34-258「かんけり」

『かんけり』

 橙色。夕日が空き缶に反射した。青々とした土の匂い。風が一人の少年の傍らを突き抜けるように、その髪を吹き上げた。
 風に吹かれた前髪を右手で押さえた彼は、何かを決意するように地面に無造作に置いてある空き缶を踏みしめると、傍らにいる少年の方を見た。その少年は穏やかな微笑を浮かべたまま、降伏するように無言で両手を挙げた。彼はその姿を見てため息を付いた。
「なんで俺はこの年にもなってかんけりなんてやっているんだ?」
「さぁ。それは僕に訊かれても困りますね。その答えを尋ねたければ言いだしっぺである彼女を捕まえてあげてください」
 その少年は悪戯っぽく唇の端を引き上げた。
 彼は頭の後ろを掻くと、「あー、もう」と口を尖らせて吐き捨てるように呟いた。
「僕があなたの隙を見つけたとしても彼女たちの手引きをすることはないので、安心して彼女たちを探しに行ってあげてください。僕はあくまで中立の立場にいますから」
「んなこたぁ言われなくてもわかっている。いつでもお前はそういう立場だからな、古泉」
 彼は古泉と呼ばれた少年に対して、半分あきらめのこもった口調で、頬を膨らませながらぼやくように呟いた。そんな彼の視線を軽く受け流し、古泉は空を見上げると、口笛を吹くようにどこへともなく言葉をふわっと浮かべた。
「夕焼け、ですね。これがちょうど最後のゲームになるでしょうか」
「結局、俺が鬼のままで終わるんだな。まぁ、いい加減お前らと付き合うと俺がそういう役回りに当たることには慣れた」
 彼は古泉の視線を追いかけるように空を見上げて、じきに視線を戻すと、とぼとぼとした足取りで歩き始めた。そんな彼の背中に追いすがるように古泉が冗談を言うように言葉を掛けた。
「ちゃんと彼女たちを見つけてあげてくださいね」
「かんけりはそういう遊びじゃないだろ」
 彼は古泉を振り返ることなく、否定するように軽く右手をひらひらと振ってみせた。

 *

 六月。その日は梅雨が明けてから初めての快晴だった。湿気を帯びた空気が熱い湯に浸したタオルのように彼らの体にまとわりつき、夏がすぐ近くまで来ていることを告げていた。
「なんだって、この蒸し暑い中俺はかんけりの鬼なんてやっているだろうな」
 彼は公園の脇にある林に向かって歩きながらそうぼやいた。西日が彼の影を大きく地面に映し出していた。
 彼らがかんけりをしているのはこの辺りでは結構有名な大きな公園だった。大きな芝生広場があって、その周りを取り囲むように木が生えている。見晴らしのいい芝生広場の周りで人が隠れられそうな場所はそこくらいしかなかった。そういう意味ではこの場所はかんけりの鬼には有利だったのだが、いかんせん一人の鬼に対しては場所が広すぎた。この中から隠れているプレーヤーを見つけ出すのは難しい。勝負はいかにしてうまく隙を作り、プレーヤーを飛び出させて捕まえるかだった。
 彼が最初に古泉を捕まえられたのは幸運だった。というよりも、古泉のほうからわざと捕まりに来たとしか思えない、無謀な特攻だった。鬼があまり缶からほんの数メートル離れているだけの状況で、この見晴らしのいい芝生広場に走りこんできたのだった。捕まった後の彼の態度から察するに、おそらく本気でこの遊びに参加するつもりはなかったのだろう。
 彼はときおり芝生広場を振り返りながら、現在の状況を考えた。
 現在、古泉以外に生き残っているプレーヤーは四人。一番厄介なのは長門。間違いなく彼女が本気で缶を蹴りに来たら自分には止められない。しかし、現時点でもまだゲームが続いているということは、少なくとも長門も古泉みたいにこの遊びに真面目に参加する気がないのだろうか。
 朝比奈さんは……あの人はルールを説明してもいまいち分かっていない様子だった。未来にはかんけりなんていうものはないのだろうか。彼女の性格上、攻撃的に自分から仕掛けてくることはないだろう。おそらく、最後の一人になった時点で慌てて飛び出してくるとかそんな顛末になるはずだ。
 となると――
 そこまで考えた彼の頭の中に二人の少女の顔が浮かんだ。
 一人はショートカットで黄色いリボンの付いたカチューシャが印象的な女の子。彼の頭の中で、彼女が勝気そうな目で両腕を組んで彼を見下ろしている情景が浮かんだ。彼は苦笑いするように顔をしかめると、こめかみを親指で押した。
 ――ハルヒの奴はどうせやる気満々だろう。そもそも、今回かんけりをやろうと言い出したのはあいつだし。それに、なんかよくわからんがハルヒの奴が勝手に俺を鬼していたし。っちゅうかあいつはなんでいつも核融合している太陽みたいに元気なのかね。
 そう心の中で呟きながら、彼は夕日を見つめた。その夕日に得意げに笑う彼女の顔が重なった。日に日にと陽は長くなっていた。高校二年生の春に残された時間は――もう少なかった。
 そして、彼はもう一人の少女のことを考えた。
 佐々木――
 涼しげな目元と整った顔立ちが印象的な少女の顔が彼の脳裏に浮かんだ。彼の頭の中で、彼女はいろんな表情をした。悪戯っぽく笑った顔、穏やかに微笑んだ顔、目に涙を浮かべたままそれを決して零すまいとする顔、そしてあの日北海道の夜空の下で見せた顔。彼女と過ごした三年間の思い出がその表情の一つ一つに詰まっていた。
 彼女は、彼の恋人だった。
 ――あいつもなんだかんだ言って結構負けず嫌いだからな。
 普段冷静で何事にも動じないように見えるくせに、へんなところで律儀に頑固なところが彼は好きだった。いつからか彼女のことを好きだと言うのに何の抵抗も照れもなくなっていた。そうなったのはいつからだっただろうか。
 まだ誰も飛び出していない芝生広場の方を見て、彼は安心するように息をついた。それは純粋にこのゲームに勝とうとしていたのか、それともまだこのゲームが続くことに安堵したのか、彼にはよくわからなかった。

 *

 柔らかい砂利を踏みしめる音がして、朝比奈みくるは慌てて後ろを振り返った。
「こんなところに隠れていたんですか、朝比奈さん」
「あ、はい。そうです。あの、ここならなかなか見つからないかなって」
 びくっと背を強張らせて振り返った朝比奈だったが、そこにいた人物の顔を確認して、はにかむように笑った。傾き始めた陽が彼女の前髪を透けていた。
「けど、ここからだと鬼の動きが見えないんじゃないですか?」
 朝比奈の前に立つ少女が不思議そうに尋ねた。その言葉に朝比奈は目を丸くした。
「え、けど、鬼に見つかったらだめじゃないですか」
 きょとんとした表情で問い返す朝比奈を見つめて、少女は少し困ったように首を傾げた。
「そういうのも戦略の一つとしては有効なのかな?」
 そう言って一人で納得して、彼女は朝比奈の隣に腰を下ろした。朝比奈は慌てて体をずらして彼女のために場所を空けた。
「いい天気、ですね」
「そうですね」
 彼女は朝比奈の隣で体育座りをしながら、空を見上げて、ぼんやりと呟いた。ぼんやりと消えていくその言葉を追いかけるように、朝比奈も相槌を打った。
 彼女たちは公園の奥まった場所にある、小さな崖の下にいた。そこは鬼からも距離が離れていて、なおかつ高低差があるために見つかりにくい場所であったが、それと同時に鬼の動きを把握しにくい場所でもあった。
 これじゃまるでかくれんぼじゃないか、彼女は心の中でそう呟いて笑った。かんけりのルールを知らない、いやむしろそんな言葉は初めて聞いたとでもいうような一つ年上の先輩の表情を思い出していた。
「楽しかったですか?」
「え?」
 唐突に朝比奈が佐々木に声を掛けた。考え事をしていた佐々木はその意味がわからず問い返した。
「楽しかったですか、この間の修学旅行?」
「え、あぁ、うん」
「それはよかったです」
 唐突に振られた話題についていけない少女の前で、朝比奈は木漏れ日のように笑った。心の底から安心したような、穏やかで柔らかい声だった。
「わたしも修学旅行に行ったのはちょうど一年前くらいになるんですけど。でもあの楽しくなかったとか、そんなことは全然なかったんですけど、クラスのお友達もいますから。けど、わたしも涼宮さんやキョンくんやSOS団のみんなと一緒に修学旅行に行けたらきっと楽しかったのにな、って思っちゃうんです」
 佐々木は目の前にいる先輩の唐突な告白に短く喉の奥で笑い声を上げた。それから何かを思い出すように、彼女らを照らす夕日のほうへ視線を上げた。
「相変わらず、どたばたしていましたけどね。けど――とても思い出深い修学旅行だったです」
 彼女は最後の一言を噛み締めるように、ゆっくりと目を閉じながら言った。
「やっぱり涼宮さんがいるとどたばたしちゃうんですね」
「いや、あの時はむしろ私のせいって感じでしたね」
 その言葉に少し驚いた朝比奈の視線がくすぐったいのか、彼女は照れるように顔の前で右手を振った。
「こう見えて、結構わがままで子供っぽいんですよ、私」

 それから二人の間で不思議な間が空いた。だが居心地は悪くなかった。例えていうなら、ようやく目的地の頂上にたどり着いたような、そんな安堵感があった。
「こうやって佐々木さんとゆっくりお話しするのって初めてですよね。なんか、もっとずっと前から知り合っているような気がするのに、なんだか不思議です」
「そうですね。あまりこうして二人っきりでお話した経験はありませんでしたね」
「佐々木さんの傍にはいつもキョンくんがいたから」
 からかうような朝比奈の口調に思わず佐々木はそっぽを向いてしまった。
「照れる佐々木さんもかわいいですね」
「からかうのはやめてください」
 佐々木はそっぽを向いたまま、ぼそっとした声で不満を述べた。
「でも、こうしてあなたやキョンくんと出会えてよかったと思います。ほんとうに楽しかったです」
「――そうですね」
 佐々木は立ち上がって目の前の夕日を見つめた。どうしてこの赤い色はこんなにも目に染みるのだろうか、そんなことを思った。
「わたしが、わたしがあなたたちと一緒に過ごせる春ももうすぐ終わりなんですね」
 相変わらず座ったままの朝比奈が小さな声で呟いた。その小さな言葉は佐々木の体に染みこんでいった。深く深く染みこんでいった。
 佐々木は振り向いて少しだけ寂しそうに笑った。朝比奈は柔らかい微笑みを返した。

 *

 彼が芝生広場の周囲を冬眠から覚めた熊のようにのそのそと動き回っているのを、涼宮ハルヒは木の陰から見ていた。
 ちょうど円状に広がった芝生広場から見て、彼女の隠れている場所は佐々木と朝比奈のいた場所から左へ九十度ほどのところにある。
「マヌケ面」
 涼宮は木陰から彼の姿をうかがいながら、そう一言呟いた。それから木に背を預けて、足元の土を軽く蹴った。
 彼女にとってマヌケ面の鬼の目をかいくぐって缶を蹴るのはたやすいことだったが、なんとなくそれはやりたくなかった。
 涼宮はもう一度、木陰から首をひょっこりだして、彼の様子を見つめた。その視線の先にどこを向けばいいのかわからないように、あたりを不安げにキョロキョロと見回す彼の姿があった。彼女は彼のそんな姿を見つけると、慌てて何かから隠れるように木の陰に背を落とした。自分がなんでそんな風にこそこそしてしまったのかわからず、彼女は少しいらだたしげに唇を突き出した。
「ほんとマヌケ面」
 そして、またふっと同じ言葉を呟いた。それから彼女は足元を歩く蟻でも見つめるようにしばらく視線を落とした後、ゆっくりと立ち上がった。
 かんけりは続く。きっと、まだまだ続く。

 *

 古泉は腕を組んで、彼の後姿を見つめていた。赤く染まった夕日に目を細めた。柔らかい六月の風が吹いていてた。
 そのまま、古泉は目の前を歩く男について考えていた。
 不思議な男だ、といつも思う。どこまでわかっているのか、わかっていないのか。彼自身は全く気が付いていないかもしれないが、彼は涼宮ハルヒの能力を知った上で、彼女と普通に付き合っているたった一人の人間だ。神とも称される能力を前にして、それでもそれを当然のように受け入れられる――。よかったと思う。本当によかったと思う。彼女の思い通りにならない世界があって、彼女に真っ向から向かい合うことの出来る人がいて、彼女のありのままを受け入れられる人がいて、それら全てが彼女を暖かく見守ってくれて。
 古泉は腕を組んだまま吹き出すように笑って、目の前の空き缶をつま先で軽くつついた。空き缶の長い影がゆっくりと揺れた。

 *

 朝比奈は不安になっていた。さっきまで話していた佐々木はどこかへ歩いていってしまって、自分ひとりが取り残されていた。
 彼女はまだ鬼には見つかっていなかった。しかし、こうまで何もないと、自分が忘れ去られてしまったのではないかという不安に駆られた。
 ――ちょっとだけ、ちょっとだけ様子をのぞいてみよう。
 気弱な彼女はそう決意して、少し震える足取りで芝生広場を見渡せるように、坂道を登った。それから、四つんばいになって、屋根裏に侵入した泥棒のように地面を這うと、近くの木の陰に入った。そして立ち上がり、木陰からそっと辺りの様子を窺った。
「あ。朝比奈さん?」
 そこにあったのは見慣れた一学年下の後輩の姿。またいつものごとく、なんと間の悪いことだろうか。彼女は細心の注意を払ってこっそり顔を出したつもりなのに、いきなり鬼と目が合ってしまった。
 突然、木の陰から顔を出した朝比奈の姿を見て、鬼もきょとんとした顔をしていた。
「え、えっと」
 予想外の事態に朝比奈の顔が見る見る紅潮していった。唇が震えて、瞳には涙が溜まっていた。
「朝比奈さん、見っけ!」
 鬼が叫んだ。
 朝比奈はうろたえた。
 ――見つかちゃった。でも、こうして見つかった場合はどうしたらいいんだったっけ?
 鬼は朝比奈を指差すと、空き缶へ向けて走り出した。朝比奈の足では追いつかれることはまずありえないと思っていたが、なんとなく全力疾走してしまっていた。自分がなんでそんなに真剣に走っているのか、鬼自身にもわからなかった。ただ、なんとなく何かにがむしゃらになれるのだったら、そうしたかった。蹴り上げる芝生の匂いが彼の鼻腔をツンと突き抜けた。
 二十メートルほど走ったところで、息を切らしながら彼は後ろにいるであろう朝比奈を振り返った。と、そこで彼は慌てて立ち止まろうとして勢い余ってその場でこけそうになった。
 振り返った先で、朝比奈はあさっての方向へ向かって走っていた。彼女は混乱した頭でとりあえず頭の中にひらめいた『逃げる』という行為を忠実に行っていたのだった。
 鬼は慌てて立ち止まり、あさっての方向へと消えていこうとする上級生の背中に向かって大声を張り上げた。
「おーい、朝比奈さーん! どこへ行くんですかー!」
 間の抜けた鬼の声が、芝生広場に響き渡った。
 その声が聞こえても、しばらく朝比奈は涙を湛えた大きな瞳であさっての方向へと全力疾走し続けた。

 *

「ごめんなさい、キョン君。わたし、あのかんけりのルールとか知らなくて」
「いいんですよ、朝比奈さん。未来にそんな遊びがないのなら仕方がないです」
 彼は朝比奈の肩に手を置いたまま、缶の元へと歩いていた。その缶の傍で古泉が笑っているような困ったようななんともいえない微笑を浮かべていた。
「あなたが朝比奈さんを追いかけて公園の外へ出て行っている間はチャンスだったのに、誰も缶を蹴りに来てくれませんでしたね」
「さすがにそこらへんはあの団長殿も空気を読んでくれたということだろ」
「確かに。これほどしらけてしまう終わり方はありませんね。しかし、誰も僕を助けに来てくれないというのは、なんだか寂しくもあります」
 わざとらしく大げさに首を振りながら両手を挙げる古泉。頭を掻きながらその姿に一瞥をくれると、彼は朝比奈さんを古泉の横に立つように促した。
「あ、古泉くん。よろしくお願いしますね」
「ええ、こちらこそ。やっと一人ぼっちでなくなって嬉しいですよ」
 なぜかほっとしたように息をつく朝比奈。その姿を彼は少し面白くなさそうに見つめていた。
「なんか、俺のほうが仲間外れにされているみたいだな」
 顔を古泉たちから背けながら、彼はつまらなさそうにつま先で地面をほじくった。
「そう思うなら、はやく他の人たちも捕まえてあげてください」
 その横顔に追い討ちをかける様に、古泉はふわっと言葉を彼の横顔に投げかけた。

「ほんとにもう、なにをやっているのかしら、みくるちゃんは。帰ったら特訓しないといけないわね」
 彼が朝比奈を狼狽しながら追いかけていく光景を反対側の木陰から見ていた涼宮は大きくため息をついた。あきれ返るように首を振った。
 古泉が指摘したとおり、彼が朝比奈を追いかけている間は絶好のチャンスだったが、逆にあまりに絶好すぎて涼宮は缶を蹴る気がしなかった。
 この状況で飛び出して缶を蹴っても、それだと自分じゃなくて、どう考えても注目されているのは朝比奈のほうだった。それはどうしようもなく退屈だ。こういう遊びはちゃんとい鬼の目をかいくぐるから面白いわけで、鬼が相手をしてくれないなら意味がない。他にいるはずの二人も飛び出さなかったこと思うと、みんな同じ考えだったのだろうか。
 そんなことを思いながら、涼宮はふと何かに気が付いたように目を大きく開くと、ふっとタンポポの綿毛を飛ばすように笑った。
「バカキョン、アホキョン、バーカ」
 そして立ち上がってスカートの埃を払うと、また歩き始めた。

 *

 煌々と赤い西日の中で一人の少女が静かに本を読んでいた。木の陰に隠れるようにして、透明で澄んだ瞳を開いたページに落としていた。
 彼女の周囲だけ時間が止まったように静かだった。少し黄色がかった大きなハードカバーの上に、彼女のショートカットの影が落ちていた。彼女は一枚一枚、重なり合った薄いビロードをゆっくりとはがしていくようにページをめくった。
「長門さん?」
 唐突に彼女の耳に届いた言葉に、彼女は無表情に無機質に顔を上げた。そして声を掛けた主を静かに見つめた。問いかけた主は無言で見つめられて、どうしていいかわからないような曖昧な笑顔で首を傾げると、とりあえずの話題を続けた。
「本、読んでるの?」
 その問いかけに長門は無言で頷いて見せた。そして、わかっているならわざわざ確認しなくてもいいとでも言いたげに、また静かに読書に戻った。
「あなたはいつも本を読んでるね」
 長門に話しかけた少女はそのまま長門の隣にゆっくりと腰をおろした。佐々木は正面の赤く輝く夕日を見て眩しそうに目を細めた。
 長門は佐々木の言葉に反応することなく、白く細い指で黙々とページをめくった。
「かんけりには参加しないの?」
「参加している。現に私は鬼と呼ばれる役の人物から、こうして自分の姿を隠している」
「でも、こんなところで本を読んでいても」
「かんけりのルールにおいて、早い時間帯でゲームをクリアすることには何のアドバンテージもない。よって時間を気にする必要はない」
 長門は無機質に淡々と答えた。その間も膝の上で開かれた本から目を離さなかった。
 そのあまりにも理路整然とした答えに佐々木は苦笑いするしかなかった。
 佐々木も大抵の場合において話し方が理屈っぽいとか言われてしまうほうだったが、この長門有希には適わないと思って、少し自嘲気味に息を吐き出した。
 寄り添う二つの小さな影が西日に揺れていた。
 そうして遠くに落ちる夕日を見ていると、佐々木は少し不思議な気分になった。
 いつからだろうか、この長門有希という少女の傍にいることが苦痛でなくなったのは。昔は――とはいってもそれは数ヶ月程度の間なのだけれども、そのころはこの物言わぬ読書家の少女とどう接すればいいのか全く分からなくて、傍にいるだけで、背中がぞわぞわするようなどこか落ち着かないものを感じた。それが、今ではこんな風に二人並んで地面に腰を下ろしている。なぜか今はこの沈黙を心地よく感じる。
 そんなことを頭の中で思うと、佐々木の頬は自然に緩んだ。彼女は両膝を抱える腕の力を強く、上半身を少しだけ前屈みにした。
「あなたは変わった」
「え?」
 突然本から目を上げて、まっすぐに前を見据えたまま呟やくように放たれた長門の言葉に佐々木は慌てて長門を振り返った。長門はそんな風に目を丸くしたまま自分を見つめる少女にはお構いなしにゆっくりと言葉を続けた。
「あなただけではない。彼も、そして涼宮ハルヒも。あなたたちが出会ってから、あなたたちは変わった」
 訥々と無感情に長門は言葉を紡いだ。
「変わった、って?」
「あの頃のあなたならこうして私と話をすることはなかった」
 ばれていたか――彼女は心の中で舌を出した。
「そうだね。長門さんとこうやって話をするのは初めてだね」
 佐々木はどこか感慨深げに顎を両手に乗せて、呟いた。長門は無言のまま、透明な瞳で佐々木を見つめた。
「あなたは、あなたと彼は涼宮ハルヒの精神をかき乱す存在。涼宮ハルヒにとっての彼。あなたにとっての彼。彼にとってのあなた。そして、あなたと涼宮ハルヒ。涼宮ハルヒの観察を目的とする私にとっては、それは望むべきものでもあり、また恐れるべきものでもある。ただ――」
「ただ?」
「それは重要なことだと私は考える。涼宮ハルヒの精神の成長にとってそれは必要なこと」
「それは――涼宮さんが、いや私たちが大人になるということ?」
 ところどころ不思議な長門の言葉には、いろいろともっと突っ込んで尋ねたい部分がたくさんあった。しかし、佐々木は敢えてそれらに触れることはしなかった。わかっていたからだ、長門が本当に自分に伝えたいことは何か。
 佐々木の言葉に長門は無言でほんの少しだけ揺れるように頷いた。
「あなたたちは変わっていく。きっと、これからも、ずっと」
 その言葉はなぜか少しだけ佐々木には遠く響いた。まるで、この長門の言葉がどこか遠い国での出来事を話すように感じたからだ。それは寂しそうにも、うらやましそうにも聞こえた。
 そのまま長門は再び膝の上で開いた文庫本に視線を落とした。長門の短い髪が風にふわりと揺れた。
「やっぱり私たちは、変わっていくの?」
 佐々木は自分の両膝に顔をうずめてうめくような小さな声で長門に問いかけた。変わっていく、その言葉が彼女の胸に重くのしかかっていた。佐々木の言葉が届いているのかいないのか、長門は構わずにページを相変わらずのペースでめくり続けた。
「ずっと、今みたいな時間が続いて欲しいと願っていても?」
 呟くような佐々木の声は、あっという間に春の終わりの風に紛れて、どこへともなく消え去った。
「……そう」
 長門は短く、ただはっきりと肯定した。
「――そう」
 佐々木は膝から顔を上げると、小さく笑った。佐々木の視線の先で、長門の白い耳朶が陽に透けた。そして、佐々木は前を向くと、またそっと立ち上がった。

 *

 鬼はもう半分ヤケになっていた。缶を守ることなど忘れたかのように、躊躇することなく林を歩いていた。もはやかんけりというよりもかくれんぼに近かったが、じっくり待つということに彼は業を煮やしていた。なんとなく、自分ひとりだけが損な役回りをやらせていることにいらだっていたのである。
 落ちていく日差しに目を細めながら、彼は林の奥へと進んでいった。赤い夕日が木立を透けて、林の中は木々が燃えるようだった。
 学校の放課後。制服姿はこんな林を歩き回るのに全く適していなかったが、この際贅沢は言っていられなかった。ズボンの裾が泥に汚れるのも構わずに、彼は柔らかい土の上を歩いた。
「こんなだだっ広い場所で、鬼が一人なんて……どう考えても鬼が不利過ぎるだろ」
 どこへともなく文句をつけながら、彼は辺りを索敵していた。
「長門に涼宮に佐々木。どいつもこいつも俺より上手そうだもんなぁ」
 彼は林の中で体を一回転させ、ぐるりと辺りを見回してみた。木の陰には人が隠れていそうな気配は全くしなかった。
 ――朝比奈さんは、言うちゃなんだが、まぁそのドジなところもあるお方だから、簡単に見つかったし。古泉の奴は空気を読んだのか、自分から捕まりに来たし。
 それに引き換え残りの連中は――とまで心の中で呟いたところで、彼は一気に疲労感に襲われた。辺りをうろついたり走ったりして、いい加減足がくたびれてきていた。
「あの坂道を歩いた後に、この遊びはないよな」
 頭を掻きながら歩いていた彼の視界にちょうどいい感じの大きな木が飛び込んできた。辺りには木漏れ日が柔らかく降り注いでいる、こんな日はうろちょろ歩き回るよりもどこかでゆっくり休んだほうが優雅でよっぽど気持ちよさそうだった。
 彼は一瞬だけどこかばつの悪そうな顔をしたが、すぐに気を取り直したように頭を振ると、その木の裏側に回ってゆっくりと腰を下ろした。土のひんやりとした感触がズボン越しに伝わってきた。
「ふぅー」
 彼は足を投げ出して目を細めた。日差しがぽかぽかと暖かく、さぁーと拭く風が涼しかった。このまま昼寝でもしたら気持ちよさそうだな、と彼は思った。
 彼は大あくびを一つすると、大きく両腕と背中を伸ばした。あくびのせいで目にはうっすらと涙が溜まった。
 ――やっぱ、こんな気持ちのいい日にかんけりなんてすることはないな。
 彼は大きく息を吐き出すと、そこでやっと何気なく辺りを見回した。
「……」
 そこに文庫本を開いたまま、静かに彼を見つめる少女の姿が彼の右隣にあった。
「……長門?」
 彼も長門よろしくしばらく無言で見つめあった後、彼女の名前を疑問系で呼んだ。長門は無言のままほんの少しだけ首を動かして首肯した。それから「どうしたの?」とでも言うように、不思議そうに彼を見つめていた。
「いや、その、お前、こんなところで何をやっているんだ?」
 彼は半分呆然としたような声で、長門に問いかけた。
 しかし、実は内心彼はかなり慌てていた。相変わらず気配を消すのがうまいというか、なんというか。彼女のすぐ横に座ったのに、実際に彼女の存在に気付くまでには随分時間が掛かってしまった。何の反応もなく無言で彼を見つめる長門の視線が、彼の焦りに拍車をかけた。
「かんけり」
 長門は短くそう答えた。
 いや、それはわかっている。というか、そうだ。確かにそうなんだが――と彼は心の中で思うのだが、それはうまく言葉にならなかった。
「あなたこそ、なにをやっているの?」
「え」
 長門のほうから出た質問に彼はなんとなく罪悪感を覚えた。
 ――ちょっとした休憩だ。断じてさぼろうとしていたわけではない。
 そんなことを言うと逆にそれが本当くさく聞こえてしまうと思うと、彼は次の言葉をなかなか出せなかった。そんな彼を長門は透明な湖の底のような瞳でじっと見つめていた。
「……かんけり」
 苦し紛れに彼が放った一言は、長門の答えと全く同じものだった。
「なら、ルール上、私の姿を見つけたあなたは私の名前を言って、缶に向かって走らなければならないはず」
 いや、そんなところで本を読んでいたお前にそんなことを言われても、と突っ込みそうになった彼だが、そこはぐっと言葉を呑んだ。
「いや、確かにそうなんだが……でも、そうするとだ。お前も俺に姿が見つかった時点で缶に向かって走らなければならないんじゃないのか?」
「あなたがまだ私の名前を呼んでいないから、現時点で見つかったかどうかは判断できない」
 思いっきり会話してるじゃないか、という突っ込みが彼の喉まで出かかったが、そこはぐっと押さえた。
 へんてこりんな会話をしているような気がしたが、長門は真面目そのものだったし、彼自身も一応筋は通っているようには思った。
 彼がこの予測不能な事態を必死に理解しようとしている間も、長門は透明な瞳で彼を見つめ続けていた。自分がどうすべきか図りかねているようだった。
 そんな目で見つめられても、と彼は思ったが、すぐに仕方がないと腹をくくった。
「長門、お前隠れながら本を読んでいたんだろ?」
 長門は無言のまま頷いて答えた。
 彼は長門の答えを聞いて、この読書大好き少女の邪魔をするのは悪いと思った。
「俺はまだお前を見つけたとは言っていない。だから、俺も慌てて缶に向かって走る必要はないし、お前も俺から逃げる必要はなくて、そのまま本を読んでいればいい。それでいいか?」
 ここまで散々会話しておきながら、鬼が相手を見つけていないというのも全く持ってして変な話だったが、長門はその言葉に頷くと、視線を彼から外してまた本を読み始めた。
 彼は頭の後ろをぽりぽりと掻くと
「俺が佐々木か涼宮かに缶を蹴られるか、二人を捕まえるかしたら出て来い」
 と言って立ち上がった。
 もともと休むためにここまで来たのだが、一応かんけりをしていると長門に宣言してしまった手前、彼はまた戦線復帰することにした。
「じゃあ、行って来る」
 彼は長門に右手を軽く挙げると、くるりと背中を向けた。
「……あなたも変わっていくのが、こわい?」
 背中を向いた彼に長門が言葉を投げかけた。長門の言葉が彼の背中で波紋のように静かにゆっくりと広がった。
「え?」
 振り返った彼を長門は透明な雪解け水のような瞳で静かに、そしてまっすぐに見つめていた。彼はそんな長門に不思議そうな顔で首を傾げてみた後、不安を笑い飛ばすように優しい口調で答えた。
「そんなのわからないな。だってそうだろ? いつだって、気が付けばいつの間にか変わっていた、そんなんばっかだから」
 長門はその答えを聞くと、満足したのかまた目線を膝の上で開いた本に戻した。
「そう」

 *

 空き缶の細くて長い影の周りに三人の人の影があった。そのうちの一つの影がおかしそうに右手の拳を軽く顎に当てて上半身を揺らした。
「さっきまであんなにやる気なさそうだったのに、急にやる気になってしまって。一体どういう風の吹き回しですか」
「うるさい」
 答える一つの影はうっとおしそうに頭を掻いた。
「なんかもう腹が立ってきた。こうなったらもうヤケだ。とことんまでやってやる。日が暮れようが空き缶に張り付いていてやる。来れるもんなら、来やがれってんだ」
 彼は長門と会った時のバツの悪さからか、不機嫌っぷりを向けるベクトルの向きを変えた。嫌がらせのように、空き缶の周りにずっと張り付く――確かに、この広い芝生公園は攻めには徹底的に不利だが、逆にそれは守りには非常に有利だということだ。ほとんど視界を遮るもののない広い広場。この状況下において、その真ん中に置かれた缶まで鬼に見つかることなくたどり着くのはほぼ不可能である。
 ただ、そんなことをしてしまうと、当然ゲームとして埒が明かなくなってしまうのはわかりきったことだった。だから、彼は仕方なしにわざと空き缶をほったらかしにして、今まで辺りを索敵していたのだった。
「まぁ、それくらい真剣にやってくれたほうが涼宮さんも喜ぶと思いますよ」
「そうですね」
 いきり立つ彼とは対照的に古泉はとても満足そうに頷いた。捕まっているはずの立場なのに、朝比奈まで楽しそうに微笑んで相槌を打った。
「がんばってくださいね、キョン君」
 両手を握って小さく「ファイト」と声を掛ける朝比奈に、彼は「応援する側が違いますよ」と突っ込みたかったが、そこは抑えておいた。
 古泉といい、長門といい、朝比奈といい、どこかピントのずれた不思議なかんけりだったが、彼自身そうやって素直に応援されると、そう悪い気はしなかった。
「さぁ、この絶対不利の状況を涼宮さんと佐々木さんがどう覆すか。楽しみですね」
 鬼に捕まっている古泉が傍観者よろしく能天気な声を上げた。

 涼宮はそんな鬼の動きをずっと見ていた。攻めるほうが圧倒的に不利なこのゲームである。広場を歩く鬼の動きを見ていれば、彼の死角に回ることなどたやすいことだった。
「なんかよくわからないけど、急にやる気になったみたいね」
 そんなことを一人で呟きながら、涼宮は木の幹に背を預けた。昼間は少し汗ばむほどに暑いが、日が沈むにつれて涼しい風が吹いて、少し肌寒く感じた。まだ、夏にはもう少しだけ早かった。
 森の匂いのする空気を胸いっぱいに吸い込んで、涼宮は今日の放課後のことを思い出していた。
 何かをしようと彼女は思っていた。いや、何かをしなくてはならないと彼女は思っていた。
 幸せで、甘酸っぱくて、少し切ない時間。最近、涼宮は突然得体の知れない不安に駆られることが多くなった。それはいつだって、自分たちの将来を考えるときだった。
 目の前に映る景色が薄ぼんやりとかすんで、空気に溶けるみたいに消えていく錯覚が見えた。そのたびに彼女の胸は小さく軋んだ。
 ――何かをしなくちゃ。
 そして、彼女はそんな衝動に駆られた。時間がなくなっていく、変わっていく、そんな恐怖が彼女の心を支配した。
 まるで、夏休みが終わる一週間前の小学生みたいだと彼女は内心で笑った。カレンダーに×印をつけるたびに大きくため息をついて、午後の日差しに一日の終わりを感じてどうしようもない寂しさに襲われるような。そんなどうしようもない切なさが涼宮の胸を締め付けた。
 時々、夜布団に入って一人ぼっちになると、訳もなく彼女は何かに怯えた。正体の分からない「そのとき」がゆっくりと、だが確実に近づいてきてることを彼女は感じていた。
 ――みんな、かんけりするわよ!
 いつまでも自分が見つからなかったら、ずっと逃げ回っていられるのなら、このかんけりは永遠に続くのだろうか――ふと、そんなことを思って彼女は空を見上げた。雲ひとつない晴れた空は、いつもよりも遠く高く見えた。
 彼女は空に手を伸ばしてみた。空は雲一つなく澄み切っていて、彼女の細い腕は虚空を泳ぐだけだった。

 空に向かって腕を伸ばす涼宮の姿を佐々木は見ていた。
 佐々木はちょうど涼宮の右側の木の陰にある彼女の死角から、息を呑んでその様子を見ていた。彼女自身、涼宮の様子を覗き見ようとしたわけではない。ただ、林の中を歩いていたら偶然見かけてしまっただけだった。しかし、その時の涼宮の様子に佐々木は声を掛けることが出来ずに、それ以外どうすることも出来ずに、息を潜めてそれを見守っていた。
 細い右腕をアンテナのように空に向けて伸ばす彼女の姿は、思わず見とれてしまうほどに綺麗だったからだ。そして、近づけば消えてしまうように、儚げにも見えた。
 真っ赤な夕日が涼宮の細い腕の影を、長く、長くしていた。

「あっ」
 佐々木の姿を見つけた涼宮が幽かな声を上げた。そのままぽとりと地面に落ちてしまいそうな声だった。
 佐々木は先ほどの場所から一歩も動かずに、そこにいた。佐々木は少し驚いたように目を大きく開いている涼宮を静かに見つめた。濃い茶色の佐々木の瞳に涼宮の姿が丸く映っていた。
「こんなところに隠れていたの?」
 風に吹かれる髪を耳の後ろで留めながら、佐々木が涼宮に尋ねた。
「まあね。そういうあんたこそ何してんのよ? 缶を蹴るチャンスならいくらでもあったはずでしょ」
 涼宮は佐々木から目を逸らして素っ気なさそうに答えた。
「じゃあ、なんで涼宮さんはそのチャンスに缶を蹴らなかったの?」
 佐々木の問い返しに涼宮は無言のままだった。涼宮はどこかわざとらしくつまらなそうに右手を顎に当てて、何もないはずの木々の隙間を見つめていた。
 佐々木はその姿にすこしだけ唇の端を上げて微笑むと、彼女の隣の木の幹に腰掛けた。彼女が背中を当てた木の幹は、ひんやりとした感触がした。
「……キョンの馬鹿が空き缶に張り付いているから、なかなかに難しい状況ね」
「そうだね」
 涼宮は前を見つめたまま、ひとり言のように言葉を発した。佐々木は、それにまるでテレビの中で起こっている出来事について語るような素っ気無い返事を返した。
「だったら、捕まるの覚悟で飛び出してみたら? 意外とうまくいくかもしれないよ」
「あんた、他人事だからって適当に言っているでしょ。そう思うんだったら、あんたが行きなさいよ」
 口を尖らせた涼宮の言葉を佐々木は柔らかく笑うだけで、受け流した。
「キョンはそんなに我慢強いほうじゃないから、焦らしたらこっちの勝ちだね」
「けどあのアホ鈍いから、焦らしているはずのこっちが逆に焦らされるかもしれないわよ」
「……確かに」
 涼宮の言葉に佐々木は思い出し笑いをするように吹き出した。喉の奥でくつくつとなる笑い声が風の音しかしない林に響いた。
「あたしさぁ――」
「ん?」
「こんな風にあんたと話すようになるとは思わなかったわ。初めて会ったときからずっと」
「……そうだね。一年前の私がこの光景をみたら驚くかな」
「ちょうどこれくらいの時期だったわね。あたしがあんたたちとこうして一緒に何かするようになったの」
「うん」
 二人の間を柔らかい風が吹いた。涼宮はゆっくりと目を細めた。佐々木は風になびこうとする髪を右手ですっと押さえた。
「なんでだったかしらね。突然キョンの馬鹿がへんなことを言い出して。それからなんか気がつけば流れでキョンもあんたもあたしたちの傍にいて」
「最初の自己紹介のときに涼宮さんが宇宙人とか言い出したときには、心底驚愕させられたよ」
「……まぁ、今となってはそんなことどうでもいいわ。宇宙人よりも鈍感で馬鹿な同級生と、ひねくれものの同級生だけでも、十分あたしには何考えてるかよくわからないからね」
「ひどいなぁ。私からみれば涼宮さんのあまのじゃくっぷりもなかなかのものだよ」
「ねぇ、知ってた?」
「何を?」
 涼宮はここで小さく息を吸い込んだ。
「あたし、あんたのこと嫌いになりたかった」
 涼宮のその言葉が一瞬彼女たちの空間の時間を止めた。
「――私も、嫌いになりたかった、あなたのこと」
 柔らかい沈黙が二人を包んだ。傾ききった西日が二人の顔を紅く染めていた。
「……馬鹿みたい、本当に」
「そうだね」
 その言葉に佐々木はゆっくりと頷いた。
「本当に、そうだね」
 佐々木は空を見上げた。さっきまで涼宮が手を伸ばそうとしていた空はとても高くて、そして、その奥が見えそうなくらいに透き通っていた。
「色々なことがあったわよね」
「そうだね」
「あんたと野球したこともあったわね」
「あぁ、ちょうどこれくらいの時期だったね」
「あたし、あんたのこと誘っていないのに勝手についてきたわよね。なんていうか、本当に下心丸見えっていうか」
「それ、涼宮さんには言われたくないなぁ」
「それに、あんたなんかいっぺん入院までしたしね」
「涼宮さんはお見舞いに来てくれたよね」
「……まぁね。なんかいい思い出なんだか、悪い思い出なんだかわかんないわ。――ただ、もしかしたら一生忘れることはないかもしれないけど」
「そうだね」
 佐々木は静かに足元の雑草を掴んだ。そしてゆっくりと力を込めた。しかし、雑草は思っていたよりも地面に強く根を張っていたようで、抜けることはなかった。
「――きっと一生忘れないだろうね」
 佐々木は草を掴んでいた手を離した。その右手には夏の匂いがした。
「ねぇ、涼宮さん。私たちはこのまま変わっていくのかな。そうやって何年も時間が経って、今何事もなかったかのように未来を生きているのかな」
「さぁね。でも、きっと今だからあたしたちは一緒にいられる、そんな気がするわ」
「一生変わらずにいられるかな」
「『私たちは離れ離れになっても友達だよ』ってやつ?」
「それ、嘘にしか聞こえないよね」
「じゃあ『ダイッキライなあんたのことなんか一生忘れてやるもんか』っていうのはどう?」
「それだと逆に嘘に聞こえないから、嫌だなぁ」
 笑いながら佐々木の吸い込んだ空気は少し湿気が多くなっていた。長袖では少し汗ばむくらいになった大気の中で、少しずつ夏が近づいていた。くだらない冗談は、夏の到来を告げる空気に紛れて消えた。

「馬鹿みたいに張り付いていないで、少しは離れなさいよ、このアホキョン」
「あれはダメだね。意地になっているから、よっぽどのことがない限り、そう簡単には離れる気はなさそうだよ」
 涼宮と佐々木は仲良く芝生広場に最も近い木の陰から、鬼の様子を探っていた。二人の目の前では、鬼が一人腕を組んでせわしなく辺りを見回していた。
「これだけ距離が開いていると、攻め込める場所がないわね」
「まさにパノプティコンっていうやつだね。一人の人間がこうやって周囲を監視するには実に合理的な方法だ」
「そんな理屈っぽいこと言っていないで、あんたもなんか対策立てなさいよ。一応学校の成績いいんでしょ?」
「大して勉強もせずに学年トップクラスを維持しているあなたに言われてもなぁ」
 半ばイライラしながら鬼の様子を観察している涼宮に対して、佐々木は飄々とした態度を崩さないままでいた。
 夕日が逆光になって、缶の周りをうろついている鬼の姿が黒い影で映っていた。
「あんたうまくキョンの死角を移動しながら近づくとかそういうことできないの?」
「あいにく私の運動能力は人並み」
 いらだたしげに唇を尖らせる涼宮。そして眉間に皺を寄せながら、鬼の動きを観察していた。
「あんたキョンの動きを止めたりとかできない?」
「そういうことは超能力者にでも頼んで」
「じゃあ、時空間を移動して、ぱっと缶の傍に現れるとか」
「タイムトラベルの経験はないなぁ」
「常識を超えた科学技術の粋を使って――」
「我々よりもはるかに高い文明レベルを持った宇宙人なら出来るかもね」
「あぁ、もう!」
 涼宮はいらだたしげに頭を掻くと、佐々木を人差し指をまっすぐ突き立てて差した。
「あんたも、もうちょっとやる気出しなさいよ!」
「そんな現実味のないことを言われても、私は出来ないとしか言えない」
 佐々木は涼しい顔をしたままだった。
「……いっそ、彼と我慢比べを挑むかい?」
 佐々木はどこか意地の悪い声でそう言った。そして、言った張本人の佐々木の表情にもどこかあきらめに近い色が見て取れた。
「それはいや。できない」
 涼宮の言葉は意外なほどに素っ気無かった。まるで、その答えをずっと前から用意していたかのように。
「――そうか。そうだね。ずっと、このままでいるわけにはいかないよね」
 佐々木はゆっくりと目を閉じると頷いた。そのまま静かに体重を木の幹に預けた。彼女の頭の上で、枝がさらさらと揺れた。
「あぁ、もう。こうなったら、光学迷彩で芝生と一体化して、あそこまで匍匐前進でもしてやろうかしら。あんた、迷彩服とか持っていない?」
 涼宮は佐々木をまた指差した。
 佐々木は「なんだか今日はよく指を指されるなぁ」などと思いながら、鷹揚に答えた。
「日本全国の女子高校生の荷物を検査してそこから迷彩服が出てくる確率は天文学的数字になると思うよ。まぁ、出てきてせいぜい体育のジャージがいいところか」
 その言葉に涼宮は顎に手を当てて黙り込んだ。その目は真剣に何かを考えていた。佐々木はそんな涼宮を前に目を眇めた。
「涼宮さん? どうしたの?」
 さっきまでの勢いはどこへやら、突然黙った涼宮に佐々木は不思議そうに尋ねた。
「確か今日って体育があったわよね?」
「え、うん。そうだけど……」
 だから? と言うように佐々木は首を傾げた。佐々木には唐突な涼宮の言葉の意味がわからなかった。
 しかし、涼宮はそんな佐々木の訝しがる視線などどこ吹く風。何かに納得したのか、何度も満足そうに頷いた。
「ここはどうやら文字通り一肌脱ぐ必要がありそうね」
 涼宮はまるで試合のリズムを取るボクサーのように、上半身を揺らしながら不敵に笑った。臨戦態勢だ。臨戦態勢のその姿に佐々木はなんとも言えない不安とあきらめのようなものを感じた。基本的にやる気になった涼宮ハルヒと関わるとロクな目に遭わないというのは、佐々木はこの一年間で経験的に知っていた。
「幸いなことにあたりに人気はないわ」
 涼宮の黄色いカチューシャについたリボンが得意げに揺れていた。

 *

 鬼は一人腕を組んでいらだたしげに足を踏み鳴らしていた。彼の影ももう随分伸びていて、もうすぐ陽は落ちようとしていた。
「あいつら本当に夜になるまで粘るつもりか?」
「どうでしょうかね。僕にはわかりかねます」
 いらだたしげな声が彼ら以外もう誰もいない芝生広場に響いた。
「あの、これって時間切れとかあるんですか?」
 朝比奈が不安そうな声で尋ねた。
 真昼間の太陽の照っている時間ならなんとも感じないが、真っ暗になった夜に、人気のない芝生広場の真ん中に立つというのはなかなかに気持ち悪い。朝比奈はそれが怖かった。しかし、それでも自分は帰ると言わないところが、いかにも彼女らしかった。
「陽が沈んだら、かんけりというよりもどこぞの野戦シュミレーションみたいになるな」
 鬼がため息交じりに呟いた。
「それはそれでおもしろいかもしれませんね」
 能天気に笑う古泉を鬼は冷めた目で見つめた。
「時々お前を尊敬するよ」
「それはどうもありがとうございます。この身に余る光栄です」
 慇懃に礼をしてみせる古泉。穏やかな微笑をその瞳に浮かべていた。
「やれやれ」
 彼はもう取り合っていられないと思ったのか、そう呟くと腰に手を当てたまま古泉に体を背けた。それから鬼は辺りを注意深く見回した。
 特に根拠があったわけではないが、おそらくこの陽が沈むということが一つの大きな区切りになるだろうと、鬼は考えていた。何か大きな変化があるはずならこの時間であると。
 そして、彼は見つけた。
 彼の目から見て、右前方最前列。そこにある高さ三メートルほどの木の陰から、見覚えのあるスカートの端が見えていた。距離は遠いが、色は確認できた。薄い青――それは彼らの通っている高校の制服だ。
 ――ほらな。
 鬼は一人、自分の勘が正しかったことにほくそ笑んだ。
 ――それで、あのスカートはどっちだ? 佐々木か涼宮か?
 長門ではないことを知っていた鬼は候補をこの二人にだけ絞った。
 どちらにしても確認するためには、接近する必要があった。鬼はゆっくりとした足取りで、静かにその場所へと歩みを進めていった。
 一歩一歩と歩くたびに草を踏みしめる音がした。その中で鬼は冷静に耳を澄ましていた。風が彼の横を吹き通る音が聞こえた。
 彼は息を殺して、辺りに神経を研ぎ澄ませた。ここで相手の「仕掛け」に対して対応が遅れるわけにはいかない。いかに相手の動きにすばやく対応できるかが鍵だった。
 自分以外の誰かが、芝を踏みしめる音が――した。
 彼はその音共に振り返り、缶へと全力疾走を始めた。その彼の視界の端には、林から飛び出したジャージ姿の女子がいた。
 ――やはり、そうきたな。
 彼は心の中で得意げに笑った。
 彼は気がついていた。木の陰から見えるスカートにあるべきはずの厚みがないことに。そして、それが微動だにしないことに。すぐにそれが彼をおびき出すための囮であるということを見抜いた。
 だとすればやるべきことはただ一つ。囮に掛かったフリをして、逆にこちらが誘き出してやること。
 彼の作戦は見事に的中した。わざとゆっくりと囮のほうへ進むことによって、相手をいらだたせて、飛び出すタイミングを早める。まさにその作戦通りになった。
 缶からの距離は鬼のほうが近かった。この距離ならいくら相手の足が速くても、追いつかれることはない。
 ――こんなところでスカート脱いで、それを囮に使うなんざ、本当に常識とか良識に欠けている奴だな、お前は。
 横目で相手の様子を確認する彼の視界に、黄色いリボンつきカチューシャが揺れていた。
「涼宮、見っけ!」
 彼は一際大きな声で叫んだ。そして、大股開きに缶を踏みしめた。その姿を見て走りこんできた少女は足を止めて、そのまま立ち尽くした。
 彼は大きく息を弾ませながら、上下する肩の下で缶を踏みしめ、得意げに彼から三メートルほど離れた場所で立ち尽くすカチューシャを付けた少女を見やった。
「こんなところで服を脱いで着替えやがって。まったく、相変わらずむちゃくちゃをする奴――」
 そこまで言いかけたところで、彼の表情が固まった。声にならないうめき声を上げて、大きく口を開けたまま、呆然と目の前の少女の姿を見つめた。
「人をそんなはしたない人間のように言わないでくれたまえ。人前で裸にならない程度の羞恥心は持ち合わせているつもりだ。それに、ちゃんと人気がないのは確認したよ」
 彼の目の前で悪戯っぽく唇の端を上げ、上目遣いに彼を見つめていたのは――
「佐々木ぃ?」
 彼の素っ頓狂な声が芝生広場にこだました。
「あぁ、名前を呼ばれてしまった。これで僕もゲームオーバーか。残念」
 特に残念そうでもない口調で、佐々木は右手を口に当てながら少し前かがみになった。まるで笑うのを堪えているような様子だった。
「ち、ちょっと待て。お前、その」
 相変わらず彼はうまく言葉を発することが出来ないでいた。佐々木を指差して何かを言おうとするが、口をパクパクさせながら黙らない程度に思いついた言葉を発していくだけで精一杯だった。リボンのついた黄色いカチューシャが夕日に揺れた。
「しかし、キョン。キミもひどいね。いくらなんでも自分の恋人の名前を呼び間違えて欲しくはなかったな」
「ん、んなこと言ったって。第一お前が頭にそんなもん付けているからややこしいんだろうが!」
 彼は佐々木を指差して大声で叫んだ。そんな彼の一挙手が面白いのか、佐々木はよりいっそう笑いを抑えるかのように、体を屈める角度を深くした。
「まぁ、キミがそう勘違いするように仕組んだ仕掛けだから、思うとおりになったのは嬉しいと言えば嬉しいのだがね。一応これでもキミがもしかしたら僕だとちゃんと気付いてくれるかもと期待はしていたんだよ」
「あの距離でわかるか。むちゃくちゃ言うなよ。それにお前と涼宮は髪の長さも背格好も似ているし」
「キミが期待に応えてくれなくて実に残念だ」
 佐々木は大げさに頭を横に振って、ため息をついてみせた。その姿を見て、彼は天を仰ぐと両手で顔をごしごしと洗う仕草をした。
「とにかく、一応俺はお前の作戦は無事阻止したわけだ。残念だったな。いい線は行っていたが、詰めが甘かったな」
 佐々木は何も言わずに穏やかな微笑を浮かべたままだった。
「わざわざ涼宮からカチューシャまで借りてご苦労だったが……って、涼宮は?」
 ここに来て彼は重要な事実に気が付いた。この作戦を行った佐々木の共犯である涼宮の姿はまだ確認していなかった。
 彼の背中が粟立ち、悪い予感が頭の中を駆け巡った。涼宮ハルヒの性格を考えると、この状況下でおとなしくしているはずはなかったからだ。
 彼は慌てて辺りを見回した。
 古泉は何かをあきらめたような苦笑を浮かべて、腕を組んでいた。まるで、彼にご愁傷様と言っているようだった。
 朝比奈も同じように彼と目が合うと、苦笑いをした。ごめんなさいと言っているように見えた。
 彼がさっき自分が走って来た方角のほうに視線をやると、林の中から本を片手に持った長門が出てくるのが見えた。その超然とした振る舞いはもうゲームが終わるから出てきたとでもいうような様子だった。
 彼の背中に冷や汗が出た。囮に引っかかったのは佐々木ではない、見事に囮を逆手に取ったと思い込んでいた自分だったのだ。
 そこで彼は足元を見た。そこには長く伸びた影、よく見れば腕が四本――
「甘いわね、キョン」
「涼宮!」
 彼は慌てて振り向いた。しかし、時すでに遅し。呆然とする彼の横を彼女はイタチのようにすばしこく駆け抜けて行った。
 彼は事態に対応できない状態で、今何が起こったのかを理解した。
 佐々木は、囮だった。彼がスカートのトリックに気が付くことを見越した上での。彼が走り出した佐々木の姿を見つけて駆け出すタイミングを狙って、その後ろを涼宮が走ってきたのだった。缶に向かって全力疾走していた彼には到底自らの背後から近寄ってきているものの存在になど、気付くことができるはずもなかった。
 そして、彼が得意げに佐々木を捕まえた後に、こうして見事に背後を取られていたのであった。
 彼はなぜ古泉や朝比奈が自分を見て苦笑いをしていたかがやっとわかった。長門がなぜゲームの終わりと判断したのかもよくわかった。
 そしてあの佐々木の悪戯っぽい笑みの意味も。あの彼をからかうような会話は――もちろん佐々木の趣味も多分に入ってはいたが――涼宮が接近していることに気が付かせないためのカモフラージュだったことを。
 涼宮は彼の顎が落ちんばかりに呆然とした顔を見て、輝くように笑った。カチューシャを外した彼女は、ゴムを使って後ろ髪をまとめていた。揺れる彼女の髪型を見て、彼は追いかけることをあきらめた。
 涼宮の細長くなった影が空き缶の影をスローモーションで飲み込んだ。

 古泉は片手を腰に当てて、唇の端だけで穏やかに笑いながら、ゆっくりと空を見上げた。古泉は一瞬その先を見つめようか迷うような仕草をしたが、それでも結局はそれを見上げた。
 朝比奈は小さくウィンクをして彼に謝ると、長い髪を右手でかき上げた。彼女の瞳が夕日に反射して、キラリと光った。
 長門は無表情なまま、ほんの少しだけ視線を上げた。文庫本を両手で胸に抱きしめて、そのまま彼女は静かに行く先を見つめた。
 彼は立ち止まって、涼宮と佐々木の顔を交互に見た。そしてただ思った。
 ――遠くまで行ってくれ。せめて、遠くまで運んでくれ。
 佐々木は唇を静かにしかし力強く閉じたまま、その行く先を見つめていた。ゲームが終わった。また一つ、彼らの時間が終わった。色々なものを得て、そして色々なものを失うことに気が付いた時間が終わった。空き缶を蹴り上げる音が、彼女の胸に深い波紋のように響いた。涼宮が手を伸ばしていたことを思い出して、彼女も同じようにしてみた。夕日の中伸ばした彼女の手は、どうやっても届きそうにもなかった。
 涼宮は手を伸ばしても届きそうにもなかった空を見上げていた。遠くへと飛んでいくそれは、もう追いかけることは出来なかった。同じように終わってしまうのなら、せめて遠くまで、ほんの少しでも前へ行きたいと思う。
 涼宮はゆっくりと瞼を閉じた。
 ――それでもきっと、いつまでも思い出せるわよね。
 彼らは同じものを見ていた。その視線の先で宙に舞う空き缶が大きな放物線を描いていた。遠い空の向こうへ、大きな大きな放物線を描いていた。

 

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最終更新:2011年10月14日 23:38
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