68-256「佐々木さんのキョンな日常 文芸部とSOS団」

68-256「佐々木さんのキョンな日常 文芸部とSOS団」

 ある晴れた日の日曜日のことだった。俺達文芸部の部員たちは、地元のローカルTV局が主催する県内最大
のフリ-マ―ケットに来ていた。別名、大我楽太市との県民から称されるこのフリマは、単なるフリマでは
なく、屋台や中古車ディ―ラ-なども出店する大型イベントで、人出も多い。
 このフリマの話を持ち込んだのは、文芸部に週2回は顔を出す国木田である。塾に通う他校の生徒から、
特典付きの入場券をもらったらしく、みんなで行かないか、と誘われたのだ。
 ついでに書けば、国木田は自分が通う塾で、かなり人気があるらしく、よく何かしらもらってくる。この
前は、一学年上の女生徒からお菓子をもらったとかで、文芸部におすそ分けしてくれた。やるな、国木田。

 「それにしても、すごい人出だね。」
 俺達はかなり朝早く出たのだが、会場に着いた時には多くの人が来ており、大賑わいだった。
 俺と国木田が好きなB級グルメの屋台や、特産・名産物店があるかと思えば、子供たちが好き
なキャラクターショ-など、何でもありのお祭り空間である。
 「全部回るのは、ちょっと大変かもしれないね、キョン。」
 そう言う佐々木は、この前の黄金週間に俺が佐々木にプレゼントした洋服を着てきていた。何度
でも言うが、本当に佐々木に良く似合っている。
 朝倉が何か言いたそうな顔をしていたが、とりあえずスルーだ。

 「まず、どこから回ろうか?」
 「私は古本市のところに行きたいな。」
 会場案内のパンフレットを見ながら、長門が答える。
 ある程度は、扱う商品によって場所は仕分けされており、古書ならA区画、古美術品ならC区画などとわかり
やすくなっている。
 「そうだな、長門の言うとおり、まずは古本市の所へ行ってみますかね。」
 まあ、俺たちは文芸部だし、一番関係ありそうな所だ。何か掘り出しものがあるかもしれない。
 古本市が行われているA区画も、他の会場同様多くの人で賑わっていたが、長門も大いに気に入ったらしく、
その目は輝いており、熱心に本を吟味していた。
 俺もかなり古いが、名作と呼ばれたSFや推理ものを見つけ、しかも格安だったので、即決でお買い上げをした。
 「宝探しみたいなものだね。」
 確かにそのとおりだ。さすが佐々木だ。うまいことを言う。

 大分安かったせいもあり、五人全員でかなりの本を買い込んだので、大荷物となったのだが、俺と国木田で手分け
して持つことにした。こういう時こそ男の出番なのだ。
 大荷物を担いで、次の区画へ行こうとしたときだった。
 「キョン!」
 でかい声で俺のあだ名が呼ばれ、俺達は思わずその声が聞こえた方向へ顔を向ける。
 「あんたたちもここに来ていたの?」
 声の主は、そう。俺らが間違える訳はない。そこに立っていたのは涼宮ハルヒだった。
 しかも一人ではなく、横に古泉が並び、その後ろに愛らしい雰囲気を持つ女性と、何となく涼宮に感じが似ている
けれど明るい笑顔を見せている女性がいた。


 涼宮が設立したクラブは、部員はなんとか集めたらしいが、予算は降りず、扱い的には研究会と同様である。
 俺が驚いたのが、そのクラブの所属部員に谷口の名前があったことだ。後で谷口に聞いてみると、涼宮に無理
やり書かされたらしい。何でも谷口と涼宮は同じ東中学校出身で、しかも3年間同じクラスだったらしい。高校
に入学して、ようやく別のクラスになって喜んでいたのだが、名前を借せと言われサインしたらしい。お前、
涼宮にどんな弱みを握られているんだ?
 それから、谷口は古泉のことも教えてくれたのだが、古泉は中学二年の時に転校してきて、それ以来谷口と同じ
ように涼宮のクラスメ-トであり続け、高校でも継続中なのだそうだ。また意外なことだが、転校してきたばかりの
古泉に最初に声をかけたのが涼宮であり、それ以来二人は友人らしい。

 「ああ。国木田に入場券をもらったんでな。お前は何だ?不思議な物でも探しに来たのか?」
 涼宮の問いかけにそう答えると、涼宮は一瞬虚を突かれたような表情をした。
 「よくわかったわね。キョン、あんたなかなか感が鋭いわね。」
 そうでもない。日頃のお前が、我が文芸部の近くのお前の部室で、外にも響くでかい声でのたまっている言動
を聞いていると、大体想像がつく。
 ところで、こいつが作ったというクラブの名前だが、SOS団と言う。その名前になった最もらしい経緯を、最近話す
ようになった古泉から聞いたが、本当に何を考えているのかね。爽やかスマイルが売りの古泉だが、その笑顔の下では
案外苦労しているのかもしれないな。

 「やあ、君がキョン君か。ハルにゃんと一樹くんが良く話題にしているよ。それと国木田くん、久しぶりだねっ。」
 「お久しぶりです、鶴屋さん。」
 明るく元気な上級生に、国木田は丁寧に挨拶をする。
 「相変わらず国木田くんは可愛いね。また昔みたいに遊びにおいで。何なら文芸部の部員たちも一緒に連れて来る
といいよ。」
 国木田。お前この人と知り合いだったのか?
 「うん。小学校の先輩なんだ。中学校は僕の家が引越ししたから別なんだけど。」
 へえ、そうなのか。人間意外なつながりがあるものだ。それにしても太っ腹な人だ。国木田だけでなく、俺たちにも
一緒に来いとは。
 「鶴屋さんは鶴屋財閥のお嬢様なんだよ。おうちに何度かお邪魔したことがあるけど、すごい豪邸だよ。」
 何でそんな人が北高にいるのだろうか?光陽園女子の方が合っているような気がするのだが。
 「あの人は自由奔放な人だよ。何者にも縛られず、自分の価値観で行動する。本当にすごい人なんだ。」
 最初の印象で、涼宮に似ていると感じたのは、その為か。容姿が似ているのではなく(髪が長いのは一緒だが)
その人間が持つ雰囲気―にじみ出る人間の本質が似ているのだ。
 それにしても、鶴屋さんのことを語るときの国木田の口調は、何となく熱をおびているような気がするのだが。

 その後、何故か文芸部とSOS団は一緒に会場を回るハメになった。
 涼宮は怪しげな品物を見つけては真剣に考え込み、古泉はボ-ドゲ-ムに興味を示し、いくつか購入していた。
 俺と佐々木は洋楽のSP盤が大量に出ているブ-スなどに行き、何個か気に入ったものがあったので、これまた
お買い上げをした。


 「結構大荷物になりましたね。」
 フリマからの帰り道、古泉の持つ荷物の多さに、俺は同情した。
 昼食後、再び他の区画をまわり、涼宮はいらぬものを買い込み、それは全部古泉が持つはめになった。
 「少し貸せよ、古泉。いくらなんでも一人じゃ多すぎる。」
 俺と国木田で、古泉の荷物をいくつか引き受けた。涼宮め、いったいどんだけガラクタを買ったんだ。まあ、
あいつにとっては価値あるものなんだろうが。

 文芸部の女子とSOS団の女子は、この数時間、一緒に回るうちにすっかり仲がよくなったようだ。荷物を運ぶ
俺達の前を、おしゃべりに花咲かせながら楽しそうに歩いている。何か心和む光景である。
 「佐々木さん、その服とても似合っていますね。どこで買ったんですか。」
 朝比奈さんは佐々木の着ている服に興味を示し、話しかけていた。
 「佐々木さんの着ている服は、OOのM&RKで取り扱っているものですよ、朝比奈先輩。」
 何故か佐々木でなく、朝倉が答える。
 「それはキョン君が選んで、買ってくれたものなのよね、佐々木さん。」
 おい、朝倉。余計なことは言わんでいい!
 「そうね。私もこの服はとても気に入っているの。自分でいうのもなんだけど、何か私にピッタリくる感じがする
のよ。」
 佐々木にそう言われると、俺としても悪い気分ではない。
 「へえ、キョン君て、いいセンスをしているんですね。」
 朝比奈さんにお褒めの言葉をいただき、俺はどこかこそばゆい気持ちになる。ただ、単に佐々木に似合っていたから
選んだだけで、俺はそこまでセンスがあるわけではない。

 「それにしても、あなたと佐々木さんはよい関係のようですね。」
 古泉の言葉に俺は首肯する。大した取り柄がない俺を、親友といってくれる数少ない人間だ。あいつの友人である
ことは、俺にとっても誇らしいことだ。
 「ん~ちょっと違うんですが。まあ、でも僕はあなた達二人がうらやましいですよ。お互いに固い信頼関係がある。」
 確かに俺にとって、佐々木ほど信頼出来る奴はいない。
 「僕は涼宮さんの友人です。中学二年のときに転校してきた僕を、最初に受け入れてくれたのが涼宮さんでした。」
 そういえば、谷口がそんなことを言っていたな。とんでもないことをやらかす女だが、案外優しいのかもしれん。
 「そうです。涼宮さんは優しい人ですよ。それ以来、彼女は僕の友人になってくれました。ただ、残念ながらあなた
方のような強固な信頼関係がない。」
 そうなのか?お前の言うことには、涼宮はちゃんと耳を傾けていたようだったが。
 「全く人の話を聞かない人ではありません。ただ、どうしても自分の考えを優先しがちなところが強いので、誤解を
招いているようなところがありますが。」
 それはそれで問題があるぞ、古泉。
 「僕は涼宮さんに信頼されるような人間になりたいんですよ。あなたと佐々木さんとの間にある良い関係のようにね。
何故なら―」
 一息ついて、古泉はとんでもないセリフを吐いた。

 「僕は涼宮さんのことが好きなんですよ。」


 一瞬、俺は古泉が冗談を言っているのかと思った。だが、いつも人に見せている微笑みではなく、そのセリフを吐いた時の
古泉の表情は真剣そのものだった。
 ”正気か?”
 そのセリフを言いかけて、俺はかろうじて言葉を飲み込んだ。
 古泉の表情は、いつもの爽やかスマイルに戻っていた。

 俺達から見れば、涼宮はとんでもない性格の持ち主で、無茶苦茶な女だろう。だが、それは涼宮を良く知らない
人間達の受け取り方で、二年間、あいつの傍で友人として過ごしてきた古泉には、俺達には解らない涼宮の魅力に
気づいているのだろう。そして、古泉は涼宮を好きになった。
 人が恋に落ちるきっかけは、案外些細なことが多い。でも、そこから育っていく気持ちは、とても大事なものなのだ。
 古泉の、涼宮に対する真剣な気持ちを知った時、俺はそれを茶化すような真似は出来なかった。

 「すいませんね。荷物を持ってもらって。」
 駅でSOS団と別れる時、古泉は俺と国木田にしきりに礼を言って、頭を下げた。
 気にするなよ、古泉。大体いくら男とはいえ、限度てもんがある。何も考えないでしこたまモノを買い込んだ涼宮が一番
悪い。手伝うのは当然さ。
 「それじゃ、失礼します。」
 古泉は涼宮と同じ方向へ帰ろうとしていた(荷物持ちだから、当然といえば当然か)が、俺は声を掛けて呼び止めた。
 「何でしょう?」
 いや、何。今日は面白かったよ。今度、お前が買ったボードゲ-ムをやってみたいんだが、いいかな?
 「いつでも歓迎しますよ。相手が欲しかったところですし。」
 そりゃ、良かった。それと古泉。全く余計なことかもしれないが、お前の気持ち。俺はいいと思う。頑張れよ。
 俺の言葉に古泉は驚いたような表情を見せたが、爽やかスマイルで力強く頷いた。


 帰り道、いつものように俺と佐々木は、並んで歩いていた。夏が近づいているせいか、この時間にしてはまだ外は明るい。
 「キョン。古泉君と何を話していたんだい?」
 なあに。大したことじゃないよ。今度奴の買ったボードゲ-ムで遊ぼうと言っただけだ。
 「なかなかいい趣味しているね、彼は。」
 そうだな。それに、あいつの意外な所にちょっと驚かされたが。まあ、大した奴だと思う。涼宮の友人をやっているぐらいだからな。
 「それは言えてるかもね。ただ、僕は思うんだが、涼宮さんは言動と行動はいささかエキセントリックだけど、中身は普通の女の子
じゃないかな。何となくそんな気がするんだ。」
 同じ様な事を古泉も言っていたが、さすが佐々木だ。よく人を見ているな。

 そんなことを話しているうちに佐々木の家についた。それじゃ、佐々木。また明日、学校で。
 「ありがとう、キョン。また明日。」
 いつものように佐々木に手を振り、俺は来た道を引き返す。
 また明日。ふと、俺は古泉と涼宮のことを思い出していた。あの二人もそう言って、別れているのかね。
 そう思うと、知らず知らずのうちに、口元に微笑が浮かんで来た。

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最終更新:2012年12月01日 17:11
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