69-183「佐々木さんのキョンな日常 涼宮ハルヒの企みその4~」

 俺達のいる目の前で、若い親子連れが、仲良く遊んでいた。小さな姉弟らしき女の子と男の子を見守る夫婦。
 ここの公園は遊具施設も多く、芝生が広く貼ってあり、桜や落葉樹も多いので、家族連れが多い。
 あの親子の姿はいつか俺に訪れる未来の姿かもしれない。
 時計を見ると、集合時間まであと15分ぐらいである。そろそろ戻ったほうがいいかもしれない。
 「行こうか、涼宮」
 俺達はベンチから身を起こした。

 「ねえ、キョン。人を好きになるってどういう感じ?」
 戻り道、涼宮が俺に聞いてきた。
 「どうって、涼宮、お前、誰か好きになったことがないのか?」
 「ないわね。あたしは恋愛は精神病だと考えているから」
 その言葉に、俺は思わず笑ってしまう。
 「・・・・・・何笑っているのよ」
 「いや、昔のことを思い出したんだ。佐々木から同じ言葉を聞いたことがあって」
 「佐々木さんがあたしと同じ事を言ったの?」
 「ああ」

 人を好きになるという感情は、人間の通常の精神状態とは大きく異なる。普段では考えられないことをしてしま
うという行動が恋愛中に見受けられるのは、根底には変化した精神状態があるからだ。
 その意味において、佐々木や涼宮が言った言葉は間違いではない。

 「これだ、ということは出来ないな。ありふれた回答だが人それぞれだ。好きになった奴のことがきにかかるとか
、あるいはその人のために役立ちたいとか、いろいろ思うんだろう。そして、その気持ちは人に変化をもたらす」
 「どんな変化?」
 「そうだな、全部が全部てわけじゃないが、自分を変えようとする。おしゃれして外見や服装が変わったり、あるい
は内面が変化したりする」
 「内面の変化?」
 「考え方だよ。いい方向にかわることもあれば、悪い方向にかわることもある。昔読んだ漫画のセリフじゃないが、
恋愛の形が綺麗なハ-ト形とは限らないからな」

 俺の話を聞いて、しばらく涼宮は沈黙していた。もうすぐ、集合場所の公園に着こうとした時、再び口を開いた。
 「キョン。佐々木さんのことをあんたは大切な存在といったわね。鶴屋さん経由で国木田くんから聞いたけど、
中学時代と今のあんたは随分違うって。それは佐々木さんを大事に思う心があんたに変化を促した、そう考えて
いいわけね」

 俺の足が止まった。
 秋風が俺の顔を撫でて、俺は首を盾に振った。
 「涼宮、多分お前が言うことに間違いはないと思う」


 集合場所の公園に来ると、すでに佐々木とSOS団の団員達はそこに来ていた。
 「早かったな」
 「何、我々も今来たばかりですよ」
 古泉はそう言って、声をひそめて言葉を続ける。
 「実を言えば、こちらの方はずっと喫茶店で話しをしていただけなんですよ。涼宮さんにばれたら、怒られますけど」
 おもわず、俺は笑ってしまった。

 「ハルにゃん、何か収獲はあったかい?」
 素知らぬ顔で、鶴屋さんは涼宮に訊ねる。
 「一応、興味深い物があったわ。まあまあの成果ってところかしら」
 涼宮はなぜか俺の方を見ながらそう言った。
 「こちらもまあまあってとこかね。いいものがみつかったっさ」
 鶴屋さんは佐々木を見ながらそう言った。
 「もうちょっと時間があるわね。もう一度くじを引いて、不思議探しに行くわよ!」

 本日二回目の、涼宮特製の爪楊枝くじを引く。今度の当たりは誰なのか。
 「また、あたしね!」
 なんと、二回目の当たりも涼宮である。もう一人の当たり、涼宮とペアを組むのは誰なんだ?
 「今度は僕らしい」
 佐々木の手には、当たりの爪楊枝が握られていた。

 古泉と鶴屋さんの笑顔が少し引きつっていた。朝比奈さんが、心なしかソワソワしている様に見える。
 「それじゃ、今度は四十分後にここに集合ね」
 「じゃあ、キョン。行ってくるよ」
 佐々木と涼宮は、俺に手を振って、公園を出ていった。

 「よりによってあの二人の組み合わせとは……」
 「えらい事になったにょろ」
 「だ、大丈夫ですよね」
 SOS団の団員は一様に頭を抱えていた。
 何を一体心配しているんだ?
 「いえ、その……」
 珍しく古泉が歯切れが悪い。さわやかスマイルが消えていて、少し不安げである。
 「ま、まあ、古泉君。今すぐどうのこうのというわけではあるまいよ。ここは成り行き任せでいくしかないっさ」
 鶴屋さんの声にも珍しく焦りの様な物がある。
 「そ、そうですよね。な、何も心配する事は無いと思います」
 朝比奈さんは自分に言い聞かせるように言った。

 ところで、古泉。四十分という中途半端な時間、どうやって過す?
 「……随分落ち着いていられますね」
 さっきから何をあせっているんだ?
 「あ、いえ……その……すいません、ぶしつけな事を聞きますが、貴方は佐々木さんの事をどう思っておられます?」
 何だ、いきなり。えらく唐突だな。涼宮にもさっき同じ事を聞かれたんだが。
 「涼宮さんが?」
 ああ。だから答えたよ。俺にとって、佐々木は大切な、大事にしたい存在だとな。
 「そ、その言葉を聴いて涼宮さんはどの様な反応を?」
 別に変わった反応はないが。
 「そうですか……」
 古泉は、少しほっとしたような表情になる。
 それより、古泉。おまえは涼宮との仲はどうなったんだ?人の事を心配しないでいいから、お前はどうなんだよ。
 「へえ、古泉君。古泉君はハルにゃんの事が好きなのかい?」
 鶴屋さんがにやにや笑いながらそう言って、古泉はやぶへびだ、と言う様な顔をした。

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最終更新:2013年03月03日 02:29
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