67-9xx「キョンの望みであるなら」

 何度でも言うよ。
 キョン、キミはキミ自身を信じていない節がある。けどね、キミは凄い奴なんだぜ?

 たとえば僕だ。僕はキミにたくさんのものをもらったからね。
 キミとこうして一見詮無いような話をしているだけでもついつい顔がほころんでしまうように、僕はいつだって沢山のものをもらってきたんだ。
 場を繕う為に作られた「私」や「僕」の作り笑いなんかじゃない、心から笑わせてくれたキミだから。
 そんなキミがつまらない奴なはずはない。だからキミを信じて欲しい。

 ほら、また困ったような顔をする。
 けどね、こうしてキミと過ごす時間はけっして迷惑なんかじゃないよ。
 誰に対してもでも、あからさまに「私」や「僕」を演じてみせる僕が言うと信用できないかもしれないけれど、こればかりは掛け値なしだと保障できるホントの話さ。

 ねえ、キミは僕なんかを持ち上げてくれた事もあったね?
 キミに到底出来ないような事であっても、そしらぬ顔で成し遂げてしまうような奴だと言ってくれた事もあったね?
 なら、僕なんかを信じてくれるなら、僕が信じているキミを信じて欲しいんだ。

 僕にこんな喜びをくれるキミが、つまらないヤツなはずなんてない。
 僕が感じている喜びが、つまらないものだなんて言わせない。

 くくっ。
 キョンと二人、彼の自室で誰もが驚愕するような事件に取り組みながら僕は笑った。
 彼にどうしても言ってやりたい言葉があると気付いたから、だから、そしらぬ顔で冗談のように織り交ぜた。

「僕は今までになく楽しんでいるからね。お礼の言葉では足りないほどだから……」

 ああそうとも。
 言葉なんかじゃ足りない。
 僕の貧弱な語彙ではこの喜びを表現するには足りないんだ。だから、言葉に代えてキミに対して表現しよう。

 そうとも。この喜びの為に、僕は何を代価にしたってかまわないくらいなんだ。
 そんなキミが無力でつまらない奴なはずがないだろ。

 代価なんか考え付かないくらい大きな幸せを貰ったんだ。
 だから代価はキミが考えて欲しい。僕がちょっとでも義理堅い性格だと捉えて貰えるなら……ほんの少しでもいいんだ。考えて欲しい。
 僕に払って欲しい代価を、僕の事を、キミの頭脳の欠片で良いから考えていて欲しい。
 元々貰ってばかりだし、強く要求なんかしないからさ。

 キョン、キミは凄いヤツだ。
 キミの妹さんに対してだけじゃない、きっとあの涼宮さんにさえ、通りすがりの僕にまで、大きな喜びをくれる魔法使いみたいな人だよ。
 だからキミはキミを信じて。僕を信じてくれるなら、僕が信じるキミを信じて。
 キミは、決して無力なんかじゃないんだよ。

 この物語に通った筋が、あの涼宮さんに宿る「力」とやらであるのなら。
 涼宮さんの「鍵」と、僕の「鍵」が同じキミであるのなら。
 なら、キミが無力なはずなんて無いんだ。

 僕が今感じている幸せ、涼宮さんが感じているであろう幸せ。
 それが同じ「鍵」に、そう、キミに起因するものであるというならば。キミは絶対たいしたヤツだ。キミこそマスターキーなんだよ。

「……お礼の言葉では足りないほどだから、キョンの望みであるなら、なんでも言うことをきくつもりでいるよ」
 くく、けれど現実にはキミが僕に何も望まないことくらい、とっくに解っているさ。
 だから、僕はもうほんの少しだけ頑張ってみよう。
 キミはきっと僕に何も望まないから。

 目的の為に、キミはただ邁進するだろう。
 けれど、すべてが終わるまで、後ほんの少しの時間だけ、ただキミの傍らで頑張るくらいは許して欲しい。
 だから僕に頑張らせて欲しいんだ。
 後ほんの少しだけね。
)終わり、或いは続く

※関連 涼宮ハルヒの驚愕(前)、自室シーンより。

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最終更新:2012年09月08日 03:10
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