68-191「佐々木さんのキョンな日常 侵入者 涼宮ハルヒ」

 おだやかで落ち着いた世界 それが私の望むものだと、誰かが言った。そう、私は周囲が考えている
よりも平凡であり、面白みのある人間ではない。案外流されているところがあり、彼が自分をほめてくれ
るのがこそばゆいほどだ。だから、あの時、私はその選択をして別の道を歩むことになった。それでいい、
それが自然な流れだと。運命にすべてをゆだねるわけではないが、そうなるのが私と彼の関係の結末だと、
そう考えていた。

 ”嘘だね”頭の中に響く声。”いつまで誤魔化すつもりだい”
 ”口にしたじゃないか。たった一人の、この世界で愛すべき存在。それが彼だと。”
 私の心が揺れ始め、穏やかな世界が変化していく。本当の気持ち、私は何を望む?私がほしいものは、、、


 「キョン、先に部室に行っててくれないか。僕は長門さんと図書室によってから来るよ。朝倉さんも委員会
の話し合いがあって遅れるらしいから、一人で待ってもらうことになるけど。」
 今日の放課後、俺達は文芸部のこれからの活動方針を話し合うことを決めていた。とりあえず、方針を決めない
事には前には進めない。一応部員もそろったことだし、今後の活動を行う上でそれは必要なことだった。
 佐々木と別れ、俺は一人部室へ向かう。借りてきた鍵で扉を明け、部屋に入り窓を明け、空気を入れ替え、俺は
清掃用具入れから道具を取り出し、部室の掃除を始める。長門たちは必ずこれをやっているそうだが、頭がさがるね。
 掃除を終えたあと、俺は椅子に座り、長門から先日借りた本を読んで佐々木達を待つことにした。
 SF小説だが、もともと俺が好きだったジャンルで、しかも面白いのでここの所、暇なときはずっと読んでいる。
やっぱり本はよいものだ。長門は司書に向いているかもしれない。
 10ぺ-ジぐらい進んだところで、部室の扉が開く音が聞こえたので佐々木達が来たと思った俺は、そちら
に視線をやると、そこに立っていたのは佐々木と長門ではなく、長い綺麗な黒髪にカチュ-シャをつけた、
佐々木にまさるも劣らない美人な女生徒だった。佐々木の知り合いではない(俺は佐々木の友人なら全員知っている)
ので、おそらく長門か朝倉の友人だろうと俺は思った。
 「ここ、文芸部よね。」
 その通りだ。一応そう表示しているし、部員もようやく揃えたばかりで、まだ何も活動はしていないが、文芸部で
あることは間違いない。
 「入部希望者か?いま部長はいないんだが、もうすぐ来ると思う。少し待ってもらえるなら-」
 「見学させて。」
 俺の言葉を途中でさえぎり、女生徒は勝手に椅子に腰かけると、後は口を固く結んだまま黙って
しまった。何なんだ、こいつは。
 とりあえず、話をするのは佐々木達が来てからだな、と思い、俺は読書の続きをすることにした。
 その前に、俺はその女生徒のクラスと名前を聞いた。
 「一年九組。涼宮ハルヒ。」
 それだけ答えると、その涼宮と名乗った女生徒は、貝のように口を閉じてしまった。


 沈黙は続いたが、それを破ったのは涼宮と名乗った女生徒だった。
 「それ、面白いの?」
 俺が読んでいる小説のことを指しているのはわかるが、きちんと主語・述語・形容詞を入れてくれ。
 「面白いよ。ここの部長が貸してくれたんだが、読み応えはある。」
 「ふーん、そうなんだ。」
 涼宮の顔には、何故か不満そうな表情が現れている。余計なお世話だが、美人が台無しである。
 「ねえ、アンタ、世界て、面白いと思う?」
 いきなりスケ-ルがでかい話だな。世界て、一体どこまでの範囲を言うんだ。
 「高校に入学したら、何か面白いことがあると思っていた。何か楽しいことが待っているだろうと期待して
いたわ。だけど、ダメね。クラブを全部回ってみたけど、ワクワクさせるようなものは一つもなかった。」
 「そういえば、クラブ活動を全部回っているという女子がいるとは聞いたが、あれはお前だったのか。」
 てっきり俺は佐々木のことだとばかり思っていたのだが。
 「佐々木さんて、誰?あたしとおんなじことをやったの?」
 ああ。俺の親友でな。好奇心と探求心の塊だ。
 「ふーん。で、この文芸部は何か面白いことをやるの?」
 それを今から皆で相談するところだ。お前が面白いと感じるかどうかはわからんが。
 「そうね。あんまり面白くなさそうね。」
 涼宮はそう言うと、椅子から立ち上がる。おいおい、何も見学していないじゃないか。一体何しに来たんだ。
 「本当につまんない。中学時代と変わらないじゃない、これじゃ。」
 さっきより涼宮は不満の色を露わにし、唇がペリカンの口のようにひん曲がっている。
 「邪魔したわね。」そう言いながら、部室を出ようとした涼宮に、俺は声を掛けた。
 後から思えば、それは余計なことだったかもしれない。
 「全部のクラブを回ったて言ったよな。んで、その中にお前を面白い気持ちにさせるようなクラブはなかった、と。」
 「そうよ。」
 「だったら、お前が作ればいいんだよ。お前が面白いと思うような活動をするクラブを。人の敷いたレ―ルの上を歩く
んじゃなくて、お前自身がレ-ルを敷けばいい。」
 最後の言葉は佐々木のパクリだが、我ながらいいセリフだと(その時は)思った。
 その言葉を聞いたときの涼宮は、大きい目をさらに大きくして、つい先ほどまでの不満顔はどこへやら、輝くような笑顔を浮かべていた。
 「そうよ!」
 部室どころか、外にまで響くような大きな声で涼宮は叫んでいた。
 「自分でクラブを作ればいいのよ!」


 「コロンブスの卵だわ!何で今まで思いつかなかったのかしら、アンタ、天才ね!」
 いや、俺は凡人だ。親友は間違いなく天才だが。
 「そういえば、顔は平凡ね。」
 余計なお世話だ。まあ、俺が美男子とは言えないことは事実であるが。
 「アンタ、名前は?」
 実に魅力的な笑顔を浮かべている涼宮に、俺は自分の名前を名乗ろうとした時、部室に佐々木と長門が
入ってきた。
 「キョン、お待たせ。図書室で過去の文芸誌を見つけたんで借りる手続きをしていたら遅くなってしまっ
た。済まなかったね。」
 涼宮は、俺と佐々木を交互に見て、「アンタ、キョンて言うんだ。面白い名前ね。」と言い出し、俺が
「あだ名だ」と言ったが、すでに遅し。涼宮にも俺は『キョン』として認知される羽目になった。
 「じゃあね。」
 最後にそれだけ言って、涼宮は文芸部の部室から出て行った。本当に何しに来たんだ、あいつは。
 「誰だい、今の美人は。あんな知り合いが君にいたのかい、キョン。」
 一応見学に来た、新入部員候補だったんだが、三〇分も経たないうちに、新クラブ創設者に宗旨替えした
らしい。一年九組の涼宮ハルヒとか名乗っていたが。
 「なかなか元気そうな人だね。」
 よくわからん。話した感じでは気分変動が激しそうだ。お前とは大違いだな。一緒なのは顔が美人てことぐらいか。
 俺の言葉に、何故か佐々木は黙ってしまい、長門は顔を赤らめている。どうした、二人共。何か俺、変なことを言っ
たか?
 「全く、キョン、君は、、、、君の言動には慣れているつもりだが、、、まあ、いいよ。会議を始めよう。」
 佐々木の進行で会議を始めて、しばらくして朝倉も合流し、今後の文芸部の活動方針を煮詰めていった。佐々木を進行
役にしたことで会議は効率的に進み、朝倉や長門の提案もあり、話し合いは比較的早く終わった。とりあえず、文化祭を
新生文芸部のアピ-ルの場とすることと決定し、ずっと休刊していた文芸部誌の復活を当面の目標にすることにした。
 「キョン、しっかり書いてくれよ。」
 俺に文才があるとはとても思えんが、やってみるさ。何事も挑戦だ。
 その後、俺たちは朝倉の家にお邪魔し、朝倉が淹れてくれたコ-ヒ-を飲み、お菓子を食べながら無駄話を楽しんだ。ああ、
それから、ちゃんと勉強もしたぞ(佐々木の提案だったんだが)。中学時代の俺からは考えられないことだが、真面目にやっ
たさ。何せ、俺の隣には天才がいて、おまけに長門も朝倉もかなり頭がいいことが判明した。勉強もはかどるさ。待てよ、国
木田も頭良いし、馬鹿は俺だけか?
 「キョン、君は馬鹿じゃないよ。今までのやり方に問題があっただけだ。僕たちと一緒にやれば、君の成績は間違いなく向上
するさ。それは一年間、君と一緒に学んだ僕が保証する。」
 お前はいつもそう言ってくれるが、どうなんだろうか。まあ、お前の言葉なら、俺は信用できるのだが。
 「本当にキョン君と佐々木さんて、仲がいいのね。」
 朝倉の言葉に佐々木は微笑み、「私たちは親友だからね。」と言った。

  ”邪魔はさせないよ。誰にも。涼宮さんには特に、ね”

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最終更新:2012年12月01日 17:02
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