68-229「佐々木さんのキョンな日常 侵入者 涼宮ハルヒその4~」

 ”創空座標sk-zP457、、、、定外因子発生を確認、、、、修正項目、、17に伴い、定外因子を融合封鎖
実行、、確認、、引き続き、、、、続行、、、情報固定、、、、”


 北高のクラブ活動については、学生規約にてその活動期間を、4月30日から翌年の4月29日までと定めて
ある。これは何を意味するかと言えば、予算措置に関して前年度の活動実績を査定し、なおかつ新入部員の数
に応じて各クラブに予算を配布するための根拠を確保しているわけだ。毎年4月後半に生徒会と各クラブの部
長が集まり、会議を開きその場において、予算配分が決定される。ちなみに、この予算には予備費なるものが
存在し、配分後に各クラブ活動に伴う実績(運動部で言えば、全国大会出場など)に応じて追加措置が取られる。
 この会議に、文芸部部長・長門優希が出席し、部員増が認められたのか、前年度よりは増加した(といっても
雀の涙だが)予算を獲得してきた。これで、正式に文芸部の新年度の活動が公的にスタ-トすることになったのだが、、

「え、長門が生徒会室に呼ばれた?」
「うん、昼休みに、放課後生徒会室に来るように言われた、て。何で呼ばれたかはまだわかんないけど。」
 放課後、俺と佐々木は部室に行こうとしていたが、朝倉が俺たちを呼び止めた。
「何があったんだ?」
 生徒会との予算配分の会議は昨日終了している。提出書類に不備などはなかったはずだが。
 首をかしげていると、教室に長門がやってきた。
「長門さん、生徒会の話て何だったの?」
「それが、部員の数についてなんだけど、、、」そう言いながら、長門は俺の方を見る。
「キョン君が、新しいクラブの設立メンバ-に名前が記載されている、て。それはどういうことか説明して欲しい、て
言われたの。どちらに正式に所属しているのか、立場を明らかにするように、て。」
 何だと?俺が新しいクラブの設立メンバー?どういうことだ?聞きたいのは俺の方だ。
 先の学生規約において、各クラブの部員たちは、二重所属は認められてはいない。どちらかに所属を固定する必要が
ある。活動においてはどちらに参加しても構わないが、正式な部員としては扱われない。また、提出書類は本人直筆の
入部届け(サインと印鑑付き)を添えて出すことが義務付けられる(文芸部に入部するとき、佐々木が勝手に書いた物は
俺が後で新しく書いた)。また、予算措置施行後、部員の退部が多い時には予算は減額される。これは、(佐々木に言わ
せると)厳格公正な予算運営を行うためのものらしい。
 「俺は文芸部以外に入部届けも設立届けも出していないぞ。」
 「キョンがそんな物を出していない事は私が保障するわ。」
 「私もそう言ったんだけど、生徒会には出ているらしいの。昨日の予算会議の後提出されたみたい。」
 そうなると、その新クラブに予算は支給される可能性は低いが、文芸部に影響が出る可能性はゼロではない。
 「一体誰が―」
 勝手に俺の名前を使ったんだ、と続けようとした時だった。
 「あ、いた!キョン!」
 教室中に響くような大声で、俺のあだ名を呼ぶ声に俺達が入口に視線を向けると、そこに立っていたのは
先日、文芸部に見学に来て、その時と同じような輝く笑顔をうかべている涼宮ハルヒだった。


 クラス中の視線を集めていたが、それを全く気にすることなく、どこかのお姫様かというくらい堂々とした態度
で一年5組の教室内に入り込み、涼宮は真っ直ぐ俺達の方へやってきた。
 「?」
 いきなり涼宮は俺の手首を掴み、俺を立ち上がらせると、一気に駆け出した。すごい馬鹿力だ。
 「キョン!」
 後方で悲鳴にも似た佐々木の声が聞こえる。涼宮はすごい速さで走るので、俺も気を抜くとそのまま転んでしまい
そうだった。暴走して止まらない、まるでじゃじゃ馬だ。
 ようやく止まったのは、部室棟の我が文芸部の近く、物置と化している鍵のかかった空き部室の前だった。いつの
間にかこんなところまで来ていたのか。こいつ、陸上部に入ったほうが良さそうだ。て、余計なツッコミは後回しだ。
 「おい、涼宮。一体何のつもりだ?」
 答える代わりに、涼宮は一枚の書面を俺に突きつける。
 「私に協力しなさい!」
 涼宮が俺に突きつけたのは、新クラブ設立の届け出用紙だった。そこには、発起人として涼宮の名前と俺の本名が
記載されていた。何故俺の本名を知っている?あだ名しかこいつは聞いていないはずだが。
 「キョン。アンタとなら、絶対に私が思うような楽しいクラブを作れる。是非協力して欲しいわ。確信したのよ、
アンタのあの言葉で。アンタは私のクラブに必要不可欠な人材なのよ。」
 佐々木にも似たようなことを言われたような気がするが。そういえば、あいつも文芸部の入部希望に俺の名前を先に
書いていたな。案外似たところがあるのかもしれないな。だが、ちょっと待て。
 「涼宮。まず、少し落ち着け。話を整理させてもらう。お前は新クラブを設立することを思いついた。文芸部に見学
しに来た時にだ。そのきっかけは俺との会話で、てことでいいな?」
 「そうよ、そのとおりよ。」
 「なるほど。そして、お前は新クラブの設立申請書を生徒会に出した。お前と俺の名前を添えてな。ここまでは理解した
。だけどな、涼宮。俺はお前とクラブを設立することを話し合ったことはないし、承諾した記憶もない。おまけに俺は文芸
部の正規所属部員だ。二重所属は認められていないんだ。」
 「だったら、文芸部をやめて、私のクラブに来ればいい。それで問題解決よ!」
 前言撤回。佐々木よ、こんな女と一緒にして悪かった。俺は佐々木に心の中で詫びを入れると、深くため息をついた。
 こいつ、頭大丈夫か?いうことが無茶苦茶だ。何で俺がこいつの新クラブのために親友のいる文芸部を抜ける必要がある。
 思わず、怒鳴りたいところであったが、女を怒鳴るのは好きではない。ここは俺も落ち着こう。
 一息ついて、俺はゆっくりと話し始めた。
 「なあ、涼宮。お前の行動力には感心しているよ。思いついてすぐにクラブを設立しようとする意気込みは、俺もすごいと
思う。大したことのない俺を買ってくれるのは嬉しい―」
 「でしょう!だから私と―」
 「待てよ、まだ話している途中だ。だけど、俺は文芸部員だ。お前と同じように俺を何故か評価してくれる親友が一緒にや
ろうと誘ってくれて、新しい部長と部員達と一緒にやることを決めたんだ。廃部寸前だったんだが、みんなで立て直す、て決
めてこれから始めるところなんだ。俺は親友の力になってやりたい。部員達の手助けをしたい。そう決めているんだ。」
 涼宮は黙って俺の話に耳を傾けている。
 「お前が作る新クラブは面白いものになるのかもしれない。だけど、今言えることは、俺はお前の力にはなれない。俺がやるべき
ことはもう決まっているんだ。」
 ふと気づくと、俺達の側に、佐々木と長門と朝倉、それと見知らぬさわやかスマイルを浮かべたハンサム野郎が立っていた。


 「涼宮。俺の名前は消しておいてくれ。文芸部の部長が、説明を求められているんでね。このままだと、
文芸部の活動に支障が出るんだ。」
 涼宮は欲しがっていたおもちゃを買ってもらえなかった子供のように、膨れづらをしている。
 「涼宮さん。彼の言うとおりです。あなたの気持ちは分かりますが、彼は文芸部を抜けられるつもりは
全くありませんよ。このままでは彼や文芸部に迷惑をかけるだけです。」
 爽やかハンサム野郎はよくわかっているようだ。しかし、何もんだ、こいつは?
 「すいません。僕は古泉一樹といいます。涼宮さんと同じ1年9組で、涼宮さんとは友人です。」
 いささか問題の有る奴に、まともな友人がいることはいいことだ。涼宮、そいつを大事にしといたほうが
いいぞ。
 「、、、わかったわよ。古泉くんがそう言うなら仕方ないわね。」
 まだ完全には納得していないような表情ではあるが、涼宮はそう言うと申請書を折りたたむ。
 「だけど、キョン。文芸部に飽きたら、いつでも私のところに来なさい。面白いことを考えとくから。」
 、、、お前、人の話ちゃんと聞いていたか?
 古泉に促され、涼宮はこの場を離れた。全くもって、やれやれだ。俺はため息をつく。
 「キョン、大丈夫かい?」
 佐々木が心配そうな顔で俺を覗き込む。涼宮の馬鹿力で引っ張られたので、少し腕にしびれが残っているが
じきに取れるよ。それにしても済まなかった。心配かけて。長門、朝倉。迷惑かけたな。
 「気にしなくていいよ、キョン君。それにしても、涼宮さんて、噂には聞いていたけど、かなり変わっている
わね。」
 朝倉、お前、涼宮のこと何か知っているのか?
 「うん、一年9組に中学時代の同級生がいるんだけど、とにかく突拍子もない行動をするらしいの。思ったことを
すぐ行動に移さないと気が済まないらしいのよ。そして、あんまりクラスの人と話さないし、友達も少ないんだって。
でも、さっきの古泉君とはよく話しているらしいの。何か中学校からの友人らしいわ。」
 そういうところは俺と佐々木の関係と一緒だな。
 「でも、キョン君。えらく涼宮さんに気に入られたようね。」
 冗談じゃない。気に入られたにしても、あんなふうに振り回されるのはごめん被る。古泉だったか?涼宮の友人を
やっているというだけで、俺はお前を尊敬する。
 「とりあえず、部活を始めようか。」
 「そうね。問題も解決しそうだし、私は明日生徒会室へ行って説明してくるね。」
 「長門、俺も一緒に行って俺から説明するよ」
 そう言いながら、皆部室に入る。
 「それにしても、キョン。君の言葉は嬉しかったな。君が僕や文芸部のために力をかしてくれると、はっきり言って
くれたことが。」
 当たり前さ。俺達は親友だぜ、そうだろう、佐々木。
 「うん、そうだね。」
 その時の佐々木の表情は、俺の記憶の中に永久保存しておきたいほど魅力的な笑顔だった。


 後日、涼宮が新クラブの設立申請書を提出し、申請者として涼宮と古泉の名前が並んでいたことを俺は聞いた。最初
からそうしろ、と俺は言いたかったが。そしてどうやってか知らないが、なんとか部員をかき集めたらしい。朝倉の話
では、書道部から二年生を二人引き抜いたらしいが、よく入ってくれたな。
 そして、俺にとって少し頭の痛いことがあった。涼宮が新しく作ったクラブの部室―その場所は、文化棟の空き教室
、すなわち我が文芸部のご近所であるということだ。

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最終更新:2012年12月01日 17:04
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