教育私企業化の現状
~学習会レジュメ~


佐々木賢


「民営化」は「私企業化」というべきだと社会臨床雑誌 (14巻 1号) に書いた。WTO の最近戦略は公的サービスを私企業に任せるギャッツGATSにあることも紹介した。今回の学習会ではギャッツの一環としての教育私企業化の実態を報告したい。日本に限らず世界の実態をも合わせて報告したい。
初めに、教育以外のギャッツ政策を報告する。地域の商店を潰す大店法改正、共済保険を狙う金融審議会、地方自治体に自己責任を持たせる「地方分権21世紀ビジョン」、「郵政民営化」後の短期労働者「ゆうめいと」、派遣法改正で自殺者は 8年連続で年 3万人を超えたこと、正規社員の過労、図書館・保育所等の下請け化を進める指定管理者制度、成人病を「生活習慣病」と命名し自己責任を強調する健康増進法、健康保険を私企業保険に切り換える「混合診療」、水道法の改正による水道業務民間委託等がある。
教育では、まず英米の巨大教育ビジネスの実態を報告する。学校事務や教師派遣業、カリキュラムや教科書や一斉テストがいかに巨額の利益を生むか。チューター派遣の脅迫的な売り込みや、ブーツキャンプ (軍隊同然の集団しつけ施設) 等の実態も紹介する。
学校選択の自由化で、成績上位の高校や大学間の競争が激化し、家庭の教育費も高騰した。「民営化」により奨学金はセーフティネットの性格を捨て、高成績学生獲得のエサとなる。底辺校での荒れが進み、その荒れを抑えるために、学校に麻酔銃・監視カメラ・X線探知機・警察犬が導入され、それが業者の収益を増やしている。この英米の教育改革を日本は後追いし、英米と同じ現象が日本でも起こっていることを報告する。
WTO のギャッツ戦略は全世界の民衆の生活を破壊する。その目的は世界の超富裕層 830万人 (日本では 138万人) をさらに富ますためである。一方で、世界の児童労働者3億人が奴隷状態に置かれている。
生活の不安は民衆をファシズムに導く。公務員を攻撃し、社会問題を心や個人の問題とし、貧富の格差を国の問題にすり替え、スポーツで目を逸らし、テロの恐怖を煽るマスコミ宣伝が民衆ファシズムを刺激する。メキシコはサパチスタの指導者マルコスがいう「今すでに WTOと全世界の民衆の間に世界戦争が始まっている」との認識を共有したい。(なお、佐々木「教育『民営化』の意味」『現代思想』2006.4も、ご参照くださると幸いです。)
最終更新:2006年06月17日 14:14