30-723「勘違いスパイラル」

『勘違いスパイラル』
 
――――土曜日――――
「午前中涼宮さんと何があったんですか?閉鎖空間が発生して大変だったんですよ」
「別に何もしていない。偶然佐々木と出くわしたから、普通に話しただけだ」
 
あなたには普通な事でも、涼宮さんにとっては重要なんですよ。ちゃんとフォローして下さいね。
 
 
――――日曜日――――
「どうやら上手くやって頂けたようですね」
『何の事だ』
「涼宮さんです。昨晩、能力の消失を確認しました。あなたのおかげです」
「俺がハルヒに?特に何もした覚えは無いぞ」
 
あなたには普通な事でも、涼宮さんにとっては重要なんですよ。
おっと、この台詞昨日と同じですね。意味は正反対なのに、おかしな事です。
 
 
――――月曜日――――
今日は珍しく涼宮さんが荒れていました。なんでも授業で問題を間違えられたとか。
悔しさ発奮の一環なのか、いつも以上に豪快に彼を引きずって部室にやってくる彼女の様は
勇壮と言うべき他はありませんでした。
なのに閉鎖空間が発生しないのは、彼が選択してくれた結果ですね。心から感謝申し上げます。
 
 
――――火曜日――――
ある一人の研究者が、あらゆる植物の細胞から安価にバイオエタノールを精製する技術を
全世界のネットワークに無償で流したというニュースが駆け巡りました。
『私個人の利益より、石油利権を巡って起こる紛争を少しでも緩和する事を優先した』
とのこと。世の中には立派な人が居るものです。
 
 
――――水曜日――――
昨日のノーベル賞級の業績を無償配布した研究者に触発されたと、
二酸化炭素固定率が従来の2倍もある藻類及び砂漠でのみ成育する植物の研究結果が公表されました。
どちらもまだ基礎研究の段階ですが、研究の裾野を広げ、3つの流れが合流すれば
現行の温暖化問題の多くは解決する可能性があるらしいです。
何処かの誰かが、最後に彼との幸せな未来を望んだからでしょうか?なんてね。
 
 
――――木曜日――――
穏やかな一日でした。こんな日が続けば、機関が解散するのもそう遠くないだろう。
そう思わせるくらいの。
 
 
――――金曜日――――
まだ彼が部室に姿を見せていません。なんとなく涼宮さんも不安定です、能力は消えたぜなのに。
そんな中、不意に僕の携帯が鳴り響きました。彼からです。
 
『いつものように、バイトが入ったって抜け出してくれ』
 
何が起こっているのでしょう、悪い事でなければよいのですが。
 
「すみません涼宮さん、急にバイトが入ったのでこれで失礼させて頂きます」
 
不承不承ながらも了解を貰い、彼との通話を再開。
 
『これからハルヒに閉鎖空間を発生させるが、神人とは闘わないで成り行きを見守ってくれ』
「な!?それはどういう意味ですか!涼宮さんの能力は無くなったはずでは……!!」
 
返事の代わりに入ったのは、機関からの最大級の閉鎖空間発生という一報でした。
 
 
「これは……」
 
現場に到着してすぐ、見える範囲で十数体の神人が暴れているのが目に入る。
浮上して高い所から見渡せば、更にその数倍の数の神人が居るのは想像に難くない。
なるほど、確かにこれではお手上げです。機関の超能力者総動員してもとても追い付かない。
 
「よう、古泉」
「貴方がなぜ此処に……いやなぜこんな事を!!」
「まあ落ち着け、直に始まる。ほれ」
 
彼が指差した先の一点に光が集まり、神人の2倍ほどもある巨大なオレンジ色の人影が現れた!?
あれは……
 
「茜色の巨人。佐々木の神人だ」
 
「あれが神人――佐々木さんの……なぜ――」
 
「先週の土曜の夜か、佐々木と一緒に勉強したんだ。2年くらい前から約束してた事だったし。
んで、多分その時に佐々木に完全に能力が移ったんだと思う。
尤も、何日かは力を試したが大部分をまたハルヒに戻しちまったらしいがな」
 
という事はまさか。
 
「だがさすがに佐々木だ、世界が壊されたりしないようにちゃんと手は打ってたようだ。見ろ」
 
彼の視線の先では、巨人同士の凄まじい戦闘が展開されていた。
茜色の巨人の周りには数十の青い巨人がこれを引き倒そうと群がり、茜色の巨人に薙ぎ払われる。
ちょっとどころではないスペクタクルだ。
体格差から次第に涼宮さんの青い神人が数を減らしていき、ついに最後の一体が消滅した。
それを見届けると、茜色の神人も勝利の雄叫び?と共に光となって天へと還り、
全ての神人が消えた閉鎖空間は崩壊し、僕と彼もまた現実空間に復帰した。
 
「なかなか凄いのを見たな。さて、今後ハルヒの癇癪で世界崩壊する心配は無くなった訳だ。
お前達もよかったな、もう体張る必要も無くなる。
今まで見えないとこで命懸けの仕事してくれてた人達にもよろしく言っといてくれ。じゃあな」
「え、はい、了解しました。伝えておきます」
 
ああ僕は、どうやらとんでもない勘違いをしていたようです。
 
 
……ところで、神の力を移した彼の言う処の『勉強』とはどのようなものだったのでしょう?
また涼宮さんを世界を崩壊させかける程に怒らせた方法も気になります。
ええ、現実逃避なのは解ってます。でも気になるのは仕方ないでしょう?
ですが今度は勝手な推測は止めておきます。もう勘違いはしたくありませんから。
 
 
(終わり)

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最終更新:2008年03月08日 22:08
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