朝、学校に来ると教室がざわついていた。
ねっとりとまとわりつくような空気と視線。あまり好みではない類のものだ。
中学も終わり間際の受験特有のピリピリとした苛立ちでなく、好奇心と疑問と軽い恐怖だろうか。
何個か机と椅子が倒れ、近くに割れたであろう花瓶のような破片が転がっていた。
中心には二人の女子。尻をついてる方と息を荒げてそいつを睨みつけてる方だ。
転んでいるの方の女子はきょとんとした顔で睨んでいる顔の女子を見ていた。
名前は……知らない。顔なら見たこともある程度のクラスメイトしか情報がでてこない。
そして睨んでいる方はと言うと
「………佐々木。」
普段から冷静の一言に尽きるような佐々木が珍しく息を荒げて立っていた。
声を掛けた瞬間ぐりん。と音がしそうなくらいに顔を急角度でこちらにむけた。
そして今まで見たことが特大の笑顔でつかつかと歩いてきたかと思うといきなり殴られた。
グーで。
思いっきり。
威力と衝撃と疑問符で頭がぐわんぐわん。
「浮気者!!!!!!」
……えっ?
先ほどよりも大きな疑問符にとらわれている間もう一度顔面に追撃。
足払いをかけられ周囲の机やらとともに転倒。後頭部が痛んだ。
そして襟首を掴まれて脳を激しく揺さぶられ何度も後頭部を打ちつけられる。
「何で??何で?ねぇ何で??私がいるじゃない?僕じゃだめなの??
キョン君私可愛くない?ううん!そんな事無いよね?私可愛いもん。キョン君が好きだから。私かわいいんだもん!」
いやちょっとまって、ごめんまって。何が?佐々木が俺の事をすき?
浮気?何のことだ?いや、佐々木の外見偏差値は高いとは思うが…はい?
「ちょ、ちょっと待て!意味が分からない!まずは落ち着け佐々木!!お前らしくないぞ!!」
「うるさい!!!!!!!」
佐々木は俺にもう一度痛い一発を顔面にくれるとすばやく離れた。
佐々木は走って自分の席にむかう。
先ほどから状況がつかめない。周りの奴らも疑問符でいっぱいのようだ。
ただし先ほどよりは疑問符は少ないだろう。
何しろ佐々木が俺に浮気者と叫んで好きだの可愛いのだのいってたからな。
ただの痴話喧嘩として処理されるだろう。当時者の俺は疑問だらけだがな。
空気が弛緩しかけていた。
痛む頭を抑えて立ち上がる。
俺も少し油断していた。
だがざわ…。ともう一度教室が波打った。
自分の机の自分のかばんをまさぐっていた佐々木は満面の笑顔で。
ナイフを、もって、走って、こっちに、とんっと、踏み切って。
以外にも先ほどの一撃よりは衝撃も痛みも無かった。
でも……腹から、血が血が血が。
佐々木が…刺した?俺を?…何で?……浮気したからか?
おかしい。佐々木とは付き合ってない。結婚もしてない。
もちろん相手の女子ですら何もしてない。会話も一回したかしないかぐらいなのに。
なんで刺されなきゃいけないんだ?
何で?痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
痛覚を無視できない俺に佐々木はやはり満面の笑顔で何か言っているようだ。
おかしいよね?あの人キョン君の事好きなんだって?ね。
キョン君はとっくに僕にメロメロなのにね?
ふふ。でもありえないよね?おかしいもん。
あの人、好きになる理由なんてないもん。
キョン君の事なーんにも分かってないよ。
一日に平均して私がキョン君に見られる回数は約27.2回なのにあのひとは約1.6回しかみられてないんだよ?
おかしいよね??
キョン君は私の事が好き。
私もキョン君の事が大好き。
うふふ。私たちの中に入ってこれないのにね?
おかしな人ー。あれキョン君顔が引きつってるよ?
何で?あっわかった!!私が可愛いからでしょ?
…ふふ。キョン君。
ごめんね。
嘘。
痛いんだよね?
ふふ。正直浮気した事は許せないけど。
キョン君が好きだから許してあげます。
罪を憎んで人を憎まずだよ!!
私偉い?ほめてほめて!わーい。
…ふふ。キョン君の事ずーとずーとずーと好きです。
君が死んだら、君の体は食べてあげるね?つま先から髪の先までぜーんぶ。
まずキョン君の腕を切り出して鮮度がいいうちにお刺身でいただいちゃいます。
指の部分は各自切り出してウインナーみたいにしたらおいしそう!
あ、でも安心してね?ちゃんとつくるから。
キョン君ウインナー。
小腸で。
後は肉付きのいい部分でスペアリブでしょ?
足は筋肉がついてるからから揚げとかにしてもおいしいと思うんだー。
鳥のから揚げとかでももも肉つかうじゃない?
胴体部分は内臓とかもあるし栄養たっぷりだと思うんだー!
だから佐々木さん特性ハンバーグを作る予定なんだよ!!
ふふ、キョン君の口にも詰め込むね?
そのときは死んでるだろうけど味わって?
さあいよいよキョン君フェイスに突入だよ!
僕が一番期待してるのは…ふふ。当ててみてじゃーん正解は目玉!
…なんて嘘ー!!キョン君ひっかかったー!!やーい!やーい!
本当の正解は頬肉だよ。
珍味なのですよ。本マグロでもわずか数百グラムしか取れないと言われる貴重な部位。
キョン君の体は全部貴重だけどね!!
脳みそももう決めてるんだよ?おそばに入れてたべようかなーって!
おいしそう…つるつるしこしこの麺に絡むキョン君の脳みそ…うん。
よだれがでちゃうね!…髪の毛は煮てお味噌汁みたいにしちゃうかな?
わかめみたいにさ!
あっ骨が残っちゃう?
キョン君ごめーん!!
流石のかわいいかわいい佐々木さんでも骨は無理だよ…。
………なんて言うとでも?
安心して?考えてあるのです。
粉末にしてわかめとかハンバーグに練りこもうと思ってるんだー!
後脳みそかけそばの薬味として使おうかなって!
頭いいよね?私。
かわいいかわいいキョン君の嫁だものね?
そしてね?そしてね。そしてね。そしてね?
なんと全部食べ終わる頃にはですね。
かわいくて頭が良くて最高のキョン君の嫁の佐々木さんの計算によれば約三ヶ月かかるんだけど全部食べ終えるとね?
わたしとキョン君が完全に一つになるって事なの!!!
すごいよね?
そこらへんの馬鹿みたいなカップルがいう一つになるよりも比べ物にならないくらいのレベルで一つなんだよ?
…ふふ。そんな事しなくても一つだけどね?
キョーン君?
そろそろ死んだ?
そろそろ?
ふふ、じゃ最後ね?
浮気したキョン君なんてキョン君じゃないもーん。
早く私と一つになろうね?
じゃ、おやすみ。」