名は
「霧姫」
読んだことは無いのだけれど、どこか懐かしい。
何故か目を引き付ける、不思議なお話――――
昔、誰も知らないような山の奥に、1つの小さい村があった。
その村でも更に村の端の寂しい場所に、
「霧」
と言う女の子が、お母さんと2人で暮らしていた。
霧は、あまり笑わない子だった。しかし、笑ったときの笑顔は、
まさに天使のようだった。
霧が12、13歳位のとき、突然 霧は竹薮に行ったっきり帰って来なかった。
それっきり、その竹薮に足を踏み入れた者は
顔や体に白い粉を付けて死んだ。
それが、「霧の呪い」である。
唯一1人助かった霧のお母さんは、竹薮の中に、
自然現象の霧を操る子を見たという。
人間の霧は、死んで、自然の霧を操る
「霧姫」
になったのであった。
―――――――――――――――――――――――――――終わり。
「ナンカ、ソックリダナ。モラガシンダノト。」
つーが口を開いた。
「やっぱり、顔に白い粉付けてたってあたりが特に。」
やはり白い粉が気になるギコ。
「き…霧姫の呪い…?」
おびえるしぃ。
「…謎を謎のままで終わらせるのはつまらないからな。」
ギコが言った。
「絶対その謎を解く。それから霧姫を成仏させたる! 」
「ジョウブツハイラントオモウガ…ギコニサンセイ! 」
「ええ~~っ!? 私たちまで呪われるよ! やめようよ…」
「だめだ。これだけは許せん。とにかく明日俺ん家集合! 」
「大丈夫かな…」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第7話>
3人はギコの家に集合していた。
「で、どうする?」
しぃが言った。
「まず最初に…」
しぃに答えるように言うギコ。
「最初に?」
また問うしぃ。
「イショデモカクカ。 」
もはや夢も希望も無いつー。死ぬのは覚悟しているらしい。
「そ…そうだな……遺書でも書くか…」
あれだけ元気があったギコも青菜に塩状態。
ペンを持つしぃとつー。
(@-@)しばしお待ち下さい。(・γ・)/
「さらさらさら~っと。書けた。」
ペンを走らせおわったしぃ。
「アハハ、俺たち何やってんだろwww」
3人の見事な落ち込みっぷり、絶望っぷりに、部屋は
加齢臭(つまりはオッサンの臭い)がしてくるほどだった。
(※3人はぴっちぴちの12歳です。)
「トリアエズ、アシタニデモモ、ナノオミマイニイッテクルカ。」
その嫌な空気の中、つーが口を開いた。
「賛成! 」
とりあえず3人は、モナーのお見舞いに行くことに。
(最後になるかもしれないし。)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第8話>
真っ白な病室。
ここは、モナーが入院している部屋だ。
やっぱり暑い。病院だから空調はしっかりしているものの、
むしむしとした嫌な感じがする。
「よっ! モナー! 」
意識は戻っていないのだが、何故か声をかけてしまうギコ。
モナーの寝ているベッドの隣にある、低い丸いすに腰掛けた。
「まってろ、今すぐ霧姫を…」
キリヒメ…?
ワタシノコト?
ワタシハネェ…
「キリ」ッテイウンダヨ
ワタシヲドウスルノ?
ワタシニハムカウナンテデキナイヨ。
―――――コロスヨ。―――――
どこからか聞こえてくる声。
ああ、なんと気持ち悪いんだろう。
血の波に揺られているような感覚。
はっと我に返る3人。
「…!? 」
モナーの体が霧の色に染まっていく。
それにつれてモナーの息は荒くなっていった。
……………………………………………………………………………
がくっ
モナーの首が傾く。
モナーは死んだ。
呪いで死んだんだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第9話>
モナーが死んだ。
その瞬間、窓が外側に思いっきり開き、強風が吹きつけた。
部屋の内から外へ。
霧姫がモナーの魂をつれていくようだった。
レースのカーテンが揺れる。
外はまだ明るかった。雲一つ無い青空。それでいて蒸し暑い。
あの日の晩のように。
「フフ…」
にやけるつー。
一歩で窓のふちに飛び乗った。
「な、何を…! 」
つーの突然の行動に声を張り上げるギコ。
「ジャアナ」
つーの体が宙を切り裂いて落ちていく。
どしゃ。
嫌な音だ。
何が起こったんだ。
死んだ?
死んだ?
死んだ…?
死んだ…
死んだ
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第10話>
「……」
呆然と立ち尽くすしぃとギコ。
しぃはギコのうなじをつかんだ。
「いい加減にしろやアホォ…(怒)」
ギコの心の内↓
いや、何!? しぃ!? 君、ホントのホントにしぃ!?
ちょ、ま、やめて? 苦しいんだけど。
ていうか俺のせい!? 何故に!?
あ、もう、まじで。首しめないで。死ぬ。ギチギチいってるって。
はっ、と我にかえるしぃ。
「あっ、ゴメーン! ショックのあまり首しめちゃったwww」
と、しぃの手の中から開放されたギコ。
「(とうとう壊れたか…)」
その前に…
つーの心配はしませんか…?
「……………………」
はッ!
「つーッ!!!!!! 」
窓の下を覗きこむと、ちょっとした人だかりができていた。
「やばいよ! シリアスなストーリーにあるまじき事だよ! 」
…………………………………………………………
結局つーは死んだ。
その時も突風が吹き、その風は例の竹薮の方へ。
また霧姫にもっていかれたんだな……
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日は8月だった。蒸し暑く、でも空は晴れていて、月は円く光っていた。
学校で仲の良い友達と自分。あわせて5人。今日は夏の恒例イベント
「肝試し」
が行われる。皆は、気分を盛り上げるため怪談を話していた。 …俺の部屋で。
ただでさえ暑苦しくムシムシしている狭い部屋に、5人がぎゅうぎゅうに入ってい
るのだから余計に暑い。とろけそうなくらい暑い。
「なんでお前ら俺ん家に来るんだよ! 」
と、ギコが怒鳴りつけた。
「だってギコが来るの遅いからいけないんだモナ。」
「ったく。15分も来ないから心配してきたのに…」
それに反論するモナーとモララー。
「ソレナノニタダノイネムリダッタトハ…シィニダメナトコロヲミセテシマッタナ。アーヒャヒャヒャ! 」
ギコにちょっかいを出すつー。
「ぅ…うるせぇっ! お前だってこの間授業中寝てたクセに!!! 」
「ナ…ナンデシッテル!? 」
「兄者情報。」
そのうち言い争いになる2人。
「まったく…なんでいっつも喧嘩になるのかしら。」
ため息をついて呆れているしぃ。
「良いじゃない。会場はここから近いんでしょ。モナー君。」
「そうモナ。」
その会場とは、ギコの家の前の道を100メートルほど進み、そこを左に曲がった
ところにある竹やぶである。
「む…しぃがそう言うなら…」
「シィガナニカイウトアッサリダナ。サスガシィノコトヲスキ…」
ギコがその言葉をストップさせた。 …回し蹴りで。
「どぉりゃああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ものすごい勢いでギコが走ってきて、つーに回し蹴りを食らわした。
ゴスッ…
鈍い音がした。
ギコの足の甲がつーの頭にクリーンヒットし、つーは前にのめり込んだ。
つーの頭にはでっかいたんこぶができていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<プロローグ2>
約1時間後……
気絶していたつーが目を覚ました。
「マッタク、ヒドイメニアッタゾ! 」
つーの頭にはいまだにたんこぶが付いている。
「誰のせいだよ! 」
モララーが2人の間に割って入った。
「まあ、良いじゃないか。早速あの…」
―――――闇の竹薮―――――
「へ行こうじゃないか。」
闇の竹薮とは、学校のクラスでついた名前。今回の会場になる竹薮のこと。
「そうそう。早く行くモナ! 」
「アーヒャヒャヒャ! タノシミダナ! 」
「でも私、怖いかも…」
としぃ。
「大丈夫だって、もし何かでてきたら…」
「ナイフデヤツザキニシテ、テツパイプデナグッテ、ゴミショリジョウニモッテク! 」
「そんなことするわけ無いだろ!!!
だから、俺が…」
ギコが言いかけた時、
「マモッテヤル! 」
「あーーーっ!!! もう! 俺のセリフを取るなぁぁっ! 」
「そこの2人、漫才してるヒマは無いんだ。さっさと行くぞ。」
モララーは少しイラついてる。怒ると怖いのでギコとつーもさっさと家を出た。
外に出た。やはり家の中も外も変わらず蒸し暑い。
しぃとモナーは先に行ってしまったらしい。
「ギコーーー。」
誰かがギコを呼んでいる。
「あ、母さん。」
「ギコ、気を付けて行って来るのよ。」
やっぱりお決まりのセリフ。母さんは何かと心配性なんだな~。
とギコは思った。
「わかってるって。8時までには帰るから。」
「………行ってらっしゃい。」
「いってきまーす」
ギコは元気に挨拶をし、皆の後を追った。
母の目からギコの姿は見えなくなった。
「…ふぅ。ホントに大丈夫かしら。」
ギコの母はカンが良い。そしてその母が
―――――何か悪い事が起きそう―――――
と思っている。やはり何かあるのか。
そしてしぃもそれを感じ取っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第1話>
5人はその「闇の竹薮」の前に立っている。
「う~~~ん…」
何か悩んでいるモナー。
「とてもじゃないが…」
モナーに付け足すように言うギコ。
「ハイルノモタメラウヨウナ…」
あんなに強気だったつーも、不安そうに言う。
「何だこの昼との違いはっ!!! 」
何故か怒るモララー。
その竹薮は、昼でも少し怖いが、入るのなんてラクショー! といった感じ。
上からはかすかな光が届き、かわいらしい小鳥がさえずっていた。
しかーし。
今は昼とは裏腹に、竹薮の中に月の光は届かず、気持ち悪い謎の鳥の鳴き声(ってい
うかうめき声? )が轟き、竹の背も3倍くらい大きく見える。
「…私、こんな所入るのいや…」
しぃが顔を青ざめさせながら言う。
「俺も賛成。入りたくねぇ…;」
珍しくギコも怖がっている。
「カッ、カユイィィー!!! 」
集団で飛行する蚊にさされ、ボリボリと腕をかきむしるつー。
「無理モナ! 絶対無理モナ! モナは行かないモナぁ! 」
震えるモナー。もうすでに少しパニック状態。
「お前らそれでも男かぁ!? (しぃを除く。)まぁ、つーはよくわからないが。」
「オレノセイベツガワカラナイナンテ、モラモマダマダダナ! アーヒャヒャヒャwww」
(ムカッ! )
つーの高笑いにむかつくモララー。
「それなら…優勝者にはこれをやろう! この間新しく出た…
ゲームだっ…! 」
「よっしゃあ! その話、乗った!」
「ええっ!? ギ、ギコが行くならモナもいくモナ!」
「みんな行っちゃうの!? …それなら私も行く。」
「オレモイクゾ! アヒャヒャヒャ! 」
ということで肝試し続行が決定。これからどうなるのか…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第2話>
とりあえず竹薮の中に入るギコたち。
「あれっ…」
何かに気付くしぃ。
「これって…『危険 立ち入らないこと。』」
なんと立ち入り禁止の看板。
「なんかお約束(?)過ぎないか…? 」
ギコがストーリーの展開に気付いてしm…ではなくて。
「まあいいだろ。俺は立ち入り禁止の所に入って危険だったことは無い。」
本当か? モララー……
「……………」
やはりうつむいたままのしぃ。
「と、とにかく入るモナ! 」
5人はガサガサと背の低い草をよけながら、竹薮の暗い闇の中へ消えた。
「ぅっわぁ~…暗いモナ…」
竹薮の中は、かろうじて5メートル先が見えるくらいだった。
5人は1列になって歩いた。
「それにしても…」
モララーがつぶやいた。
それに続けてつーが
「サッキカラナンダカ…キリガデテキタ…」
周りをみると、確かに霧が出ていた。真っ白で、綺麗な霧だった。
まるでその綺麗な霧に吸い込まれそうだった。
しかし、その霧は、5人の視界を更に悪くした。
「うわ…もうほぼ先が見えない…」
しぃが言った。
「もう出よう。これ以上ここに居ると危ないぞ! 」
ギコが後ろのモナーたちに叫ぶようにして言った。
「そうだな。」
モララーが返した。
「もうモナも出たいモナ! 」
モナーが返した。
「そうしたほうが良いみたい。」
しぃが返した。
「モウデルノカ? ツマラナイナ! アーヒャヒャヒャ! 」
つーも返した。
そのうち、最初入ってきた場所に戻ってきた。
月の光が、より一層明るく感じられた。
「…モララーガイナイ…」
いち早く気付いたのはつーだった。
「!? 」
ギコとしぃの顔が青ざめた。
「モナー君もいない…」
しぃも、モララーとモナーがいない事に気付いた。
ギコたち3人は鼓動が早まり、息が詰まった。皆死にそうな顔をしていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第3話>
モララーとモナーがいなくなった日は眠れなかった。
そのことをすぐに母さんに知らせた。モナーとモララーの家に電話もかけた。
だけど、次の日も2人は帰って来なかった。
クラスで捜索活動もした。
でも2人は見つからなかった。
そして今日も捜索する。
「モナーーーーーーっ! 」
「モララーーーーーーーッ! 」
「モナー君! どこー? 」
皆、連日の捜索活動に疲れきっていた。
そして皆、絶望していた。
そんな時だった。
「!? …」
つーが何か発見した。
「つー!? どうした!? 」
近くにいたギコが駆け寄った。
モナーだった。
ほとんど動かない。顔に白い粉がわずかについている。
その後モナーは病院に搬送された。
奇跡的に一命は取りとめた。しかし、まだ意識不明のままだった。
無音の病室に心電図のピッ、ピッ、という音が響いていた。
「良かった。見つかって。」
ギコが独り言のように話す。
「モラモミツカルトイイナ…」
つーも寂しそうに話した。
その数日後、モララーも発見された。
竹薮のほぼ中心部で見つかった。
顔や体には白い粉が、モナーよりだいぶ多く付いていた。
そして、
死んでいた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第4話>
今日はモララーの葬式。白黒の横断幕が会場に張り巡らされていた。
いつも元気でズボンばっかりはいてくる、どこのクラスにも1人はいる男勝りな
女子も、今日ばかりは黒いスカートをはいてきた。
皆泣いた。
皆悲しんだ。
皆寂しがっていた。
泣いた所を見たことが無いつーも、泣いていた。
あれだけモララーをバカにしていても、やはり友達なんだ………
しぃを含む何人かはショックで寝こんでいた。
それでも葬式だけには来ていた。
警察は事件性は無いと、捜査はしなかった。
皆そう思っていた。
3人を除いては。
葬式の帰り道――――――――
「…おかしい。これは事故とかそういうのじゃない。」
「ナ、ナンデダ? 」
「そっ…そうよぉ…どう見たって、私たちの責任。私たちのせいよ…」
みんな鼻声で、しぃはまだ半泣きだった。
「みんな見ただろ、あの白い粉。助かったモナーは少し。死んだモララーは…」
「タシカニ…」
「それに霧。あの白い綺麗な霧。あの霧と白い粉は同じ色だ。」
「それで…何なの? 」
「ぃゃ~…その先は…」
「ワカラナイ…ダロ。」
「ぐ、またしてもセリフをっ」
「こんな時にまで漫才しないで!!! 」
しぃが怒って言った。
「…ごめん。」
「とにかく、3日後また会いましょう。それまでに、何か調べておくから。」
「わかった。」
「ソレジャ、ギコノイエデナ! 」
3人は、それぞれ自分の家に帰っていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第5話>
そしてその約束の3日後……
一同は学校の教室に集まっていた。
「ちゃんと調べてきたわよ! 」
「俺もだ。」
「メズラシイナ…ギコガチャントヤッテクルナンテ…」
「うっせぇな(怒)」
3人は資料の本をぺらぺらとめくり始めた。
しぃはページが黄色がかった古い本を見ている。
「俺もちゃんと調べなくては…」
ギコもまた、白くて整っている、小さめの本を手にした。
紙が下の紙をはじく音。つまりページをめくる音がする。
………………………
特に目に付く記事は無かった。
ギコはその本を近くの、友達の机に置いた。
しぃの机、その隣の机に山積みにされた資料の、一番上から本を取った。
そのままでは届くはずがないので、机の上に乗った。
ギシ…ギィィィ…
机は本とギコの重さで、悲鳴を上げていた。
ガッコーン!
机の両脇にある止め具のボルトが外れ、ギコは本と共に教室の床に落ちた。
…しぃとつーも巻き込んで。
「いったー…もう…何やってんのよ! 」
しぃが怒鳴った。
「イテェジャネーカ! コロスゾ! 」
つーは暴言を口走る。
ギコは、顔の上にかなり大きい、しかも年代物の本がかぶさっていて、
とてもじゃないが喋れなかった。
「ぅーっ…」
ギコの口からうめき声が漏れた。
「ぶはっ! 」
ギコはやっとの思いで重い本を顔からどかした。
「…!? ……………」
ギコは、はっとしてその本の内容を読んだ。
「これは……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第6話>
物語だった。題名は
「霧姫」
読んだことは無いのだけれど、どこか懐かしい。
何故か目を引き付ける、不思議なお話――――
昔、誰も知らないような山の奥に、1つの小さい村があった。
その村でも更に村の端の寂しい場所に、
「霧」
と言う女の子が、お母さんと2人で暮らしていた。
霧は、あまり笑わない子だった。しかし、笑ったときの笑顔は、
まさに天使のようだった。
霧が12、13歳位のとき、突然 霧は竹薮に行ったっきり帰って来なかった。
それっきり、その竹薮に足を踏み入れた者は
顔や体に白い粉を付けて死んだ。
それが、「霧の呪い」である。
唯一1人助かった霧のお母さんは、竹薮の中に、
自然現象の霧を操る子を見たという。
人間の霧は、死んで、自然の霧を操る
「霧姫」
になったのであった。
―――――――――――――――――――――――――――終わり。
「ナンカ、ソックリダナ。モラガシンダノト。」
つーが口を開いた。
「やっぱり、顔に白い粉付けてたってあたりが特に。」
やはり白い粉が気になるギコ。
「き…霧姫の呪い…?」
おびえるしぃ。
「…謎を謎のままで終わらせるのはつまらないからな。」
ギコが言った。
「絶対その謎を解く。それから霧姫を成仏させたる! 」
「ジョウブツハイラントオモウガ…ギコニサンセイ! 」
「ええ~~っ!? 私たちまで呪われるよ! やめようよ…」
「だめだ。これだけは許せん。とにかく明日俺ん家集合! 」
「大丈夫かな…」
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<第7話>
3人はギコの家に集合していた。
「で、どうする?」
しぃが言った。
「まず最初に…」
しぃに答えるように言うギコ。
「最初に?」
また問うしぃ。
「イショデモカクカ。 」
もはや夢も希望も無いつー。死ぬのは覚悟しているらしい。
「そ…そうだな……遺書でも書くか…」
あれだけ元気があったギコも青菜に塩状態。
ペンを持つしぃとつー。
(@-@)しばしお待ち下さい。(・γ・)/
「さらさらさら~っと。書けた。」
ペンを走らせおわったしぃ。
「アハハ、俺たち何やってんだろwww」
3人の見事な落ち込みっぷり、絶望っぷりに、部屋は
加齢臭(つまりはオッサンの臭い)がしてくるほどだった。
(※3人はぴっちぴちの12歳です。)
「トリアエズ、アシタニデモモ、ナノオミマイニイッテクルカ。」
その嫌な空気の中、つーが口を開いた。
「賛成! 」
とりあえず3人は、モナーのお見舞いに行くことに。
(最後になるかもしれないし。)
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<第8話>
真っ白な病室。
ここは、モナーが入院している部屋だ。
やっぱり暑い。病院だから空調はしっかりしているものの、
むしむしとした嫌な感じがする。
「よっ! モナー! 」
意識は戻っていないのだが、何故か声をかけてしまうギコ。
モナーの寝ているベッドの隣にある、低い丸いすに腰掛けた。
「まってろ、今すぐ霧姫を…」
キリヒメ…?
ワタシノコト?
ワタシハネェ…
「キリ」ッテイウンダヨ
ワタシヲドウスルノ?
ワタシニハムカウナンテデキナイヨ。
―――――コロスヨ。―――――
どこからか聞こえてくる声。
ああ、なんと気持ち悪いんだろう。
血の波に揺られているような感覚。
はっと我に返る3人。
「…!? 」
モナーの体が霧の色に染まっていく。
それにつれてモナーの息は荒くなっていった。
……………………………………………………………………………
がくっ
モナーの首が傾く。
モナーは死んだ。
呪いで死んだんだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<第9話>
モナーが死んだ。
その瞬間、窓が外側に思いっきり開き、強風が吹きつけた。
部屋の内から外へ。
霧姫がモナーの魂をつれていくようだった。
レースのカーテンが揺れる。
外はまだ明るかった。雲一つ無い青空。それでいて蒸し暑い。
あの日の晩のように。
「フフ…」
にやけるつー。
一歩で窓のふちに飛び乗った。
「な、何を…! 」
つーの突然の行動に声を張り上げるギコ。
「ジャアナ」
つーの体が宙を切り裂いて落ちていく。
どしゃ。
嫌な音だ。
何が起こったんだ。
死んだ?
死んだ?
死んだ…?
死んだ…
死んだ
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
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<第10話>
「……」
呆然と立ち尽くすしぃとギコ。
しぃはギコのうなじをつかんだ。
「いい加減にしろやアホォ…(怒)」
ギコの心の内↓
いや、何!? しぃ!? 君、ホントのホントにしぃ!?
ちょ、ま、やめて? 苦しいんだけど。
ていうか俺のせい!? 何故に!?
あ、もう、まじで。首しめないで。死ぬ。ギチギチいってるって。
はっ、と我にかえるしぃ。
「あっ、ゴメーン! ショックのあまり首しめちゃったwww」
と、しぃの手の中から開放されたギコ。
「(とうとう壊れたか…)」
その前に…
つーの心配はしませんか…?
「……………………」
はッ!
「つーッ!!!!!! 」
窓の下を覗きこむと、ちょっとした人だかりができていた。
「やばいよ! シリアスなストーリーにあるまじき事だよ! 」
…………………………………………………………
結局つーは死んだ。
その時も突風が吹き、その風は例の竹薮の方へ。
また霧姫にもっていかれたんだな……
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