【前書き】
これから話を読む場合、以下の注意をよくお読みください。
・この作品は、 『 掃除するぇ 』スレッド を元ネタにしております。
・元ネタは、ホラー要素を含むという点にご注意ください。
・ただし、本作品は残酷な表現は控えてあります。
・作品の時間軸は、元ネタスレの第二十五話から第三十三話前までです。
・ただし、これから元ネタスレを読まれる場合は、全部見ておかないとネタバレになりますので
ご注意ください。(少なくとも第五十八話まで読まれることをお勧めします。)
・前半・終盤部分→シリアス、中盤部分→ボケとツッコミ で構成されております。
・シリアス部分を読む際は、ギップルの用意がないと即死の可能性がございますのでご注意ください。
お手元にギップルが無い場合、脱臭剤で代用することをお勧めします。
最後に、この作品はあくまで著者の妄想であることを付け加えさせていただきます。
以上をご確認の上、本編をお楽しみください。
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聞いたことの無い声が聞こえてくる。
―――――どうして! どうしてなのッ!?
耳慣れない声だったけど、私はその声が誰の声なのかは知っている。
―――――なんであの子が、あんなひどい目に遭わなければいけなかったの?
これは、『私』の声。
―――――湖で溺れてしまうなんて・・・・・・
『私』が『私』になる前の、『私』の言葉。
―――――・・・・・・いいえ、違う。『溺れた』んじゃない。
・・・・・・
―――――『溺れさせられた』のよ・・・ あんな、バカな奴らの所為で・・・・・・ッ!
・・・・・・・・・
―――――・・・・・・許さない・・・・・・
・・・・・・やめて・・・・・・
―――――絶対に許さないわ!!
やめてッ!!
ズシュッ
「・・・・・・今日はね、あの子の誕生日なのよ・・・・・・」
**********
ザシュッ
ボクはぼんやりとだけど、これは夢なんだと分かっていた。
誰かが別の誰かの首をナタで斬り裂く。
ボクはそれを離れたところで黙って見ていた。
「・・・・・・」
普通の人間なら、そんなスプラッタ映像が夢に出ただけでうなされるだろう。
だけど、ボクは違う。
「・・・・・・」
ボクも、たくさんの人を殺す殺人鬼だから。
夢などで無く、実際に人の血が飛び散る様子も、人の肉を抉る感触も知っている。
自分が誰かを殺すのでもない夢なんて、別に悪夢でも何でも無い。
最近毎日見るようになった子供の頃の夢に比べればずっとマシだ。
だからこの夢は、ボクにとってはなんでもない夢に終わる――――――はずだった。
「・・・・・・ママ・・・・・・」
―――――その首を斬られたのが、赤の他人だったなら。
「マ・・・マ・・・! ママ・・・ッ! ママァ!!」
それは、昔の夢。ボクが何より大事な人を失った日の夢。
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
――――――最悪の夢だった。
********************
「いやぁッ!!」
天気もよく、暖かな日差しが窓から降り注いでいる。
だが、そんな爽やかな朝の空気など関係なく。
ひどい悪夢にうなされ、少女はベッドから跳ね起きた。
「はぁ・・・ はぁ・・・ はぁ・・・」
起きてすぐには動悸はおさまらず、しばらくは肩で息をして呼吸を整える。
体中から汗が噴き出していた。
気付くと、少女の頬は涙で濡れていた。
自分が見た、あまりにおぞましい夢の恐怖から。
「なんて・・・ 嫌な夢・・・」
それは、自分の昔の夢だった。
正確には、自分が生まれる前の、前世の夢。
かつて愛する息子への狂気から殺人鬼となった自分の記憶。
少女の名はステファニー=キンブル。
稀代の殺人鬼、ジェイソン=ボーヒーズの孫にして、
その母親パメラ=ボーヒーズの記憶を持つ子供だった。
「まったく・・・ フレディが襲ってくる夢も嫌だけど、
あんな夢見るのもたまったもんじゃないわね!」
ステファニー――――ステフは普通の少女がするのと同じように、
顔を膨らせて文句を言った。
もっともそれを聞く相手はその場にいなかったのだが。
{本当に、なんだってあんな夢見ちゃうのよ・・・・・・
自分が殺人鬼だった時の記憶なんて、見たくないのに・・・・・・}
今でもリアルに思い出す、人を殺したときの感触。
狂気に満ちた、かつての自分の言葉。
『・・・・・・今日はね、あの子の誕生日なのよ・・・・・・』
「・・・・・・誕生日?」
ふと、壁に掛けてあるカレンダーを見る。
まだ捲っていないそれには、昨日の日付が残っていた。
「!! 昨日は――――」
――――13日の金曜日。
ホラーを知らない人間でも知る人ぞ知る、ジェイソンの日だった。
「・・・・・・13日の金曜日の夜だったから、夢見が悪かったってわけ?バッカみたい!
そりゃあ、ジェイソンが生まれたのも、
私(パメラ)が初めて人を殺したのも13日の金曜日だけど、それって6月の話よ!?
まったく!知ったかぶりの人間はすぐ13日の金曜日は
ジェイソンの日だなんて言うんだから!」
やはり聞く者はいないのに、ステフは文句を言い続ける。
確かに、実際に13日が意味を持つのはキリストの命日でもある6月だったが、
ジェイソンが登場した映画はことごとく題名が『13日の金曜日』だったため、
年、月に限らず13日の金曜日と聞けばすかさずジェイソンを思い浮かべるのも道理だった。
「もう! そんなこじ付けであんな夢見たんだったら怒るわよ、私!」
ある意味どこか不条理な理由で自分が嫌な思いをしたのだと思うと、
ステフはなんだか悔しかった。
その時――――
「・・・・・・ウ、ウウ・・・・・・」
「ん?」
自分の隣で寝ている、醜悪な顔をした大男――――
ジェイソン=ボーヒーズがうなされているのに気付いた。
「私が叫び声まであげて飛び起きたっていうのにまだ起きないなんて・・・・・・
よっぽど悪い夢でも見てるのね」
「・・・・・・ウ、アウ、ウウ・・・・・・」
「起こしてあげるか。
はぁ、これじゃどっちが添い寝してあげてるんだか分からないわね。」
元々は、ステフが夢を操る殺人鬼に狙われているため、
たまにこうやって一緒に寝るようになった。
もし夢に殺人鬼が現れても、ジェイソンにはどうすることもできなかったが、
それでも悪夢にうなされるステフを起こすのはジェイソンの役目だった。
「ジェイソン、起きなさいよ。もう朝よ。」
「・・・・・・アー、ウウッ・・・・・・」
「ジェイソンったら!」
「・・・・・・ママッ!」
「!」
跳ね起きたジェイソンは、そのままステフを抱きしめ震えながら、
ただ同じ言葉を繰り返していた。
「・・・ママッ・・・ママ・・・ママ・・・ママッ・・・・・・」
{・・・・・・そうか。
13日の金曜日に私(パメラ)が人を殺したってことは、
その日に私がその返り討ちにあって死んだのよね・・・・・・}
パメラはキャンプ場に来た若者たちを殺し、
その内の一人に首をナタで切られて死んだはずだった。
その後、復讐のためジェイソンは殺人鬼となる。
{・・・・・・・・・}
醜い姿のせいで、周囲から迫害を受けていたジェイソン。
そして、その息子を溺愛した母パメラ。
狂気に駆られ殺人鬼となるほど、パメラにとっては息子がすべてで、
ジェイソンにとっても母がすべてだった。
{・・・・・・}
「・・・マ・・・マッ・・・ママッ・・・ママ・・・」
「・・・・・・大丈夫よ。ジェイソン。 大丈夫。大丈夫だから・・・・・・」
「・・・・・・」
小さなステフにジェイソンを抱きしめることはできなかったが、
彼女はジェイソンの腕の中で優しく囁き続けた。
「大丈夫よ。全部、大丈夫だから・・・・・・」
「・・・・・・。(・・・・・・ステフ。)」
ジェイソンは無言だったが、その意志は言葉としてステフに伝わってきた。
「落ち着いたみたいね。」
「・・・・・・。(うん、ありがとうステフ。すごく怖い夢を見てたんだ。)
・・・・・・。(とても・・・・・・悲しい夢だったよ。)」
「そう。」
「・・・・・・。(ステフは、悪い夢見なかったかい?)
・・・・・・。(またフレディが襲ってきたりとか・・・・・・)」
「・・・・・・私は、大丈夫よ。」
「・・・・・・。(・・・・・・。)」
「何?」
「・・・・・・、(・・・いや、ステフが落ち着かせてくれた時ね、)
・・・・・・。(何だか、傍にママがいるみたいだったよ。)」
「・・・・・・もう!
こんなキュートな5才の孫つかまえて何言うのよ。」
「・・・・・・。(ハハハ、そうだね。)
・・・・・・。(じゃあ朝食の支度をしようか。)」
**********
「・・・・・・。(今日の朝ご飯はマタデー料理だよ。)」
「・・・・・・」
「・・・・・・?(どうしたの?)
・・・・・・。(一日の食事は朝が一番肝心なんだよ。)
・・・・・・。(しっかり食べないと。)」
「・・・・・・分かってる。ちゃんと食べるわよ。」
そう言ってステフは、皿の上にある奇妙な物体――――
マタデーを食べにとりかかった。
{・・・・・・本当に今更だけど、このマタデーって何なの?
いえ、マタデーだけじゃないわ。
ギンギーといい、ヨジデーといい、
ジェイソンはそんな変な食材をいつもどこから調達してくるのかしら。}
ジェイソンの食事のレパートリーは、ギンギー料理、ヨジデー料理、マタデー料理といった、
おかしな料理ばかりだった。
ステフは食べる直前に、改めてマタデーを見る。
それは大きな花の形に見えなくも無かったが、
どちらかと言うと丸い少しつぶれた丸い物体に触手が生え、
しかもその丸い部分に笑い顔があるような・・・・・・
{・・・・・・どう見ても変な物です。本当にありがとうございました。
でも、この料理の一番奇妙なところは、
変な見た目でもなく、見た目と裏腹に味が私の好みということでもないわ・・・・・・
初めてコレを食べた私が、美味しかったから思わずおかわりを頼んだとき、
ジェイソンの・・・・・・ジェイソンの頭が・・・・・・
・・・ッ・・・いや、思い出したくない・・・・・・}
考えるのをやめ、ステフは普通に朝食をとることにする。
二人が朝食を食べ終わる頃、ジェイソンがステフに話し掛けてきた。
「・・・・・・。(ねぇ、ステフ。)
・・・・・・。(ボクまたステフに気に入ってもらえそうな物を持ってきたんだ。)
・・・・・・。(この前気に入ってもらえたのは『良い子のための黒魔術』の本だけだったからね。)」
・・・・・・。(あとで一緒に見ようよ。)
「また何か本でも持ってきたの? 別にいいのに。
大体ホラー物しか持ってこれないアナタが、
5才児の私を満足させられるような本持ってこれるわけないんだから。」
「・・・・・・!(今度は大丈夫!)
・・・・・・。(子供にも大人にも大人気の映画だからね。)」
「あれ? 本じゃないんだ。
でも映画って、アナタやフレディが出てくるホラー映画じゃ・・・
あ! でもフレディが倒される映画なら見たい気もするわね。」
「・・・・・・。(だから! 子供にも大人気の映画だって。)
・・・・・・。(アニメ映画だよ。)」
「アニメとは・・・・・・本気で子供向け狙ってきたわね。
でも今時なら、マニアックなホラーアニメがありそうな気も・・・」
「・・・・・・。(そんなこと無いよ。ディ○ニー映画だもの。)」
「ディズ○ー!?
あの、ホラーとはまさに対極! 例えるならそれこそ光と闇!
変な声で喋るネズミがトレードマークの、あれ!?」
「・・・・・・。(うん、それ。)」
「・・・・・・ジェイソンがそういう映画を持ってくるなんて、本気で信じられないわ。
私、明日にでもフレディに殺されるんじゃないかしら。」
「・・・・・・!(縁起でもないこと言わないでよ!)」
「フーン( ´_ゝ`) 。どうやら期待しても良さそうね!
それで、題名は?」
「・・・・・・。(『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』。)」
「・・・・・・まぁ、確かにデ○ズニー映画だし、
この前アナタが持ってきた、同じ監督が書いた本より話は暗くなさそうだけど・・・・・・」
「・・・・・・、(うん、この監督の映画で『コープス・ブライド』っていうのもあるんだけど、)
・・・・・・。(そっちはまだDVD発売されてないからね。)」
「・・・・・・『クリスマス前の悪夢』に『死体の花嫁』、ね・・・・・・
でも、確かにジェイソンにしては、十分子供向けの物持ってきてるわね。」
「・・・・・・!(そうでしょ!)」
「これなら見るのは構わないけど・・・」
「・・・・・・!(やったー!)」
やっと普通に気に入ってもらえる物を持ってこれたと、
ジェイソンは喜んだ。
が―――――
「ところでジェイソン?」
「・・・・・・?(何?)」
「この小屋にDVDプレイヤーなんて・・・
というより、テレビなんてあるの?」
「・・・・・・・・・(・・・・・・・・・)」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・(・・・・・・・・・・・・)」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・?(・・・・・・天気もいいし、食事が終わったら散歩でもしないかい?)」
「・・・いいわよ。」
**********
チュン チュン
「……!……。(小鳥さんおはよう! 今日も良い天気だね。) 」
チュン チュン ピチチ♪(押忍、マザコン!)
「・・・・・・・・・」
森の中を散歩中、出会った鳥に話かけるジェイソン。返事をする小鳥。
それを、何とも形容し難い表情でながめるステフ。
{別に、鳥に話し掛けるのは構わないのよ。
私と暮らす前はずっと一人でこのキャンプ場にいたんだろうし。
愛と勇気だけとか、ボールが友達なんかより鳥の方がずっといいじゃない。
なんか鳥の方も返事しちゃってるし。
ただ、鳥にまでマザコン呼ばわりされてるのはどうなのかと小一時間(ry}
「・・・・・・?(どうしたの、ステフ?)」
「・・・・・・なんでもないわ。」
「・・・・・・。(やっぱり、ただ散歩するんじゃ退屈?)」
「そんなことないわよ。」
「・・・・・・!(よし!それならボクこの前覚えた踊りでも踊るよ!)」
「いいってば!」
「・・・・・・。(じゃあ一緒に踊らない?)」
「・・・・・・アナタ、ひょっとして踊りたいだけなんじゃないの?」
「・・・・・・。(そうかもしれない。)」
「やめなさいって。
それって前フレディが来たときに踊っていったっていうヤツでしょ?」
「・・・・・・。(うん。)」
「あんな変な踊りのどこがいいの?」
「・・・・・・。(だって楽しいじゃない。)
・・・・・・♪( ♪ヒ~ラリヒラヒラ ヒヒラリラ~♪ってさ。)」
「いや、どう見ても怪しい動きだし。」
「・・・・・・?(そうかな?)
・・・・・・。(でも、踊ると福が来るらしいよ。)」
「フレディが私たちに福を持ってきてくれると思う?」
「・・・・・・。(そういえば、実は女の子のための踊りだって聞いたような・・・・・・)」
「+ 激 し く 拒 否 +
腰ミノ着けて変な踊り踊るくらいなら、フレディに殺された方がマシよッ!」
「・・・・・・!?(えぇ!?そんなに嫌なの!?)
・・・・・・。(ゴメン、分かったよ。)
・・・・・・!(もう一緒に踊ろうなんて言わないからそんなこと言わないでよステフ!)」
「・・・・・・ついでに自分も踊らないって言ってくれればもっと嬉しいんだけどね・・・・・・・・・」
そんなやり取りをする内に、二人はクリスタルレイクの草むらへ着いていた。
「・・・・・・。(ちょっと休憩しようか。)」
「うん。」
そう言うと、ジェイソンは草むらに寝そべり、ステフはその場に腰を下ろした。
暖かな日差しが降り注ぎ、優しい風がそよぐ。
二人だけの、穏やかな時間が流れた。
「ねぇ、ジェイソン?」
「・・・・・・?(なんだい?)」
「ジェイソンって、子供は殺さない殺人鬼よね?」
「・・・・・・。(そうだよ。)」
「じゃあ、いつか私が大人になったら、私を殺すの?」
「・・・・・・!(なッ・・・何言うんだよ!)
・・・・・・!(そんなことするもんか!)」
「どうして?」
「・・・・・・。(だって君は、ボク以外ではボーヒーズ家で最後の生き残り。)
・・・・・・。(何よりも、大事なボクの孫なんだもの。)」
「・・・・・・そう、よね。孫だものね。」
「・・・・・・?(・・・・・・?)」
そこで一度会話は止まり、風の吹く音だけが二人を包んだ。
{そう・・・・・・ジェイソンにとって、私は孫だから・・・・・・
ジェイソンは私が昔殺人鬼だったことも、
まして、母親の生まれ変わりだなんてこと、知っているはずないもの・・・・・・
・・・・・・でも――――}
それでも、と少女は思う。
このクリスタルレイクキャンプ場は、ジェイソンとパメラ、二人だけの秘密の場所だった。
他の何者も、そこに踏み入れさせたくなかった。
それこそ、自分たち以外のすべてを殺してでも守りたかった、母と子の楽園。
そんな場所に、血族とは言え、別の誰かと一緒に暮らそうと思うだろうか。
たとえそれが子供であり、自分の孫であったとしても。
ならばジェイソンは、無意識の内にでも、ステファニーを母親だと気付いているのではないか。
「ねぇ、ジェイソン・・・・・・」
「・・・・・・(・・・・・・)」
「ジェイソン?」
「・・・・・・(・・・スー・・・スー・・・)」
「・・・寝ちゃったのか。」
ジェイソンが寝ていたことに、ステフは少しほっとしていた。
{ジェイソンが無意識に、私がパメラだと気付いてるかなんて確かめようがないし。
それに、それは考えてみればどうでもいいことかもね。
――――私自身が、自分のことをどうしていくかに比べたら。}
ステフは、ジェイソンの寝顔を見守っていた。
寝顔といっても、それはトレードマークのアイスホッケーマスクを通してだったが、
非常に安らかに眠っているようだった。
「今日は悪夢にうなされて、よく眠れなかったものね。」
だが、ステフはふとあることに気付く。
{・・・・・・違う。最近はずっと、よく眠れてないみたいだった。
恐らく、この前フレディが来た頃から・・・・・・}
あの姑息な殺人鬼のことだ。
ただで帰っていくとは思えない。
何か、ジェイソンをどんどん弱らせていくような小細工をしたのかもしれない。
{・・・・・・まんまと奴の策に嵌ったんだとしたら、
ジェイソンは、きっとフレディに勝てないわ。
小細工なんかされなくたって、きっと力は五分五分なんだもの。
一対一じゃ、勝てない。
だとしたら、あとは――――私が戦うしかない。}
普通に考えれば、そして以前のステフであればそれは無謀な考えだっただろう。
だが、今のステフにはパメラの記憶――――強く冷酷な殺人鬼だった時の記憶がある。
フレディと互角に戦うことはできなくとも、ジェイソンの助けになることはできるだろう。
しかし――――
{――――それは、この世でまた手を血に染めるということ。
また、汚らわしい殺人鬼になるということだわ。
それに――――ジェイソンにも言わなくちゃいけない。
私が――――殺人鬼だったって。}
もし本当に危機に陥り、相手を倒すことに躊躇を覚えれば、結局その先に死が待つのみである。
また、たとえジェイソンに過去を打ち明けたとしても、
同じ殺人鬼である彼なら、恐らくその過去を受け止めるだろう。
それでも―――――
{・・・・・・怖い・・・・・・すごく、怖い・・・・・・}
少女は恐ろしかった。
自分が自分でない存在になり、もう戻れなくなってしまうことが。
ただ普通の少女だと思っていた孫が殺人鬼だと知った時、
ジェイソンの目に自分がどう映るのか。
{私・・・・・・どうしたら・・・・・・ッ!}
「・・・・・・。(・・・ステフ。)」
「えッ?」
突然寝ていたと思った相手に呼びかけられ、ステフは驚いた。
だが、ジェイソンにはっきり起きている様子はない。
どうやら寝言のようだった。
「もう、おどかさないでよ・・・・・・」
「・・・・・・。(・・・ステフ・・・・・・っと・・・)」
「ん・・・・・・?」
「・・・・・・。(・・・ずっと・・・一緒に・・・)」
「・・・・・・」
どうということのない寝言。消え入りそうな言葉。
しかしそれを聞いたとき、少女から迷いは消えていた。
{そうね、ジェイソン・・・・・・
ずっと一緒に、ここにいましょう・・・・・・}
世に言う正常な人間たちから見れば、
そこは血塗られた歴史を持つ、死のキャンプ場。
そこに巣食うのは、狂気に満ちた殺人鬼。
だがそこは紛れも無く、彼ら二人だけの楽園。
たった、二人きりの家族。
{私は、ジェイソンとこの場所を守りたい・・・・・・}
覚悟は、決まった。
気分が晴れたので空を仰ぐと、そこにもまた雲ひとつ無い快晴が広がっていた。
「ホントにいい天気ね。
私もこのまま寝ちゃおうかしら。」
そしてそのまま草むらに寝そべる。
風も、日差しも、草の匂いも、何もかもが穏やかだった。
「きっと気持ちよく寝られるわよね。
13日の金曜日も終わったんだし・・・・・・」
そう言うと、ステフは目を閉じた。
すぐに、規則正しい寝息を立て始める。
草むらにいるのは、二人の殺人鬼だけ。
穏やかに流れるその時間は、確かに、彼ら二人だけのものだった。
その先に待つ運命を、彼らはまだ知らない―――――