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MAZE OF DARKNESS  ―闇に生まれ闇に生きる― (おーあーるぜっと)

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匿名ユーザー

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PROLOGUE
MESSENGER


街が、黄昏色に染まっていた。

商店街も、住宅街も、公園も、

全てが、黄昏色に染まっていた。

美しくも妖しい、その街の公園で、小さな子供のAAが、ひとり、遊んでいた。

公園には、その子供を除いて、誰もいない。

いや、いなかった。

公園に、背の高い、大人らしいAAが現れた。音も無く、どこからともなく。

どうやら、男のようだ。

男は、砂場で遊んでいる子供に近づいた。

「坊や、ちょっといいかな」

子供が、男に気付く。

「おじちゃん、だれ?なんてなまえ?」

男はにこやかに笑いながら答えた。

「僕の名前かい?僕の名前はね……」

男は子供の耳に、自分の名前をそっと囁いた。

「ふ~ん、へんななまえ…」

子供は、不思議そうな顔で男を見つめる。

「坊や、おじちゃんはね、君に面白い事を教えてあげようと思っているんだ」

「おもしろいこと?なになに!?おしえて!」

幼い心は、『面白い事』という言葉に惹かれた。

「ああいいとも、教えてあげよう。でも、ひとつ約束があるんだ」

「やくそく?」

「そう。これから僕が話す『面白い事』、誰にも他の人に話さないと、約束してくれるかい?」


男は知っていた。子供という者は、実に扱い易い者であるという事を。

男は、この子供を誘拐する事も、殺す事もできた。

だが、そんな事より、もっと恐ろしい事を、男はしようとしていた。


「…うん、やくそくするよ!」

期待通り、子供はこう言ってくれた。

「そうかい、いい子だね…」

男が、子供の頭を優しく撫でた。子供は、無邪気に笑っている。

「それじゃ、約束を破らないよう、おじさんと指切りしよう」

「うん!」


黄昏色に輝く公園に、指切りをする2人の影が伸びる。


――ゆびきりげんまん

  うそついたらはりせんぼん

  の~~ます!


「よし、じゃあ話してあげよう」

「うん、はやくおしえて!」


男は腰を下ろし、地べたに座って、子供にこう語りかけた。


「…『AA狩り』っていうのを、知ってるかい?」



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



――AとB、常に互いに接してはいるが、互いに交わろうとした試し無し。

  Aは他者に疎まれ、Bは他者に感謝されるが、BはAを殺したくても殺せない。

  さて、何故か?

――んん!?……何だ?

――さあて、わ・か・る・か・な?

――…………、だめだ、わからん!答え!

――へへ、正解は……、



CHAPTER1
GAMES


……真っ暗闇の中にいた。


  上も下も右も左も、前も後ろもわからない。


  だが、今、自分がぐるぐる回っている事は確かだった。


  止まる事もなく、真っ暗闇の中を、ぐるぐるぐるぐる回っている…。


  と、目の前に一筋の光が見えた。


  思わず、その光に手を伸ばそうとする。が、


  今自分に、肉体が無い事に気がつく。


  そして、目の前の光を塞ぐかのように、何者かの影が現れる…。



「……!」

誰かの声が、遠くから聞こえる。

「………い!」

声が段々近づいてきた。

「……おい、ギコ!起きろ!」


声に促され、ギコは目を覚ました。まだ頭がぼんやりしている。

「わりい、ちょっとうとうとしてたんだゴルァ」

「気をつけろよ。だいぶ潜ったから、そろそろ下に着くかもしれないからな」

ギコを起こしてくれたのは、子供の頃からの親友モララーだった。

さっき見た妙な夢が、まだ目の奥に残っているようだ、少し目が回る。

ギコは少し頭を振り、改めて周りの状況を確認した。


そこは、やや狭い円柱状の部屋だった。

いや、部屋ではない。ギコ達は、円柱状のエレベーターに乗っていた。

出入り口のドアと天井の照明以外は何も無い、何か、冷たい感じのするエレベーターは、今下へ下へと向かっている。

このエレベーターに乗っているAAは、全部で5人。

先程うとうとしていたギコに、それを起こしたモララー、

隅っこで膝を抱えているドクオ、同じく隅っこでじっとしている、異様なほど背の高い8頭身、

そしてエレベーター内を所狭しとうろついている激しく忍者の5人だ。

絶えず響くゴウンゴウンという駆動音が、静まりきった内部の静寂を埋める。


空気が異様な程、暗く、そして、重い。


だが、誰もそれを口にする事はなかった。


自分達がこれから向かう先の事を、皆、知っていたからだ。



「+激しく暇+」激しく忍者がドクオに向かって言った。

「うるせえよ!お前、俺達がこれからどうなるかわかってんのか?」

予想外なほどに冷たい返事がドクオから返ってきて、忍者は少したじろいた。

隣の8頭身が、突然堰を切ったかのように嗚咽を漏らし始めた。

「ううっ……、>>1さん……、もう……、うっうっ……、もう、会えないの…?」

内部の空気が、よりいっそう重くなる。

「+激しく心配無用+ +激しく脱出可能+」

忍者はあくまで明るく振る舞う。しかし、ドクオの気分はより悪くなった様だ。

「そうだよな!お前やギコみたいに足が速けりゃ、脱出の可能性はまだあるよな!」

ドクオはそこで言葉を切り、皆を見渡す。

「だがよ、運動音痴な俺がどうやってあの連中を巻くってんだよ!」

「よせよドクオ!当たったってどうしようも無いだろ!」

見かねたモララーが仲裁に入る。

「忍者、お前も少しはドクオの事も考えてものを言えよ」

「+激しく反省+」

「俺も悪かったよ」

モララーのおかげでひとまず喧嘩は治まったが、重苦しい空気は結局直らない。

8頭身は、まだ泣き続けている。

モララーは、今度は8頭身をなだめ始めた。

「泣くなよ8頭身。まだ終わりだと決まったわけじゃないだろ」

「でもっ、でもっ……」

「起こっちまった事はしょうがないからな。今はそれを受け止めて、精一杯脱出に力を注ぐんだ。

そうすれば、きっとまた>>1さんにも会えるよ」

「う、うん………」

8頭身は泣きやんだ。少しは元気を取り戻したようだ。

モララーはギコの隣にしゃがんだ。

他の皆がいざこざを起こしている間、ギコはひとつの事を考えていた。

モララーは、いたわるようにギコに話しかけた。

「……しぃの事、考えてるのか……?」

ギコは黙ったまま頷いた。

しぃの安否。それが、今のギコにとって一番気がかりな事だった。

何も連絡できずにここに連行されて来たから、彼女は、ギコがこの中にいる事など夢にも思わないだろう。

もちろん、携帯電話などのギコ達の持ち物は、エレベーターに乗らされる前に全て取り上げられている。

モララーはうつむくギコを、優しく慰めた。

「大丈夫だよ。彼女は強いんだろ?」

「しぃは……、多分今観客席にいる…」

「観客席?どうして……?」

いぶかしげにモララーは聞いた。しぃがこういうものに興味はない事は、モララーも知っている。

「…昨日俺の所に、チケットが来たんだ。2人分。どうせただなんだから、行かなきゃ損だって、しぃも誘った。1回くらい、どうだって。だから……」

「待ち合わせの時間に来ないから、おかしいと思って中で待っているかもしれない……、って言いたいのか?」

「ああ……」

しぃをこんなものに誘うんじゃなかった、とギコは常に後悔していた。

しぃはこういうものを好まないと知っていたのに……。


あの時のしぃの言葉が、耳に鮮烈に蘇る。



――どうして、人が死ぬのを見て楽しんでる人がいるんだろ……



もし彼女が観客席にいて、自分の追いかけられる姿を見せてしまったら……。

そうでなくとも、周りの他の観客に危険な事をされているかも……。

いや、もしかしたら今まさに……。


モララーは、かける言葉を探していた。


ギコには黙っていたが、モララーもしぃの事が好きだった。


モララーとギコ、しぃは、暗い暗いスラム街で生まれ、育った。

3人とも物心付いた時には親はいなく、3人は兄弟の様に遊び、助け合った。

犯罪者の巣とも言えるスラム街で育ったのだから、3人とも数え切れない程の犯罪行為もした事がある。

銃を手にした事もあった。

だが、3人は常に一緒だった。

そして月日を重ねるにつれ、モララーとギコは、しぃに惹かれていった。

だがモララーは、ギコとしぃを巡って競争するよりは、むしろ2人の仲を促進させてやろうと思っていた。

2人を守ってやると、自らと約束した。

2人の笑顔が、モララーにとって何より大切なものだったから、彼なりに、それを守ろうと思った。


「………ギコ」突如モララーが言った。

「……何だ、ゴルァ」

「…いくら心配しても始まらない。今は彼女を信じて、今自分ができる事を考えよう」

「……わかったぞゴルァ」

それだけで、もう充分だった。


やがて、足下から光が漏れ始め、眼下の光景が現れ始めた。


そこは、巨大なドームだった。


周りを取り囲むようにして階段状に並んだ観客席は、強化ガラスによって覆われている。

観客からの歓喜の声が聞こえてきそうだったが、ガラスが防音の役割をしているのか、全く聞こえない。

ドームの天井には大型スクリーンが3つ、三角を結ぶ形で付いている。

どの角度からでも、観られるようになっているのだろう。

そして今、真下に広がっているのは、わっか状に広がっている巨大な迷路だった。

本当にちゃんとした出口へのルートがあるのかと疑いたくなる程、迷路は大きく、複雑だった。

所々道が分かれ、曲がりくねっている。

迷路の壁は、ここから見ただけでもわかるほど高く、またてっぺんにはトゲがたくさん付いていた。

乗り越えようとした者がいたのだろうか。

そして、遠くに出口がひとつ、ぽっかりと穴を開けていた。

迷路の正解のルートを通って、あの出口から出られた者だけが、死の恐怖から解放される。

だが、過去に果たして、あの出口を通ったAAがいたのだろうか。



地上で捕まり、ここへ運ばれた者は、皆あの出口に向かって走り続ける。

光に希望を持って。

生にすがりついて。

だが、迷路を脱出する事は、おおよそ不可能に近かった。

迷路は恐ろしく複雑で、絶対に簡単には出られないようになっている。

そして何より、捕獲された者達が、迷路に入って10分後、迷路にハンター達が放たれる。


死に怯えるエモノを狩るべく、ハンターには特製の銃が渡されている。

計20発超の弾丸を搭載可能な、黒く鈍く光る数種類の銃。

5人のハンターはこれを手に、赤く美しい花を咲かせようと、5人のエモノを追いかける。

5人対5人の、血塗られた鬼ごっこ。

それがこの新たな地下娯楽、『ゲーム&ハンター』である。

もちろん、こんなものが世の表に出ようはずはない。

闇に生きる者達、例えばスパイや犯罪グループ、スラム街の住人達だけに、裏ルートでチケットが配られ、秘密裏に行われる。

そして娯楽を楽しんだお客様は、口外厳守を言い渡される。

もしそれでも漏らしたのならば、闇の力を使って、漏れた穴を『修理』する。

事実、『ゲーム&ハンター』が始められて10年、これまでただの1度もおおやけの住人にここの存在を知られた事はなかった。

存在自体、知られていないのだ。



ギコは、観客席の中にしぃの姿がないか探していた。

しかし、それらしい人影は見当たらない。

(しぃ……)

やがてエレベーターは、迷路の中央に到着した。

ドアが開き、中から5人のエモノ達が出てくる。

スタート地点からは、5本の通路が伸びていた。

1人のエモノに1本の通路、といった具合か。

上の方で実況が何か喋っているが、5人には聞こえてこない。

さっさと通路を選べ、と言っているようだが…。


「僕はこの通路を選ぶよ」真っ先に8頭身が、目の前の通路を選んだ。

「じゃあ俺はこれを…」モララーが、8頭身の右隣の通路を選ぶ。

「+激しく選択+」忍者が選んだのは、8頭身の左隣の通路だ。

「俺は、こっちで」忍者の左隣の通路をドクオが選んだ。

「残ったのは、これか、ゴルァ…」最後に残った、ドクオとモララーの間の通路の前に、ギコは立った。

5本の通路の入り口は、金網で塞がれていた。

開始の合図と共に、この金網が開くらしい。

まるで競馬だな、とギコは思った。


「…皆!」おもむろにモララーが口を開いた。

「な、何だよ急に…」ドクオが、驚いたように聞く。

「……生きて、帰るぞ!!」


その言葉に、皆勇気づけられた。


「「「「おう!!」」」」


やがて、バーーンという合図と共に、5つの金網が開かれ、5つの通路から、5人のAAが走り始めた。

観客は今、この5人をいつも通りの、死に怯えたエモノ達と見ているだろう。

だが、この5人は違う。

少なくともこの5人は今、絶望ではなく、希望を胸にして走り出した。



本日のエモノ

  ナンバー1 激しく忍者

  ナンバー2 8頭身

  ナンバー3 モララー

  ナンバー4 ギコ

  ナンバー5 ドクオ

 S T A R T ! !



CHAPTER2
HUNTERS


しぃは、我が目を疑った。

3面のスクリーンに、ギコの顔が、今日待ち合わせをしていたはずのギコの顔が映されていたからだ。

「…な、何で……?」

しぃには、理解できなかった。自分の恋人が今、エモノとなって、迷路を走り回っているのだ。


待ち合わせの時間を過ぎてもやってこないギコに、しぃは腹を立て、帰ろうとした。

しかしそこを、係員らしい男に呼び止められ、半ば無理矢理観客席に座らされたのだ。

ドームの入り口は、思いもよらない所に隠されていた。

スラム街にある、誰も遊ばなくなった寂れた公園のブランコの下に、入り口が隠されていたのだ。

観客席では、思った以上に客が多く、自分の様な闇の中で生きるAAがこんなにもいるのかとしぃは驚かされた。

その自分も今、観客席に座っている。哀れなエモノ達を、見守る席に…。


何故ギコが今、あの迷路の中を走り回っているのか、しぃにはわからなかった。

とにかく、しぃはあれが本当にギコかどうか、確かめたかった。

しぃは立ち上がって目の前に立ちはだかるガラスの壁を叩き、必死でギコに呼びかけた。

「ギコ君!!ギコ君!!ねえギコ君てば!!」

しかし、いくらガラスを叩き、大声を出して呼びかけても、それはギコには届かなかった。

巨大な強化ガラスが、観客の声援もろとも、しぃの悲痛の叫びを吸収しているのだ。

外部からの妨害、助言などを防ぐため、この様な構造になっている。

それでもしぃは叫び続けたが、非常な壁はそれを拒絶した。

「見えないアヒャよ!座るアヒャ!」

後ろの席の観客、アヒャに言われ、仕方なくしぃは席に着いた。

しぃの隣の席では、別の観客が、ポップコーンをバリボリ食っていた。

「そこも!食べるんならもっと静かに食べるアヒャ!」

しぃの隣の観客はポップコーンを食べる手を止め、アヒャをにらみつけて言った。

「うるせえな!人のしてる事にいちいちケチつけんじゃねえよ!」

ポップコーンの観客は、つーという名前だった。女だが、言葉遣いが男の様だ。

つーをしかるつもりが逆に怒鳴られ、アヒャはすごすごと引き下がった。

再び食べ始めるつー。

頭の方から、人を小馬鹿にした様な司会の声が聞こえてきた。

「おーーと、ナンバー5ドクオ、行き止まりにぶつかったニダよ!元来た道を逆走ニダ!」

しぃは、この場でギコを救出せねばならないと思い至った。

このままでは、いずれ襲いかかるハンター達に殺されてしまう。

(とにかく、どうにかしてギコ君を助けないと……!)

しかし、どうやって?

目の前にはガラスの壁、周りは観客、そして、ガラスを撃ち破るような武器は、しぃは今持っていない。

今彼女にできる事は、ギコの無事を祈り、待つ事だけだった。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



行き止まりにぶつかり、肩で息をしながらドクオは、元来た道を振り返った。

「はぁっ、はぁっ、ちっくしょう、ここまで来たのに戻らなきゃなんねえのかよ……」

仕方なく、戻ろうと走り始めたが、やがて止まり、床に腰掛けた。

「…疲れた、休憩」

ふと、ドクオは上のスクリーンの時計盤を見た。

5人が走り始めてから、まだ3分しか立っていない。

確かに、早めにゴールに近づいた方がいいが、あまり体力を消耗しすぎてハンターにやられてしまっては元も子もない、とドクオは踏んだのだ。

(ハンター共が動き出すまでまだ時間がある。焦らず行こう)

呼吸を整えた後、ドクオは再び走り出した。


ドクオはまだ、人生を諦めてはいなかった。

とにかく生きて帰ろうと、心にそう決めていた。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



激しく忍者は1人、猛スピードで迷路内を走り回っていた。

左右を吹き抜ける風が、首筋の結び紐をなびかせる。

「+激しく疾走+」

日頃の特訓の成果だった。

元より、天敵クックルから逃げるために始めた「疾足の術」だったが、こんな所で役に立つとは思ってもいなかった。

芸は身を助けるという言葉を、忍者は思い出した。

「+激しくスピードアップ+」

調子に乗った忍者は、どんどん加速していった。

もはや左右の壁は、まともな姿で目に映っていない。

と、


 ドンッ!!


直角の曲がり角を曲がりきれず、壁に激突した。

観客の声は聞こえてこないが、笑っているのには間違いない。

「+激しく失態+」赤くはれた鼻をさすりながら、忍者は言った。

そういえば、と忍者は思った。

いつもこんな具合に失敗をやらかして、クックルに捕まっているのではないか。

そういえばそうである。

必ずどうにかなるハズなのに、そのたびに調子に乗って、ヘマをして、結果クックルのマウントを食らう。

つまり、この調子に乗り易い性格をどうにかして直せば、万事上手くいくのではないか。


「+激しく…」

と、突如忍者はハッとスクリーンの方を見た。

現在経過時間は7分半、つまりハンター達が動き出すまで後2分半という事だ。

「+激しく再出発+」

もたもたしている暇はない。できる限り急がなければ。

忍者は再び走り出した。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



モララーは、スタート地点まで戻ってきてしまっていた。

「や、やべえ…!目印付けとくんだったかな…」

今更そんな事を言ってもしょうがない。

モララーは180度Uターンし、2度目のスタートを切った。

ふと、スクリーンの時計盤を見る。

「!!」

経過時間が、9分50秒にさしかかっていた。

「何てこったい、よりによってこんな時に…!」

無機質なデジタル時計は、さらに刻一刻と、時を進めてゆく。


……9分55秒、


  56秒、


  57秒、

モララーの心拍が速くなる…。

  58、


  59、


  60!!

その瞬間、スタート時と同じバーーンという音が、迷路中に鳴り響いた。

どこかでウィーーンという、何かが開く音が聞こえる。

ハンターが現れるポイントは、エモノ達には知られない。

いつ出くわすか、わからないのだ。

しかも5人全員バラバラな位置で出てくるので、出現位置での有利不利があまり無い。

(くそ、ここからが本番か…!)

モララーは心の中で舌をかんだ。

今自分が、スタート地点というゴールから最も遠い位置にいると思ったからだ。

ゴールへの距離が遠ければ遠い程、ハンターに出くわす危険性も高まる。

しかし…。


この時モララーは気付きもしなかったが、一番遅れている者の利点がひとつ、あった。

それは、他の皆がハンター全員を引きつけている間、自分だけ皆を出し抜いてゴールできるという確率があるという事……。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



ハンター達が放たれて2分後、ギコは十字路にさしかかった。

「確率は、3分の1か…!」

迷っている暇はない。もたもたしていたらハンターに撃たれる。

「ええい、こっちだゴルァ!」

声と共に、ギコは右に曲がった。

前へ前へとしばらく進み、再び十字路が現れた。

「くそ、またかゴルァ!」

ギコは今度は左に曲がろうとした。

が、すぐ目の前に行き止まりを見つけたので、Uターンし、さっきの位置から見てまっすぐの方に進んだ。

風を切り、猛スピードでギコは走る。

「…はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

今度はT字路だ。しかし、ギコは迷わず右の道を選ぶ。

走って走って、曲がり角が見えてきた。

ギコは曲がり角を曲がった。と、そこにAAの姿が!!

「あっ!」

ギコは思わず叫んでしまった。

はじかれたようにそいつは振り向き、そしてニヤリと笑った。

「エモノ発見じゃネーノ!」

ハンターのネーノはギコに銃口を向けた。

黒い、大型のマグナム銃だ。

「やっ……!」言葉になっていない言葉を発しながら、ギコは曲がり角の方に飛び退いた。


 ズドオオン!!


間一髪、先程ギコがいた所の床が、粉々に吹き飛んでいた。

ギコは全力で走った。

「足を吹き飛ばそうと思ったのに…、待つんじゃネーノ!」

後ろからネーノが追っかけてきている。

だが、ギコの方がスピードがあった。

やがて先程のT字路が現れた。背後の爆発音を聞きながら、ギコはまっすぐ進み、すぐに曲がり角を曲がった。

ネーノも後を追って曲がったが、目の前には十字路があった。

ネーノは素早く左右の通路を確認したが、ギコの姿は見受けられない。

「くそ、見逃しちまったんじゃネーノ!」

ネーノは舌打ちをして、まっすぐ進んでいった。



少しして、十字路の右側からギコが顔をのぞかせた。

飛び込んだ右側の通路に、運良く分岐点があったのだ。

ギコはそこに隠れ、ネーノを出し抜いたのだ。

「あ、あぶねえ~~…」ほっと一息つくギコ。

「…それにしても、こんなにヒヤヒヤさせられるとは……。早いとこ脱出しねえと、命がいくつあっても足りねえぞゴルァ!」

ギコは再び走り出した。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



8頭身は、長い直線通路上で、ハンターと出くわした。

普通ならば、絶体絶命のピンチであった。

だが、8頭身にとっては、最高の喜びだった。

そのハンターが、誰であろう、>>1さんだったからだ。


「…こ、これでもう、お前に追いかけ回される事は無くなるんだ!」

黒光りするリボルバー式拳銃を8頭身の頭に向けながら、>>1さんは怯えながら、しかし勝ち誇ったように言った。

しかし、8頭身は動じなかった。

「……>>1さん、会えて、また会えてよかった…」

自分の頭に銃が向けられているのに、8頭身は逃げ出しも、焦りもしなかった。それどころか…。

「な、何だよ…、お、お前、泣いているのか!?」

>>1さんの言う通りだった。

8頭身は、目から涙を流していた。

「…>>1さん、僕は幸せだ。こうして死ぬ前に、>>1さんに会えたんだから…」

8頭身は、今や死ぬ事に恐怖を覚えていなかった。

思ってもいなかった幸福が訪れたのだ。

死の間際に、>>1さんに会えたという事。

この場で>>1さんに殺されてもいいとさえ、8頭身は思っていた。


「うう……く…く………」

>>1さんの持ち前の親切心は、8頭身の涙で揺さぶられた。


>>1さんは闇の情報屋を経営していた。

裏ルートで情報の売買を行うため、顔もそれなりにだが知られている。

ひょんな事から8頭身がここに捕まったという情報が手に入り、>>1さんは自ら、1日だけハンターを志望した。

今まで自分を苦しめてきた8頭身を、この手で殺してやりたいと思ったからだ。

そして運良く採用され、今まさにチャンスが巡ってきた。

だが…。


「…ううう……くっく…」

銃を構えた両手が、震えている。

>>1さんは心の中で自問していた。

――本当に殺してしまっていいのか?

  後悔しないか?

  かわいそうじゃないのか?

「……>>1さん、どうしたの?どうして撃たないの?」

>>1さんは8頭身をキッとにらんだ。

そして、叫んだ。

「う、うるさあい!!」


 バキュウーーン!!


弾丸は、8頭身から大きくはずれて、左側の壁に当たった。

「……>>1さん、どうして…?」

銃を降ろし、>>1さんは両膝を床に着いた。

「…や、やっぱり、僕にはできない………」

>>1さんの声は、震えていた。

「……僕には、…お前を、殺してしまう事なんて、できないよ…」

思えば、そうだった。

>>1さんは、確かに8頭身に、それこそ毎日のように追いかけ回された。

だが迷惑に思いつつも、殺したいほど憎んだ事なんて、無かったはずだ。

ならば何故、殺さねばなるまいか…。

いや、殺す理由なんて、無いはずだ。

「>>1さん……」

8頭身は>>1さんの近くまで寄ってきた。

その時、>>1さんがはじかれたように立ち上がった。

「8頭身!よけろ!!」


 ダーーーーン!!


8頭身は、間一髪で弾丸をかわした。

>>1さんの声がなければ、間違いなく弾丸は8頭身を捕らえていただろう。

「>>1さん、あ、ありがと!」

「う、うん。でも…」

>>1さんは弾丸が飛んできた方を見た。

他のハンターの誰かが、かなり遠くで黒い長距離ライフルを手にしていた。

ライフルのハンターが叫んだ。

「おい>>1さん!てめえエモノ側に荷担しやがったな!裏切り者は殺していいっていうルール、忘れてねえだろうな!」

再びライフルを構える。今度は>>1さんを狙っていた。

「>>1さん危ない!!」

8頭身は>>1さんを抱き上げ、猛然と走り出した。

>>1さんがいた場所が、弾丸ではじけ飛ぶ。

「はっ8頭身!何を…!?」いきなり持ち上げられたので、>>1さんは慌てた。

「>>1さん、このまま一緒に逃げよう!」

8頭身の背後で、またダーーンという音が鳴ったが、そんな事は気にせず、走りまくった。

「な、何でだよ!僕はお前の命を…」

「そんなの関係ない!僕は、>>1さんの事が、好きなんだ!」

「8頭身…!」

もう1度、ダーーンと鳴った。

「だから僕は、>>1さんを、守るんだ!」

>>1さんは、言葉が出なかった。

8頭身が、自分を守ろうとしてくれている。

>>1さんは嬉しさのあまり、涙があふれそうになった。

8頭身、ありがとう。

こう発音したかったのに、喉がつまって、8頭身には聞き取れなかった。


8頭身は走る。

光に向かって。

大切な人を、守るために。



CHAPTER3
RULERS


そこは、薄暗い部屋だった。

部屋の壁の内ひとつの壁に、四角いスクリーンが何枚も何枚も付けられている。

スクリーンには、逃げまどうエモノ達や、それを追いかけるハンター達の姿があった。


そこは、『ゲーム&ハンター』の生みの親であり、主催者である、流石兄弟の観戦場だった。

今この部屋には、流石兄弟しかいない。

「ハンター達に告げる。>>1さんが裏切った。攻撃対象に加えろ」

マイクに向かって、兄者が叫んだ。

「しかし兄者よ」

傍らにいた弟者が言った。

「何だ、弟者よ」

マイクのスイッチを切りながら、兄者が返した。

「この『ゲーム&ハンター』も、けっこう長く続いているよな」

「確かに。始まって10年、ここまで人気が出るとは思ってなかったよなあ」

2人は、互いの顔を見、そして静かに笑った。


流石兄弟は幼い頃、交通事故で家族を亡くした。

母も、父も、姉も妹も、1度に亡くした。

悲しみのどん底の中、2人の精神はある種の異常をきたした。

他人の死をその目で見る事で、2人は快楽を覚えるようになったのだ。

そして時がたち、2人は、狂気のプロジェクトを始めた。

それが、『ゲーム&ハンター』。

そして10年、プロジェクトは成功を収めた。

それによって2人は、金と支持力という、強大な力を手に入れたのだ。

その気になれば、国ひとつを揺さぶらせられるほどの力を…。


「俺はなあ、弟者よ」

唐突に兄者が喋り出した。

「何が好きかというと、エモノが死に絶える時のあの血しぶき、あれが好きなんだ」

「ほう」

「床や壁を赤く彩る血、そして飛び散る肉片……。どんなグロ画像よりも、すばらしく美しいと思うよ」

「なるほどな。でも、俺はちょっと違うな」

「ほう。では、弟者は何が好きなんだ?」

しばしの沈黙の後、弟者はこう言った。

「顔だな」

「顔?」

「そう、顔だ。エモノ達が死に怯え、絶望し、やがて死んでいく時のあの顔…。俺はあれが好きで好きでたまらん」

弟者の話を聞いた兄者は、おどけたように言った。

「はは、とんだ変態だな、弟者よ」

「お前もな、兄者」

2人は笑い、そして言った。


「「流石だよな俺ら」」

その言葉は、暗い室内に邪悪に響いた。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



激しく忍者は、自分がゴールに近づいてきている事を確信していた。

「+激しくもうすぐ+」

途中何度も壁に激突し、鼻は真っ赤になったが、それだけの苦労のかいはあった。

記憶している限りだが、彼は迷路の構造をだいたい把握できた。

そして、残されたゴールへの道は、このルートしかない。

忍者はスピードを上げた。

ぐんぐんスピードを上げた。

遠くのゴールが、近づいてきている。

と、


 ドンッ!!


またも壁にぶつかった。

「+激しく激痛+」

起きあがろうとする忍者。と、忍者の上に誰かの影が、横から被さった。

「1体撃破じゃネーノ!」

「+激しく不k」


 ズドオオン!!


言い終わる前に、忍者の体は吹き飛んだ。



  ナンバー1 激しく忍者

    脱  落



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



ドクオは、遅れをとっていた。

やはり、日頃の運動不足がたたったのだろう。

「はぁっ、はぁっ……。くそ、こんな事なら、はぁっ、毎朝ジョギングでも、はぁっ、してりゃあ、良かった……」

息も絶え絶えに、ドクオは独り言を言った。


そう、普段から運動をしていれば、こんなにならずに済んだのだ。

いつも、母に言われていたのに…。


ドクオには妻や恋人はいなかった(当然だな。ドクオだし)が、母がいた。

幼少の頃からドクオを可愛がり、常に心配してきた。

ドクオにとって、その愛は嬉しかった。

だが、母の前ではあまり素直になれず、悪口を言った事もあった。

ドクオはそんな自分が、悲しかった。


(カーチャン……)

もし無事にゴールにたどり着き、無事に帰れたら、カーチャンに、これまでのお礼と、謝罪をしよう。

ドクオはそんな事を思いながら、必死で走った。

だが、もう体力の限界だ。休憩を入れないと、とても保たない。

「きゅ、休憩……」

ドクオは壁に寄りかかり、息を整え始めた。

近くに足音は聞こえないから、今はまだ安全だ。

(他の皆、大丈夫かな……)

始まってから、すでに計15分が経過している。

誰か1人くらい、ハンターと遭遇しているに違いない。

銃声も、何回か聞こえた。

皆、無事だといいんだが………。



 カッ


「!」

ドクオは体を起こした。


 カッ……カッ……


間違いない、足音だ。

右の方から聞こえた。ドクオの進行方向だ。

(やべ……!)

ドクオは元来た道をダッシュで戻り始めた。

まだ完全には息を整えきってはいないが、今動かなければ殺される。

ドクオの足音を聞いたのか、後ろの方で走る足音が聞こえる。

しかも、1人じゃない。2人いる。

(ちっくしょう!)

ドクオは振り返らなかった。もうそんな余裕など無かったからだ。


 バキューン!


後ろから銃声が鳴った。だが幸いにも、弾丸はドクオには当たらなかった。

「ひぃっ、はぁっ、ひぃっ、はぁっ……」

後ろの方で、2人のハンターが何やら話し合っているようだ。だが、ドクオはそんな事に気をとられている余裕はなかった。

 バキューン! バキューン!

ほぼ同時に2発放たれる。

1発はドクオの右側の床、もう1発は左側の壁に当たった。

「くっ……」

段々と、距離が縮まってきた。

ドクオの足は、限界に近づいてきた。


 バキュバキューン!


また同時に2発の銃声。

だが今度の弾丸は、ドクオの両足を捕らえた。

「くああっ……!!」

激痛のあまり、その場で転倒するドクオ。

自分の足を見ると、赤い、美しいほどに真っ赤な血が、たらたらと流れていた。

「あ、赤い………」

ドクオの目は、かすみ始めた。

やがて2人のハンターは、ドクオの元にたどり着いた。

目がかすんで、顔がわからない。

2人は、互いに全く同じ形の、黒いオートマチックガンを、ドクオに向けた。


「ごめん、カーチャン」


 バキュバキューンバキューンバキュバキュバキューーン!!



  ナンバー5 ドクオ

    脱  落



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



ドクオの赤く染まった骸を後にして、2人のハンター、モナーとレモナは、次の標的を探していた。

「今のはモナが最初に撃ったから、次はレモナの番モナね」

くねくねと曲がる曲がり角を曲がりながら、モナーは言った。

「そうね。それで私の撃った弾が当たれば、後は私一人の手で殺して…」

傍らのレモナが返事をする。

「はずしたら、2人で同時に撃って殺すモナ」

モナーが続きを付け足す。

「今更確認したって、意味無いんじゃない、モナー君?」

「そうモナね。これくらい頭に入ってるモナ」


モナーとレモナは、夫婦でハンターをやっていた。

ハンターの『仕事』中に2人は知り合い、互いに気が合い、やがて結婚した。

ただ、結婚後もハンターをやめる気は、2人ともさらさら無かった。

むしろ、狩りの最高のパートナーを手に入れたので、『仕事』をいつも以上に楽しくやっていた。


ただ、ひとつ問題があった。

過去に1度、2人がマジ切れを起こし、夫婦喧嘩をした事があった。


凄まじかった。


手元に銃が無かったからいいようなものだが、もしあったら、家の中で銃撃戦が起こっていた。

要するに、2人とも切れると制御が効かなくなるのだ。


次なるエモノを探して、2人は迷路内を徘徊する。

しかし、なかなか見つからない。

「おかしいモナね……。もうあと1人しかいないモナか?」

「それはないと思うわ。あんまり銃声多くなかったs」

「しっ!」

モナーはレモナの口を塞いだ。

(なっ……何!?)

モナーは通路の先を指さした。曲がり角の向こうに、人影が顔をのぞかせていた。

2人は声のボリュームを下げる。

「私からよね」

「そうモナね」

2人は忍び足で影に近づく。

そろり、そろりと近づく。

(あとちょっとモナ……。あとちょっと……)

(もうすぐよ……。もうすぐ……)

と、

影がぴくりと動いた!

「「!!」」

はじかれたように2人は影に走り寄る。

角を曲がった。いたのはモララーだった。

「やばっ!!」

「私からよ!」

言うなりレモナは銃をモララーの顔に向け、引き金を引いた。

 バキューン!

弾丸はモララーのほおをかすり、離れた所の壁に当たった。

「くっ……!」

モララーは当たった方のほおを押さえ、駆けだした。

「当たったわ!私のもの…!」

「しょうがないモナ、当てないよう援護に回るモナ」

2人はモララーを追いかけた。

モララーが曲がり角を左に曲がった。

レモナとモナーも遅れて角を曲がった。

続けてモララーは右に曲がる。2人もそれに続く。


と、突如2人の目の前からモララーが飛び出した!!

「「!!」」

突然の出来事に2人が呆気にとられている一瞬の隙をついて、モララーはモナーの脇をかすめ通った。

「やたっ!」

モララーが勝利の歓声を上げ、そのまま逃げ出した。

「おっ追うモナよ!」

「えっええ!」

2人はモララーを捕らえんと追いかけた。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



モララーは壁に寄りかかり、肩で息をしていた。

何度か危ない時があったが、その都度モララーは機転を生かし、時に幸運に助けられ、逃げる事ができた。

「はあ……、はあ……。これでもう完全に巻いたな……」

あたりをキョロキョロと見回し、安全を確かめた。

ふと、スクリーンの方を見る。

「!」

ドクオと忍者の顔に、大きくバツ印がかかっていた。

ハンターに殺されたらしい。

「くっそ、あいつら………」

体を持ち上げ、モララーは走り出す。

「生きて帰るぞって、言ったじゃねえか……!」


もうこれ以上仲間を殺させやしない。

モララーは心に誓った。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



モナーとレモナは結局、モララーを取り逃がした。

モナーは、半ば憎しみのこもった目でレモナをにらみつけた。

「レモナのせいモナ!」

「なっ、何でよ!?」

「レモナが、撃とうとしたのに止めたモナ!あの時撃ってれば当たってたモナ!」

「な、何言ってるのよモナー君!」

今度はレモナがモナーをにらみ返した。

「あのルールは2人で決めたんでしょ!今さっきあなたも確認したじゃない!」

レモナの言葉の端々にも、やや憎しみがこめられている。

「それなのに忘れたなんて……、あなたどうかしてるわ!」

レモナの言葉にモナーのこめかみがぴくりと動いた。

「エモノを逃しかけてる非常事態にそんな事言ってるそっちの方がどうかしてるモナ!」

「何ですってェ!!」


猟師は獲物を狩る時、時に獲物を支配するような感覚に囚われるという。

今モナーとレモナは、それと同じ様な状態にある。

『支配』していたはずのエモノに初めて逃げられ、極度に憤っているのだ。

そして今その怒りのはけ口を、互いのパートナーに向けている。


会話はどんどんエスカレートしている。

いや、それはもはや会話などではなく、怒り、憎しみのぶつけ合いだった。

そしてしびれを切らした2人は…、


互いの頭に、銃口を向けた。


「撃つモナよ」

「撃つわよ」

互いに歯を食いしばり、そして……!


 ダーーーン!!


銃声が迷路に鳴り響いた。

しかし、2人は引き金を引いていない。

「「!!」」

2人はハッと我に返り、慌てて銃を降ろした。

「す、すすすす、すまんモナ……」

「こ、こ、こっちこそ、ごめん……」

2人は呆然と見つめ合う。

さっきまでの怒りは、嘘のように消えていた。

「…………」

「……………」

沈黙が続く……。


「…行こうモナ」

「…そうね」

2人は何事もなかったかのように、駆けだしていった。



CHAPTER4
AVENGER


(着いたな……)

ゴールの手前の所に、ライフルを手にしたAAが現れた。

(ここなら、必ずあいつはやってくる)

ゴールの1歩手前の所で、彼は座った。

ゴール手前は、十字路となっている。

ゴールへのルートが、3つあるという事だ。

(この日のために俺は生きてきたんだ。絶対に逃がさない…)

スクリーンには、5人のエモノの顔が載っていた。

しかし、彼が真に狙っているのは、その内1人のみ。

(俺がお前を絶対に殺し、俺から奪っていったものの代償を払ってもらうぞ、ギコ………)

ハンター、フサギコの目は、復讐の炎で燃えていた。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



しぃはもう、居ても立ってもいられなくなった。

すでに他の2人がやられている。ギコもハンターと遭遇し、命を危ぶみかけた。

このままでは本当に、ギコは死んでしまう。

(もうだめ!今すぐにでもギコ君を……!)

しぃは改めてあたりを見回した。

左の席には、相変わらずポップコーンを食べ散らかしているつー。

後ろの席には、迷路のどこかをまじまじと見つめているアヒャ。

右側は、少し離れた所に次の席がある。

そして目の前には、外と中を区切る、巨大なガラスの壁。

どう考えても、今のしぃには迷路内には入れそうもない。

(しょうがない、こうなったら周りの人に頼んで……)

しぃは左を向き、つーに話しかけた。

「あっ、あのすみません…!」

「ん?何だ?」

「ええ~っと、何か武器、貸してくれませんか?ガラスを割るような……」

「武器ぃ!?何だってそんなものを…」

「ギコ君を……、迷路の中の彼を助けないと……!」

しぃは前を向き、眼前に広がる迷路を指さした。

つーは最初しぃが何を言っているのかわからなかったが、やがて理解したように大きく頷き、こう言った。

「あ~あ、そういう事か。つまりあれか、迷路で囚われの身になってる彼氏を助けたいと……」

しぃは黙って頷いた。

しかしつーは、困ったように笑う。

「別にかまわねえよ、俺は。手を貸してやっても。

けどなーお前、もしこのガラスを割って中に入れたとしてもだな、そのギコってのをどうやって助けんだよ?」

しぃは下唇をかみ、下を向いた。


そうだ、迷路に進入したとして、どうやってギコを助けるのだ?

周りに観客が多すぎる。

すぐ見つかって連れ出されるのがオチではないか?

それどころか、逆にギコに助けられる様な羽目になるのでは……?


――それでも……


「俺には恋人がいないし、いたのかどうかもわからないから、そういうのがどんな気持ちかもわからねえ。

けどな、いくら大切な人を守るためだからって、やめとけよ。危険すぎる。

観客のタコ殴りにあいたいか?ハンターに殺されたいか?」

「……それでも…」

「ん?」

「それでも、見守るだけなんて、私は嫌!」

「……」

「危険かもしれない。死ぬかもしれない。

それでも、この身が危険にさらされても、私はギコ君を、大切な人を助けたい!」

「うるさいアヒャ!!」

いきなり後ろのアヒャが割って入った。

「誰どかを助けるとか助けないとか、そんなのどうでもいいから静かにするアヒャ!」

つーが怒鳴ろうとしたが、それより先にしぃが口を開いた。

「どうでもよくない!!」

「「!!」」

つーとアヒャは、しぃの突然の大声にビックリした。

「人の命がかかっているのよ!どうでもいいわけ無いでしょ!」

「う、うるさいアヒャ!!」

ガタンとアヒャが立ち上がった。

周りの観客が、3人に注目する。

「そんなに、黙れないんなら……」

アヒャが何かを取り出す。

「こいつで黙ってもらうアヒャ!」

取り出した、特殊な形の拳銃を、アヒャはしぃに向けた。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



8頭身は、>>1さんを背に乗せたまま、両膝に手をついて息をしていた。

先程2人はハンターに出くわし、追いかけ回された。

しかし、8頭身の身のこなしと>>1さんの銃による反撃で、何とか追っ手を巻く事ができた。

「な、何とか逃げられたね、>>1さん……」

「あ、ああ……、正直どうなるかと………、あ!」

「どうしたの>>1さん!?」

「やべ、弾が残り少ない……!」

>>1さんは8頭身に、手にしている銃を見せ、握り手の所を指さした。

「あ……!」

握り手に、数字の入った小さな窓があった。

窓の中の数字は、『4』だった。

弾丸の残りが後4発、という意味だろう。

「ちょっと撃ちすぎたな。やばいな、これじゃあ襲われた時に反撃しにくいぞ……」

「ど、どうしよう>>1さん……」

「ともかく急ごう!8頭身、走れる?」

「うん、もう大丈夫だよ!」

「よし、行こう!」

8頭身は、再び走り出した。


2人は焦っていた。

反撃のすべを失いかけていたため、自分達が危険な状況にあると思っていた。

しかし、自分達がすでにゴールに近づいている事に、2人は気付いていなかった……。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



ギコは、いよいよゴールに迫ってきていた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……、だいぶ走ったなゴルァ…!」

結局あれから、ギコは1度もハンターと出くわさなかった。

自分の運が良かったのか、それとも他の皆が引きつけてくれているのか……。

ギコはスクリーンを見た。2人の仲間の死を表示している、巨大なスクリーンを。

(しぃ……、モララー……。無事でいてくれ……)

ギコはスピードを上げた。

自分が段々とゴールに近づいてきているのがわかる。

ガラスの向こうの観客席を、ちらりと見た。

ほとんどの観客が、こちらを見ている。

様々な表情で。

ゴールに接近している証拠だ。

(もうすぐだ、もうすぐ……)

しぃが観客席にいたかどうかはわからなかったが、ゴールさえすれば、もう大丈夫だ。

そんな事を考えながら、ギコは角を次々曲がっていった。

そして……。


「あ……!」

目の前にあったのは、ぽっかりと口を開けた出口。

そして、その前に立ちはだかっている、1人のハンター。

(何てこった、こんな所で……!)

愕然としているギコに向かって、そのハンターは叫んだ。

「やっと会えたぜえ!探したぞ、ギコ!!」

「だ、誰だお前は…!?」

ギコは、目の前のハンター、フサギコの面識が無かった。

フサギコは、ニヤリと笑った。

「知らなくて当然だ。俺もお前の名を知ったのはごく最近だよ…」

「どういう事だ、何が言いたいんだゴルァ!」

「俺の名はフサギコ……」

言いながら、フサギコはギコを指さした。

「お前に恋人を失わされた男だ」

「え………?」

ギコには、言葉の意味がすぐにはわからなかった。

「……失わされたって、…どういう意味だよ!」

「どうもこうも!」

フサギコの目つきが、急に険しくなった。

「お前が俺から恋人を奪ったんだよ!!」

「!!」


ギコは、言葉を失った。


自分が、こいつの……フサギコの恋人を、奪った!?


「今から、およそ2年前になるか……」

フサギコは、遠い目をして語り出した。


「あの日、俺はあいつと、車でドライブしていた」

「ドライブ?」

「そうさ、久しぶりのデートだった。

……楽しいひとときになる………、ハズだった…」

「……」

「事件が起こったのは、車が海際の崖にさしかかった時だった。

あの時、俺達はとりとめの無い会話をして、笑いあっていたっけ……」

そこまで言ってフサギコは、いきなりギコにライフルの銃口を向け、引き金を引いた。


 ダーーーン!!


弾丸はギコのほおをかすり、後ろの壁に穴を開けた。

いきなりの事に、ギコは1歩も反応できなかった。

「だが!お前のせいでその至福の時は砕かれた!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

「何だ!?」

「俺が一体何をしたって言うんだ!?そもそも俺はお前の恋人を殺した憶えなんてn」

「いいから黙って聞け!!」

フサギコは憎しみのこもった目でギコをにらんだ。

「これから話す……!」

ギコは黙って頷いた。

「崖にさしかかった時、目の前にカーブが見えてきた。カーブを曲がろうとした、その時だった。

突如目の前から車が走ってきた。それも、もの凄い速度で、だ。

けっこう急なカーブだったから、車が視界に入ってきた時には、すでに衝突しそうな程近づいていた。

俺は慌ててブレーキを踏みながらハンドルをカーブの内側に切り、避けようとした。

……ところが、だ」

「……」

「俺が避けようとしたその方向に、何と前の車もやって来たじゃねえか。

上手い具合に避ける方向が重なっちまったわけだな。

当然俺は焦った。そして再びハンドルを切った。反対方向に。

しかし、遅かった。

車体は斜めに激突。その時、ガラス越しに相手の車の運転手の顔が、一瞬見えた。

誰の顔だったと思う?」

「ま、まさか……!」

「そう、ギコ、お前の顔だった…」


ギコは頭を抱えた。

自分が車を運転した記憶なら、確かにある。

密輸者の手伝いか何かで、たまに車に乗せてもらう事がある。

その時何らかのハプニングで、運転手が怪我をした時、代

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