69-10「佐々木さんのキョンな日常 体育祭その3~」

 体育祭当日、天気は秋晴れという言葉がぴったりくる、快晴だった。
 「いい具合に晴れてくれたものだね」
 スポ-ツの秋と言うには、少し早いような気がするが、成程、体を動かすにはいい具合な天気だ。
 佐々木は念入りに準備体操を行っている。張り切っているな、佐々木。
 「それはそうだよ、キョン。何せ、僕等は涼宮さん達とぶつかるわけだしね」
 騎馬戦とクラブ対抗リレー。
 前者では涼宮&古泉と、後者ではSOS団と戦うわけだ。
 なお、クラブ対抗リレーでは、SOS団のメンバーとして、幽霊部員の谷口が走ることになった。どれだけ涼宮
に弱みを握られているんだ、こいつは。
 そのことを教えてくれた古泉は、ついでに走る順番も教えてくれた。
 「涼宮さんのご指示ですが」
 よほど自信があるようだ。へたな運動部の部員より運動神経がいい連中のあつまりだからな、あそこは。
 その言葉をうけて、俺たちも走る順番を決めて、古泉に教えてやった。これでお互い公平になる。
 「負けるつもりはないよ」
 力強くそう言った佐々木に、俺も大きく頷いた。

 競技は進み、午前中最後の競技、すなわち一年生のクラス対抗騎馬戦の時間になった。
 ル-ルは、競技時間の5分間の間に、騎乗者の頭に巻いてある鉢巻を取り合い、多く残っていたクラスが勝ち、
という、単純なものだ。
 ちなみに試合は一回だけ。騎乗者がとった鉢巻の数が一番多いところが優勝である。なお、騎乗者が落馬すれば
失格になる。
 なお、クラス編成上の都合で、対戦できない一クラスは教職員チ-ムと対戦という、ありがたくもない対戦カ-ド
が組まれる。そのくじを引いたクラスは一年三組、すなわち長門のクラスであった。

 俺たちのクラス、すなわち一年五組と涼宮達の一年九組の対戦は最後のカ-ドだった。
 「さて行くか」
 対戦が終わり、いよいよ俺たちの番だ。
 「頑張ってね、みんな」
 最初に競技を終えた、長門が応援に来てくれ、俺たちに声をかけた。
 「ああ。勝ってくるよ」
 俺は長門にそう言って、佐々木と一緒にグランドに出た。

 「では頼むよ、キョン」
 俺が屈むと、佐々木は俺の肩にまたがる。
 「しっかり掴まっていろ」
 佐々木を倒さないように慎重に立ち上がる。
 「キョン。僕の足をしっかりつかんでおいて欲しい。激しく動くことになりそうだから」
 佐々木の体重は軽いとは言え、子供を肩車するのとは訳が違う。すべすべした女の子の足を掴むのは、いささか
ためらいがある。
 「遠慮はいらないよ。君と二人で勝ちに行くつもりだから。君に掴まれるのは平気だよ」
 気のせいか、周りの(特に男共の)視線が痛く感じられた。

 五組と九組の生徒たちが向かい合って一列に並ぶ。既にふらついている奴もいる。まあ、騎馬戦と言いながら肩車
合戦だからな、これじゃ。
 九組の生徒の中に、涼宮と古泉の姿があった。
 涼宮は古泉にまたがって、列の中央にいた。古泉の上でふんぞり返っているが、大将気取りかよ。

 「始め!」
 試合開始の合図とともに、俺は佐々木を載せて走り出した。


 この騎馬戦だが、いつも思うのは土台一人じゃ無理があるということだ。
 同級生同士にそこまで大幅な体格差がある例は少なく、下手すりゃ試合開始と同時に騎馬が崩れる事
だって珍しくない。その時点で失格だ。
 だが、俺達、すなわち俺と佐々木、古泉と涼宮の騎馬はその点では全く心配ない。そして、男女の組
み合わせの騎馬は、暗黙のル-ルには縛られない。つまり、男子の騎馬、女子の騎馬、両方攻撃できる
のだ。

 「古泉君、どんどん行くわよ!」
 涼宮は古泉に指示を出して、次々と鉢巻を奪っていく。動きは素早く、俺達のクラスは結構やられて
いる。谷口、国木田コンビもやられてしまった。
 「キョン、僕らも行くよ」
 任せておけ。
 佐々木の指示に従い、俺も相手側の騎馬へ突撃をかける。相手の攻撃や防御をかいくぐり、佐々木も次
々と鉢巻を奪う。

 「4分経過」
 審判役が時間を告げたとき、気がつくと双方の騎馬は全滅(半分は自壊だが)、グラウンドには俺と佐々木、
古泉と涼宮だけが残っていた。
 こちらは6本、あちらも6本の鉢巻を奪っている。
 「僕らと涼宮さん達との一騎打ちで決着がつくわけか」
 表情は見えないが、佐々木が笑っているのがわかる。
 古泉は相変わらずの爽やかスマイルだが、涼宮も笑っていた。ただし、その笑いは、何かよからぬことを企む
人間が浮かべる笑いに似ている。
 残り時間、45秒。
 「行こう、キョン」
 俺達が動くと同時に、古泉達も動いた。

 「・・・・・・まいりましたね。どうやってこちらの作戦を見抜いたんです?」
 競技終了後、古泉が声をかけてきた。
 「お前が裏をかき過ぎたんだよ。『裏の裏は表』。俺達以外に攻撃をかけるときは、死角を狙っていたから、
俺達にも同じ攻撃をすると思わせて、俺達には別の方法を考えています、な感じを見せていたが、全く同じ攻
撃を仕掛けてくると思ったんでな。それに、涼宮の表情を見て佐々木が気づいたんで、その指示に従ったんだ」
 騎馬戦は、涼宮の手を防いで、鉢巻を奪った俺達の勝ちだった。死角を作らないよう、その分俺は佐々木の
足を掴んで動きまくったのだが、おかげで体力をかなり消耗した。
 鉢巻を取られた涼宮は、ペリカンのように口をひん曲げ、悔しそうな表情をしている。
 「次のリレーは、絶対負けないわよ!」
 涼宮の言葉に俺と古泉は顔を見合わせ、お互いに苦笑した。

 昼休み。
 高校生の体育祭ともなると、わざわざ親が見に来るところは少なくなるのが相場だが、うちの家族は別である。
 両親と妹、それに妹が何故かシャミセンまで連れてきて、体育祭を見に来ていた。
 「どんどん食べてね、佐々木さん」
 佐々木の母親は例の如く、仕事上の都合で来てはいない。それでは、ということで佐々木も一緒に食べることに
した。
 「とても美味しいです」
 佐々木は笑顔で我が家の弁当を食べる。
 「さっきの騎馬戦の写真はたくさん撮っておいたから、あとで佐々木さんにもあげるわね」
 母親が最近、買い換えたばかりのデジカメを見せびらかしながら、そう言った。
 「それにしても、キョン君と佐々木のお姉ちゃん、息がピッタリだったね」
 妹の発言に、佐々木は大きく頷いた。
 「キョンと組むと負けない気になれるからね。まあ、大分キョンが合わせてくれた部分が大きいけどね」
 いや、佐々木。それは俺のセリフだ。お前が合わせてくれたんで、俺はかなり動けたのだ。お前が勝たせてくれたような
ものだよ。

 「ふうん。キョン君、佐々木お姉ちゃんといつ結婚するの?」

 全く脈絡もなく発せられた妹の爆弾発言に、俺は喉に御飯をつまらせそうになった。

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最終更新:2013年03月03日 02:06
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