69-131「佐々木さんのキョンな日常 涼宮ハルヒの企み」

 「それじゃ、くじを引いてもらうわ」
 爪楊枝に色をつけただけの、涼宮自作のくじを引く。最初は俺、次は佐々木、そして鶴屋さんに朝比奈さん、
最後に古泉が引く。
 「あたりは誰?」
 色付きが当たりだと涼宮は言った。爪楊枝を見てみると、当たりは・・・・・・
 「キョンとあたしね!」
 涼宮は何故か嬉しそうに言った。

 SOS団の超監督・涼宮ハルヒが撮影している映画の撮影は佳境を迎えていた。
 体育祭が終わって、最初の日曜日、俺は佐々木に付き添って、涼宮たちの撮影を見学に来ていた。
 涼宮の撮影は、見ていてかなり無茶苦茶なもののように思えるが、多分古泉が何とかするのだろう。
 涼宮の要求に、佐々木はうまく答えている。何をやらせても佐々木はそつなくこなす。
 「OK,これで佐々木さんの場面は終了よ。ご苦労さま、佐々木さん」
 「どういたしまして。なかなか面白い体験だったわ。出来上がりが楽しみね」
 「この私が撮ったんだから、面白いものになっているわよ」
 その根拠無き自信はどっから来ているんだ?

 撮影終了後、俺達は最近古泉が見つけたという喫茶店に入った。
 「コ-ヒ-だけでなく、ここは紅茶やフードメニュ―も美味しいですよ」
 古泉の言葉に嘘はなく、確かに満足いく味だった。コ-ヒ-の香りも味わいも良く、ランチメニュ-も美味しくて
量も多い。古泉はなかなかの食通のようである。
 食後のデザ-トを味わっていると、涼宮が今から不思議探索に行こう、と言い出した。
 「けっこう早く撮影が終わったから、時間もあることだし、探索をするわよ!キョンに佐々木さんも付きあいなさいよ」
 まあ、俺は時間はあるが、佐々木、お前は大丈夫か?
 「僕は構わないよ。今日は撮影以外は予定はなかったしね」
 ふむ、佐々木がいいと言うのなら、俺も付きあうとするか。

 そう言って、俺らはくじを引くことになった。
 それで冒頭の結果になったわけだが、俺と涼宮以外はまとめて行動するらしい。
 この人数なら、3対3で二組を作るのが妥当だと思ったんだが、涼宮の考えはよくわからん。

 「それじゃ一時間後に、ここの近くの公園に集合ね」
 涼宮はSOS団の団員達と佐々木にそう告げると、俺の腕を掴んで引っ張る。
 「さっさといくわよ!」
 せっかちな奴だな、コイツは。
 「キョン、じゃあ一時間後に」
 ああ。まあ、そんなに簡単に不思議なものが見つかるとも思えんがな。
 俺はため息をついて、涼宮に引っ張られながら、その場を去った。


 体育祭のあと、街は急速に秋色の色彩をまとうようになっていた。
 俺は佐々木と出かけた時に購入した、新品の秋物を着ていた。今日は佐々木もあの時に購入した洋服を着ている。
 今、俺の横を歩いているのは佐々木でなく、くじ引きでペアを組むことになった涼宮だ。
 何が嬉しいのかしらんが、今日の涼宮はかなり機嫌が良さそうだ。そして、かなり早いペースで先に進んでいる。
 おい、涼宮。もう少しゆっくり進んだらどうだ。だいたい、お前はどこに行こうとしているんだ。
 「さっきから言っているじゃないの、不思議がありそうなところだって」
 何か夏休みの合同旅行のときも同じことを言っていたような気がするが。

 川沿いの並木道の街路樹達も、少し秋模様を纏い始めていて、公園の植物たちにもその気配が感じられる。
 ”小さい秋、見つけた”
 幼い頃効いた歌の意味が、今わかるような気がした。
 「キョン、あんたも急ぎなさいよ。時間は一時間しかないのよ。団長が集合時間に遅刻したら、団員たちに合わせる
顔がなくなるわ」
 俺は公園のベンチに腰掛けた。
 「ちょっと、キョン。何座ってんのよ!」
 いいからお前も座れよ。急ぐ必要はないと思うんだが。
 何事かブツブツ言いながらも、涼宮は俺の隣に腰掛けた。

 「この公園に何か不思議なものがあるの?」
 大ありだ。公園だけじゃない。今、俺たちが歩いてきた街中にたくさんあった。
 「どこにそんなものがあったのよ」
 俺達の前に、秋風に吹かれた木の葉が一枚落ちてきた。
 季節の移り変わり。限りなく続き、繰り返されながらも同じものではない過ぎ行く時の流れ。自然が見せる魔法の技。

 「・・・・・・あんた、結構気障なことを言うのね。それ、文芸部の感性なわけ?」
 文芸部というより、佐々木の影響かもな。あいつの言語感性は鋭いものがある。いろんなことを知っているし、表
現力も豊かだからな。
 俺は立ち上がり、自動販売機の前に行き、ジュ-スを二本買い、一本を涼宮に渡した。

 「あんたと佐々木さんて、付き合い長いわけ?」
 お前と古泉ぐらいの長さかな。そんなに長くはないのかもしれんが、今じゃ一番一緒に行動しているのは佐々木だし、
そう考えると、これも不思議なことかもしれないな。
 「ふーん。で、あんたにとって、佐々木さんは結局どんな存在なわけ?」

 涼宮の問に、俺は少し考え込む。
 あいつは俺のことを親友と言ってくれる。そう呼ばれるのは、誇らしいことだし、とても嬉しい。
 だが、俺自身はどう思っているのか。
 ”親友”
 そんな言葉だけじゃたりないほど、最近は佐々木の存在は俺の心の中で大きくなっている。
 夏休みの旅行の花火の日の夜。
 佐々木に向かって言いそびれた言葉がある。

 ”どこにも行くなよ”
 佐々木が俺の前から消えてしまいそうな、不安な気持ちに襲われることがある。
 あいつの側にいることがふさわしい人間になると願いを書いた、七夕の日。
 佐々木の存在は俺にとって・・・・・・

 「うまくは言葉にできないが、俺にとって大切なもの、大事にしたいと思う存在。そんな感じかな」


 「さて、我々はどこに行きましょうか」
 キョンが涼宮さんに引っ張られて店を出て行ったあと、取り残された私たちは、とりあえず何をするか
相談することにした。
 「時間は一時間もあるんだしね。ハルにゃんみたいに不思議探しに行ってもいいけど、まあ、ここでゆ
っくり話すのも悪くはないかもよ」
 「鶴屋さん、前から思っていたんですけど、涼宮さんの”不思議探し”って一体何なのですか?」
 私の疑問に、鶴屋さんは豪快に笑いながらこう言った。
 「さあね。ハルにゃんの頭の中は、私にもわからないっさ。だけども、一つ言えるのは、ハルにゃんの
心を揺さぶるもの、それじゃないかね」
 そして、こう続けた。
 「今のハルにゃんの心を揺さぶるものは、キョン君だと思うんだよ、私は」

 「キョン?なぜ、涼宮さんがキョンを気にかけるのですか?」
 自分の口調が、いささか強く感じられたのは気のせいじゃない。鶴屋さんの言葉に、少し過剰反応した
ようだ。
 「涼宮さんに”きっかけ”を与えたからですよ」
 古泉くんが私の疑問に答える。
 「SOS団の設立にしても、きっかけは彼の言葉です。中学時代からの涼宮さんを知る僕としては、明らかに
彼女は内面的に成長していると感じます。中学校の時の彼女は、どちらかといえば孤立しがちな、他人との
接触を忌避しているようなところがありましたからね。自分でクラブを作り、部員を集めるなんて、あの時の
ままだったら、絶対にやりませんね。ただ、僕が転校してきたとき、真っ先に声をかけてくれたのは涼宮さん
ですが」

 他人との接触が煩わしい、特に男の子に感じることがあった。
 私が男性と話すときに使う『僕』の名称と言葉。それは端的に言えば、私の心の盾。
 キョンは私が使う言葉についても、何も言わなかった。彼と話すうちに、私は心の盾を下ろしていた(た
だし、口調はなかなか元に戻らず、かえって意識してしまうので、キョンと話すときは”僕”のままだけど)

 「ハルにゃんがキョン君を気にかけているのは確かだね。未だにSOS団にキョン君をスカウトしたいみたいだし」
 「涼宮さんが特定の男性を気にかけるのは、僕にはとても不思議なことに思えますね」
 「おんや、どうしてそう思うんだい、古泉君?」
 「涼宮さんが昔言っていたんですよ。『恋愛は精神病』だって。異性に執着するのは病気と同じ、とか言ってましたから」
 どこかで聞いた、というより昔キョンに私が言っていたままの言葉をきいて、私はおもわず、咳き込みそうになる。

 「佐々っち。佐々っちにとって、キョン君はどんな存在なんだい?」
 (何か某おもちゃ会社の商品のように呼ばれたけど)鶴屋さんは私に問いかける。
 思わず、引き込まれそうな笑顔で、でも目の奥には真剣な光がある。決して茶化したような感じではない。
 ならば、私も真面目に答えよう。ごまかす必要もない。
 涼宮さんさんの気持ちの一端を知った今なら、なおさらだ。

 「親友、て昔は思っていました。でも今はその言葉だけじゃ足りません。キョンは・・・・・・」
 一息ついて言葉を続ける。
 「私にとって、なくてはならない存在。そばにいて欲しい、そばにいたい。そう思える人です」

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最終更新:2013年03月03日 02:24
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