34-420「憂鬱パラレル:恋人演技」

『憂鬱パラレル:恋人演技』

「こんなに人と話をする涼宮を見るのは初めてだ」と谷口に言われながら、涼宮ハルヒと話をするようになり、数日が過ぎた。
話の流れで、恋愛体験が話題になった。

「中学時代は付き合ってすぐふったらしいな。一人くらい真剣にお付き合いしたくなる男はいなかったのか?」
「普通の男なんてつまんないだけで時間の無駄だったわ。あたしは、そんなつまんない事にかまっている程暇じゃないのよ」
一般的には校庭に変な落書きをする方が、よほど時間の無駄だが。
「そんなことより、あんたはどうなのよ。その冴えない顔から考えて、彼女いない歴=年齢なんでしょうね」
その通りだが、ムッとくる。
「モテないキモ男には、あたしの気持ちなんか判らないでしょうけど」
その口調にあまりにもムカッときたから、思わず大ボラ吹いた。
「言っておくがな。俺は中学時代から付き合っている彼女がいるんだ。今は別々の高校に行ってるけど」
涼宮ハルヒはそれを聞いて少し驚いたが、フンと鼻で笑う。
「あんたなんかで満足する女だから、どうせブスでしょうね」
「自慢じゃないが、俺の女はなかなかの美人だぞ。お前や朝倉涼子に負けないくらいのな。何なら、今度見せてやろうか?」
実際は彼女でも何でもないけど……
「フーン。興味無いけど、最近ずっと退屈だから暇潰しにはなりそうね。今度の土曜日連れてきなさい」
お前、さっきまで忙しい忙しいと言ってなかったか?
それより、余計なこと言ってしまった。
彼女の演技をしてくれそうな女のアテは一応何人かいるけど、誰も来てくれなかったらどうしよう。

「キョン君の彼女?私も是非見たいわねー」
突然会話に入ってきたのは朝倉涼子だ。もしかして、ずっと立ち聞きしていたのか?
「何?キョンの彼女だって?俺はそんな事一言も聞いてないぞ」
おいおい、アホの谷口までやって来たぞ。
「ねえ、国木田君は知ってるの?」
「うん、県外の進学校に行った…でも、先入観植え付けると悪いから、土曜日のお楽しみということにしない」
「土曜日が楽しみだ。どんな奴なんだろ」
「楽しみだね」
「ま、退屈しのぎにはなるかもね」
お前ら全員来るみたいだな。
「言っておくけど、ただの友達を恋人と紹介するのは禁止よ」
「キョンに限ってそんなことあるはずねーよ」
うーん。涼宮以外は恋人の存在を信じ切っているのは何故だ?
その晩、俺は佐々木に電話した。
ちなみに、佐々木が駄目だったら、悪いけど岡本あたりに頼むつもりだった。
「というわけで、一日だけ彼女のふりをして、俺を助けてくれ」
『久しぶりに電話してきてそれかい?』
佐々木怒っているよな。こんなつまらんことを頼まれたら、誰だって気分が悪くなる。
「お願いだ」
お礼に、いろいろ奢る約束した。
『君が僕をどう見ているか、今初めて理解した。僕達の関係について君と僕の間に解釈の相違があり、僕は君を誤解していたみたいだ』
おかげで、一月以上が無駄に経過した、と付け加える。
「急に電話して、変な事を頼んで悪かったとは思うが」
電話かけた瞬間、上機嫌だった佐々木は、今や怒りが極大値に達しているようだった。
『しょうがない。気が進まないが他ならぬ君の頼みだ。了解した。いっそのこと、一日と言わず、一生演技することを提案する』
悪戯っぽくとんでもない冗談を言う。顔が見れればどんな顔しているか少し興味ある。
「冗談でなく、よろしく頼む」
『当日は自転車で迎えに来てくれ。それから、当日の打ち合わせをしたいから明日も同じ時間に電話を入れるように』
「それじゃ、おやすみ佐々木」
『おやすみ。キョン』
やれやれ、何とかごまかせそうだ。
次の日、夕食までの時間を妹とゲームして潰していると、突然電話がかかってきた。
ダッシュで電話を取る妹。そして、二ヘラと笑って
「キョンくーん。女の人ー」
女の人?少し早いが佐々木かな?
『やあ、キョン。一寸早いけど打ち合わせしよう。今良いかな?』
案の上佐々木だ。

「ああ良いぜ。食事までだいぶあるから暇していた所だ」
『まず、当日の予定は?』
「集合時刻は朝9時。詳しい事は涼宮が当日発表するらしい」
『当日発表か。よっぽどユニークな存在なんだね。彼女は』
「おかげでこちらは大変だよ」


『今の僕の気持ちはね。一日千秋のごとく、遠く海外に離れ離れになった愛しい恋人と、一年ぶりに出会う日を待つ人と同じだと思うよ』
「お前に百合の気があるとは知らなかった」
『何言ってるんだ。僕が会いたいのは君だよ』
「そうか。俺もお前と会うのが楽しみだな」ドキドキ
大袈裟な表現だ。全く
『もし彼女達と一緒に行動するなら、行ってみたい所があるのだが…』
そんな感じで、俺達はとりとめのない雑談を続けた。お袋の『ご飯よ、続きは明日にしなさい』の声がかかるまで。

しかし、佐々木がフライング気味で、こんな早く電話かけてくるとは。
もしかしたら、クールな仮面の下は発情期の猫みたいだったり……は無いな。
それより、俺と恋人演技するための役作りに今から努力しているに違いない。そうだ。それに決まりだ。
当日、俺達は集合10分前に着いた。
「遅い」
俺達が最後だった。そのためか、昨日からSOS団団長に就任した涼宮ハルヒはご機嫌斜めだ。
国木田は『久しぶり』と佐々木に挨拶する。谷口は悔しそうな顔で俺と佐々木を交互に見る。朝倉はその笑みを絶やす事なく佐々木を見つめていた。
涼宮は口をアヒルかペリカンのように尖らせて俺を睨む。そして、佐々木を見て柄にもなく溜息をつく。
「でも集合時刻には間に合っているぞ」
「恋人と一緒でラブラブハッピーなあんたと違って、待つ身にとっては時間が長いのよ。罰としてお茶を奢りなさい」
「おいおい、どういう理屈だよ。そんなの認めないぞ俺は」
「キョン。言っている内容は理不尽だが、彼女の気持ちもわかる。ここは彼女の言う通りにしてやるんだ」
佐々木がそう言うのなら仕方ないが、佐々木の言う『彼女』が嫌味に聞こえるのは何故だ?

「あんたに本当に彼女いたとはね。あたしにはぜーんぜん関係無いことだけど」
あの時もその後も、俺達が恋人の演技しているとは、涼宮を含めて誰も夢にも思ってない。幸運なことだ。
何で誰も疑わないのだ?俺ってそんな正直者と思われていたっけ。


お茶が終わり、俺と佐々木のペアと残り4人組で不思議探索することになった。
「言っておくけど、いくら恋人でもキスまでにしておきなさいよ。あんた達まだ高校生なんだから」
「わかったよ」
「4時集合。その時に集めた成果を報告すること。谷口、国木田。さっさと行くわよ」
両脇に谷口と国木田を抱えてズンズン歩いていった。凄い力だ。その後ろを朝倉が笑いを堪えながら(多分そうだと思う)ついていく。
気のせいか知らないが、涼宮ハルヒの後ろ姿は悲しみの涙を堪えているようだった。

「涼宮さんと朝倉さんか。君の周りは魅力的な女の子がいて負けそうだよ」
魅力的なのは事実だが、佐々木が二人と何かの勝負する必要があるかが疑問だ。
「それより、あいつが泣きそうだったのは何故かな?」
「さあ?」
今から考えると、佐々木は知っていて、わざととぼけていたかもしれない。
俺達はその後、映画に行ったり、食事したりした。本当の恋人同士のように。
佐々木によると、万が一ストーカーされていてバレたら問題だから、怪しまれない程度の演技すべきだということだ。
佐々木の方から恋人の演技をしてくれるなら大歓迎だ。恋人になってくれるなら、さらに良いけど。

その日の土曜日の不思議探索は収穫ゼロ。罰ゲームとして次の日つまり日曜日佐々木と何か探して来るという宿題を渡され、来週も佐々木を連れて参加することを命令された。
佐々木が来週も出ることをそれほど嫌がってなくて良かった。
それにちょうど日曜日は、土曜日のお礼として佐々木を奢りに連れて行くことになっていたので好都合だ。
ここで、現ナマを要求しない所が佐々木の奥ゆかしい所かもな。
「あんた、僕っ子萌えだったのね」
その日最後に涼宮が言ったセリフが刺のように突き刺さる。



その後のことを少しだけ話そう。
お遊びクラブである我がSOS団には、幽霊部員を含め2桁の団員が集まった。
毎週土曜日にはSOS団の不思議探索が開かれ、俺と佐々木も強制参加することになった。そして、夏休みには皆で無人島に行く予定だ。
土曜日の恋人演技のお礼として、俺が日曜日に佐々木をどっかに連れて行くのも日課に。
週1で通うことになった塾では、佐々木と一緒のクラスになる。
そうそう、俺と佐々木は団の自作映画の主演男優と女優に選ばれた。
団長もとい超監督によると、宇宙人的超能力的未来的ラブロマンスらしい。何かよくわからんが、熱意だけは感じる。


幸いなことに、俺と佐々木の恋人演技は、当分の間続きそうだ。
(終わり)

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最終更新:2008年07月08日 20:33
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