障害者自立支援法の国会通過、介護保険法「改正」など、社会福祉基礎構造改革と称して、今後、高齢者、知的障害者、精神障害者、身体障害者等を一体化していく動きが見えてきます。この問題に関わって、福祉の貧困化を助長するという批判、障害者当事者間でも一律に扱う事への批判、福祉の民営化に伴う問題点などが出ています。社会臨床学会では、これまで、障害者と健常者を分けてさらに障害者内を序列化していく方向性などに疑問を投げかけてきました。今回のシンポジウムでは、伊藤周平さん、島村聡さん、次田健作さんの3人から発題をいただきながら、この社会福祉基礎構造改革の諸相にわたって、さまざまな問題提起をすることを目的としていきたいと思っています。
伊藤周平さんには、全体としての社会福祉基礎構造改革の問題点を整理、指摘していただき、島村聡さんには、那覇市における基礎構造改革の社会福祉への影響、その現状と今後の問題点などを行政の立場からご発題いただきます。そして、次田健作さんには、福祉制度の両義性とそこからの自由というテーマを、地域の中で障害者の暮らしに関わってこられた経験から提起していただきたい、と思っています。 戸恒香苗・三輪寿二(司会)

社会福祉基礎構造改革の問題点


伊藤周平(鹿児島大学法科大学院)


伊藤さんは、社会保障論や社会政策論の研究者として、高齢者介護福祉制度、支援費制度、障害者自立支援法といった、昨今の日本の「社会福祉基礎構造改革」の流れを全体的な視野から、一貫して批判的に論じてこられた。また、旧労働省にお勤めの経歴もあるので行政的な考え方や事情にも通じておられる。
今回のシンポジウムでは、現在進められている「社会福祉基礎構造改革」について、財政的な論点なども含めながら縦横に切開し、その問題点を整理して下さるだろう、と期待している。
(文責 三輪寿二)

基礎構造改革が市町村に与えている影響 〜高齢者・障害者の福祉現場から〜


島村聡(那覇市役所)


那覇市は沖縄県南部に位置する人口約31.5万人の県庁所在地である。沖縄のトロピカルなイメージとは異なり人口密度7700人の超過密都市であり、主要機能のほとんどが集中してきたため、商店や医療機関などの生活関連施設は老朽化が進み、ドーナツ化現象が顕著。観光が唯一の基幹的産業である。
高齢者・障害者福祉行政は県都としての誇りに懸けて国が求めてきた補助メニューをほとんどすべて実施してきた。長期に亘る革新市政が発展させ、保守系である現在の翁長市政も毎年予算を上乗せしている。これにより一般会計予算に民生費の占める割合は毎年逓増しているが、多くは義務的な扶助費であり選択的経費によるオリジナル事業は年々低く抑えられている。いわゆる横出し上乗せ事業もほとんど実施ができない厳しい財政運営である。
福祉行政を担当している者として最低限度の生活保障が精一杯の状況は何とかしたかった。使えるものは何でも使った。市営住宅をグループホームにし、医療機関で重度障害者デイサービスを行った。公園の管理棟は知的障害者の作業所とし、消防署の跡利用は自閉症相談センターとした。すべて民間に開放であり規制緩和は後からついてくる。
三位一体改革の前では「直営はご法度」の雰囲気はどこの行政にも流れているが、今回の介護保険法の改正に合わせて示された地域包括支援センターの運営に関しては迷いなく直営を選択し、介護保険料を約900円引き下げた。その理由とサービス依存体質からの脱却戦略について話す。

「福祉」制度の両義性とそこからの自由をめぐって


次田健作(大谷女子大学)


自立支援法が国会を通過する前後から、この制度について議論しまともに対峙する動きよりも、むしろ何か浮き足立ってじたばたする動きが目立ってきたように思う。行政の説明会に出かけても、一応の話が終わってから、具体的な質問が始まると、「まだ分からない」「決まっていない」と返ってくるばかりで、会場は苛立ちと不安で締めくくられるのが決まった風景になっている。
「制度は個人の幸せを決めない。制度は私たちが自由に試行錯誤する土俵をつくるのだ」と言った人がいたが、逆に、制度は私たちから自由を奪い、試行錯誤を許さず、土俵そのものを狭く限定してしまうものでもある。とりわけ「福祉」の制度は、この二つの側面のせめぎあいを常に内に抱えながら、これまでもその実行の過程でさまざまな矛盾を生み出してきた。しかし、今回の制度改革は、露骨な政府の意図を背景に、あまりにも後者に重点を移してそのバランスを大きく崩すものである。
狭められる土俵を問題にしながら、その土俵にいかに適応したらいいのかというジタバタがしだいに大きくなっていく。土俵から落ちないようにジタバタすればするほど、そこに乗っている人々のエネルギーは確実に落ちていくように思われる。そんなことなら、土俵際まで追い込まれながらも、ここから降りることを模索してジタバタするほうが力も元気も出てこないか。ふとそう漏らすと、もっと現実を見ろ、とまた土俵の内側にひきこまれる。
地域の小中学校に介護員制度が導入された昔の話から、障害児の高校入学をめぐる最近の大阪の自立支援校制度の導入などを素材に、制度をめぐる両義性の問題を考える一方、26年間、地域の障害児とそのおとうちゃん、おかあちゃんたちとやってきたジタバタの面白さとしんどさが、ここにきて、先が見えないのは変わらなくても、何か追い込まれたジタバタに感じられるのはどうしてなのかも考えたい。
もう一つ付け加えるなら、20年近く前に発足した「地域ユニオン」の組合員の一人として、最近多くなった福祉労働者の相談事例と、それにかかわるやりきれなさについても触れてみたいと思っている。
最終更新:2006年03月25日 14:54