71-304『SOMEDAY IN THE RAINCOAT β-α』

「……雨足が強くなってきたな。急いで帰るか。」
キョンがそう言った時。雷が鳴り響いた。
「近いな。やむを得ないよ、キョン。僕の家に入りたまえ。」
「し、しかし佐々木。それは問題ないか?」
流石にこの状況で二人きりは危ない。主に理性的な意味で。
「緊急事態だ。やむを得ないよ。キミが落雷で命を落とす羽目になれば、僕は悔やんでも悔やみきれない。」
佐々木の言葉に、キョンは従順した。雷に撃たれて死にたくないのと、もうひとつ。
佐々木の目は、ちっとも笑ってなかったからだ。

「……おや?停電か。」
佐々木がスイッチを触るも、電気は点かない。
どうやらさっきの雷は、かなり良い所に落ちたらしい。全くトラブル続きだ。佐々木はそう言うと笑った。

何とかタオルで服をプレスし、水気は飛んだ。佐々木は早々に着替え、ジャージを着ている。
雨足は強くなるばかり。そして雷もまた断続的に続いていた。
「……雷雨か。キョン、ご母堂に連絡してはどうかな?こうなれば大人の介入が必要になるかも知れん。」
「だなぁ……」
自宅に連絡すると、本日は車を父が使用しており、父は帰る時間は宵の口あたりになるであろうとの事だ。
「……ふむ。僕の家と似たようなものだね。」
佐々木もまた母が車を使っており、帰るのは宵の口位だろうとの事。
楽天的にやるにはお互い妙齢過ぎるし、また親に心配を掛けたくもない。
やむを得ず事情を説明し、宵の口まで天気がこのままならば、佐々木の母がキョンを送る手筈となった。
「変な事するんじゃないわよ?○○。だと。信用されているのか、されていないのだか。」
「仕方ねぇさ。性別的に俺は男でお前は女だ。」
生物学的には子を成せる組み合わせ。そして対外的には善悪の判断基準も曖昧な年齢だ。
「やれやれ。難儀なものだ。」
やれやれ。と、佐々木は手を広げた。
薄暗くなる室内。佐々木が持つアロマキャンドルに火を灯す。
「暗い中に蝋燭だと、流石に雰囲気が出るな。」
「怪談でもやるかい?」
「ほざけ。」
室内に雨の音が響く。佐々木は何か落ち着かなそうに外を見ている。
「……くしゅっ!」
キョンがくしゃみをした。佐々木はベッドから夏布団を出し、キョンに着せる。
「すまない。僕とした事が。」
「いや……。」
佐々木の匂いがする布団……。キョンは落ち着かなそうに身を捩る。
「……あ、あー、その、なんだ?台風の時、停電とかしたら、無性にドキドキしないか?」
「うむ。それはあるが。まるで知っている世界が、非日常になったかのようにね。」
佐々木が身を乗り出す。
「……まるで、今がその非日常みたいな気分だよ、キョン。」
「…………」


キョンの匂いがする自分に、普段居ない時間にいるキョン。
「……こんなのも、キミとなら悪くはない。」
「……挑発すんな。俺だって我慢強くはない。」
佐々木はキョンの胸に頬を寄せた。
「それは、僕こそがだよ……」

蝋燭の炎が揺らめき、消えた。

雨の音が響き、衣擦れの音と吐息、くぐもった声が支配する空間。
普段嗅ぎ慣れない、異性の匂い。そして汗の匂い。唾液の味。体液。

熱。

雨の音にかき消される呻き。

時に荒々しく、時に紡ぐように、耳許で囁き合う名前。

愛の言葉。

重ね合う手と手。

睦み合う中……停電が復旧し……お互い顔を見合わせ爆笑する。
「……時間は20時か。雨も止んだみたいだね、キョン。」
「そうだな。……帰るか。」

少し、がに股になった佐々木がキョンを玄関まで送る。
「今日はありがとう。」
「そりゃこっちのセリフだ。……またな、佐々木。」
自転車に乗るキョン。
「ん、キョン。忘れ物だ。」
「忘れ物?」
「ああ。肝心なものだよ。」
佐々木はキョンの胸に頬を寄せる。
「……こんな事、僕としかしないでね……?」
キョンは、顔を真っ赤にして叫んだ。

「忘れ物って、お前からの軛かよ!言われるまでもねぇだろうが!」
「くっくっくっくっ。」

END

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最終更新:2013年07月01日 01:23
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