〈記念講演〉グローバリズムと心性操作

佐々木賢


 心性とは態度や習性や感情の動き方の癖をいう。心性は地域や民族や時代によって変わる。近代に始まった教育も一つの心性になっている。近代以前には、徒弟や修業や見習いの習慣はあるが、資格をもった教師が生徒に資格を与える教育概念はなかった。  教育が始まって以来、為政者は教育を使って心性を操作することに熱心だった。フロイドの甥である、アメリカの学者のバーネイスは著書『プロパガンダ』(1928年、未翻訳) で、「民主主義とは、為政者の意図を民衆が自ら進んで行うようにする方法だ」と説いた。心性操作の元祖である。  現代の心性操作には様々なものがあるが、ここで取り上げるのは2006年から2007年に話題となった教育問題の内、教育基本法改定、未履修、いじめ、教育再生会議第一次報告の4つの中の心性操作を取り上げる。  小学校六年生の女児が同級生を刺殺した事件、証券取引法違反でライブドアの堀江の逮捕、親殺しや子殺しの事件が起きた時、安倍総理は「だから、教育基本法を改正しなくてはいけない」と述べた。教基法改正の目的が心性操作であることが分かる。  高校で公立20%強、私立40%強の生徒が指導要領の必修単位を未履修のままだった。その時点で指導要領は法律ではなかった。ところがマスコミも大学も文科省も教委も、二人の校長は自殺してまで「法律違反は遺憾」と述べた。国が教育内容を規定する方向に、心性操作されていたのだ。  いじめは人間関係そのものだ。だが多くの人は「教育によっていじめが無くせる」という前提でものを言っている。教育心性がしみ通っているからだ。教育再生会議の提言は心性操作に満ちている。いじめへの「毅然たる態度」や、教師や学校の評価、学力向上等、現実にできそうもないことを提言するのは、心性操作が目的だからだ。

ささき・けん 日本社会臨床学会運営委員、神奈川県高校教育会館教育研究所代表。著書に『怠学の研究』『資格を取る前に読む本』(三一書房)、『教育という謎』『親と教師が少し楽になる本』(北斗出版)などがある。『現代思想』07年4月号や『熊本日日新聞』連載コラム「教育時評」などで、拙文を読んでいただければ幸いである。なお、上記演題と関わって、「教育私企業化」社会臨床雑誌14巻1号(2006.4)、「06秋の合宿学習会・グローバリズムと教育私企業化」の発題(社会臨床雑誌14巻3号(2007.3))がある。


最終更新:2007年04月07日 16:39