27-61「佐々木の引越し」

「引越し?」
佐々木はSOS団+佐々木団+その他のメンバーの見守る中、爆弾発言をした。
「そう、僕は引越しをする。関東の方に。父親が東京本社に転勤するのでね」
そう言った佐々木の顔は強がっているものの、今にも泣き出しそうなのが俺には痛いほどわかった。
「そうか、寂しくなるな」
今までみたいにちょくちょく会うことは無いのか。そう考えると、佐々木と全く会わなかった高1期間がうらめしい。
いつでも会えると思っていたから、結局1年も会わなかったんだな。

「・・・そう」
無表情な長門は、相変わらず何を考えているかわからないな。
「そうか、佐々木さん引っ越すんだ、寂しくなるわねー」
言葉とは裏腹に、にやけ面のハルヒがいた。少し嬉しそうだ。佐々木と性が合わないのはわかるが、性格悪い人みたいだぞ、ハルヒ。
「残念なのね」「わたしも」「そうね」
どことなく阪中とミヨキチと喜緑さんも嬉しそうだな。なぜに?Why?
「せっかくお友達になれたのに、残念です。えーん」
朝比奈さんは本当に残念そうだ。佐々木が、ハルヒのセクハラを何度か防止してくれたから当然か。
「めがっさ残念だけど、ちょっと嬉しいかなっ。ハルにゃんもそう思っているよねっ」
「いえ、あたしはそんなことは、、、」

「キョン、鶴屋さんのように正直な方が良いとは思わないか?くつくつ」
「馬鹿言うな。俺は佐々木がいなくなって胸が張り裂けそうだ」
「僕も同感です」
おい、古泉。お前は佐々木に惚れているような気がするが、気のせいか?
「お別れ会を開くべきだな」
残念そうに谷口が言った。
ナンパ野郎の谷口は、佐々木にあからさまなモーションかけやがってむかつくんだ。佐々木は誰にでも優しいんだ、勘違いするな。何が『お前には涼宮がいるだろう』だ。
「佐々木さん」グスグス
国木田女々しいぞ。一応男だろ。お前

「急で悪いが明後日には出発だよ。その暇も無い。僕も今から家に帰って引越しの準備だ」
「―――お別れ会―――できない・・・」
「残念です、うっうっ」
(なあ、橘は佐々木を追いかけて転校しないのか?)
(私はこれから、涼宮さんの観察が主な仕事になりますから。九曜さんや藤原さんも同じです)

「ふん、二度と会えなくなるわけじゃないのに。大げさなんだよ」
「藤原さん、涙、涙」
「じゃ、僕はこれで」
「俺はこれから佐々木の引越しの手伝いがしたい。是非させてくれ」
「あたし達も佐々木さんの手伝いをするわよ」
「・・・有機生命体の有性生殖は私が阻止する」
「もちろん僕達も手伝うよ」
全員が全員『これ以上、佐々木といちゃいちゃさせないぞ』と思っているような気がした。


俺達は夕方まで佐々木の引越しの手伝いをした。
「向こうの家ってどんな感じなんだ?」
「社宅で、かなり古いらしいけど、今の家より広くて、僕達だけでは広すぎるみたいだよ」
こんな会話なんかをしながら引越しの手伝いをした。
「キョン、だべってないでちゃんと仕事しなさい。あんたが手伝うって言ったのでしょう」
「よく見ろ。仕事はちゃんとしているぞ」
もう慣れたが、視線が痛い。男子の視線も女子の視線も。

「高校は、向こうの公立校の進学クラスに編入したよ。北高の進学クラスと同じくらいのランクのはずだよ」
古泉と同じようなものか。

「僕は高校卒業まではあっちにいるんだ」
「それで、お前は大学をどこにするつもりだ」
「いや、まだ決めてはいないよ」
「大学決めたら教えてくれ」
そうだ、佐々木と同じ大学に行くためにはもっと勉強しないとな。

『おい、キョン』
『何だ谷口、それに国木田もか』
『お前には涼宮がいるだろう』
『何度も言うが、俺とハルヒはそんな関係じゃないぞ』
『お前がそのつもりでも、涼宮はお前にベタ惚れじゃないか。涼宮の気持ちに応えて正式に付き合ってやれよ』
『お前こそハルヒに未練があるんじゃないのか?中学時代告白しなかったのか?』
『俺はお前と違って涼宮は好みじゃない』
『僕、涼宮さんはずっと前にキョンに会っているように思うのだけど、キョンは覚えていないの?』
国木田。お前、カンの鋭い奴だな。

「僕の所は、これからは、これまで以上に両親共に帰りが遅くなり、休日出勤も増えるので、正直寂しいよ」
俺にはその経験無いな。ずっとマイシスターがいるから。

「明後日は朝11時出発だな、佐々木。見送りに行くよ」
「キョン、明後日は、不思議探索・・」
「何か言ったか?ハルヒ」
「いえ、あたし達も見送りに行くわよ」

そして、古泉といっしょに帰る俺。正直、こんな寂しそうな古泉は初めてみた。
「なあ、ハルヒ達は佐々木が嫌いなのか?それから、お前達は最近俺を嫌っているような気がするが」
古泉、お前は佐々木に惚れているのか?というのは聞かなかった。聞かなくても、大体わかるからなー。

「鈍いあなたでも気がつきましたか。概ね、その通りですね。両方ともあなたが原因ですが」
「どういうことだ?」
「言って良いですか?」
「迷わず言って欲しいな」
超能力者はしばしの沈黙の後、言った。

古泉の言葉は、俺の想像範囲外だった。というよりも、想像していたものとほぼ同じだが、規模が違っていた。
「その理由は、今日いたメンバーの女性陣は、全員あなたに恋していて、最大のライバルがいなくなってほっとしているのですよ。
あなたが佐々木さんに特別優しいのは皆の一致した意見ですし。
さらに言うと、男性陣は全員、佐々木が好きなんですよ。あなたも佐々木さんも魅力的な人ですから」
俺は佐々木を特別扱いした覚えは無いが。それに、
「全員?」
「そう、全員です」
「ハルヒと長門はもしかしたら・・と思っていたが、喜緑さんや鶴屋さん達まで?」
「そう。例外なく全員です。さらに言うと、情報連結解除された朝倉さんも、その他にも何人か、全員挙げましょうか?」

「いや、いい。まさか、そんなエロゲーそのままのような状況が」
「事実です。機関と橘さんの組織の情報収集の結果ですから」
おいおい、もしかして盗聴とかもしたのか?物騒な話だな。
「谷口あたりはハルヒに未練があると思ったが」
「それは、あなたが佐々木さんをずっと好きだから、自分に当てはめてそう思うだけです。
中学時代のあなたと佐々木さんの仲と、涼宮さんと谷口さんの仲が同じだと思ってましたか?」
同じはずは無いな。そんな当たり前のことに気付かなかったとは。

超能力者は溜息をついた
「あなたがもっとはっきりしてくれれば良かったのですが」
「俺の責任か?」
「いえ、涼宮さんに優しくするように、ずっと言っていた僕にも責任の一端があります」

「それで、佐々木は俺をどう思っている?」
「さあ」
「さあじゃない。知っているだろう」
「聞いてどうします?僕の言葉で行動を変えますか?僕が本当のことを言うとは限らないのに」
佐々木が俺に恋していたら告白し、そうじゃなければ告白せず友達として付き合う。それはある意味、卑怯かな?でも、聞きたい
「お前の話の真偽は俺が判断する。それに、どっちにしろ俺は佐々木に告白する。聞かせろ」
その時、古泉は初めて悪戯っぽい顔を見せた。
「禁則事項です」
最近はやっているな。それ
「俺はどうしたら良い?」
「いつもと同じです。あなたの好きなように」
好きなようにか。今まで好きで世界を選んだ覚えは無いのだが。
「すいません。好きで選んだわけでは無かったですよね。あなたは自分のことより僕達のことを考えてくれる人ですから。だからこそ・・・」


古泉、そうでもないぞ。
閉鎖空間で二人きりになったのが佐々木だったら、崩壊する世界をそのままにして二人きりの世界に行ったかもしれない。
佐々木となら、終わらない夏を終わらせようとしなかったかもしれない。いや、確実に終わらせなかっただろう。
消失世界で元の世界のままの佐々木に会ったら、元の世界に帰らなかったかもしれない。
雪山の山荘に佐々木がいれば、帰りたいと思わなかったはず。
俺はハルヒのブレーキとなった。しかし、佐々木のブレーキとなる自信は無い。
もしかして、古泉、それが佐々木を神としてはいけない理由か?


「もしかして、佐々木の急な引越しはハルヒか長門のパワーか?」
「違う、と言ったら信じてくれますか?」
さっきから古泉が言葉を濁しているのは、本当のことを言いたくないためなのか、嘘を言いたくないという良心なのか、それとも本当のことを俺に信じさせる自身が無いためか。
「さあな。でも、仮にハルヒパワーだとしてもこの程度では怒らないつもりだ」
何故って、良いこと考えついたからな。ちょっと寂しくなるけど。
「そうですか、僕としては予想外の言葉です。ということは佐々木さんをあきらめるということですか?」
「その逆だ。その代わり、多分お前達機関と橘の組織に頼み事をすると思う。
覚悟してくれ、俺の最初のお願いだ。俺の最後のお願いになるかどうかは自信が無いが。いや、違法なことではないから安心してくれ」
「いえ、もっと頼ってくれても良いのです。あなたにはもっと僕達を頼ってほしかったですから」


ずっとあこがれていたハルヒの行動力。それが中学時代の俺にあれば、どうなっていたのだろうか。
中学時代にはすでに佐々木と正式に付き合っていたと思う。
ハルヒとも会うことは無く、変態超能力者や癒し系の未来人、無口な宇宙人とも友達にはならなかったかも。逆に、それでも友人としてハルヒに接したのだろうか。
朝倉刺されるというトラウマも経験することは無く、平穏無事に時を過ごせたのかもしれない。
それとも、高2の段階でツインテール超能力者やいけ好かない未来人や髪の長い宇宙人に会ったのだろうか。
その方が良かったのかもしれないし、今の方が良かったのかもしれない。いや、どっちでも同じだ。佐々木がいれば。
ずっと消極的だった俺。でも、今の俺はハルヒに感化されたのだろうか。すごく積極的だ。
高鳴る鼓動と共に、俺は佐々木の家に走り出した。
佐々木に告白して、佐々木といっしょに転校し、佐々木の家に同居させてくれるように頼み込むために。

(終わり)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年12月31日 18:30
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。