第弐話 晴天、出掛けた後

例の一件を経て、トリステイン学院で教鞭を振るうほとんどの教師が初号機の破壊、もしくは破棄を学院の最高責任者であるオスマンに提案した。
しかし、オスマンは頑なにそれを拒否した。
教師達の連名がなされた嘆願書をもってしても、オスマンは首を縦に振らなかったのである。
それどころか、オスマンは高名なメイジに依頼し、初号機に【固定化】の魔法を施したのだ。
【固定化】の魔法は、物質の酸化や腐敗を防ぐ。これをかけられた物質は、あらゆる化学反応から保護され、そのままの姿を永遠に保ち続けるのだ。
つまり、ヴェストリの広場で野ざらし状態の初号機に腐食の心配は無くなったということだ。
教師達は、オスマンの奇行に様々な苦言を呈したが、彼はそれを全く気にはしていない様子だった。
その理由を知るのは、今の所、コルベールだけである。
伝説に語られる【アダムより生まれしエヴァ】と【ガンダールヴ】が時を同じくして突如出現した。
これは何かの前触れに間違いない。
コルベールにもそれくらいの事はわかっていたのだが、オスマンはそれよりも更に真実に近い場所にいたのだった…。



その晩、ルイズの提案により二人でトランプに興じていたシンジは彼女に一つの要求を口にした。

「あの、今度の休日にお暇を頂けませんか…?」

シンジからお願い事をされるのは初めてだ。なので、ルイズは以外そうに鳶色の瞳をぱちぱちさせながら聞いた。

「は?なんで?」

「城下街に出掛けたいんです。一度も行ったことがないって言ったら、シエスタさんが案内するって誘ってくれて」

シンジの口から女性の名前がでたことに、ルイズが敏感に反応した。

「シエスタ?」

「あ、トリステイン学院のメイドさんです。いつも、色々良くしてくれてて…」

「つまり、デートなわけ?」

「なっ…!違いますよ!ただ、街に行ってみたくて。僕、トリステイン学院しか、この世界のこと知らないし…、案内してくれるって言ったから…」

顔を真っ赤にしながら否定するシンジを見て、ちょっと可愛いかも、と思うルイズがいた。
もっと、からかってやろうか、という意地の悪い考えも浮かんだのだが、ある事に気付いたルイズはハイチェストの引き出しを開くと中身のつまった革袋を取り出し、それをシンジに差し出した。

「なんですか、これ?」

「お小遣いよ。あんた、お金、持ってないでしょ?せっかく街に行くんだから買い物くらいしてきなさい」

ルイズの厚意に気付いたシンジははにかみながら、革袋を受け取った。

「ありがとうこざいます」

「そのお金でシエスタって娘に、御飯くらいは奢りなさいよ。まだまだ子供でも、男たるものいつでも紳士じゃなきゃね」

「はい」

「あと、あんまり、遅くならないようにね」

「はい」

そんなやり取りが繰り広げられた後、再びトランプが続行された。
しかし、シンジは呆けた顔のままルイズを見つめ、ゲームには集中してないようだった。

「さっきから、なに見てんの?言っとくけど、私のポーカーフェイスは完璧なんだから、まるっきり意味ないわよ」

「いえ…。なんか、ルイズさんて、お姉さんみたいだなって思って…」

今度はルイズが赤面する番だった。

「なにを言うのよ…」



お出掛けの当日、シエスタという少女のことが気になったルイズは、見送りとかこつけて、待ち合わせ場所であるトリステイン学院の正門まで、シンジについて行くことにした。
二人が待ち合わせの場所に近づくと、正門に連(つら)なる壁に軽く寄り掛かっていた少女がシンジの姿に気付き、微笑みを浮かべながら小さく手を振った。
ルイズにも見覚えのある顔だった。アルヴィースの食堂で配膳をしている姿をたまに見掛ける。
この少女がシエスタなのだろう。

「おはようございます、ミス・ヴァリエール」

シエスタは約束のあるシンジではなく、ルイズの方に向かって、丁寧なお辞儀をしながら挨拶の言葉を口にした。
つまり、友好関係よりも礼儀を優先したわけだ。
国内で最も由緒正しい学院に使用人として雇われているだけのことはある。そういう事柄はちゃんとわきまえているようだった。
ルイズはというと、軽く頷いただけだった。端(はた)から見れば、実に不遜な態度なわけだが、貴族なんて人種は大概がそんな感じだ。シエスタもシンジもそれをよく理解していた。
しかし、ルイズが横柄ともとれる態度をとったことには別の理由があった。
彼女は軽いショックを受けていたのである。シエスタの美しい容姿と立派なプロポーションに。

――なによ、可愛いじゃない…。

シエスタは平民だ。その為、ルイズとは違い、どこか素朴さを感じさせる風貌だった。
カチューシャで纏めた黒髪と、頬にうっすら浮かんだそばかすが、彼女の穏やかな顔立ちによく似合っていた。
歳はルイズと同じくらいであろう。

「本日は申し訳ございません。ミス・ヴァリエールの使い魔をお借りするかたちになってしまい…」

「いいのよ、気にしないで。私もこの子には、色々とトリステインの事を教えてあげないといけないって思ってたから、ちょうど良いくらいだわ。今日はシンジの事、よろしくね」

「はい」

シエスタは屈託のない笑顔で返事をした後、シンジに顔を向けた。

「それじゃ、シンジくん。行きましょうか」

「はい」

シンジも屈託のない笑顔で答えた。
この二人、実にお似合いなのではなかろうか。ルイズはそんなことを考えた。

「ミス・ヴァリエール、失礼致します」

シエスタはそう言って、ルイズに会釈した。そして、正門前に待機させていた馬の綱を外し、その背に乗せてある鞍にひらりと跨がった。

「シンジくん、私の後ろに乗って」

シエスタに促されたシンジは悪戦苦闘しながらも、なんとか、シエスタの背後に跨がった。

「行ってきます、ルイズさん」

シンジの言葉を受け、ルイズは面倒くさそうにひらひらと手をふった。
馬が走り始め、シンジとシエスタの姿がどんどん小さくなっていく。
二人の姿が視界から消えた後、ルイズは寄り道をすることなく真っすぐ自分の寝室へと戻り、天蓋付きの豪華なベッドに寝転んだ。
考えれば、最近、シンジが教室に来ることはほとんどない。だからといって、ルイズが授業を受けている間、シンジがどこで何をしているのか、なんてことは気にしたこともなかった。
シンジはルイズの知らないうちに、この新しい世界で着々と人脈を広げ、いつの間にか彼なりの生活サイクルを作り上げていたのだった。
召喚したての頃は、ルイズがどこに行くにしても、さながら子犬の様によちよちと彼女の後についてまわったシンジ。
しかし、今の彼は違う。
ルイズは小さくため息をつくと、枕に顔をうずめながら呟いた。

「一ヶ月か…。『姉』離れも結構早かったわね…」

一抹の淋しさを感じたルイズはなんとなしにシンジと出会ってから間もない日々に思いを馳せた。
窓の外には、腹ただしいくらいの晴天の空が広がっている。

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困ったことが起きてしまった。
使徒に囚われ、いつの間にか気を失って、目が覚めたら、そこはファンタジーだった…。
この世界は少なくとも地球ではない。
じゃあ、どこなんだと聞かれても、シンジには答えようがないのだが。
取りあえず、この世界が【ハルゲキニア】と称されるということは、ルイズから聞いた。しかし、名前がわかったからといって、目の前の非現実世界が終わるわけもなかった。いや、むしろ、留まることを知らずに加速していったのだ。
トリステイン学院の廊下を足早に歩くルイズに置いていかれない様、シンジはその後を追っていた。
ふと、シンジの視界に非現実的な光景が映った。今日だけで何度目だろうか。
また、ルイズにお決まりのセリフを浴びせられるだろう。それは良くわかっている。しかし、聞かずにはいられなかった。

「ルイズさん、月が二つありますよ…?」

シンジの前を歩いてたルイズが足を止めた。
振り返った彼女は、呆れた様な眼差しをシンジに向ける。

「あんた、ばかぁ?あったり前じゃないの」

ほら、きた。また、この台詞だ。
もう20回は聞いている。
どうやら、この人は他人の事情を理解しようとする努力をはなっから放棄しているようだった。シンジは少しだけうんざりした。

「ぼくの世界では一つしかありませんでした」

「よっぽど辺鄙な所に住んでたのね」

無茶苦茶な言い草である。しかし、シンジは反論しなかった。

「ルイズさん、月って重なるんですね」

「ほんとにばかね。月食よ。神々の月は一日に一度だけ、人々の月の後ろに隠れるのよ。三時間も経てば、また輝きだすわ」

「神々の月?」

「今、月食を起こした明るい月が【神々の月】。薄暗い方は【人々の月】って呼ぶの。ま、単純に【白き月】、【黒き月】って呼ぶ地方や国もあるみたいだけどね」

シンジは何を言えば良いのか分からず、はぁ、とだけ気のない返事をした。

「あんたね、こんなことは子供でも知ってるわよ。情けなくないの?」

「はぁ」

ルイズはそんなシンジの様子を見て、ふぅっ、と露骨にため息をついた。

「ま、いいわ。今夜にでも、色々、トリステインの事をレクチャーしてあげるから」

「ありがとうございます」

と答えながらも、シンジはその言葉を全く信用していなかった。
なぜならば、このルイズという少女、例えるなら、人が座りかけた椅子を平気で引き抜く、そういう類の人だからだ。
それをシンジに痛感させたのは、朝食時の出来事だった。
トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内で一番背の高い真ん中の本塔にあった。
食堂の中にはやたらと長いテーブルが三つ並んでいる。百人は優に座れるだろう。
二年生であるルイズ達のテーブルは真ん中だった。

「【アルヴィースの食堂】っていうのよ。本当はあんたみたいな平民は一生入れないんだから。感謝なさい」

「アルヴィースってなんですか?」

「小人の名前よ。周りに小人の像がたくさん並んでいるでしょう」

確かに、壁際には精巧な小人の彫像が並んでいる。

「よくできてますね。今にも、動き出しそうだ」

口にしてから、お世辞が過ぎたかな、とシンジは思った。
しかし、真実は彼を残酷なまでに裏切ったのだ。

「よく分かったわね」

「う、動くんですか…?」

「動くというか踊るわよ。ま、いいわ。そんなことより、椅子を引きなさいよ。気の利かない使い魔ね」

シンジは慌てて椅子を引いた。
ルイズは礼も言わずに腰掛ける。
シンジもルイズの隣の椅子を引き出して、腰掛けた。

「豪華な料理ですね」

そう言って、シンジが唾を飲む。そういえば、ハルゲキニアに来てからというもの何も口にしていなかった。
大きい鳥のロースト、鱒の形をしたパイ、今にも皿から溢れ出しそうな色とりどりのサラダ。

「まだ、食べちゃ駄目なんですよね?」

そう言いながら、ルイズに顔を向けると、彼女は険悪な表情をしていた。

「あ、あの。ぼく、何かまずいことしましたか…?」

ルイズは何も言わずに床を指差した。
そこには一枚の皿が置かれている。

「お皿が置いてありますね」

「あるわね」

「まさか…」

ルイズは頬杖をついて言った。

「あのね?ほんとは使い魔は外。食堂はペット禁止だもの。つまり、あんたは私の特別な計らいで床。わかるわよね?」

皿には、申し訳程度に具の入ったスープが揺れている。
皿の横にはいかにも硬そうなパンが放置されていた。
背に腹は変えられない。シンジは床に座り込むと、それを美味しく頂いた。
心底、切なかった。

その後に向かった魔法学院の教室は大学の講義室のようだった。
その為、椅子は大分余っているようだ。それでも、シンジは床に座らされた。
ルイズいわく。

「癖になるからダメ」

だそうだ。
授業が始まり、シンジが全く理解出来ない言葉の羅列が教師によって語られた。【基礎錬金学】なんて授業はシンジの世界には無かったのだから、分からないのも仕方ない。
どうやら、ハルゲキニアの【魔法】は地球で言うなら【科学】に相当し、文明の源でもあるようだ。
魔法には四大系統というものがあり、『火』『水』『土』『風』と区別されている。『虚無』という系統も古代にはあったようだが、今では失われているみたいだ。
話の流れで、ルイズが錬金魔法の実験をおこうなうことになったしかし、周りの生徒はルイズが実験する事にたいして口々に反対意見を述べた。
シンジには、その理由が分からないが、皆、必死である。

「ルイズ、やめて」

キュルケの褐色の肌が蒼白していた。
しかし、ルイズは立ち上がり、シュヴルーズと呼ばれる教師に言った。

「やります」

ルイズを中心に盛大な爆発が起きたのは、その一分後だ。
爆風をもろに受けた教師が黒板に叩き付けられ昏倒した。

「だから、言ったのよ!あいつみたいな、出来損ないにやらせるなって!」
「ヴァリエールを退学にしてくれ!」
「ほんと、駄目な奴だよな!」

教師は倒れたまま動かない。たまに痙攣してるから、死んではいないようだ。

「ちょっと、失敗したみたいね」

ルイズは顔についた煤を、取り出したハンカチで拭きながら、淡々とした声で言った。
当然、他の生徒たちから猛然と反撃を喰らう。

「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」
「成功したことないじゃない!だから、貴方はゼロなのよ!」

シンジはルイズの通り名が『ゼロのルイズ』であることをよく理解した。

ルイズは、爆発によって乱れに乱れた講堂の掃除を命じられた。シンジは彼女の使い魔なので、そのあおりをくらい供に掃除をする羽目になったのだが、かといって、文句を言う気にもなれなかった。
ルイズがひどく落ち込んでいた為である。

「ルイズさん…?」

「なによ?」

「あの、ぼくの世界の言葉なんですけど、よく『失敗は成功の元』って言います。それに『大器晩成』って言葉もあります。ルイズさんはきっとそういう人なんだと思います」

彼なりの精一杯の励ましだった。

「ありがと…。あんた、意外といい奴なのね」

昼食がほんのちょっぴり豪華になっていた。
だからといって、シンジが、その食欲を充足できるほどの量ではなかった。もちろん、彼が大食いというわけではない。
シンジは14歳の育ち盛りなのである。その為、今、彼の体はたくさんの栄養を欲していた。

「全然、足りないや…」

食堂を出て、教室に向かったルイズと別れた後、シンジは自分のお腹を抱えながら、廊下の壁に手をついた。

「どうなさいました?」

振り向くと、大きい銀のトレイを持つメイドの恰好をした素朴な感じの少女が心配そうにシンジを見つめている。

「あ、いや、なんでもないんです。ちょっとお腹が空いただけで…」

彼女は壁をついたシンジの左手に刻まれたルーンに気付いた。

「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう…」

「知ってるんですか、ぼくのこと?」

「ええ、なんでも、召喚の魔法で平民を喚んでしまったって、噂になってますわ」

シエスタはにっこりと笑った後、言葉を続けた。

「昼食が足りなかったんですね?えっと…、そう言えばお名前は?」

「碇です。碇シンジっていいます」

「変わったお名前なんですね…。でも、とても美しい響きですわ。私はシエスタと申します」

「…あの、ぼくなんかに敬語使わなくていいですよ。ぼくの方が年下でしょうし…」

シエスタは、しばし逡巡した後、屈託のない笑顔で口を開いた。

「わかったわ、シンジくん。じゃ、お姉さんがご飯を御馳走してあげるから付いて来て」

言われるがままのシンジが連れて行かれたのは食堂裏にある厨房だった。

「貴族の方々にお出しする料理の余りもので作ったシチューよ、良かったら食べてくれるかな?捨てるのもったいないしね」

「いいんですか?」

「もちろん」

シエスタの優しさにホロリとした。あの人がよこしたスープとは大違いだ。シンジはスプーンで一口分だけすくい口に運んだ。

「美味しいです」

「よかった。お代わりもあるから、ゆっくり食べてね」

シンジは夢中になってシチューを食べた。シエスタは、ニコニコしながらそんなシンジの様子を見つめている。

「シンジくんは、いくつなの?」

「14です」

「じゃあ、ちょうど育ち盛りね。いっぱい食べてね」

その10分後、シンジは空になった六杯目の皿をシエスタに手渡しながら言った。

「おいしかったです。本当にありがとうございました」

「よかった。お腹が空いたらいつでも来てね。同じ様なものだったら、いつでもだせるから」

シンジはシエスタに再びお礼を言うと食堂を後にした。

食欲が満たされたシンジは、ルイズの言葉を思い出した。

『私が帰ってくるまでに部屋の掃除と洗濯を済ませとくのよ』

指示通りに部屋の掃除を始めた。
床を箒で掃き、机や窓を雑巾で磨くのである。
それが終わると洗濯だ。水汲み場の位置が分からなかったので、厨房に戻り、シエスタに聞いた。
彼女は懇切丁寧に説明してくれた。この人がご主人様だったら、と思わずにはいられなかった。
ルイズの下着は高そうなレースやフリルがたくさんついているので、洗濯板で丁寧に洗わなければならなかった。おまけに水は冷たく、指が切れてしまいそうになる。
これが、意外に辛い作業だったので、シンジは改めて【科学】の偉大さを実感した。

「魔法で洗濯機は作れないのかな…。掃除機も欲しいや」

シンジはぼんやりと呟いた。
洗濯物を持って部屋に戻ると、すでに授業を終えいたらしいルイズがいた。学院を案内してくれると言うので、素直に付いていった。
何か質問するたびに、ばかにされた。
取りあえず、地球とハルゲキニアの常識が全く異なるということだけは理解した。
一通りの案内が終わり、夕食を済ませ、部屋に戻るとルイズの一存で寝ることになった。【この世界についてレクチャーする】との約束は、シンジの予想通り履行されることがなかったわけだ。そして、これまたシンジの予想通り彼は床で寝ることになった。
ルイズがぱちんと指を鳴らすと部屋の照明が消えた。
この世界に召喚されてから丸二日経った後、シンジは深い眠りから目覚めた。それが昨夕のことである。
気絶している間に使い魔にされていた。左手の甲には、その証であるルーンが刻まれている。
窓の外には月が二つ怪しく光っていた。

「やっぱりおかしいよ、この世界…」

シンジはぼやかずにいられなかった。

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ベッドの上で回想に耽っていた間に、つい寝てしまっていたようだ。寝ぼけ眼(まなこ)に、夕日が差し込む。何もしないまま半日が過ぎてしまったのだ。
トリステインでは、休日の事を【虚無の日】と呼ぶ。

「文字通りの虚無の日ね…」

ルイズが呟くと、意外な声がルイズの耳に届いた。

「あ、起きたんですね」

声の発信元に顔を向けると、床に散らばる優に三百は越えるであろう数の青く輝く石を研磨布で磨くシンジの姿があった。

「シンジ…。あんた、帰ってたの?」

「ええ、一時間くらい前には。ルイズさん、気持ち良さそうに寝てたから、起こさない方がいいかなって思って」

「何よ、随分早かったじゃない」

シンジが眉をひそめる。

「遅くなる前に帰れって、言ったのはルイズさんじゃないですか…」

理由は分からないが、シンジの言葉が無性に嬉しくて、ルイズは優しい微笑みを浮かべた。

「そうだったわね…」




晴  第弐話

、出掛けた後


終わり


フーケ、
    侵
第参話 入


ヘ続く
最終更新:2007年09月28日 21:47
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