詩歌藩国 @ wiki

留学生の日記

最終更新:

raiilu

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 留学生として詩歌藩国を訪れてからはや数ヶ月。日々復興が進むこの国では、人々がたくましく生きている。私も、チップボールで治安維持活動の手伝いや、時には復興活動の手伝いをさせてもらう日々が続いている。母国ではWDを身にまとってサイドカーに乗り込むことがほとんどだったのでI=Dに乗るのはずいぶん久しぶりだった。下手するとシーズン1が終わってから乗ってないんじゃね?というくらい久しぶりである。こんなことを言うと不謹慎だと怒られそうだが、I=Dを自身の体の延長として動かす、その懐かしい感覚が少し楽しかった。

 さて、一日たっぷり働いた後は風呂に入って一日の疲れを落とすのもいいがその前にちょっと酒場に寄っていくのもまた一つの定番である。私にとってのかつての故郷、そして今の故郷がそうであるように、この詩歌藩国にもこの国ならではの美味い料理、美味い酒が多くある。牛肉、豚肉や魚の燻製、干物、塩漬け。あるいは木の実をふんだんに使ったジャムや果実酒、そしてビールといった具合に特に保存食品の質と味においては非常に優れていると思う。また、カリブーのような満天星国にはいなかった動物も食糧として利用されており、機会を見つけて食べてみたいところである。そして、美味しい料理、美味しい酒とくれば後は何か。そう、音楽である。

 窓からこぼれる暖かい光とかすかなざわめきに誘われるように酒場の扉に手をかける。扉を開けた瞬間、騒々しく、それでいて陽気な喧騒と美しい音色の奔流が体を包み込む。時には夜明けに吹く一陣の風を思わせる静かな音色に一同が耳を傾けていることもあるだろう。それらは酒場専属の小楽団の演奏であったり、日々を旅に生きる放浪詩人(ミンストレル)達の歌声であったりする。この国の酒場には必ずと言っていいほど音楽が共にあるのだった。

 しかし、この国の音楽文化はそれだけに留まらない。私が大神官の資格を取得するために通っている大神殿では、神々と精霊に歌と演奏を捧げることを生業としている神殿楽師(バード)と呼ばれる人達がいる。彼らは朝と夕決まった時間に歌と演奏を奉納するのだが、その構成は歌い手1人の時もあれば、歌い手3人に演奏者5人の比較的多人数の時もあった。後でお世話になっている神官の方にたずねてみたところ、演者の人数は曲目によって左右されるものの、そこまで厳密なものではなく、季節、天候、等々によってアレンジが加えられるらしい。曲の内容や楽譜については口伝のみで代々伝えられるものとされ、文字にすべきではない、とされているためその詳しい内容をここに記すことはできないが、一日の始まりと終わり、鳴らされる美しい音色と、豊かな声量で歌い上げられる神々の歌が橙に染まる神殿に響く様は並び立つもののない美しさである。

 さて、この国では今、音楽院の建造が急ピッチで進められている。これまで口承や個人的な師弟関係によって受け継がれ、親しまれてきたこの国の音楽に、産業としての発展という新たな道を拓くため、音楽の担い手を育成し、優れた才能を広く世に知らしめ、また音楽に対する需要を創造することで音楽が産業として成り立つための土台を作り上げていくのだろう。

 真新しい赤煉瓦が目に眩しい建設途中の校舎を眺めながら、少し想像してみる。

 例えば、オーケストラのような多人数での演奏はこの国、というかNW全土で見ても例の無いものであったと思う。あるいは宰相府のハイマイル地区にはあったりするのかも知れないが、逆に言えばそれだけ敷居の高いもの、または贅沢な嗜好品としての枠を出ないものと言えるだろう。この音楽院から巣立つ若き才能達が一堂に会し、広く世界中を巡るような楽団や合唱団、劇団を作り出してゆく。それはきっとワクワクするような光景に違いない。そして、オーケストラを1つ作るためには多くの演奏者、多くの楽器職人、多くの調律師達が必要とされるようになるだろう。楽団の経営に関わる人材や建設業に関わる人々に新たな雇用を提供することも出来るかもしれない。この国の音楽が他国から必要とされるようになれば、後は自然に産業として成り立つようになるだろう。もちろん、そこへ至るためにはまだまだ為すべきことが多い。しかし、今のような情勢だからこそ、この国の音楽が広くたくさんの国で、たくさんの人々の心に響き渡ることを願わずにはいられないのである。

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