19-511「閉鎖空間漂流記」後半

「さて、おなかも膨れたことだし、脱出について協議しようか」

食事を終えた俺達は再びこの空間について話し合うことにした。
ちなみに調理は佐々木に一任した。
佐々木の料理の腕は中学の調理実習で知ってたからな。
おかげで旨い飯にありつけたというものだ。
やはり天蓋領域やら超能力者だのは考えないほうがいいだろう。
考えたところで俺にどうにかできる相手ではない。
となればいくつかあげた仮説のうち俺に解決できそうなものに対する策を行うべきだな。
となるとやはり当初の考え通り佐々木閉鎖空間説で行くしかないか。

「……ここは佐々木の望んだ世界のはずなんだよな」
「……そうなのかな?橘さんからは『僕の世界』としか聞いてないけれど」
「ハルヒの能力が『願望実現』なんだからそれを手に入れることができるお前もそうなんだろうな」
「……ここが僕の望んだ世界か……なるほど」
「つまりお前を満足させれば出れるはずなんだ……こう、なにか思い当たるような願望は無いか?」
「……うーん、CDがほしいとか、そんなレベルじゃないだろうね」
「そりゃそうだな」
「この世のすべての知識がほしいとか?」
「ファウストかよ、というかそんな願望あんのか」
「くくっ、冗談だよ」

佐々木は必死に思い出そうとしているようだ。
しかしまるで思い当たらないのかいつまでたってもめぼしい発言は出てこない。
まぁ自分の願望なんてえてして自分ではわからないものかもしれないな。
……今回は俺が仕切らなくてはならない。
佐々木は神候補かもしれんが現状はただの女の子なんだからな。
大丈夫だ、俺に能力は無いがおそらく日本、いや世界一超常現象を体験した人間なんだからな。


「佐々木、わからないなら考えなくてもいい。こうなったらしらみ粒しだ。
 遊ぶぞ!ひたすら遊びまくってお前を満足させてやろうじゃないか!何だって付き合ってやるぞ佐々木!」



佐々木は少し驚いた顔をした。
その後いつもの笑いをひとつ。
「それなら……」と呟き立ち上がった。
……嫌な予感がするな。
「佐々木よ、まさか参考書を持ってきているから勉強しようとか言わないだろうな?」
「……キョン、よくわかったね。君に参考書を持ってきたことは言っていないはずだけれど」
「なに、単なる勘だ。……と、言うか俺は遊ぼうといったはずだが」
「くっく、キョン。なにしろ1ヶ月だよ?勉強が遅れる……ことは無いにしても忘れてしまうかもしれない。
 勉強って言うのは積み重ねだからね。……それに今なんだって付き合うといったじゃないか」
「……わーったよ」

遊ぶといっているのに最初に出てくる選択肢が勉強会なあたり佐々木らしい。
正直かったるいが佐々木が満足するなら何でも付き合ってやるさ。
佐々木に解説をしてもらいながら久々に脳みそを全開で使う。
何時間かやったところでいつの間にか眠ってしまった。
きっとオーバーヒートとかその辺に違いない。


3日目
勉強中熟睡するという二日連続転寝をかました俺達は再び目を覚ました。
体内時計的には少なくとも日中であるはずなのに太陽の光を感じることはできず電灯の光のみがここを照らしている。
早朝の心地よさは一切感じられずまるで深夜にうっかり目を覚ましてしまったようだ。
スーパーに行ったと気から気がついていたことだがこの町は非常に暗い。
太陽が登る時間もきっと外界に依存しているのだろう。
ということは日が昇るのが6時ごろとするとこちらの時間で16日ほど経過しなくては太陽は昇らない。
その上街頭はおろか民家の電灯さえついていないので都会に生きてきた俺達には体験したことの無いような暗さが続いている。
一人でこんなところに放りだされたらと思うとゾッとするな。
佐々木に今日はどうするか尋ねたところ、家で遊ぼうと言って来た。
真っ暗な街中を出歩くのはやはりもう嫌なのだろうか。
とりあえずゲームでもするかと佐々木にいくらかのソフトを見せる。
協力プレイのゲームを佐々木は好んで選んだ。
我が家にガンコンが二つあったのは幸いだ。
協力プレイが真骨頂のゲームだからな、こいつは。
しかし1日という時間は長い。
午前中をゲームに費やした俺達は昼食後再び勉強会を開催する。
3時間も勉強したらいつの間にか雑談大会になっていたな。
そして夜。
さすがに俺も佐々木も二日連続転寝には反省していたからな12時を過ぎたころ寝ることにした。
佐々木には妹の部屋でも使ってもらえばいいか?
そう思って提案したはずなのだがいつの間にか客間の布団を俺の部屋に持ってきていた。
理由は……何度同じ発言をしたか解からないが、なんとなく佐々木が不安そうだったからだ。
俺がベッドに、佐々木が布団に入った。
正直言ってしばらくは意識しっぱなしだ。
けれど修学旅行の学生みたいに雑談しているうちに眠ってしまった。
……佐々木でよかったというべきか?



それからの日々はほとんど変わらない。
思いつく限りのゲームをやって、勉強会をして。
最後には雑談大会になって就寝。
夜、佐々木と同じ部屋で寝るのはいつまでたっても慣れなかったが雑談をしているうちに眠ってしまう。
足りないものが思いついたらその都度どこかに調達しに行く。
思ったとおり肉類だろうが魚類だろうが悪くなる気配はほとんど無いので食料にはまったくこまらない。
料理は佐々木が一通りこなせるようだし俺だってやれないことは無いのでまったく問題にならない。
ひとつ困ったことといえば、洗濯物が乾かないのだ。
太陽が出ていないせいもあるだろうが水分の蒸発も外界の時間経過に依存するらしく洗濯ができない。
結局服やら下着やらもほとんど使い捨てのような扱いになってしまっていた。

俺と佐々木は常に一緒にいた。
完璧に生活がお膳立てされ、さらには気の合う親友がいる。
気が滅入りそうな状況下で与えられた二つの好条件のうち一つでも失うのは嫌だった。
必要最低限の調達以外は俺達は一切外に出ず、家の中にいた。
もともと俺も佐々木もインドア派だ。
室内で遊ぶのはまったく苦ではない。
俺達の共同生活は完全に軌道に乗っていた。


そして───10日目。
外界の時間に直すと約3時間とちょっと、午前2時過になったころ。
あるひとつのトラブルが起きた。
いつも俺より先に起きているはずの佐々木が眠ったままだ。
別に起こしてやる必要もないかと思い階段を降りてリビングに行く。
たまには俺が朝食を作るかと思ってパンとコーヒーの用意をする。

「やぁ、おはよう、キョン……ついに10日目だね」
「おう、朝飯出来てるぞ……って」

階段から降りてきた佐々木はなぜか壁に寄りかかっている。
さらに言えばなんだか顔色も悪い。

「おい、佐々木。大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
「うん、不覚にもなんだか調子を崩してしまったみたいなんだ……いや、でも大丈夫。すぐによくなるよ」
「……寝てろ」
「キョ、キョン?」

佐々木の強がりはあっさり見抜いて俺の部屋に連れ戻す。
足元がおぼついてねぇじゃねか。
佐々木に口で勝てるとは思わないのでここは問答無用だ。
強制的に寝かしつけて看病の準備をする。

「大丈夫か?」
「ああ、済まないね。こっちに来て以来君に迷惑をかけてばかりだ……原因だって僕だというのに」
「だから気にしてないって言ってるだろ?ほれ、御粥作ったから食えよ」

医者にちゃんと見せてやれないことだけが心配だが幸いそこまでひどくなさそうだ。
しかし念のため何か薬くらいは調達してきたほうがいいかもしれない。
基本的に適当を信条とする我が家に常備薬なんてものは無い。
ひとっ走り薬局でも行くか。

「佐々木よ、俺は薬局に行って来る。おとなしく寝てろよ?」
「キョ、キョン……?待ってくれ、僕も……」
「来れる訳無いだろう。ふらふらじゃないか。いいから寝てろよ」
「…………そうだね、わかったよ」


思えばこれがここに来て初の別行動だった。
俺は自転車に乗って最寄の薬局を目指す。
侵入も10日目ともなれば慣れたもので事前に用意したバットでガラスを叩き壊して鍵を開ける。
処方箋なんて解かるわけが無いのでテレビでCMをしているような市販の風邪薬やらうがい薬やらを目に付くまま袋にぶち込む。
ついでに水分補給ができるようなドリンクもいくつかいたただいた。

30分ほどかけて家と薬局を往復する。
結構時間がかかっちまったな。
自転車を定位置に停めて袋を担いで玄関に向かう。

「キョン?帰ったのかい?」

玄関を開けるとすぐに佐々木がいた。
調子がよくなったのかと思ったがすぐにそうではないことがわかる。
先ほどと変わらず顔色がよくないし足元はふらふらだ。

「佐々木?寝てなくっちゃ駄目だろ?」
「……そうだったね、駄目だね。体調不良のせいで正確な判断が出来なくなってるみたいだ」
「ったく、ふらふらじゃねぇか。ほれ、肩かしてやるから」
「……いや、大丈夫」
「じゃ、ねぇだろ。まともに歩けてないじゃないか」

なんだか強がる佐々木を無理やりベッドに連れて行って寝かす。

「ほれ、多分この辺でいいんじゃないか?」
「うん、それなら僕の家の常備薬と同じだ」

水と薬を佐々木に渡す
ちょっと苦そうな顔をしながら薬を飲み下すと佐々木は再びベッドに横になった。
しばし沈黙が支配した。

「……ねぇキョン」

沈黙を破ったのは佐々木だった。
中学時代からずっと同じ俺に話しかけるときの第一声だ。
それだけに違いがわかった。
いつもの四方山話ではないってことがな。
佐々木の声にはこの閉鎖空間にやってきた当初に少しだけ見せた不安の声があった。

「どうした佐々木?」

俺は出来るだけいつものようにすることを心がけて返事をする。
なんだかその方がいいような気がしたんだ。
……なんとなくな。

「…………その、だね。君がいなかった1時間あまりの間に、気がついたことがあるんだ」

1時間?
ここから薬局までの往復は30分ほどしかかかっていないはずだが。
……以前の雪山のような誤差が起きているのだろうか?
ついうっかり考察に入ってしまいそうになるが佐々木の言いたいことはまだこの先にある。
俺はでかかった言葉を押しとどめた。

「……なにがだ?」



「僕の願望さ」

佐々木の願望。
言ってしまえばそれはここから脱出する鍵……と、目下俺が推測しているものである。
佐々木のそれを叶えてやればきっとここから出られるのだ。
だが……なんだろう?
せっかくそれが解かったのに佐々木はひどく不安そうな顔をしている。

「僕はね、キョン……閉鎖空間にきて10日間。とても楽しかったんだ。
 それだけに思い知らされたよ。君のいない1時間は……とても寂しかった」

長い前置きになりそうだ。
普段の俺なら結論から言えと急かす所だが今の佐々木を見ているとさすがにそんな無粋なまねは出来ない。
だから、佐々木の口から漏れた恥ずかしい台詞にも何とか耐える。

「きっと受験が終わって君が塾をやめたときも、卒業して高校が別になったときも、僕は同じ感情を抱いていたんだろうね。
 そのたびに僕は高校だ塾だ受験だと理由をつけて感情をごまかしてきた。幸か不幸かそういうのは僕の得意中の得意な事だったんだ」

「でもここにはごまかすものなんて何も無い。君と、僕がいて後は何も無いんだ。
 ……君が、僕を気遣ってくれていたのは最初からわかっていた。
 普段の君にあるまじき行動力や推察を見せてくれたからね。君は僕を守ってくれていたんだ。」

「……嬉しかった」

「なくしてしまった大切なものが戻ってきてくれたみたいで、本当に嬉しかったんだ。
 ここでは君は僕を気遣って、僕を第一に考えてくれた」

「僕は!僕の願望は!……君との1年を取り戻すことだったんだ!」

佐々木の独白を俺はただ黙って聞いていた。
……自分の心のうちを完全に理解するというのは幸せなんだろうか?
今の佐々木を見ているとそう思う。
佐々木の言っていることは間違いなく正解なんだろう。
だが今の佐々木は、本当につらそうだ。
その佐々木の辛さが病気によるものでは無いことくらい俺にだって理解できる。

「……思えば思うほど自分が嫌になる。僕は自分の意思で君と違う学校を選んだくせにそのせいで失った君との1年を過ごそうとしている」

佐々木は独白を続ける。
まるで神父に罪を告白する信者のようにな。
ならば俺は神父にならなければならない。
こいつの罪とやらを聞いて払ってやらねばならない。
俺はただ静かに佐々木の言葉に耳を傾けるだけだ。

「時計を見てみなよキョン、早い時期で気づいて、助けが来るまでの時間を計算したのが仇になったようだ。
 ……外界が朝8時になるまで後6時間、6時間を1年にまで膨らますためにいつの間にか1秒が1460秒……24分強にまで膨らんでいる
 1年を過ごしても僕は満足せずにもっと時間を膨らませるかもしれない……永久に出られないかもしれないんだ!」

俺は佐々木の言葉に釣られるように時計を見た。
そうであることを確実に確かめるには24分待たなければならないが、明らかに時計の進みが遅いのは理解できる。


「逆効果だったんだ、君とのこの楽しい10日間は……僕が満足すれば出られる……キョン、君の推論はきっと間違っていない。
 でも、僕は逆に考えてしまったんだ! ここから脱出してしまえばまた君と音信不通になるんじゃないかって!」

「僕は最低だ……身勝手な理由だけで君をこんなところに連れてきて……拉致監禁と何もかわらない!
 悪いことをしていると思っているはずなのに!……この空間はいつまでたっても解除されない!
 僕は!僕は罪を犯して君に迷惑をかけてまで……君と一緒にいたいと思っているんだ!」

……すべてを納得したような気がしていた。
考えてみれば不自然だったんだ。
この空間において衣食住は一切問題にならない。
神人どころか害虫すらいない。
俺達に危機は何一つ存在しないんだ。
にもかかわらず俺は、この空間で目が覚めた当初から佐々木を守らなければならないなんて考えていた。
まるっきり柄じゃないのにな。
守る?何から?ここには敵なんていやしねぇ。
下手をすれば車やら変質者やらがいない分ここのほうが安全なくらいだ。
佐々木が以前言っていたな、「僕の中に入った気分はどうだった?」ってな。
ここは紛れも無く佐々木の中なんだ。
きっとこの閉鎖空間はハルヒのそれのように現実世界にあるわけじゃない。
いつだったか読んだSF小説のように俺は精神世界に取り込まれてしまっているんだ。
だから俺は佐々木の不安を感じ取れた。
いつもの俺じゃありえない鋭さでな。
きっと今のこの根拠の無い考察も、佐々木の精神から感じ取ったんだろう。
必ずあっているという自信がる。「わかってしまう」というやつか。
今佐々木が吐露したのはここに来てからずっと佐々木が抱いていた不安だ。
そして俺が佐々木を守ろうとしていたのは、その不安からだった。
……今だってその意思は変わっていない。
こいつは不適に笑ってなくちゃいけないやつだ。
佐々木の本質がどうだとかそんなこたぁどうでもいい。
俺のためにこいつはそうでなくちゃいけないんだ。
さて、佐々木よ。
今度は俺が長台詞を吐く番だ。
しっかり聞けよ?
今その不安を取り払ってやるからな。

「佐々木よ」

俺はゆっくりと口を開いた。
思えば俺から佐々木に話しかけるときは大体この台詞だったな。
何を言うか?そんなこと考えちゃいねぇ。
きっとほっといても口から出てくるんだ。
それでも悪いようにはならない。
俺が佐々木のことを悪く思うはずなんて無いんだからな。

「俺は楽しかったぞ?中学3年の時だって、この間久々に再開した時だって、この10日間だってな。
 お前と話している時は……いつだって楽しかった」

「1年間音信普通だったのは……悪かった。弁解の仕様も無い。言い訳になっちまうが超常現象で頭がいっぱいだったんだ。
 それでもな、佐々木。お前との仲が疎遠になってるなんて意識はちっとも無かったんだ」

「この間お前は言ったな、『久々の再開で普通に話せるのが親友』だってな。そのとおりだ。
 俺にはこういう確信があったんだ。理由なんて無いがな」

「お前とはたとえどれだけ離れていようと他人になることなんてありえない」

「たとえ隣にいなくったって生きているとさえ知っていれば平気だった。あいつは元気でやってるかな、なんて思ってな」

「俺はお前のこと、強いやつだって思っていた。いや、今でも思ってるしきっとそうなんだろう」

「だからだったのかな、お前のこと考えてなかったみたいだ。俺が平気だからお前も平気だって考えていた。
 本当に悪かった……俺は鈍感なやつだな……お前が寂しいって言ってくれるまで解からなかったんだ」

「理解した今なら俺はそんなことしない。俺はお前が喜ぶことなら何だってしてやりたいし悲しむことは絶対にしたくないんだ」

「お前が俺と離れるのを悲しんでくれるというのなら……」

「いつでも、ずっと、好きなだけ……一緒にいてやるよ」


……俺の口が止まった。
どうやら言うべきことはすべて言ったみたいだな。
きっと思い出したら赤面ものだろう。
目の前の佐々木みたいにな。
口から出た台詞は完全に記憶している。
しかし無理やり脳みその片隅に追い込んで俺は平静を保っていた。
もし、これで佐々木の不安が取り払われないならもっと言ってやらなきゃならないからな。
しばらくはお互い黙りこくっていた。
けれど目線は絶対にはずさない。
どのくらいたっただろうか?
佐々木から声が漏れた。

「くっくっ……」

いつもの笑い声だ。
解かる。
この声に不安なんてものは混じっていない。

「キョン……君はこんなときでも僕のことを考えてくれる……。
 本当なら申し訳ない気持ちになってしまうところだけど……それでは君がやってくれたことが無意味になってしまう。
 だからこう言うよ、キョン」

穏やかな声だった。
耳も鼓膜も脳も貫通して直接心に叩き込まれるようだ。

「ありがとう、大好きだよ。キョン」

あーもう無理。
赤面する。
紅潮する。
真っ赤になる。
顔が朱を帯びる。

「……恥ずかしいこというなよ」
「……君にだけは言われたくないね、キョン」

お互い真っ赤な顔を見せたくない。
そんな思いからだろうか?
俺達はいつの間にか互いの顔が交差するように抱き合っていた。
……こいつ、結構あるんだな。

「……スケベ」

口に出していたようだ。
再び、沈黙。
どのくらいそうしていたかは解からないが、お互いが元に戻るまでの時間はずっとそうしていた。

「ねぇ、キョン」

落ち着いた佐々木の第一声。
沈黙を破るのはいつも佐々木のこの発言だ。
さっきのような不安は言葉の中にはもう無い。
そして佐々木は言葉を続ける。
顔は見えないがきっといつもの不適な笑みを浮かべているんだろう。

「キミは無自覚かもしれないがさっきの台詞はプロポーズだよ?
 それを理解した上でもう一度言ってほしいものだね。……もちろん僕の返答はYES以外ありえないけどね」

……紅潮合戦第2ラウンドを始める気か?
いいだろう、何回だって受けてたってやる。
お前が望むなら、な。

「……現実世界でなら何回だって言ってやるよ」

俺の言葉を聞いた佐々木はまたいつもの笑いをした。
それにつられるように俺も笑う。
そして、俺と佐々木は10日ぶりに……どちらとも無く……。




『脱出を試みた』



光が差し込んだ。
俺の体にゆっくりと意識が回るのを感じつつまぶたが開く。
……朝か。
ゆっくりと上体を起こす。
……5時半。
早過ぎだろ、いくらなんでも。
昨日早く寝すぎたか。
休日だってのに……二度寝は無理だな、こりゃ。


すっかり目が覚めてしまった俺は布団をはがしてベッドから降りる。
コーヒーでも飲むか……。
あれ?コーヒーは飲んじまったんじゃなかったか?
……いや、あるな。勘違いか。
パンとコーヒーで適当に朝食を済ませる。
家族は誰一人起きていない。
……さて、どうしようか?
とりあえず……。




佐々木のところでも行くかね。

話はまだ半分だったはずだからな。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年08月27日 11:54
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。