4-812「再試合」

再試合

「遅刻!罰金!!いいえ、これは裁判無しの死刑よ!!!」
息を切らせながら病室に飛び込んだ俺を迎えたのは、ハルヒの怒声だった。
「すまん」
としか言いようがないが、こいつは何でこんなにも元気なんだろうかね?
ベッドの上で上半身を起こし、腕組みをしてこっちを睨んでる。
本調子ならそれは見事な仁王立ちを見せてくれただろう。
「でも、予定じゃまだ余裕があったんだし」などという言い訳をぐっと飲み込み、「すまん」
ともう一度謝る。
「まあ、今回はあんたに落ち度は無いわね。もちろんあたしにもよ。海外出張からすぐに
帰ってきたことを考慮して、きつめの罰金で許してあげるわ。覚悟しときなさい」
死刑は回避されたが、罰金は確定か。
「じゃ、ちょっとこっち来なさい」
とベッドからおりると、俺の手首を掴んで病室を出る。
「おい、どこへ行くつもりだ、というか寝てなくていいのか?」
俺の問いに前を向いたままハルヒは答える。
「どこへ行くか説明しないと分からないほどバカじゃないでしょ。それに体はあんたが遅い
から、すっかり回復しちゃったわよ」
ずんずんと俺を引っ張りながら進むハルヒは、初めて会って何年も経つのに、変わらない
力強さで俺を安心させる。進歩がないだけかもな。
「新生児室」と書かれた部屋まではすぐだったが、俺の心の準備は万全だった。何しろ、
帰国する飛行機のなかで覚悟を決める時間だけはたっぷりあったからな。
当番らしい看護師に挨拶しながら、ハルヒは俺を新生児用のベッドの前に引っ張る。
「さあ、ご対面よ」
示されたそこには、小さな命が居る。
「・・・なるほど、電話でお前が驚くと言ったのは、このことか」
「なによ、腹立つわね、そこまで冷静だと」
見慣れたあひる口で抗議を受ける。
だったら、事前情報を知らせるなよ。
でもな、知らないで対面しても、きっと似たような反応だったと思うぞ。
「あんたが名前を決めなさい」
「・・・いいのか?」
「ただし、あたしが考えている名前と違ってたら、死刑よ!」
つまり、お前の考えを読めということか?
いや、読む必要も無いが、いいのかそれで?
「・・・勝ち逃げされたようなものだったから。あんたには言ってなかったけど、あたしの心の
中にはずっともやもやしたものがあったのよ。こうやって舞台に帰って来たってことは、続きを
しようってことじゃないの?」
お前は母と娘という条件で、どういう勝負をするつもりだ?というか、その勝負の勝利条件
はどうなってるんだよ。
「名前、どうするつもり?」
聞くまでもない質問をしてくる。
やれやれ。
そういや、俺はあいつのことを名前で呼んだことはなかったんだよな。知ってはいたけど、
結局はそれを口にする機会はなかった。
これから、俺は何度この名前を呼ぶことになるんだろうか。そして、この子はどんな成長をす
るんだろうか?
「この子の名前は・・・」
そして俺は、中学3年の時の親友の名前を口にした。

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最終更新:2007年10月11日 21:57
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