脆い心に痛みのキスを【占】

あの夜。
ワルドから、あの少年が伝説に語られしガンダールヴであることを告げられた。
そして、彼が言うには、いつの日か私は歴史に名を残すような偉大なメイジになるそうだ。
馬鹿馬鹿しい御伽噺にしか聞こえなかった。自分の身の程は、自分が一番良く知っている。あの少年の馬鹿さ加減も良く知っている。
私達が伝説の生まれ変わりを演じられる理由など、どこを探しても見つかりはしない。
私がメイジとして大成することはないだろう。
人並みに扱えるようになれれば、それで十分だ。

そう言えば、そんな風に思えるようになったのは、いつの日からだろう。

考え込む私に向かって、彼は求婚した。
ふと、あの少年の笑顔が頭に浮かぶ。
目の前にいるこの男と結婚しても、私はあの少年を使い魔としてそばに置いておくのだろうか。
なぜか、それはできないような気がした。これが鴉や、梟だったら、こんなに悩まずにすんだのかもしれない。
もし、私があの少年を見放したら、あの子はどうなるんだろう。
キュルケか、それとも少年に施しを与えるシエスタとか……、誰かが世話を焼くに違いない。

そんなの嫌だ。

あの少年は、馬鹿で間抜けだけれど、他の誰のものでもない。
私の使い魔なのだ。
彼の笑顔も、彼の涙も、彼の優しさも、彼の心も、彼の体も、全て私のもの。
彼は私の使い魔なのだから、彼の全ては私のもの。

私はプロポーズの答えを保留した。
この男は、優しくて、凛々しくて、ずっと憧れていた。
求婚されて、嬉しくないわけじゃない。
でも、あの少年が心に引っかかる。
引っかかったそれが、私の心を前に歩かせないのだ……。
最終更新:2007年09月28日 21:50
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