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ダブルバインド

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匿名ユーザー

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現代催眠の技法の中で,もっとも有名なもののひとつが,このダブルバインドではないでしょうか.しかし,同時にきちんと理解されていない技法のひとつでもあると思います.

ダブルバインドとは本来,1956年にベイトソンらが発表した論文『精神分裂症の理論家に向けて』で書かれた,精神分裂症(現在は,統合失調症)者の周辺で見られる特殊なコミュニケーションパターンのことなのです.この論文は連名で書かれたもので,そこにはヘイリーやウィークランドなど,エリクソンの弟子が名を連ねています.なので,この理論にはエリクソンの考えも強く影響されていますが,オリジナルはベイトソンのものです.

さて,本来は病気が起きる状況としてのダブルバインドですが,エリクソンはそれを治療に利用しました.利用法でも書きましたが,エリクソンの真髄は,何でも使ってしまうところなのですが,ダブルバインドも例外ではありません.病気にならざるを得ない状況があるのなら,解決せざるを得ない状況も作ることができるだろう.そんな発想だったのかもしれません.そして,それは本来のダブルバインドとは違うので,治療的ダブルバインドと呼ばれました.現代催眠という文脈で出てくるダブルバインドは,この治療的ダブルバインドをさします.では,エリクソンの使ったダブルバインドはどういうものだったのでしょう.

「今すぐに催眠に入りますか? それとも,後で催眠に入りますか?」

ダブルバインドの例として良く使われるのが上の台詞です.この質問にどう答えても,催眠に入ることになる,という事らしいのです.

ダブルバインドを技法として公式化するならば,相手にしてもらいたいことを前提とし,2つ以上の選択肢を提示することによって,こちらのねらいどおりの回答を得る,もしくは行動をしてもらう,ということになるでしょう.しかし,これには疑問を持たざるを得ません.なぜなら,選択肢のどちらも否定するという回答も残されているからです.先の例ならば,「後にも先にも催眠には入りたくありません」と答えないと誰が言えるでしょうか?

私が実際に,催眠誘導としてダブルバインドを使ったときも失敗をしました.また,日常生活で使ったときも失敗をしました.もちろん,上手くいくときもあります.しかし,はっきり言って,はっきり言って効果は薄いです.その原因ははっきりしていて,現代催眠はその台詞回しが重要なのではなく,他にもっと重要なものがあるからなのです.

エリクソンは,このダブルバインドを巧みに使いました.しかし,それを表面的に真似てみても上手くはいきません.エリクソンが,ダブルバインドを使うまでのプロセスがあってこそ,このダブルバインドが上手く機能するのです.現代催眠の真髄は,そこにあります.なので,いくつかの技法を解説はしていますが,それを使えば即効果があるとは,決して言えないのが残念なのです.
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