16-215「佐々木さん、猫の目の日々の巻 」

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佐々木さん、猫の目の日々の巻

僕は猫である。名前は佐々木。
でも、僕の飼い主であるキョンには上手く発音できないらしく、
いつも僕を見ては、「シャミ」と訛って呼ぶ。変なキョン。
ちなみにキョンは、僕のことを男性だと信じ込んでいる。
まったく失礼な。だいたい三毛猫に雄はまずいないんだよ、キョン。勉強したまえ。
僕がどこで生れたか、とんと見当がつかない。
何故か、学校の帰りの横断歩道と、猛烈な勢いで迫ってきたトラックの運転手の
驚いた顔をうすぼんやりと記憶している。
でも、猫にとって過去は何の意味もないし、今、僕はキョンの傍で幸せだから、過去なんてどうでもいいんだ。
僕は家猫で、あまり外には興味がない。
窓から見下ろす人間や、時々、キョンが連れて来る人間を観察するだけでも結構楽しいのさ。
まあ、時々この部屋に闖入してくる、涼宮さんは、声が大きくて動作が大きいので好きではない。
猫というのは本来的にそういう存在を嫌うのであって、これは決して嫉妬でないことを明言しておこう。
……はて、僕は一体誰にむかってこんなことをわざわざ言っているのだろうね。くっくっ。
それと、キョンの妹はちょっと苦手だ。僕をおもちゃにするのは、まあ仕方ないとしても、
深爪するのと尻尾の毛を逆さになでるのと、お風呂に無理やり入れようとするのは勘弁してほしい。
悪い娘ではないだけに正直困る。

僕の一日はおおむね単調だ。
朝、キョンの傍らで目覚め、遅刻しないよう、キョンを起こす。起きない場合は妹ちゃんのプロレス技が待っている。
キョンが学校に言っている間は、部屋で一人でお留守番。
たいてい、キョンのベットの上で転寝。

浅い眠りの中で、僕は時々不思議な夢を見る。
そこでは、僕はキョンと同じ人間で、どこか白い部屋で眠りについている。ずっと、眠りについている。
時々、母さんと父さんが悲しげな顔で僕を見舞いに来る。でも、母さんと父さんって誰だろう。僕は猫なのに。
そして、時折浮かぶ、かすかに記憶ある人たちの顔。
藤原くんは、「こんなのは既定事項になかった」と何度も何度もはき捨てる。そうすることで現実を否認できるかのように。
橘さんは、彼女は見ていてこちらまで痛々しくなる。涙が枯れるほど泣いて、それでもまだ真っ赤な瞳でぽろぽろと涙をこぼす。
あなたが悪いわけではないのに、そんなに自分を責めないで。そう、声をかけたくなるほど、彼女はずっとずっと泣いている。
そしてもう一人、長い黒髪の人が、こちらをずっと見つめている。
「--あなたの、居場所は、そこではない--」
そう、僕に向けてつぶやく。でも、僕は猫だから、関係ない。僕は幸せな猫なんだ。何も問題はないんだ。
だから、戻る必要なんてない。
時折、短い髪の無口な女性が、長い黒髪の人と一緒にこちらを見つめることもある。
「……彼のためにも、あなたは戻るべき」
そんなことを僕に向けてつぶやく。でも、それがどういう意味か、僕にはわからない、絶対、わからないんだ。

人がましい不思議な夢が覚めるころ、キョンがいつも疲れて帰宅する。
部活動とやらが忙しいらしい。やれやれ、人間は大変だね、キョン。
そのままでいると、彼はそのままベットでダラダラと漫画を読んで過ごしてしまうので、
邪魔をして机に向かわせるのが僕の仕事。
最近は彼もあきらめたのか、僕が肘を2、3度噛むと、ともかく机に向かうようにはなった。
学生の本分は勉強だよ、キョン。くっくっ。
そんな彼のひざにちょこんと乗り、ゆっくり尻尾を振る。僕とキョン二人だけの時間。
それが、今の僕にとってはかけがえのないすべて。

時々キョンは、僕の耳をかきながら、遠い目をして窓を見つめる。
「……佐々木、いつ目を覚ますんだろうな。なあシャミ」
不思議だね、キョン。君が僕の名前を間違えずに言えるのは、必ず僕の方を見ないで、遠い目でつぶやく時だけだ。
でも、僕は幸せだから、ただ黙って喉をならす。僕はこのままでいいから。君の傍にいられれば、それだけで充分だから。

浅い夢の中で、「これは夢。目覚めればすぐにでも消えてしまう泡沫の時」と知りつつ、それを永遠に願うように、
僕は、この日々が永遠に続くことを願っていた。
それだけは、まじりけなしの真実だよ、キョン。

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