16-567「キョンと佐々木とハルヒの生活 6日目」

★月○日
今日は普通に目が覚めた。
いつものハルヒの凶悪ギロチンドロップを食らうこともなく、それこそまぁ普通の人の目覚めを得られたと来たもんだ。
というわけで、逆に普通の目覚めすぎて不安になる。
この非人道的な目覚めがいかに俺の日常としてこの体に馴染んでしまっているかを認識し、朝から軽く落胆しつつリビングへと向かった。

「だから、ハルヒ。ポニーテールはもっと髪が長くないと出来ないの。」
リビングでは嫁さんとハルヒが鏡の前で何かをやっている。
「でも、ポニーテールじゃなきゃだめなの!」
鏡に映った自分の姿を眺めながら、駄々をこねるハルヒと苦笑いのヨメ。
いったい朝から何をやっているんだ。
「あぁ、おはようキョン。ハルヒが朝から突然髪型をポニーテールにして、ってうるさくて。」
そしてヨメは、どうしたものかね、とでも言いたげに両手を挙げた。
突然に何を思いついたんだ、ハルヒは。
なんかへんな夢でも見たのか?
まぁ、ポニーテールがいいという意見には全面的に満場一致で大賛成だが。
そして、この朝の騒動は結局ヨメが強引にハルヒの頭を後ろでくくってポニーテール風にするということで落ち着いた。

「なぁ、なんで突然ポニーテールなんだ?」
自転車でハルヒを保育園まで送りがてらささやかな疑問をぶつけてみる。
ハルヒの奴は不機嫌そうに口を尖らせたまま答えない。
ふふーん、ということは
「まさか、好きな男の子でも出来たのか?」
「違う、そんなんじゃない!バカキョン!」
そうやって器用にこちらを振り返って叩いてくる。
こらこら、危ないからやめなさいって。
「わかった、わかったから。」
そう謝ると、ハルヒはまたプイッと前を向いた。
「どう思う?」
ハルヒがぼそっと尋ねてくる。
「似合ってるぞ、ハルヒ。」
今日のハルヒは不機嫌そうだ。
少なくとも顔の面だけは。

そうこうしているうちに保育園に到着と相成りました。
「それじゃあ、よろしくお願いします。」
「はいっ。」
朝から朝比奈さんのエンジェルスマイルを見る。
あぁ、この世にこれ以上の幸福があろうか。
そういえばですね、
「ところで、今日ハルヒが突然ポニーテールにしたいとか言い出したんですけど、心当たりは何かありますか?」
朝比奈さんはえっ?と声を出して唇に指を当てると天を仰いで考えるしぐさをはじめた。
「そういえば最近ハルヒちゃんには、その、好きな子が出来たみたいで。」
な、なんですと!?
「あの、それで、昨日その子と私がじゃれ付いているのを見てハルヒちゃん焼餅を焼いたみたいで・・・」
ちょっと待て、あのハルヒに好きな男の子だと。
いったいどこの誰だ、誰の許可を得てうちのかわいい娘を。
「あの、そんなにショックを受けないでください。それにハルヒちゃんにとってはいいことだと思いますよ。」
「いいこと?」
すみません、ハルヒがお嫁に行くところを想像して軽く泣きかけていましたが。
「その子と話しているときはハルヒちゃん本当に生き生きとしていて、あの、少しずつですけど周りにも溶け込めるようになってきたんです。」
どこの誰とも知らぬ、まだ少年と呼ぶには年端も行かぬ男の子よ。
感謝する。
でも、ハルヒを嫁にやるかどうかは別だ。
通りでハルヒは保育園につくなり朝比奈さんとの挨拶もそこそこにさっさと中へ入っていたわけだな。
どんな奴か面を拝んでおきたい。
俺の眼鏡に適わなければハルヒとのお付き合いなど認めんからな!


「―というわけだ。」
「なるほど。事情はよくわかった。しかし―」
「しかし?」
「昼休みの保育園のフェンスに大の大人が二人張り付いているのはかなり面妖な光景だとは思わないかい?」
あれから俺はヨメに連絡をとり、噂の男子の顔を拝むべく保育園に二人してやってきていた。
「で、肝心のその男の子っていうのはどの子かな?」
ヨメはあきれ気味にため息をつくように俺に問いかけた。
「ちょうど今ハルヒが話しかけている奴だ。」
朝比奈さんから大体のホシの特徴は聞いていた。
「ふーん。」
「ふーん、ってお前娘がかわいくないのか。」
「いや、そこまで親が大騒ぎするほどのことでもないと思うけど。それにまだ3歳児だし。」
「馬鹿野郎、ハルヒはあいつのために髪型まで変えたんだぞ!」
「僕はキミが娘の恋愛よりも自分の恋愛にそれくらい真剣になってくれたほうが助かったんだけどね。」
う、痛いところをつくな…
「それはそうと、あの子キミとなんか雰囲気が似ているね。」
「え、そうか?」
そんな会話をしている俺たちの目の前で目標はハルヒに対して、似合っているぞ、と言っていた。
「あぁ、もう!ハルヒはお前のためにわざわざ髪型を変えたんだぞ!そんな素っ気無い一言だけじゃなくてもっとこうだな。」
「本当にキミにそっくりだね。」
そうこうしているうちに目標はハルヒに手を引かれブランコのほうへ連れて行かれていた。
「あぁ、くそ!なんだそのやる気のなさそうな顔は!」
「いや、だからキミそっくりなんだって。」
そして、ハルヒたちはグループになってなにやら遊びを始めた。
組み分けをやっているようだ。
あ、ハルヒとあいつが別々のペアーになってしまった。
「あぁ、ハルヒの奴があんな膨れっ面をしているのに気づかないなんて、なんて鈍感な奴だ!」
「そういう台詞はみんなキミに返ってくるからやめたまえ。」
そして目標は朝比奈さんのほうを見ている。
それをハルヒがジトーっとした視線で見つめている。
「お前の年で朝比奈さんに興味を持つなんて早い!ハルヒが焼餅を焼いているのがわからないのか!」
「キミのその観察力の十分の一でも僕に向けてくれていたらね・・・」
と、思っていたら今度はショートカットのおとなしそうな同級生の方を見ている。
「あぁ、こら。同級生って、同い年である分朝比奈さんより性質が悪いじゃないか。ハルヒの目が少し悲しそうな色合いを帯びてきたぞ。なんて鈍感な奴だ!」
「それはひょっとしてギャグで言っているのかい?」

「あんたらいったい何をやっているんだ?」

突然声をかけられて全身が冷や水を浴びたように硬直する。
ハルヒの観察に夢中で気づかなかったが、斜め前のパンジー畑に藤原先生が水をやっていた。

「「・・・不思議探索パトロール?」」

「・・・わざわざ探さなくても、お前らが十分不思議だ。」

如雨露からパンジー畑に降り注ぐ水が春の日差しを浴びて綺麗な放物線を描きながら光り輝いていた

『キョンと佐々木とハルヒの生活 6日目』

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最終更新:2007年08月17日 23:05
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