ダンゲロスキャラクターストック

大魔導師リィSS・イラスト

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SS1

それでは少し惚気話をしようか。
あれはいつのことだったか。
私と彼女が特に親密な付き合いを始めた頃のこと。
私と彼女が生涯を誓い合った後のこと。
そして、私と彼女の今だ。


□□□


「何かしら?」

私が目の前、やや下方にある艶やかな黒髪を撫でると、彼女はそう問うた。
もちろん私が何をしたいか分かっていて、あしらっているだけだ。

「そんなところを触られたら、スイッチが入っちゃうわよ?」

特に熱が篭っている訳でもない、冷ややかな声音のまま、彼女はそう言う。
もちろん私はその行為を止めようとはしない。初めからスイッチを入れる気なのだから。

「あなた、さっき病院に行って栄養剤を注射されて帰ってきたばかりでしょう?」

特に私の身体を労わる風でもない、冷ややかな表情のまま、彼女はそう言う。
もちろん私がそんな程度で彼女を構うことを止めるはずもない。


病める時も、健やかなる時も、私は彼女と共に――


「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」


■■■


「あなたは何がしたいの?」

私の顔の下で、彼女の漆黒の瞳が私を見上げる。
私は言葉は不要と、彼女の奥深くまで、探索を続ける。

「もう新しい発見なんてないでしょう?」

不安も、不満も感じさせない仕草で、彼女は私の両目をその小さな手で覆う。
私は目を封じられようと困ることはない。
彼女の身体の奥の奥、その一番奥の最深まで、道順は空で覚えている。
私が彼女に関する事柄を辞典に纏めるなら、2冊の辞典が完成されるだろう。

「あなたは何を望んでいるの?」

興味も、疑問も見えない彼女の声色。
私の答えは決まっている。例えその日に新たな決断を迫られようと。

「君と共にどこまでも」
「無理ね」
「どうして?」
「私は今度、オンラインの世界へ旅立つから。あなたにそんな時間はないでしょう?」
「人は3時間も寝られれば十分だそうだね」

彼女の鋭い眼差しが私を刺す。
私の微笑みがその視線を迎え入れる。


「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」


□□□


オンラインの世界は秘境だった。
時に下水道へ潜り、時に密林へ赴き、時に城跡へ足を踏み入れる。
未知の怪物が襲いかかり、未知の罠が張り巡らされ、未知の人々と策を弄しあう。
手に持つ武器は易々と折れ砕け、敵は尽きず、辺りには死体が転がる。
秩序の維持にメンテナンスは欠かせず、何も出来ぬ己に歯噛みする。

そんな未踏の領域で、ある日、私の前を行く彼女は立ち止まり、振り返った。
ただひたすらに耐え、無限に耐え、彼女を追ってきた私に、彼女は問うた。

「あなた、なぜついてきたの?」

もちろん私が何と答えるか分かっていて、あしらっているだけだ。
「君が行くと言ったから」――私の答えに、
彼女は喜びの表情を見せるだろうか。感謝の言葉を返すだろうか。否。

「これをあげるわ」

艶やかな黒髪が揺れ、漆黒の瞳が煌き、冷ややかな声音で、彼女は宝箱を差し出す。
そうでなくてはいけない。そうでなければ彼女らしくもない。

「ありがとう」

私は彼女に微笑みかけ、感謝の言葉を返す。


「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」


こうして私は爆発した。

SS2

それでは少し、彼女について話そうか。


□□□


「ささやき - えいしょう - いのり - ねんじろ!」

彼女は今日もまた一人、それほど親しいわけでもない人間を絶望の海へ沈めている。
そんな彼女は可愛らしい。

「奇襲 - 首切り - 灰 - ロスト!」

彼女は今日もまた一人、すっかり打ち解けたと思い上がった人間を奈落の底へ放っている。
そんな彼女は美しい。

「君は相変わらず厳しいね」

私は笑顔でそう告げる。
彼女は初対面の者にも、慣れ親しんだ者にも、等しく容赦しない。
物事は段階を踏んで――そんな理屈は通らない。
いわば、レベル1からレベル2になるのが特に厳しいのだ。
極めた先に安泰あり――そんな言葉も通じない。
いわば、レベル100でも一瞬で全てが灰になるのだ。

「あなたは優しくして欲しいのかしら?」

関心も無さそうに彼女は問うた。
それも大変魅力的だけど、と、私は笑顔でかぶりを振る。
平穏なんて、君と共にあるこの緊張には比べるべくもない。
最初からクライマックス――そして最後までクライマックス。
平らかな時など、死んだ後に全て回してしまえばよい。
君といる時に胸高鳴らせず、いつこの胸を鳴らせというのか。
存分に蹂躙してくれて結構。

「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」


■■■


「エナジードレイン!」

彼女は今日もまた一人、それほど親しいわけでもない人間の苦労を水泡に帰している。
そんな彼女は輝かしい。

「壁の中に入ってしまった!」

彼女は今日もまた一人、すっかり打ち解けたと思い上がった人間の努力を灰燼に帰している。
そんな彼女は神々しい。

「君は相変わらず人の努力を踏みにじるね」

私は笑顔でそう告げる。
彼女は積み重ねたものを崩すのが好きだ。
どこまでもどこまでも先へ進んだ者を、一瞬で己の足元へ引き戻すことを喜びとする。
彼女を前にしたら、どのような努力も、研鑽も、決して完成を見ることはない。

「あなたはゴールへ到達したいのかしら?」

意味も無さそうに彼女は問うた。
それも素敵な事だけど、と、私は笑顔でかぶりを振る。
達成感なんて、君を追い続けるこの渇望には及ぶべくもない。
完成なし――故に完了なし。
安らかなる時など、死んだ後に全て追いやってしまえばよい。
君といる時に足を動かさず、いつこの足を働かせればよいというのか。
登る山の頂など見えなくて結構。

「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」


□□□


彼女はいつでも誰にでも厳しい。
彼女はどこまでも無慈悲だ。
彼女について、おおまかにはこれだけ知っていればよいだろう。
これ以上詳しく話そうとしたら、千夜一夜じゃ収まらない。
だがもうひとつ、彼女について忘れてはならないことがある。

「これをあげるわ」
「この宝箱は開けても大丈夫なのかな?」
「95%の確率で何も起こらないわ」
「本当に開けても何も起こらないかな?」
「ええ、もう一度言うわ。95%の確率で何も起こらない」
「それじゃあ開けさせてもらうよ。ありがとう」


彼女はとても嘘吐きだ。


「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」


こうして私は爆発した。

SS3

それでは少し、自分語りでもしようか。


□□□


「あなたは何で諦めないの?」

その冷たい瞳で私を見据えながら、彼女は問うた。

何度墓石の下へ送り込まれても、
どこまでも迷宮をさまよい歩かされても、
いつまでも暗闇の中を引きずり回されても、
どれほど大切なものを捨てられても、
どれだけ積み重ねた努力をふいにされても、
行き着く先はいつもいしのなかだとしても、
私は彼女を追うことを止めようとはしない。

「私は君を信じているからね」
「私の何を信じられるというのかしら」
「君は私を他の誰よりも酷い目に遭わせてくれると、信じているからね」

私は微笑む。
彼女はその冷たい瞳で私を見据える。

「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」


■■■


「あなたは厳しい女が好みなのかしら?」

その凍えるような声音で、彼女は問うた。

決してそんなことはない。
私に優しく接してくれる人と、これまでに多く出会ってきた。
そして、その人達もやはりとても魅力的だった。
あるいは多彩で、あるいは多芸で、
あるいは饒舌で、あるいは親切で、
そういった優しい人達によって、私は育まれてきた。
そういった優しい人達が、私は好きだ。
ただ……

「そういった人達よりも、不意に訪れるいしのなかの方が魅力的だというだけさ」

私は微笑む。
彼女はその凍えるような声音で応える。

「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」


□□□


「あなたは結局、何が好きなのかしら?」

その凍てつくような表情で、彼女は問うた。

もちろん、私が何と答えるかは分かりきっているだろう。ただのあしらいだ。
私の手元には既にひとつの宝箱。
彼女からのプレゼントだ。
これを開錠する前に、言うべきことを言っておこう。
私は何が好きなのか。
簡単な話だ。
つまり私は、
こういう風にプレゼントを渡してくれる――
そして、その時にそんな表情を私に向けてくれる――

「君が好きなんだよ」

私は微笑む。
彼女はその凍てつくような表情を私に返す。


「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」


こうして私は爆発した。

SS4

「知っているかしら?」
「何をかな?」

長い、長いウェディングロードを歩き、その果てに――
深い、深いヴァージンロードを歩み、その深奥に――
誓いの場に立つ彼女が、
同じく誓いの場に立つ私に向けて問うた。

「知りて行わざるは、ただ是れ未だ知らざるなり」
「陽明学だったかな?」

純白のヴェールの下で、彼女の冷たい瞳が煌く。
彼女はウェディングドレスの裾を踏まぬように、ゆっくりとこちらへ向き直った。

「あなたは馬鹿ね」
「知っているさ」

彼女と私と、二人の、お決まりのやりとり。
彼女はお決まりのように、冷ややかな表情を浮かべる。

「知っているならなぜ繰り返すのかしら?」

爆発は日常茶飯事で、
墓石の下へ蹴り込まれ、
暗闇の中へ押し込められ、
先の分からぬ迷路で戸惑い、
最後にはいしのなかへと至る。
もう何度繰り返したことだろう。
だがそれは学ばないからじゃない。
己の馬鹿さを知らないからじゃない。
むしろ、しっかりと、知っているから――

「君が笑ってくれることを知っているからさ」

彼女はその暴虐を行うとき、とても楽しそうに笑う。
厳しく、冷たく、凍えるような、雪を頂く峻嶺のような笑顔を。

彼女は他の誰よりも私に対してその暴虐を振るう。
私は他の誰よりも彼女を笑顔にすることができる。

君の笑顔を見られるのなら、私は馬鹿でかまわない。

「いいのかしら?」
「いいんだよ」

白く輝くウェディングドレスの中、
彼女の艶めく黒髪が揺れ、
彼女の漆黒の瞳が煌き、
彼女は凍てつくような――笑顔を浮かべる。

私は彼女と共にいる限り、何事にも、何者にも、負けはしない。
なぜならば、
私の愛する勝利の女神は、
そのサディスティックな微笑を、
常に私へ向けるのだから。


「病めるときも、健やかなるときも、
悲しみのときも、喜びのときも、貧しいときも、富めるときも、
あなたを愛し、あなたを敬い、あなたを慰め、あなたを助け、
この命ある限り、あなたの笑顔を護ることを誓います」

「病めるときも、健やかなるときも、
悲しみのときも、喜びのときも、貧しいときも、富めるときも、
あなたを爆破し、毒を盛り、墓石の下へ送り、いしのなかへ届け、
この命ある限り、あなたに波乱を与えることを誓うわ」


ありがとう

大魔導師リィ

私は

そんな

あなたが

大好きだ!





「馬鹿」





こうして私達は結ばれた。


これにて私の語らいは終幕と致しましょう。
それでは、ここにお集まりの皆々様、
どうか、私と彼女との末永き幸福の前途へ、その真心からの祝福を――

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